ごーるでんういーく

月夜眠短編集 1

 小学生から中学生になるときって、男の子と女の子ではぜんぜん違うよね。男の子はただ単に服装が違うだけになるけど、それもせいぜい普段履くズボンが短いものから長いものに変わる、ただそれだけ。でも女の子はすっごく変わっちゃう。下着なんかも子供っぽいパンツからいきなり短いショーツへ、パンティストッキングも履くようになるし、胸を意識してブラをつけ始める子とか、シュミーズからスリップへ替える子もいるし、服だってそう。だんだん大人びてくる感じ。胸とおしりが大きくなってくるし、生理もそのころにはだいたい経験済みだよね。

 僕のまわりの男の子がクラスメートの女の子達にどきっとしたのは中でも体操服の違いだったんだ。小学校の時は男女ともおんなじ白のショートパンツだった。少し女の子用のものがおしりが大きい位でさほどかわんなかった。おせじにも「あの子体操服になると可愛いな」なんて考える事はなかったもん。でも中学生になると女の子はみんな一斉に紺色のブルマと丸首のシャツ。男の子はぶかぶかのランニングパンツとシャツ。はじめての合同の体育の授業なんて、女の子達はみんな恥ずかしそうに男の子達の横に並んだ。ほとんどの男の子は眼を見晴らしてたけど・・・なぜか僕だけはみんなに取り残された感じがしたんだ。

 僕は幼稚園の時から女の子にある意味でのあこがれを持ってたんだ。お友達になりたいと思うと同時に同化したい、女の子になりたいってね。生まれて自分の存在を自分で知る頃にはもうこの願望は有ったんじゃないかな。今から思うと、僕の母親は僕がおなかの中にいるころ、姑に相当虐められたらしいから、その時のストレスの影響で僕がこんなになっちゃったのかも!?

 僕の母親の姉さんの子供達、僕から見ればいとこなんだけど、女の子が2人いるんだ。同い年と一つ年上の子が。昔からよく遊びに行ったんだ。小学校低学年の時は、よくそこでおばさん公認で「女装」したよ。もちろんあくまで冗談でね。さすがに僕の母親がいるときはさせなかったけど、でも泊まる時はその子のパジャマを着て寝たし、僕の下着を洗濯着して着替えが無いときはいとこのパンツ(ズロースかな?)とシャツを着せられたし、中でも小学校3年の時の春休みの時はなんと完全女装!今でも覚えているよ。薄い黄色地にひまわり(だったかな)のパンツと白のシュミーズ、白のタイツとピンクの毛糸のパンツ、オレンジ色のワンピースを着て、頭には赤い飾りピンをつけて、いとこ2人とおばさんとで(さすがにおじさんには内緒だったよ)近くの遊園地まで遊びに行ったんだ。

 おばさんの家には男の子がいなかったので、けっこういろいろ可愛がってくれた事(可愛がり方が違うーーーっ)と僕自信髪も少し長くて、顔もときどき女の子に間違えられる事があったんで、こんなことが出来たんだ。でもその年の夏、ちょっとした事件が起きて僕はそんなに気楽に(?)女装が出来なくなっちゃったんだ。

 小学校3年の夏、いとこ2人と一緒にプールへ行ったんだ。僕は母親から海水パンツを持たされていとこの家へ行ったんだけど、僕はいとこに(そうそう、年上の女の子が聡子で同い年が真弓です)「水着貸して」とお願いしたんだ。二人はちょっとためらったけど(そりゃそうだよね)聡子ちゃんが「ほんの少しの間だけなら」ということで借りたんだ。濃いセルリアンブルーでスカートが付いた可愛いのを。やっぱりおねえさんだよね。下の邪魔なものが隠れる様に選んでくれたんだ。そしてプールへ。更衣室どちらにしようかと迷ったあげく(幸い人はいなかった)いとこ二人と女子更衣室へ。「人があまりいないうちに」ってささっと着替えてプールへどぼーん!!中学校のプール解放みたいなものだからほとんど人が来ない。監視員の人もちゃんとみてるのかどうかしらないけど、ぜんぜん僕が男だって気が付かない。たしかに帽子かぶってたし、スカート付きだから回りの人もぜんぜん気がつかない。こうなるともう子ども同士有頂天!!時間の経つのも忘れて遊びに遊んだ。僕は全く女の子になりきって。そしていとこも僕を女の子として・・・。

 異変に気がついたのも聡子ちゃんだった。「あーっ焼けてるーっ」僕ははっと我に返った。そうよ、あたし男の子なんだ!僕は水着の胸のあたりをを少しめくってみて呆然としたんだ。はっきりと水着の跡が・・・どうしよう、僕まだ水泳の授業が有るのに、おお急ぎで女子更衣室に戻り、人がいないのを確認してから僕は水着を脱いで、鏡に自分の後ろ姿を写して・・・半分泣きだした。背中には大きく切れたV字型の日焼けのあとがくっきり・・・誰が見たってこれは女の子用の水着の跡だったね。3人で急いでいとこの家へ戻り聡子ちゃんが全てをおばさんに話した。さすがに真っ青になったおばさんは僕の家へ電話し・・・それから先は思い出したくない。親にこっぴどく叱られるし、二人のいとこも相当怒られたらしい。幸い僕の家は家風呂だったからよかったけどね。えっ体育の授業?親が知り合いの医者に頼んで、にせの診断書を作ってもらってた。暫く体育は見学という事になり、幸いにも僕の恥ずかしい事件は誰に知られる事無く、無事に終わったんだけど、日焼けの跡は冬まで残っちゃった。それいらいいとこの家で女装をする事はなくなっちゃったんだ。

 前置きが長くなったけど、今から話す事はその夏の事件から4年近くたったゴールデンウィークのある日の事。僕が中学一年生の時の事なんだ。


(一)

 朝目が醒めたらもう9時だった。自分の家と違い、いとこの家は広く、部屋数も多い。聡子ちゃんと真弓ちゃんはそれぞれ自分の部屋を持っている。昨日も聡子ちゃんの部屋で夜遅くまでトランプをやっていた。聡子ちゃんは中学2年生、真弓ちゃんは僕と同じ中学1年。聡子ちゃんは胸も大きくなって、体ももう大人って感じがする。
 今日は5月1日(金)僕がいとこの家に2年ぶりに遊びに来てから2日目、聡子ちゃんはバレーボール部の、真弓ちゃんはバスケットボール部の合宿で明日の晩までいない。予定では今日おばさんと温水プールへ行く予定だけど・・・

