メタモルフォーゼ

(36) 「男って、バカな奴等!」

文化際が終るとすぐに僕達の高校の二年生は、長野県で一泊二日の合宿研修が始まった。行く前女の子達は皆休み時間に当日どんな服着ていくだとか、何持っていくとか、わいわい騒いでた。僕も智美ちゃん達といっしょに他の女の子も混じってぺちゃくちゃわいわいお話してたけど、その中で気になる話が有った。
「ゆっこ、今だから言うけどさ、最初の頃、ゆっこが男じゃないかって噂、結構有ったんだよ」
 僕の正体を知らない女の子達も会話に混じってる中で、平気でみけちゃんが言う。どきっとした僕の耳にまた別の声。
「だってさ、運動神経男並だったしさ、お尻小さかったし、腰ずん胴だったしさ。水着の時なんて本当男の子体型だったもんね」
「あれはついてなかったけどね」
 他の女の子達もそういって笑った。その声に僕はもう冷や冷やものだった。
(入学した時は付いてたんだよ。今はもうないけどさ)
 僕はうつむいてぎゅっと膝を閉じた。
「で、でもさ、今すっごい女らしくなってるよね」
 ちょっと暗くなった僕にすかさず智美ちゃんがフォローしてくれた。
「だからさー、ゆっこ、今度の合宿研修さ、思いっきりオンナっぽくしといでよ」
 と言われたみけちゃんに付き添ってもらって、河合さんの店で買ってきたのが、今僕の着ているこれ。黒のミニスカート風キュロットにピンクのタンクトップ。女の子にとつてはもう肌寒い季節なので、その上から白のジャケットを羽織っていた。
(すっかりもちもちしちゃったなあ)
 初めて履いたその不思議なキュロットパンツが珍しくて、僕はそのスカート部をめくり、ストッキングに包まれた自分の太ももを、柔らかさを確かめる様に触ったり揉んだり。
 すると、バスの横に座ったジーンズ姿の智美ちゃんが、僕のふとももを指でつつく。
「…いいんだけどさ、ゆっこだけだよ。向こう寒いっていうのにこんな短いの履いてるのってさ。それに今日夕食自炊でしょ?汚れない?みけももうちょっと考えて服選んであげたらいいのにさ」
 最近何かと僕と張り合おうとする智美ちゃんが、女としての先輩という感じで僕にいろいろ忠告してくれる。
「これってさ、あたし前から本当気になってたんだ。一体どんな風になってるのかってさ。一見スカートだけどバンツだもんね」
 僕は、お尻に手を当てそのキュロットのスカート部分をめくったりしながら、ちょっと嬉しそうに話す。
「やめなよー、あくまでそれスカートなんだから、恥ずかしくないの?ほら、男が見てる!」
 ふと僕がバスの後ろを振り返ると、ななめ後ろに座ってるクラスの男子が僕の太ももを見てにやにやしてた。僕はちょっと口を尖らせてその男を睨んでスカートの端を指でつまみ、大げさに直してみせた。智美ちゃんも身を乗り出してその男の子達にべーっという顔をした後、僕に小声で耳打ち。本当女の子ってこういう秘密めいたパフォーマンス好きなんだとつくづく思う。そういう僕も女の子で高校に通い始めてからそれが写って、いつのまにか内緒話とか、耳打ちとかよくするようになったけど。
「あたしたち四人てさ、前のヨットの事も有るしクラスの女の子の中で男から人気高い方なんだからさ、あんまりはしたない事しないでよ」
「そうかなあ、男ってさ、可愛い女の子の普段見せない部分てすごく興味有るんだよ。癖とか、好きな事とかさ、下着だってそうだし」
 ちょっとむきなって言い返す僕。
「ふうん、ゆっこ男の事良くわかってんじやん」
 ちょっと含み笑いをして智美ちゃんがバスの椅子にどっかとお尻を落として座りなおす。
「そりゃそうだよねー、ゆっこってさー、昔…」
「わあわあわあっ!!」
 思わず僕は悲鳴に似た大声を出して智美ちゃんの口を塞ぐ。とその時僕は自分の取った素っ頓狂な行動に真っ赤になって顔をうつぶせ、そして何故か大笑いしながら椅子に座り直した。
