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| 『ブロンド』(Blonde)['22] | |||||
| 監督 アンドリュー・ドミニク | |||||
| 先ごろ『知られざるマリリン・モンロー 残されたテープ』['22]を視聴した際に NetFlixにあることを知って観てみたものだ。ジョイス・キャロル・オーツによる原作小説の映画化作品で、1933年七歳のノーマ・ジーンから始まり、1962年三十六歳で亡くなるまでを描いていたが、明暗ともにある彼女の短い人生の専ら暗部に迫っていて、陰鬱陰惨な印象が少々やりきれなかった。毒親グラディス(ジュリアンヌ・ニコルソン)の虐待も、ノーマ(アナ・デ・アルマス)が蒙る性的搾取も、すべては男たちの歪んだ欲望が彼女たちに犠牲を強いたという造りになっていたので、原作者の名から確かめてみたら案の定、女性だった。その部分への感度と問題意識が高かったのだろう。だが、そこのところを些かやりきれなくなるくらいに生々しく描出したのは男性監督だ。確かにそういう側面が色濃いノーマとグラディスの人生だったからだろう。アナ・デ・アルマスの熱演に感心した。わずかにアーサー・ミラー(エイドリアン・ブロディ)との関わりのみが少々過度に好意的に描かれていたような気がするが、その他は散々だった。 ノーマの映画界での成功の入口は、20世紀フォックスのザナック(デヴィッド・ウォーショフスキー)から呼び出された執務室への入室後、面談もそこそこにいきなり机に頭を押し付けられ、スカートを捲って下着を降ろされ挿入されて与えられた『ノックは無用』['52]の主役から始まり、1962年に亡くなる直前では大統領執務室に隣接する休憩ベッドでSPが背を向ける形で開いたドアもそのままに、電話をしながら横たわるJFKからベッドサイドに手招きされて股間への愛撫を促され、昂ってきたら口淫までも強要されるなか「私の人生をこんな風にしたのは誰?」と思いながら「吐かないで飲み込むの」と自らに言い聞かせている姿が映し出されていた。JFKの子どもと思しき妊娠の強制堕胎の場面は薬物中毒のノーマの見たひどい夢として、大統領へのフェラチオ場面はポルノ映画の一場面として、というエクスキューズをかませてはいたけれども、これこそが真相だと言わんばかりの造りだったように思う。 ポルノ映画への出演経験もあるというキャス・チャップリンやエドワード・G・ロビンソン・ジュニアと3Pにも耽る三角関係のほうには『突然炎のごとく』['62]にも通じるインティマシーが宿っていたように思うが、彼らとの荒淫のなかで起きた受胎と中絶、アーサー・ミラーとの間に出来た子(『お熱いのがお好き』で共演したトニー・カーティスとの間の子との説もあるらしい)の流産、強い母親願望を持ちながら、叶えられずに躓いたことがノーマの精神を最も苛んだものとして強調されていた。浜辺での事故さえなければ、すなわち母親になることができていれば、過酷な人生を持ち堪え得たのではないかとのノーマ観が窺えたように思う。逆に事故後の彼女の惨状の描き方が凄まじかった。 『ノックは無用』のあと採り上げられていた出演作は、炎の如く燃えあがるセックスに“運命の双子”として耽っていた時分の『ナイアガラ』['53]と『紳士は金髪がお好き』['53]。ジョー・ディマジオの怒りを買って結婚が破綻した『七年目の浮気』['55]。ノーマを“僕のマグダ”と呼ぶアーサー・ミラーの子と思しき胎児を流産した年とされていた『お熱いのがお好き』['59]だったと思うが、どれもがその引用及び再現がなかなか見事だった気がする。 とても印象深いのは、『ノックは無用』のネル役のテストをしていたときの場面で、スタッフから「精神を病んでいる、演技やテクニックじゃない」と言われていた台詞だ。ネルはそういう役ではあったが、それがノーマの演技力によるものか、彼女の気質そのものなのか、あるいはザナックから受けた扱いが影響していたのか、そのいずれでもあり、どれか一つではないような気がしている。 それにしても、チャップリンの息子キャスによるノーマの父を騙った手紙の件は、果たして実話なのだろうか。本作では、それこそがまさに彼女の自殺の引き金になっていて吃驚した。 | |||||
| by ヤマ '25.11. 1. NetFlix配信動画 | |||||
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