僕はゆう君と呼ばれている。
「おはようございます」眠そうに僕。
「あら、ゆう君おはよう、聡子達もう出かけたよ。朝何食べる?」
「あっいいです、僕」
おばさんは手揉み洗いでなにか黒とオレンジの服の様な物を洗濯している。僕はおばさんの側に行ってじっと見ていた。僕の何か好奇心に満ちた目を察したのか、おばさんがにっこりして
「これはおばさんのパンツ」
「へえー」
「バレーの時に着るのよ。こうして手洗いしないと、色が落ちるの」
「ふうーん・・・」
僕は洗濯している様子をじっと見ていた。
「ゆう君が何考えてるかわかるよ」
「え・・・」
おばさんはふと手を止めて、
「着てみたいんでしょ」
「・・・・・」
「だめよ、ゆう君はもう大人なんだから、聡子が聞いたら笑うよ」
「うん・・・」
「ゆうくんのお母さんから、あんなことはもうやめてって言われてるんだから」
「ごめん、おばさん」
僕はそう言って居間の方へ行った。

 10時になりおばさんと二人で近くの体育館へ、僕は水泳、おばさんはままさんバレーの試合で汗を流していた。でも僕はなぜか泳いでいてもあまり楽しく無くて、すぐ服を着替えてフロアの方へ行った。すると奥の方から歓声が上がった。「あっおばさん達だ」
僕は急いで、屋内運動場の観覧席へ。そこには自分達のお母さんを応援する家族が声援を送っていた。そして一角にはバレーボールのユニフォームを着た10人位の中学生位女の子達がいた。赤のウェアと赤のブルマ、
「可愛いなあ」僕はしばらく眺めていた。

「20分しか泳がなかったの?」
アイスクリームを食べながらおばさんが聞いてきた。
「うん、ちょっと気分が乗らなくて」
「どうしたの、温水プールあんなに楽しみにしていたのに・・」
「あっでも楽しかったよ」
「うそでしょ?」
おばさんは少し歩幅をせばめて
「観覧席にいたわよね」
「うん、おばさんの活躍を見たくて・・」
「それは知ってるわよ」
「えっ、じゃあ・・」
「違うの、今日の午後から試合する女の子達」
「・・・・・」
「ゆうくんじっと見てたんでしょ?」
何もかもおばさんにはわかってたんだ、僕は恥ずかしくなった。そしておばさんは家へ戻るまで何か考えていたようだった。
「嫌われちゃったかな」
僕は少し不安な気持ちになった。

 おばさんの家についてすぐ昼ご飯を食べた。聡子ちゃんと真弓ちゃんの話をしながら。聡子ちゃんもおばさんのバレーを見てからバレーボールをする様になったらしい。真弓ちゃんは、みんなと同じ事をするのが嫌でバスケットボールを選んだんだ。その他いろいろ・・・。よかったおばさん僕の事嫌ってなかったんだ。

 お昼を食べてしばらくたって僕が少しテレビをみながらうとうとしてた時、おばさんが居間に入って来た。
「ゆうくんちょっと・・」
「えっ、なあに」
「これ、着てごらんよ」
「あっ、これ・・・」
おばさんが持ってたのは朝洗濯していたおばさんのバレーのユニフォームだった。「どうして・・」
「いいから着てごらんよ」
おそるおそる僕はそれを手にした。
「あっちょっと待って」
おばさんは居間から出て行くと、すぐ戻って来た。
「はい、これも」
おばさんから渡されたのは花柄の可愛いパンツと胸にボーの有る可愛いスリーマだった。
「これ、誰の・・・」
「聡子のよ。小学校の時着ていたんだけど、もう今は着ないから捨てるつもりだったんだけど」
「いいの、おばさん?」
僕はもうすっかりその気になっている。
「いいよ、もう誰も着ないんだから」
と言うとおばさんはくるっと背を向けて
「台所にいるから、着替えたらおいでよ」
そう言って、おばさんは居間から出て行った。
僕は何だか夢を見ているみたいな気持ちになり、そっとズボンを脱ぎにかかった。


(二)

 僕はGパンを脱いで、ブリーフを脱ぎにかかった。でも体はなぜかぶるぶる震えて、顔が熱くなっていた。思えば、小学校3年の時のあの水着事件以来、女の子の服を着た事がなかったんだ。
 ブリーフを脱いで、そして聡子ちゃんのパンツを手にしてそっとはいてみる。
小さな可愛いうさぎがたくさんプリントされていて、足のつけねがきゆっとゴムで締め付けられる感じがなぜか心地よく感じた。
「女の子の下着ってゴムで縛る所が多いんだなあ」
そして今度はトレーナーとシャツを脱いだ。僕の小学校では6年生まで男女一緒に体育の時教室で着替えていて(信じられないでしょ)女の子がどんな下着を着ているのかは一応知っている。多くの女の子は今自分が手にしているスリーマって下着だった。袖口に縁どりが有り、胸の所には何の為にかわからないけど、リボンの様な紐が有って蝶結びする様になっていた。
 その半袖のスリーマを手にとって頭からかぶって着てみた。
「あっすごく柔らかくて着心地がいい・・」
(女の子ってこんな着心地がいい下着を毎日着てるんだ)ちょっぴり羨ましく思った。
そしておばさんのウェア、少し大きめだったけど洗ったばかりの洗剤の香りが心地よかった。そしてブルマ、はいてみて最初に思ったのは
(へえーっブルマのウエストの位置はおへそが十分隠れる位の所にあるんだ)
着終わって鏡に自分の姿を映してみると、なんだか不格好。顔はまだ僕幼い時の面影が有り、女の子にみえない事もないんだけど、上着もブルマもぶかぶかで、なんかだらしない。上着をブルマの外に出すとなんとか格好がついた。僕は嬉しくなって居間を出て、そーっと台所へ行った。

