華麗なる対決(後編)

月夜眠短編集 3

 昨日の雨に濡れたのがいけなかったのか、佑の体は朝から熱っぽく、調子が悪かった。いつもの様にブルマ姿になったものの、全身が火照り軽い筋肉痛まで有ったので朝の体育は欠席し、他に休んでいる女の子達と一緒に雑談をしていた。

「よう、井上?」
「なに?今日あの日?」

 バカな事を言って通りすぎる男子生徒を軽くあしらって、再び火照った顔で女の子達と雑談。だけど、あ、だめ。今日気分悪い。
「先生、今日早引けしまーす」
 そう言うと佑は更衣室へ向った。


「まあ、どうしたんですか。ご気分すぐれませんか?」
 戻った花柳院屋敷では、あのお手伝いさん達がいろいろ気遣いしてくれる。でも佑は少しでも早く寝たくて、部屋にたどりつくと、制服のままベッドに寝転がる。
(風邪かなあ…)
 なんて思いながら、天井を見つめているといつのまにか佑の意識が途切れた。

 再び佑の意識が戻ったのは昼過ぎだった。全身の倦怠感と火照りは大分納まり、ベッドのシーツの冷たさが気持良かった。
(あ、起きて着替えなきゃ)
 だが、そうはいかなかった。佑の下半身は何かを求める様にうずうずしはじめる。よく考えてみたら、この部屋に来てから鈴那に気がねして、そう一人エッチしてなかったんだ。1ヶ月も我慢できたのが不思議だった。なんか、したくなかったし。
 でも今日はなんだかいつもと違った。佑の手はスカートごしに男性自身をまさぐりはじめる。
(女の子の服着てするなんて、初めて…)
 でも今日はなんだかいつもと違う。佑はだんだん憤りはじめた。いくら触っても男性自身は小さいままだった。
(いったいどうして!?)
 寝転んだまま、佑はスカートとブラウスを脱ぎ捨て身軽になろうとした。その時佑の左手がブラ越しに乳首に、右手が太もものあたりに触る。
(ひゃん!!)
 一瞬ためらったものの、佑の手はそこを離れなかった。いつもと違う一人エッチだけど、なんだかとっても気持いい。特に、胸…。痛い様なむずがゆい様な、冷たい様な、そして切ないような…。
 佑の口からはだんだんよがり声が出ていく。そして相当時間楽しんだ佑の男性自身からはようやく何か出る、といってもとろっと出て来るといった感じだったけど、一応佑の求めていた物が出た。
(!?)
 急いで飛び起きた佑がそれを見てちょっとびっくりした。それは濁りがなく透明でさらさらしたものだった。
(あの時の風邪が原因なのかなあ)
 そう思いつつ、疲れた佑は再び眠りに入る。

 鈴那と同じ屋敷に住んでいるとはいえ、いつも鈴那は朝は車で。夕方は帰宅してもすぐ勉強や習い事で、あまり佑とは会う事が無い。しかしここ最近は何故か寝る前に佑の部屋に来ていろいろ雑談する様になった。女王様タイプの性格とはいえ、ベッドに並んで座っていろいろお話しする限りでは、別段変わりのないちょっと気の強い女の子という感じだった。只、時々佑の体を触って行くけど、特に変な所はなく、佑もさほど気にしなかった。
 佑自身といえば、あの時初めて経験した一人エッチの気分が忘れられず、毎日夜少しの時間行う様になつてしまった。佑自身は気付かなかっただろうが、胸を触り、腰をくねらせ、だんだん高い声になっていくその様は、外からみれば間違いなく、日に日に女の子の一人エッチに近づいていた。
 6月も終りのある朝、久しぶりになんだか気持いい朝を迎えた佑は、大きなあくびと背伸びした後、パジャマ替りのピンクのフレアーパンツとキャミを脱ぎ捨てた。
(なんだか最近体が軽くなった様な…)
 全裸のまま、何気なく部屋に置かれた大きな姿見に自分を映す。と佑の目は鏡に映った自分にちょっと釘付けになった。
(ち、ちょっとこれ…)
 以前の自分は、体毛こそ薄いものの、ちょっと筋肉質の体だったはず。でもそこに映った自分は…
 まず、乳首は倍位の大きさになって、少し茶色くなっていた。
(う、うそ…)



 思わず手の指をそこにやると、乳首の先に何かくっついてる様な不思議な感触、そしてみるみる突起が大きく、見事な円筒形になり、両方の先端の先には一筋の線が走っていた。手を外しそのまま鏡を見ると、大きく隆起した乳首はつやつやしと光っている。
 乳首だけではなかった。全身は明かに白くなっていて、体のでこぼこした部分がかなり消えてて、胸のあばらの凹凸も消えかかって、そして…、
(こ、これって、まさか!?)
 まだ隆起した乳首の中心に、消えかかったあばら骨の上に胸の肉が綺麗な円を描きはじめている。下半身の茂みは、おへそから下る毛は全てなくなり、逆三角形のヘアに揃いつつあった。
 ほかにも、腰から太腿にかけて体の線ははっきりと判る位丸みがかかりはじめ、下腹部がぽこっと出始めている。
(ぼ、僕…ひょっとして、体まで女の子に?)
 もう一人称では「俺」という感覚は無かった。最近「僕」と思う事すら、なんだか野蛮に感じてしまう。
(どうしよぅ…僕、なんにもしてないのに)
 顔を真っ赤にしながら、そそくさと制服に着替え、お手伝いさんの作る朝食もそこそこに、急いで学校へ向う。
 学校でも、一部女子生徒達が佑の変化に気付いて、いろいろ話してくる。
「井上さん、なんか最近すごく女っぽくなったね」
「体の線が細くなったみたい」
「毎日女の子の服着るとそうなるの?」
 ブルマ姿になった時も、最初はがさがさだったヒップの部分はすっきりと肉が埋まり、鏡で見ても、小さいけど綺麗な丸みが佑のヒップに出来ている。そればかりか、走っている時なんて、ヒップの肉がぷるぷると動く様にもなっていた。
 佑はもうどうしていいかわからなかった。相変らず寝る前の一人エッチは続く。その行為が自分を女性化しているかもしれないのに。でももう我慢できなかった。
(僕、女の子になりかかってる)
 胸を触る指も日ごとにすべすべと柔らかくなっていく。丸みをおびていく体に、あちこちに性感帯が出来て行くのを、佑は全身を触って感じていた。
 当初佑をバカにしていた持明院伊織は、佑に何やら只ならぬ雰囲気を感じたのか、最近は会ってもからかいの言葉すらない。鈴那はクラスでもあいかわらず上機嫌だった。
 7月に入ると体育は水泳に代わる。男子は水泳半分陸上半分だけど、女子は違った。女子更衣室の中では、もう女の雰囲気を出し始めた佑に、女子生徒はためらわずに横で着替える。
(とうとう僕、水着まで…)
 佑も他の女の子の真似をして、スカートはいたまま水着をはき、Tシャツの中で水着に腕を通す。ナイロンの水着がつるつるし始めた佑の体を覆って行く。
(あ、いたた…)
 と、水着のストラップが乳首に当たると、みるみる佑の乳首は隆起していく。とその時、
「佑クンタッチィ!」
 最近仲の良くなった女の子が、着替え中の佑の水着の中に手を滑らせ、乳首を触る。
「あ、ちょっと!」
 佑の口からしまったという感じで声が漏れる。
「ちょっとこの子井上さんにタッチしてるよ…」
 数人の女の子の笑い声、ところがタッチした女の子はそのまま佑に抱き付いたまま離そうとしない。その子の指は佑の大きくなった乳首を触ったままだった。
「い、井上さん、ちょっと胸見せてよ!!」
 そういうとその子は佑からTシャツを剥ぎ取り、水着の肩のストラップを外そうとする。
「あ、ちょっと、待って…」
 もう遅かった。水着の胸の部分が露わになり、まわりに集まってきた女の子達に、佑の変化した乳首がばれてしまう。
「ちょっと、これ!」
「膨らんでる!」
 女子生徒達が、恐る恐る佑の胸を指で触り始める。
「あ、あのさ、医者行った方がいいかもしれない」
 女の子達が僕に忠告してくれた。
 と、その時、いつ入って来たのか、ちょっと鋭い目をした持明院が、女の子達を押し分けて佑の前に来た。
「ちょっと!伊織!」
 気が付いた鈴那が叫ぶ中、伊織が少し怯えている佑の胸を右手でさっと触る。
「まさか…ね」
 大正袴のその美少女は、女に対する軽蔑の眼差しを佑に向けた。
「ねえ、伊織さーん、今A組が着替えてんのよ!でてってくださらない!?」
 鈴那がそう言い終わらないうちに、既に伊織の姿は女子更衣室から消えていた。
 そんな水着姿の佑を、クラスメート全員が何故かにこやかに迎えてくれる。暑くなってきた日差しの中、ちょっと照れて赤くなる佑の背中を、太陽が早くも焼き始ていた。
「井上さん、覚悟はいい?女で泳ぐのは?」
 東野先生の冗談めいた声と皆の笑い声。そして東野先生の笛の合図で、キャッキャッ言いながらプールに飛び込む女の子達。
(本当、服着たまま水に入るみたい)
 佑はゆっくり水に入っていく。ナイロンの水着が下から少しずつ濡れて行くのがなんだか気持いい。それに皆と一緒の水着。女の子達と同化したという不思議な感覚に酔う佑。すかさず東野先生が横に来てくれた。
「よかったわねえ、女で体育受けて。男子はほら、まだ陸上よ、ほら」
 東野先生が指差す方向を見ると、炎天下の中、走らされている男子クラスメート姿。とその目線の手前に何やら動くものが有った。
「あれ?」
 パチリ!と何か音がしたかと思うと、逃げる様に走って行く一人の大正袴の女の子の姿が佑の目に映る。
「あ、伊織だ。また何か偵察みたいなことしてる」
「言わなくてもわかってるわよ。今時あんな姿でがっこへ来るのは日本中捜してもあの子しかいないわよ」
 東野先生と佑は顔を見合わせて笑った。
「しかしねえ、女装コンテストの練習でここまでやるかあ普通!ハワイに行けるとか言うけどさあ…」
 その時、東野先生は、水着ごしの佑の乳首の変化を見逃さなかった。
「井上さん!ちょっと上がって!」
 何がおきたのかわかんないまま、皆の視線をあびつつ、東野先生と佑はプールから上がる。そのまま女子更衣室の入口まで連れて行かれた。
「井上さん、ちょっと胸見せてくれる?」
 一瞬ためらったものの、佑はうつむきながら、水着の両肩のストラップを腕から外して先生に見せた。冷たい水に反応したのか、佑の胸の乳首は女の子のそれと同じ位に大きくなっていた。
「井上さん、これ…」
 先生が指で膨らみ具合と形を確かめる様に、佑の乳首をなぞっていく。
「ねえ、井上さん。薬か何か飲んでる?」
 佑は無言で顔を横に振る。
「ちょっと!花柳院!!おい!」
 大慌てで、先生が鈴那に事情を聞こうと出て行く。でも佑はちょっぴり嬉しかった。学校の皆が、佑が本当に女性化していくのを知ってくれたからである。  
「ねえ、鈴那さん」
 少し前から、佑は鈴那を「お嬢」と呼ぶのを禁じられていた。
「何かしら?」
 今は休み時間。ノートを開き、シャーペンを手に英語の教科書を見ながら、鈴那がそっけなく返事。
「僕、ちょっと最近変なんだけど…」
「あらそう?」
 相変らず佑を無視する様な感じで鈴那が答える。
「僕に、何もしてないよね?」
「何かしたかしら?」
 ノートに何やら書きながら、鈴那は相変らず無関心を装ってる。
「…もう、いいよ」
 スカートをひるがえし、去って行く佑を見ながら、ひそかにほくえそむ鈴那に誰も気づかなかった。
 少し不安を感じながら、佑の女子学生生活は続く。いつも通りで水泳の授業に参加する佑の股間には性転換パットは消えていた。する必要が無い位、小さくなってしまったからである。
 7月も半ばがすぎる。相変らず佑は女の子としての生活を続けていた。佑の体が本当に女性化していってるのを学校中が気づいてはいたけれど、でも今のところ誰も原因がわからなかった。それを知ってそうなのは鈴那位だが、誰に何を聞かれても鈴那はその事について何も話さない。時折伊織がクラスの入口から覗いているのを見かけるが、それを見た鈴那は何も喋らず只勝ち誇った笑いを続けていた。



