久留米税法楽修会

  1 税理士を中心とする税法の研究会です。
 2 原則として毎月1回、久留米大学を会場として例会(研究会)を開催します。
 3 主として国税不服審判所の裁決事例を研究対象とします。
 4 調整(コーディネーター) 久留米大学大学院客員教授 図子善信
 5 事務局 黒岩公認会計士事務所 〒830-0032 久留米市東町508-13
  
                      TEL0942-32-8212     

第59回研究会(最終回)

平成27年3月23日 月曜日 午後4時00分~6時00分
  場所 ハイネスホテル 筑紫の間
  
                       平成27年3月23日
         久留米税法楽修会第59回研究会
1 はじめに
 図子より次の挨拶があった。
 楽修会は平成21年4月に第一回が始まりこの59回まで6年にわたり続けてきた。このような勉強会を提唱された黒岩先生と熱心に参加された会員の皆様に敬意を表する。また、事務を担当された黒岩事務所の皆さんに感謝する。
 本会では主として国税不服審判所の裁決を研究対象としてきた。裁決の水準を挙げることは、訴訟に至らずに問題を解決することができ、税務行政や税務実務を良くするものと思う。そのためには、裁決を判決と同様に多くの識者が検討し評価することが有益と考える。楽修会は、その一端を担うことを目指すものでもある。楽修会の活動は、このホームページに挙げるに過ぎず、影響は小さいがその意図は有意義であったと考える。
 この楽修会で優れた報告がされ、また実務の面から考えさせる問題も多く取り上げられ、議論されてきた。そこから刺激を受け、新しい考え方も浮かぶことがあった。あらためて、感謝の意を表する。

2 検討裁決
  更正の請求 
    被相続人の遺産を構成しないことを確認する和解は国税通則法23条
    2項1号の判決等に当たるとした事例
    (平成26年5月13日裁決 全部取消し 裁決事例集95)
  報告者 國友武
 事実の概要
 本件は、審査請求人が、被相続人から遺贈により取得したとして相続税の修正申告において遺産に含めた土地について、後日、相続人との間でで当該土地が被相続人の遺産を構成しないことを確認する旨の裁判上の和解が成立したため、当該和解が国税通則法23条(更正の請求)2項1号かっこ書きに規定する和解に当たるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人が、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は、上記和解が同号かっこ書きに規定する和解に該当するか否かである。
 裁決
 申告時に計算の基礎としたところと異なる事実を確定する裁判上の和解ををしたとしても、当該和解が、当事者が専ら租税負担を回避する目的で、実体とは異なる内容を記載したものであって、真実は申告時に計算の基礎とした事実関係等に変動がしょうじていないような場合には、当該和解調書の有する債務名義としての効力等にかかわらず、通則法23条2項1号にいう和解には当たらないと解すべきである。
 本件和解は、本件各土地が既に被相続人からR社にたいして売却されていたことが相応の根拠をもって認められる状況の下で、遺産を更正しないことが確認されたものとみるべきで、当事者が租税回避の目的等から、馴れ合いと評価されるような和解をしたということはできない。
 本件和解は、通則法23条2項1号の和解に該当するというべきである。本件更正の請求は理由があるというべきであるから、本件通知処分は、その全部を取り消すべきである。
 報告者の意見
 被相続人からR社への土地売買については、被相続人に対する譲渡所得課税を回避するために移転登記をせず仮登記をする等の不明確な点が見られるが、売買自体は成立していると考えられ、本件和解の内容については、租税回避目的というものではなく、事実関係の確認であったと考えるので、裁決は正当である。
 報告者から馴れ合い訴訟による判決は通則法23条の判決な当たらないとの判決の見解、裁判外の和解、公正証書による和解もこの和解には当たらないとの見解、申告書提出後の当事者の事情による和解はこの和解に含まれないとの諸見解が紹介された。
 討議
 以上に対し、なぜR社との土地売買が不明確にされたかに疑問が呈されたが、譲渡所得税の回避目的であろうとされた。また、和解は双方が譲り合って成立するものであり、何をもって馴れ合い和解で通則法23条の和解に当たらなくなるか判断が難しい。売買予約の仮登記にどのような意味があるか等の意見があった。
 申告後の和解であっても、それにより私法関係が確定し遺産分割の内容となるのであれば、それに従って更正すべきであろう。本件は通則法改正前の1年経過後の更正の請求であり、特例適用要件を充たすか否かであるが、今後更正の請求が5年間できることとなったので、遺産分割のやり直しによる更正の請求についても認められるべきと考える。
 本裁決は、本件和解は馴れ合いではないとして全部取り消したが正当であるとの意見で一致した。



その後、打ち上げの懇親会を開催し、名残を惜しんだ。




 


第58回研究会                         平成27年1月19                         
             久留米税法楽修会第58回研究会
1 はじめに
 新年初めての研究会であるが、前回申し上げたように次回第59回の研究会をもってこの会を終了するので、今日の報告もより貴重に思える。次回最終回のテーマを何にするかを考えたが、久留米税法楽修会は主として取消しに係る裁決事例を研究対象としてきたことから、最終回も取消しの裁決事例を取り上げた。
 
2 検討裁決
  住宅借入金等特別控除
   住宅借入金等特別控除を受ける場合の添付書類が法定要件を満たさない
   とされた事例(平成26年1月28日裁決 棄却 裁決事例集94 )
  報告者 出口貴子

 本件は、給与所得者である請求人が、新たに住宅を取得し、租税特別措置法41条の住宅借入金等特別控除の適用を受けようとして、平成23年分の所得税の確定申告を行った事例である。確定申告は特別控除の適用があるため給与に対する源泉所得税が還付される内容の申告であったが、税務署長は住宅借入金等特別控除を適用するための手続上の要件である添付書類が付されていないとして、還付の申告を更正するとともに過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
 請求人は、確定申告に司法書士に対する「登記手続依頼書兼最終資金構成表(お客様控)」を添付していたが、「登記事項証明書」は、添付されていなかった。
 本件の主たる争点は、租税特別措置法施行規則18条の21に定める「登記事項証明書」に代わり、登記手続依頼書が手続要件を満たすか否かである。
 請求人は、規則に定める登記事項証明書は例示であり、登記されているか否かは売買契約書、住民票等も含めて総合的に判断すべきであると主張するが、原処分庁は依頼書では登記の事実が証明されていないので、手続要件を欠くとしている。
 裁決
 租税特別措置法41条1項は家屋を取得して6月以内に居住の用に供することを要件としており、これを受けて同条2項は、取得の年月日を明らかにする書類の添付を求めている。請求人は、「明らかにする書類」とは、登記事項証明書に限られないにもかかわらず原処分庁は「明らかにする証明書類」と解しているが、これは新たな要件を付け加えたもので、租税法律主義に反するとする。本件条項2号イは「登記事項証明書、売買契約書、補助金等の額又は住宅取得等資金の額を証するその他の書類で次に掲げる事項を明らかにする書類又はその写し」と、登記事項証明書を例示として規定しているものと認められるから、登記事項証明書の添付がないことのみをもって直ちに本件条項書類添付の要件を満たさないというものではない。
 しかしながら、請求人の提出した本件各書類を総合してみても、本件条項2号イ所定の事項のうち、少なくとも本件物件を取得した日を「明らかにする書類」であるとはいえない。
 報告者の見解
 なぜ請求人は税務署より是正の指摘があったのに登記事項証明書の提出を拒んだのか不明である。手続法の適用について、優遇措置規定を適用する場合は、厳格な手続を求められる。また、本件に税理士が関与しているか不明であるが、税理士の職務について、添付書類の確認作業の重要性を再確認した。
 意見
 なぜ、請求人は登記事項証明書を提出しなかったのかについては、多くの会員の疑問とするところである。そして、本裁決の結論は、大方の賛同を得ている。ただし、登記事項証明書を本裁決は例示であり、他のものでも良いとしているが、本当にそうであろうか。規定の文理解釈として登記事項証明書、売買契約書は例示ではないのではないか。
 また、争訟の段階で取得の日が明確になる書類が提出されれば、これを取り消すことは可能か、等の疑問が出された。
 民主党政権下の税法改正で、多くの手続的要件の緩和が行われた。従来特別の事情により税務署長が認めるときは、確定申告書に添付されていない場合でも適用されるとの規定は、修正申告書に添付することで足りることとされた。しかし、この税額控除の規定については、厳格な要件が続いている。
 私見によれば、税額控除は租税債務に対する反対債権であり、税額控除の法理論的意味は相殺である。相殺の場合は、相殺を主張する自動債権者が自己の債権の存在を証明する義務がある。その論理からすれば、納税者が控除債権の証明をする必要があり、したがって厳格な要件を存続させる必要があるといえるかもしれない。


3 第59回研究会について
  平成27年3月19日 木曜日 午後3時~5時
  場所 未定
  検討裁決
   更正の請求 
    被相続人の遺産を構成しないことを確認する和解は国税通則法23条
    2項1号の判決等に当たるとした事例
    (平成26年5月13日裁決 全部取消し 裁決事例集95)


第57回研究会                         平成26年12月15日
         久留米税法楽修会第57回研究会

1 はじめに
  図子より、図子が今年度をもって久留米大学の講義を終了し久留米を離れることから、黒岩先生と協議の結果、本久留米税法学修会は来年3月の59回研究会で一旦終了することとする旨伝えた。
 その後、今回オブザーバー参加された九州国際大学権田和雄教授から、国税庁から裁判所調査官に出向中に携わった、金丸信及びその秘書の裁判について、話を聞いた。政治献金の所得区分については、一時所得か雑所得かの問題があり、一時所得であるとの弁護士の論陣も鋭かったが、政治家の活動の所得源泉性を見るべきではないかと考えた。塩崎潤氏の著書が参考となった。判決時に裁判所調査官の席が設けられたが、その席は検察官と裁判官の間であったとのことである。やはり政府の側であり被告人、弁護士の側は不適当であろう。被告人の金丸信および秘書は、立派な人であるとの印象であったとのことである。金丸事件以後、政治献金、政治資金について意識が高まりその後類似の脱税事件は見られない。小渕事件のような、枝葉の事務的ミスが問題とされるようになっている。


2 検討判決
  ヤフーIDCF事件
(東京地裁平成26年3月18日判決 棄却 法人税更正処分取消事件
  LEX/DBインターネットTKC法律情報データベース25503723)
  報告者 平岡孝介
事実の概要
 ヤフー株が、多額の繰越欠損金を有するソフトバンクの子会社を買収し、その繰越欠損金を損金に算入して行った申告を税務署長が繰越欠損金の損金算入を法人税を不当に減少するものとして否認した事案である。
 ヤフーと子会社の合併は、子会社の株式を100%所有することから適格合併となる。適格合併の場合は、被合併法人の繰越欠損金は合併法人に引き継がれるが、特定資本関係が合併事業年度の5年前以後に生じている場合は、政令で定める場合を除き引き継ぐことができない。そして、政令で定める場合として相互の事業に関連性があること及び特定役員(社長、副社長、専務、常務取締役等)が合併会社の特定役員となることが見込まれていることが挙げられている。
 本件は適格合併であるが、特定資本関係が成立したのは合併直前であり、政令で定める要件に該当しなければ繰越欠損金を引き継ぐことはできない。
 本件では、合併の4カ月前にソフトバンクの役員を子会社の副社長に就任させ、政令で定める要件を充足したものである。これに対して、税務署長は所得税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)の規定に基づき否認したものである。
判決
 争点①法132条の2の法人税の負担を不当に減少させるの「不当」は、法132条の「不当」が通常用いられない異常な法形式を選択した租税回避を指すとしても、それとは趣旨目的をことにしており、組織再編税制の趣旨目的、個別規定の趣旨目的に反することが明らかであれば否認できる。②個別否認規定で認められていること(特定役員の継続)を法132条の2で否認することについては、個別否認規定が許していることに形式的に充足しているとしても、その効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかである場合は、否認できる。
 以上により、特定役員の継続があったとしても、組織再編成に係る他の具体的な事情を総合考慮すると、合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続しているとはいえず、特定役員への就任を否認できると解すべきである。
報告者の見解
 判旨に反対 法人が行う取引について、その行為に何かしらの理由があるのであれば、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」と認定すべきではない。そうすると、法人税の負担が減少したもの全てについて、不当に減少させたと認定されてしまう可能性が出てくるからである。

 本判決に対して、報告者の見解は争点①について判決と異なる見解といえるが、争点②の個別の法令で繰越欠損金の損金算入を認める事項に該当しながら、それを不当と判断することに法秩序として矛盾があるのではないかとの意見もあった。しかし、本件の仕組みが正に繰越欠損金を損金算入することのみを目的にされていること、また移転資産に対する支配が継続しているとは言えない点で、判決を覆す理由とまでは言えないだろうとする一般的理解となった。
 合併に伴う繰越欠損金の本来のあり方、組織再編税制の目的は何か等の究明が必要であろう。組織再編成の適格合併の趣旨は譲渡所得課税の繰延であり、税負担の軽減にある。そうであれば、繰越欠損金の活用は、適格合併の趣旨目的の一つではないか。ひろく認めるのが適格合併の目的であるとすれば、外形的に特定役員の継続があれば、それを不当とすることは正に、個別規定の趣旨に反するといえるかもしれない。


