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『侍タイムスリッパー』['23]
監督・脚本・その他諸々 安田淳一

 二年前の公開時にTOHOシネマズ梅田本館8で観て、その年度のマイベストテン第1位に選出しながらも映画日誌にすることなく、もう文句なく面白かった。映画愛好は専ら外国映画からだった僕においては、時代劇という点からは日本の侍映画ではなく、米国の西部劇なのだが、そんな僕でもこれだけ廃れゆく映画に対する愛情の溢れる映画には心動かされずにいられない。単に映画愛を謳い上げるだけでなく、一所懸命に生きる人の姿を讃えている点が好い。 監督になる目標をいつの間にか置き去りにしながら、高坂新左衛門(山口馬木也)の謙虚で真摯な姿に目覚めさせられていた助監督の山本優子を演じていた沙倉ゆうのがとても好かった。とのメモを残したままだったところに、NHKBS録画で、アナザーストーリーズ 運命の分岐点『「侍タイムスリッパー」超低予算時代劇はこうして誕生したを視聴し、映画も好かったけれど、こちらもグッとくる内容で観応えがあったので、大元の映画作品を再見して日誌にしておこうかなと思ったばかりの作品を観る機会を得たものだ。

 再見しても観ている傍から笑みが零れてくる小ネタや運びが実に楽しい前半から、今や失われつつあるもの、今なお留めるものへの愛惜を描き、観ていて堪らない気持ちにさせてくれる珠玉のエンタメ映画だと改めて思った。幕末の会津藩士高坂新左衛門が倒幕から百四十年とのポスターを観てタイムスリップした現代で生きる覚悟を決めていたのだから、2024年の作品ながら時代設定は2007年ごろになるわけだ。確かに2024年に持って来ると、民放地上波での時代劇は少ないどころか、なくなっているし、他方において衛星放送でけっこう新旧の時代劇が観られる状況になっていて作品が生きてこなくなる設えになる。芸が細かいなと改めて感心した。

 十六年前に映画館で観てこういう映画が中堅ヒットを確実に出来る興行状況が確保されると、映画の将来にも希望が持てるというものだ。とのメモを残している『ちょんまげぷりん』['10]を想起させるような、ショートケーキを食べながら高坂新左衛門が日ノ本はよい国になったのですね…誰もがこんな美味しいものを食べられる豊かな国になったのですねと涙する場面に感じ入り、月代を剃っている新左衛門をあれは単なる役者馬鹿やと言ってのけるような台詞を用意して役者魂を巧みに讃えていることや、斬られ役を学びたくて剣心会に入門したはずなのに立ち回りの稽古を何度繰り返しても斬られずについ師匠を斬ってしまう新左衛門に対してつい達者な斬られ技を見せてしまう殺陣師関本(峰蘭太郎)のなんでやねん!に笑ってしまう。

 だが、やはり最大の魅力は、生真面目さと人の好さを体現していた高坂新左衛門の人物造形だろう。会津藩士の非業の死と無惨を知ってダメージを受ける姿ともども入魂の演技を見せていた山口馬木也が素晴らしい。CS放送の特典付録のようにして付いていた安田監督、沙倉ゆうの、山口馬木也、風見恭一郎を演じた冨家ノリマサの登壇した“しゃべりすぎ座談会”もなかなか面白かったのだが、そのなかで冨家が自分にも代表作と言える作品と巡り会えたことが嬉しいと語っていた風見恭一郎の人物造形もなかなか見事で、その二人が二度繰り返すよい娘だのう今日がその日ではないの呼吸が醸し出す関係に魅せられた。

by ヤマ

'26. 6.17. CS時代劇専門チャンネル録画



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