 夏休み初日の早朝、白字に子犬と子猫の柄の入ったパジャマで寝ていた佑は、突然鈴那の部屋に呼び出された。眠い目をこすりながら鈴那の部屋へ行くと、旅行の支度を調えた鈴那が椅子に座っている。
「井上クンおはよう。あたしなんだけど、夏休み中はイギリスへホームステイするので、その間ちゃんと水瀬先生に従うのよ。おわかり?」
 まるで女王様を気取った様な鈴那の態度に、前とは違うお尻の柔らかさを気にしながら、佑は後ろ手で自分のヒップをパジャマ越しに触りながら、ちょっと不機嫌そう。
「ねえ、お嬢、じゃなくて鈴那さん、僕に何かしたでしょ?」
「別に…、もう前からしつこいわねえ!」
 花柳院は何気なく長い髪を手でかきあげたが、その仕草には何か動揺を隠している雰囲気が佑にも見てとれた。
「僕さ、…なんか体まで」
「気のせいよ!気のせい!」
 そう叫んで椅子から立ち上がった鈴那は、すぐ自分の取った言動が早すぎた事を後悔する。
「やっぱりなんかしてたんだ…」
 そう言うと佑は、水瀬先生に教わった様に、手を前でクロスして、自分のパジャマを脱ぎにかかった。
「ちょっと!何するの!?」
 鈴那の制止も聞かず、パジャマを脱ぎ捨てた佑は、以前より白く滑らかに、そして少女らしい曲線で縁取られた上半身を鈴那の前に晒す。
「ほら…」
 窓から入る朝日に照らされた佑の白い体と対象的に、少し黒ずみ大きく丸くなった突起が、柔らかく膨らんだ2つの胸にくっきりと浮かんでいた。
「ふ、太っただけよ!」
「もういいよ…」
 佑は素早くパジャマを着ると、ドアへ駈け寄った。
「ちょっと!井上クン!」

 何か鈴那が後ろで叫んでいたけど、佑の耳には聞こえなかった。後ろ手にドアを乱暴に閉めると、佑はその足で水瀬先生の所へ向った。
「ふっ、ばれたって構うもんですかっ。敵もここまで来てるっていうのに…」
 椅子にどさっと腰かけると、鈴那は机の引出しから何やら興信所の名前の書かれた封筒を取り出した。中に入っている書類や何枚かの写真に一通り目を向けた後、軽く舌打ちをしてどこかに電話をし始める。
「花柳院だけど、カラカサ教授いる?…そう。じゃ、至急私まで電話する様に言ってちょうだい!」


「…ランララーン、いつも通りのぉーあたしでいたーぃ♪」
 屋敷の厨房では、明日からの鈴那のイギリス行きが嬉しくてたまらないという雰囲気で水瀬先生がご機嫌でお気に入りの曲を口づさみつつ、佑の朝食を作っていた。
 出来あがったポテトサラダとリゾットの朝食の味見をした後、
「今日わぁー、特別嬉しい日だからぁー、いつもより多めにぃー♪」
 水瀬先生は上機嫌で歌う様に独り言を言うと、傍らの「再精製るびぃじー」と書かれた小さなビンを手に持った。
 どぼどぼどぼ…と佑の朝食に容赦無く降りかけられるその薬品を手に、水瀬先生の目はいつしかその光景をドアの横でじっと見つめるパジャマ姿の佑に向けられていた。
「あ、あははっ、あ、あのっ、井上クン、おはようっ、あははははは…」
 その小ビンを隠そうか、それともかえって怪しまれるのでそのまま手に持とうか、あたふたする水瀬先生だった。
「やっぱり、そういう事だったんだ。」
「えっえ?な、なんのことかなあ?あはは、あ、これ?これは、その、そそそ、美容にいい、そ、そうよコラーゲンよ、コラーゲン、あははっ」
 引きつった笑いを続ける水瀬先生を少し睨みつつ、佑は水瀬先生の側に寄る。
「ねえ、文化祭終ったら、元に戻してくれるんだよね?」
「え、え?何の事かな?」
 しかし、佑のその言葉と以前よりも透き通った様になった佑の目に睨まれた水瀬先生の頭には、
(もしかして、ばれた!?)
 という疑念が渦巻いていた。
「あ、あの井上クン。その、言い難いんだけど…。あの、大丈夫!文化祭終ったらちゃんと男の子の体に戻る様に…」
 突然佑の目が大きくなった。
「やっぱり!やっぱり!何かしてたんだ!その薬なんでしょ!僕がこんなになった原因は!」
「え?ひょっとして、知らなかった?ま、まさか、あたしにカマかけた?」
 佑の単純な作戦に引っかかって真実を自ら暴露してしまった水瀬先生。
「あ、あのっ、あのっ、今日いい天気ねえ、あははっ!あ、今日の朝ご飯何かしらって、あ、あ、えっと、ポテトサラダとリゾット、えっと何で知ってんだっけ?自分で作ったから??あ、あはは…」
 気が動転してめちゃくちゃな事を喋る水瀬先生をじっと見つめる佑。そして彼女のスカートを指で突つくと、水瀬先生ははっとわれに帰った。
「あ、あの井上クン。隠しておいてごめんなさい!ごめんなさい!あたしも、鈴那お嬢様には逆らえないのよぉ!その、結構給料いいしさ…」
 申し訳なさそうに両手を合わせて拝む様に頭をぺこぺこさせる彼女に、佑は初めて微笑みかける。
「ねえ、水瀬先生。絶対元に戻してくれるんだよね?じゃ、僕女の子になるからさ。僕、じゃない、あ…あたし、頑張るから!そのかわり、絶対可愛くしてよ。約束だよ!」
 水瀬先生の驚いた表情が、佑の目にしっかり焼き付いた。



その日の午後、形だけ鈴那を空港へ見送りに行き、鈴那の乗った飛行機が飛び立ったのを見届けた佑と水瀬先生は、空港ビルの見送り用場所で派手に両手を打合って喜んだ。
 その足で水瀬先生に連れられ、ファンデーションショップに連れて行かれた佑は、彼を女の子と信じた女性スタッフにより体のサイズを細かに測られていく。そこを出た時、佑は、自分の胸に出来た2つの膨らみを軽く触ってうれしそうに髪をかきあげた。佑の胸にはしっかりBカップのブラ、そしてちょっと可愛い手提げ袋には同じサイズのブラやショーツ、ガードルがたくさん詰まっていた。
 次の日、夏休み用の衣類を買いに渋谷まで出かけた佑は、同世代の人込みでごったがえすブティックのむっとする女の子達の熱気に少し気後れしたが、10分も経てばたちまち慣れっこになり、原色系やパステル系の色鮮やかな小さな布切れを他の女の子達と争う様に手に取って選んでいた。嬉しい事に、このちょっと不思議な佑の買い物に、瑞穂を始めクラスの女の子達も面白がって一人また一人と佑をショッピングに誘い始めた。

8月に入ったある日の朝、いつも通りクラスメイトの女の子達と喫茶店でお茶をしている時の事。
「ほら、佑子、カップ持つ時ちゃんと小指立てなきゃ」
「あ、ごめーん。また気が緩んでた」
「あとさ、今日また歩く時足が外向いてた」
「ごめん、ごめん。本当にありがとね、いろいろ」
「ほら、ちゃんと脇閉める!」
 女の子達のアドバイスを聞きながら、頭の中に繰り返しその言葉を刻み込む佑。最近は水瀬先生よりも、クラスメートの女の子達と遊ぶ方が多くなってきている。今日は水色のキャミソールと紺のデニムのミニスカート、そして、冷房対策用の白の薄いジャケットを羽織っている。既に佑の皮膚は普通の女の子並みに白く透き通る様になっているけど、その反面かなり弱くなっていて、強い冷房の風には耐えられなくなっていた。
「ごめんごめん、遅れちゃって」
 佑の見知らぬ女の子が一人現れ、開いていた佑の隣に座る。
「さおりー、遅いじゃん!あ、隣の子佑子って言ってあたしのまぶだちだから」
「はい、じゃ写真撮ろ写真!あたし沙織って言うの。覚えていてね」
「イェーイ」
 始めて会ったばかりなのに佑とその女の子は肩を寄せ合って、瑞穂の持つ携帯のカメラに収まった。もうこういうのは慣れっこになってしまった佑。確実に女の子ネットワークの中に解け込んで行く自分が不思議でならなかった。
「佑子さんボーイッシュで格好いいですね。彼氏とかいるんですか?」
 いきなりの沙織の質問。でもこういうのも慣れた。
「ううん、いないの」
「へええ、あたしの知り合いでボーイッシュな子好きな男いるけど、紹介してあげよっか」
 沙織に天然の女の子扱いされて、佑は膨らんだ胸と退化した男性自身が同時にキュッと感じるのを覚えた。
「あ、嬉しいけど今はいいの。そのうち御願いするかも」
 手を胸の前で踊る様にさせて、そして沙織の肩へちょっとスキンシップ。本当女の子ってこういう肌のふれあいって好きなんだ。



「でさー、沙織。海行く話しどうなったの?」
「あ、来週の月曜日行こう!大磯のロングビーチ」
「佑子も行くよね?」
「え…え!あ、あたし!?」
 瑞穂にいきなり振られ、言葉を失う佑。
「えー、行こうよ。あ、肌焼きたくないとか?大丈夫。いい日焼け止め紹介したげるから」
「いえ、あの、そんなんじゃなくて、水着…持ってないんです」
「なーんだ!じゃ今から買いに行こうよ。お金あるんでしょ?」
 もう、沙織という女の子が突っ込む突っ込む。
「佑子、いいじゃん、あたしも行くからさ」
「あたしも行く!」
「いいの選んであげるよ!」
 他の女の子達も面白がって、とうとう水着を買わないといけない状態になってしまう。
(もう!瑞穂!)
 佑のそんな目線に、Vサインで笑って返す瑞穂だった。

