『木の上の軍隊』['25]
監督 平一紘

 “実話に基づく衝撃の物語”と謳われた本作における事実は、どこまでなのだろう。チラシの裏面に1945年沖縄県伊江島。激しい攻防戦が展開される中、2人の日本兵が命からがら木の上に身を潜め、日本の敗戦を知らぬまま2年もの間生き延びたとしてそんな衝撃の実話としているところからは、細部は沖縄戦において起こったことの集積と作り手の想像によるフィクショナルなもののような気がしたが、内容的には、たいへん志高い観応えのある作品だったように思う。

 玉砕よりも援軍を待って生き延びて、反撃を遂行する使命を山下少尉(堤真一)が負い続けようとしている姿に、陸軍中野学校を出て三十年近くルバング島に潜んでいた小野田少尉の逸話が投影されているように感じられ、沖縄スパイ戦史でも取り上げられていたような、陸軍中野学校を卒業したエリート将校が山下少尉のモデルだったのだろうかと思ったりした。

 本作で最も印象深かったのが、少年兵ではないながらも地元育ちの新兵たる安慶名セイジュン(山田裕貴)にとっての与那嶺幸一(津波竜斗)の存在で、心に残る人物造形と関係性の描出がされていたように思う。セイジュンが「幸せ」について語る言葉がとても重く響いてきたが、劇中で彼がしたため残していたようなノートが実際にあったのだろうか。役者は皆、見事な熱演ぶりで恐れ入った。加えて、圧巻のガジュマルの樹だったが、小さな島の大きな魂を象徴しているようで、実に素晴らしいと思った。

 それにしても、1945年当時、アメリカには既にカラーのヌード写真を掲載した雑誌があったのだろうか。確かに風と共に去りぬ['39]は、30年代でもカラー映画だったけれども…。そういった細部が妙に気になったりしつつ、原案に留まっていた井上ひさしが戯曲にしていたら、どのような作品になったのか、それを観たい気が一際募ってくるような気がした。
by ヤマ

'25. 9. 7. キネマM



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