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風待月(KAZEMACHITUKI)後編



 ここ数日間、日樹は朋樹との会話を故意的に避けていた
それというもの、自宅マンションまで一緒に歩いて帰ってきただけの拓真に対する義兄の態度が
ひどく気に召さなかったからだ
まるで自分の行動を一部始終見張られているような気がしてならない

あの日だって・・・
スケジュール変更の連絡もなし
張り込みでもしていたかのようなタイミングの良さだった

思春期の日樹はそれでなくても気難しくなり口数が少なくなっている
その上、義兄の監視が強化されているとわかればどうしても反抗的になってしまう
まったくの逆効果だった

二人の少しぎくしゃくした関係が滑稽で、鏡はそれをじっと傍らから見守っていた

不器用な二人・・・

冷静な朋樹にしては珍しくいささか感情的にやり過ぎだという気もしないでもないが
朋樹の身になれば当然のことなのだろう
大事な義弟を二度と辛い目に合わさせたくない
日樹を守ろうとする義務感からなのだ

そのおかげで人違いの拓真が被害を被った
このごろでは義兄と対等に渡り合えるようになった日樹
行き過ぎた己の行動に弁解はしないまでも、義弟のご機嫌を伺いをする朋樹
数年前とは確かに違う関係になってきている

二人を引き離してしまったのは自分のせいだと気がしてならない鏡にとって
以前と形が違っても修復されていく二人の関係を望み、それが何より自分を安堵させてくれる
同時に、ビジネス上では決して見ることのできない義弟思い、という朋樹の一面を垣間見れば
やはり少し寂しく、羨ましくもなる

「日樹さんは、ずっとあなたを慕っていたから」
私が貴方を取り上げてしまったようで心苦しいのです・・・

学生時代の鏡は、日樹のように細身でどちらかといえば女性的で優しい出で立ちだった
朋樹と出逢ったのもちょうどその頃だ
二十代後半になる今では、その面影ももう微かになっている
忠実に、そして朋樹のサポートを見事にこなす有能な青年秘書

ノンストップで上昇するホテルのエレベーターに二人は乗り合わせていた
鏡は腕に書類の束を抱え、階を知らせる表示の数字が順に変わるのを確認しながら囁いた

これからラウンジで客先と技術提携の打ち合わせが行われる
すぐ隣に立つ朋樹といえばいつものことだが、一糸乱れずにスーツを着こなし、
表情一つ変えずチラリと腕時計に見やった

「時間通りだ」
「今は貴方に感謝しています 私のように、きっと日樹さんもいつか・・・・」

そう言いかけた時に
エレベーターが30Fで停まった

「いくぞ」

扉が開くと、一足先に朋樹が降り立った
その後を鏡が追ってついて行く
何度も見るその堂々とした逞しい背

“日樹さんもいつか大切な人に巡り逢えるはずです・・・”

言いかけた言葉の続きをその背にそっと語りかけた








「俺、図書館に寄って行くから〜」

亮輔を追い越し際に、拓真が声を弾ませて勢い良く通り過ぎて行った
その後姿はなんだかとても楽しそうだった

試験前なのに野球をやってる時より嬉しそうな顔

亮輔は不思議でならなかった
ここ数日、拓真とは別行動になることが多い

試験はもう目の前
苦手な英語に四苦八苦し、とても笑顔を見せている余裕はなく憂鬱でならない
おまけに部活休止の初日はカラオケで時間をつぶしてしまっている
なのに相棒、拓真ときたら・・・

子供の頃から長い付き合いの亮輔には拓真の変化が手に取るようにわかる
二人の間であまり隠し事をしたことがなかったが

もしかして・・・


拓真は自転車を飛ばして駅向こう、通学途中の道を反対に曲がった先にある図書館に飛び込んだ
息を切って一気に二階へ駆け上がる
フロアに着くと、逸る心を抑えながらゆっくり静かにカーペット敷きの床を歩く
そして本棚とその間にある閲覧机をひとつひとつ確認していく

いない・・・
ここじゃない
先に着てるはずだけど・・・

姿を見るまでは不安だ

一番奥の西陽が当たる窓際近くの机にやっと目当ての人を見つける

(いた!・・・)