 季節外れで特価だけど、品揃えが今一つにもかかわらず、渋谷の専門店でわいのわいので選ばされた水着は、ちょっと大人びた雰囲気の黒に白の水玉とロゴの有るロングパレオ付きの水着だった。ビキニを買わせたがる沙織を、瑞穂が大人びてるからとか、体形のメリハリが無いからとかいろいろ理由を付けて制止してくれたんだけど、本当もしビキニ買わされる事になったらどうしようかと、佑は本当生きた心地しなかった。
「下着の上から試着して下さいね」
 店員のその言葉に、女の匂いの満ちた試着室へ行く佑。デニムのミニスカを脱ぎ、水色のタンクトップを脱ぐと、白のプラパン姿のほっそりした色の白い女の子?が鏡に写った。プラを外すとそこにはもう男とは思えない程に膨らんだ胸、その先に付いている大きくて丸い乳首。
(大丈夫かな)
 そう思いつつ、その水着を両足に通して体を通すと、学校のスクール水着には無い、何だか柔らかくてつろつるした布が体を覆っていく不思議な感覚に少し酔った。
(えーっ、これ僕なの!?)
 特にどこにでもいそうな女の子が水着を着てちょっと愕いてるって感じで鏡に映っていた。でも、うーん、股間が…わからなくもないんだけど…、わかんないか!
「すいませーん」
 佑の言葉に日焼けした店のスタッフが試着室に来る。
「はーい、失礼しまーす」
 試着室に入ってきたスタッフにちょっとどきっとしたけど、別に気にする事なくまず佑の着ている水着の胸を触り、それから腰の方へ指をなぞらせていく。
(うわー、女の子の指ってこんなに柔らかいんだ)
 当然そんな事を佑が思ってるなんて思わない女性スタッフは、相変らず佑の水着の肩の部分とか胸のカップを触っている。その人ごしにクラスメートの女の子達、特に瑞穂が手を口にあてて大笑いを隠そうとしていた。
「うん、大丈夫みたいですね。えっと、何かスポーツやってました?腰がちょっと小さいから、パレオをちょっと上にボリューム出る様に巻いたらいいかな?」
 スタッフにパレオの播き方を教わった後、その場で皆にお披露目となつた。
「わあ、似合ってる!」
「ビキニよりこっちの方が良かったじゃん!」
 皆の賞賛を浴びつつ、なんだかもう元に戻れない様な思いが佑の頭をかすめた。

「みんなありがとね。じゃ海あたしも行くからよろしくね。そうそうあたし今から別の用事が有るから、ごめんね」
「えー、そうなのー、せっかくお友達になれたのにー」
「ごめんねごめんね」
 ちょっとふくれる沙織を抱く様にスキンシップ。ブラ越しの大きな彼女の胸が佑の膨らみはじめた胸に当たる。たちまち沙織は機嫌が良くなった。
「じゃ、みんなまたねー、ばいばーい」
 水着の入った手提げ袋を片手に、胸元で小さく手を振る佑の姿は誰の目にも普通の女の子だった。そんな佑は次行く場所にはちょっととまどいが有る。クラスメートの眞城蛍太と新宿で待ち合わせしてるのだが、その理由というのが…

(女の子とデートした事が無いから、まず井上で練習させてくれって、なんだよーそれー)



 午後3時に待ち合わせのファミリーレストランに到着すると、蛍太が既に席に座っていた。
「お、おい、井上!お前本当に井上なのか?」
「そうよ。多少はびっくりするかも知れないと思ってたけど、予想通りの愕き方されて嬉しいわ。あ、あたしアイスレモンティー」
 ウェイトレスにオーダーした後、
「あー、疲れた…」
 大きく肩で息する佑。
「なんでそんなに疲れてんだよ」
 のんきにそんな事を言う眞城に佑はちょっとあきれた。回りに人がいないのを確かめてから佑は小声でちょっと強めに話し出した。
「あのさー、只でさえあたし男なのに女として振舞わなきゃいけないんだよ!それにさ、薬の影響で疲れ易くなってるし、皮膚だって弱くなってるし!強い冷房なんて本当辛くなってるのよ!それにさ、こんな短いスカートはいてたら、パンツ見えない様に気を使わなきゃいけないし!仕草だってさ!それにさ、さっきも女の子同士でお茶してたんだけど!女同士のコミュニケーションてどれだけ大変かわかる!?どれだけ気を使わなきゃいけないか!?男の数倍は気使い必要なんだよ!それにさ…」
「わかったわかったよ。今日はそんなお前労ってやるつもりで来たんだからさ。好きなの食っていいよ。おごるから」
「え!本当!?」
 奢るという言葉に急に機嫌が良くなった佑は、ケーキを2つ追加オーダーした後、蛍太の前で手提げ袋から何やら取り出した。
「お、おい、井上、それ…」
「じゃーーーん!水着だよ、あたしの。今度これ着て女の子達と大磯行くんだー」
「だって、お前、大丈夫なん?」
「えへへっ、胸もBカップになったしね。体にもとても柔らかな脂肪いっぱい付いて来たし」
「やっぱり花柳院のせいなのか?」
「そうだったらしいけど、別にいいもん。文化祭終ったら男に戻してくれるらしいし。あ、そうそうそれでさー…」

 既に女が体にかなり染み込んできた佑は、本当の女の子みたいに延々といろいろたわいも無い事を眞城に話し始めた。もともとこんなお喋りではなかった佑の豹変ぶりに、蛍太は只あきれるばかりだった。ところがそんな蛍太の心に何か異変が起きはじめていた。元々女の子と付合った事の無い蛍太。そんな蛍太に長々とお茶を付合ってくれて、いろいろお話ししてくれる、かりそめの女の子。それが自分の同性のクラスメートだとしても…。

(か、かわいい…)

「え?どうしたの?あたし何か変な事喋った?」
「い、いや別に…」
「どうしたのよ、そんなにじっと見つめられたら恥ずかしくなるじゃん。それでさー…」
 蛍太にとって、今までにこんな楽しい一時は無かったかもしれない。いつしか時間は夕方の6時位になってしまった。
「あ、やっだー。もうこんな時間」



「あ、あのさ。お台場にちょっといいとこ有るんだけど、そこでご飯にしない?」
「え?蛍太が奢ってくれるんならいいよ」
「え!本当!?」
「本当って、この前あたしが奢ったじゃん。お返しだとおもえばさ」

 蒸し暑く熱帯夜になりそうな雰囲気の夕暮れ時、ファミレスから出た2人が駅へ向おうとしたその時、
「あ!」
 佑の声に、蛍太は佑の目線の方向へ目をやると、
「あ、あれ、関本じゃん!?」
 通りの向こうを店のディスプレイライトに照らされて、真っ白なミニスーツの関本美幸が1人で赤のショルダーバックをかけ、駅から遠ざかる様に歩いて行く。
「ねえ、こんな時間1人でどこ行くんだろ?ちょっと後追って見ない?」
「えー、やめとけよみっともない」
「何いってんのよ!仮にもあたしのライバルなのよ!ちょっと!どこへ行くかだけでいいんだから!」
 いきなり蛍太の手を取り、大急ぎで横断歩道を渡ろうとする佑。とその途端、
(うわっ柔らかい…)
 柔らかく冷たくなってしまった佑に手を握られてしまった蛍太は、とうとう佑に女を感じてしまう。そんな蛍太の気持を知らない佑は、蛍太を引き連れて美幸の後を追う。そのうちにだんだん人気のない路地まで来てしまった佑達。
「美幸、どこに行くんだろう…」
 と、とある病院らしき建物の前で美幸の足が止まる。
「あ、あの病院は…」
「佑子!あ、危ない!」
 美幸が左右を確認するために振り向こうとした瞬間、蛍太は思わず佑の女の子ネームを小声で叫び、佑を後ろから両手で捕まえて横の物陰に引っ張り込んだ。
「あ、蛍太ありがと、もう少しでばれる所だったわ。ねえ蛍太!あの病院、あたし水瀬先生から聞いてるの。あたしの受けてる様な女性ホルモン打ってくれる所なんだって…」
 ところが蛍太は佑の体をしっかり捕まえたまま話そうとしない。
「蛍太?あ、ありがとう、もういいよ。中に入っていったみたいだから…」
 佑が体を振りほどこうとしても、その体は蛍太に抱かれたままびくともしなかった。
「け…蛍太!?」
 髪から漂うシャンプーの香り、そしてぼちゃぼちゃになった佑の体、そして、いつのまにか佑から漂ってくる様になった甘い処女の香り。蛍太はすっかり佑に異性を感じてしまった。
「井上…佑子、俺、お前の事、その…、好きになっちまったみたい」
「えっ?えっ??」
 一体今、この一瞬何が起きているのか判らなくなってしまった佑。そんな佑を蛍太は前向きにしっかり抱き直し、滑らかになった佑の肩をしっかり抱きしめた。
「ち、ちょっと!蛍太!蛍太!しっかりしてよ!あたしたち…その、僕達」
 蛍太の胸板に佑の膨らんだ胸がぎゅっとくっつき、蛍太の大きく熱くなった男性自身が佑のデニムのスカートに当たる。片方の手は佑のブラをまさぐり、もう片方の手は佑の腰から柔らかく大きくなりつつあるヒップをまさぐり始めた。
「蛍太っ!嫌っ!はなしてっ」
 この時佑は始めて自分が何をされているのか分かったと同時に、とうとう自分の体が普通の男の子をその気にさせる程女の子になってしまった事に気がつく。最後の力を振り絞って佑は蛍太の体を振りほどき、数メートル走って振り返る。
「あ、井上、その、ごめん!あんまりにも井上が可愛くなってたから…」

「バカーーーー!蛍太のバカーーーー!」

 女の子みたいにお尻を突き出して前かがみになり悪態をついて、ミュールの軽い足音と共に去っていく佑を、蛍太は呆然と見守っていた。


 その時、花柳院屋敷では、水瀬先生が鈴那と何やら国際電話で話していた。
「間違いありませんわ。今日も興信所から連絡が有りましたの。関本美幸も新宿の病院でホルモン投与受けてます」
「ええい、いまいましい!今度はこっちが出し抜いたと思ったのに!いいわ。カラカサの親父に急がせる様に言っといてちょうだいな。そうそうこれが終ったらボーナスいつもの2倍出すからね」
「まーあ、お嬢様、いろいろありがとうございますぅ!」
「いいこと!必ず伊織に勝つのよ!その為には何だってするの!わかった!?」
「はーい、肝に銘じておきますーぅ」
 がちゃっと電話を切ると、水瀬先生はふっと背伸びをしつつ、歌う様に独り言を呟く。
「あーあー、かわーいそーにぃ」

 蛍太に襲われそうになった佑は、大急ぎで花柳院屋敷のドアへ滑り込む様に入った。、お手伝いさんの、おかえりなさいの言葉も耳に入らない様子。部屋に戻ってもまだ心臓がどきどき音立てたまま、体が火照り、何も考えられない。部屋のベッドにそのまま倒れ込み、ようやく息を整える事が出来た。
(僕、僕どうしちゃったんだろ)
 ブラとヒップを触られる蛍太の指の感触がまだ体に焼き付いている様。
(だめだ、それを思い出すと…)
 多分自分に与えられている薬の影響だろう。
(あ、だめだ。体が燃える様に熱い。なんか、なんだか変になりそう)
 佑の右手は一人でにスカートの中の退化してしまった男性自身を触り始めた。
(どうして、どうして?、この感じって、何なの!?)
 だんだん佑の退化したそれは、少しずつ固くなり始める。ショーツ上からそれを触っても、小指の半分程になった所で、それ以上大きさは変わらなかった。なんだか物足りない感じ。
(本当に女になっていくみたい)
 ふと何かを思い付いた様に、キャミソールを脱ぎ、ブラの上から膨らみつつある自分の胸を触り始める佑。その途端体を電気が走った様な感覚と共に、体の火照りが幾分和らぎ、何だかとてもいい気持になってくる。
(ひょっとして、女の子の形でするのがいいのかも)
 1年程前、友達に貸してもらった女の子の一人エッチのビデオのシーンを思い出し、それを真似しはじめた。思った通り、佑の口から最初漏れていたあえぎ声は次第に女の子の口調になっていく。
 10分後、ベッドの上では汗びっしょりになった佑の姿が有った。右手で胸、左手で股間を愛撫しながら、男とは思えない声でよがり声を上げる全裸になった彼女?。胸は円錐状に膨らみ、全身はかなり丸みを帯びた形になり、白く所々血管が透き通っている。太腿と2の腕はかなりの量の脂肪が蓄えられてしまった為か、女らしい曲線で縁取られていた。
(あん、もう男の子に戻らなくていいかもしんない…)
 男の子だった時の名残で、男性自身から透明になった液体がすっと漏れて来るまで1時間程かかり、それとともに満ち足りた顔で眠りについていく佑。バラ色に染まって膨らんだ頬と長く伸びた睫毛も可愛いその顔は、幸せに満ちた女の子の寝顔にも見える。2ヶ月前まで普通の男の子だった佑。彼女?が夜、完全に女の子として一人エッチする様になったのはこれが最初だった。



