第29回研究会
                        平成24年3月19日
         久留米税法楽修会第29回研究会

1 はじめに
 新入会員を歓迎、経済学の博士学位を有する方で、より広い視野からの検討が可能であろう。また、4月から法学部は図子の後任の税法担当教授を迎えるので、その先生にも楽修会に参加していただこうと思っている。2月、3月は税法慨論の改訂作業を行ったが、改めに手続法の改正には見るべきものがあったが、実体法については殆ど進んでいないことに気づかされる。手続法では、税法を行政法として法律関係の早期確定を目的とする考えが改められつつある。これは税額確定は納税者や税務署長の人間の行為であり、意思表示を重視する私見と調和するもので、好ましいと考える。税法を経済法やビジネスローと捉える東京学派とも近いと思われる。
 本日の裁決も、その流れに沿うものと考えられるかもしれない。

2 検討裁決
  検討裁決 青色申告の承認の取消処分を取り消した事例
     (裁決事例集80 事例9 全部取消し)
  報告者 黒岩延峰
 報告内容
 請求人は、平成18年、19年、20年の所得税について、青色申告を法定申告期限までに行っている。原処分庁は、平成21年7月8日付けで、平成18年分以降の青色申告を取消し、各年分について更正処分および加算税の賦課決定処分を行った。更正について、理由付記はしていない。
 青色申告を取り消した理由は、納税者は青色申告の帳簿書類の備え付けで必要とされている現金出納帳を作成していないことにあった。
 争点1 青色申告の承認の取消しは、違法または不当か。
 争点2 同族会社の行為計算の否認として行われた更正の内容につき、その行為が請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか。
 裁決は、争点1について、現金出納帳は作成していないが、伝票により所得計算が可能であり、違法ではないが不当な処分として取消した。その際の判断基準は、次の判例による。
「青色申告制度は、誠実かつ信頼性のある貴重をすることを約束した納税義務者が、これに基づき所得額を正しく算出して申告納税することを期待し、かかる納税義務者に特典を付与するものであり、青色申告の承認の取消は、この期待を裏切った納税義務者に対しては、いったん与えた特典をはく奪すべきものとすることによって青色申告制度の適正な運用を図ろうとすることにあるものと解されるところ(東京地方裁判所昭和38年10月3日判決)、この青色申告の承認の取消しは、形式上所得税法第150条第1項各号に該当する事実があれば必ず行われるものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々の場合の事情に応じ、処分庁が合理的裁量によって決すべきである(最高裁判所第一小法廷昭和49年4月25日)。」
 報告者は、以上の内容と、備え付けるべき帳簿の内容について、法律、規則、告示を詳細に照合し、振替伝票の発生日順の伝票綴りが現金出納帳に代わるものではないことから、青色取消しの法的根拠があることを明らかにし、裁決の違法ではないが、所得計算が全体的に信頼できないとはいえないとして、取消しを不当とした裁決を是とした。
 争点2は、青色の取消し処分が取り消され、更正の理由付記が必要であるところ、更正には理由が付されていないので、全て取消しとなる。
 検討
 事案の内容は、請求人の子が代表取締役を務める会社による請求人の不動産の実質的管理料の適否である。税務調査の重点は、その同族会社との取引を中心にしているが、当初、調査官が現金出納帳の提示を求めた際、作成していないとの答弁をしているが、伝票の存在を説明していない。その段階では、青色取消のための調査はしていないので、同族会社の行為計算の否認の理由づけが困難となり、理由付記を要さない青色取消しを行ったのではないかとの見方があった。
 もし、請求人が子の会社の給与を多額にすることにより、財産の移転を行い相続税対策をしているとすれば、同族会社の行為計算の否認は可能であったであろう。青色を取消すことなく、正当に同族会社の行為計算の否認により理由付記のある更正をすべきではなかったか。
 いずれにしろ、調査官および対応した税理士に不手際があったと思われる。
 また、実体的に不当に減少する行為があったとすれば、青色を取消したことにより更正も取り消されることとなった。  以上のとおり、軽度の帳簿の不備は、青色取消しの原因とはならないとの結論となった。従来の方針を踏襲するものかもしれないが、弾力的に納税者の事情を考慮する近年の方針に沿うものと思われる。

3 第30回研究会について
  平成24年4月16日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討判決 損益通算廃止の遡及適用と憲法84条
       最高裁平成23年9月22日第二小法廷判決



第28回研究会 
                        平成24年2月27日
         久留米税法楽修会第28回研究会

1 はじめに
 最近の国税庁の納税者に対する対応が変化しつつあるのではないか。現在、国税庁のホームページで、裁決事例集の81集が発表されている。そこでは、加算税の賦課決定の全部取消が増えているように見える。また、23年度の税制改革では、確定申告での記載要件とされていた、所得税額控除、外国税額控除、その他書類の添付等について、修正申告または更正の請求における記載または添付で足りることとした。民主党政権となり、調査の手続等の制度化が進んだが、国税庁の執行の段階でも、やや緩やかな運用が進んでいるのかもしれない。

2 検討裁決
  検討裁決 押印のない者の申告の効力
     (裁決事例集80 事例2 棄却)
  報告者 野田昇資
 報告内容
  相続税の申告書において、被相続人の妻が共同相続人である請求人(被相続人の姉)の押印を受けずに申告した場合で、後に請求人が提出した修正申告書を期限後申告として、不申告加算税を賦課された事例である。当初申告による請求人の税額は、妻が支払っている。請求人は、法定申告期限後に原処分庁へ「相続税の期限内申告書が提出できなかった理由について」と題する書面を提出している。
  争点
  1 当初申告書は、共同相続人と共同で提出した申告書(期限内申告書)であるか否か? 
  2 通則法66条1項のただし書きに規定する「正当な理由」があったかどうか?
 争点1について
  押印の不備 当初申告について、税理士は請求人に連絡しておらず、請求人は申告の事実を知らなかったので、単なる押印忘れではない。
  期限内申告書を提出できない旨の理由書の提出は、当初申告の申告の意思がなかったことを推定させる。
  当初申告の税理士は、請求人からの委任を採っていない。
 争点2について
  「正当な理由があると認められる場合」とは
  最高裁平成18年4月20日判決 通則法65条4項「過少申告加算税の正当な理由があると認められる場合の非課税」について「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、加算税を課すことが不当又は酷になるものとまでは認めることができない。」とする。
  以上により、請求人には当初申告について、申告の意思があったとは言えず、修正申告を期限後申告と認定されたことはやむを得ないと考える。また、期限後申告をすることについて、正当な理由があったかといえば、共同相続人との連絡等納税者として行うべきことを、行ったとは言えず責に帰すべき事実があったと認められる。したがって、これを棄却した審判所の裁決は正当と考える。

 以上について、各会員の賛同を得るものであったが、税理士の対応の不備が指摘された。結果的に当初申告と大差のない修正申告書が提出されているのであれば、分割協議も期限内に成立する可能性があったのではないか。また、それがむりであれば未分割遺産としての申告をすべきであろう。

 なお、本件は、次の点からも興味ある事案である。
 税法学の通説において、納税義務は法律により定められた課税要件が充足されれば成立し、申告は成立した税額を確認する行為と解されている。すなわち、税額は客観的に定まっており、申告という行為があれば抽象的に成立していた税額が具体化するものであり、それは法の定める効果であって、人間の意思表示によるものではないとの考え方である。この申告を意思表示と捉えず準法律行為である確認行為とする考え方によれば、形式的に申告書が提出されていれば、押印の有無にかかわらず、法律で定まった税額確定の効果が認められるのではないかと考えられる。しかし、本裁決は、本件申告の効力を真に申告の意思があったか否かで判断している。法定の効果より人間の意思を重視しているといえよう。
 その意味で、評価できると考える。しかし、本裁決が申告を意思表示と捉えているか否かは明確ではない。これを意思表示と考えると、この申告を無効とするのは、無権代理による無効であろう。しかし、無権代理による契約は本人が追認すれば有効である。申告も契約と同様の意思表示であるとすれば、当初申告を追認すれば当初申告は有効と解すべきである。修正申告が当初申告を有効なものとして提出されていることは明らかであり、請求人は当初申告を追認したものといえよう。そうすれば、修正申告を期限後申告とした本件不納付加算税の賦課決定は、違法といえる。
 また、当初申告が請求人の税額について無効であれば、誤納金としてこれを納付した妻に還付する必要があるが、還付の手続を行っているのか否か疑問である。
 なお、そのように考えると、加算税を賦課しない「正当の理由」について、検討の必要はないのであるが、正当の理由については、今年度の修士論文でテーマとした学生があり、その結論は、「正当の理由とは、納税者としての注意義務違反がない無過失を推定させる事実の存在である。」というものであった旨紹介した。
 以上、会員は、もし自分が税務署長であれば、無申告加算税の賦課決定をしないであろうという見解が大勢であった。
    

3 第29回研究会について
  平成24年3月19日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 青色申告の承認の取消処分を取り消した事例
     (裁決事例集80 事例9 全部取消し)



第27回研究会


                        平成23年12月12日
         久留米税法楽修会第27回研究会

1 はじめに
 来年度からの久留米税法学修会について、図子は今年度末をもって久留米大学を退職するが、非常勤講師として一部講義を継続し退職後も久留米に居住する予定なので、従来通りの形態で久留米税法学修会を継続することを報告した。

