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| 『男の敵』(The Informer)['35] | |||||
| 監督 ジョン・フォード
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| なぜ邦題を原題通り「密告者」とせずに「男の敵」としたのだろう。今や百年以上前となる1922年のダブリンを舞台にした、IRAと思しき組織における密告者探しを描いた作品を観つつ、当該密告者のほうを主役にした作劇の今に及ぶ着眼の確かさに感心した。 賞金の掛かった朋友フランキー(ウォーレス・フォード)を売って20ポンドを得た、いかにも思慮のないジポー・ノーラン(ヴィクター・マクラグレン)の非は、確かに組織の論理からすれば処刑にする他ないものなのだろう。しかし、作り手がラストに構えた場面は、瀕死の状態で訪ねて来て許しを請う彼に対して、その密告で息子を亡くした老母(ウナ・オコナー)が、彼の涙と哀願を観て「許すわ あなたに罪はない どうかしてたのよ」と応えるものだった。オープニングクレジットの最後に、ユダを引いて“裏切り者の悔恨”に言及していた作品だ。 教会で祈りを捧げる敬虔なる老母は、並外れて屈強で腕っぷしが強くて愚鈍なまでに人の好いジポーを息子フランキーも含め、組織が都合よく使ってきていたことをよく知っていたのだろう。それなのに非情な組織の論理で彼を除名し、極度の困窮に追いやっていることに同情して、120ペンスを施していたくらいにジポーのことを知悉していたような気がする。だから、彼が深い悔恨のもとに訪ねてきたことで“罪は購われた”として「罪はない」とまで言っていたのだと思う。これは、ひたすら厳罰化に向かう我が国の当世とは真逆の方向にあるものだ。 さすれば、処刑されたジポーたる男の敵とは、何だったのか。組織による処刑命令に服さなかったがゆえに命令違反で除名して、結果的に彼を密告者にまで追い込んだダン・ギャラガー(プレストン・フォスター)か、賞金を懸けて人の心をカネで買おうとしていた当局なのか、カネ目的ではないものの結果的にジポーを売った恋人ケイティ(マーゴット・グラハム)なのか。バートレイ同様にジポーを疑いつつ単細胞の彼を利用して密告者の炙り出しを計った組織の司令官ダンが画策しなければ、ジポーが無実のマリガンを陥れようとすることなどなかったわけで、真の敵というのは、当局であれ、IRAであれ、いわゆる“組織”なるもののような気がしてくる作品だった。なかなかのものだ。 劇中でケイティがジポーにぶつけていた「高尚な信念についていけない」との、おそらくは「独立のためなら殺し合いも厭わない」と標榜するようなIRAのことを咎めた言葉が、フランキーの老母の言葉とともに心に残る、九十年前の秀作だった。まさに巨漢ジポーの「大男、総身に知恵が回りかね」を体現していたヴィクター・マクラグレンがアカデミー賞の主演男優賞に輝き、ジョン・フォードが最初の監督賞を得た作品らしい。スパイ防止法なるものがかまびすしくなってきているなか、九十年前の作品とは思えないアクチュアリティを感じさせてくれる名品だった。 | |||||
| by ヤマ '26. 5.31. DVD観賞 | |||||
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