 女の子達と海へ行く日の前日、佑の足は久しぶりに自分の家へ向いていた。自分が無事であるという事を知らせに行く反面、一種自分達の欲望の為に、佑の女性化を容認した両親を驚かせてやろうという魂胆もあつた。流石にスカートでは行きづらかったので、黄色のショートパンツと薄い水色のタンクトップだったけど、ちゃんとブラとショーツは着けていた。ショートパンツの中でぷるぷると揺れる様になるまで膨らんだヒップに人の視線を感じ、時折気にしながら、佑は自分の実家へ急ぐ。

 流石に家の前では緊張したけど、勇気を出して呼び鈴を鳴らすと、
「はーい、どちらさまー?」
 久しぶりに聞く自分の母親の声。玄関のドアが開くと、咄嗟に佑は下を向く。
「あ、あの、どちら様ですか」
 佑はたまらず母親の顔を見た。暫く変な顔をしていた母親が突然声を上げた。
「佑!佑なんでしょ?佑なのね!?まあ、なんてこと、こんなかわいらしくなって!」
 その声を聞き付け、親父が出て来たけど、流石に親父にはこの姿を見られたくなかったというのが佑の本音だった。
「ちょっと、お父さん、ほら、ほら!」
「お、お前、佑なのか?本当に佑なのか?」
 佑は何と言えばいいか分からず、ちょっと照れくさかった。
「あ、あの、おとうちゃん、おかあちゃん!ははは、こんなんなっちゃった!あははっ」
 近所に変に知られたくないと思ったのか、母親はすぐに佑を部屋の中に招き入れた。
「ちょっとお父さん、この子胸膨らんでるよ!ブラまで着けてさ。下は、女の子のパンツ?そうだろうねえ」
 母親は佑の体をあちこち触りながら時々素っ頓狂な声を上げる。佑は恥ずかしくて始終黙ったままだった。
「まあまあ、実は私ね、こんな女の子娘に欲しかったんだけど、なんだか夢がかなったみたいで」
「佑、戻ったら風呂に一緒に入ろうぜ」
 一体佑をどっちの性でみてるのか、親父がすごく失礼な事を言う。
「あのさ、言っとくけど、文化祭終わったら元に戻る約束してるからさ!」
 ちょっと膨れっ面して抵抗する佑。
「いいよ、佑、このままでいても。本当にあたし娘欲しかったし…」
 母親がちょっと湿っぽくなった。
「佑!セクシーになったのー」
 いきなり親父が佑の胸をむぎゅっと掴む、その途端
「キャーーーーーっ」
 予想もしなかった声が佑の口から漏れた。
(まさか、僕そんな声が出るなんて!)
いや、そんな事思ってる時じゃない。佑はしつこく体を触ろうとする親父の手を振り解き、細くしなやかになった手で力いっぱい親父の体を叩く。
「バカ!バカ親父!なんで男ってこうなのよ!!文化祭終ったら絶対元に戻ってやるから!」
 母親の引きとめる声、親父の謝罪の言葉も耳に入らず、佑はハンドバックを手に取り、飛び出る様に家を出た。

 朝とは言え、眩しい日差しの中、佑達はJRの大磯の駅を降り立った。もう混雑し始めているバス乗り場から、ビーチに向うバスの中、瑞穂と佑を含めた5人のクラスメートと沙織の計6人でろいろお喋りしながらも、佑の心は不安で一杯だった。そう、始めて事情を知らない他の女性の前で水着に着替え、そして他の男性の前で女の子として水着姿を披露しなきゃいけない。
 ちょっとそんな事を考えつつ沈んでいる佑のヒップを誰かがぽんぽんと触る。一瞬どきっとしたけど、とうとう頭の中まで女性化し始めた佑には、それが女の子の手である事が瞬時にわかる。振り向くとそこには今回の海旅行の首謀者の沙織がいた。そうなんだ、この子にも僕が男の子だって事ばれない様にしないと。
「どうしたの佑子、そんなに沈んでさ」
「え、あ、ううんなんでもない」
 自分のそんな沈んだ気持を必死で隠そうと、佑は作り笑顔で答える。と、沙織は佑の耳元で何か囁きはじめた。
「大丈夫だよ。小さめだけどどう見たって女の子のお尻だし…」
「ええっ!」
 愕いて沙織の顔を見つめる佑に、沙織はにっこりして更に囁きはじめる。
「瑞穂から聞いたの。佑子本当は男の子なんでしょ?聞いた時びっくりしたけどさ。いいって、あたしに任せて!」
 愕いて瑞穂の方に振り向くと、そこには顔横でVサイン出して微笑む瑞穂の姿が有った。佑の心の奥で何かが弾け、そしてどっと安堵感が襲ってくる。佑が男の子だってわかっても相変らず優しく接してくれる沙織って女の子。なれるのならこんな女の子になりたいって佑は思う。あれ、違う、文化祭の為に女の子の修行してるだけなんだっけ、ああん、もうどうでもいいっ!
「あーーーん、沙織―っ、ありがとーっ!」
 何故か目から少し涙があふれ、他人の目も気にせず佑はしっかりと沙織の柔らかい体を抱きしめた。
 他の女の子達が気を利かせてくれて、佑は更衣室の隅の方で着替えをする。他の子と同じ様に、パンツやブラを隠したままお着替え。その時、佑は水着を合わせた時とは明らかに大きくなっている自分のバストに気づき、ちょっと恥ずかしくなる。
 その後スイムショーツの具合とかを確認する為に、お化粧とかで夢中になっている他の女の子達の横に座って、前の鏡で水着の具合を確認した。もう半ば男の子でなくなってしまった佑の男性自身は、パットとショーツにしっかり押さえられ、全く目立たなくなっていて、その上、最近ふっくらとついてきたお腹の脂肪が、水着の下半身にうっすらと綺麗なビーナスラインを作っていた。そしてそのまま後ろを振り向くと…。
(うそー、こんなに変わってたんだ…)
 最近歩く時ぽちゃぽちゃしたお尻の感覚が気にはなってたんだけど、佑のヒップには小さいけど見事に丸く脂肪がついて、その上を水着が覆い、小さいけど丸くて綺麗なヒップラインを作っていた。
「もう、佑子!いつまで自分に見惚れてんのよ。ほらお化粧したげるから」
 佑の横に瑞穂と沙織が座り、他の女の子達も佑の後ろで、興味深く佑の変身を見守りはじめた。
 佑の顔には日焼け止めを兼ねたファンデがはたかれ、チークで頬が染まって行く。唇はオレンジの夏用の口紅で覆われ、睫毛にマスカラが塗られ、目がぱっちりしていく。
「うっそー、なんで!女のあたしより…」
「シーッ」
 思わず口を滑らせたクラスメートの女の子は皆にそのジェスチャーをされて、照れ笑いしていた。

「あーっ気持いいっ!」
 朝9時だというのにもう肌には太陽の光が刺さり始める。
「佑子だめだよっ、女の子はあまり顔を水につけちゃいけないんだから。もし付けたら戻って化粧やり直すんだよ。もう覚えたでしょ?」
「う、うん。わかった」
 皆でちょっと軽く冷たい水で泳ぐというより、水浴び程度に遊んだ後、瑞穂がビーチボールを取り出した。佑も水着の上からパレオを付け、女の子達に混じってボールを打合った。バレオに包まれてしまった佑の足は決して動き易いとは言えないけど、その分以前男の子だった?時の運動神経が鈍さを補っていた。
 誰一人佑を不信な目で見ない。そして体にじわじわと照り付ける太陽の光りが、今まで佑が感じた事の無い、温かみと気持良さを佑に与えてくれる。時折入る水の感覚も、半ば少女化した佑にとっては、くすぐったくて気持良くて、優しく包んでくれる、そんな不思議な物だった。
 昼過ぎ、強くなってくる太陽の光。お互い日焼け止めを塗り合った佑達女の子の体に、次第に付き始めた水着の跡。肩のストラップをめくる度に、その細い紐の跡を見ると、佑はまるで女を焼き付けられていく不思議な感覚を覚えた。
 お互いにはしゃいで、笑って、水の中でじゃれあって、食べて、休んで、そんな事を繰り返すうち、もう佑の心の中から男の子はすっかり消えていた。

 午後3時、皆がそろそろ帰り支度を始めようとした時、佑は今日のお礼の為、皆の分のアイスクリームを浜茶屋でオーダーしていた時の事、
「ねえ、可愛い彼女。どっから来たの?」
 思わず振り向くと、そこには、アロハシャツにバミューダのちょっと格好いい男が二人微笑んでいた。
「あ、俺達怪しいもんじゃないから。○○大学の自動車部の者なんだ。今日君達6人だっけ?朝からずっとチェックしてたんだよ。でもさあんまり可愛いし、ちょっと声もかけづらかったんだけど…」
(うそ…これって、まさか、ナンパ!?)
 ちょっと有名な大学だったし、女の子になりかかってきた佑の頭でも、そんなに危険な感じは無い雰囲気だった。でも、いくらなんでも女の子として自分がナンパされるなんて思ってもみなかった。
「あのさ、俺達今日も男ばっかで海に来ている位奥手な奴ばっかでさ。後二人いるんだけど、その、電車で来てるのかな?」
 流石に佑は足が少しがくがくし始めた。
「あ、あの、そうなんですけど…」
 そう言うのがやっとだった。
「もし良かったらさ、俺達車3台で来てるんだけど、帰り送らせてくれない?」
「あ、あの…」
 たった一人で、しかも女の子の格好してる自分が男にナンパされてる。そんな事を思うと、佑は恥ずかしくて声がもう出ない。でも、でも、なんかすごくいい人達みたい。とその時、
「ゆーこ!何やってんのよ。もう帰るよ!」
 沙織が他の女の子達2人と迎えに来てくれ、佑はほっとした。
「あ、あの始めまして。俺達○○大学の自動車部の者なんだけど、良かったらさ、帰り送らせてくれない?」
「えー、有名じゃん!その学校!」
 沙織と他のクラスメートが暫く話しているけど、とうとう佑は一言も話せず、只黙って見ているだけだった。
「あの、本当嬉しいんだけど、私達これから行かなきゃいけない所が有るの。だから今日は本当うれしいんだけど、これでごめんね」
「えー、残念だなあ!まじで!」
「うん、ごめんね、ごめんね!」
 沙織が佑からアイスクリームを受け取ると、佑の手を取り、そそくさとその場を後にした。何だか後ろ髪を引かれる思いで佑が後ろを振り返ると、その二人の大学生のがっかりした顔が見えた。
「ねえ、沙織、いい人みたいだったんだけど…」
「何いってんのよ佑子!何やっても許してあげるけどこれだけはだめ!佑子はなんだかんだ言っても男の子でしょ!それにさ、相手にだって迷惑かかるでしょ!」
「う、うん。そうだよね…」
 黙って沙織に連れられる様にして、佑はビーチの自分達のエリアに戻る。
「本当言うとさ、佑子がいなかったら、あたしだって、ついていったかもしれないけど、今日はだめ。あたし佑子の御守り役になるってみんなに言っちゃったんだから」
 始めて佑は、男とは違う女の子達の友情というものを感じた。
「沙織、ごめん。みんな本当にありがとね」
 うつむいたまま皆に感謝する佑を、2人のクラスメートも、
「いいって、いいって」
 と慰めてくれた。
 更衣室のシャワールームで、体にくっきり付いた水着の跡を洗い流す様に、佑はシャワーを浴びた。でもその時でも自分を誘ってくれたあの優しそうな大学生の事が忘れられない。
(本当、いい人達だったかもしれないのに)
 ちょっとセンチになった佑は、たまらず自分の股間についている小指程になった男性自身を指でつまむ。
(これさえ、これさえなかったら…)
 ちょっと強引にそれを引っ張る様にして、手から離し、今度は自分の乳首を触り始めた。
(おっぱいだけは、こんなに可愛くなってきたのに…)
 佑は、もう自分が文化祭の為だけに女の子化してるなんて思えなくなってきた。本当に女の子になりたかったんじゃないかって、今さらながらに思いつつ、シャワーの湯をちょっと胸に当ててみた。
「あっあ…」
 全身に電気が走る感覚はいつも通りだけど、今日はもっとせつなさが襲ってくる。それは、それは、多分ちょっといいなって思った男の子達と強引に引き離されたから?
(女の子になりたいっ!でも、無理、無理なんだよね。そんな事できる訳ないよね!)
 たちまち気分が落ち込み、そして悲壮感まで漂ってきて、佑の目からは、大粒の涙まで溢れ出してきた。
「佑子!いつまで入ってんの?もうみんな着替えたわよ」
「あ、ごめん!今出る」
 瑞穂のその言葉にはっと我に帰った佑は、胸にバスタオルを巻き、頭を器用にタオルで包んで、泣いてた事を悟られない様にシャワールームを出た。




