『悪い夏』['24]
監督 城定秀夫
監督 竹林亮

 市の生活保護担当職員の佐々木守(北村匠海)が忿怒を堪えながら呟く僕が僕をこんな僕にしたんですかという所謂“自己責任論”への異議申立てのような言葉が響いてくる作品だったように思う。そして、その問い掛けによって作り手が指しているのは、佐々木のみならず、夫を不慮の事故で失ったシングルマザーとして生活困窮に喘いだ挙句に親子心中を図った古川佳澄(木南晴夏)を含め、本作に登場した全ての人物だったように感じられた。

 思いのほか面白く観応えのあった本作のチラシの表下にはクズとワルしか出てこない!狂乱サスペンス・エンターテインメントとあったが、明確なワルは、悪行ビジネスに勤しむ金本龍也(窪田正孝)だけで、その情婦の莉華(箭内夢菜)と金本の手先になって貸金取立てを行っていた山田(竹原ピストル)はワル以上にクズ色が強く、明確なクズは、シングルマザーの林野愛美(河合優実)の弱みに付け込んで生活保護費の上前と肉体を貪っていた家庭持ち市職員の高野洋司(毎熊克哉)だけで、最後に愛美の部屋に集った面々の残りの人物は、愚行は犯しても、ワルでもクズでもなかったような気がする。

 感心したのは、一堂に会しての刃傷沙汰を繰り広げた挙句の顛末だった。宮田有子(伊藤万理華)が来るのは予告されていたが、高野の登場に意表を突かれ、そのうえで誰一人死んでいなかった結末は、原作とは異なる城定ワールドテイストなのではなかろうか。

 そして、最後に宮田有子が市職員のまま受刑中の想い人に手紙をしたためていた姿とは対照的に、掃除夫となっていた佐々木というのは、原作小説の結末と異なるもののような気がしてならなかった。

 金本が言っていた有資格の未申請者を集めて食い物にする計画だったなら、金本から不当利得の報酬を受け取っていない限り、有資格者の認定自体は不法行為にはならない気がする。宮田の動機と同程度に褒められたものではなくとも、法的責任までは問われないだろうから、市職員を辞めていたと思しき佐々木の選択は自らの意思によるものなのだろう。それで愛美母子との暮らしを続けているという証はなかったけれども、示唆しているように受け取られる撮り方というか編集だという感じはした。「いなくならないで」と言ったあれは何なんだとの佐々木の問い掛けに返した愛美のわからないという答えを最も正直な思いと受け取って赦したような気がする。

 それにしても、なぜ伊藤万理華が毎熊克哉より上位にクレジットされるのだろう。伊藤万理華の名に覚えがなく意外に思った。またナミビアの砂漠['24]なんぞより余程必然性が高いと思われる場面で脱ぎ惜しみをしているのは何故だろうとも思った。また、随分前に旧友から誘われながらも僕が行かず仕舞いだったお触りキャバクラが出て来て、まだあるのだなと思いつつ、成程かつてのピンサロとは確かに一味違う感じだなと納得した。
by ヤマ

'25. 4.27. キネマM



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>