早くたどり着きたくて、そこからは早足で歩く

「諸藤さん!」

窓際の机にポツンと一人でいる拓真と同じ制服の生徒、日樹に声をかけた
自分では館内の静けさに違和感がないよう心がけたつもりだったが
どうやら嬉しさあまって抑えきれなかったようだ
拓真の大声を不快に思った周囲の人間がいっせいに怪訝そうな表情でこちらを向き
瞬時に注目の的になってしまった

「・・すみません・・・」
ペコペコとそこら中に頭を下げ、やっと日樹の隣に腰を落ち着けた

日樹がクスっと笑う

その笑顔が大好きだ・・・

こうして日樹と図書館で逢うのも今日で3日目

わからないところを教えてもらうこと
去年のテスト傾向をこっそり聞くこと
日樹がかつて名門校に通っていたことはすでに知っている
建前の口実よりも本音は日樹と一緒にいたいから、無理を言って時間を割いてもらっていたのだ

『かまわないよ』
そう言って日樹は即席家庭教師を快く受け入れてくれた

日樹にとっては拓真と一緒に勉強する場所は自宅でも良かったのだろう
だが先日の義兄の張り込みの一件もある
拓真はそう気にしていなかったようだが、いらぬ疑いをかけられ迷惑がかかるのは申し訳ないと
手ごろな図書館を選んだのだ

それに・・・
高原とのことも考えなければいけないと感じ始めていた時期に拓真の存在は新しいきっかけを作ってくれた

責任感の強い彼の荷を重くさせないようにと
陸上部を辞めることにし、高原の傍にいることを決めた
ところが、近頃は自分こそが高原にとって重荷になっているのではないかと思うようになってきた

求められているはずだった
なのに、今は自分が高原を求めている
このままでは高原を縛ってしまう自分を抑えきれなくなる

先日、怪我をした部員を病院へ連れて行くと高原から連絡があった時にあらためてそう思い知った

自分だけではない
彼にとって部員は皆な同じように大切なのだ
それを寂しく思う自分はすでに高原に対し好意以上のものを抱いている・・・
だが自分は高原を満たすことができないのだ



一方、隣にいる日樹の横顔を覗き込む拓真はつい、うっとりしてしまう

「・・ここ、わかったかな?・・」
「えっ?・・・あ、ああぁ大丈夫です」

半分以上はこうして日樹に見惚れているのだから、実のところ大丈夫なわけがないのだ
それでも日樹の教え方は上手で、重要なポイントだけをピックアップする
この技は本人が十分理解していなければ到底できないことなのだ

拓真のペースに合わせて問題を解いたり、試験に出そうな箇所を暗記するように指示する
いつもはまるきり理解できないようなところまでが驚くほどスラスラとすんなり頭の中に入っていく

そして拓真は時折触れ合う日樹の腕や、近づく顔、髪にその都度反応してはドキドキと赤面していた

ずっとこうしていたい・・・

閉館まであと30分、至福の時間はあっという間だ
ノートに書き込みをしている時、シャーペンの芯がポキッと折れた

「あっ・・・」
ノックして芯を出そうとしていると、ノートの真っ白いページを遮るように影が映った

・・あれ?・・・

気配に気づいて視線を上げれば、拓真の目の前に人が立っていた

「拓真ずるいぞっ!」
拓真が振り返ったそこには亮輔が不満顔で仁王立ちしていた


勘が良すぎやしないか?・・・
どうしてここを嗅ぎつけちゃうんだよ〜!!