「ふーん、ちゃんと女の子してきたじゃない。上出来ですわ」
 夏休みも終りが近づき、鈴那が屋敷に戻ってくると、真っ先に佑は部屋に呼び出された。
「ほら、こういう事もしてきたのよ」
 タンクトップの肩の部分をめくって鈴那に見せる佑。ちょっと日焼けした佑の体に白く焼き付いた水着のストラップを確認した鈴那は上機嫌で大あくびをした。
「そーれーでー、井上さん。早速なんだけど今からあたしととある所へ行って欲しいの。そうそう、あなたのお友達の眞城クンも一緒にね」
 眞城って聞いて佑はちょっと嫌そうな顔をする。この前襲われそうになったし、それから彼とは会ってもいない。
「なんで眞城が必要なの?」
「さあ、わかんないけど、水瀬先生が連れて来いっていってるから。連絡とってくださらない?とりあえずこっちにすぐ来てって」
「…わかったわよ。水瀬先生は?」
「水瀬先生ならお手伝いさんと一緒に先に行ってるわ」
「そうなの…」
 予想以上に女っぽくなった佑の態度にちょっと愕く鈴那。それを気にせず佑は嫌々ながら蛍太に携帯電話を入れた。

「いやあ、ごめん!井上ごめんな!俺さあ、もう絶交されるものとばかり思ってさー」
 リムジンの後ろに座り、なんか申し訳無さそうに喋る眞城の横で、佑は女の子みたいにぷいっと横を向いている。
「いやあ、井上。その怒った顔もまた可愛くなったなあ。本当元男とは思えないぜ」
「あたしはまだ男ですっ。それに許した訳じゃないからねっ」
「いやあ、すまん!すまん!その、もう俺お前に男感じなくなったから」
 相変らずぷいと横を向いて喋る佑だった。
「ねえ、鈴那さん、ところでどこへ行くの?」
 リムジンがだんだん人里離れた山奥へ入っていく雰囲気に、佑はだんだん心配になって鈴那に聞く。
「もう着くわよ」
 やがて、うっそうと木が繁る山の中にぽつんと立っている古びた洋館の前でリムジンが停まる。
「うわー、なんだここ?」
 リムジンのドアが開くなり、カラスが数羽飛び立ち、あちこちでなにやら鳥の声らしき物が聞こえる。佑もそっと肩をすくめた。
「さあ、早く行きましょ」
 鈴那に促され、運転手を残し、佑と蛍太はツタのからまる不気味な洋館のドアを開けた。
「まあ!お待ち致しておりましたわ、鈴那お嬢様!さあさあこちらへどうぞ。用意もできておりますわー」
「わっ、なんだなんだお前!」
 その不気味さと変に波長が合いそうな派手なピンクの衣装に、爆発させた様な髪。その所々に色とりどりのリボンを付けた看護婦らしき人物が出現!蛍太が思わず1歩2歩引いた。ところが佑はぎょっとして、その派手な化粧の看護婦を凝視する。やがて佑が大声を上げた。
「み、み、水瀬!せ、先生!!」
「あーら、よく一発でわかったわねー。さすがに一緒に下着買いに言った仲よねーぇ。さーさどうぞ皆さん部屋の方へどうぞー」
 と奥から2人の鈴那の屋敷のお手伝いさんも出てきた。
「まあ、眞城さん、井上さん。こんな不気味な屋敷へようこそー」
「あ、お久しぶり!元気してたあ」
 蛍太が喜びいさんで2人のお手伝いさんの手を取り、踊る様に何か話し出す。

「なあ、井上。一瞬ぎょっとしたけど、こりゃ何か楽しい事が起きそうな気がするぜ」
「どうだか…」
 案内された部屋へ、佑は何か不安を覚えつつ、一番最後に入っていった。
「お、おい、何だこれ…」
 洋館の元大広間だったんだろうか、そこの中央に何やら変な装置が備え付けられていた。中央に人一人が入れる何かカプセルみたいな物と、それを取り巻く無数のダクト、機械、スイッチ、コック。佑の目には一昔前に見たフランケン伯爵の映画に出てきた変な機械よりもっと不気味でもっと大きな物に写った。
「カラカサ先生、お連れしましたわ」
 とその声と同時に、なにやら上から人らしき物が降ってくる。
「キャッ」
 精神的にも女性化しはじめた佑の軽い叫び声も無視し、その小柄な爆発白髪のメガネ老人がステッキを前に振りかざす。
「貴様!誰だ!ワシの実験室に何の用だ!?」
「まあ、またお忘れになったの?3年前からお手伝いしてる水瀬ですわ」
「水瀬!水瀬!そういえば!どこじゃ!水瀬はどこじゃ!」
「ですから、カラカサ教授!あなの目の前に」
 カラカサ教授というらしいその人物は、つかつかと水瀬先生の前に近寄ると、牛乳ビンの底の様なメガネを触る。
「おーおーおー、そーであった!妖しさではこのワシも負けるナース水瀬ではないか。ところで今日はワシに何の用じゃ?何を作って欲しいのじゃ?水素エンジンか?リムロケットか?おー、最近2本足ロボットの研究をはじめてな…」
 毎度の事なのかしれないが、遂にさっきからいらいらしていた鈴那が切れたのか、手にしていた扇子をカラカサ教授の咽元に当てる。
「き、教…授、ハァッハアッ、御願いしていた、はあっはあっ、装置は、完成しまして???」
 さすがに鈴那の怒り顔に変な教授もぎくっとしたらしい。
「おーおー、そうじゃった。お前さんの目の前にあるじゃろ!お前さんの目も節穴じゃのう!カラカラカラ!」
「な…なんですってぇ…」
 カラカサ教授に向かって振り下ろそうとしていた扇子を持つ手を、変な格好した水瀬先生が必死で止める。
「り、鈴那お嬢様ぁ、今ここでそんな事したら、向こう1年は言う事聞いてくれなくなりますよぉ」
 やっとの思いで怒りを静め、唇をぎりぎり振るわせる鈴那。
「ね、ねえ、水瀬先生!どうしてなの!なんでそんな変な格好してるの!?」
 暫くの間だったけど、水瀬先生をお姉さんの様に慕っていた佑が、訴える様に問いかける。
「あ、これ?」
「どうしてなの!なんでこんな所でお手伝いしてんの!?」
 訳わからなくなった佑の声が更に大きくなる。
「あ、これね。悪いけど、これが本業なの。鈴那お嬢様の家庭教師はバイト!バイトなの!」
「うっそーぉ!!」
 床にぺたんと座り込んだ佑が悲痛な叫びを上げる。
「とにかく時間が無いわ。早くやっておしまい!」
 いらいらした鈴那がカラカサ教授を無視し、水瀬先生に命令する。
「あ、その件なんですけどぉ」
「何よ水瀬先生!?」
「もしいきなり佑クンやって、失敗したら困るんで」
「だから何?」
「先に眞城クンでテストしようと」
「ブーーーーッ」
 後ろのソファーで2人のお手伝いさんのいれてくれた紅茶をすすりつつ、自分の世界を作っていた蛍太が思いっきり紅茶を吹いた。
「そうね!それがいいわ!佑を女の子にする為には何やったってかまわない!」
 すごく不気味な鈴那のにやついた顔。
「お、おいちょっと待て、何を実験するんだよ」
「おい、貴様!そんな事もわからんのか!?」
「うわっ」
 壁にへばりついて何かの機械を調整していたカラカサ教授がいきなり蛍太の前に降ってくる。
「これは性転換装置といってな!いつでも簡単に美味しいご飯が炊けると言う素晴らしい…」
「違うでしょ教授!性別を変える装置でしょ」
 呆れた様子の水瀬先生の声に、怯えている蛍太の前で、教授は両手で自分の頬を叩く。
「うむ!そうじゃった!わしが24時間で作り上げた装置にしては傑作じゃった」
「おい、ちょっと待て!おい!」
「うむー、付属品としてな、空中元素固定装置というのも付いておってのう。如月教授の弟子の弟子に教わったのじゃが、これに1ヶ月かかってのう、ふはははははは!」
「嫌だ!俺帰る!」
 と、蛍太の足がもつれ、ばったりとその場に倒れてしまう。
「あら、丁度いいタイミングで効いて来たわね」
「ねえ、蛍太クン。あたしたちもあなたの事気に入ったからさ、ねえ、あたしたちと同じ体になろうよー」
「ちょっとまってくれー」
 二人のお手伝いさんにずるずる引き連られ、とうとう蛍太はカプセルの中に入れられてしまう。
「まさか!あの紅茶の中に!俺信用してたのに!君達可愛いと思ってたのに!」
「あーら、もしそう思うんだったら、皆で女の子しましょうよ」
「うん、丁度お手伝いさんもう一人欲しいと思ってたからさ」
「裏切りも…」
 バタンとカプセルが締められ、蛍太の声が閉ざされ、中で蛍太が最後の力を振り絞るかの様に暴れている。
「さあ、やっておしまい!」
「ひゃはははははっ、人体実験じゃ!夢にまで見た人体実験じゃあ。数日前、日本猿でテストした時には、筋肉隆々のオスゴリラになってしまったからのう。ちとそれが心配じゃったが!」
 あまりの事に佑は腰が抜けた様になり、そのまま水瀬先生にしがみついている。