「お・ば・さ・ん」
僕は少し照れながらおばさんの横へ
「あれ、ゆうくん」
「どう・・・」
なんかすごく恥ずかしい、見せなきゃ良かったなって僕は後悔し始めた。
「ふうん、なんていうか、不自然て感じがしないね」
「えっでもこれ僕には大きいよ」
「違うの、バレーボールやってる女の子は、結構髪の毛が邪魔だからってショートカットにしている子が多いの。今のゆうくんよりも短い子もいるよ。それに・・・」
「えっ」
「その格好見ていると、聡子の友達にちょっと似てるかな」
僕は何だか、顔から火が出そうだった。
「でもやっぱりそのユニフォームは大きすぎたよね。」
上着が大きくて、ブルマが完全に隠れている僕の姿をしげしげと見ながらおばさんはつぶやいた。
「上着を中に入れてごらん」
おばさんはそう言いながら、僕の上着をブルマの中へ形よく入れてくれた。でもブルマはやはり僕には大きすぎて胸の位置にまでウエストの部分が来る。
「やっぱり大きいねえ」
「ううん、おばさんありがとう」
おばさんはちょっと考えこんでから
「ゆうくん、バレーボールやってみる?」
「えっいつ?」
「今、近くの河原の中の公園で」
僕はびっくりするやら、嬉しいやらで黙ってしまった。
「その格好じゃ、ちょっと化粧すれば女の子に見えるよ」
「本当に!いいの!」
「でも、そのユニフォームはね・・・ちょっと不格好だね」
「うん・・・」
「ちょっと待っててね」
おばさんは奥の部屋へ行くとしばらくたってから戻って来た。
「これに着替えて」
「えっおばさんこれは・・・」
「聡子のよ。やるんだったらゆうくんの気が済むまでやりなさい。でもこれが最後だよ」
ブルマには聡子ちゃんの薄い水色と白のストライプのショーツもはさまれていた。
僕はそれを見て喉まで出ていた言葉をおばさんに言った。
「おばさん、ブラ・・・もいい・・かな」
「あれまあ、なんて子だろ」
おばさんは、少し呆れ顔をした後、予想に反して少し笑いながら答えた。
「今日だけよ。約束してね」
「うん」

 おばさんに手伝ってもらいながら、僕は聡子ちゃんの服を着始めた。
おばさんのブルマとうさぎのパンツを脱ぎ、ショーツをつけて、聡子ちゃんの紺色のブルマをはく。僕の体にピッタリフィットし、太股とおなかがきゅっとしめつけられる。次におばさんのウェアとスリマを脱いだ。するとおばさんがブラジャーを持って、手を通してくれて、後ろのホックをカチッと止めてくれた。その瞬間、僕の体には電気が走った様に感じた。ブラは中学生用の飾りとかがあまりないすごくシンプルな物だったけど、すごくかわいくて、何よりも、胸が何かに束縛される不思議な感じがした。ご丁寧にもおばさんは胸のカップの中に綿をつめてくれて、それが終わった後、鏡の前で僕の姿を映してくれた。それは僕が自分の中学校の更衣室の穴からのぞいた着替え中の女の子の姿そのものだった。
「へえ、ゆうくん結構似合うんだ・・・筋肉もついてないし、まだ声変わりもしてないし、このまま女の子になっちゃうんじゃないかって思う位よ」
おばさんも半分、いや十分楽しんでいる様。 
 最後は上着。聡子ちゃんのユニフォームは合宿で持っていってしまってるから、薄いピンクのTシャツにした。そして聡子ちゃんの白のハイソックスを最後にはいて、もう一度鏡の前に立った。
「あっやっぱり似てる、あきちゃんに・・・」
あきちゃんとは聡子ちゃんの友達の事らしい。おばさんは半分驚いてつぶやいた。
 確かに鏡に写った自分はちょっとボーイッシュなブルマ姿の女の子にしか見えない。僕自信信じられない気持ちで一杯だった。
 「それじゃ、ちょっと化粧するからこっちに来てよ」
僕はどきどきしながら、言われる通りドレッサーの前に座った。


(三)

ドレッサーの前に座ると、おばさんはまず僕の髪を丁寧にといてくれた。こんなふうに念入りにとかれたのは何年ぶりだろう。
横分けにして、前髪をたらし、余った髪をピンで留めると、ショートヘアの女の子ぽくなってきた。そして
「ちょっと御面ね」
と言いながら、おばさんはファンデーションを薄く僕の顔にはたき、まゆずみで僕の眉を丸く長細く整えていく。目じりを整え、薄く頬紅を引いて・・・。僕の顔つきはだんだん優しくなり、そして、女の子の顔になっていった。
「へえー、ゆうくん可愛いね、あきちゃんより可愛くなっちゃった」 
僕は嬉しくて、そして恥ずかしくて声が出なかった。最後に真弓ちゃんの赤いヘアピンをつけると、鏡の中には1人の女の子が座っていた。
「おばさん、ありがとう」
僕は恥ずかしげに言った。でも、その言い方は意識したわけでもないのに、ひとりでに女っぽい喋り方になっていた。

「おばさん、早く!」
「ちょっと待ってよ、もう少しで終わるから」
洗いものと洗濯を手早く片づけて、おばさんは自分のトレーニングウェアに着替えた。
 その間僕は待ちどおしくて仕方がない。応接ソファに座って
「ねえ、後何分?」
と言いながら、僕は無意識のうちに、女の子の様に足をばたばたさせた。
「お待ちどうさま。はい、これ」
おばさんは僕にバレーボールとタオルを投げてよこした。
「でもゆうくん、その格好で行くの?」
おばさんに言われて僕ははっとした。
 さすがにブルマ姿で公園に行く勇気は無かったので、聡子ちゃんのピンクのスゥエットスーツを借りて体操服の上から着た。そしてタオルとバレーボールを自転車の篭に入れて、おばさんと二人で公園へ向かった。

 自転車に乗ってる間、僕はばれないかどうか、通りすがりの人の顔色をうかがいながら、どきどきして走った。でも僕の思う限りでは誰も疑いの目で見る人はいなかったみたい。そしてブラをつけた胸がなんだか不思議な感触。ひとこぎする度に胸がきゅっと締め付けられる。
「みんな僕を女の子と見てくれてるんだ・・・」
だんだん僕の心から不安の色が消えていく。そして女の子らしく見せようと思い、両足を閉じて膝を合わせて自転車をこいだ。おばさんはそんな僕の姿を見て、声を挙げて笑った。おばさんの笑い声に勇気づけられ、僕の不安な気持ちは完全に消えた。