2 検討裁決
  検討裁決 非課税取引(住宅の貸付けの範囲)
     (裁決事例集79 事例38 棄却)
  報告者 塩塚万紀子
 本件は、介護付有料老人ホームにおける住宅の貸付けの範囲の判定に当たっては、賃借人が日常生活を送るために必要な場所と認められる部分はすべて住宅に含まれると解されるから、これらの部分の貸付けは非課税となる住宅の貸付けに該当するとした事例である。
 事実の概要
 1 請求人は、平成19年11月11日に地上4階建の建物(以下「本件建物」という。)を取得し、同年12月19日に、本件建物を介護付き有料老人ホームとしてD社に賃貸した。
 2 請求人は、D社に対する本件建物の家賃収入を、入居者がD社に支払う利用料のうち家賃相当額と管理費相当額の比率により案分し、管理費相当額を課税売上として消費税の確定申告をした。
 3 原処分庁は、当該非課税売上と課税売上は、入居者の居住用に供されている部分とそれ以外の部分の面積の比により按分すべきとして本件更正処分を行った。
 4 請求人は、本件更正処分を不服として、平成21年8月31日に異議申し立てをした。異議審理庁は、これについて同年11月4日付けで審査請求をしたものとみなした。(法人税更正処分について審査請求が行われていた。)
 争点
 請求人がD社に賃貸した本件建物のうち、消費税法上の「家屋のうち人の居住の用に共する部分」に該当するのはどの部分か。(面積により按分することについては争いがない。)
 参考
消費税法別表1(非課税取引)
13 「住宅(人の居住のように供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、一時的に使用させる場合その他政令で定める場合を除く。)
    
 裁決要旨
 住宅の貸付けの範囲の判定に当たっては、住宅賃借人が日常生活を送るために必要な場所と認められる部分は、すべて住宅に含まれると解するのが相当である。
 介護付き老人ホームは、単に寝食の場ということではなく、入居した老人が介護等のサービスを受けながら日常生活を営む場であるというべきであるから、介護付有料老人ホーム用建物の内部に設置された介護サービスを提供するための施設は、入居した老人が日常生活を送る上で必要不可欠な場所であるというべきであり、住宅に含まれると判断するのが相当である。以下が非課税対象部分となる。
 D社職員の執務する事務室、宿直室等、厨房等、スタッフステーション等、会議室前の廊下等(課税部分との按分)

 報告者の見解
 裁決を妥当とする。ただし、非課税とは売上に係る消費税が非課税ということであって、本件においては建物取得時の仕入れ消費税はコストとして負担すべきものとなる。そして、非課税は隠れた税として経済活動に非中立的であるとの山本守之氏の見解を紹介した。

 多数は、裁決を妥当とするが、次の意見もあった。
1 居住と介護サービスは別ではないか。居住の場所で提供するとしても居住者が使用しない事務室、宿直室、厨房、スタッフステーションを非課税部分とすることは疑問である。消費税基本通達6−13−6は「一の契約で非課税となる住宅の貸付けと課税となる役務の提供を約している場合には、この契約に係る対価の額を住宅の貸付けに係る対価の額と役務提供に係る対価の額に合理的に区分するものとする。(注)この契約に該当するものとして、例えば、有料老人ホーム、ケア付住宅、食事付貸間、食事付寄宿舎等がある。」と定める。通達も、居住とサービスを区別しているのではないだろうか。
2 本件は、仕入税額控除額を減額する結果となる裁決であるが、果たして売上についても類似事例で非課税とされるだろうか。介護サービスは、別表1の七で非課税とされているが、介護サービス以外のサービスの場合も日常生活で必要不可欠なサービスが、住宅に含まれるか疑問である。

3 第28回研究会について
  平成23年2月20日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 押印のない者の申告の効力
     (裁決事例集80 事例2 棄却)




第26回研究会
                        平成23年11月21日
         久留米税法楽修会第26回研究会

1 はじめに
 図子より、叙勲について説明。瑞宝章は多年にわたる国家公共への功績ということで、公務員で一定の条件を充たす人に授与されるもの。旭日章は国家公共への功績ということで、民間の人に授与されるもので顕著な功績あるひとに授与されるもの。旭日章を授与されるのは本当に価値がある。今回は、税理士功労として池田日税連会長が旭日中綬章を、宮口副会長が旭日小綬章を授与された。私を含め3人とも関学出身で、同じ会場で3人揃うのは珍しいと思う。
 瑞宝小綬章と勲記を回覧する。

2 検討裁決
  検討裁決 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額
     (裁決事例集79 事例26 一部取消し)
  報告者 宮崎吉昭
 本件は、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金について、法人税法52条の貸倒引当金の規定中、「弁済の見込みがないと認められる部分の金額」の解釈に関する問題である。「弁済の見込みがないと認められる部分の金額」には、「担保権の実行により弁済の見込みがあると認められる部分の金額」が除かれる(法人税法施行令96条)。
 事実関係
 請求人は、融資先であるB社及びF社の両社が破産法に基づく破産手続き開始の申立てを行ったことから、両社から提供された担保不動産を競売にかけるための手続を行った。
 この競売を行うにあたり、請求人は競売予納金(民事執行法第14条第1項の規定により、申立債権者が債務者に代わって競売に必要な費用を立て替え払いするもの。)を支払った。
 請求人は、個別評価金銭債権の貸倒引当金の限度額計算にあたり、この競売予納金を担保物件の処分見込価額(現実には年度末までに競落された競売落札価額)から控除した金額を「担保権の実行により弁済の見込みがあると認められる部分の金額」とした。
 原処分庁は、競売予納金を控除することを認めず、更正処分等を行った。
 裁決要旨
 売却価格が確定し、申立て債権者には、その額から債務者が負担すべき競売に係る手続費用が優先的に償還され、担保権者にはその残額が配当されることになる。競売に係る手続費用相当額部分を別途回収する見込みがない本件の場合には、担保権によって担保されている部分の金額は、売却価格から当該手続費用相当額を控除した残額と見るのが相当である。
 また、本件では現実に競売落札されたのは3物件中1であるが、その売却価格から他の2件の競売予納金を控除することはできないとした。

 報告者の見解
 「競売予納金」は、競売手続を進めるための費用で債務者に代わって立替払いするものであるから、「取立て等の見込みがあると認められる部分の金額」から控除することは、当然であると考える。しかし、裁決では競売手続き中に「評価なし」の判断がされた1物件の競売予納金の控除を認めなかった。この点については、この競売予納金は控除すべきと考える。


3 第27回研究会について
  平成23年12月12日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 非課税取引(住宅の貸付けの範囲)
     (裁決事例集79 事例38 棄却)





第25回研究会

                       平成23年10月17日

1 はじめに

  図子より、次の説明をした。
  平成16年の税法改正において、土地建物の譲渡損失の損益通算を適用しないこととする租税特別措置法改正が行われた。この改正法は、施行日の4月1日から遡って1月1日以後の取引について適用することとされているが、この合憲性を争った事件について、9月22日、9月30日に最高裁判決が出された。
 税法を既に経過した時に遡って適用することについては、憲法84条の租税法律主義に反するとの見解が多い。その理由は、租税法律主義は、法的安定性と予測可能性を保障するものであり、予測可能性を害する遡及立法は許されないと解するものである。この見解については、私は反対であり、憲法84条は、租税を賦課するには国民の代表で構成される国会において法律でその要件を定めることを要請するものであり、法的安定性および予測可能性は、法律で定める付帯的効果であり租税法律主義の目的ではないと考える。したがって、国会が議決すれば遡って適用することは可能であると考える。ただし、遡及適用が憲法14条、憲法25条、憲法29条等に反して違憲になる可能性はあると考え、そのような論文を発表した事がある。
 今回の最高裁判決は、従来の予測可能性に反するので違憲の虞があるとの判断を採らず、憲法84条は法的安定性を求めており、法律成立前には損益通算を期待できる法的地位を有しており、これを侵害するには権利を侵害することと同様の合理性を必要とするとする。そして、その基準を憲法29条の「財産権は、これを侵してはならない。」「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」の許す基準とする。
 そして、今回の改正は、土地政策の必要上採られた合理的措置であり、憲法に反するものではないとするものである。
 しかし、税法は常に財産権を侵害するものであり、その点では法的安定性を常に侵害するものである。改めて憲法29条の基準を持ち出す必要はないものと考える。
 今回の判決で明らかになったことは、最高裁は、予測可能性に反することを持って憲法84条の目的とする考えはとらず、予測可能性に反するゆえに遡及立法が違憲との見解は採らないということである。ただし、極端な遡及等合理性がない場合は、憲法29条に反する可能性があるということである。これは、税法に限らず、全ての法律に当てはまることであり、結果的に租税法律主義の内容として、遡及立法の禁止を主張する見解は、最高裁が退けたといえる。その意味で、正当な判決である。


2 検討判例 

  無料優待入場券の交付と交際費等課税
  (東京地裁平成21年7月31日判決 判例時報2066号16頁)
  報告者 藤岡廣子

   本件には、他の争点もあるが、ここではレジャー施設を経営する会社が、報道機関等に交付した優待入場券に係る費用を交際費等と認定することの可否の争点を取り上げる。ここで優待入場券に係る費用とは、売上原価を総入場者数で除した金額に使用された優待入場券数を乗じたものであり、その金額は1期約7千万円である。
 
 国は次の要件を充たしており租税特別措置法61条の4第3項の交際費等に該当すると主張している。
 1 支出の相手方が事業に関係のあるものであること・・・相手方
 2 支出の目的が事業関係者との間の親睦を計り取引関係を円滑にする・・・目的
 3 支出の原因となる行為の形態が接待等であること・・・態様

 原告の主張は、次のようなものである。
 交際費等とは、法人がその事業に関係する者等に対する接待等のために支出された費用でなければ、そもそも定義上交際費等に当たらない。つまり遊園施設の余裕範囲内での使用であり、この優待券の交付を廃止しても人件費等固定的あるいは変動費にしても(入場券の印刷費は除く。)、これらは不可欠の費用であり交際費等にあたらない。

 判決は、国の主張する3要件を充たすことが措置法の交際費等に該当するとして支持している。交際費等という定義の範囲を広く包括的に捉えている。
 税理士の佐藤孝一氏は、法人税法22条2項と所得計算の構造から、これについて疑義を呈している。

 国の主張はが従来からの考え方を踏襲したものとしても、ここに金額の多寡をも考慮する必要があるように思う。
 原告の主張は、これらの利用があったとしても「ために支出された費用」からなされたものでなく交際費には当たらないとし、交際費となるためにはその目的のために特別に支出された費用と解されるべきと狭く捉えている。
 佐藤氏も、その根拠は原告と同様に「ためにする費用ではない」と考えているのであろう。
 私見としては、損金性が否認される交際費認定はこのように特別の支出を伴わない費用で、しかも些少なもの(総入場者の0.2%程度とか)まで課税されることが妥当と思われない。その頻度、費用に占める無償利益供与額、規模等をも総合的に判断すべきである。「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう。」の文言通り読めば、原告の考え方を支持したい。