3 第58回研究会について
  平成27年1月19日 月曜日 午後3時~5時
  場所 看公税理士法人事務所会議室 
  検討裁決(住宅借入金等特別控除)
   住宅借入金等特別控除を受ける場合の添付書類が法定要件を満たさない
   とされた事例(平成26年1月28日裁決 棄却 裁決事例集94 )





第56回研究会

                         平成26年11月17日
         久留米税法楽修会第56回研究会

1 はじめに
 図子より、11月8日の日本税法学会九州地区研究会の状況を説明した。今回は、大阪大学法科大学院の谷口勢津夫教授を迎えて、「租税回避論と最近の裁判例(ヤフー事件)」のテーマでの報告であった。難しい論理であったが、先生の独自の「過形成」の概念が新しく感じられた。租税回避否認論には法律解釈の適用における過形成、事実認定における過形成があるのではないか。ヤフー事件の否認もそれに属し、判決に反対との見解であった。ヤフー事件は、請求棄却事案であり5日の高裁判決も控訴棄却であったが、請求認容のIBM事件と対比して注目されている。その意味で、この楽修会の次回のテーマとした。
 また、共配布した寄付金事案の資料は、ウェブ上の判例解説に掲載するものの要旨であるが、寄付金の業務関連性が問題となる事案と考え、今日のテーマのロータリークラブの入会金及び会費の必要経費算入の可否と関連すると思うので配布した。後で見てもらいたい。

2  検討裁決
  (必要経費(会費等))
  ロータリークラブの会費等は必要経費に算入できないとした事例
  (平成26年3月6日裁決 棄却 裁決事例集94)
 報告者 田住和也
 事実の概要
 司法書士である請求人が、ロータリークラブの入会金及び会費を事業所得の必要経費に算入して確定申告をしたところ、当該入会金等は必要経費に算入できないとして更正を受けたものである。
 ロータリークラブの綱領は、有益な事業の基礎として奉仕の理想を鼓吹し、これを育成し、特に次の事項を鼓吹、育成することにある。①奉仕の機会として知り合いを広めること。②業務を通じて社会に奉仕するためにその業務を品位あらしめること。③個人生活、事業生活及び社会生活に奉仕の理想を適用すること。④奉仕の理想に結ばれた事業と専門職務に携わる人により国際間の理解と親善と平和を推進すること。
 原処分庁は、本件クラブの活動は業務に密接に関連するものとはいえず、家事費又は家事関連費である。家事関連費としても業務に必要な部分を明らかにできないので、必要経費に算入できないとする。請求人は、所得税法37条の必要経費となる「所得を生ずべき業務について生じた費用」とは業務に直接関係するものでなくてもよい。これは弁護士会の懇親会費を必要経費と認めた東京高裁平成24年9月19日判決の判示から明らかであり、また、法人税法上本件会費等が交際費とされていることからも必要経費に算入できると主張する。
 裁決要旨
 所得税法37条1項の「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは客観的に見てその費用が業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である。請求人が本件クラブの会員として行った活動は、業務の遂行に必要なものということはできない。弁護士会は強制加入の団体であり本件と異なる。法人税で交際費とされているのは、法人の活動は全て業務遂行、所得獲得の活動であるため、その活動により生じた支出を損金としており、消費生活の主体でもある個人とは異なる。
 したがって、本件更正処分は適法である。
 報告者の見解は、報告者がロータリークラブの子クラブであるローターアクトの会員であったことから、ロータリークラブの意義について熟知しており、奉仕活動もあるが異業種交流の場であり顧客拡大に十分な効果が期待できるので、業務に必要なものであり、会費等は必要経費に算入できるとし、裁決に反対するものであった。
 
 本裁決は、所得税基本通達37-9が商工会議所、医師会等の会費等を必要経費算入を認めており、その反対解釈としてそれ以外の会費等を認めない現行の所得税の一般の取り扱いを踏襲するものといえる。
 これに対しては、報告者と同様にロータリークラブの奉仕とはサービスのことであり、業務を指しているので、無料奉仕と解する裁決には疑問があるとの意見があった。
 その他、任意加入である商工会議所の会費と何故異なるのかを説明する必要があるとの意見、裁決が業務と直接関係する費用としているが、法律の条文は「業務について」と規定しており、直接でなくてよいと解されるとの意見、法人栄との相違について、法人税でも業務に無関係な支出は寄付金として損金不算入限度額の対象となるので、法人税で会費が交際費とされている以上、所得税でも交際費と扱うべきであるとの意見があった。
 全体として裁決に反対の意見が多かったが、ロータリークラブの会費、ライオンズクラブの会費等は、従来から所得税法上必要経費に算入されてこなかった点から、これを変更することは難しく、裁判で最高裁まで争う必要があるとの結論となった。
 ロータリークラブの会員となることは、異業種交流と同時に社会的信用を得るのが実情であり、業務と無関係な家事費と解することは無理であり、法人税と同様に交際費と解すべきと考える。

3 第57回研究会について
  平成26年12月15日 月曜日 午後3時~5時
  場所 看公税理士法人事務所会議室 
   検討判決
  ヤフーIDCF事件
(東京地裁平成26年3月18日判決 法人税更正処分取消事件
  LEX/DBインターネットTKC法律情報データベース25503723)


第55回研究会

                         平成26年10月20日
         久留米税法楽修会第55回研究会

1 はじめに
 図子より10月4日関西学院大学で開催された租税法学会について、テーマ、報告者等を簡単に説明した。

2  検討裁決
  (消費税の輸出免税)
  海外旅行会社に提供したサービスの対価のうち国内の飲食等に係る対
価は消費税の輸出免税の対象とならないとした事例
(平成25年11月27日裁決 一部取消し 裁決事例集93 )
 報告者 江上英介
 事実の概要
 本件は、旅行業を営む審査請求人が、海外の旅行業者向けの訪日旅行を主催する海外の旅行会社に対し、当該訪日旅行のうち国内旅行部分をパッケージツアーとして提供した取引は、輸出免税取引に該当し、当該取引の対価の額の全額は輸出免税取引の対価の額に該当するなどとして更正の請求及び更正の申出をしたのに対し、原処分庁が、更正の請求については更正すべき理由が無い旨の通知処分を行い、更正の申出については更正をする理由がない旨のお知らせをしたことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。
 請求人は、フィリピンやインドネシア等の旅行会社が主催する訪日旅行のうち、国内旅行部分の発注を受けて、国内旅行部分を構成する飲食、宿泊、輸送等のサービスの企画立案をし、旅行者にサービスを提供するレストラン、ホテル、バス会社及びガイド等の手配をし、これらをパッケージツアーとして海外旅行会社に提供している。従来は海外旅行会社から受け取る対価から国内のサービス機関に支払った金額との差額を受取手数料として、輸出免税の適用を受けていた。
 今回、国内サービス機関に支払った金額も含む受取金額全額について輸出免税の適用を受けようとするものである。
 裁決
 請求人は、本件海外旅行会社に対して、国内旅行部分を提供しているところ、①海外旅行会社との取引対価の額は、各種サービスの提供に係る対価の額を含む国内旅行部分に要する費用を積み上げた金額に、請求人の利益の額を上乗せした金額を基に決定されていること、②国内旅行部分における本件旅行者の国内における各種サービスの提供に係る対価が、請求人によって実際に各種サービス機関に支払われていること等を考慮すると、請求人が本件海外旅行会社から受領する本件取引対価の中には、非居住者である本件旅行者が各種サービス提供機関から直接便益を享受する各種サービスの提供の対価に相当する金額が含まれていると認められる。
 本件旅行者が、各種サービスについて国内において直接便益を享受しているところ、これらは輸出免税非該当を定める施行令17条2項7号ロ(国内における飲食又は宿泊)又はハ(準ずるもので国内で直接便益を享受するもの)に該当し、消費税法基本通達7-2-6の例示(バス輸送、観劇等)に該当するから、本件国内旅行部分に含まれる各種サービス提供は、輸出免税取引に該当しないと判断するのが相当である。そうすると、国内サービス機関に支払った金額に相当する金額は、輸出免税取引の対価の額に該当しない。
 意見
 報告者は、個々の取引上は、旅行者と直接取引関係になくても、請求人の行為は全体として旅行者に国内で直接便益を与える役務提供させることを目的としている以上、審判所の判断は正しいとするものである。

 一方 消費税法7条は、「事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。」と定め、政令で非居住者に対する役務の提供を挙げている。その役務の提供から除かれているのが、飲食、宿泊、輸送等である。この規定からは、請求人が飲食、宿泊等の役務の提供をしたのでない限り、非居住者に対する役務の提供は免税取引となる。裁決は、請求人が飲食等の役務を提供したのであり、レストラン等は請求人の機関であるとするが、その認定を疑問とする意見もあった。

 
 





3 第56回研究会について
  平成26年11月17日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館第2ミーティングルーム
   検討裁決
  (必要経費(会費等))
  ロータリークラブの会費等は必要経費に算入できないとした事例
  (平成26年3月6日裁決 棄却 裁決事例集94)



第54回研究会

                         平成26年9月22日
         久留米税法楽修会第54回研究会

1 はじめに
 大阪高裁の馬券判決について、前回は関本教授から当該馬券購入行為が恒常的利益を生む行為であるとの数理的分析から、従来の判決が認める恒常的利益可能性を所得源泉性とする見解を前提とすると、所得源泉性を認め得るとの論文の説明がされた。これと、異なる見解であるが、所得源泉性を生産要素等による付加価値とする見解があり得ることを主張して、馬券の払戻し収入は所得源泉性のない一時の所得であり、営利を目的とする継続的行為に該当しない限りは、一時所得に該当し、営利を目的とする継続的行為とは業務を意味するとの見解に基づく、図子の判例解説を紹介した。

2 検討裁決
  (登記簿の区分と異なる評価)
   登記簿上、主たる建物及び付属建物と記載されているとしても、当該各建
物の機能、配置及び貸付の状況などから、当該各建物の敷地を区分して評
価することが相当であるとした事例
(平成25年10月1日裁決 一部取消し 裁決事例集93)
 報告者 吉井英美
 事実の概要 
 本件は、審査請求人D、 F、 G、 H(以下これら4人併せて「請求人ら」という。)が相続により取得した土地について、原処分庁が、当該土地の一部は貸家建付地ではなく自用地として評価すべきであるとして相続税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、当該土地全体について貸家建付地の評価を適用すべきであるなどとして、当該各更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。
 本件被相続人は昭和47年より本件土地を所有し、本件土地の上に存する家屋は主たる建物と付属建物であり昭和52年に新築され、請求人Dを所有者とする昭和53年1月27日付の所有権保存登記手続がされた後、平成4年1月28日に本件被相続人に持分10分の1を移転する所有権一部移転登記がされている。本件相続開始時には建物の所有権は被相続人10分の1、D10分の9であり、建物は主たる建物と付属建物とが別の第三者に貸し付けられていた。
 争点は、本件土地の評価につき、全体を貸家建付け地の評価をすべきか否か、と主たる建物と付属建物のそれぞれの敷地を1区画として評価すべきか2区画として評価すべきかである。
 裁決
1 請求人Dが本件家屋の共同持分に応じて有していた敷地利用権は、使用貸借と認められるから、当該使用権が付着している土地については、当該土地の上に存する建物について賃貸借関係が成立しているとしても、当該使用権が付着していることによる減価を考慮せずに本件土地を評価することが相当である。
2 宅地の価格は、1画地の宅地ごとに評価することとされており、その1画地の宅地の判断は、原則として①宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利の存在の有無により区分し、②他者の権利が存在する場合には、その権利の種類及び権利者の異なるごとに区分して行うものと解されるところ、本件主建物及び本件付属建物は別棟で接しておらず、それぞれが独立して機能する建物であったと認められ、また、本件主建物は共同住宅として、本件付属建物は店舗付き住宅として、それぞれ別の第三者に貸し付けられていたものであることから、本件土地上の本件主建物及び付属建物には、それぞれ異なる第三者の権利が存在していたものと認められる。以上のとおり本件土地については、2画地の宅地として評価するのが相当である。
 本件付属建物が効用上、本件主建物と一体のものとして利用される状態にあるとする登記がされていること、住宅地図で主建物と付属建物が接していること、請求人らが相続税の申告において1画地の宅地として評価していることは、直ちに1画地として評価すべき理由とはならない。
 意見等
 報告者の見解は、裁決を妥当とするものであるが、次のような意見もあった。
 使用貸借権上の建物が存する土地の価額は、建物の自用、貸付けにかかわらず、その土地が自用のものとして評価することが使用貸借通達で定められている。その理由は、土地の所有者は建物の賃貸人ではないため、借地借家法28条の建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件の規定の適用を受けず、使用貸借による土地の明け渡しを請求できることにある。借家人の被る損害は、建物の賃貸人である土地の使用貸借権者に請求すべきものであるため、土地の価格に影響を与えないとするものであろう。これは使用貸借の意味を法律通りに土地に対する拘束が無いと解するものである。しかし、現実に賃貸されている建物が存在する土地と更地を同じと考えることに無理はないだろうか。現状を重視する通達がこの点では、不必要に法的権利を強調している感がある。
 通達を正しいとすれば、持分を一部有するだけで全部に貸家建付け地の評価をすることは認められないであろう。
 画地の判断については、実際の状況が不明であるが、裁決書の図面のような区画割りが行われていたのであろうか。もし、境界が不明であった場合、どのように区画を区切るのかは疑問である。1筆の土地は原則1画地として評価すべきではないかとの意見もあった。


