メタモルフォーゼ

(22) 「またばれちゃった」

 「ちょっと待ってて、今開けるから」
 インターホンから声が消えた後、玄関のドアが開いた。と、そこには何かを抱きかかえたみけちゃんが現れた。あ、それってもしかして!?
「ええー!赤ちゃん?」
 僕はびっくりしてみけちゃんの腕に抱かれた小さな毛布の塊を見る。
「そう、結婚したあたしの姉貴が、一二月からこっちに来てるの。今あたし一人でさ、子守り中なんだ」
「わー、ねえ、見せて見せて!」
 何故か僕はとっても幸せな気分になり、赤ちゃんの顔を覗かせてもらった。
「わあ、小さい!動いてるよー…」
「あたり前じゃん!あ、ちょっと…」
 ふとみけちゃんが片手で器用に赤ちゃんを抱きながら、ハウスウェアのポケットをごそごそしだす。なんか携帯電話が鳴ってるみたい。
「みけ、危ないー」
 赤ちゃんが落ちない様に、毛布の下に両手を宛がう僕。
「えー!だから言ったじゃん、あたしが行くって…。じゃあさ、後でもっかい電話する」
 ふと、携帯電話をスカートのポケットにしまうと、みけちゃんの顔が急に曇った。
「ゆっこ、御願いがあるの。姉貴が買い物に行く途中で道に迷ってさ、これから迎えに行くの。あたしのお母さんも今買い物中だしさ、三〇分位で戻れると思うから、部屋に上がって赤ちゃん看ててくんない?大丈夫、さっきまで泣いてて、ミルク飲んだ後泣き疲れて今寝た所だからさ」
「えー、あたしが?」
 みけちゃんの申し出にびっくりして目を丸くする僕。
「何言ってんのよ、赤ちゃん育てる練習だと思ってさ、ゆっこもいずれは…、とにかく御願い。あたしが連れてって赤ちゃん寒空にさらせないもん」
「うん、わかった。看ててあげるよ」
 なんとなく不安な顔を僕に向けた後、みけちゃんがこの子のお母さんを迎えに行った。僕はみけちゃんの部屋に入り、可愛い顔を眺めつつしっかり赤ちゃんを抱いて揺らしてみる。
(えっと、祐一クン、三ヶ月だっけ。可愛いよね)
 ペタンと床に座り、僕はみけちゃん達の帰りを待っていた。とその時、
「オギャー…オギャーオギャー!」
 何か突然気が付いたみたいに、祐一クンがいきなり泣き始めた。
(あ、起きちゃった。もうっみけの奴、何が今寝た所だよーっ)
「よしよしよし、お母さん今帰って来るからね、待っててねー」
 必死で泣き止ませようと、僕は声をかけたり、体をゆすったりするけど、小さな体から発する声は部屋中に大きく響く。
「ああ、もうどうしたらいいんだよー!」
 僕は泣き止まない祐一クンを抱きかかえ、とうとう途方にくれはじめた。とその時、祐一クンをずっと眺めていた僕の頭の中に、泣き声とは違う別の声が響きはじめた。
(ママどこ?ママどこ?)
(おなか空いた、おなか空いた)
 僕はびくっとして祐一クンを眺めた。
(え?まさかこの子、お母さん恋しがってるの??)
 ひょっとして、僕赤ちゃんの言葉がわかるの?そんな事って有るの?と、僕は何故かしようと思った訳でもないのに、いきなり祐一クンにほお擦りを始めた。すると、祐一クンの泣き声はいくらか小さくなったけど、まだ泣き止まない。
「待っててね、もうすぐ帰って来るから、ね、もうすぐだから」
 声が再び大きくなってくる。
「ああんもう!泣き止んでよぉ」
 僕はだんだんたまらなくなって、必死で赤ちゃんを揺らす。とその時、
(ママどこ?ママどこ?)
 再びその声が僕の頭の中で響いた。やっぱりこの子ママを恋しがってる!
(えっとどうしたらいいんだっけ、赤ちゃんにとってママを思い出すのは、えっと、えっと…、あ、あれしかない)
 僕はおもむろに僕のシャツのボタンを外し始める。薄いパープルのキャミソールと、その下の同色のブラジャーをたくし上げると、そこに洗われた僕の脹らんだ胸とピンク色の可愛い乳首。
「待っててね、はい、ママはここよ」
 その乳首を祐一クンの口に宛う僕は。そしてそれは成功した!祐一クンはすっかり泣き止み、ちょっと嬉しそうな表情で僕の乳首を口に含み吸い始める。