 休日の昼下がり、公園にはかなりの人がいた。野球をしている子ども達、フリスビーをしている親子、ゲイラカイトを挙げている兄弟、ジョギングしているおじさん。バレーボールをしている人達もいた。でもさすがに広場の真ん中でやる勇気は無く、おばさんと一緒にそこから離れた、川の見える林の中の少し広い空き地へ行った。
「ここにしようか」
「うん」
自転車から降りてあたりを見回すと、少し離れた所に若いカップルが2組いるだけで、後は川の流れる音だけが聞こえる静かな場所だった。
「おばさん、ボール」
僕はボールを投げた。
「はーい」
さっとおばさんはボールをトスし、何回かボールを高々と上げていた。

 スゥエットスーツのまま、おばさんに一通りのレシーブとトスの方法を教わり、練習開始。その日は午後から少しずつ暖かくなり、10分位レシーブの練習をするともう汗をかきはじめた。いつスエットを脱ごうかと考えながら、練習を続けていると、いきなりおばさんは
「ゆうくん、じゃない、ゆうちゃん、もう脱いだら」
と言った。
僕がためらっていると、おばさんは僕のそばに来て、
「大丈夫、ゆうくんどこから見ても女の子だから」
と、耳元で小声でささやいた。
「本当?」
「ゆうくんは女の子。だから喋り方とか、気をつけるんだよ」
その言葉で僕の頭の中のスイッチが完全に切り替わったみたい。

 スゥエットの上下を脱いで、きれいに畳んで自転車の篭の中へ。ブルマ姿になった僕、やっぱり足が寒い。
「おばさーん、寒いーっ」
ブルマのゴムが両足を刺激し、心地よい。自然と内股に。
「運動すれば大丈夫、はい、いくよーっ」
おばさんは僕にボールを投げてくれた。僕はすかさずレシーブ。少しうまくなったみたい。
 女の子の体操服を着た事で、不思議な力が僕をとりまいている感じがした。僕は殆ど無意識に女の子の仕草と言葉使いをしていた。後でおばさんも言ってたけど。
 声は普段より1オクターブ位トーンが上がっていた。失敗した時の笑い声は「きゃははは」に近かった。
「ブルマって、はいてるって感じよりも、むしろお尻を包まれているって感じなんだ」
と思った時、僕は無意識に膝を合わせて、お尻を突き出す様なポーズをとっていた。
 おばさんがレシーブに失敗したとき、僕はとびはねて手を叩き、しゃがみこんで笑った。
 レシーブをしそこなって後ろの方へ飛んで行ったボールを走って取りに行く時、
何だか妙にお尻が気になって、少し内股気味に走った。
 
レシーブを誤ったボールが一度若いカップルの方へ飛んで行った時があった。走りながら僕は
「あっどうしよう」
と思ったけど、勇気を出してその2人の所へ走って行った。その距離わずかに2m。
「すみませーん」
か細く、だけど出来るだけ女声に近づけて僕は男の方に喋った。
「お嬢ちゃん、行くよ」
男は僕にボールを投げてくれた。
ボールをもらうと、僕は恥ずかしげにゆっくり歩いて戻った。その途中後ろで2人の会話が聞こえた。
「あの娘可愛いね。ちょっとボーイッシュで」
「可愛いけど、ちょっと痩せてるんじゃない」
「スポーツ少女って感じだね」
「胸は少しあるけど、お尻が男の子みたい」
「お前はお尻が大きすぎるんだよ」
「ひっどーい・・・」

「やったーっ」
 僕は心の中で踊り上がった。(お尻が男の子みたい)って言われた時はびくっとしたけど、僕は飛び上がる程うれしかった。

「ばれたの?」
「ううん、全然平気だったよ」
「おばさん、のど渇いちゃった」
「じゃジュース買いにいこうか」
そのままの姿で僕とおばさんは近くの自動販売機へ向かった。
「おばさんね、ほんとに女の子とバレーやっている様な気がしたんだ」
「僕も変な気持ちだったよ、このまま女の子になっちゃいそう」
「汗びっしょりね」
「疲れたぁ」
「ちょっと、ゆうくん、ブラジャーの跡がついてるよ」
「ええっどこに?」
「Tシャツの背中に」
「うっそーっ、やだ」
突然、僕女言葉でおばさんに答え、びっくりして僕自分の胸を見た。びっしょり濡れたTシャツは、胸の部分だけ濡れてなくて、その部分が丁度ブラジャーのカップの形に浮き出ていた。
「スゥエット着てくれば良かった・・・」
「どうして、ゆう・・ちゃん」
「だって恥ずかしいもん」
「あら、可愛いよ」
「だって・・・」
そうこうしているうちに自動販売機の前へ、とそこには5・6人の中学生位の女の子がいた。
「おばさん、やっぱり恥ずかしい」
「ゆうちゃんは女の子、大丈夫」
僕はおそるおそる女の子の後ろにおばさんと並んだ。
 女の子達の何人かと目が合ったけど、別段皆僕を気にせずにどこかへ走り去ってしまった。
「ほら、大丈夫だったでしょ」
「うん」
 何だかへんな感じ、ああ、僕どうして女の子じゃないんだろ。
その後、公園を散歩したり、スポーツしてる女の子とかを見たり、一日公園でおもいっきり遊んだ。僕は極力女言葉と女の子らしい仕草をして、心の底から女の子になりきって遊んだ。おばさんも僕を女の子として接してくれた。

「おばさん・・・」
帰り道で僕は自転車に乗ったまま話しかけた。
「なに、ゆうちゃん」
おばさんも、僕の事をゆうちゃんと呼んでくれる。
「私、可愛いかしら」
なぜか、帰る頃にはもう女言葉がすらすら出る様になっていた。
「可愛いよ、とっても」
「あたし、本当の女の子になりたいな」
「うーん、そんな薬有ったらいいのにね」
 僕には、夢の様な今日の一日を思い出しながら、おばさんの家へ向かった。


(四)