3 第55回研究会について
  平成26年10月20日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館第2ミーティングルーム
  検討裁決
  (消費税の輸出免税)
  海外旅行会社に提供したサービスの対価のうち国内の飲食等に係る対
価は消費税の輸出免税の対象とならないとした事例
(平成25年11月27日裁決 一部取消し 裁決事例集93 )




第53回研究会 

                              平成26年8月18日
              久留米税法楽修会第53回研究会

 1 はじめに 
 関本教授より、馬券判決に関する当該行為の所得源泉性について、それが恒常的利益を生み出しうるとの、教授の数理的分析の論文「馬券判決の数理」が説明された。

 2 検討裁決
    子会社に対する仕入れの値増金は当該子会社の資金不足を補うための資金供与としての
    寄付金であると認定した事例(平成25年7月5日裁決 一部取消し 裁決事例集92)
  報告者 大久保英昭
  事実の概要等
 本件は、請求人が中国に所在する請求人の子会社への送金額を商品仕入れ勘定等に計上して損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該送金額は子会社に対する貸付金であるから損金の額に算入されず、また、当該送金額を商品仕入勘定等に計上したことはは事実の隠ぺい又は仮装の行為と認められるなどとして、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をしたことに対して、請求人が、当該送金額は仕入れに係る値増し金であり、隠ぺい又は仮装の行為の事実はないなどとして処分の取り消しを求めた事案である。
 審判所は、「本件において作成された値増しに係る合意書及び覚書に記載された値増しの算定根拠によれば、本件送金は、当該子会社の為替差損、諸経費の増加、裁判費用、建物の補修費及び赤字補填のために行なわれたとみるのが相当であり、親会社である請求人が、資金不足に陥った当該子会社に対し、金銭の贈与を行なったと認めるのが相当である。」と寄付金と認定した。そして、「合理的な再建計画に基づくものであるなど、本件金銭贈与をしたことについて、相当な理由があるとは認められない」として、国外関連者への寄付金として全額損金不算入とした。
 ただし、重加算税の賦課決定処分については、事実の隠ぺい仮装はないとして、これを取り消している。

 報告者も本裁決を正当とするが、子会社の状況について全証拠および審判所の調査に依っても倒産する状況になないとの審判所の判断について、より詳しい説明が望ましいとする。

 寄付金については、本裁決も「金銭その他の資産又は経済的利益を対価なく他に移転する場合であって、その行為について経済的合理性が存しないものを指すものと解するのが相当であり、他方、法人のかかる行為が相当な理由に基づいてなされ、経済的合理性が存する場合には、これを単なる贈与であるということはできないから、その贈与した金銭その他の資産又は供与した経済的利益の額は、寄付金の額に該当しないと解すべきである。」とする。
 報告の添付資料には、仕入単価の変更で寄付金に該当しない事例が紹介されている。経済的合理性の判断は不確定概念に近く、難しい問題と考えられる。

 3 第54回研究会について
 平成26年9月22日 月曜日 午後3時~5時
 場所 看公税理士法人事務所会議室(久留米市東町) 
 検討裁決
  (登記簿の区分と異なる評価)
  登記簿上、主たる建物及び附属建物と記載されているとしても、当該各建物の機能、配置
  及び貸付の状況などから、当該各建物の敷地を区分して評価することが相当であるとした事例
   (平成25年10月1日裁決 一部取消し 裁決事例集93)
               
 


第52回研究会
                        
 平成26年7月14日
         久留米税法楽修会第52回研究会

1 はじめに
  初めて場所をこちらにお借りして楽修会を開催する。大学より西鉄久留米に近く多くの会員の交通の便がよいことと、 後の暑気払いの会場と場所が近いためである。会場を設営頂いた看公税理士法人に感謝申し上げる。
  また、本日は九州国際大学の税法担当の権田和雄教授にオブザーバーで出席をいただいている。遠いところをご出席いただき御礼申し上げる。先生を含めて活発の議論をお願いする。
 
2 検討判決
    相続した財産を譲渡した場合の譲渡所得課税は相続税との二重課税に当たるか
     (平成25年7月26日東京地裁判決 棄却) 
 今回は、例外的に図子が判例について報告する。譲渡所得に関する所得税法9条1項16号の規定の解釈について、平成22年最高裁平成22年の保険契約による年金二重課税判決以後問題視されてきたことに裁判所の見解を示す判断であり、理論的に重要かつ興味深い事案であると考えるからである。
 結論は、被相続人所有期間の土地価格の増加分が相続税の課税価格に含まれていたとしても、相続にいから取得価額を引き継いだ相続人が土地を譲渡し、被相続人の所有期間の増加益に譲渡所得が課されるとしても、二重課税には該当せず、所得税法9条1項16号の規定に該当しないと解するものである。その理由は、譲渡により総収入金額に算入される譲渡代金は、相続により取得したものではないからである。また、相続税は相続財産に課されるもので、課税標準となる財産の価格はストックの概念であり、それに対する課税はフローという財産の増加分にたいする所得課税ではない。したがって、所得税法9条1項16号は、相続税と所得税の二重課税を排するものではなく、相続という一時所得を所得税の課税の対象から除くものである。
 詳細は、図子の解説したTKCローライブラリー 新・判例解説Watchを参照されたい。


3 第53回研究会について 
   平成26年8月18日 月曜日 午後3時~5時
   場所 看護公的税理士法人事務所会議室
   検討裁決 子会社に対する仕入れの値増金は当該子会社の資金不足を補うために資金供与としての寄付金であ        ると認定した事例(平成25年7月5日裁決 一部取消し 裁決事例集92)
  


第51回研究会
                              平成26年6月16日
           久留米税法楽修会第51回研究会

1 はじめに
 図子より6月14日、15日に立正大学で行なわれた日本税法学会の概要について報告した。臨時に行政不服審査法の改正に伴う国税通則法の改正について、水野武夫教授から報告があった。
 学会のメインテーマは源泉徴収制度についてであったが、昭和45年最判、平成4年最判の理解について、私の理解と異なるところがあり、やや不毛の議論の面もあった。帰りに羽田空港へゆくモノレールで先輩教授とご一緒し、議論について話したが、同様の感想であった。

2 検討裁決(保証債務の履行とした事例)
  資産の譲渡代金の一部が保証債務の履行に充てられていなかったとしても所得税法64条2項に規定する保証債務の  特例が適用されるとした事例(平成25年4月4日裁決 全部取消し 裁決事例集91)

報告者 宮崎吉昭
事実の概要
 請求人の亡父Hは、所有する不動産J町物件とK町物件を自己が100%の株式を所有し代表取締役であるJ社に貸付け、J社はこれら物件をL社に転貸していた。L社は、J町物件につき8億円、K町物件につき5億円の敷金を入れており、これら敷金の返還債務につきHは物上保証及び連帯保証をしていた。Hは、平成21年1月J町物件をMに売却し、その売却代金の一部で保証債務の履行として敷金を返済した。またHは、平成21年6月K町物件をNに売却し、売却代金でK町物件の敷金を保証債務の履行として返済した。J社は、21年9月に破産を申し立て、平成22年1月破産手続きが終結した。
 Hは、平成21年分の所得税の確定申告において、譲渡所得の計算に当たり所得税法64条(資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例)2項(保証債務の特例)を適用して申告したが、原処分庁の税務調査を受け修正申告を提出した。原処分庁は、平成23年7月8日に譲渡所得の計算について、所得税法64条2項を適用することはできないとして更正処分を行なった。
 原処分庁の主張
 HがJ社に代ってJ町物件敷金を返済したのは、Hの納付すべき亡P相続税の資金の捻出を目的としてJ町物件を譲渡したという事情に基因するものであり、保証債務を履行するために本物件を譲渡したものとは認められない。また、K町物件の譲渡をしたときは、すでにJ町物件の譲渡による資金があったことから、保証債務を履行するために譲渡したものとは認められない。
 請求人の主張
 保証債務の履行のためという目的の他に資産譲渡の動機が併存していたとしても、法権を充足しないものとされるものではない。
 K町物件についてはL社から解約の申入れがあり、敷金返還の必要がありK町物件の譲渡代金では足りないためJ町物件の譲渡が必要であったという事情に加えて相続税の納付の必要があったため、J町物件とK町物件を譲渡したものである。
 裁決
 所得税法64条2項を適用するためには、①債権者に対して債務者の債務の保証をしたこと、②上記①の保証債務の履行のための資産の譲渡であること、③上記①の保証債務を履行したこと、④上記③の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使できなくなったことの4つの実体的要件が必要である。
 上記実体的要件の②は、資産の譲渡による収入が保証債務の履行又は物上保証がされた債務の弁済にあてられたというけん連関係を要求するものであり、例えば、資産の譲渡による収入の一部が保証債務の履行又は物上保証された債務の弁済にあてられていなかったといって事情や、資産の譲渡の時期が主債務の返済期限の到来よりも先行したといった事情が存したとしても、そのことをもって直ちに上記実体的要件の②を欠くこととなるものではないと解される。
 原処分庁は、k町物件の譲渡時にはJ町物件の売却により返済する資金を十分に保有していたことから保証債務の規定は適用されないと主張するが、譲渡者の資産の保有状況が要件であるとは解されない。
 本件更正処分は、その全部を取り消すべきである。

 意見
 保証債務の履行の場合の特例を広く認める裁決で妥当と考えられる。しかし、このように広く解するのは、国の見解としては初めてではないか。
 従来保証債務の履行の特例は、もっと厳しく解されていたのではないだろうか。保証債務の履行のための譲渡の要件は、資金が十分にある場合でも認められるとすれば、ほとんど意味がなくなるのではないだろうか。
 より基本的なことを考えれば、なぜ保証債務の履行の場合のみ特例が認められるのか。譲渡所得の意味が値上がり益の清算とすれば、求償権の行使不能とは関係のないことである。そのようなことを考えさせる裁決である。納税者に有利な解釈は望ましいが、理論的な根拠を踏まえた解釈が必要である。





3 第52回研究会について
  平成26年7月14日 月曜日 午後3時~5時
  場所 看公税理士法人事務所 会議室
  検討判決
   相続した財産を譲渡した場合の譲渡所得課税は相続税との2重課税に当たるか
   (東京地裁平成25年7月26日判決 棄却)

                        



第50回研究会
                          平成26年4月21日
         久留米税法楽修会第50回研究会

1 はじめに
 図子より挨拶。平成21年4月20日に第1回の楽修会を開催して5年を経過し、50回を迎えた。会員の勉学の意欲により続いたことを感謝します。楽修会では、主として裁判で争われることのない取消しの裁決を検討してきた。その点、特異でそれなりの意味があったと考えるが、今後は判決の検討も含める等、自由な形で行なうことも考えたい。



2 検討裁決(不納付加算税)
  源泉所得税の納付が法定納期限後となったことについて真に納税者の責め
に帰することのできない客観的事情があったと認められるとした事例
(平成25年5月21日裁決 全部取消し 裁決事例集91)
 報告者 野口廣
事実の概要
 平成17年9月 当該店舗及び敷地の賃貸借契約締結 平成20年2月建物賃料改定条件付き承諾書作成 平成22年11月賃貸人が日本国内の会社を退職 平成23年11月28日賃貸人が大韓民国所在の会社に就職のため出国、賃貸人は非居住者となった。賃借人(請求人)は平成24年1月分、2月分賃料を従来通りの銀行口座に口座振り込みにて支払った。平成24年3月21日賃貸人は税務署から「非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」(有効期間1年間)の交付を受けた。同年4月17日、賃借人は、賃貸人の納税管理者から上記免除証明書の提示を受けた。同年4月26日賃借人は1月分、2月分の源泉所得税を納付。同納付が誤納につき再度納付。同年6月26日賃借人は税務署長から不納付加算税賦課決定処分を受けた。
請求人の主張
 請求人が源泉所得税を納付できなかったのは、賃貸人が非居住者になったことを知り得ない事情があったからであり、過失が無いから、源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由があるとは認められず、通則法67条1項ただし書きに規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する。
原処分庁の理由
 請求人は、その支払の都度、本件賃貸人が居住者か非居住者かを確認する義務があると解されるところ、請求人は、単にその確認を怠ったものであると認められるから、「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。
裁決
 法令解釈 「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記の不納付加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
 あてはめ 不動産の賃貸借等において、賃借料の支払の都度、居住者・非居住者の別を確認することを義務付けた明文の規定はなく、また、本件賃貸借契約に係る取引のように、賃貸人との接触をほとんど必要としない取引についても、そのような煩雑な手続きを採ることが必要であるとするのは合理的でないというべきであるから、原処分庁の主張には理由が無い。請求人には「正当な理由」があると認められるから、本件各賦課決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
報告者の意見
 裁決に全面的に賛成である。平成19年の通則法の改正、不納付加算栄の不適用の整備、平成18年、平成24年の事務運営指針の改正等が影響していると思われる。
 かつて、信用金庫で翌月10日に納付(納付委託)したところ、納付日が11日の消印となっていたものに不納付加算税の賦課決定通知を受けたことがある。これに対しては口頭で異議を申し立てたところ、決定の取消しを受けたことがある。他の納税者との均衡が図られる限り、納税者の個別の事情を考慮して処分するのが望ましい。