3 第26回研究会について

  平成23年11月21日 月曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム

  検討裁決 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額

  (裁決事例集79 事例26 一部取消し)

 


 9月20日第24回研究会

1 はじめに
 図子より8月に宮城県に行き、東日本大震災の被災状況を見た感想を述べた。瓦礫の一時的な集積は進んでいるが、復興の動きは表面的には見えない。また、石巻税務署を訪問し、下條署長、小幡統括より税務行政の現状を聞いたが、その状況を説明した。石巻市は未だ、申告期限等の延長が継続しており、確定申告事務が継続している状況である。さらに、大震災による損害を22年分の申告において、雑損控除を認める特例を適用するため、更正の請求も見られ、法人税の損失の繰戻控除も多いとのことであった。
2 検討裁決 
  居住用財産の譲渡の特別控除(居住用財産の意義)
       (裁決事例集79 事例21 棄却)
  報告者 野口廣 
 本件は、母親所有の土地家屋に同居していた請求人が、母から土地の一部とその土地上の家屋の贈与を受け、これを売却し租税特別措置法35条(以下「本条」という。」)の居住用財産の3,000万円控除を適用して申告した事案である。贈与の対象外の母親の所有土地には別の家屋があり、請求人の土地と共に同一人に譲渡されている。すなわち、贈与により二人が3,000万円控除を適用したものと考えられる。
 原処分庁は、贈与が売却が確定的になった後に行われていることから、請求人が真に居住の意思を持って生活の拠点としていなかったから、本条の個人の居住の用に供している家屋に該当しないとして更正処分および加算税の賦課決定をしたものである。
 本裁決は、原処分庁の主張を認め、棄却処分をした。
 報告者は、本裁決は法律の条文にない新たな課税要件を、解釈によって付加するものであり説得力はないとする。裁決中、法令解釈で本条を普通程度の居住用代替財産を取得することを可能とする趣旨と解釈しながら、譲渡を前提とする所有権取得後の期間だけ居住を特別に解するのは許されないとする。
 会員の意見には、次のようなものがあった。
 本件は本条適用のチェックリストを全て満足するものであり、従来考えられていた要件に新たな要件を追加するものである。
 本条で多く問題となったのは、二つの家屋を所有している場合にどちらが居住用資産となるかの問題であった。現に居住している家屋に本条を適用できないとする解釈は、初めてではないか。
 本条を二人で適用することを租税回避と認定したのではないか。十年前からの居住は、本件の居住の判断とは無関係として考える必要がある。
 課税要件に内心の意思を定めるのは不適当であり、税法上は極力避けられている。意思を要件と解すべきではない。
 住所の認定について意思を要素に含めるのは民法の解釈であり得るが、居住の認定に意思の要素を含む判例等を探す必要がある。
 以上の意見があったが、全員本裁決を支持しないとするのが結論であった。これについては、裁判による取消しを期待したいが、訴訟を提起したか否か不明であり、今後の判決から該当のものがあるか否か注目したい

3 第25回研究会について
  平成23年10月17日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討判例 無料優待入場券の交付と交際費等課税
     (東京地裁平成21年7月31日判決 判例時報2066号16頁)







7月11日 第23回研究会
                        平成23年7月11日
         久留米税法楽修会第23回研究会

1 はじめに
 図子より学部の講義の補講で昨年7月6日の生命保険契約に基づく年金の二重課税に関する最高裁判決を取り上げたことを話題にした。この判決については、図子は批判的であるが、国は最高裁判決を受けて既に減額更正の除斥期間を経過しているものについても、10年間遡って還付することを約束していた。これには、立法措置が必要であるが、今回6月22日に成立し、6月30日から施行された改正法により租税特別措置法97条の2を新設し、還付金相当額を特別還付金として還付することが法制化された。その条文は新旧対照表で17頁に及ぶ長文であり、算定の困難さを表している。このことからも、相続税の課税を否とする解釈が有効と考える旨、説明した。
 その後、22年4月1日から23年3月31日の期間の久留米税法楽修会の収支計算書が報告され、承認された。
2 検討裁決 
  非課税所得(遅延損害金)
  (裁決事例集79 事例11 一部取消し)
  報告者 江上英介 
事実関係
 本件は、審査請求人が賃金格差を理由として勤務先であったD社に対して損害賠償を請求し、賃金相当額等の支払いを命ずる判決を獲得し、それに基づいて支払を受けた金員のうち賃金相当額及び弁護士費用賠償金に係る各遅延損害金について、原処分庁が、当該遅延損害金は雑所得に該当するとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該遅延損害金は非課税所得である旨、仮に課税所得であるとしても一時所得に該当する旨主張して、その全部の取消しを求めた事案である。

争点
 この場合、 1 賃金相当額に対する遅延損害金が非課税所得であるか否か
       2 弁護士費用賠償金に対する遅延損害金が非課税所得であるか否か
 に分けて問題とされている。

裁決 
 争点1について
 本件損害賠償金は、本件賃金等と差別がなかったとすれば支給されたはずの賃金等の差額に相当する財産的損害に係る賠償金であるから、その実質は請求人の労務の提供に対する対価として支給されるべきものであったといえ、本来請求人の所得となるべきもの又は得べかりし利益を喪失していた者が補てんされたものであるから、非課税所得には該当しない。本件損害賠償金に係る遅延損害金は、本件損害賠償金の支払いが遅延しているという継続的行為に起因した利息に相当するものであり、雑所得に該当する。
 争点2について
 本件弁護士費用賠償金及び本件弁護士費用賠償金に係る遅延損害金は、D社の不法行為によって、請求人が支出を余儀なくされる弁護士費用という財産的損害を補てんするための賠償金であることから、所得税法9条1項16号、所得税法施行令30条2号に規定する非課税所得であると認められる。
    
報告者の見解
 裁決は、遅延損害金が発生するもともとの債権の性質が課税所得である場合は、その遅延損害金は雑所得として課税され、一方もともとの債権が非課税所得である場合は、その遅延損害金も非課税所得になるように構成している。しかし、課税所得の支払の遅れも、他人から被った財産的損害であり、非課税所得と解すべきではないか。したがって、本件裁決は疑問である。

意見
 裁決の課税所得の遅延損害金は課税所得であり、非課税所得の遅延損害金は非課税との考え方に賛同する意見が多かった。課税所得の遅延損害金も非課税と解すべきとの報告者の見解に対して、一般的に遅延損害金は利息と解釈され雑所得として課税されているので、やや無理な解釈ではないかとの指摘があった。
 また、遅延損害金が利息と解することが出来るなら、これは債権の果実であり、元本の非課税と果実の非課税を結び付ける必然性があるか疑問を呈する見解もあった。
 本件は、賃金の補てん分を課税所得と解しているが、請求人が争っているのは遅延損害金のみである。補てん分については、課税所得として課税されたのであろうか。裁決の述べるように、得べかりし利益の喪失に対する補てんは課税所得となるとの解釈は正しいと考える。しかし、給与に関しては、国税庁の通達においてもやや弾力的に扱われているように思われる。本件の差別の内容は不明であるが、差別による精神的損害を給与の差額で算定したと解すれば、これについては非課税となる可能性がある。仮に実際は損害金は非課税とされ、審判所が課税されなかったことを承知した上でこのような裁決をしたとすれば、原処分の判断を了としないのであろう。実際は課税されているとすれば、審判所の判断は正当であり、請求人の主張は無理があるといえよう。
    




3 第24回研究会について
  平成23年9月20日 火曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第1ミーティングルーム
  検討裁決 居住用財産の譲渡の特別控除(居住用財産の意義)
       (裁決事例集79 事例21 棄却)







6月27日 第22回研究会
                     
         久留米税法楽修会第22回研究会

1 はじめに
 図子より、最近の出来事を報告。6月18日、19日に101回税法学会が札幌学院大学において開催された。初めて北海道で開催され、参加人数も多く新たな100回に向けた記念すべき大会となり、田中理事長の喜んでおられた。札幌学院大学の金山先生のお力に負うところが大きいと思う。中心テーマは、役員給与に関する問題であった。
 翌20日は、京都において税務大学校の行う税務研究会に出席した。これは税務大学校が国税庁OBの先生を集めて行うものであり、東京と関西地区で開催される。関西のOBでない有力な学者も参加される。今回はグループ法人税制についての報告が予定されており、厳しい日程であったが出席した。グループ法人税制の今後の課題および基本的な問題が説明された。
 なお、23年度税制改正の一部を取り出してその部分の改正が成立した。税法慨論に挙げた<23年度改正案>の中でも、成立したものと成立しなかったものがある。更正の除斥期間の延長については、除かれているが廃案になることが望ましい。

2 検討裁決 
  過少申告加算税(更正の予知) 
       (裁決事例集79 事例4 全部取消し、一部取消し )
  報告者 塩塚万紀子
 本件は、調査開始前に請求人が法人税等の調査開始前に横領に係る所得脱漏分の修正申告を税理士に依頼し、調査初日、同税理士から調査担当者に対して、事実関係を説明するなどした後の修正申告書の提出は、「更正があるべきことを予知してされた」修正申告には当たらないとした事例である。
 事実の概要は、以下のとおりである。
 20年 2月 横領の事実発見 5月横領金額把握税理士に修正申告依頼 9月1日税務調査の通知 10月1日調査初日に事情説明納税者側で解明申し出 21年 1月横領関係の一次修正申告(重加算税賦課) 3月二次修正申告一次修正申告の税額控除計算誤り(重加算税賦課) 4月三次修正申告税務調査分(過少申告加算税賦課)
 争点 一次修正申告は、「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」(国税通則法65条5項)に該当し、加算税を賦課出来ないか否か。
 裁決
 調査前に横領の事実を説明しそれに沿った修正申告書が提出されているので、調査担当職員が横領に係る事実を念頭に置いた上で帳簿書類の確認を行っていたとしても、それにより「更正が予知されたものでないとき」とみることを妨げるものではない。また、調査担当者は申し出の事実を除いて調査を行ったものであり、「調査により更正がなされることを予知された」と評価すべき事実は認めることはできない。修正申告まで時間がたっているが、内容が複雑であったことから調査初日の申し出をもって請求人が自主的に修正申告書を提出することを申し出たものと見るべきである。以上のとおり、原処分は国税通則法の適用を誤ったものであり、一次修正申告に対する加算税の賦課決定処分は取り消されるべきである。