「スイッチオン!ファイアーーー!」

 満面の笑みを浮かべたカラカサ教授がスイッチを入れると、けたたましい大音響と共にカプセルの上のライトが青く光り出す。と、中でもがいている蛍太の上から大量の泡みたいなのが降ってきた。
「ちょっと!あれ…」
 佑が心配そうにカプセルを見つめる。その泡は尚ももがいている蛍太の体を包み込む。暫くするうちカプセルの中は泡で満たされてしまう。どんどんと内側から叩いていた蛍太の最後のあがきの音は次第に弱々しくなり、とうとう聞こえなくなっていく。カラカサ教授だけが訳のわからない言葉をまくしたてる中、皆言葉を失い、その様子を見守っていた。
 どれくらい時間が経っただろう、やがてカプセルの上のライトの光は青から次第に明るい紫に変化しはじめる。
「ひひひひ!そろそろじゃ」
 カラカサ教授が、何やら大きなレバーを引くと、中の泡が次第に下に吸い込まれる様に消えて行く。と中の人影がだんだんはっきりし始める。
「け、蛍太!?」
 泡が消え、そしてなにやら水の様な液体が蛍太の体を洗っていく。
「蛍太…うそ…」
 その液体を嫌がる様にカプセルの中の蛍太は首を振り、そして大きく肩で息をし始める。そして、それは蛍太…とはちょっと違っていた。真っ白になった体に佑より大きくなった乳首、そしてその下には佑と同じ位の大きさで丸く膨らんだ乳房が有った。すっかり丸みを帯びた体に少しくびれたウエスト。内股ぎみになった両足の太腿は、なまめかしく大きくなり、つやつやしていた。顔は蛍太の面影は有るけど、大きくなった目にふっくらした頬。蛍太にもし妹がいればこんな女の子なんだろうという感じだった。
 やがて大きく息をした蛍太は、自分の体を見るなり、胸を両手で隠し、大声で何か叫んでいる様子。蛍太は再び両手を胸から外し、多分なんとか出ようとしているのだろうか、両手両足でカプセルの内側を叩いたり蹴ったりして、大声で佑の方を見ながら何やら叫んでいるみたいだった。
「すごいじゃないですか。眞城クンこんな姿にしてしまうなんて」
「きひひひっ、ホルモンシャワーという奴じゃ!奴の体は少なくとも5年女性ホルモンを浴びたのと同じになったのじゃ。おお、そうじゃ水瀬!ご苦労じゃったのう。お前が某所から盗んできたというあの薬、この装置の開発の為に殆ど使いきってしまったわい!」
「えええええええっ!ひどいっ!あたしあれでもっと遊ぼうかと思ってたのにーーーっ」
 佑を足にへばり付けたまま、悔しそうに叫ぶ水瀬先生。
「さて、次に行こうぜ次じゃ、次次!」
 カラカサ教授が別のスイッチを入れると、半分女の子にされて泣きわめいてる眞城の体の胸と下半身に、何かの装置があてがわれる。機械から大きな音がすると、蛍太の目と口が大きく開いたかと思うと、次に何かに酔う様な表情をし始めた。
「ウィンウィン…」
 機械が不気味な音を立て始め、蛍太の体は小刻みに震え出す。蛍太の顔からはだんだん苦痛が消え、気持良さそうな表情に変わっていく。何かを求める様にぱくぱくさせる口びる。それはだんだん女の子らしく可愛く膨らんでいく。そして中の照明が消え、カプセルの中は真っ暗になった。
「すごい!すごいですわ教授!さすが元私の父上のお抱えエンジニアだっただけありますわ」
「ね、ねえ、今蛍太に何してるの…」
 愕いて叫ぶ鈴那の側で、ぼそっと床に座り込んでる佑が尋ねた。
「多分、あたしの想像によると、卵巣と子宮埋め込まれてるんじゃない?蛍太クンも幸せよねえ。佑子さんより先にオンナの子になっちゃうなんて」
 操作に夢中になっているカラカサ教授に代わって、水瀬先生が佑の頭をなでながら話してくれる。
「それで、それでさ、元に戻れるの?」
「あたりまえでしょ、偉大なる教授はあの装置を24時間で作ったって言ってんだからさ」
「信じて、いいんだよね…」
 カプセルの上のライトが紫からやや明るい赤紫に変わった頃、
「どれどれ、ちょっと様子を見てやるか」
 年よりのくせにサルみたいに機敏な教授が、装置にへばりつき、ガチャーンとカプセルの戸を開く。と同時に、
「いやーーーーー!やだーーーーっ!やーーーーーーん!!」
 両手両足を機械で固定され、すっかり女声になった蛍太が、可愛く大きくなった目を閉じてあらん限りの声をはりあげていた。
「お、すごいぞ!今丁度まさに、女のあそこの形成中じゃ!」
「まあっなんてお下品なっ」
 じっとカプセルを見つめていた鈴那がハンカチを口に、軽蔑する様に吐き捨てる様に呟く。
 蛍太の股間には何かの装置が突き刺さっていて、もう男性自身はどこにも無かった。そして胸は…。
「わ…可愛い…」
 つんとした可愛いEカップ位有りそうなおっぱいが、まるで蛍太の胸から生える様に。そして蛍太が叫ぶ度にそれは左右に揺れている。
「もう少しで焼きあがるじゃろう!」
 多分またオーブンと勘違いしたのか、教授はそのカプセルの戸をバターンと閉める。蛍太の悲鳴は再び消えた。やがて少しづつ妙なその機械の音は小さくなる。と共にカプセルの上のライトが赤紫から突然まばゆいピンクに変わった。だんだん静かになっていくその機械がとうとう沈黙。その途端

「チーーーン!」

 電子レンジの調理終了みたいな音が鳴り響き、一同がずるっとなる。
「げはははは!やはりこの手の機械のベースは電子レンジに限るのう」
 カラカラと笑う教授の横を、お手伝いの女の子2人がかけていく。
「眞城クン、眞城クン!」
「大丈夫!?」
 二人は叫びながら、大急ぎでカプセルを開ける。とそこには
「眞城…クン…?」
「わあっ可愛い!!ちゃんとあたしたちと同じ服着てる!」
 2人のお手伝いさんの着ているメイド服と寸分たがわぬ服を着た、一人の美少女がカプセルから外に倒れてくる。それをしっかり抱きしめ、目を覚まさせようと体をゆすり始めた。
「ねえ、眞城…さん!」
「う…ん…」
 とうとう女の子になった蛍太の目が開く、
「気が付いた?」
「あ、あの、僕、どうなったんだっけ…」
「ほらあ、眞城…さん!」
 2人は蛍太?を抱き起こし、傍らの鏡に連れて行った。
「え…」
 すっかり某アイドルグループの吉澤○○○みたいになってしまった自分の姿に、蛍太?は暫く声が出なかった。そして、
「これが、僕の声?これが、ぼ…」
「ねえ、ちょっと別の部屋で休みましょ。いろいろお話ししたいこともあるし!」
「ねえ、女の子の名前、眞城蛍でいい?」
 2人のお手伝いさんに担がれる様に、眞城螢が部屋から出て行き、そして部屋ではカラカサ教授が変な唄を口づさみながら次の準備をはじめていた。
「ねえ、次あたしなんでしょ」
 佑がぼそっと傍らの水瀬先生に尋ねる。
「え、ええそうよ」
「ね、約束してよね。絶対元に戻してよね」
 佑はそう言うと、すっと立ちあがり、自らそのカプセルの方へ向かって行った。
「あ、あの、佑子ちゃん。着ている服、カプセルの中で解けちゃうみたいだから、脱いだ方が…」
「いいよ別に…」
 カプセルを前にして、佑がぼそっと言う。
「どうせあたしの体形とか、変わっちゃうんだから。また合わせなきゃいけないし」
「おー、準備できだぞー!2発目、元気にいくぞーい!」
 よぼよぼした老人が元気に叫ぶ。余程さっきの成功が嬉しかったんだろう。
「絶対だよ!絶対元にもどしてよ!」
 佑はそう言うと、ふっとカプセル中に身を横たえた。
「佑・・・子…ちゃん」
 ちょっと心配になって、水瀬先生がカプセルにかけ寄って来る。
「いいよ、好きにしてっ」
 佑がそう言い終わらないうちに、教授がバターンとドアを締めた。
 カプセルの中で、頭上から降りて来る真っ白な泡。それは佑の体を積み込むとまず、衣服を溶かしにかかった。タンクトップ、ジーンズのミニスカートが音を立てて溶けはじめ、やがて、ブラとショーツも溶け始める。泡自中に空気が入っているので苦しくなかった。次に、女性の甘い匂いを煮詰めた様な、強い匂いの泡が振ってくる。
(わっこれ…)
 それは佑の体を包み込み少しひりひりする。その滑らかな泡はやがて佑のバストと男性自身を刺激しつつ、体に染み込み出した。
 軽いよがり声をあげつつ、もじもじしはじめると、自分の体がだんだん今にもましてつるつるになり、そして柔らかな肉がどんどん体にまとわり付く様に蓄積しはじめるのを感じる。
(わっ、わーーーっ)
 みるみる体のでこぼこが埋まり、太腿とか腕に柔らかい肉が付き、お腹の部分はにぽこっと柔らかい脂肪の層が付き始める。
(あん、ほっぺたが、ぷくぷくする)
 脂肪の一部は佑のほおにあつまり、佑の顔は今まで以上にふっくらと変わっていく。やがて柔らかな皮下脂肪は1層1層全身を覆っていった。
(女の子って、本当脂肪のかたまりなんだ…)
 自分が変身していくにつれ、改めて実感する佑だった。
 冷たいシャワーで体に付いている泡が洗い落とされると、なんだかすっとした気分。どこからか吹いてきた風が体を乾かして行く。その風が時々胸に当たると、そのたびに軽い嬉しげな声を上げる佑。彼?の胸は前にも増して大きく柔らかく変化し、乳首の形は佑の良く見る雑誌のグラビアのセミヌードの女の子達にも負けない位、可愛く、丸く、そして優しい形に変わっていた。
「あっ、あははっ」
 前よりも1オクターブ程上がった声で、カプセルの中で自分の体のあちこちを触っては、女になっていく自分を楽しんでいた。
 そして、突然佑の手足は、どこからか出てきたベルトで固定されてしまう。
(あ、あ、とうとう、僕、女の子にされる…)
 2つの胸に、どこからか出てきたお椀型の機器が吸い付き、丁度女の子のウエストの位置が何かベルトみたいな物でしめつけられ、そして、小さくなった男性自身にも何かのチューブ上の物が吸い付いた。更にその上に何かの装置がくっついた時、その3つが同時に動きはじめた。
「あっあーーっあーーーーーーん!!」
 装置に吸い付けられた胸は少しずつその大きさを増し、体から脂肪の一部がそこに集っていく様な感覚。そして、乳首に一瞬の激痛の後、襲ってきた何とも言えない気持良さは、佑の心を狂わすのに十分だった。
「やん!やーーーーーん!」
 腰に巻き付いたベルトの下では、骨盤がだんだん大きくなっていく感覚を覚え、そして男性自身に装着されたチューブからは、体の一部が溶けて吸われていく。唇に一瞬何か違和感を覚えたと思うと、唇がだんだん厚く、つんと上を向く様に変形しはじめた。まぶたにちくっとした刺激を感じると、多分まつげが発達しはじめたのだろうか、まぶたが少し重くなり、目が少し涙を貯めた様にうるうるとし始めた。
「あーーーーーーーん!」
 だんだんオクターブが上がって行く佑の声、と、その佑の口には何かの器具が突っ込まれる。
「あうっ、うぐっ」
 口に突っ込まれた器具からは、何やら甘い蜜の様な液体が、咽に流し込まれてていく。
(僕、僕、改造されていく、女の子…に…)
 今や螢という女の子になった蛍太も、多分こんな風に改造されていったんだろう。
「んーーーーっうーーーーーん!」
 相変らず口にから流し込まれる甘い液体、どんどん横に広がって行く骨盤、たぽたぽしていくヒップの肉、そして太くなっていく太腿。とうとう男性自身から最後の液体が吸い出される。
(あん、僕男でなくなっちゃった…)
 それは佑の体から男性自身がすっかり取り除かれた印だった。そしてその途端、
「!!!!!!!!!!」
 何かが股間に刺しこまれ、ものすごい激痛に襲われる佑!
(痛い!痛い!)
 声にならない事を発し、目から涙があふれる。
(誰か、助けて!やめてーーーっ)
 たぶんかなりの血が流れたかも。やがて痛みが少し納まり、その指し込まれた機器から、お腹の中に何かが入り込み、うようよとはいずりまわる様に動く。
「んーっ!んーーーっ」
(やめて!気持悪いからやめてっ)
 それはだんだはいずる事をやめ、お腹の中で固定されると、何かを吐きだしはじめる。次第に薄れていく痛み。そして、「すぽん!」という音と共に胸から機器が外される。いきなり胸に来る開放感。そして次の瞬間、柔らかな塊がどっしりと胸に落ちてくる様な感触があった。
(あ、あっ、僕におっぱいが、うわーっ、こんなに大きい…)
 今度は腰と股間に突き刺さった物が次第にぶるぶると振動を始めた。佑の表情はたちまち何かに酔わされ、快感を覚える女の子の表情に変わる。腰についた機器はまだ佑の骨盤を大きく女形に変形させている。お腹には何かいろいろ埋め込まれている様な変な感覚。
(あ、卵巣と子宮が埋め込まれてるんだ)
 佑にはもう痛みは無い。だんだん増して行く快感に、再び声を上げるが、口に入れられた器具のせいで、声にならない。
(あ、もしかして、女の子って、こういう事もするのかなあ)
 佑はふとそう思い、口に入れられた機器を、唇と舌でもてあそびはじめる。
(あ…、不思議こうしていると、心が安らいでく…)
 しばらくの間、そんな危ない仕草を続ける佑。骨盤が安定しはじめたのか、腰からの刺激は消え始め、口からの甘い蜜もだんだんかれ始める。
 そしてとうとう、佑の腰からは、骨盤を大きくする機器が取り払われ、そして同時に口からも機器は取り外された。
「あ、あん…」
 久々に佑の口から出た声は、それはとても可愛い女の子のちょっと残念そうな声。そして佑のお腹に入っていた機器も次第に撤収を始めた。とうとう女性自身だけが未完成な女の子へと変わり果ててしまった佑。
 一息つく間も無く、とうとう佑の最後の改造手術。股間に突き刺さった機器は、今度はそのまま佑の下半身をがっちり固定し、(今から思えばバイブレータの様な感じ)股間を刺激し始めた。
「いやーーーーーーん!あーーーーーーーーーーん!いやだーーーっ」
 改造されてた螢と同じ様に声を張り上げる佑。男性自身の名残の突起が女の子の大事な突起に作り返られ、機器の突っ込まれている穴は、次第に縦長になり、振動と共に、その縁が太くなり始め、次第に外陰部を作り、尿道は男性自身からそこに移されていく。
「あ…僕…あたし…」
 最後にはその穴の淵に、柔らかいぷるぷるした肉がやはり振動でぷるぷる震えながら形成されていく。
「すぽっ!」
 そんな軽い音と共に、出来たばかりの女性自身から器具が抜かれ、その瞬間その回りを逆三角形の女性型の恥毛が覆った。カプセルの内側から明るいピンク色の光が漏れている。
「とうとう、あたし、女の子になっちゃった」
 まだ変身の時の興奮が冷めぬ佑の体に、今度はいろとりどりの煙が遅いかかる。次第にそれは、ピンク色のショーツ、ブラ、キャミソールに形を変えて行く。
「わあっ、おもしろーいっ」
 可愛いデザインのそれを触って遊ぶ間も無く、ブラウス、そしてネクタイ、そして紺色の煙が腰の付近で暫く舞った後、それは短めの桃光学院高校の制服のスカートに。最後にきらきらと体が光ったかと思うと、それはやはり桃光学院高校指定のブレザーに変わる。
「あはっ、なんだかセーラー○―ンみたい♪」
 すっかり普通の女の子に変わった体をチェックしていると、バターンとカプセルの戸が開いた。
「佑、佑子!?」
 そこには、メイド服姿の眞城螢がにこやかに立っていた。
「螢!あたしよ、あたし!わかる!?ほら、こーんなに可愛くなっちゃった!」
「佑子、お疲れ様―っ」
 そういって、佑子の手を取り踊り出す螢。佑子も一緒になって笑い、女の子になった喜びを分かち合った。
「それにしてもどうしたの?全然以前の蛍太と違う雰囲気じゃん!」
「あ、あのねっ、あのメイド服ってぇ、あのお手伝いさんの予備をスキャンしたんだってぇ。それでぇ、どっちかの髪の毛まで一緒にスキャンされちゃってね。性格っていうか、女らしさっていうか、どっちかのお手伝いさんのがあたしに混じっちゃったらしいのーぉ」
 二人はいつまでも、怪しい装置の前ではしゃぎあっていた。