「ごめんね、まだおっぱい出ないと思うけど…」
 何か騙している気分、と祐一クンは僕の乳首を口に含んだまま再び寝始めてしまった。ちょっとこの状況は辛い。
「わあ、どうしよう。外すとまた泣くし、このままだとみけに笑われる…」
 少し笑みを浮かべたまま、時折僕の乳首を吸おうと口を動かしている祐一クン。その時の胸の感覚が、なんだか不思議に気分が安らぐ気がしてくる。そしてその表情を見つつ僕はある事に気が付いた。それは、ひょっとして僕が今思い悩んでいた事の解決になるかも。何だか頭の中に、電気ショックの様で、でも何だか暖かい衝撃みたいな物が走った。
「女の子になるって、そうなんだ、こういう事だったんだ」
 それは、誰にでも判る常識みたいな事。でもそれを体感したのは、今が始めてだった。
「女の子になるって事は、赤ちゃんを生んで育てる事の出来る体になるって事なんだ!」
 今まで僕、女の子の体って、全て男の子の気を引く為、恋愛対象となる為、そしてエッチしやすい様になる為に出来てるって思ってた。でも、それって大きな間違いだったんだ!
(僕の目が可愛くて優しくなったのは、赤ちゃんに接した時安心を与える為なんだ)
(僕の頬とか唇が柔らかくなったのは、赤ちゃんに優しく頬擦りする為なんだ)
(僕の体から甘い香りがする様になったのは、赤ちゃんに安らぎを与える為なんだ)
(僕の胸が脹らんだのは、赤ちゃんに安心しておっぱいを飲んで貰う為なんだ)
(僕のお腹が柔らかくなったのは、おっぱいを飲む赤ちゃんを優しく支える為なんだ)
(僕のお尻とか太腿が大きく柔らかくなりつつ有るのは、おっぱいを飲んだ後、赤ちゃんにそこに座って貰う為の柔らかいクッションになる為なんだ)
(僕の全身が柔らかくなっていくのは、壊れそうな赤ちゃんを大事に扱う為なんだ)
(僕の体に皮下脂肪がいっぱいついていくのは、いつでも赤ちゃんにおっぱい飲んで貰う為なんだ)
(僕の声が可愛く、そしてお喋りになっていくのは、赤ちゃんに言葉を教える為なんだ)
(僕の性格が幼く子供みたいになっていくのは、赤ちゃんと遊んであげる為なんだ)
(僕がだんだん清潔好きになっていくのは、赤ちゃんに綺麗な環境を与える為)
(僕が脂っこい物とか、辛い物とかを好まなくなっていくのは、赤ちゃんにちゃんとしたおっぱいを与える為)
 そして、そういった大前提が有った上で、
(僕が可愛く、時には綺麗に着飾ったりするのは、一生涯僕を守ってくれる素敵な男の人に僕の存在を示す為なんだ)
(僕に、男の子と違って選択能力とか、一種のテレパシーみたいなのが備わって来たのは、その状況の中でより素敵な人を探す為なんだ)
(僕の体が、白くて柔らかくて、丸くなって、いい香りがする様になったのは、そういう素敵な人に、大切にしてもらおうとする為なんだ)
(僕がだんだんわがままに、そして自分勝手に走る様になっていくのは、いずれ赤ちゃんを生める様になる僕の事を、常に考えて!そして生んだ後育てるって物凄く難しい仕事が待ってる僕の事を、いつもいつも考えて!って男の人にアピールする為なんだ)
 何だか心が洗われる気分。祐一クンを抱く手の力もいつのまにか優しい感じになってる。そして僕の胸を吸ってる祐一クンの表情にもだんだん安らぎが出てきたみたい。
 それにしても男と違って女の子って偉いし、そして凄いよね。体の中で一つの命を作っちゃうんだもん。それは最初とても小さくて壊れやすい物、そしてそれを守る女の子自体が小さくて壊れやすい存在。僕も今そういう体になりつつ有るんだけど、でもどんな事されても耐えられるって感覚は僕の頭の中に出来てきたみたい。だってさ、女の子にもしもの事が有れば、この可愛い結晶はたちまち死んじゃうんだもん。だから、だからさ!女の子ってさ、男の子にうんと甘えていいんだ!多少わがままでいいんだ!多少自分勝手でもさ、自分と赤ちゃんを守る為だもん!