 報告者の見解も、昭和56年7月16日の東京地裁判決の自発的に修正申告を決意し、修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告書を歓迎し、これを奨励することを目的としたものであるとの見解に沿って裁決を是とするものであった。

  報告者 大久保英昭
 関連判決を次のとおり紹介した。
 鳥取地裁平成13年3月27日判決 当時の公示への記載を避けるため後日修正する意図で確定申告をし、修正申告書を提出する前に調査が行われた事例につき、加算税を賦課しない制度は、納税者が正確な納税額をの自発的に申告することを基本としているとした。本事例で加算税を賦課することはこれに反し、違法とした。この判断は、広島高裁でも支持された。
 名古屋地裁平成12年7月12日判決 本判決は、更正があるべきことを予知してなされたものでない時とは、税務職員の調査の着手によって先の申告が不適正で申告漏れが発覚、更正に至ることが確実視される段階で修正申告書を提出したものでないと解釈する。本事例では、修正の慫慂に応じなければ更正されることを認識していたと認められ、賦課決定は適法とした。
 大阪高裁(判決日時不明 税務通信ニュースNO2656)は、「更正を予知してなされた修正申告」の判断として「更正がされるであろうことが客観的に相当程度の確実性を以って認められる段階」の前か後かで判断すべきとする。
 なお、国税庁事務運営指針では、臨場の連絡をした段階で修正申告書が提出された場合には、「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しないとしている。

 以上の点から、報告者も本件裁決を是とする。

 本裁決に対しては、大方の者が賛成であるが、次の意見もあった。
 通則法65条5項の「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」の解釈として、「調査があった」ことが加算税賦課の要件と解するか、調査があったことにより等額国税について更正があるべきこと」を予知いることが加算税の要件かが問題となる。後者の解釈であると、調査があったら更正されるとの予知があれば、賦課されることになる。前者の解釈であると、調査されることがわかっており、調査されると更正されると認識していても、調査以前に修正することにより加算税の賦課を免れることができる。
 昔は、調査の連絡後に修正申告をした場合は、当然に加算税賦課をしていたと記憶する。しかし、国税庁の運営指針では、調査着手前であれば加算税を賦課出来ないと解しているようである。これは、修正申告は自主的に行われるものと考えられていた時代から、修正申告が調査の結果に基づく慫慂に応じて行われるとの慣行が広がったことから意識が変更してきたものと考えられる。
 しかし、調査の連絡後調査以前に修正申告をすることが自主的といえるであろうか。それをゆるすと、連絡が来るまでは正当税額を申告しないとしても不利益を受けないことになる。これは申告納税制度の基盤を揺るがす虞がある。過少申告の外形があれば加算税が成立するという税の原則、予知の範囲を狭めることで歪めることの無いよう、厳格に運用すべきである。

 
3 第23回研究会について
  平成23年7月11日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 非課税所得(遅延損害金)
       (裁決事例集79 事例11 一部取消し)



4月18日 第21回研究会
                        平成23年4月18日
         久留米税法楽修会第21回研究会

1 はじめに
(1) 3月28日の大蔵同友会における国税庁の大震災対応と今後の見通しの講演内容およびそれに関する感想を説明した。
 東日本大震災に対する政府の対応は、阪神淡路大震災を参考とするが、それを超えるものとなるであろう。阪神では実施されなかった、固定資産税の免税措置が行われるだろう。所得税の雑損控除は平成22年分所得から認められることとするのは、阪神と同様である。今回は、3月11日発生で申告済みのものも多いが、申告のやり直しとなるであろう。
(2) 税法慨論八訂版を配布し、今年の改訂は改正法案が3月中に成立しない可能性を考えて、教科書の本文は改正前の現行法で記載し、<23年度改正案>を補足して記載する方法を取っている。


2 検討裁決 
    課税仕入れ等の範囲(派遣労働者に支払う対価)
     (裁決事例集78 事例30 棄却)
    報告者 高野亮一  郡嶋隆司
 
 事実関係(高野)
    労働者派遣事業を営む審査請求人は、派遣労働者に支払った金員を外注費として、仕入税額控除を行っていた。税務署長は、この金員の支払を給与と認め、仕入税額控除を認めない課税処分を行った。この処分の取り消しを求める審査請求である。給与について仕入税額控除を認めないのは、消費税法2条1項12号に所得税法28条1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を課税仕入れから除くと定めているからである。所得税法28条の給与等についての定義は無いが、雇用契約又はこれに類する原因に基づく従属的労働の対価、使用者の指揮命令に服して提供した労働の対価と解される。
 労働者派遣事業法では、労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、」と定めている。すなわち雇用関係にあるのは審査請求人である。派遣先での指示を受けることがあるとしても、派遣先と雇用関係があるとはいえない。
 意見(群嶋)
    裁決事例の内、報酬の性質について争われ、給与と認定された13事例は、いずれも給与としての性質を導く基準として労働者と事業者の雇用関係の存否を認定している。本件は、労働者派遣事業という書証等から雇用関係が客観的に認定できる唯一の事例である。審査請求人がなぜこのような主張をするに至ったかについては、その経緯に疑問を覚えるが、裁決の判断は正当である。

 以上の結論について、異論は無かった。課税仕入れの除外事項として、所得税法28条の給与と定め、消費税法自体で定義していないのは不自然であるが、給与の解釈について判例等で確立した所得税法の給与を使う方が執行上安定しているとの判断であろうか。本来は、給与所得者は事業者で無いので、給与に消費税は課税されておらず、したがって仕入税額を控除する理由がないことが給与を課税仕入れから除外する実質的理由である。わが国は、インボイス方式を取っていないので、給与を課税仕入れから除外する規定を設ける必要があったといえる。

 労働の報酬として請負は消費税が課され、給与には消費税が課されないのか。雇用契約に基づく場合は、なぜ消費税を課されないのかは、以前から説明が難しいところであった。給与所得者は、事業者ではないからとの説明であるが、消費税の付加価値税としての本質からは十分な説明とは思われない。
 これについて、次の意見があった。地代についても消費税が課されない。利子についても消費税が課されない。経済学理論による生産の3要素、土地、労働、資本はそれの活動により付加価値が生じるのであり、土地、労働、資本の対価自体には付加価値が生じていないとの発想によるのであろう。請負についても、労働の対価については事業者がそれの支払について税額控除が認められないので、労働の対価に付加価値税が課されていないといえる。
 この理解は素晴らしいものである。消費税を付加価値税として理解し、付加価値の意義を経済的に考えれば当然のことかもしれない。欧州で付加価値税が導入されるときは、当然のこととして理解されていたものと思われる。わが国でもそのことを当然の前提としていたのであろうが、そのように論ずる見解に触れることがなかったが、本研究会の議論の中で認識することができた。


3 第22回研究会について
  平成23年6月27日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 過少申告加算税(更正の予知) 
       (裁決事例集79 事例4 全部取消し、一部取消し )



         
 平成23年3月22日
         久留米税法楽修会第20回研究会
1 はじめに
 図子より東北関東大震災に対する税関係の措置について説明した。
  期限の延長 延納
  阪神大震災時は、平成7年1月の損害を平成6年分の所得税の申告において雑損控除を認める立法措置を取ったが、今回は申告期限の直前でその措置は、申告には間に合わない。
  固定資産税について、阪神大震災時は、倒壊家屋の撤去後の被災住宅地について、住宅地としての6分の1課税を認める特別措置法を定めた。今回も同様の措置が取られると考えられる。これに対しては、固定資産税を課税するのかとの意見があった。
 (雑損控除の22年分申告における控除については、申告期限の延長が行われているので、その間に立法措置を取ることは可能であろうし、すでに申告済みの場合は、更正の請求による還付を認めることも検討すべきであろう。また、被災住宅地等に対しては、固定資産税を免除する措置も検討すべきと考える。これについて、国税庁は、前向きに考えているようである。)
   
2 検討裁決 
          貸家の評価
       (裁決事例集78 事例28 一部取消し)
    報告者 花等長一郎  宮崎吉昭

 事実関係(花等)
 被相続人が借地上に家屋を有したいたが、入居者が厚生援護施設に入所し、住んではいないが家財道具等はそのまま放置されている状態であった。請求人は、これを貸家とし借地権の評価もすることなく相続税の申告をした。原処分庁は、これを貸家と認めず一般の借地権の評価を行い更正処分した。
争点
 1 当該借地権の価額は、家屋の老朽化等を考慮して評価すべきか否か。(老朽化により借地を返還する予定)
 2 当該借地権に係る家屋は、貸家か否か。
裁決
 1 借地上の建物が時の経過により老朽化しても、その程度が旧借地法2条にいう朽廃にまで至らない限り、借地権それ自体にはなんら影響をおよぼすものではなく、朽廃または近い将来朽廃が見込まれるものでない限り、借地権割合についても減価を考慮する必要はない。(返還の覚書は相続人と地主との間のもの)
 2 原処分庁は、公共料金の使用実績がないこと、賃料の入金がないこと、請求人が空き家となっていると申述したことにより、賃貸の事実がないとするが、賃料が支払われていないことで、解約されたものとみなす規定もないから、賃貸契約は継続していたというべきである。
 3 以上により、本件借地権の評価額は、貸家建付借地権として評価すべきである。

報告者私見(宮崎)
 1 貸家建付借地権とする審判所の判断は理解できる。ただ、本件の借地権について、資産の価値が実際に評価額ほどあったかどうかは疑問である。相続後ではあるが返還が決まっているので、評価通達27−2の「借地権者に帰属する経済的利益」とならないのではないか。
 2 貸家か否かについての審判所の判断は妥当である。家財道具が残っているので、それを処分して自由に使用することはできないと考える。原処分庁は、家財道具の所有権をどのように考えたのであろうか。