「ゆっこー、どうしたの!」
 口々にみんなが僕の方を向いて声をかけてくる。
「うっせーなーー」
 寝ていた男の子もいたのか、不満声もいくつか。
 智美ちゃんがそんな事ばらすわけないって考えたら判る事だけど、今の僕はそんな事考える事もなく、おもわず行動に走って、そしてそれが変な事になると、顔を伏せ笑ってごまかしてしまう。
 ようやく僕が顔をあげて、横で笑ってる智美ちゃんを見てちょっとほっとしていると、座っている椅子の隙間から誰かが僕の背中をつつくのを感じた。
「え?」
 椅子越しに身を後ろに乗り出すと、みけちゃんが睡眠用の可愛いアイマスクを上げて、体を起し、僕に何か囁きかける。
「バーカ!」

 夕食の自炊が始まり、幸運にも僕達人気者(笑) 四人組と抽選で選ばれたペアのグループは、クラスでも一番ぐうたらで怠けものだけど、一番面白い四人の男グループだった。男女一緒に各班ごとに夕食の準備という規則だったのに、
「俺達何にもできねーから」
「よろしくー、花嫁修業だと思ってさ」
 そういってどこかにふけていく四人にますみちゃんが最後まで悪態ついていた。その様子をじっと腕組みをしていたみけちゃんは、四人がどこかに消えると皆を呼び寄せる。
「ゆっこ、料理得意だったよね。あたしも好きなんだけどさ」
「あちきも好きでしゅよ、ていうか貧乏なバンド仲間に家でメシ作って食わせないといけないでしゅし」
「あたしもよく作るよ」
 意外にも四人とも皆作るの好きみたい。僕なんてゆり先生とか美咲先生にどれだけ仕込まれたか。
「でさー、…」
 四人の軍師役のみけちゃんがいろいろと僕たちに耳打ちをする。

 僕たちの宿泊場所はホテル付属のペンション。そこ専属のキャンプ場の炊事場では、ちょっとすごい事になっていた。他のグループはカレーとかバーベキューとかの手軽な物の準備していたのに、僕たちは炊事場を二スペース使い、鍋とかをいくつも火にかけていた。
 キュロットとタンクトップの上から可愛いエプロンを付け、クラスメートから可愛いと言われて上機嫌になった僕は、実質料理の指揮を取り、みけちゃんとますみちゃんにいろいろ指示。そうしていると智美ちゃんが、指示されたホテルの材料受け渡し場所から再三いろいろお願いしてくれた物を持ってきてくれる。ホテルに有るのはありふれた材料ばかりだけど、料理はセミプロ級になっちゃった僕には、それを使ってみけちゃんの希望通りの料理作る事なんて朝飯前。
 僕とみけちゃんがいろいろな材料を包丁で見事にさばいていくのを皆に見られるのがすごく嬉しい。僕ってひょっとしていいお嫁さんになれるかもね。
 夕食が始まり、屋外の炊事場横のテーブルの僕たちのスペースは更にすごい事に。ホテルから借りてきた白い布をかぶせたテーブルの前に、料理手伝わずに逃げた四人が座らされ、テーブルの上にはフォークとナイフとスプーンが置いてあった。
 他のクラスのみんなとか、別のクラスの人とかも、カレーとかバーベキューとか焼きそばとか他のキャンプ料理を用意しながら何が始まるのかとみんな楽しみにしている様子。
僕のクラスの担任の先生は既に四人が料理を手伝わずに逃げた事を知ってて、何が起きるのかちょっとにやにやしている様子だった。
「まずは食前酒じゃなくてジュースでございまーす」
 エプロン姿の智美ちゃんが、手の盆に乗ったジュースの入ったグラスをうやうやしく四人の前に置く。
「お、おい」
 一人が状況に耐えられなくなって何か喋ろうとするけど、
「あたしが心こめて丁寧に絞ったんだからね!」
 小声だけどびしっと智美ちゃんが四人を制した。
「オードブルのサラダでしゅ」