 おばさんの家へ戻った僕は、お風呂を沸かす準備をした後、そのままの姿で庭を散歩した。散歩の時さすがに初めてブルマ姿になった時の感動は薄れていたけど、「女の子になってるんだな」って感覚はまだ残っていた。庭の家の陰に隠れて、そっとスエットスーツを脱いで、再びブルマ姿になり、そっと庭石の上に座ってみると、やっぱり男のショートパンツ姿の時とは異なった感触が有った。そっと自分の両足の付け根を見ると、男性自身の膨らみが少し目だつ(まだ精通は経験していなかった)なんだかやるせない気持ちになり、そのままじっと座っていた。

「お風呂沸いたよ」
おばさんの声にふと我に帰る。庭まで僕を呼びにきてくれたみたい。
「あれゆうくん、まだそんな格好してるの」
半ばあきれた様子でおばさんが言った。
「はやく入っちゃいな」
「はい、ごめんなさい」
足早に風呂場の脱衣所まで行き、カーテンを閉める。そこの鏡に写る自分の姿をしげしげと見つめるとため息が出た。そこにはうっすらと化粧がまだ残っている
ボーイッシュな女の子?が写っている。でもなんだか元気がない。
「これで、女の子の私ともお別れか」
そうつぶやくと、僕は腕を前にクロスさせ、スゥエットとブルマを脱いで脱衣篭の中へ。もう一度鏡を見ると、ブラとショーツ姿の自分が映ってる。腕が少し日焼けしているみたい。
「あっひょっとして!」
 僕の脳裏に昔の暗い記憶が浮かんできた。スカート付きのワンピース水着を着て泳いだあの日、更衣室の鏡に映った、大きくVの字型に水着の後の付いた自分の背中、僕はあわててショーツのあたりを見た。思った通り、自分の太股は少し日焼けしていて、ブルマの跡が残っていた。くるりと背を向けお尻を見ると、やっぱりブルマの跡がついていた。一瞬僕はあわてたけど、あまり人目につかない所だし、もし見つかっても、海水パンツの上にTシャツを着て海にいたという事にしておけば、大丈夫の様だった。
 僕はほっと一息ついて、ショーツとブラを外してお風呂に入った。自分自分の体に付いたブルマの跡をしげしげと眺め、ついさっきまで女の子だった自分をなつかしく思い、又、あの水着事件の事も思いだし、出来るならもう一度、水着姿で泳ぎたいななんて思いつつ、湯船の中で物思いにふけっていた。

 脱衣所には僕の下着とジャージが用意されていた。ちょっぴり悲しい思いをしながら着替え、居間へ。時間は4時になろうとしていた。
「今日の事は聡子には内緒よ」
「うん、絶対に言わないよ」
「そうだよねぇ、言う訳ないもんね」
笑いながらおばさんは奥の台所で、今日の夕食の用意をしはじめていた。
「ゆうくん、ハンバーグでいいよね」
「あっありがと、好きなんだ僕」
「本当に昔と全然かわってないねぇ」
僕は会釈をして、居間から出て聡子ちゃんと真弓ちゃんの部屋へそっと入って行った。女の子らしい可愛い部屋で、聡子ちゃんの机の向かいには沢田研二のポスターが3枚位張ってある。真弓ちゃんの机の上はぬいぐるみでいっぱいだった。
 ふと横を見ると洋服ダンスが有った。いけない事と知りながらも僕は開けて見る。思った通り、そこには2人のセーラー服と可愛い服がいっぱい入っていた。
しばらくじっとながめるうちに、僕は無性にせつない気分になって来る。女の子の可愛い服をもう一度着てみたい。でも今度こそおばさんは本気で怒るだろう。自分の母親に言いつけられるかもしれない。でも、でも!
 僕は急いで台所へ行った。おばさんはいなかった。トイレかどこかに行っているのだろう。ほどなくおばさんは戻って来たけど、こんなに胸がどきどきして、時間が長く感じられた事は無かっただろう。
「ゆうくん、どうしたの?」
僕の顔は真っ赤になった。
「おばさん、お願い・・」
「どうしたの?」
僕の頭の中で何かが崩れる様な感じがした。やっとの思いでこの言葉を言いきった。
「僕、今日一日女の子でいたいの・・・」
 僕はおそるおそる上目使いでおばさんの顔を見た。おばさんはあんのじょうあきれかえった目で僕を見つめていた。しばらく沈黙した後、おばさんは口を開いた。
「ゆうくん、今回限りって言ったでしょ。そんなにすぐ約束破る子はおばさん嫌いだな」
 (ああ、やっぱりおばさん怒っちゃった。どうしよう・・・)僕はこの言葉を言いきった事に、後悔の念を抱いた。やっぱりだめなんだ・・・。
 ところが、僕がそう思って泣きだしそうになった時、おばさんが思いもかけない事を言ってくれた。
「ゆうくん。ゆうくんももうそろそろ大人だよね。これから女の子と今までとは違ったおつきあいをするケースが増えて来るよ。ゆうくんは一人っ子でそういった女の子の事を知る機会にはあまり恵まれないよね。わかったわ。ゆうくんに女の子ってどういう物なのか知ってもらうために、今日一日女の子になって、女の子を体験しなさい。今日一日、ゆうくんはおばさんの娘の・・・ゆうこちゃんかな。但し、本当に今日が最後だよ」
 僕は、信じられない気持ちで一杯だった。
「おばさん、どうもありがとう。絶対約束するよ」
おばさんは手早く台所を片づけると、聡子ちゃん達の部屋へ僕を連れていった。部屋に入ったおばさんは洋服ダンスを開け、中を見渡すといたずらっぽい目をして僕に言った。
「あまりよそ行きの服はだめだから、これなんかどうかな」
おばさんは赤・茶・白等の格子模様の、タータンチェックの様な模様のスカートと薄いピンクのブラウスを取り出し、僕の体に当てた。スカートの裾は丁度僕の膝上あたりだ。
「ゆうこちゃん、ウェストはどのくらいかな。ちょっとはいてみて」
 ああ、小学校以来の感動。僕は時々母親のスカートをはこうとした事はある。でも、みごとなまでの中年太りの母親の着る服で、僕に似合うのなんてなかった。下着なんて考えてもみなかった。
 ブリーフの上からそっとはいてみると、再び僕の体は電気が走った様な感じがして、ぶるっと震えた。おばさんはそんなの一向におかまいなしで、ウエストの位置を整え、ホックを留め、ジッパーを上げる。このジッパーを上げる音、そしてスカートの裏地の感触がとても心地良い。
「あっ丁度同じ位のサイズなんだ、よかったわね、ゆうこちゃん」
「そうね」
 バレーボールした時の感覚にもどりつつある。ほんとに女言葉が自然にでて来る。
「下着もつけるんでしょ」
 再びいたずらっぽい目で僕を見つめ、下の引き出しから聡子ちゃんの下着を取り出し始めた。
「ねえおばさん、本当にいいの?聡子ちゃんにばれないかな」
「大丈夫、明日聡子が帰って来るまでに洗濯してしまっとくよ。なんだかんだ言っても、あの子まだ洗濯も手伝ってくれないんだからね」
 薄い紫で可愛いフリルの付いたショーツ、真っ白で胸元にボーが付いたブラジャー、そして可愛いスリップ。大げさだけど本当に宝物を見ているみたい。
「おばさん、これは?」
 僕から見ればコルセットみたいな物に見えた。おばさんは新品のパンストを袋から出しながら答えた。
「これ?ガードルよ。お尻の形を整えたり、ストッキングのずれをなくすためにはくの。中学になるとみんなはいてるよ」
「えー、そうなの、あんまり可愛くないね」
「でもはいてごらんよ、おばさんにはわからないけど、たぶんびっくりすると思うよ」
笑いながら、おばさんは言った。
 そして、胸のときめく様な僕の変身が再び始まった。