 時は過ぎ、夏休みの最終日のある日。ここ、鈴那の通っている某エアロビのスタジオに、真新しい薄いパステルカラーのレオタードに身を包まれた佑子の姿が有った。さっきからクラスメート達と一緒に、文化祭でのお披露目用のダンスを練習していて、ちょっと疲れて休憩している所だった。
「佑子―っ、疲れたねーっ」
 緑のレオタードに包まれたその女の子が佑子の横へやつてくる。汗でびっしょりのレオタードにはくつきりブラの跡が透けている。それはまぎれもない、あの時佑子と一緒に女の子にされた眞城螢ちゃんである。
 女の子になった時は大騒ぎになりかけたが、そこは花柳院の事。みごとに騒ぎをもみけしてしまい、もはや佑子に限らず、蛍までが女の子としてクラスメートに認められつつあった。
「ちょっと!何サボってるのよ、練習始まったばかりでしょ!」
「はーい」
「はああい」
 呼びに来たのは、黒のレオタード姿の鈴那であった。さすがにこうなってしまった以上、出し物に参加しないとまずいと思ったのか、鈴那は自らA組のコンテストの出し物の発案と構成を考え、皆に半ば強制的に練習させている。佑子や螢にとって、そして他の女の子達も悪い気がしなかった。2学期が始まれば、彼女達には2人の新しい同性のクラスメートが生まれるんだから。

 新学期早々、井上佑と眞城螢太が揃って女の子側に移籍した事を知ったけみ先生が泡を吹いて倒れ、かわりに臨時で、あの体育の東野先生が担任代行となり、クラスみんなが万歳を叫んでいた。
 久々に顔を見せたB組の持明院伊織は、なんで眞城蛍太までが、美少女に変身してしまったのか、いろいろ聞き出そうとしている。
「ねえ、井上…さん。その体どうしちゃったの?」
 可愛そうに中途半端に女の子にされてしまった関本美幸が、何かと佑子に尋ねてくるが、佑子は只笑うしかなかった。
 クラスはいたって平和だった。佑子と螢はごく自然に女の子に溶け込み、体育の時間は他の女の子達とはしゃぎながら女子更衣室で着替え、他の女の子達と変わらなくなった体形とか胸とかヒップを触られたり、触り返したり。
 水泳の時は、佑子と螢は一部の女の子に、女性化した自分の胸を披露したりもした。そしてとうとう文化祭の女装コンテストの時を迎える。
 模擬店、展示教室が並ぶ中、体育館ではいくつかの学生バンドと演劇が終り、とうとう女装コンテストが行われた。
「えっとー、みなさーん。こんにちはー!」
「こんにちはーーーーっ」
 若くて人気の有る女先生に、みんなが応じる。
「えっとねー、司会するはずだったけみ先生が相変らず体調を崩しているんで、仕方ないのであたしが司会する事になりました。体育の東野です。宜しくーっ」
 集ったみんなの拍手が更にもりあがった。相変らず東野先生の人気はすごい。
「んでー、今年の女装コンテストなんだけどー、参加はたった2クラスだけなのよー」
 ちょっと笑いながら東野先生がマイクで喋る。
「知ってるよーーーーーーー!」
 その言葉に東野先生もちょっとおどける。
「知ってるんなら話が早いや。今年はすごいぞー、みんな気合入ってるからさー。じゃ2年B組いってみようか!」
 その直後、体育館のライトが消えると同時に、ステージ中央にスポットライトが照らされ、そこにはレオタードに身を包んだ関本美幸がボールとリボンを持って立っていた。
「エントリーNO1番!といっても2番までしかないか。あはは、関本美幸君!リボンとボールを使った新体操でーす」
  突然大音響と共に「歌劇カルメン」の勇ましい曲が流れ始めると、中央の美幸はいきなり動き出す。激しい音楽に乗り、リボンとボールを交互に放り投げては見事にキャッチ。体育館に詰めかけた満員の観客の拍手の音はだんだん大きくなっていく。
 美幸もかなりの間、女性ホルモンを受けていたのだろう。白とピンク花柄のレオタードに包まれた体はそれとなしに丸みをおびていたし、動きに合わせて自然にゆれるCカップの胸はどう見ても自前だった。
「すごい!すごいよ!ホルモン打ちながらあんな激しいダンス習得してたなんて…」
「これ、負けるかも知れない…」
 ステージの後ろで、美幸の激しいダンスをじつと見守っていた佑と螢は、ひそひそ声で賞賛し会う。多分、持明院からの指図で死ぬ程の特訓を受けたに違いない。
「ねえ、全然ミスしないよ…」
 この後、佑子や螢と一緒に踊る女の子で新体操部に在籍している女の子が溜息まじりに離す。会場からの拍手はだんだん大きくなる。
「あの狭いステージでこれだけ動くなんて」
「あ、今のリボンとボールをクロスして同時にキャッチするなんて、新体操部の人でも難しいんだよ」
 最後の方になると、どんどん美幸の動きが激しくなる。横で見ている限り、汗びっしょりの美幸。そんな美幸の背中にもくっきりブラの跡が浮き出ていた。
 そして、フィニッシュ!無事成功!会場から割れんばかりの拍手と賞賛の声!暫く美幸もステージの真中で動かずにいる。B組の女の子達が次々にステージに駈け上がって美幸を抱きかかえるが、そんな中最後の力を振り絞って美幸が最後の挨拶を会場に向かってすると、割れんばかりの拍手がさらに大きくなった。ステージの一番前で大きな拍手を送っていた持明院の目にも涙が浮かんでいる様子だった。
 やがて美幸が退場し、体育館はどよどよしたざわめきが流れた。と、その時東野先生がステージに現れ、再び拍手が起こる。
「あれは、レベル高いわ。もし仮に都の予選とかに出ても、楽々入選するでしょうね。はい、皆さん、関本美幸さんに拍手!」
 東野先生の声に再度拍手が沸き起こる。
「えっと、次は、2年A組。えっと対象者は井上佑クンの他に、眞城?眞城蛍太が加わったんだよね。演目は、なんだこりゃ?モーニン○娘!?おいおい、おめーら、あんなにすごい演目の後がこれかよぉ。大丈夫かぁ?」
 A組の臨時担任の東野先生のちょっとおどけた紹介に会場がどっと湧いた。その瞬間会場のライトが再び消え、ステージに佑子、螢そして鈴那を含む12人の女の子達が、曲に乗って歌い始める。1曲歌った後拍手が有ったけど、美幸の時程ではなかった。しかし、数曲歌う間に、ちょっと不思議な雰囲気が会場を漂い始める。拍手はそんなに無いけど、異様などよめきが会場に流れている。
(負けたかも)
 演目が終った後、負けを認めはじめた佑子と螢はステージの前に立ち、大声で皆に挨拶する。
「みなさーーーーん、こんにちわーーー」
「2年A組のモーニン○娘でーす」
「こんにちわーーーー!」
 予想より大きい答えが帰って来た。
「あのー、今日は私達の唄を聞いて頂きまして、本当に有り難うございまーす!」
 再び予想以上の拍手。でも会場のどよめきはまだ終らない。なんで、どうして?どうしてみんなざわついてるの?佑子と螢は訳がわからないままちょっと顔を見合わせた。
(もう、言っちゃいなよ。もう負けだろうし)
 螢のそんな目線を受け、佑子は続けた。
「えっとー、それでー、実は私達12人の中に2人だけ、男の子が混じっています!誰でしょうか!」
 その声に会場のどよめきは最高潮に達していた。そうだったんだ。皆12人のうち誰が男の子かわかんなかったらしい!
「絶対あいつだよ、一番右の奴」
「違う、俺あいつ知ってるよ。右から2番目が怪しいんじゃないの?」
「違うって、絶対違うって!」
 よく聞いてると、会場のあちこちでそんな会話がなされていた。
(ちょっと騙したみたいでやだなー、だって今はあたしも螢も体は女になっちゃったし)
「静かにしてくださーーーい!」
 佑子のそんな思いが、螢の言葉によって消されてしまう。
「みなさーん、本当は誰が男の子だと思いますかーー!」
 どよめきは最高潮に達した。
「みなさーん!正解は!」
 その途端佑子と螢は背中併せで、ちょっと決めポーズを取る。