 今度はますみちゃんが大きな給仕用のお盆に綺麗なサラダを四皿乗せてやってきた。意外にもサラダ好きのますみちゃんに、僕がソースとゼリー寄せを教え、ますみちゃんが作った特性の物だった。
「おい、ますみ、もういいだろ!普通に食わせろよ!」
 その男の子はますみちゃんのバンド仲間の友達だった。皿を配り終えたますみちゃんが、その空の盆でその男の子の後頭部をボンと軽く殴ると、おおきな音が部屋中に響く。
「うっせーな!あちきが心こめて作ったんだぞ!大人しく食えよ、残さず!でないと仲間にシカトさせっぞ!」
 四人がやってられないという顔をして席を立とうとした時、
「おーい,何か面白いショーやってんだって?」
 ずかずかと体育の大塚先生がやってきて、四人の座っているテーブルの真向かいにどかっと座る。
「あたしが呼んだの。ご馳走してあげるからって」
 ちょっと予想外の事に、呆然としている僕にみけちゃんが囁く。
「こりゃ豪勢な晩メシじゃんかよ。なかなかこういう所で食えるもんじゃねーぜ。何逃げようとしてんだよ、ちゃんと座って食えよ。おーい、誰かこいつらに前掛け用のエプロン用意してやれよ」
 どっと皆の笑い声が上がる中、大塚先生が苦手な四人が席に座る頃、大塚先生の前にも智美ちゃんとますみちゃんがが食前ジュースとサラダ、そしてナイフとフォークを用意。すかさず大塚先生がちゃんとしたマナーで食事を始めた。
「うまい!これ如月が作ったんだろ?おい、お前ら早く食えよ!お前達が食わないと俺が次食えないだろ!知ってるだろ?コース料理の掟くらい?」
 部屋中に再びみんなの笑い声。
「おい、次待ってるぞ!」
 大塚先生の声に、スープの皿の載った盆を両手にみけちゃんがにっこりする。
「はーい、きのこのクリームスープでございまあす」
 再び皆の笑い声が聞こえる。
 大塚先生は更にマナーがなってないとか、スプーンとスープ皿の使い方がなってないとか、皆が笑う中四人にさんざん文句を言い始める。そしてようやく皆が食べ終えた頃、
「はーい、今日のメインディッシュ。チキンのガーリックステーキ小悪魔風ソースと季節野菜のソテーでございまーす」
 調子に乗って、僕は持っていた料理の載ってる盆を傍らに置き、エプロンの裾をつまんでテーブルの皆様に挨拶。
「お、きたきた、豪勢じゃんか!」
 はしゃぐ大塚先生の前で、とうとう四人が観念した。
「すいません、勘弁してください」
「普通に、食べさせて下さい!」
 四人がテーブルの前で頭を下げる。
「ばか!俺に言うんじゃねえ!お前達のパートナーに言え!」
 ようやく大塚先生は四人に対して自分達の晩ご飯の準備をサボって逃げた事に対して短く小言を言い始める。そしてそれが終わった頃、
「はい、あんた達にはこんな料理よりこっちが好きなはずでしょ。カレー作っといたから食べな」
 智美ちゃんがますみちゃんと一緒にジャーと鍋とカレー皿を持ってくる。ほっとした四人が用意されたカレー皿にジャーからご飯をよそおうとしてたみたいだけど、急に手が止まった。
「おい、お前達の為にカレーまで用意してくれたんだとよ。泣ける話じゃねーか。早くよそって食えよ!」
 それでも四人の手は動かない。すっと大塚先生が立って四人の様子を見に行った。そしてジャーと鍋の中を見た大塚先生は一瞬びくっとした様だったけど、ますみちゃんに耳打ちされた大塚先生が皆に向かって笑いながら喋った。
「いい香りしてるじゃないか。うーん、青緑色したご飯に青色のカレーか。うまそうじゃんか」
 大塚先生がそこでカレー皿にそれを盛り付けると、再び笑い声が上がるが、悲鳴みたいなものも聞こえた。
「大丈夫、普通のチキンを使ったホワイトカレーだよ。但しホテルから貰った食用の着色料が入ってるだけだ。ほらお前ら、料理さぼった罰だ。ちゃんと食え!
