『蝶の渡り』(Forced Migration of Butterflies)['23]
監督 ナナ・ジョルジャゼ


 なぜソビエト崩壊から二十七年後すなわち2018年の設定にしてあったのだろう。その年、ジョージアで何があったのか気になって調べてみたら、外務省の海外安全ホームページ2017年末から2018年初めにかけて、ジョージア国家保安庁によるテロリスト掃討作戦が展開され、「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」のメンバーらが治安部隊により拘束等される事案が発生しました。とあったけれども、映画のなかで繋がる部分は感じられなかったように思う。コスタ(ラティ・エラゼ)の住まいの電気が止められ、取り壊しになる設定が暗示するような何事かが現地では起こっていたのかもしれない。

 幾度か出てきたアブハジアについても何も知らなかったので、併せて観たらジョージアからの分離独立を求める…アブハジアにおいてロシア軍が占領を続けており、それぞれの「行政」境界線…付近では、現在も周辺住民の身柄が拘束される事件が頻発しているほか、銃撃により死亡する事件も発生しています。また、激しい戦闘のあった地域においては、不発弾が依然として残っています。とあって驚いた。本情報は2025年09月24日(日本時間)現在有効です。となっていた。

 英題に示す強制移住についても、ジョージアにおける歴史なぞ知らないし、今一つピンと来ないのだが、アメリカに渡ったニナ(タマル・ダバタゼ)にしても、イタリアに向ったロラにしても、力づくのものではなかった。そして、移住したニナもロラも、コスタのミューズたるニナの帰国をみて画家コスタの元を去ったと思しきナタ(ナティア・ニコライシュビリ)にしても、二十七年前ほどには、幸せそうにないことが印象的だった。ソビエト崩壊に歓喜したものの、独立後のジョージアに平穏が訪れてはいないことの反映なのかもしれない。コスタから贈られたカメラを通りすがりの少年に渡していた姿からは、ニナと違って彼女こそは、ジョージアの彼らの元にはもう戻ってこない意志が強く感じられた。

 コスタはまだしも、女性三人がとてもアラフィフ('91年に二十歳だったとして)には見えないところに難を感じた。ジョージアの二十七年間を知っていようがいまいが、人物そのものに二十七年の年季の感じられる造形がされていない気がしたのだった。女優としての魅力は、三人ともに感じられただけに余計に気になったように思う。

by ヤマ

'25. 9.24. 美術館ホール



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