『西湖畔に生きる』(草木人間 Dwelling by the West Lake)['23]
『春江水暖』(Dwelling In The Fuchun Mountains)['19]
監督 グー・シャオガン

 第一図とする前作『春江水暖』を三年前に観た際、今や一大資本主義国となっている中国を見たように思うと記していたが、第二図となる本作は、カルト教団的マルチ商法による詐欺集団の存在を描いた作品だった。現代中国を描いたこういう作品を観るにつけ、中国を今だに共産主義国などと言っている脳天気なアナクロ社会観の持ち主の言説に今もって左右されている連中の世界観に呆れてしまうのだが、本作のムーリエン【目蓮】(ウー・レイ)の母タイホア【苔花】(ジアン・チンチン)が施されていた洗脳のようなものなのだろう。

 いわゆる統一教会への献金を想起させるような、家屋敷を売り払ってまでバタフライ社でのステイタスを上げようとするタイホアの狂信を演じて圧巻だったジアン・チンチンに恐れ入った。母さんは騙されているんだとの息子の諫言に耳を貸さず、これが私の求めてた生き方よ、カネを払って楽しみを得て何が悪い!とハイテンションになって騒ぎ立てるタイホアを観ながら、ホストやカルト教団に入れあげる人たちもまさに同じような興奮と有頂天を“ハッピー・ピル(幸せの薬)”として味わっているのだろうなと思った。

 それにしても、足裏パッドというのは、なかなかのアイデアだ。いわゆる健康食品同様に体調体質の改善を「個人の感想です」と言える形での「鰯の頭も信心から」的なプラセボ効果がいかにも引き出せそうだし、確実に消耗品であるうえに、ツボを押さえた貼り方なる講釈も設えられそうだ。['55]で観た応募してきた…全員を試験採用して低給で競わせ、縁故者開拓に半年かけて追い込んだ挙句、ノルマを達成した二人だけ正式採用して、あとは切り捨てていく業態勧誘員から幹部にまで上り詰めたことを訓示で誇る支社長を想起させつつ、より苛烈に煽り立てるホストクラブでのシャンパンコールのようなパフォーマンスを繰り広げるセミナーを設えていて圧巻だった。

 また、オープニングとエンディングを飾っていた、僕の好きな緑色の豊かな画面の美しさと《山水映画》と自称するだけのことはある悠久感にも心打たれた。序盤に登場する車の色さえ緑色だったように思う。それはともかく、第一図たる『春江水暖』を観てきたときのメモを紐解いたら、以下のとおり記してあった。
 「十代の時分に習った漢詩では春江というのは長江(揚子江)だったように思うけれども、本作では富春江という大河のことだった。いずれにしても大きな川で、悠久の流れを彷彿させるような長々と緩やかに流れるカメラワークが繰り返されていた。とりわけ序盤でのジャン先生の泳ぎを追ったカメラの先で並走したグーシーが遭って出航間近の船に乗り込むタイミングや、終盤で行方不明になった老母の帰還を願って河に魚を放流した長男夫婦の先に現れる船のタイミングとその先に老母の乗って漂う小舟に繋がる撮影の入念さに大いに感心はしたものの、少々あざとい気がしなくもなかった。富陽という町の名に覚えはないが、三国志で著名な孫権の開いた元都らしい。孫権と並んで挙げられていた郁達夫というのは、全く覚えのない名前だった。 作中で一人っ子政策のことにも触れられていたが、さして特別な一家とは思えない家でもあのように四人の息子がいることは珍しくもないのだろうか。長男夫婦の営む黄金大飯店での老母の誕生日の祝宴から始まり、亡くなった老母の墓参りで終える物語を押し流していく推進力が専ら金銭貸借と金策にあり、福祉介護の制度的未整備にあったように思われるところが今の中国の有体なのかと感慨深かった。グーシーの女友達の洩らしていた「家族から自由になったら、会社に縛られるようになった」という言葉に、今や一大資本主義国となっている中国を見たように思う。
by ヤマ

'25. 4.23. 美術館ホール
'22. 3.23. 美術館ホール



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