検討
 本事案については、審判所の判断を是とするのが大勢であった、ただし、このような関係が生じる背景が理解しにくく、地主、借地権者、借家権者等は全く他人なのか、親族等の関係があるのではないかとの意見があった。また、この事案はどの地域の事案か、借地権慣行のある地域か否かが判明しない。
 また、評価通達27は、借地権の評価を定めるとともに、ただし書きで、借地権慣行がある地域以外の借地権の価額は評価しないと定めている。福岡および久留米は借地権慣行はないとされている。しかし、相続税の申告においては路線価に定める借地権割合により借地権を評価して申告するのが通例である。評価通達27のただし書きの趣旨は何かは、解明できていない。
 (後の検討により、借地権慣行がある地域以外の基準は平成3年の通達改正によるものであり、改正前は借地権の価額が「自用地としての価額の100分の30に相当する価額に満たない場合」とされていた。そして現在の解釈は、路線価図に借地権割合が付されている地域は、借地権慣行がある地域とされている。したがって、権利金の授受の慣行がない久留米市も通達上は借地権慣行がある地域とされているのである。通達では「権利金その他の一時金を支払う
など借地権の取引慣行があると認められる地域」と定めており、などには借地権割合30%以上が含まれているとのことであろう。一般にいわれる借地権慣行と通達の意義が異なっていることから、理解が難しかったものである。)

 なお、@法人税の借地権の認定課税の根拠について、法人税法22条2項のキャピタルゲイン説により説明できること、A法人所有の土地建物の土地のみを譲渡した場合の借地権の処理についての議論があった。

3 第21回研究会についてあると認められる地域
  平成23年4月18日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 課税仕入れ等の範囲(派遣労働者に支払う対価)
       (裁決事例集78 事例30 棄却)



 平成23年2月14日
         久留米税法楽修会第19回研究会

1 はじめに
 23年度税法改正案についての疑問点について説明した。
 (1) 更正の請求の期間を5年に延長することに伴い、更正の除斥期間を3年から5年に延長する案となっているが、これは納税者にとって極めて不利益な改正である。税理士会が反対しないのはおかしい。
 (2) 税務調査において職員が納税者から提出された物件の預り、返還に関する手続きを定めることとされているが、これは実質的に税務職員に物件の留置権を認める結果となる虞がある。質問検査権には物件を預る権限は含まれていないと考えるが、その手続を定めることは預ることを法律で認めることとなり、納税者で拒否することが難しくなる。
 (3) 調査の事前通知を文書で行うことと定められるが、文書で通知された場合、その変更を申し立てるには相当の理由が必要と考える。納税者にとっては、現在より一方的に調査時期を定められる虞がある。

 理論的な権利擁護措置が、実務的には納税者の利益を損なう可能性があるので、実務を踏まえた改正を行うべきである。


2 検討裁決
    同族会社の行為計算否認
       (裁決事例集78 事例24 一部取消し)
    報告者 徳永幸一  出口貴子

 請求人(同族会社)が、平成17年2月に100%子会社の3,000万円増資に応じ、平成19年5月に子会社の清算結了にともない、3,000万円の投資損失を計上したことに対する課税の事案である。子会社は、増資の時点で営業を停止しており、銀行からの借入金2,000万円、請求人の代表取締役Eからの借入金1,387万円、債務超過額2,388万円であった。請求人は、顧客や取引先への影響、地域における信用の失墜を最小限に抑えるために3,000万円の増資が必要であったと主張している。
 原処分庁は、当初の増資を寄付金と認定し投資を0円とし、その年度の申告を減額更正し、19年度の申告の投資損失の損金算入を否認して更正を行った。原処分庁は、審査請求の段階となって、法人税法132条の同族会社の行為計算の否認の規定を適用するむね理由の変更を行った。
争点は、次の2つである。
(1)更正理由以外の「追加理由付記」の可否
(2)増資払込金の「否認規定の該当性」の可否
裁決
(1)について、理由の変更は主要な事実については共通し、法的評価を異にするだけであるので、請求人の防御の機会を奪うものではないので、追加理由付記は可である。
(2)増資払込金を寄付金と認定することには無理がある。しかし、子会社を整理する客観的・具体的な必要性を認める証拠はない。また純経済人の行為として合理性があったとは認められない。
 否認規定に該当する。
本裁決に対する報告者の判断は、次のとおり。
(1)について、
 審判所は争点主義的運営が基本方針とされていること、理由の差し替えを認めると争点整理を要請する不服申立前置主義の趣旨に反するので、原則追加理由付記は認められない。ただし、納税者に格別の不利益を与えない場合は差し替えを認める判例もあり、本事案については、請求者に格別な不利益を与えていないと判断できるので、裁決を支持する。
(2)について
 法人税法132条の法人税の負担を不当に減少させる「不当」とは、判例で「同族会社であるがゆえに容易になし得ること」、「経済人の行為として不合理、不自然であること」とされている。本件では、その双方に該当し、裁決は妥当である。

 以上の報告に対し、同意する意見が大勢であった。ただし、請求人の増資の措置は、税理士と相談して決定したとのことであるが、なぜこれが是認されると判断したのか疑問であるとの意見、信用を維持するためであれば合併が妥当ではないかとの意見、増資ではなく貸付金ではどうであったか、等の意見があった。
 本件は、更正の理由を変更して同族会社の行為計算の否認により処分を維持したのであるが、同族会社でなければこれを否認することはできないのか。当初の理由は、増資を贈与と認定したのであるが、会社法上の出資を寄付金と認定することは無理との判断により、法人税法132条に依らざるを得なかったのであるが、審判所および処分庁は私法上の効力を認定で否認することをあきらめたのかもしれない。私法上の効力を否認するためには、法律上の根拠を必要とするとの学説に従ったとも考えられる。
 同族会社で無い場合は、これを否認できないとしすれば、このような行為をすることは純経済人の行為として通常あることではないかとの疑問もある。このような増資に応じることは、取締役の背任になるのではないかとの意見もあった。
 なお、争点に(1)について、審判所は行政段階であり、理論的には総額主義で判断する。しかし、納税者の権利救済のため運営を争点主義的に行うこととしている。課税処分の取消訴訟については、課税処分の瑕疵すなわち事実認定および法解釈の錯誤の有無を審理すべきであり、債権額の適否を審理するものではないので、争点主義であるべきであるが、不服審査段階でどのように解すべきかは議論の余地があると考える。今後の研究テーマとして本日の研究会では問題提起にとどめることとした。


3 第20回研究会について
  平成23年3月22日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 貸家の評価
       (裁決事例集78 事例28 一部取消し)







                         平成22年12月15日
         久留米税法楽修会第18回研究会

1 はじめに
 東京地裁平成21年2月27日判決
 遺産の再分割に基づく更正の請求を認めた判決について、説明し討議した。
 本事案に関連して、税務署長は、再分割に基づく資産の移動について、贈与税を課税していたが、審査請求により
取消されている。これに関して、贈与税を課税されるのが一般の理解ではないかとの意見が多かった。(本研究会後、審判所が当初分割を無効と認定したとする文献を見た。)

2 検討裁決
    収益の帰属
       (裁決事例集78 事例20 全部取消し)
    報告者 黒岩延峰 野田昇資   
 本件は、印刷業を営む法人が売上先から受領した支給紙の余剰分を、本社工場生産管理課長又は生産管理部生産管理課長として、印刷工程の管理及び外注手配に関する業未に従事していたFが、G社に売却した事案である。争点は、@本件紙取引が請求人の売上か否か、A損害賠償請求権を本件各事業年度の益金に算入できるか否か、である。
 裁決は、争点@について、次の点を総合考慮して、請求人の売上と認めなかった。@取引を行った従業員の地位・権限、Aその取引の態様、B請求人の事業内容、C取引相手方の認識 争点のAについて、余剰紙の性質からその在庫管理の必要性がに乏しかったことから、通常人を基準として各事業年度に損害賠償請求権を認識することはできるとはいえないとし、本件各事業年度の益金の額に算入できないとした。これにより、法人税の更正処分を取消すとともに、請求人の売り上げと認めて更正した、消費税の更正も全部取り消されている。
 以上について、Fの単独横領行為と認められることから、本裁決を妥当とするのが大勢であった。
 なお、消費税の課税について、本件の代金収入を請求人の売上とすることはできないが、Fに対する損害賠償金が消費税の課税取引となるか否かは別の問題であり、消費税基本通達5−2−5による検討の余地があるとするのが、報告者の見解である。結果的には、不課税が妥当との意見である。

3 第19回研究会について
  平成23年2月14日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム
  検討裁決 同族会社の行為計算否認
       (裁決事例集78 事例24 一部取消し)