 他に、次のような意見があった。
 不納付加算税は期限内に納付が無い場合は機械的に賦課されるのが当然とされていた。本件について、取り消しとなったことは従来の取扱いからは大きな変化と思われる。その背景には、報告者の見解のとおり、制度的な改正があったことが大きいと思われる。また、税務一般について納税者との協調が必要とされる状況から、個別事情に配慮した課税に向かいつつあるとも考えられる。
 なお、居住者か非居住者かの確認義務は支払者にあると考えるべきであろう。それは所得税法の趣旨からそのように解すべきと考えられるからである。そうすると、請求人には確認義務違反があることになり、責めに帰すべき事由があるようにも思われる。しかし、責めに帰すべき注意義務違反は、一般人が注意すれば避けられたであろう程度の注意を払わなかった場合に問われるべきであり、本件のように一般人であれば誰も解らなかったであろうような場合は、責めに帰すべきとはいえないであろう。その点で、正当な理由があるとすべきところ、注意義務が無いとして正当な理由があるとした点は、疑問が残る。


3 第51回研究会について
  平成26年6月16日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決(保証債務の履行とした事例)
   資産の譲渡代金の一部が保証債務の履行に充てられていなかったとして
も所得税法第64条第2項に規定する保証債務の特例が適用されるとした事
例(平成25年4月4日裁決 全部取消し 裁決事例集91)
  


第49回研究会
 
                         平成26年3月17日
         久留米税法楽修会第49回研究会

1 はじめに
 図子より、国税庁幹部の講演を聞いて感じたことを説明する。
 国税通則法の調査手続に関する規定が整備され、調査に係る事務量が増加した影響で、法人税、所得税の実地調査率が急低下した。今後も実調率の向上は望めず、納税者の協力度合いを勘案して調査対象を選ぶことが重視されることとなる。申告後の問題点の自主申告、事前の相談等を考慮して調査の頻度を考えることになる。また、制度として事前相談を法定化することも視野に入れている。関税では、優良法人制度が浸透しており、その法人の通関は無審査に近い扱いであるそうだが、そのような制度も考えられる。
 国税庁が、納税者との信頼関係に基づく調査体制をとることは望ましいことと考える。
 また、消費税が10%に引き上げられるとき、複数税率を導入することを現実の問題として捉えているように感じられた。

2 検討裁決
   資産の譲渡等の範囲(「事業として対価を得て行なわれる」の意義)
    (平成25年1月22日裁決 棄却 裁決事例集90)
 報告者 江上英介
 事実の概要
 本件は宗教法人である請求人が、その所有する会館を請求人の檀家以外の者に対し葬儀等の会場として利用させた金員を受領したことについて、収益事業(席貸業)に該当し、また、消費税上の課税資産の譲渡等に該当するなどとして、法人税の更正および消費税の決定処分等を行なったkとに対して、処分の取消しを請求するものである。
 請求人は、本件会館を檀家に利用させた場合、又は檀家以外の者に対し本件会館を利用させ葬儀等に請求人の僧侶が出仕(葬儀に出席して読経等を行なう。)した場合、受領した金員について、「布施収入」と記帳している。
 本件会館を請求人の僧侶が出仕しないで檀家以外の者に利用させた場合、受領した金員について、「会館収入」と記帳している。
 請求人は、次のように主張した。
 本件会館を檀家以外の者に対して利用させるに当たって、葬儀等に限っており、その場合も請求人の僧侶はつや終了後に施錠する際や翌日に開扉した際に、本件会館に安置されている遺体に対して線香を立てて合掌しているほか、会館利用量を対価性のない布施として受領しているのであるから、本件行為は請求人が本来の目的である公益事業として行なう活動の一環であることにほかならない。したがって、席貸業に該当せず収益事業に当たらない。
 裁決
 法人税法が、公益法人等の所得のうち収益事業から生じた所得についてのみ法人税を課することとしている趣旨は、公益法人等が一般私企業と競合する事業を行なう場合には、一般私企業に対する課税とのバランスまたは課税の公平を図ることにある。
 このような趣旨にかんがみ、宗教法人の行う事業が法人税法施行令5条1項各号に規定する事業に該当するか否かについては、当該事業に伴う財貨の移転が役務等の対価の支払として行なわれる性質のものか、それとも役務等の対価ではなく喜捨等の性格を有するものか、また、当該事業が宗教法人以外の一般的に行う事業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断するのが相当である。
 本件会館の利用については、本件行為が檀家以外の者に係るもので、かつ、当該事業に請求人の僧侶が出仕しない場合は、請求人が本件会館を当該者に利用させているにすぎず、また、本会館を当該者に利用させ、その対価として当該者から利用料を受領しているため、記者の性格を有するとはいえない。
 請求人は、本件各事業年度の全期間を通じて継続して本件会館を檀家以外のものに利用させているため、収益事業に当たる。また、利用料は喜捨ではなく対価であるので、資産の譲渡等に該当して消費税の課税対象となる。

 以上の裁決につき、一見、妥当な裁決に見えるが、疑問な点もある。
 裁決中下線部分は、最高裁平成20年9月12日判決ペット葬祭業事件の判示を踏襲するものであるが、疑問である。
公益法人等は、政令に限定列挙された特掲事業に限定して法人税が課される。それ以外の事業については非課税とされている。したがって、それ以外の事業については一般私企業と競合する場合は、一般私企業については課税であり、公益法人等については非課税である。一般私企業とのバランスは取らないのが法人税法の定めであり、それが公益法人税制である。バランスをとる事業と取らない事業の区分は、特掲事業に該当するか否かである。特掲事業に該当すれば課税のバランスがとられているのである。該当しなければバランスをとらないのである。その区別の基準に競合するか否かを取り上げることは、本末転倒である。
 そうであれば、この事業が政令5条1項14号の席貸業に該当するか否かを客観的に判断する必要がある。そして、席貸業からは、政令5条1項14号ロ(4)に「法人がその主たる目的とする業務に関連して行なう席貸業で、当該法人の会員その他これに準ずる者の用に供するためのもののうちその利用の対価の額が実費の範囲を超えないもの」と定めている。
 裁決は、これに該当するか否かを検討すべきである。
 檀家が利用する場合は席貸業とは判断していない理由は何か。会員と解しているのか。檀家以外の者が僧侶の出仕を伴って利用する場合は、会員の利用とするのか。檀家以外の者を会員又は会員に準ずるものとするなら、僧侶が出仕しない場合も会員に準ずることとならないか。費用は席貸業と判断しない場合と異なるのか。等を判断して、それらについて檀家以外の者が僧侶の出仕を伴わずに利用する場合のみ席貸業に該当する旨の理由付けが必要と考える。
 この点の審理が不十分であるとの見解が大勢であった。


3 第50回研究会について
  平成26年4月21日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決(不納付加算税)
   源泉所得税の納付が法定納期限後となったことについて真に納税者の責め
に帰することのできない客観的事情があったと認められるとした事例
(平成25年5月21日裁決 全部取消し 裁決事例集91)




第48回研究会について

                                   平成26年2月17日
 久留米税法楽修会第48回研究会

1 はじめに
 財務省幹部の平成26年度予算に関する講演について、図子より説明した。
 消費税の増税により、消費税が所得税を超える税収見込みであり、税収の中心は消費税になった。今後は10%への増税を実現することが課題であるが、その際、公明党の見解も入れて複数税率にすることを現実の問題と捉えているように感じた。平成27年度予算とも関連するので、10%への増税の可否と複数税率の導入は、今年の10月ごろに決める必要がある。 

2 検討裁決 
   遺留分義務者の相続税法32条3号の更正の請求が認められて事例
   (平成25年1月8日裁決 全部取消し 裁決事例集90)

  報告者 花等長一郎
  事案の概要
 本件は、請求人が譲渡担保に供していた土地について、遺留分権利者が遺留分減殺請求として提起した当該土地の登記変更請求訴訟において、譲渡担保権者が本件請求を認諾したことから、請求人が相続税法32条<更正の請求の特則>に該当するとしてした更正の請求に対して、更正すべき理由が無い旨の通知処分が行なわれたため、これの取消しを求めるものである。
 原処分庁は、これは相続税法32条1項4号の「遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと。」には該当しないとした。その理由は、登記により変更された部分の価額が遺留分より少ない可能性があることと、認諾したのは請求人ではなく譲渡担保権者であったことにあると思われる。
 裁決は、遺留分権利者が居有持分の10分の1を認めたものであり、請求人も遺留分割合が10分の1であると認めていたこと、現物変換が認められた場合は価額弁償は認められないと解されることから、遺留分権利者は本件認諾の日に本件土地について遺留分に相当する共有持分権を取り戻すことが確定し、これにより請求人が返還すべき又は弁償すべき額が確定したというべきであるとした。

 報告者は、遺留分権利者が現物返還を受けたは土地の価額は、遺産の10分の1の価額より低く、それゆえ原処分庁は額が確定していないと判断したと思われるが、遺留分権利者は価額弁償の請求訴訟から現物変換の請求訴訟に変更しているのであるから、共有持分の10分の1の現物返還で遺留分が確保されたと考えられ、すなわち返還すべき額が確定したといえるとする。また、この段階で更正の請求を認めなければ、何時更正の請求をできるか疑問であり、裁決は妥当であるとする。

 本裁決については、妥当とする見解が多かった。
 ただ、遺留分減殺請求権に基づく移転登記の請求において、登記名義人である所有者が認諾した場合は所有権そのものが移転し、返還額が確定したといえるとしても、本件では本来の所有権者でない譲渡担保権者が認諾したものであり、また登記は対抗要件に過ぎず登記の移転により所有権が移転するものではない。したがって、本来の所有権者はその回復を請求することが可能である。請求人がこの認諾に不満があるときはそれを確定したといえないであろう。原処分庁の
見解は、このような考えによるものであろう。
 しかし、請求人は遺留分減殺請求訴訟に訴訟参加していたようであり、また、自身でその登記を否定するつもりもなく、認諾を承認して更正の請求をしたものと思われるため、返還の額が確定したと考えるべきであろう。
 本件では、そのような事情も配慮して裁決されたものと考えられ、結論として妥当である。

3 第49回研究会について
  平成26年3月17日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム 
  検討裁決
   資産の譲渡等の範囲(「事業として対価を得て行なわれる」の意義)
    (平成25年1月22日裁決 棄却 裁決事例集90)


第47回研究会
                        
平成26年1月20日
           久留米税法楽修会第47回研究会 


1 はじめに 
 図子より次の発言
 久留米税法楽修会も設立後4年を経過し、50回研究会も近づいている。今まで研究会で取り上げてきたのは、主として取り消しとなった裁決である。そこには、従来の解釈または取扱いや事実認定のあり方が、国税庁内部で裁決の形で変更されたものがあるのではないか。裁決という目立たないところでの変更を見つけることが、この研究会の意義の一つになるのではないかと思い、そのような裁決を対象に研究してきた。今までの裁決の中で、従来はこのような結論にならなかったのではないかと思われる事案もいくつかあり、有意義な点もあった。しかし、一方で税法上重要と思われる判決も、この研究会では取り上げてこなかった。それらについては多くの判例研究会および専門誌上で解説されるからという理由であった。
 今まで、そのような方針で進めてきたが、もっとこの楽修会を有効に使うべきではないかとの考えもある。研究対象に限らず、第50回を期して新たな道を模索したい。楽修会の皆さんのご意見を50回を機に伺いたいので、ご検討をお願いする。

2 検討裁決
 青色申告承認取消し通知書の理由付記
(平成25年3月28日裁決 取消し 裁決事例集90巻)