 カレーを無理矢理食べさせられている四人を見て笑う僕達四人。そしてふとみけちゃんが僕に向かって言う。
「これで当分あの四人はあたし達の言う事何でも聞くわよ。男と違って力の無い女は頭とテクニックと人使って相手にいう事きかせなきゃ。ゆっこも女の子になったんだからさ、おぼえとこうね」
 その日の夜。ホテルの大きな温泉の浴場で、僕は前から僕にかけられてた(ゆっこはもしかして男の子?)の疑いをはらすべく、みけちゃん、智美ちゃん、そしてますみちゃんとちょっとした事を企てた。プールの様なそこで僕達四人はわざとおおはしゃぎして湯を掛け合い、そして僕はわざと智美ちゃんに僕の体に巻いていたタオルを剥ぎ取って逃げてもらう。ちょっと恥ずかしかったけど、すっかり女の子の体になった僕は、浴場の中の女の子達の中を縫う様に、裸のまま智美ちゃんとおいかけっこした。
(みんな間違えないでね、僕男じゃないよ。ほら、ちゃんと女の子でしょ?)
 既にみけちゃんと同じ位に膨らんだ胸と、そしてまだ成長中のヒップに女の子達の視線を感じながら、僕は皆に言い聞かせる様に心の中で叫んだ。

「あー、疲れた…」
 温泉の湯の中ではしゃぎ疲れ、ちょっと湯当たり気味になった僕は、僕とみけちゃん達に割り当てられたペンションに既に敷かれていた布団の上でぐったりと寝そべった。他の三人はもう夜一一時になるというのに寝る気配もなく、ぐったりした僕にも構わずに、他の部屋に遊びに行ったみたい。風呂あがりのピンクのトレーナー姿の僕は、暫く寝そべるとちょっと気分が良くなり、着替えて持ってきた下着とタオルをキュロットとタンクトッブで包んだ物にゴソゴソと手をやると、さっき僕が履いていたキュロットを取り出し、寝そべったまま目の前で両手で広げてみた。まだいろいろな料理の匂いの残るそれを見ているとさっきの事をまた思い出してしまう。
 ぎりぎりまで我慢してたせいかトイレの中でこの初めて身に付けた変わったキュロットを脱ぐ時、ちょっとまごついて、思わずスカートをめくって前のチャックを降ろして用を足そうとしたんだ。でもそのチャックは男の物と違いお腹の途中までしか無い。皮下脂肪がたくさんついて丸く柔らかくそしてふっくらと出てきた僕のお腹の下には、もうそんな物はついてないって事わかってるはずなのに…只、何ヶ月ぶりだろ。そんな変な事しちゃったのは。
「まだ男がのこってるのかなー…」
 誰もいない部屋だからちょっと油断して声に出していってしまう僕。
「早く完全な女の子になりたい。あ、そうだ…」
 僕は起き上がって部屋の隅においてあった自分のバッグの中を探して小さな手鏡を取り出した。それは小さな手鏡。
(人には見せたけど、一体自分のあそこって、今どんな風に…)
 耳をすませ、足音も声も聞こえない事を確認すると、恐る恐る僕は布団の上に戻り、そしてトレーナーとパンツを膝まで脱ぐ。そしてちょっとどきどきしながら三角座りして自分の股間の前に手鏡を当ててみた。そりゃ男の子にとってここはすごく興味あるところだろうけど、女になっていくにつれ、いつのまにか僕は長い間その秘密の部分を確認するのを忘れていた。
「わあ…これ…」
 それは前に見た雅代ちゃん、そしてみけちゃんの秘密の部分に似ていたけど、ちょっと違ってた。元々女の子のあそこってみんな一人一人形が違うって事は知ってたけど。
 そこにはしっかりとした割れ目が出来上がっていた。その縁は前はどす黒かったけど、今はちょっと暗い肉色に変化し、触ってみると前よりも肉厚になってる。割れ目の上の方にあった、クリトリスになりかかっていた男性器はすっかりそれに変化し、割れ目の上に隠れてる。そして
「あ、これ…」
 割れ目を塞ぐ様に赤黒く艶の有る肉のひらひらが出来始めていた。前に文化祭の後でゆり先生に確認してもらった肉芽は、すでにこんな形に大きくて細長く成長している。
 僕は手鏡を両手で包む様に持ち、ばたんとそのまま後ろに倒れこんで天井に目をやった。目をつむり、大きくため息一つ。
(やったーーーあ!)