                         平成22年11月22日
         久留米税法楽修会第17回研究会

1 はじめに
 生命保険年金二重課税最高裁判決に対する国税庁の対応について説明し、図子がこの判決に対する論評を久留米大学法学に執筆中であることを伝えた。
 税制改正に対する税制調査会の審議状況を簡単に説明した。
 楽修会については、これまで集まりを例会と表現してきたが、その内容から研究会と表現することが適切と考えられるので、今後研究会とし、報告資料の保存と公開に努めることが了解された。
2 検討裁決
   給与所得(経済的利益)に係る源泉徴収
     (裁決事例集78 事例15 一部取消し)
     報告者 平岡孝介 塩塚万紀子
 平岡より事実関係の説明が行われた。
 本件は、宗教法人の代表者が、法人所有の家具等の資産を無償で専属的に利用したことは、経済的利益を享受していることに当たるから、源泉徴収の課税対象となるとして課税された事例である。争点は@請求人は、代表者に、家具、カーテン、食器等を貸与しているか否か、A貸与している場合、代表者が享受している経済的利益はいくらか、である。結論は、@につき貸与しており、Aにつき、通常支払うべき使用料と判断された。
 @につき、問題となる資産は法人の財産目録に搭載されていること、代表者が宗教法人から借り受けているマンションの部屋に備え付けられているものであり、部屋の鍵は代表者と法人理事の息子のみが所有していること、その部屋が宗教活動に使用された事績がないことが認められる。
 Aにつき、裁決では減価償却費と同額としている。これについて、報告者は、通常リース料は、物件価格、固定資産税、保険料、金利などから成り立っていることから、この使用料の算定に疑問を呈した。
 塩塚より、本裁決は次の点から正当と考える旨の報告があった。@について、マンションの利用状況から本件マンションが専ら代表者の居住の用に供せられていたこと、本件家具等が代表者により専属的に使用されていたことから、本件家具等が請求人から代表者に貸与されていたと認定したことは妥当と認められる。Aの通常支払うべき使用料の算定に減価償却費を用いており、耐用年数の適用に誤りがあり一部取消しとなったいるが、その判断も妥当と認められる。
 メンバーの意見も、経済的利益を収入金額とする所得税法36条、法人又は個人の事業の用に供する資産を専属的に利用することにより個人が受ける経済的利益の額は、通常支払うべき使用料その他その利用に対価に相当する額と定める所得税法施行令84条の2の規定から、本裁決は妥当と考えるものであった。
 ただし、マンションの鍵を法人理事の息子が所有していたとあるが、それが代表者の息子ではないとすれば法人が使用することもあり得と考えられること、代表者が教祖であって信仰の対象となる人物であった場合、その生活環境を法人が整えることを給与と認定できるか、知事公舎や高級官僚の宿舎とはどうのように区別すべきか等の疑問が無いわけではない。
 また、経済的利益の判断について、家事労働、自宅の使用益については所得税を課税しないのがわが国の所得税法の下で、このような使用益を経済的利益と捉えるべきか否かについては、改めて考えるべきではないかとの意見があった。発生した使用料を免除することは経済的利益と捉えるべきであるが、使用する便益を経済的利益と捉えることは無理があるように思われる。
 所得税法施行令84条の2は、事業の用に供する資産についてその専属的使用を経済的利益と定めるが、この点については今後検討すべき問題と考える。
3 第18回研究会について
  平成22年12月15日 水曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 800号館812教室
  検討裁決 収益の帰属
       (裁決事例集78 事例20 全部取消し)


                         平成22年10月18日
          久留米税法楽修会第16回研究会

1 はじめに
 図子より、10月2日に東海大学湘南校舎で開催された第39回租税法学会の概要を報告した。
 所得課税の今後の動向について、金融所得とその他所得の所得2元化、所得控除から税額控除への転換とそれによる給付化、所得税と社会保障給付の一元化等が注目される。
 個別のことであるが、明海大学柴先生の報告中、オランダの所得税制において家屋等の帰属所得が課税されているとのことであった。主として借入金の利子を控除するための様であるが、帰属所得の課税の事例は知らなかったので、認識を新たにした。帰属所得に対する課税例があることを報告する。

2 検討裁決
  居住者の判定(非居住者と認めた事例)(裁決事例集78 事例5 全部取消、一部取消)
   報告者 高野亮一 織田冬彦
   本件は、日本国籍を有しない審査請求人(以下「請求人」という。)が、A国に在留中に得た報酬について、原処分庁が、請求人はA国在留中も日本に生活の本拠を有していたから、日本の居住者であり、同報酬も請求人の課税所得に当たるとして所得税の決定処分等を行ったものである。争点は、請求人がA国在留中も日本に住所又は居所を有していたか否かである。請求人の職業は、コンサルタントであり、G社と株式取引デスクのための取引設備・事業の構築の監視および他のコンサルタント業務をA国所在のG社の事務所内で、常勤で提供する契約を結んでいる。A国の在留期間は平成16年9月から平成18年6月までである。住所を有するとする原処分庁の主張の根拠は、@本件期間中居住地を日本のS町とする外国人登録原票は閉鎖されていない。AS町の家屋には生計を一にする妻が居住している。B本件期間中ほぼ毎月帰国している。等である。これに対し、裁決は、生活の本拠はA国にあるとした。その主な理由は、S町の住所が日本における生活拠点であったことは認められるものの、生活の本拠がS町の住所であったものと直ちに判断することはできない。AA国の滞在日数は日本の滞在日数をはるかに上回る。BS町の家屋は妻の勤務先の借り上げ社宅である等である。
 裁決の当否に関し、研究会では正当との見解で一致したが、S町の家屋が妻の会社からの借り上げ社宅であることが、大きく影響しているのではないか、これが請求人の所有または請求人が賃借している場合ならどのような結論になったであろうかとの意見もあった。課税庁が課税の判断をすることは、必ずしも無理とはいえないが、審判所がより詳しく検討しこのような裁決になったことは、審判所の望ましい姿といえる。

3 第17回研究会について
  平成22年11月22日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館第2ミーティングルーム
  検討裁決 給与所得(経済的利益)に係る源泉徴収
       (裁決事例集78集 事例15 一部取消し)



                         平成22年9月13日
          久留米税法楽修会第15回研究会

1 はじめに
   最高裁7月6日判決(保険契約に基づく特約年金)後の状況について
   最高裁判決後に国税庁は、同様の事例の状況を全国的に調査して、その後の対応を検討しているようである。
  事務量も相当かかるので、負担が大きいが判決を受けて十分な対応をするつもりと思われる。最高裁の判決とはいえ、行政が遡って過去の処理を是正するのは、新たな姿勢といえる。妥当か否かは議論があろう。
  この判決自体については、近く図子が評釈を公表する予定である。

2 検討裁決
   譲渡担保権者の物的納税責任(裁決事例集77集 事例34 全部取消)
   報告者 大久保英昭 江上英介
   本件は、滞納者が譲渡担保に供していた酒類を、譲渡担保に供していないものとして滞納処分により差押え、公売し、換価代金を滞納国税に配当した事案である。譲渡担保は法定納期限以前に設定され登記が行われていた。譲渡担保権者である審査請求人は、配当処分に異議を申し立て請求人への配当を要求しているものである。
 原処分庁は、酒類の販売には免許を要するものであるから、免許を有さない請求人への譲渡担保の設定は無効であり、差押え以下の処分は適法であると主張している。国税不服審判所は、酒類の販売業に免許を必要とするとしても、酒類を譲渡担保の目的物とすることができないわけではなく、譲渡担保契約は有効であり、これを無効として行った差押えは違法とした。そして、差押えの違法は後の配当決定にも承継されるとして、国税への配当を違法として取り消した。請求人への配当は認められないが、滞納処分費以外は残余金として請求人に交付すべきとした。
 本件の裁決の結論は正当であるとするのが、報告者の見解であったし、他のメンバーも同意見であった。
 原処分庁の主張は、必ずしも国税庁の公式見解であったといえないが、免許制度と譲渡担保の関係についてわずかに疑問があったので争ったのであろう。
 本件の滞納処分は、すべて譲渡担保は無いものとして進行しており、差押えについても異議がなく、全て決着した最終の配当について異議申立てがあったものである。本件譲渡担保には登記が行われ、公示されていたはずであるが、動産差押えは登記を要しないので譲渡担保の登記に気付かなかったのではないか。動産登記の公示の効果が必ずしも十分ではなく、制度的な齟齬があるといえるのではないかとの意見が大勢であった。
 個人的には、違法性の承継を意思表示の瑕疵説からどのように理解すべきかを考えさせられた。

3 第16回研究会について
  平成22年18月18日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館第2ミーティングルーム
  検討裁決 居住者の判定(非居住者と認めた事例)
       (裁決事例集78集 事例5 全部取消、一部取消)





                         平成22年7月12日
          久留米税法楽修会第14回研究会

1 はじめに
  解説 米国における包括的否認規定について
  (7月3日日本税法学会九州地区研究会における岡村忠生教授の報告に関し)
  本年3月30日に米国内国歳入法7701条が改正され、経済的実質原則が導入された。これは事業目的および税以外の経済上の変化を欠く取引を否認できる、包括的否認規定である。以上を、7月3日の九州地区研究会の岡村忠生京都大学教授の報告によるものとして図子より説明した。米国における一般的否認規定の導入は、わが国の一般的否認規定導入の議論を加速するものと思われる。
 また、7月6日の相続税法に関する最高裁判決について、それまでの解釈について疑問に思う人もいたであろうが、思い切った訴訟により行政の解釈を覆したのは評価できる。そのような例は他にもあるだろうから、そのことに注意をして法解釈に取り組むべきである。

2 検討裁決
  貸付金債権の評価(裁決事例集第77集26事例・相続税の更正処分・棄却)
  報告者 宮崎吉昭 江上英介
  本件は、被相続人が代表者である会社に対して有していた1.7億円の債権の評価について、会社が債務超過であり一部回収不能であるので原処分の一部を取り消すべきであるとの審査請求である。裁決は回収の見込みのないことが客観的に確実である状況とは認められないとして、本件審査請求を棄却した。
 本件では評価通達205に列挙する具体的に事例に該当せず、債権の回収の見込みのないことが客観的に確実であったとは認められないとして、一部減額が認められなかった。これに対して、貸付けの目的が不明であり判断しにくいが、多数は裁決のやむを得ないとするものである。しかし、この貸金は実質的には出資であり、出資持ち分として評価すべきではないかとの意見もあった。法的な出資手続きが踏まれてないので、それは無理であろうと思われる。この債権が現物出資の目的物とされた場合は、それと同様になる。事前にそのような対策を講じておくことが望ましい。
他に次のようなことが話題となった。
 1.7億円の評価額が妥当だとしても、キャッシュフロー面で現実の税金の納付は困難である。
 1.7憶円については弁済期はなく、回収可能としても長期にわたり返済することになろう。その場合、7月6日の年金受給権と同様に、例えば10年かんで返済する場合の割引現在価値で評価すべきではないか。
 このような通達はあるが、評価通達205の列挙事由以外で債務の一部が減額された事例があるのか。
 金銭債権については、法律上の価値としての元本金額が重視されてきたのではないか。しかし、19年度の法人税法改正により金銭債権についても評価減が認められることとなった。法律上の価値より経済的価値の重視に移っているのではないか。そうすれば金銭債権を評価した申告が提出される可能性もある。
 しかし、現実に評価減した債権を申告することは、難しい。
 なお、本件はこの債権を額面額で申告したものである。更正の請求をすることなく、別の債務控除の否認に対してこの債権額の減額を主張することが許されるのか。国税不服審判所までは行政段階であり、総額主義をとっているので可能かもしれない。しかし、取消訴訟においてそのようなことが許されるのか。私の見解では、取消訴訟は処分理由の適否を審理するものであると考えるので、処分と無関係の主張は許されないこととなる。
 