報告者 坂口かおり  
 事案の概要
 本件は不動産事業を行なう法人が、犯則調査に基づく資料により青色申告を取り消したことに取消原因があるか否かが争われた。請求人は、仲介業者および売主、買主等から受領した中間金を売上に計上せず、これをそう勘定元帳からも除外していた。原処分庁はこの事実を掲げ、これが青色申告の取消しを定める所得税法127条に掲げる取消原因である隠ぺい、仮装または真実性を疑うに足りる相当な理由の存在に該当するとして、青色申告が取り消された。しかし、原処分庁はこの売上に記載されなかった中間金について、売上漏れとしての更正をしていない。
 本裁決は、売上に計上していないこと、そう勘定元帳に記載されていないことと127条に該当するとの理由を掲げるが、中間金がなぜ売上に該当するかの理由を示していないこと、また隠ぺい、仮装、真実性欠如のどれに該当するかも示しておらず、請求人は取消しの理由を了知できないとして、本件取消の理由は不備であるとして取消し処分を取り消した。
 報告者も、中間金が預り金としての性格を有するのが一般であり、そうであれば売上に計上しないことを取消原因とできないのではないかとして、本裁決を妥当とする。ただし、別の記載が必要だったかもしれない。
 本裁決からは、本事案の中間金の性質が明らかではないが、売上漏れとして更正していないところから売上漏れには該当しないものであろう。
 本件は、更正処分の理由付記ではないが、理由付記の考え方を推測させる裁決といえる。事実と適用条文を示すだけでは足りず、事実をどのように認識したのがk、それに対してどのように条文を解釈して適用したのかを示す必要があるといえよう。
3 第48回研究会について
 平成26年2月17日 月曜日 午後3時~5時
 場所 久留米大学御井学舎 学生会館第二ミーティングルーム
 検討裁決
 遺留分権利者が遺留分減殺を原因とする土地の共有持分移転登記請求訴訟によって同土地の共有持分を取り戻したことは、遺留分義務者の相続税法32条3号の更正の請求事由に当たるとした事例
(平成25年1月8日裁決 全部取消し 裁決事例集90
)         





第46回研究会

                        平成25年12月16日
         久留米税法楽修会第46回研究会

1 はじめに


2  検討裁決
   相当の地代を収受している貸宅地の価額の20%相当額は、土地保有特定
会社を判定する際の「土地等の価額」に含まれるとした事例(この点につ
いては、原処分維持)
  (平成24年10月9日裁決 一部取消し・全部取消し 裁決事例集89巻)
  報告者 徳永幸一
事実の概要
 相続財産である取引相場のない株式の評価について、財産評価基本通達によれば土地保有特定会社に該当しない場合は類似業種比準価額によるが、土地保有特定会社であれば純資産価額により評価されることとなる。土地保有特定会社は
総資産価額に占める「土地等の価額」が70%以上の会社である。
 その「土地等の価額」に次のものが含まれるか否かが争点である。
 この会社は被相続人所有の土地を賃借しており、相当の地代を払い無償返還の届けを提出している。この場合、会社の借地権の価額は、0円と評価される(昭和60年6月5日課資2-58(例規)直評9「相当の地代通達」3)。一方被相続財産である貸宅地の評価は「自用地としての価額から、その価額の20%に相当する金額(借地権の価額)を控除した金額により、評価することとされたい。」と定め、そして、この借地権の価額は、被相続人所有の株式会社の株式の評価上、同社の純資産価額に算入することとされたいと定める(昭和43年10月28日直資3-22他「貸宅地通達」)。
 すなわち、相当の地代通達は借地権を0円とし、貸宅地通達は借地権の慣行のない場合と同様に20%減額するとしている。そして、それを借地権の価額としているのである。
 請求人は、この矛盾をついて、土地保有特定会社の判定については借地権を0で評価すべきであると主張している。
裁決
 裁決は、この20%相当額を借地権の価額以外と解することはできないとして、土地等の価額に算入すべきとした。
 国税不服審判所のホームページの裁決事例の紹介では、これを土地等の価額に含む旨の裁決は初めてであるとしている。
意見
 審判所のホームページで初めての判断としていることは、一定の決断をもって行なった判断と思われる。その判断が正しいか否かは特に借地権慣行の無い場合と比較して考えるべきであろう。借地権慣行のない場合も貸宅地で自用地から控除される20%を借地権として株の評価について資産に含めることはなく、特定土地保有会社の判定で土地等の含まれることも無いであろう。そうすると、20%は必ずしも借地権の価額とはいえない。
 相当の地代を支払っている場合に借地権の認定課税をしないのは法人税の問題で、フローの問題である。相続税での資産の評価はストックの問題であり、整合しない点があり得る。本件もそのような不整合をつく事案と思われる。
 貸宅地通達は、株式の評価について資産に算入すべきことを求めているが、それ以外の場合には触れていない。したがって、特定土地保有会社の判断基準としての土地等に含めることは、通達上は定められておらず、請求人の主張は一定の根拠がある。
 本件の裁決も権利金の授受の慣行のある地域での問題であり、それを前提に判断している。借地権の慣行のない場合でも貸宅地については自用地の20%減額が定められている。これは、借地権の価額というより貸宅地は家屋が存在することによる事情減額といえるものである。貸宅地通達の20%も同様の意味を有するとの解釈が可能である。ただ、権利金慣行地区では、権利金の価額自体はあるので通達上権利金の価額としたものであろう。したがって、権利金慣行のない地域で、20%を土地等に含めることはないと考える。

 なお、今年の久留米大学大学院の修士論文で税田大輔氏が「借地権の課税関係の明確化」との研究をまとめた。これは、借地権課税について、権利金の慣行のある東京都および大阪の一部を第一地域、権利金授受の慣行はないが借地権の慣行がある多くの都市部を第二地域、権利金の慣行のない郡部を第三地域と区分して課税関係を明確にするものである。
 従来の権利金に関する議論は、第一地域を念頭に置くものが多く第二地域の住人にとっては必ずしも明確でなかったし、不必要に相当の地代を支払ったり無償返還の届出をしたりしていた。しかし、相当の地代等は第一地域のみで意味があるものであり、第二地域では税負担を増加させる恐れもある。次回までに、その論文が久留米大学法学69号に掲載されるので、第47回研究会で配布したい。

 会員が関わる借地権に関する現実の事案について、疑問点を全員で討議した。


3 第47回研究会について
  平成26年1月20日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第1ミーティングルーム
  検討裁決
   青色申告承認取消通知書の理由付記
  (平成25年3月28日裁決 取消し 裁決事例集90巻)


  
第45回研究会
                        平成25年11月18日 
             久留米税法楽修会第45回研究会
1 はじめに 
 11月9日の日本税法学会九州地区研究会における水野武夫教授の報告について、概要を伝える。
 課税処分の違法に基づく国家賠償請求について、認められることは最高裁判決もあり妥当と考えられるが、国家賠償請求が裁判で認められるか否かについては、質問したが可能との見解であった。国が、過失と違法を認めれば可能かもしれないが、安易な自認は租税法律主義に反する可能性もあると考える。
2 検討裁決
 外注費につき請求人の費用計上に取引先との通謀や水増しがなく、過大に計上されていないとした事例
 (平成24年11月5日裁決 一部取消し・全部取消し 裁決事例集89巻)
 報告者 塩塚万紀子
事実の概要
 請求人が支払った運搬費について、現実に行われていない作業費が過大に請求されていたが、これは請求人の輸送に係る部門総括責任者と運送会社の担当者が通謀して行われたものとして、原処分庁が運搬費の過大計上として法人税および消費税の更正処分を行ったものである。
 争点
 請求人の総括責任者と運送会社の担当者が通謀していたか否か。また、明らかな二重計上分がある事業年度に遡及して更正できる期間制限7年の要件である偽り不正の行為により税額を免れたと認められるか。
 裁決
 裁決は通謀の事実認定について、原処分庁は運送会社の担当者の証言のみにより通謀を認定しているが、総括責任者が運送会社の担当者から金員を受領していたとの事実は証明できず、請求人の他部門の運送についても過大請求が行われていることから、運送会社の担当者の証言は信用できないとして、通謀の事実を認定できないとした。これにより、請求人が、故意に本件各運搬費が適正な運搬費を超える過大な金額を計上したと認める証拠はなく、本件各運搬費を過大に計上したものとは認められない。したがって、通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為があると認めることができない。
 意見
 通謀の事実が証明できない以上、過大請求の認識があったといえず、処分を取り消した裁決を妥当とするのは、報告者も他のメンバーも異論はなかった。
 ただ、通謀があったとした場合に、過大請求として課税できるか否かについては疑問が呈された。原処分庁も審判所も通謀があった場合は、総括責任者は会社と同視できるので過大計上として否認できるとの見解のようである。しかし、水増しされた請求であっても、それで運送契約を締結し現実に支払っている場合、過大計上と否認できるのか。その水増し分が会社にバックされていれば当然否認できるであろうが、バックされていない場合否認することが妥当かは疑問であるとの見解である。
 一応、現在は従業員の横領の場合には課税するとの考えであり、通謀があれば審判所も棄却したであろうという意見が大勢であった。
 
3 第46回研究会について
 平成25年12月16日 月曜日 午後3時~5時
 場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
 検討裁決
  相当の地代を収受している貸宅地の価額の20%相当額は、土地保有特定会社を判定する際の「土地等の価額」に含まれるとした事例(この点については原処分維持)
  (平成24年10月9日裁決 一部取消し・全部取消し 裁決事例集89巻)
  土地保有特定会社の該当性を中心に検討




第44回研究会

                        平成25年10月21日
         久留米税法楽修会第44回研究会

1 はじめに



2 検討裁決
   勤務先の株式報酬制度に基づいて支給された株式に係る給与所得の収入
すべき日は、当該報酬制度による株式を無償で取得する権利(アワード)
に係る株式が口座に入庫された日が相当とした事例
   (平成24年7月24日裁決 一部取消し 裁決事例集88)
  報告者 黒岩延
事実の概要
 本件は、請求人の勤務先の企業グループの株式報酬制度により勤務先の親会社の株式を取得した利益に対する更正処分を争うものである。請求人は、米国のK銀行グループの日本法人H社に勤務した後、同グループの米国J証券に勤務し、平成17年3月31日に退職した。Kグループの株式報酬制度では、制度の対象となる被付与者にK株と同価値のノーショナルK株式がアワードとして付与される。付与日からベスト日までは一定の事由によりアワードが取り消されることがある。ベスト後はアワードに付されていた全ての制限は解除される。ベスト日以後、制度の運営者はその裁量によりノーショナルK株1にたいしてK株1を被付与者が開設し運営者が承認した口座に移転するか、同価値の金銭の交付を行う。制度の運営者は、K銀行の役員会で指名した者によるコミッティの裁量によりL社となっている。
 本件では、請求人はKグループの発展に寄与する可能性があることと、平成14年の業績に対する報酬として平成15年2月1日にアワードを付与された。このアワードのベスト日は、請求人がJ証券を退職した平成17年3月31日の後の平成19年8月1日であり、同月17日に請求人のシンガポールの証券口座にK株が振り込まれた。給付に係る負担はH社、J社に内部的に負担される。
争点
 争点は、①本件所得は、更正処分の認定した給与所得か請求人の主張する一時所得か、②収入すべき日は、ベスト日か株式入庫日か(外貨の換算レートが異なる。)、③源泉徴収されるべき所得税の額はあるか、④外国税額控除について確定申告書に記載および添付書類がないが、これに宥恕規定の「やむを得ない事情」があるか。
裁決
 裁決は、②についてベスト日とした更正処分を取り消して入庫日として一部取り消した他は、請求人の主張を棄却した。
 ①については、この報酬をK銀行からの給付とし、給与を雇用又はこれに類する原因に基づくとの判決(S56・4・24最判)、およびストックオプション判決(H17,1,25最判)が、グループ企業内での雇用を広く給与所得に認めた点から、本件も給与所得としたと思われる。
意見
しかし、報告者は、制度の運営責任はLにあるとしても、これが給与であれば、現実の勤務先であるH社およびJ社からの給付ではないかと疑問を提起した。そうであれば、H社に源泉徴収義務が発生することとなる。その場合、現実に源泉徴収がされていなかった場合にも、源泉徴収すべき税額を算出税額から控除することができ、税額の大幅な減額をもたらすと思われる。
 その他、これが退職後にベストされている点から、退職所得になる可能性があるのではないかとの見解もあった。制度の内容を定める「K Bank Restricted Equity Units Plan/Plan Documentation」の詳細が不明であるので、確定的なことは言えないが、検討の余地がある裁決ではないかと考える。
 なお、④については、猶予規定についての税法改正があったことから、現行法の下では修正申告又は更正の請求により外国税額控除が認められる余地があると考える。
 

3 第45回研究会について
  平成25年11月18日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決
   外注費(請求人の費用計上に取引先との通謀や水増しがなく、過大に計上
されていないとした事例)
  (平成24年11月5日裁決 一部取消し・全部取消し 裁決事例集89巻)
    