今度は拓真が不機嫌きわまりない
ずうずうしく日樹と拓真の間に亮輔が割って入ってきたからだ

やっとここまでこぎつけたのに・・・

拓真に下心もちょっとばかりあったかもしれない
だが、清水の舞台から飛び降りる決死の覚悟でテスト勉強の指導を日樹に申し出たのだから
亮輔にバレてしまえば秘密にしていたことも全て水の泡

だいたいおかしくないか?
諸藤さんを挟んで俺とお前が座るのが道理にかなってるとは思わないか?
なのに・・・

亮輔が真ん中で、俺は諸藤さんから遠くなってるじゃないか!?・・・

『俺が赤点で休部になって一番困るのは拓真だろ?』
って、そりゃバッテリーのお前がいなくちゃ困るけど・・・

日樹との大切な時間をすっかり邪魔され残っていた30分間、拓真はイライラするだけで勉強どころではなかった
日樹も拓真の友人の亮輔とは面識もあり、教えてくれと懇願されれば無下に断われない

「俺が教わってたんだから・・・」
「まぁ、待て拓真 俺の方が切羽詰ってる」
「そんなの関係ないだろっ!」
二人は押し合いへし合い日樹を取り合う

そんな下級生二人のやり取りに日樹は瞳を丸くするものの少しばかり羨ましく感じていた

西蘭は名門の上、進学校であったため生徒同士の交流もシビアなものだった
西星に入学してからも、どこからか流れた西蘭からの編入ウワサで
興味深げに近寄ってくる人間はいても、好奇心たっぷりの目を向けられ親友と呼べる人間は一人もいなかった
陸上部でもそうだった
自分では気にかけないようにしていたが
高原以外からは常に刺すような冷たい視線を身に感じていた


実はそれも日樹の思い違いなのだ
周りの生徒ほとんどが日樹に対して憧れを抱き近寄りがたかった
容姿も成績も、スポーツ能力も全て最高のものを持ち合わせている日樹はある意味高嶺の花で、
憧れを上手く言い表せない奴らが全く反対の嫉妬心を日樹にぶつけてしまっていたのだ

それだからこそ、素直な気持ちを真っ直ぐに向けてきた拓真が日樹にとっては心地よく新鮮だった


今日は最悪だ!・・・
閉館時間になり、拓真はそそくさと教科書をしまいだした
その時だ、亮輔がとんでもないことを口にしたのだ

「諸藤さん、携帯の番号教えてもらっていいですか〜?」

えぇっ!?
拓真は相棒の発言に再び驚かされた

せっかく日樹との距離も縮まってきたというところに、ちゃっかりお邪魔虫で入り込んできた亮輔
その亮輔がとんでもないことを言い出したからだ
拓真にはそれが自分の口から出たことのように恥ずかしい

日樹の携帯番号は知りたかった
でも、もう少し時期を得てから教えてもらおうと思っていたところだ

(いきなりお前が聞くなよ!・・・)

驚いたのは拓真だけではなく、日樹もだった
じゃらじゃらと余計なストラップが付いた亮輔の携帯を目の前に差し出されてはとても断れる状況ではない
拓真はこんな強制的なやり方ではなく、自然な成り行きで知り得たかったのだ

日樹はカバンから自分の携帯を取り出した
手にしていたのはプラチナシルバーの携帯
拓真には見覚えがある

日樹と出逢い頭にぶつかった時に、散乱した荷物の中で一度目にしている印象深いものだった
男のくせに趣味の悪いにぎやかなオモチャつきの亮輔のものとは全く違い、
ストラップや装飾品は一切ついてない品の良さを感じさせるものだ

二つ折りの携帯を開いた瞬間、日樹の表情が微かに変化したことを拓真と亮輔はまったく気づきもしなかった

携帯を取り出したところで日樹は戸惑っていた
その機能も日ごろ通話やメールの受信ぐらいにしか使っていない日樹に
携帯電話は別段、生活に無くても不自由しないものなのだから他人に自分のデーターを教える方法など知る由もない
かといって、日樹が文明の利器についていけないわけではないのだ
人間には誰しも興味がなければ苦手なものもある
日樹にとってはそれだった
学力優秀で、陸上の好タイムも持っていて、全てにおいて自分達より格段の違いがある日樹の、
『どうしたら良い?』 と首を傾げるそんな仕草はミスマッチでならなかった

「貸してください」

亮輔は操作が苦手と思われる日樹を察し、携帯を預かりいとも簡単にデーターをコピーしてしまった
その指先の動きの素早さを珍しいものでも見るように日樹は瞳を大きく丸くし感激していた
そのおかげで亮輔は益々得意気になっていたのはいうまでもない