(五)

 「ちょっとあっち向いてて」
おばさんに後ろを向かせると、僕はジャージとブリーフを脱ぎ、震える手で聡子ちゃんの
ショーツを手にしてそっとはいてみる。
 (聡子ちゃんごめんね)
 もし、自分の今やってる事がばれたら、たぶん2度と口も聞いてもらえないだろう。
「はいた?」
「うん」
恥ずかしげに僕。
 おばさんは、僕の方へ向きなおり、パンティストッキングの前後を確認して僕の足元へ。はいてみると、昔、はいた経験のあるタイツとは全然感触が違う。足全体が感じ易くなるって感じ。
「ガードルはこっちが前だからね」
 ガードルなんて初めて見た僕は、あまり可愛くないその下着を見て、一瞬ためらったけど、はいてみたら、ウエストがきゅっと締め付けられ、お尻をもちあげられるって感じ。でも僕の又の付け根の邪魔な物の形が消えたのがうれしい。
 そんな僕の気持ちも気づかないおばさんは、ブラジャー、スリップ、ブラウスを、まるで自分の娘に着付けする様に僕に着せていく。男物と違い、下着とかブラウスが滑る様な感じで心地よい。
「女の子って、いつもこんな着心地のいい服とか下着をつけてるんだ・・・」
本当に羨ましい。最後におばさんはスカートをはかせ、ジッパーを上げ、ベルトをしめ、
「はい、できあがり」
といって、僕のお尻をぽんと叩き、なでてくれた。その瞬間の僕のお尻のつるっとした感触。
「あん、おばさんやめてよ」
 僕は少し顔を赤らめて言った。

「化粧するから、顔洗ってらっしゃい」
 一歩歩くごとに感じるスカートの優しい心地を感じながら、洗面所へ。顔を洗うとおばさんがタオルを渡してくれる。そしてせかされる様にドレッサーの所へ。
椅子にいきなり座ろうとした僕に、おばさんはスカートを抑えて座る様に言った。そういえば女の子ってスカートの時はお尻を触る様にして座ってる。
 まず髪をセット。女の子に比べれば短いから、おばさんは少し考え込んだあと、丁寧にとかし、前髪をまとめて、カチューシャで留め、少し前にたらしてカーラーを巻いてくれた。
 そしていよいよ化粧。さっきと違っておばさんは化粧水を使う所から念入りにしてくれ、僕に実際にやってみる様に言った。丁寧だけど、あくまで女学生のメイクだから、ファンデとまゆずみとチークしか使わない。おばさんの指示通り自分で初めての化粧。手付きが不器用だと笑われたけど。
 顔の色が綺麗になり、眉は再び丸味をおび、頬には健康的な薄いピンクのチークがひかれ・・・僕の顔は再び優しい雰囲気になり、しだいに女っぽくなっていった。
 最後におばさんが、目尻を整えてくれると、そこには可愛いボーイッシュな一人の女の子が座っていた。
「へえー、可愛いねぇ」
 おばさんは呆れた様子で僕の顔をみつめた。
「今からゆうこちゃんよ。わかった」
「うん、ありがと」
「違うでしょ。はい、ありがとうございましたって言わなきゃ」
「はい」
「さあ、夕飯の支度しないとね。といってもおばさんとゆうこちゃんの2人だけだけど」
 そういえば、今日おじさんも今東南アジアへ出張してるんだっけ。
「おばさん、私手伝います」
 おばさんはちょっと笑って
「ああそうね、じゃちょっとお願いしようかね」
 僕は立ち上がって台所へ。ちょっとタイトっぽいスカートだったから、僕の歩幅を狭めてしまう。今までにない経験。そこへおばさんの声、
「ゆうこちゃん、歩く時は出来るだけ内股でね」
そして、料理の勉強。僕は可愛いエプロンをつけ、包丁で野菜を切ったり、卵をといたり。その間おばさんは、計量スプーンの使い方とか、包丁の事、調味料の事、油の温度の事等々様々な事を教えてくれる。でもまるで自分の娘に言うみたいに厳しい口調だった。
 でも、台所にいる間も、ガードルとストッキングのすべすべの不思議な感触が気になって仕方がない。でも時間が経つにつれ、なんとも言えない快感になってくるのが恐い。
「男はおしりで女の子はヒップかな」
なんて思いながら。
 おばさんは、2、3度わざとヒップをぶつけてきた。僕も負けずに女の子みたいにヒップでやりかえす。
「ゆうこちゃん、ここはいいから洗濯して」
 おばさんは、既に洗ってある物を干して、汚れ物を洗濯機にかけるように言った。僕は裏庭に出て、指示通り洗濯物を干す。その中には僕が着ていった下着とブルマもはいっていった。あと汚れ物を洗濯機の中へ。
「終わったら、掃除してくれない」
 わあ、おばさんがなんだか恐い。
 あいかわらず、持ち上げられる様なヒップの不思議な感覚に気を取られながら、僕が大急ぎで掃除機を取りだそうとすると、
「ゆうこちゃん、先にはたきがけでしょ。お掃除は居間だけでいいから」
 どうしてこんなに急に冷たくなったんだろ。不思議に思いながらはたきをかけ、掃除機をかける。
 でも不思議。時々スカートに膝をとられがちになったけど、だんだんスカートさばきがうまくなったみたい。足も自然に内股になってるし、ちょっと走る時もヒップを気にしながら、股を閉じ、膝から下で走っちゃう。
 ちょっと疲れて椅子に座った時、化粧している時は気がつかなかつたけど、膝が束縛され、自然と足が無理矢理内股にされてしまう。膝上のスカートの裾から出てる茶色のストッキングで包まれた自分の両足は、柔らかそうでとっても可愛い。この時自分の下腹部でじんと不思議な感覚。(後になってこれが何かわかったけど)
「私は、ゆうこ・・・」
 一人僕はつぶやいた。そのとき、カメラのシャッターの音。
「あっおばさん、だめだよ」
「違うでしょ、おばさん、だめだわっていわなきゃ」
 おばさんは、カメラを手にしたまま笑っていた。
「さっきからゆうこちゃん見てたけど、ほんとごく普通の女の子としか思えないもん。
  あんまり可愛いから写真撮っちゃった」
「えーっ、うれしいけど、絶対内緒よ」
 気をつけながら、女言葉で話す。
 