43回研究会
                        平成25年9月9日
         久留米税法楽修会第43回研究会

1 はじめに
 今回の検討裁決の選定理由についての説明を中心に、近況を話した。


2 検討裁決 
  請求人が取得した賃貸用建物は課税期間内に引き渡しを受けているから消費税の仕入税額控除を認めるべきである とした事例
  平成24年7月24日裁決 全部取消し 裁決事例集88
  報告者 國友武
 報告の概要
 本件は、審査請求人が工事請負契約に基づいて取得した賃貸用建物が課税期間内に引き渡しを受けたものか、それに付随して消費税の仕入税額控除が認められるか否かの判断が争われた事案である。
 原処分庁は、課税期間後の平成20年5月31日に工事監理者が本件建物の内装工事を確認し、同年6月6日にN社がエアコン設備を売上に計上し、また、実際に本件建物の完了検査が行われたのが同年7月2日であったことから、同建物が引き渡されたのは課税期間後と判断して、仕入税額控除を否認した。
 審判所は、課税期間内に、建物の所有権保存登記が完了していることおよび工事代金が全額支払われていることから、課税期間内に引き渡しがあったと認定して、課税処分を取り消した。
 報告者は、請負契約に関する課税仕入れの時期についての、過去の判例、裁決を紹介し、過去の事例では引渡の時期を比較的厳格に解釈した課税処分を認める結論になっているが、本件は「若干の工事が残存して未完成であったとしても、工事が当該課税期間内に完成し引渡しがあったものと同視できる場合には、特段の事情のない限り、当該課税期間内に課税資産の譲渡(課税資産の譲受け)があったとみるのが相当である。」と緩やかに解して課税処分を取り消したが、この結論をおおむね妥当とした。
 本件の事業年度は、開始事業年度でありこの課税期間に課税売上は発生していないと考えられる。したがって、本課税期間の課税仕入れであれば建築代金全額について税額控除が認められる。翌課税期間では非課税売上が発生し、非課税売上割合の課税仕入れ分が税額控除されないこととなる。このため、急いで引渡しをうけたものであろうというのが、全員の認識である。
 消費税法基本通達では、課税仕入れを行った日を原則として資産の譲渡等の時期の取扱いに準じるとしている(11-3-1)。請負による資産の譲渡等の時期は、物の引き渡しを要する請負契約については「目的物の全部を完成して相手側に引き渡した日」と定める(9-1-5)。
 本裁決は、登記および代金支払いを重視して、未完成であったとしても引渡しがあったと同視できるとするが、通達では全部を完成して引き渡すと定め、登記および代金支払いを引き渡しの要因として挙げていない。その点から、通達に反する裁決とも考えられるとの意見もあった。しかし、一部未完成で一定の了解の下に引き渡すことも現実には見られることであり、そのような場合を引き渡しから排除するのは法の意図するところとは考えられない。したがって、本裁決は法解釈としては正当と考えられ、今後の請負についての引渡基準として先例になると考えられる。


3 第44回研究会について
  平成25年10月21日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決
   勤務先の株式報酬制度に基づいて支給された株式に係る給与所得の収入
すべき日は、当該報酬制度による株式を無償で取得する権利(アワード)
に係る株式が口座に入庫された日が相当とした事例
      平成24年7月24日裁決 一部取消し 裁決事例集88


42回研究会
                       平成25年8月19日
         久留米税法楽修会第42回研究会

1 はじめに

2 検討裁決
 航空機リース事業等を目的とする民法上の組合の精算に当たり、融資銀行からの借入金の残債務の変換責任が消滅したことによる消滅益は雑所得に、また、業務執行者に対する手数料の支払免除益は不動産所得に該当するとした事例
 (平成24年3月21日裁決 棄却 裁決事例集86巻)
報告者 江上英介

 事案の概要
 本件は、航空機リース事業等を目的とする民法上の組合の組合員であった請求人が、当該組合の清算に当たり、航空機購入資金の原資となった融資銀行からの借入金に係る残債務のうち航空機売却代金をもって返済しても不足する額についての返済責任が、当該融資銀行との契約により消滅したことによる消滅益、および当該組合の業務執行者に対して支払うべき未払いの管理手数料の全額についての支払を免除されたことによる免除益を、いずれも一時所得として確定申告したのに対し、原処分庁が当該消滅益はいずれも雑所得に該当するとして所得税の更正をした事案である。
 これに対して、請求人は、債務免除益および管理手数料免除益は、対価ではなく、一回限りで生じたものであり、一時所得であるとして審査請求を行ったものである。
 本裁決は、債務消滅益を雑所得とし、手数料免除益を不動産所得とし認定し、結果的に課税処分と同額であるとして請求を棄却した。その理由は、債務消滅益は航空機の本件ローン契約のノンリコースローンに係る規定により生じたもので、不動産貸付け業に付随したものではなく、不動産所得に該当せず、また、本件ローン契約は貸し付ける航空機を取得するためのもので、ノンリコースローンは継続的な業務を行う前提とされるものであり、営利を目的とする継続的行為から生じたものであり、一時所得にも該当せず、雑所得と認定した。手数料免除益は、不動産所得の必要経費に係る免除であり、不動産所得と認定した。これにより、ニ分の一課税の一時所得が否定され、結果的に税額は妥当とされた。
 ノンリコースローンの扱いについては、先行の事例を承知しないので、この裁決が一つの方向を示したと考える。
 しかし、ノンリコースローンの認定について、不動産所得に該当しないとする理由として業務に付随するものではないとし、一方、一時所得に該当しないとする理由について、航空機貸付業の前提としてのローン契約であるとする。前提とする契約が業務に付随しないという論理は疑問である。請求人は、組合が課税についてパススルーの存在であることから、単なる一個人の債務免除として一時所得を主張するが、この主張にも疑問がある。
 民法上の組合は、「組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。」(民法667条)と定められているのであり、組合に依る収益は全て事業所得と解するべきである。不動産所得に該当する場合もあり得るが、法律上の組合契約を無視することは許されず、航空機リースのような場合は組合契約を媒介することにより、事業所得となると解すべであろう。この場合、事業たる不動産所得と事業所得を区分する実益はないものと考える。


3 第43回研究会について
  検討裁決
  請求人が取得した賃貸用建物は課税期間内に引き渡しを受けているから消費税の仕入税額控除を認めるべきである とした事例
  平成24年7月24日裁決 全部取消し 裁決事例集88


41回研究会
                        平成25年7月22日
         久留米税法楽修会第41回研究会

1 はじめに
 次回8月19日の楽修会は、図子が欠席の予定であるので、関本教授にコーディネーターをお願いすること、また、次回検討裁決はそのような事情で関本教授に選定していただいている旨、伝える。

2 検討裁決 
   競馬の勝馬投票券の的中によって得た払戻金に係る所得は、一時所得に該当し、営利を目的とする継続的行為から生じた所得には該当しないとした事例 (平成24年6月27日裁決 棄却 裁決事例集87巻)
  報告者 花等長一郎

事案の概要
 請求人は、中央競馬会のA-PAT方式により継続的に毎週競馬の馬券を購入し高確率で馬券を的中させ払戻金を得ている。この所得が一時所得か否かが問題である。一時所得であれば、当たり馬券の購入費に限り収入金額から控除できるのに対し、それ以外の雑所得等であればはずれ馬券の購入費も必要経費として収入金額から控除することができる。請求人は雑所得として申告したが、一時所得として更正を受けたものである。
 原処分庁の主張は、馬券の購入行為と競争結果は相関関係がなく、払戻金は、臨時的不規則なものであり、所得の基礎に源泉性を認めるに足る継続性、恒常性を有していないと言うものである。請求人は、過去6年にわたり収益の黒字を確保しており、本件行為は「営利を目的とした継続的行為」であり、雑所得に該当すると主張した。
裁決
 馬券の購入と着順に因果関係はなく、所得の源泉性を認めるに足りる継続性、恒常性を認めることはできない。たとえ馬券を継続的に購入したとしても、馬券を購入する行為から得た所得が所得源泉を有する所得とは認められない。営利を目的とする継続的行為に該当するか否かは、性質に基づき判断すべきものであって、馬券を購入する行為の連続性、長期性や的中率の向上があったとしても、所得源泉性を有しないという性質が変化するものでもない。したがって、本件所得は一時所得となる。

報告者の見解は、裁決反対であった。
 一般的な競馬による所得は一時所得であるが、請求人の場合は、その回数、金額が多く、その購入態様も機械的、網羅的なものであり、かつ、過去の競馬データの詳細な分析結果等に基づく、利益を得ることに特化したものであり、娯楽の域を出ている。以上によると、請求人の馬券購入行為は、一連の行為としてみれば恒常的に所得を生じさせるものであって、所得が質的に変化して源泉性を認めるに足る継続性、恒常性を獲得したといえる。したがって、雑所得に該当すると考える。

 事案は異なり、脱税事件について、マスコミをにぎわせた平成25年5月23日の大阪地裁事件がある。脱税額の計算について、一時所得として払戻金から当たり馬券の購入費を控除するか、雑所得として購入馬券の全てを控除するかが争われたが、裁判所はその事例に関しては雑所得と判断している。
 この判決では、一時所得を所得源泉を有しない一時の所得を一時所得とし、所得源泉性を認めるか否かについては、当該所得の基礎に源泉性を認めるに足りる程度の継続性、恒常性があるか否かが基準となるとする。そして、この事案については、金額の多額、態様の網羅性等から所得源泉性をそなえていると判断している。
 本裁決は、連続性等があったとしても、所得源泉性を有しないとの性質は変化しないとするのと、本判決は異なっている。この判決については、控訴されているので国がわわ所得源泉性不変化の主張をすると考えられ、控訴審の判決が興味深い。
 なお、次の意見もあった。
 、現在の所得概念は、所得源泉説によることなく純資産増加説により構築されている。所得源泉説による分類所得税の時代には、一時所得も譲渡所得も課税所得とはされていなかった。そのような所得が2分の1課税となっているのは事実であるが、その論拠に所得源泉説を持ち出すことは疑問であり、現在では「営利を目的とした継続的行為」に該当するか否かを検討すれば足りる。所得源泉性が無いものが一時所得であるとの法文上の根拠はない。

「馬券裁判関係参考資料」
 今回の研究会で特に興味深かったのは、関本教授による自作「馬券裁判関係参考資料」の説明である。ここに資料の(概要)部分を記載する。
(概要)
 1着の競走馬のみに投票する『単勝」制の投票方式では、どのような組合せで馬券を購入しても、主に全体的な還元率が75%~80%であることから、払戻金の期待値を購入金額以上にすることはできないことを実際に単勝のオッズ例に基づいて示す(別表1)。また、単勝制の買い目の得票率と勝率の間には、一定の得票率の範囲内で、比例的な関係が認められることを実績値に基づいて示す(別表2)。
 一方、1着と2着の競走馬を一緒に投票する「馬単」制の投票方式では、特定の1着・2着の組合せ(買い目)において払戻金の期待値が購入金額を超える場合があり得る。このことを実際の馬単制のオッズ例に基づいて具体的にしめす(別表3)とともに、確実度の高い馬券を選択的に購入する方法(別表4)と確実に払戻金を得るために多数の買い目を悉皆的に組み合わせて購入する方法(別表5)を紹介する。
 なお、上記のように払戻金の期待値が購入金額を超える場合があり得る理由としては、馬単制の場合、単勝制の場合と異なり、特定の買い目に対する人気(得票率)と実際に当該買い目が的中する確率(1着確率と2着確率の合成確率)との間にズレがあるためであると想定される。仮にそうであれば、1着から3着までの競走馬を一緒に投票する「3連単」制の投票の場合には、買い目の組合せ数が飛躍的に増加するため、当該ズレが更に激しくなる傾向があるものと予想される。したがって、3連単制における特定の買い目の払戻金の期待値は、馬単制の場合より更に大きくなる可能性がある。

3 第42回研究会について
  平成25年8月19日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決
 航空機リース事業等を目的とする民法上の組合の精算に当たり、融資銀行か
らの借入金の残債務の変換責任が消滅したことによる消滅益は雑所得に、ま
た、業務執行者に対する手数料の支払免除益は不動産所得に該当するとした
事例 (平成24年3月21日裁決 棄却 裁決事例集86巻)



40回研究会
 
                        平成25年6月17日
         久留米税法楽修会第40回研究会

1 はじめに
 神奈川県臨時企業税条例を違法とした最高裁判決(平成25年3月21日第一小法廷判決)を受けて、税誌において特集を組むこととなり、図子が判例評釈の依頼を受けた。詳細は税誌7月号に掲載の予定であるが、判例には事業税の課税客体を所得と解する誤りがあり、特例企業税条例は立法府の裁量の範囲内であったと考える旨報告した。
 なお、神奈川県は判決後直ちに10年間遡って全額還付するとともに、還付加算金を支払っているが、還付金の消滅時効は5年であり、この返済については問題がある。返済について、予算を必要とし議会の全会派の賛成により同意を得ているが、一部議員からは問題視する意見があり、意見を求めてきたので所見を述べた旨説明した。

2 検討裁決 
   関連法人が支払った請求人の事業所得に係る経費に相当する額については
請求人が役員として経済的な利益を享受したと認めることはできないと
した事例
       (平成24年6月26日裁決 全部取消 裁決事例集87) 
  報告者 平岡孝介
事案の内容
 請求人は公認会計士であるとともにコンビニエンスストアーe店の経営を行っており、同族関係の法人FとGの代表者でもある。F社、G社は、e店の経費(店長の給与と車両関係費用)を支出し、支出額から仮払い消費税を控除した金額を損金に算入していた。原処分庁は、この経費は請求人が支払うべきものであり、役員たる地位によりF社、G社から受けた経済的利益で請求人の給与所得であるとして、請求人の所得税の更正処分を行った。
 F社は、e店のフランチャイズ先から請求人あてに毎月払いこまれるオーナー利益および店員給与の受け入れ口座を有し、仮受金とし、その借受金からe店の経費を支出していた。平成19年12月期および平成20年12月期には、車両関係費をG社の短期借入金と相殺し、店長に係る給与を損金に算入していた。
裁決
 F社の経費の支払は、請求人が行うコンビニ事業に対するF社の立替金とみるのが相当であり、全てのコンビニ事業の損益が請求人に帰属するのであるから、本件経費についてのみ請求人が経済的利益を享受したとは認められない。更正処分は全部を取り消すべきである。