3 第15回例会について
  平成22年9月13日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館第2ミーティングルーム
  検討裁決 譲渡担保権者の物的納税責任
      (裁決事例集77集 事例34 全部取消)

例会後ハイネスホテルにて暑気払い懇親会



                         平成22年6月21日
          久留米税法楽修会第13回例会

1 はじめに
  解説 日本税法学会第100回記念大会概要
  報告者 図子善信
  6月12日、13日の税法学会の状況を報告した。
  学会の報告テーマから法律の規定により税額が定まるとする硬直的な租税法律主義についての、見直しが一つの流れになっているように思われる。兼平裕子会員(愛媛大学准教授)の「租税行政分野における判断余地の法理」は直接的にそれに関係するが、岡村忠生会員(京都大学教授)の「租税法律主義とソフトロー」、占部裕典会員(同志社大学教授)の「租税法における文理解釈の意義」、谷口勢津夫会員(大阪大学教授)の「税法における裁判による法創造論序説」もそれに関連するように思える。また、本例会の検討裁決に関連する山本洋一郎会員(弁護士)、増田英敏会員(専修大学教授)の更正の請求に関する報告も、納税申告を意思表示と解することを承認するようであり、この流れに沿うものと思われる。

2 検討裁決
   外国税額控除(更正の請求を認めた事例)
(裁決事例集第77集21事例・更正の請求に関し一部取消、更正等課税処
分について全部取消)
  報告者 塩塚万紀子  平岡孝介
 本件は、外国税額控除を適用した申告について、その計算において通貨の換算誤りにより本来認められる限度額より少額の金額を記載した申告書を提出し、後に税額控除を限度額まで増額し税額を減額することを内容とする更正の請求をした事例である。原処分庁は、この外国税額控除は申告書に記載された金額を限度とするとの法律の規定を根拠に、更正をする理由が無いとの通知をしたものである。本裁決は、平成21年5月の裁決であるが、同年3月に同様の事案について更正の理由があるとした福岡高裁判決にたいする国の上告が最高裁において不受理とされ、高裁判決が確定しており、この裁判所の判断に即して、取消の裁決をしたものである。
 その内容は、本件は外国税額控除の適用を選択したことは明らかであり、選択した上での計算上に誤りがあったのであるから、更正の請求の要件である、計算に誤りがあったときに該当するとするものである。従来は、このような場合申告書に記載された金額を限度とするのと規定により、計算上の誤りとは解されず更正の請求の要件を満たさないとされてきた。
 本件について、その裁決を妥当とする見解で一致した。一方、税法学会での増田報告の結論、外国税額控除を選択するか否かの誤りについても、更正の請求を求めるべきとの見解については、そこまで認めるべきかについて疑問の意見もあった。
 更正の請求が、有効に成立している税額の減少を請求する手続であり、その根拠は法律行為についての意思の尊重の考え方(意思主義)にあり、一方の相手が取引の安全に影響の少ない国であることを考えると、意思表示に瑕疵(錯誤を含む。)がある場合は、更正の請求を認めることが妥当と考える。法律の規定に従っていなかったこと、計算に誤りがあることは、意思表示の瑕疵を表現するものと解される。動機の錯誤をどのように扱うかは、さらに検討すべき問題であろう。

3 第14回例会について
  平成22年7月12日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 学生会館第2ミーティングルーム
  検討裁決 貸付金債権の評価(裁決事例集第77集26事例・相続税の更正処分・棄却)


第12回例会

                    平成22年5月24日

         久留米税法楽修会第12回例会

1 はじめに

  解説 固定資産の実地調査の意義(地方税法408条)

  報告者 図子善信

報告要旨
  「税」誌5月号掲載の「固定資産税の実地調査の法的位置づけと課題ー地方税法408条の解釈を中心としてー」(本HP論文にアップ済み)を報告。
 課税標準の価格決定および税額の賦課決定は、法律行為であって決定した金額は、売買契約で価格を決定したと同様の法律上の効果を有する。売買契約で決定した金額を裁判所が職権で変更できないように、税額も裁判所が決定額を変更できない。裁判所は課税処分の取消訴訟において、課税処分に瑕疵ある場合(行政官庁の意思表示に錯誤ある場合)に、取り消すことができるのみである。したがって、国家賠償訴訟において、税額が誤っているとして独自に税額を認定して差額の損害賠償を認める判決は不当である。
 この説明に対して、売買契約は対等当事者の双方の合意によるが、課税処分は課税庁の一方的行為により金額が決定される。それを、同様に取り扱うことは、不当ではないかとの質問があった。正に私法関係と公法関係との相違を指摘するものである。しかし、いずれも法律関係であり公法関係においては公権力の行使として行政機関の行為に法律効果を認めているのであり、その意味では私法上の法律行為と同様である。正当に法が認めた金額に対し、裁判所がそれと別の税額を認定することはできないと考える。 

2 検討裁決

  住宅借入金等特別控除(裁決事例集第77集18事例・全部取消)

  報告者 出口貴子 野口廣 

事実関係 
 夫婦共有の建物について、それぞれで住宅借入金等特別控除を適用していたが、夫婦が離婚し夫は財産分与で妻の持ち分を取得するとともに債務を引き継いだ。夫は、財産分与後に妻の持ち分に係る債務についても、住宅借入金等特別控除の適用をして申告をした。これに対して、税務署長は財産分与による妻の持ち分の取得は、新たな既存住宅の取得であり、1家屋について認める本特別控除を適用することはできないとして、更正処分を行った。

裁決

 現在住宅借入金等特別控除を受けている家屋の共有持ち分を取得した場合は、新たな既存住宅の取得とはならない。

報告要旨
 住宅借入金等の特別控除を規定する租税特別措置法41条は、家屋の着目して規定しており、同一家屋の持ち分を取得し、それに対応する債務を引き継いだときを新たな家屋の取得と解することには無理がある。したがって、本裁決は正当である。むしろ、何故このような場合に課税したのかが疑問である。
 国税庁は、この裁決を受けて同様の事例について、更正の請求を認める旨を周知しているようであるが、これは従来国税庁全体として否認していたことを意味する。その理由は、持ち分を別の新たな家屋と解していたというよりも、財産分与の場合を特例からの除外事由である配偶者からの取得と解していたからではないであろうか。

 以上の報告について異論は無く、本裁決による解釈の変更を歓迎するのが研究会の意見であった。


3 第13回例会について

  平成22年6月21日 月曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学御井学舎 学生会館第2ミーティングルーム

  検討裁決 外国税額控除(更正の請求を認めた事例)

  (裁決事例集第77集21事例・更正の請求に関し一部取消、更正等課税処分について全部取消)

  報告者  塩塚万紀子  馬場範夫

 



第11回例会

                    平成22年4月19日

         久留米税法楽修会第11回例会

1 はじめに

  解説 固定資産の実地調査の意義(地方税法408条)

  報告者 図子善信
  
  次回に行う。

2 検討裁決

  法人成りに際しての事業用資産の引継ぎを、課税資産の譲渡等とした事例(裁決事例集第76集事例27)

  報告者 藤岡廣子 国友武 

報告要旨
  養殖業を行う個人事業者が法人成りにあたり、まず金銭出資により法人を設立した後、事業に係る資産負債を一括して営業譲渡を行った。
  資産負債は同額であるとして、これについて課税資産の譲渡等の対価を0円とする消費税の申告をした。これに対して原処分庁は、資産の引き継ぎを資産の譲渡等とし、債務の引き受けを資産の譲渡等の対価であるとして、課税資産に対する債務引受額を課税標準額として消費税を課税したものである。
  審査請求人は、現物出資についてはその対価の額は取得する株式の時価と規定し(消費税法施行令45条2項3号)、出資される資産および負債を総体的に評価するが、本件もこれに準じて取り扱うべきであると主張した。
 裁決
  消費税法において請求人の主張する「営業」それ自体を一つの課税客体ととらえる規定は存在しない。
  また、消費税法上、営業の譲渡を現物出資とみなす規定はない。
  これを本件に当てはめると、当該債務の引受額が消費税法における資産の譲渡の対価に相当する。
  したがって、原処分庁の本件更正処分は適法である。
 この裁決については正当と考える。

討議
 営業を1つの課税客体とする規定は存在しないが、存在しないことが否定することにはならないのではないか。
 現物出資の規定は、現物出資の対価を取得した株式の時価とするが、それは資産負債の差額を意味し、現物出資の場合は資産負債を総体的に捉えているのではないか。
 その論理は、営業譲渡にも適用できるのではないか。
 むしろ、現物出資の場合の対価の考え方が変則ではないか。現物出資の場合も株式の時価に引き継いだ債務金額を加えたものが対価とすべきではないか。
 現物出資の規定は、引き継ぎ負債を調整することにより租税回避につながる恐れがあると思われる。
 以上、現物出資と営業譲渡を別の論理で解することは妥当ではなく、統一的に解すべきであるとする意見が大勢であった。
 
3 第12回例会について
  平成22年5月24日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 久留米大学御井学舎 800号館1階 812教室
  検討裁決 住宅借入金等特別控除(裁決事例集第77集18事例・全部取消)


第10回例会

             平成22年3月23日

         久留米税法楽修会第10回例会

1 はじめに

  解説 「簿価が額面を下回る債権によるDESと債務消滅益」

  速報判例解説―TKCローライブラリー 租税法No29    報告者 図子善信



2 検討裁決

   航空機リース事業に係る匿名組合員の損失を雑所得の損失と認定した事例(一部取消し)(裁決事例集第76集事例集9)