 食事の時、僕ははっと思った。僕の家は食事時はテーブルと椅子だったけど、ここの家は座布団に座るんだ。しかも僕今スカート姿だから正座するしかない。
「ゆうこちゃん、女の子でしょ。ちゃんと正座するのよ」
「うん、わかってるけど」
実は僕は正座は大の苦手。無理して座ると、たちまちしびれてくる。
「おばさーん、お願い」
「あっゆうこちゃん、パンツ見えたよ」
「えっやだ・・」
 テーブルの下から覗きながら、意地悪くおばさんがからかう。スカートだから足もうまく崩せない。ましてあぐらなんかかけないし、もしかくとそれこそ下着がまる見えになっちゃう。おばさんは足を投げだして座る様に言った。
 食事はおばさんと二人だけだったけど、とっても楽しかった。聡子ちゃんと真弓ちゃんの事、僕の事、そして、女の子のファッションの事、化粧の事、そして、生理や下着の危ない話まで。殆ど僕が質問して、おばさんが答える形だった。僕がこんなに良く喋ったのは初めて。それに言葉だけでなく、イントネーションまで女性化してきた。たぶん僕が普段観察していた同級生の女の子の口調がそのまま出て来たのだろう。
「ゆうこちゃん、女の子になってこのままここで暮らしたら」
「うん、そうなるといいな。でも女の子になる事なんて出来ないよね」
「でも、そんな人いるのよ」
「ええっ本当」
 僕はその時初めて、おばさんの知っている範囲での性転換の知識、ホルモンとか手術とかの話しを聞いた。僕はただ驚くばかり。
「ゆうこちゃん、さっきは有り難う。おばさん助かったよ。お皿洗い手伝ってくれたらちょっといいことしてあげる」
「えっなになに」
「後で聡子の部屋へおいで」
 僕はわくわくしながら台所で皿洗いを手伝った。そこをおばさんは笑いながら写真を撮った。
 
 その後、聡子ちゃんの部屋へ。その途中で階段を上る時、やっぱりスカートが僕を束縛する。普段2段ずつ位で上がる僕はそっと一歩ずつ上がった。
 そしてそこでおばさんは・・・信じられない事に、僕にファッションショーをさせてくれた。まさかと思ったセーラー服、キュロットスカート。僕の足が他人の足の様に思えた
可愛いショートパンツスタイル。そして、可愛い水色のワンピースのテニスウェア。この時僕は初めてテニスのアンダースコートというものを知った。それら全てをおばさんは僕にポーズをとらせて写真に納めた。僕はもう有頂天。
「じゃ、これで最後ね」
 おばさんはそう言うと、下に降りていった。後に残された僕。ふと鏡を見ると、可愛いスリップ姿の僕。僕はふと悲しくなった。
「ああ、女の子になりたいな」
 ほどなくおばさんは戻って来た。
「これ着てごらん」
「ええっ、いいのこれ」
「聡子だって殆ど着ないよ、もったいないもん」
 それは、真っ白で胸元にたっぷりレースをよせ、背中に大きなリボンをあしらった、ノースリーブのパーティードレスだった。それを着ている聡子ちゃんのクリスマスパーティーの時の写真を、聡子ちゃんに見せてもらった事が有る。
 僕はおそるおそる背中のジッパーを下げ、足からはこうとすると、
「待って、ゆうこちゃん、ストッキングはきかえなきゃ」
 そうだよね、白のドレスに茶色のストッキングじゃ・・・
 僕はスリップの下からガードルを脱ごうとするけど、きつくて思った様に脱げない。でも脱いだ瞬間、プルッと僕のヒップが解放されるような感じ。そして、白のストッキングをはき、再びガードルをつける。おばさんに手伝ってもらってパーティードレスを足からよいしょって持ち上げて着る。破かない様に気をつけながら肩ひもを通すと、おばさんがジッパーを上げ、腰のリボンを結んでくれた。全身が締め付けられる不思議な快感。おばさんは僕をせかして下のドレッサーまで僕を連れていく。スカートはフレアーだったからいくぶん階段は楽だった。
 そして、小さなカーラーを使って少し僕の髪にウェーブをかけ、崩れかけていた僕のメイクを今度はおばさん自信の手で丁寧に、しかも、シャドウ、マスカラ、口紅まで使って、完全にパーティーモードにしてくれる。前とは変わり、少し大人っぽい雰囲気を持った女の子に変身していく。口紅をぬった唇がすごくセクシーでもあった。最後におそろいの白と銀と真珠の髪飾りをつけた僕は、完全にさっきとは別人の女の子に。
「あれ、ゆうこちゃん、あなた・・・」
「おばさん、あたしうれしい、こんなに綺麗に」
おばさんは、何枚か写真を撮る。見られてる、撮られてる。それだけでいい気分。中でも、長椅子に横に寝そべって、カメラの方をうつろに見ているポーズと、椅子の背もたれに手を置き、ちょっとヒップを上げ気味にこっちを向いてる写真があとになってすごく好きになった。
「ゆうこちゃん」
「おばさま、本当にありがとう」
口調も上品に、僕はドレッサーの前でくるっと回ると、スカートもそれにつられてふわっと広がる。胸元もなめらかで白く、艶かしい。
「これで、私に胸が有ったらなあ」
 当時としては、凄く危ない事を言ったと思う。おばさんもそろそろ潮時と思ったのか、
「ゆうこちゃん、もういいでしょ。着替えてらっしゃい」
「えっどれに」
 いたずらっぽく僕。
「どれにったって、決まってるでしょ。最初に着ていたブラウスとスカートに、・・・もういやだねぇこの子は」
 おばさんは苦笑いしながら言った。