 報告者は、確かに経費の支払が立替金であることは理解できるが、F社が振り替え処理をして損金に算入したということは、F社が請求人の債務を免除したという意思表示になるのではないか。そうであれば、請求人に対する経済的利益の供与になるのではないか。

 フランチャイズ契約の内容にもよるが、F社はコンビニ事業の収支を受け皿の役割を果たしていたように思われる。本件では、コンビニ事業に関する事業所得の経理について審理はされていないが、事業所得の計算において当該経費が必要経費に算入されていたとすれば、経済的利益の供与を認めるべきではないか。などフランチャイズの態様等について意見が交わされた。

3 第41回研究会について
  平成25年7月22日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 競馬の勝馬投票券の的中によって得た払戻金に係る所得は、一時所得に該当し、営利を目的とする継続的行為から生じた所得には該当しないとした事例
       (平成24年6月27日裁決 棄却 裁決事例集87巻)
       


                        平成25年4月15日
         久留米税法楽修会第39回研究会
1 はじめに
 税法慨論十訂版を配布。内容の変更部分は、税法改正による部分がほとんどであるが、最初の財政の現状の説明において、財政の意義を国民生活とより関係づけて説明し直した旨説明した。その理由は、慶応大学准教授の井手英策氏の「日本財政 転換の指針」岩波新書に感銘を受けたからである。井手氏は、久留米市の生まれとのことであり、親しみを感じる。
 その他、今後の日程を決めた。
 6月17日、7月22日(例会後暑気払い)、8月19日、9月9日、10月21日、11月18日、12月16日(例会後忘年会)

2 検討裁決 
   固定資産税課税台帳に基づく価額が登録免許税法10条1項の価額(時価
   を超えているとした事例
   (平成24年1月24日裁決 全部取消 裁決事例集86 事例22)    
  報告者 藤岡廣子  
事案の概要
 登録免許税の課税標準額が実測面積を超える地積で計算されていたとして行った還付請求に対して、原処分庁である○○地方法務局登記官が還付理由がないとした処分に対し請求人が取消をもとめたもの。
 
 登録免許税法10条1項は、課税標準たる不動産の価額は、登記の時の不動産の価額と定め、同法附則7条は、課税標準たる価額は当分の間、地方税法の定める固定資産台帳に定める価額とすると定める。

 請求人は、固定資産課税台帳価格の台帳地積から産出される1㎡当たりの価格を実測面積に乗ずるべきであると主張した。

 裁決
 台帳価格が時価を表していないときは他の方法を採用できるとし、競売の評価額(本件売買は競売による)を基礎にした価額、審判所による取引事例からの価額を算定し、時価をこの範囲内とした。台帳価額は、これを超えているので課税標準とすべきでなく、請求人の主張による価額が負担の公平に適しているとして処分を取り消した。
 この正当税額を超える納付額は、誤納金となる。

報告者意見
 現実的な解決法として妥当といえる。しかしながら、競売価格をもって時価と解釈することには抵抗を覚える。なぜなら、競売評価にあっては、特殊市場であり、かつ早期の売却が要請されるため、それなりの減価がなされ、通常言うところの時価よりも低額に算出されることが一般的であるからである。このような検討はなされているのであろうか。

全会員も、判決を是とする意見であった。
 なお、次の意見があった。 
 競売による購入者は、競売時に実測をしたか否かの疑問はあるが、登記時に実面積を把握していたとしても、登録免許税を納付しなければ登記できない手続なので、このような争い方しかできないと思われる。
 登記官は、法令に定める手続をしたのであり、また、台帳価額への審査申し出は地方税法で限定されているので登記官が、自分の判断で変更することはできない。このような場合、従来も本裁決のように独自に時価を評価して処分を取り消していたか否か疑問である。この裁決は、近年の評価通達の弾力的解釈の傾向に沿うものかもしれない。今後もこのような方針で運営されるだろうから、実測値との相違がある場合は積極的に還付請求を行うべきである。
 縄のびの問題は現実に多く、取引時点では境界が明確でなく実面積の把握が難しい。また、地番の1番の土地は、分筆した残りの土地であることが多く、分筆部分の土地は実測で面積が明確にされ、残りの土地は分筆前の公簿面積から分筆部分の実測値を差し引いた面積で表記されることが多い。そうすると、公簿面積と実測面積のずれが大きい可能性があるので、注意が必要であるとの報告者の専門からの指摘があった。

3 第40回研究会について
  平成25年6月17日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 関連法人が支払った請求人の事業所得に係る経費に相当する額については請求人が役員として経済的な利益を享受したと認めることはできないとした事例
       (平成24年6月26日裁決 全部取消 裁決事例集87) 




                        平成25年3月18日
         久留米税法楽修会第38回研究会

1 はじめに
 最初に今後の楽修会の年内の日程を定めた。4月15日、5月休会、6月17日、7月22日(暑気払会)、8月19日、9月9日、10月21日、11月18日、12月16日(忘年会)なお、都合により変更があり得る。
 図子より財務省幹部の講演会の概要を報告した。24年度補正予算は景気対策形、25年度予算は財政健全化型で公債発行額は昨年度より減少したとの説明であったが、年金特例公債は消費税増税までのつなぎ国債であるので、公債金から除いている。また、国債の発行(借換債を含む発行ベース)は170兆円と昨年度より減少する。また、国債消化の状況は当面不安はない。引き受け団との連絡は極めて緊密である。さらに、外国の国債保有者は不明であるが、ヘッジファンド等が主体となっているとは言えず、中国等の政府の保有が多いと考えられる。
 その後、関本教授余より、消費税の課税標準の循環的定義について、前回の消費税議論を補完する説明が行われた。課税標準の規定の不確実さが、単一税率では表面化しにくいが複数税率になった場合に問題化するとの指摘があった。複数税率の難点が一つ増えたといえよう。
 
2 検討裁決 
  建物転貸者に建物明け渡しに際して補償金として支払われた金員を、一部不
動産所得、一部一時所得とした事例
     (平成24年3月21日裁決 一部取消 全部取消 裁決事例集86 事例9)    
  報告者 野口廣

 本件は、建物の一部を賃借し転貸を行っていた請求人が、明渡しに際して建物所有者のJ社から受領した金員について、一時所得として所得税の申告をしたところ、原処分庁が不動産所得の総収入金額に算入すべきとして更正処分を行ったものである。請求人は転貸先のM社の代表取締役であり、M社はそこで焼き鳥屋を経営している。J社は1億6000万円を支払い、請求人はM社に1億3628万円を支払っている。
 請求人は、本件金員は単なる明渡し料または協力金であり、継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であり、一時所得に該当するとし、仮にM者に支払った金員について不動産所得の総収入金額になるとしても、差額は一時所得であると主張した。原処分庁は、支払金員に相当する部分は立退き料という必要経費に対応する部分で、差額部分は業務収益の補償金として不動産所得の総収入金額となると主張した。
 裁決は、請求人の補足的主張の差額部分を一時所得と認定し、処分を一部取り消した。
 報告者は、不動産所得とは不動産の貸付けによる所得であり、本来賃料収入を意味することを考えると、本件金員は全額一時所得の論理もあり得るが、通達は立退き料を不動産所得の必要経費とし、その必要経費を補填するための金額はその業務の総収入金額に算入されるとする通達(所基通34-1 7号注)を是とすると、本裁決は正当とした。
 
 意見として、本件については譲渡所得の可能性があるが、そうでない旨の説明がされていない。やや弁論主義的な審理となっている観があるとの指摘があった。
 その他、立退き料として支払われたものを、不動産所得と一時所得に分割する処理方法は珍しく、これが許されるなら他にもこの手法により解決できる者があるかもしれないこと、転貸に伴い取得する金員は継続的行為から生ずるものではないかとの疑問、営業補償ではないかとの疑問が提起された。
 なお、審判所の判断には、原処分側から争う手段はない。その意味で審判所の審判は正に原処分の見直しであり、従って国税審判所ではなく、国税不服審判所と名付けられている。

3 第39回研究会について
  平成25年4月15日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 
  検討裁決 固定資産税課税台帳に基づく価額が登録免許税法10条1項の価額(時価)を超えているとした事例
       (平成24年1月24日裁決 全部取消 裁決事例集86 事例22) 



                        平成25年2月18日
         久留米税法楽修会第37回研究会
1 はじめに
 今年の税制改正については、政権交代による作業の遅れで、税制改正大綱は1月に閣議決定されたが、例年であれば既に国会に上程されている改正法案がまだ決定していない。現在、図子は税法慨論の改訂作業を行っているが、改正法の国会提出が遅れれば、法案を確認せずに原稿を作成し、校正段階で確認することとなりそうである。しかし、法案自体は年度内に成立するのではないかと思われる。

2 検討裁決 
  課税仕入れ等の範囲
    (平成23年12月13日裁決 一部取消 裁決事例集85 事例17)   
  報告者 江上英介

 本件は、請求人が軽油の購入額の全額を消費税の課税仕入れに係る支払対価の額として確定申告をしたところ、原処分庁が、同購入額のうち軽油引取税の名目での支払額は課税仕入れの支払対価の額に含まれないとして更正処分を行ったものである。
 請求人の仕入れ先F社の請求書には軽油販売の合計金額の商品計と軽油税計・消費税計の記載がある。同G社の請求書には、軽油販売の合計金額を軽油に、軽油引取税額を軽油引取税に軽油以外の商品に対する消費税を消費税に記載している。
 裁決
 納税義務者の租税の支払は、課税仕入れの支払対価の額には該当しない。地方税法144条の2第12号は、軽油引取税の納税義務者を特約業者又は元売り業者から軽油を引き取る者と定め、特約業者及び元売り業者を特別徴収義務者としている。そうすると特約業者又は元売り業者から軽油を引き取る者が特約業者又は元売り業者に支払う軽油引取税は特約業者等が納税義務者から預かった租税であり、軽油の対価ではない。
 F社は、特約業者であり、特別徴収義務者の指定を受けている。G社は、特別徴収義務者の指定を受けておらず、特約業者等との間に委託販売契約があるわけでもない。
 したがって、G社からの課税仕入れについては軽油引取税を含めて課税仕入れの支払対価の額に算入できる。これをできないとした原処分はこの額について一部取り消されるベきである。

 審判所の判断は妥当とするのが報告者および出席者の意見であった。ただ、裁決は、特約業者および元売り業者の他に、これらの者との間に委託販売契約がある者に対する軽油引取税も租税とする。委託販売業者も特別徴収の指定を受けていると思われるが、G社を委託販売業者ではないとする理由に指定がないことを挙げていない。契約の不存在を認定したと思われるが、購入者にとっては委託販売業者であるか否かは不明である。
 以上の状況から、軽油引取税に関する仕入税額控除の関係については、誤った処理をしている例が結構あるのではないか。実務処理に当たっては、今後注意を要するとするのが、本研究会の認識であった。
 
3 第38回研究会について
  平成25年3月18日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 建物転貸者に建物明け渡しに際して補償金として支払われた金員を、一部不動産所得と一部一時所得とした事例
       (平成24年3月21日裁決 一部取消 全部取消 裁決事例集86 事例9) 



第36回研究会

                        平成24年12月17日
         久留米税法楽修会第36回研究会

1 はじめに
 昨日の衆議院議員の選挙により、自民党が大勝したが、これにより国税通則法の民主党の当初の改正案が復活することはないのではないか。例えば、法律名の改変等である。毎年度の税制改正については、通常12月に政府税制調査会が改正の答申をして、年明けに税制改正要綱が閣議決定されていたが、今後は自民党の税制調査会が主導権を採るだろうから、作業は遅れることになると思う。景気対策としての法人税法の改正等、大幅なものになるのではないか。以上、昨日の感想を図子が披露した。
2 検討裁決 
  貸宅地の評価
    (平成23年11月17日裁決 棄却 裁決事例集85 事例17)  
  報告者 大久保英昭
 
 事案の内容は、権利金の慣行があると思われる地域において、市の図書館の用地として賃貸している土地が、相続されその評価額が問題となった事案である。評価通達によれば、借地権の慣行がある地域においては自用地の価額から借地権価額を控除した価額が、借地権の設定されている土地の評価額となり、そのような評価額で申告が行われた。これに対して、税務署長は、借地権の存在を認めず、借地権がない場合の貸宅地の評価額により課税した。その理由は、被相続人と市の間で、賃貸職契約に伴い被相続人が希望した場合または相続が開始した時は、市が適正時価(自用地としての時価と認定)で買い取る旨の特約があることにあり、現に相続開始後まもなく適正時価と思われる価額で市が購入している事実があるためである。
 