   報告者 江口裕規 平岡孝介
  報告の要旨は次の通り。 

   匿名組合は、出資が営業者の財産に属すること、匿名組合員は営業者の業務を執行できず、営業者を代表することもできない等、民法上の任意組合とはその法律構成を異にする。したがって、営業者にとって不動産所得に該当する所得であったとしても、匿名組合員にとってそれが不動産所得となるとは言えない。匿名組合員は、利益の配当を受ける立場であり、その収益は雑所得の総収入金額となり、損失を他の所得と損益通算することはできない。
 したがって、航空機リース事業により生じた損失を他の所得と損益通算した申告を否認した本件処分は、正当である。この審査請求を棄却した裁決は正当である。

  討議
   匿名組合の法的性格から考えると、課税処分を是認した本裁決は正当であろう。
   しかし、次の点から匿名組合を全く組合的性質を有していないと考えることには、なお疑問の余地がある。
    所得税基本通達(36.37共ー21)の改正前は、営業者の所得区分が匿名組合員の所得区分とされていたこと
    改正後も匿名組合員が業務に深くかかわっていた場合は、営業者の所得区分を匿名組合員の所得区分とする余地を認めていること
    民法上の任意組合による航空機リース事業については、判例は、組合員の不動産所得として損益通算を認めていたこと(現在は立法措置により不可)
    一般的に匿名組合はパススルーと考えられていたこと

   匿名組合に対する課税については、さらに検討する必要があるというのが結論であった。

3 第11回例会について

  平成22年4月19日 月曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム 

  検討裁決 法人成りに際しての事業用資産の引継ぎを、課税資産の譲渡等とした事例(裁決事例集第76集事例27)


資料
 1について
    「簿価が額面を下回る債権によるDESと債務消滅益」

1 事実関係                     

  P                    B  P社X社へ債権現物出資    X

          AP 社D銀行より
       1,6億円で債権購入          @X社 4億円長期借入金

                         D銀行

    X社処理

         DES債務の資本化として次の処理  

       長期借入金減4億円 / 資本金4億円 

   更正処分

      本件現物出資は適格現物出資であり、取得債権価額は1,6億円となるので、混同により2,4億円の債務消滅益が生じている。

2 判決
  DESは、現行法制上認められておらず、現物出資として法律構成される。その場合@現物出資A混同による債務の消滅B新株の発行/引き受けの各段階を経る。@とBは資本等取引となるが、Aの混同は資本等の金額の変更を生じないので資本等取引とならない。

3 評釈(図子)

  ○債務の全額が混同により消滅しているので、同額の債権が存在したことになる。同額の債権債務が消滅したのであるから、債務消滅益は発生しない。

  ○債権は4億円の価値があり、資本金4億円を増やすことは合理的である。

  ○4億円の債権は、現物出資の履行として移転しているので、資本等取引となる。

         (処理)

 現物出資     債権1,6億円 /   資本金4億円

       資本準備金2,4億円 /

 混同    長期借入金4.0億円 /   債権1,6億円

                  資本準備金2,4億円


第9回例会

                    平成22年2月15日

         久留米税法楽修会第9回例会

1 はじめに

  解説 「課税処分取消訴訟に関する一試論」税法学562号

  報告者 図子善信

2 検討裁決 周知の埋蔵文化財包蔵地の評価(一部取消し)

      (裁決事例集第76集事例20)

  報告者 黒岩延峰  大久保英明

  報告内容
    周知の埋蔵文化財包蔵地の路線価が、埋蔵文化財包蔵の事実を反映していないことから、相続財産である埋蔵文化財包蔵地の相続財産評価額を、路線価に基づく価額から汚染土壌地の評価減に類した方法により評価減をした価額とした裁決を正当とするものである。 通達に明記されていない場合でも、資産についての特殊の事情を主張することが可能ではないかとの意見、埋蔵文化財包蔵地の事情を路線価に反映させておくべきである等の意見があり、活発に議論した。

3 第10回例会について

  平成22年3月23日 火曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム 

  検討裁決 所得区分(不動産所得と認めなかった事例 棄却)

(裁決事例集第76集事例9)

  航空機リース事業に係る組合員の損失の所得区分を、不動産所得でなく雑所得とする処分事例


第8回例会

                   平成21年12月14日

                       場所 大同生命久留米支店

         久留米税法楽修会第8回例会

1 はじめに


2 裁決検討 重加算税(認めなかった事例) (裁決事例集第76集事例5)

  報告者 徳永幸一 江上英介

3 第9回例会について

  平成22年2月15日 月曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学 学生会館第2ミーティングルーム 

  検討裁決 周知の埋蔵文化財包蔵地の評価(一部取消し)

 (裁決事例集第76集事例20)



第7回例会

                    平成21年11月25日

         久留米税法楽修会第7回例会

1 はじめに


2 検討裁決 更正の請求の特則(相続税法32条の更正の請求期間の起算日)

      (裁決事例集第75集事例36)

       報告者 野田昇資 江口裕規

 
3 第8回例会について

  平成21年12月14日 月曜日 午後3時〜5時
  場所 大同生命久留米支店 

  検討裁決 重加算税(認めなかった事例) (裁決事例集第76集事例5)

  なお、例会終了後、忘年会を行う予定です。



第6回例会

                    平成21年10月19日

         久留米税法楽修会第6回例会

1 はじめに

2 判例検討

  従業員の詐欺行為による損失に係る損害賠償請求権の帰属時期

  (東京高裁 平成21年2月18日判決 原判決取消、納税者敗訴・上告)

  異時両建説か同時両建説か

  報告者 小野勇次郎 平岡孝介

3 第7回例会について

  平成21年11月25日 水曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第2ミーティングルーム

  検討裁決 更正の請求の特則(相続税法32条の更正の請求期間の起算日)

       (裁決事例集第75集事例36)




第5回例会

                    平成21年9月28日

         久留米税法楽修会第5回例会

1 はじめに

2 裁決検討

  外国子会社合算税制(適用除外要件)(裁決事例集第75集事例27) 

  報告者 出口貴子 国友武




3 第6回例会について

  平成21年10月19日 月曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学御井学舎 学生会館 第1ミーティングルーム

  検討判決 東京高裁 平成21年2月18日判決(原判決取消、納税者敗訴・上告)

       従業員の詐欺行為による損失に係る損害賠償請求権の帰属時期

       異時両建説か同時両建説か



第4回例会

                    平成21年7月13日

          久留米税法楽修会第4回例会

1 はじめに

2 裁決検討

  交際費等の特例(卒業祝賀パーティーの費用)(裁決事例集第75集事例26) 

  報告者 織田冬彦 花等長一郎


3 第5回例会について

  平成21年9月28日 月曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学御井学舎 学生会館3F 第2ミーティングルーム

  検討裁決 外国子会社合算税制(適用除外要件)(裁決事例集第75集事例27)

参考 図子ホームページURL

   http://www7b.biglobe.ne.jp/~zushi_yoshinobu/


第3回例会

                    平成21年6月22日

         久留米税法楽修会第3回例会

1 第99回日本税法学会大会(名城大学)について

2 裁決検討

  納税の猶予の不許可処分の取消(採決事例集第75集事例3)
  
  報告者 高野亮一 大久保英昭

3 第4回例会について

  平成21年7月13日 月曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学御井学舎 811教室

  検討裁決 交際費等の特例(卒業祝賀パーティーの費用)(裁決事例集第75集事例26)

第2回例会

                    平成21年5月18日

         久留米税法楽修会第2回例会

1 新入会員紹介および楽修会の運営方針の説明

2 解説(納税義務の成立と税額の確定)
  「税」誌5月号巻頭論文と関連させて

3 裁決検討

  関係会社の負債の弁済義務があるとの判決に基づき支払われた弁済額につき、求償権の行使ができないとして損金算入が認められた事例(裁決事例集第74集事例11)

4 第3回例会について

  平成21年6月22日 月曜日 午後3時〜5時

   場所 久留米大学御井学舎 811教室
   検討裁決 納税の猶予不許可処分の取消(裁決事例集第75集事例3)



第1回例会

                    平成21年4月20日

         久留米税法楽修会第1回例会

1 楽修会の運営方針について

2 解説(租税法律主義)

  税法概論六訂版における改訂事項について

3 裁決検討

  相続税申告後に相続財産について第三者の時効取得の確定判決があった場合、更正の請求が認められるか(裁決事例集第74集事例1)

4 第2回例会について

  平成21年5月18日 月曜日 午後3時〜5時

  場所 久留米大学御井学舎 811教室 

  検討裁決 求償権の貸倒(裁決事例集第74集事例11)


                                                                                   平成21年3月

              久留米税法楽修会設立趣意書

                     久留米大学教授・税理士 図子善信

    近年、行政改革の流れの中で行政の民主化、透明化の要請に応え、国税当局も情報の公開に努めている。その一環として国税不服審判所における裁決についても、多数の事例が公開されるようになった。最新の裁決事例集(平成20年度上期・第74集)は、各税法関係の28事例が登載されている。
   公表裁決は、法令の解釈や運用の先例となり、事実認定についても他の参考となる事例が選ばれており、実務および税法研究の格好の材料といえる。税務に携わる者が、これらの事例を研究する必要があることは自明であるが、多くの実務家、研究者は多忙であり、個々人でこれらの裁決の検討を行うことは極めて困難である。
   ここにおいて、九州北部税理士会久留米支部の有志より、これら裁決の検討等を行うための研究会を設立すべきとの提案がされた。研究会の会員が互  いに協力して税法を研究し、その成果を実務に生かし、さらに税法理論の発展に寄与したいとの真摯な意図に基づくものである。同時に、研究を通じて互いに交流を深め、情報を交換し、親睦を深めることができると考える。
   以上の趣旨の下に、設立される研究会については、次のとおりである。多くの有志の参加を期待する。

 1 名称 久留米税法楽修会(税法を楽しく修得する会)
 2 目的 裁決・判例を中心とした事例検討を通じて税法の理解を深め,併せて会員相互の親睦を図る。
 3 会員 税法の研究を志す者(自由参加)
 4 例会 原則として月1回久留米大学において研究会を開催する。
 5 会費 一定の事務費を徴する。
 6 調整(コーディネーター) 久留米大学教授・税理士 図子善信
 7 事務局 黒岩公認会計士事務所 〒830-0032 久留米市東町508−13
                            TEL0942-32-8212

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