『ボーイズ・オン・ザ・サイド』(Boys on the Side)['95]
監督 ハーバート・ロス

 まるで知らずにいた作品だが、三十年前にダイバーシティを描いて、なかなか沁み渡ってくる秀作映画だったように思う。歌手ジェーンを演じていたウーピー・ゴールドバーグが、ジャニス・ジョプリンの歌った心のかけらPiece of My Heart)♪を歌う場面から始まり、ユー・ガット・イットYou Got It)♪を歌って締めていた。

 ブラックアメリカンでありレズビアンのジェニー、エイズに罹り発症し始めている白人女性ロビン(メアリー=ルイーズ・パーカー)、麻薬密売人に成り下がった恋人のDVから逃げた妊婦のホリー(ドリュー・バリモア)という三人の女性たちが抱えていた属性は、いずれもマジョリティからの差別を受ける典型として設えられていたような気がする。ジェーンが好むジャニスとロビンの好むカーペンターズは、ともに僕のお気に入りの歌い手なのだが、確かに傾向的には大きな差があるように思う。そのうえで、二十年前の追憶['73]を二人が一緒にTV視聴しながら、ラストシーンに対照的な反応を見せる場面が愉快だった。

 必ずしも相性がいいとは思えなかった三人が一台の車に乗り合わせてNYからLAへ旅するなかで育むシスターフッドが味わい深かった。カーペンターズを好むロビンを小馬鹿にしているようなところのあったジェーンが、密やかに♪スーパースター♪を口遊む場面が好もしい。女優三人は、ともに三者三様の個性的な人物造形を巧みに果たしていたように思うが、とりわけロビンを演じたメアリー=ルイーズ・パーカーが目を惹き、成人してからのドリュー・バリモアでは、威勢よくトップレスにもなる本作が僕にはエバーアフター['98]と並んで魅力的だった。

 原題は、男そっちのけというか男は脇に置いておいてといった意味合いなのだろう。脇に置かれた誠実警官エイブ(マシュー・マコノヒー)の融通の利かない生真面目さの現実離れした“多様性”に奇妙な意味深長さがあったようにも思う。本作の先駆作品とも言うべきテルマ&ルイーズ['91]よりも、ある意味、深みのある作品だという気がした。

 ハーバート・ロスの監督作は、半世紀前にテレビ視聴した『チップス先生、さようなら』に始まり、『グッバイガール』『愛と喝采の日々』『わたしは女優志願』フットルースと観ているが、わりと相性がいいような気がする。かねてより気になっている『ボギー!俺も男だ』['72]、『マグノリアの花たち』['89]を早く片付けておきたい気になってきた。
by ヤマ

'25. 5.31. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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