 再び元の普段着に、といってもスカート姿だけど、戻った僕は、
「やっぱりこの方が気が楽だわ」
なんて勝手な事を思いながら、おばさんの元に。今度はおばさんは編み物とか裁縫を教えてくれた。僕も実際に毛糸を使ってやってみる。でもさすがに慣れてないのでうまくいかない。裁縫は、といってもボタン付けとか繕いだけど、こちらはうまくいった。
 いつのまにか夜が遅くなり、女の子でいられる時間も残り少なくなってきた。
「シンデレラって丁度こんな気持ちだったのかしら」
 おばさんと一緒に紅茶を飲み、テレビを見ながら僕はつぶやく。ふとおばさんが言った
「ゆうこちゃん、さっきおばさんがわざと口調をきつくしたのは、女の子が男の子と違って、どれだけ窮屈で大変か知って欲しかったからなのよ。でも・・」
 おばさんは、ふとため息をついて言った。
「ゆうこちゃんには逆効果だったみたいね。」
「そうかもしんない」
 僕は頬杖をついて、おばさんをぼんやり眺めつつ、にっこり笑った。 
「そろそろ、寝ようか」
「そうね、もう12時だし・・・」
 名残惜しそうに立ち上がり、うーーーん、と出来るだけ可愛く背伸び。ただ、もう自分が女装しているなんて感じはしない。むしろ、生まれてからずっと女だったんだっていう感すらした。
 おばさんは最後に可愛い薄い水色の聡子ちゃんのパジャマを持ってきた。
「はい、これに着替えてね」
 僕はうなずいて、着替えようとした時、ちょっといたずらの心が芽生えた。
「ねえ、おばさん」
 僕はおばさんの側へ行く。
「なあに」
 と、言い終わるその瞬間、僕はおばさんの頬に軽くキスをした。後ろ手に、ちょっと背伸びして、まるで思春期の少女が彼にキスをする様に。
「ゆうこ・・ちゃん」
 おばさんは、半分呆れ顔。それを後目に、僕はテレビとか漫画で見た女性の服の脱ぎ方を模倣し、出来るだけ女の子らしく、服を脱ぎ始めた。スリップ姿になって座り、着ていたブラウスとスカートを丁寧にたたみ、座ったまま、腕をクロスしてスリップを脱ぎ、たたんでスカートの上に。そして再び立ち上がり、ガードルとストッキングを縫いでこれもスカートの上にたたんで置く。これは僕のおばさんに対するサービス?のつもりだった。
「女の子は寝る時、ブラも外すんだよ」
微笑みながらおばさんが言う。後ろ手になんとかホックを外し、そのまま僕の体を見ると、肩にはブラとスリップの肩紐の、腰にはガードルの跡がくっきりついていた。 そしてパジャマを着る。パジャマには、女の子特有の甘い香りがしみこんでいる。
「僕の、においだったらいいな」
なんて思いながら、僕はにっこりおばさんに向かって微笑んだ。おばさんはそんな僕の事をどう思ったのか、ただ笑うばかりであった。
その夜、僕はおばさんと一緒の布団で寝た。寝る直前までいろいろな話をした。もちろん女言葉で。

 翌朝、目がさめるとおばさんはすでに朝ご飯の支度をしていた。
「約束は守らなきゃ」
そう思うと僕は飛び起きて、自分の下着とジャージを取りに行く。パジャマとショーツを脱ぎ、自分の体についたショーツのレースの跡にどきっとしながらも、手早く着替え、おばさんの所へ。
「おはようございます」
元気良く挨拶すると、おばさんはにっこりと
「おはよう」
と答える。何事も無かった様にその日一日が過ぎていく。ただ物干しには、昨日僕が身に付けたブラウス、スカート、そして下着のたぐいが干されていた。スカート以外は昼までに乾き、おばさんは何事も無かった様にタンスへしまう。
 その日の夕方、聡子ちゃんと真弓ちゃんが帰ってきた。昨日とは違った楽しい夕食と、団らん。何事も無かった様に時は過ぎていく。ただ聡子ちゃんか゛
「赤のチェックのスカート、また洗濯したの」
とおばさんに尋ねた時、おばさんは僕にめくばませしながら
「今日タンスの中見たら、しみがついてたから洗ったよ」
とうそぶいていた。

 その次の日夕方、僕は家路についた。みんなが駅まで僕を見送ってくれたけど、その日聡子ちゃんは、2日前僕がはいていたスカートをはいていた。
 僕は、素晴らしかったゴールデンウィークとそして幻の女の子「ゆうこ」ちゃんに別れを告げながら、列車の中で眠った。

 僕に精通が有ったのはその2日後の事であった。思えばスカートをはいていた時、下腹部にじんときたのは、この前触れだったんだ。
 再び学校に通い始めた僕。体育の時間は相変わらず友達とブルマ姿の女の子を眺めつつ、可愛いねって言い合ってたけど、その時僕は心の中で、
「僕、ついこの前はあの娘達と同じ姿になってたんだな」
と一人ほくえそみ、ゆうこちゃんになった自分をぼんやり思い浮かべていた。

 

おわり

1993年作

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