 報告者は、一応この裁決を是としながらも、この市への譲渡が行われなかった場合に、同様の課税が行われるのかが疑問であるとした。

 不動産鑑定士のメンバーも、このような特約がある場合を個別に判断して課税することは、土地の評価額が客観的な価額であるべきとの観点から疑問であるとの見解であった。
 財産評価基本通達においても、時価とは、客観的な交換価値であり、それはこの通達の定める価額であると規定している。また、この通達によることが適当でない場合は、国税庁長官に上申することとされている。本件について、そのような手続きが取られてはいないようであり、通達に反する評価と思われる。
 近年、評価通達を下回る時価などが見られ、評価通達の安全性が万全でない状況となっていることから、評価通達を軽視する傾向があるようである。しかし、通達に従う行政の運用が公平を担保するものであり、現実とのずれのある通達は改正すべきである。本件については、直近で自用地としての価額に近い価額で譲渡されているため、この課税を認めたくなるのは理解できるが、行政の公平の観点からは厳密に通達に従うべきであると考える。
 その意味で、この裁決は不当と考える。メンバーの多くも疑問とする意見であった。

3 第37回研究会について
  平成25年2月18日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第3ミーティングルーム
  検討裁決 課税仕入等の範囲
    (平成23年12月13日裁決 一部取消 裁決事例集85 事例17) 


第32回研究会
                        平成24年7月23日
         久留米税法楽修会第32回研究会
1 はじめに
 図子より、本日の朝日新聞のイギリスの付加価値税0税率の適用区分の困難さに関する記事を紹介する。どちらかといえば、複数税率に消極的見解の記事であるが、具体的な問題を記事に取り上げるようになったことは前進と考える。税制は、実効性が重要であり、長い実績を有するEUの制度に倣うべきと考える。財務省も税理士会も消費税の複数税率に反対であるが、EUの取引の区分方法をもっと研究する必要がある。

2 検討裁決
  重加算税(認めなかった事例) 
  (裁決事例集82 事例3 一部取消し)
  報告者 出口貴子
報告概要
 本件は、請求人(会社)が、借受金勘定から売上勘定へ振り替え処理をしなかった行為は、l国税通則法68条の重加算税の課税要件である、事実を隠ぺいし、又は仮装したものであり、過少申告の確定的意図があると判断して、原処分庁が法人税および消費税に係る重加算税を賦課したことについて、その賦課処分の取り消しを求める事案である。
 請求人は、スーパーやデパートの店頭を借りて、売子に商品の販売を行わせる事業を行っている。請求人の仕入れに係る商品の他、売子が仕入れて販売するものもあり、売子の調達するものについてはロイヤルティ(帳合料)を徴している。経理処理は、収入金を全て仮受金勘定に計上し、費用の計上等に応じて売上に振り替える方式であったが、事業年度経過とともに借受金が増加しつつあった。税務調査の結果、売上の計上漏れがあったため7期について修正申告を提出させ、これに関する法人税、消費税に重加算税を賦課したものである。
 請求人は、借受金勘定の処理が誤っていたとしても、次の理由で隠ぺい又は仮装には当たらないと主張した。
1 請求人の代表者Bは、会計・税務の素人であり、複雑多岐な取引全体の関係書類の精査照合が必要である借受金の累増の解明は無理である。
2 この経理方式は、当初より税理士の指導により採用した方式であり、当初税理士の事務職員であり現税理士の事務職員であるEはこの方式を承知していたはずである。誤った経理判断は、Eの安易な判断によるもので、請求人は虚偽記載をしていない。
3 税務調査において、請求人は取引先台帳を調査官に躊躇なく提出している。

 裁決は、次のとおり。請求人、現税理士、Eは、帳簿書類を十分検討し、意思疎通を十分図り、借受金勘定の増加要因を解明し、適正な経理処理をすべきであった。しかし、請求人は不正な経理処理をしたまま放置してきた、と非難されても、それが請求人の積極的な意思を持ったことによる行為とまでは認められない。すなわち外部からうかがい得る、故意の隠ぺい又は仮装行為、過少申告の確定的意図を示す特段の行為があったとはいえない。以上により、過少申告加算税を超える部分を取り消した。
 報告者の本裁決に対する評釈
 重加算税の課税要件は事実の隠ぺい(二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入れや各経費の計上、棚卸資産の除外)、事実の仮装(取引上の他人名義の使用、虚偽答弁等)である。重加算税は、違反者に課せられる行政上の制裁措置であって、故意に納税義務違反を犯した事に対する制裁ではない。重加算税の賦課に際し、税務署長の判断基準をより外形的、客観的ならしめようとする趣旨であり、罰則の要件である「偽りその他不正の行為」とは異なることを明確にしている。
 本裁決は、隠ぺい仮装を認定しなかったが、妥当であろう。
 意見として次のようなものがあった。
 このような事例で、収入を仮受金勘定に計上することは考えられない。売上を仮受金勘定に計上し、期末に残高があれば仮装にならないか。
 過少申告に故意は必要としないが、隠ぺい仮装にはその言葉の意味から故意が必要と解されている。この場合の故意は刑法の責任要素としての故意ではなく、意図してという意味であろう。裁決では、隠ぺい仮装の定義では意図してと表現しているが、判断では故意を問題としている。
 原処分庁は、仮受金計上の動機を解明して理由づけるべきではなかったか。それがないので、原処分庁の理由としては弱い。
 別の問題として、隠ぺい仮装がなかった場合、偽り不正の行為も無かったと考えられるが、更正の除斥期間を経過した事業年度の本税や加算税の効力はどのようになるだろうか。修正申告には提出の期間制限は定められていないので、本税は有効か。(平成23年6月6日裁決は所得税の3年以上経過した修正申告について「不申告金額につき「偽りその他不正の行為」をしたとは認定することができないから、修正申告書の提出は、「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」にあたる。」としている。)
 徴収権の消滅時効との関係もあり、検討を要する問題である。本件について、どのように処理されたのか知りたいところである。
 重加算税については、納税者の責任を問題とすべきではないと考える。報告者の見解のとおり、隠ぺい、仮装の事実が存在すれば、法定申告期限を経過すれば自動的に重加算税の納税義務は成立するのである。裁決は仮受金計上を仮装と認定しなかったのであるが、民主党政権下で厳しい措置に対する判断の認定が緩やかになって来ているのではないだろうか。




3 第33回研究会について
  平成24年9月10日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 合理的な推計方法の選択
      (裁決事例集83 事例13 全部取消し) 









第31回研究会
                        平成24年6月18日
         久留米税法楽修会第31回研究会

1 はじめに
 図子より、6月9日、10日に日本税法学会60周年記念大会が立命館大学の朱雀校舎で開催され、有意義な報告が行われたことを報告した。
 その後、図子の後任に着任した関本大樹教授から自己紹介と、研究状況の説明が行われた。
 関本教授の研究は、デリバティブに関する金融工学を駆使した最先端のものである。今後の大学院の研究と指導は、関本教授と図子客員教授の二人により行うので、久留米大学の税法指導体制はより充実したものとなったと考える。

2 検討判決
 贈与税の非課税財産(配偶者のために負担した介護付有料老人ホームの入居金) 
 (裁決事例集80(平成22年10月~12月分) 事例11 全部取消し)
 報告者 徳永幸一
 夫が妻の介護付有料老人ホームの入居金を支払ったが、入居金の一部は5年以内に解約等により入居が解消した場合は、残期間に応じて返還されることとなったいた。妻が入居を継続している間に夫(被相続人)が死亡したが、その時点での残期間によると返還金は5百万円余と計算される。原処分庁は、この入居金の期間経過による償却残額(返還金となる未償却残高)を夫の債権として相続財産に含めて更正処分を行った。
 請求人は、夫による入居金の支払は、配偶者に対する生活保持義務を履行したもので、贈与でなく、配偶者は生活保持義務の履行効果として、生涯に渡り老人ホーム入居を継続し、かつ、介護等のサービスを受けることになったにすぎないと主張した。
 審判所の判断
 夫は妻に入居金の返済を求めないというのが合理的意思であると認められるから、入居時に贈与があったと認めるのが相当である。(原処分庁の夫が債権を有するとの法律構成を排除するとともに、請求人の贈与でないとの主張も排除)
 相続税法21条の3第1項2号は、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」の価額は贈与税の課税価格に算入しない旨規定している。
 「通常必要と認められるもの」とは、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいうものと解するのが相当である。
 本件妻は要介護状態にあり、入居のためには一時に支払う必要があったこと、妻は無資力であったこと、介護を伴う生活費の負担に代えるものとして相当であること、本件老人ホームは介護生活を行うための必要最小限度のものであること、から、入居金は生活費に充てるために通常必要と認められるものと解するのが相当であるとして、原処分を取り消した。
 なお、本裁決は請求人の主張に答えて、次の説示をしている。
 所得税法9条1項14号(現行15号)は、「扶養義務を履行するために供された金品」を非課税と定めている。この範囲を超えるものは贈与税の課税対象となる。そのうち、「通常必要と認められるもの」が贈与税の非課税財産となる。扶養義務を履行するための金品とは、民法の定める扶養料(衣食住に必要な経費のほか、医療費、教育費、最小限度の文化費、娯楽費、交際費など)と同様に考えられるところ、「住」の範囲には住宅の賃借料が含まれるとしても、入居時に一括して支払われる本件入居金を、通常の住宅の賃借料等の支払と同視して、「扶養義務を履行するために給付される金品」に該当すると認めることはできない。

 以上の判断に対して、報告者から法人ホームの施設利用権の取得のための金員を贈与とした処分を認めた、平成23年6月10日裁決が紹介された。ただ、この事案は介護付でないこと、金員が多額であること等から、社会通念上「日常生活に必要な住の費用とは認められないから21条の3第1項第2号の生活費に該当しないとされたものであるとされた。

 本裁決を不当とする意見はなかった。
 税務署の認定を疑問とする意見もあったが、同時に仮に夫でなく妻が死亡したとしたら、返還金債権が発生したであろう。債権と捉えることが必ずしも見当違いではない。(現実にはその時点では返還の事由が発生していないので、停止条件付債務と考えるべきかもしれない。)また、老人ホーム側の経理処理も関係する可能性がある。
 しかし、入居時に贈与があったと見ることが正当であろう。
 長期にわたる入居費用を生活費と見ることができるか。本件入居金を扶養義務を履行するために給付される金品該当しないとした判断とどのように異なるか、疑問の点もある。本件は一時払いが必須であることから入学金と同視できるのではないかとの見解が妥当といえようか。贈与税は暦年課税であるので、基本的には1年単位で考えるべきとの意見もあった。本裁決では介護が重視されたように思われる。
 以上のように、本件のような入居費用等の扱いは明確ではなく、本裁決も審判所の英断によるものといえよう。税法学会でも、遠藤税理士の介護費用についての注目すべき報告があったが、今後介護に関する法令・通達の整備が必要であろう。


    





3 第32回研究会について
  平成24年7月23日 月曜日 午後3時~5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 重加算税(認めなかった事例) 
  (裁決事例集82(平成23年1月~3月分) 事例3 一部取消し)


                                                                                  平成21年3月

              久留米税法楽修会
設立趣意書

                     久留米大学教授・税理士 図子善信

    近年、行政改革の流れの中で行政の民主化、透明化の要請に応え、国税当局も情報の公開に努めている。その一環として国税不服審判所における裁決についても、多数の事例が公開されるようになった。最新の裁決事例集(平成20年度上期・第74集)は、各税法関係の28事例が登載されている。
   公表裁決は、法令の解釈や運用の先例となり、事実認定についても他の参考となる事例が選ばれており、実務および税法研究の格好の材料といえる。税務に携わる者が、これらの事例を研究する必要があることは自明であるが、多くの実務家、研究者は多忙であり、個々人でこれらの裁決の検討を行うことは極めて困難である。
   ここにおいて、九州北部税理士会久留米支部の有志より、これら裁決の検討等を行うための研究会を設立すべきとの提案がされた。研究会の会員が互  いに協力して税法を研究し、その成果を実務に生かし、さらに税法理論の発展に寄与したいとの真摯な意図に基づくものである。同時に、研究を通じて互いに交流を深め、情報を交換し、親睦を深めることができると考える。
   以上の趣旨の下に、設立される研究会については、次のとおりである。多くの有志の参加を期待する。

 1 名称 久留米税法楽修会(税法を楽しく修得する会)
 2 目的 裁決・判例を中心とした事例検討を通じて税法の理解を深め,併せて会員相互の親睦を図る。
 3 会員 税法の研究を志す者(自由参加)
 4 例会 原則として月1回久留米大学において研究会を開催する。
 5 会費 一定の事務費を徴する。
 6 調整(コーディネーター) 久留米大学教授・税理士 図子善信
 7 事務局 黒岩公認会計士事務所 〒830-0032 久留米市東町508-13
                            TEL0942-32-8212




第35回研究会以前


第29回研究会以前

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