奇跡のマンゴー

 

ペトロ 晴佐久 昌英

鹿児島から南へ400キロ、南西諸島の一つに加計呂麻島(かけろまじま)があります。
亜熱帯雨林に覆われた細長い島で、面積は台東区の約8倍。
そこにわずか1200人で暮らしている。
過疎の島です。
小さな集落が30ほどあるのですが、そのうちの十二集落は人口20人以下。
目立った産業もない、貧しい島です。
そんな集落のひとつから少し離れた、静かな入り江に合宿所を建てて、毎夏青年たちとキャンプをしているのですが、4年前に突然、合宿所の隣に3棟のビニールハウスが建ちました。
地元の若手の漁師のひとりが、漁のかたわらマンゴーの栽培を始めたのです。
南の島でマンゴーと聞けば当然のように思うかもしれませんが、加計呂麻島は平地が少なく、土地も悪く、台風災害も多いところで、地元ではマンゴーのように手のかかる果樹農業は無理というのが常識でした。
しかし彼は、「やってみなければわからない」と、反対を押し切り、たった一人で挑戦を始めて、一昨年、ついに初収穫を成功させたのです。
隣接地のぼくたちも草むしりを手伝ったりするうちに親しくなり、島の黒糖焼酎を飲みかわす仲になっていたので、初収穫のときは祝賀会まで開いたのですが、一口食べてそのおいしさに、一同びっくり仰天。
何しろ「濃い」のです。
今まで、宮崎マンゴーや宮古島マンゴーなど、おいしいマンゴーを食べてきましたが、甘みが全然違う。
マンゴーの味が凝縮した甘さで、なんと糖度が20を超えるというのですから、これはもう「奇跡のマンゴー」でしょう。
育てた本人も、「ここまでとは思わなかった」と驚いているほど。
奇跡の秘密は、化学肥料や農薬を一切使わない栽培方法にあります。
もちろんこれはとても手がかかる方法なので、数は多く作れません。
虫がつけば、商品価値もなくなってしまいます。
しかし、彼は発見したのです。
その、虫がついて黒ずんだところが一番甘い、と。
皮をむいてしまえば、色など関係ありません。
評判を聞いて、去年からは、あのJR九州の豪華クルーズトレイン「ななつ星」のデザートに使われ始めています。
悪い土で、台風に耐えながら、虫と共存している果樹が、これほどに甘い実をつけるという事実は、人間の成長と一緒かもしれません。
人は、悪い環境であっても、試練に耐えながら、さまざまな問題と共に生き続けてこそ、みんなを喜ばせることのできる人間に成長するのですから。
見た目とブランド、効率と収益に支配されている世の中ですが、果たして我々は本当においしい実を実らせているでしょうか。
イエスは、こう語っています。
「悪い木が良い実を結ぶことはできない」(マタイ7・18b)
今年も先週、加計呂麻島で、「良い実」をたくさん戴いて、たらふく食べてきました。
なにしろ黒いマンゴーは一般の流通では売れないので、大量に余っていて、一部はジュースにしているものの、人手が足りずに捨てているのです。
なんなら来年あたり、青年たちと収穫を手伝って、上野教会にお送りしましょうか?

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