(諸藤さん、違います それはすごくも、エラくも、珍しくもなんともないことなんですよ・・・)

拓真は気恥ずかしくなった







「歩いて帰るから・・・」
そこまで言う日樹をもう引き止める事ができなかった
このまま一緒にいたくても、おまけの亮輔がくっついてくるわけで
楽しみにしていた日樹のマンションまでのわずかな道のりがバラ色から闇色に一転してしまった
いっそここで別れてしまった方がこれ以上の迷惑も恥もかかずに済む
せっかく自分が気を使って失礼のないように接してきたのに、亮輔がそれを全部台無しにしてくれるのだから

今日は断念だ・・・

「ありがとうございました、・・・じゃぁまた」
「諸藤さん助かりましたよ〜!!」

図書館前で自転車にまたがった拓真は勉強の指導の礼と別れを惜しむ
こうなると次回も絶望的かもしれない
日樹と二人きりで逢うことはこの先はもう不可能だろう
邪魔者除けに何か対策を考えなければ・・・

当の亮輔はやけにご機嫌でヒラヒラと日樹に手を振って自転車を走り出させた

散々面白くない目にあった拓真はプイと頬を膨らませ
亮輔との距離をぐんぐん離して自転車をこいだ
その後ろから亮輔も必死で追いかけてくる

二人は全速力で、いつの間にか日樹のマンションを通り過ぎていた

一緒に帰るつもりだったのに・・・
拓真はどこまでも面白くない

「化けの皮はいつか剥げるんだからさぁ〜猫かぶってもしょうがないよ〜拓真〜」
あっという間に亮輔に追いつかれ
意味深な言葉に拓真がブレーキをかけ急停止すると、亮輔も続いて停まった

「人間、外見をどう繕っても駄目ってことさ、要はここが大事ね〜」
亮輔は親指を立てて自分の胸をトントンと指すが、
拓真に言わせれば亮輔に限り説得力が無さ過ぎる

「何のことだよ!?」
「試験勉強なんて、どうせ諸藤さんを誘う口実だろ〜?」

ニヤニヤ笑う亮輔には拓真の本心をすっかり見抜かれていて返す言葉が無い

「そんな回りくどいことやってないでさぁ〜 ほいよ!」
亮輔がじゃらりと携帯を差し出してきた

「な、なんだよ・・・」
「あれ〜?これは諸藤さんのメルアドと番号だなぁ〜」

ちょっととぼける素振りをしながら
知りたいだろう〜?といわんばかりに見せびらかしてくる

「あと二日間、テスト勉強を一緒に混ぜてくれ、それでどうだ」
真剣な表情で交換条件を出す亮輔
まったく抜けめない

「交換条件に諸藤さんの個人情報かよ!」
「だって俺、赤点はちょっとまずいじゃん・・・」

相棒の方がいつも一枚も二枚も上手だ
だが考える必要は無い

「じっ、自分で諸藤さんに聞くからいいよ!!」
「できないくせに〜」
からかわれっぱなしではいい加減、腹の虫もおさまらない
拓真はさっさと我先に自転車をこぎだす

「あ、待てよ〜嘘だよ、うそっ!!〜お前のために聞いたんだってば〜おい拓真〜」

再び追いかけっこが始まった

わざわざ自分のために日樹から聞きだしたのだとはとても信じることができない
亮輔が何を言っても今度ばかりは拓真も振り向こうとはしなかった



どうせ、一週間経っても、一ヶ月経っても
聞き出すことなんでできないんだろがっ・・・
それが亮輔の捨て台詞だった






亮輔との追いかけっこを終わりにして 拓真が無事、日樹のメルアドを手にした頃だろうか、
日樹は自宅マンションのエントランスに足を踏み入れていた
そして即座にホールの隅にたたずむ長身の学生を見つける