 大きく伸びをして、そして思わず開いていた足をきゅっと閉じ、そしてかけ布団をぎゅっと抱きしめ、
「あはっ!あははっ」
まるで子供みたいにすりすりと体をこすりつける僕。そして体を起し、再び確認する様に、そして大事な物に触れるために再び鏡と手をあてがう。
そして、今はもう僕の宝物になって押入れの中にしまっているあのパッドの事をちょっと思い出してみたりする。高校入学前に始めてあれを付けた時の事。
「僕のあそこって、こんな形になるの?」
 って驚いた時の事が、まるで数日前の様に思えた。
(これって、そうだよね…)
 そのひらひらした物を更に開くと、その内側には、まるで花びらの様に鮮やかな模様があった。その奥は、さっきのお風呂のせいか、ピンクに染まった粘膜部が。
 僕はごくっと唾を飲み込んで、その粘膜にそっと触れる。その瞬間、
「あうっ!」
 今まで感じた事もない何かじーんとした感覚が全身を襲い、思わず膝を閉じてしまう。
(今の、何なの…)
 そして次は好奇心もあったのか、再び膝を開け、割れ目の上部に右の人差し指をあてがってみた。
(これって、女の子しかわからないんだよね)
 ちょっと興味津々になって僕はそのまま寝そべって、ほぼ出来上がった小さな突起を探し始める。
(あれ、どこなんだろ、ここ?…あ、ああっ!)
 突然指に触った小さな突起。その瞬間全身にビクンとした電気にも似た不思議な、そしてじーんとした感覚。でも、僕にはその指をそこから外す事が出来なかった。
(あ、何、何なの、この、ああ…)
 僕の顔は驚きでこわばり、目を大きく見開き、そして口はだらしなく半開きになっていく、でも指がそこから離れない。ほんの少し確かめてみるだけだったのに。
(あ…)
 僕の指はとうとう秘密の突起をだんだん強く、そして丁寧にもてあそび始める、そして息遣いが少し荒くなっていく。
(あ、あ、だめ、僕、僕、止められない…)
 だめ、これまずい!僕何かのスイッチが入ったみたい。どうして?止まらない!そうこうしているうちにもう片方の手はいきなり僕の胸の方へ、勝手にブラの上にいってしまう。
(ちょっと、だめだって!!)
 僕の意思に反して、エッチな事を始める僕の体と僕の心が戦いはじめた時、
「ゆっこ、もう寝ちゃったかなあ」
 ペンションのドアの方からいきなり智美ちゃんの声。その瞬間僕の体はやっと僕のいう事が聞いたみたい。思わず膝までさげたトレーナーを引っ張り上げ、布団をかぶって寝たふりを始める僕。
「ゆっこー、ほら気分悪いんでしょ。アイス買ってきたげたからさ」
 部屋に入ってきた三人は、着替えを片手にまず僕の寝てる布団の近くによって来る。
「ちょっとゆっこ!汗びっしょりじゃん!!」
「大丈夫!?」
「あああ、あのあちき、タオル冷してきましゅ!」
「ますみ、ほら冷蔵庫に、冷して頭に載せるやつあったから!」
「先生呼んだ方がいいんじゃない!?」
 たちまち大騒ぎになりはじめる。
「あ、いい、大丈夫だから…」
 みんながあたふたするのを制しながら、僕は体を起して髪の毛を直した。
「いいってさ、そんな汗掻いてて…、ちゃんと寝てなって」
 そういいながら、智美ちゃんが僕の布団の横に来て布団を直してくれる。
「あれ、何これ…」
 智美ちゃんが僕の布団の中から何か取上げた。丁度それは僕の足元に。
「鏡じゃん。何見てたのよ。あれ?」
 今度は少し布団を強引にめくる。僕はちょっとまずいと思った。トレーナーを引っ張り上げたのは前の部分だけで、後ろの方は…。
「ゆっこぉー…なんで汗掻いてたのーぉ…」
 意地悪そうに智美ちゃんが僕に言うと、いきなり座り込んで僕の足を持ち、僕のショーツとトレーナーを腰の上まで引っ張り上げて、ポンと僕のお尻を叩き、布団をかけてくれる。そして小声で耳元で呟く
「ゆっこ!やるんだったらこんな所じゃなくて自分の部屋でやれ!みけとかにばれたらまたうるさくいわれっぞっ」
 僕は再び顔に汗をかきはじめた。なんで女の子ってこんなに敏感なんだろ。

 

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