「正解は!あたしたちでーーーーーす!!!!」

 会場に更に大きなどよめきと拍手!
「うそーーー!」
「嘘だろーーーー!!」
 会場に轟く絶叫に似た声、そんな中で佑子と螢は調子にのって、予め用意しておいたミニモ○の曲2曲を歌い終わると、大歓声の中ステージの袖に消えた。会場の熱気はまだ終らない。

「あー、ひやひやしたあ!」
「案外うまくいったかもね」
 2人はA組のクラスメートにもみくちゃにされ、みんなで良かったね、良かったねって言い合った。
「あ、そうだ!美幸さんだ」
「あ、そう、忘れてた」
 佑子と螢は、大急ぎで隣の控え室に行くと、そこでは数人のB組みの女の子達に見守られ、美幸がレオタード姿のまま、横になっていた。
「美幸!美幸!すっごく良かったよ!」
「みんな愕いてたよ、美幸の新体操!」
 美幸がにっこり微笑んだその時、
「なんどすか!そなた達2人は!用の無い人間はとっとと帰っておくれやす!!」
 持明院伊織のつんとした口調が二人に襲いかかる。しかし、今の二人負けてなかった。
「あによぉ!なんなのよ!あんたは!何もしない癖に、人に指図ばかりしてさ!美幸みたいにあんたも少しは苦労したらどうなのよ!」
「鈴那さんでも、ちゃんと踊りに加わってたのよ。あんたなーんにもしてないじゃん!」
「出て行くのはあんたよ!でてけ!でてけ!!ここは苦労した人同士が労う場所なんだから!」
 唇をきっと噛み、無言で持明院が出て行くと、2人は再び美幸の元に駈け寄った。
「どっちが勝ってもいいよね!」
「うん、あたしも悔いなんてないし」
 佑子と螢、そして美幸はしっかり手を握り合った。

 どちらが勝ちか、審査は困難を極めた。演技の素晴らしかったB組か、はたまたアイデアで会場を湧かせたA組か。発表時間になってもなかなか東野先生の所に結果が回ってこなかった。
「おっそいなあ、何やってんだろ、うちの偉いさんたちは…じゃんけんでもやってんのかなあ」
 ステージ横に立つて冗談を言っては皆を笑わせてる東野先生。と、とある先生が彼女の所へ結果発表を持って来た。
「ええ、皆さん結果が出ました!さてどちらでしょう!!じゃーーーーーーーーん」
 そう言いつつ、先生は封筒から1枚の紙を出し、一瞬愕いた様子。
「結果!発表!勝者は!……両者優勝!!なんだこりゃ」
 大きなざわめきと文句を言う生徒の怒号。
「だって仕方ないじゃん、ほら、どっちも勝ちって書いてあるんだもん!、ほらご丁寧にも、マジックで「どっちも勝ちにしといて」と書かれてあるしぃ」
 ステージ上でわざわざ東野先生がその紙を会場に見せて笑いを取っていた。
「美幸聞いた!どっちも優勝だって!」
「じゃ、どっちもハワイ行けるんだ!」
 ステージ裏ではA組B組生徒両方入り乱れて、笑い、そして中には泣き出す子も。佑子と螢、そして美幸は皆の中央でいつまでも肩を抱きあっていた。

  その頃、体育館横の空き地では、花柳院鈴那と持明院伊織の二人が、さっきからずっと何か言いたげに相対してたたずんでいた。と、先に口を開いたのは持明院の方だった。
「勝負はおあいこだった様どすな」
「ええ、そう聞いてますわ」
「どうどすやろ、暫く休戦という事で。ハワイ旅行にも支障出ますしなあ」
「ええ、それで異存はなくてよ」
 二人はかすかに微笑みあうと、お互い異なる方向へ消えていった。



 ハワイ旅行当日、佑子と螢、そして今日ばかりは持明院の付き人を外してもらった美幸の3人は、瑞穂達にそそのかされ、ホテルのショップで水着を買わされた。多分これが最後の女の子生活だと思ったんだろう。佑子と螢は、なぜかおそろいの、ブルーのビキニ。そして美幸はハイビスカスのパレオ付きビキニ。3人がその水着でプールサイドを歩くと、女の子達は可愛い可愛いを連発。でも男の子達の中にはちょっとひがむ子もいた。
「あんなになれるんだったら、俺立候補しときゃ良かった」
 なんて言う男の子もいて、ちょっと感じ悪かった。

 秋の始めというのにハワイの日差しはまだまだ強かった。夏、佑子が付けた水着の上に今度はビキニの水着の跡がくっきりと焼き付いて行く。
「もう、これで終りだよね。日本へ帰ったら、男の子に戻る手術受けないと」
「あ、ハワイから帰ってすぐ行くって事になってるよね。でも楽しかったあ!」
「うん、でもさー、ほら、あれ来ちゃったらもう戻れないとか言ってたよね」
「あれって、生理?」
「そうだけど、もう露骨に言わないでよ、もうっ」
 佑子と螢がビーチで寝転びながら、話しを続けている。2人の女の子ライフはとうとう終りを告げようとしていた。

「さっ早く早く!急いで!」
 日本へ帰ってみると空港に花柳院家のリムジンが停まっており、中から水瀬先生が佑子と螢を手招きしてた。
「そんなに急ぐ事なの?」
「何いってんのよ!もし今あなた達に生理が訪れたら、もう2度と男の子には戻れないのよ!」
「えー、だってあれって、ちゃんと28日ごとに来るんでしょ?」
「ああもう、だから元男の子は!生理なんてね、遅れたり早まったりするんだから!ちょっとびっくりしただけでも予定より早くきちゃったりするんだからさー!」
「えー!そうなの!」
「知らなかった…」



 佑子と螢のあっけらかんとした言葉に、水瀬先生が呆れる。でも無理はない。生まれたばかりの、生理の経験もない女の子にこんな事話しても無駄だって事は彼女だって分かってた。
「今日、カラカサ教授から電話が有って、完成したからすぐに来いって」
「なんか不安だなあ」

 やがて一行は山奥のカラカサ屋敷に到着。水瀬先生が急いで屋敷の戸を開ける。
「カラカサ先生!いますかあ!」
 と天井からロープを使い蜘蛛の様に降りてきた人影、でももう皆慣れっこになっていた。まぎれもないカラカサ教授だった。
「こらあ!小娘!何しにきおった!!」
「もう!私は看護婦の水瀬ですって!何回言ったらわかるんですか!」
「おお、そうじゃった!それで…」
 教授が続けようとするのを水瀬先生が板切れを教授の咽元に当て、低く唸る。
「水瀬はどこだ、なんて言ったら今すぐ咽かききってあげますからね」
「おーおー、そうじゃった、ははは。例の機械はできておるぞ!性転換装置じゃな。今度はすごい。新記録じゃ。以前の経験も有ってな。12時間で完成じゃ!」
「はいはい、わかりましたから、ほら先に手術受けた螢ちゃん。早くはいんなさい!教授!大体前と同じ時間で終るんでしょ」
 螢が大急ぎでカプセルに入ろうとする。
「あーあ、これで楽しかった女の子生活ともお別れなのね」
 佑子がしみじみと喋った。
「おーおー、そうとも!以前の機械と寸分違わず造ったからのう!12時間で造れたのは快挙じゃわい、うほっほほほっ」
 その言葉にぴくっと来たのは水瀬先生だった。
「教授…、今なんと?以前と寸分たがわず?ですって?」
 カプセルに入ろうとした螢もちょっとびくっとする。
「おーおー、寸分違わぬじゃとも。お前さんの盗んで来たあの薬も、残り少ないアンプルから複製品を作れたしのう!もうこれでじゃんじゃん男を女に変えれるぞい!」
 水瀬先生の手からハンドバックが落ちる。蛍がカプセルの横でがくっとくずれる。
「き、教授!じゃこの機械は…その」
「くどい奴じゃのう!男を女に変える機械じゃとゆーておるに!」
「私が頼んだのは女を男に変える機械だったでしょ!」
「し、しるもんかい!わしゃ、また性転換装置を作れといわれたから作っただけじゃい!」
 水瀬先生が教授の胸元を掴むと、前後に揺らし始める。
「今すぐ、これを女を男にする機械にしなさい!今すぐにぃぃぃぃぃぃ!」
「そんな、今まで誰もやつた事無いもの、ごほっごほっこのワシが作れるもんかい!」
「はあああ??だって教授!この装置作ったの教授でしょう?」
「そうじゃ!わしじゃい!」
「これと逆の原理で作ればいいだけでしょうが!」
「原理なんか知るもんかい!今時分こんな機械直感で作れなくて、何が科学者じゃい!!」
「あーーーもう!頭がこんがらがってきちゃうーっ!」
 やっと水瀬先生は教授を離すと、頭を抱えはじめた。
「あ、あの、水瀬先生、あたし、お腹がとても痛くなってきたんだけど」
「えーーーーっ!」
 その言葉に水瀬先生は正気に戻る。
「ちょっと、螢ちゃん、その、我慢できないの!?」
 その時、佑子もお腹に刺す様な痛みを感じ始めた。
「あの、水瀬先生、あたしも、その…」
「えーーーっああ、どうしましょ!どうしましょ!!」
「いっいたあい…」
「け、螢ちゃん!」
 カプセル横の螢の所へ駈け寄った水瀬先生は、暫く螢を介抱したけど、すぐに諦めた様子で床に尻餅をつく。かすかに螢のいる付近から血の匂いが漂ってくる。そしてそれを嗅いだ佑子のお腹の痛みが更に増してくる。
「痛っ、痛っ、ねえ、水瀬先生助けてっ、あたし…」
 と、その時、佑はスカートの中で、パンツが何か生温かい液体で湿って行くのを感じ、それと同時にむっとする血の匂いが漂いはじめた。
「カラカサ教授!」
 ところが、教授は既に姿を消していた。

「螢ちゃん、佑子ちゃん、ごめん…」
 水瀬先生は2人を抱きかかえ、本当にごめんなさいという態度で、何度も謝り続けた。
「いいよ、先生、もういい」
「私も、別にこのままでいいよ。女の子のままでさ」
「本当にいいの?ねえ、ある意味あたしのせいなんだけど、本当にいいの?」
 初潮を迎え、とうとう男の子に戻れなくなった、出来立てほやほやの2人の女の子を、水瀬先生がぎゅっと抱きしめる。
「ねえ、そのかわりさ、いろいろ教えてね、女の子の事」
「あたしたち、女の子の事まだわかんないからさ、ちゃんと教えてね。ほら、この生理の事とかさ」
 水瀬先生はただ黙って、佑子達を抱きしめるだけだった。
「あ、そうだ。1つ考えがあるの」
 佑子がちょっと目を輝かせて、水瀬先生に向き直った。
「ねえ、美幸ちゃん。この部屋に連れてきてもいいかな?」

 

おわり

2002年頃作

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