亮輔に電話番号を聞かれ携帯電話を開いた瞬間、日樹を動揺させ
不在通知を残していた電話の主・・・

高原だ
横顔は悲愴感を漂わせている

「・・・高原さん?」
日樹の声がエントランスに響く

「あぁ・・諸藤か・・・」
振り向いた高原は近づく日樹を穏やかに受け入れる
いつからだろう・・・すぐには思い出せない
だが、もう随分前からその瞳を向けられていたことは確か

いつからここで・・・
日樹は少し視線を上に向けながら高原に訊ねる
「どうしたんですか・・・?」


「・・・逢いたかった・・・」
日樹は高原の両腕に捕まり体を引き寄せられていた
夕方のこの時間でありながらも
マンションのエントランスホールには人の往来が少ないのが幸いだった




人目も憚らず抱きしめられる
「高原さん・・・」
その胸に体をうずめるのは数日ぶり

高原にとって高校生活最後の夏がくる
部活もラストスパート、大会に向け最後の仕上げだ
そして進学を考えるならダブルで追い込みの重要な時期
今まで通り容易く逢えるわけではなくなってきた

力強く抱きしめられた胸元に耳を当てれば高原の鼓動が伝わってくる
すっぽり包まれる広い胸
今ではこの胸こそが一番に自分の落ち着く場所になっている

何もかも忘れて安らげる場所・・・
でも・・・いつかは離れていく
手放さなければならないもの

日樹は少し背伸びをして高原の唇を求めた






    

ふわっと柔らかく触れた瞬間
強く欲したのは日樹だった

密接に重ねた唇を何度も何度も角度を変えながら吸い上げた

「・・・っ・・・あ・・・・ん・・」

(・・・どうしてそんなに辛そうな顔をしているの・・・)

薄く閉じた瞳の向こうに高原の表情が窺える
そこには日ごとに危機切迫していく様子が感じられていた
近寄るものを振り払うような野性的な鋭い目を向けながらも時に切ない瞳を見せる

お前が欲しいから・・・、と

高原に支配されていく

呼吸をする少しの隙に、開いた唇の合間から高原の舌が日樹を求め
ゆるりと入り込む
それを受け入れた瞬間、全身に激しい旋律が走り
体内全ての筋肉や器官が反応し、ピンと締まるのがわかる

高原が日樹を探し当てる、それは触れ合えばすぐに絡み合う
すると今度は体の緊張が緩やかに解けていく
何度もしている行為なのにその度に新しい刺激を受けてしまう

もう止まらない・・・

「・・・んんっ・・・はぁ・・・っ・・ん・・・・」

荒立った高原の息遣いを感じながら
つい、鼻にかかる甘い声を漏らし縋ってしまう
膝も腰の力も抜け、もうその場に立ち居ることもできなくなり、高原に身を全て任せる

人目などもう気にかけることもない
誰が見ていようと関係なかった
むしろ他人に見られているかもしれないというスリルが二人を煽るのだ
欲望のまま貪り続ける

い・・・やだ・・っ・・・

心でそう囁いても体は逆に少しもいうことを利かない
自分が高原に満たされてきたことを思えば
今の暗く悲しい瞳の高原を拒否することなど考えられない
頭の中でグルグルと葛藤が駆け巡る

やがて高原がさらに奥深く突き進み、息継ぎさえできないほどに束縛し
いつもより激しさを増し、隅から隅まで丁寧に日樹を味わう

違う・・・いつもの貴方じゃない・・・

膨れ硬くなった高原の下腹部を感じ取った時
高原の手は日樹の背に廻り、学生服をたくし上げていた

だめっ、これ以上
こんなところで・・・

日樹は体を退け逸らし渾身の力を込めて高原を押しのけるが、よろめいたのは自分の方だった

ハッと我に返った高原が抱きしめていた腕は日樹を失い手持ち無沙汰に行き場を失い
自分を見つめる日樹の不安げな瞳を素早く察した

熱くなった体が一気に醒めていく

「・・・すまない・・・」
「うううん・・・」

伏目がちに詫びる高原に、日樹も静かに首を横に振った
貴方が謝ることはないのだから・・・・


どこかで抑制しなければと思っていたのに自分こそが高原を求めていた


流されていく自分を省みては
目の前の高原と微妙な距離をとっていた

風待月・中編
葵月