「祐一クン、ありがとね、僕やっとわかった。これで安心して女の子になれる」
 胸に出来た女の子になった証拠を吸われながら、僕はいつまでもじっと眠っている祐一クンを抱き、みけちゃんの帰りを待った。
 しばらくして、どたどたと玄関で音がして、足音が部屋に近づいてきた。
「ゆっこー!ごめんねー!慣れないお守りさせてさー!」
 ところが、僕の状態を見た瞬間目を丸くするみけちゃん。
「ちょ、ちょっとゆっこ!何やってるのよ!」
「シッ、みーけ!今寝てるんだから!静かにしなよっ!」
「あっあ…そうだっけ、ごめん…。で、でもさ、ゆっこ、あんたその格好…」
「仕方ないでしょ、こうしないと泣き止まないんだから!とにかく静かにしてっ」
 抱いているのがまるで自分の赤ちゃんの様な感覚で、みけちゃんに接する僕。と、今度は買い物から帰って来たみけちゃんのお母さんが部屋に入って来た。
「まあまあ堀さん、ごめんなさいね本当に…、あれ!あれあれ、どうしたの?まあまあ、ほんとに、ふふふふっ」
 僕の胸に吸い付いている祐一クンを見て、みけちゃんのお母さんは最初びっくりして、そしてその後優しく笑った。
「まあ、堀さんこんな事までさせてさ、これ、恵子(みけ)あんたも少しは見習いなさいよ。でもね堀さん、あなた結婚したらいいお母さんになるわよ絶対。ほほほ」
 笑いながら、みけちゃんのお母さんは別の部屋へ、祐一クンの本当のお母さんを呼びに行った。
(僕が、結婚したら…いいお母さんに…、なんだかくすぐったいなあ)
 ふと僕はほくえそむ。部屋に残ったのは僕とみけちゃんと、僕に吸い付いている祐一クン。
「ゆっこ!もう、そんな事して!まだ男の子の癖に!ばらしちゃおっかなー、ゆっこが男だって事さー」
 珍しく意地悪そうに言うみけちゃん。さっきのお母さんの言葉が何か引っかかってるのかな。
「えー、やめてよぉ、ここまで変身したのにさ」
 嘘だとわかってても、僕にとっては不安になるんだよ、その言葉。
「あのさ、純ちゃんの事とか、昨日の事が有るからさ、なんとかゆっこを慰めてあげよっと思ってさ、昨日ますみと話したんだよ。丁度うちに赤ちゃん来てるから、見せてあげればってさ」
 みけちゃんありがと!
 その時みけちゃんのお姉さんが部屋へ入って来た。
「こんにちはー、始めまして。ごめんなさいね、こんな事までさせて」
 みけちゃんと同じく長い髪の綺麗な人が、僕から赤ちゃんを離して、自分の腕に抱きかかえる。祐一クンは一瞬声を上げたけど、すぐにすやすやと眠り始めた。
「堀さんでしたっけ、母に聞きました。泣いてたのをこういう風に機転利かせて治めてくれたんですってね。すみませんねー、恵子なんてここまでやってくれないから」
 一瞬びくっとしてみけちゃんの方へ目をやると、
(ふーん、ふーん、あっそう)
 という感じでまたもや意地悪っぽい表情をしていた。

「あ、そうそう、あのねすっごくいい話しが有るの。あたしと智美とますみでさ、温泉行かない?」
「え!温泉!?」
 突然のみけちゃんの提案に僕はびっくり。でも、温泉?
「あのね、あたしの親が温泉ホテルの会員でさ、今年中に使わなきゃいけない無料招待券四枚貰ったんだけど、こういう状況だから行けないの。ねえ、年末の二八日行かない?ますみも智美もOKしてるからさ。
「う、うん嬉しいけど」
 だってさ、僕女風呂なんて始めてだもん!ちょっと恐いよ!

「えー!ゆっことうとう子宮移植されるんだあ!」
 みけちゃん家からの帰り道、年末の慌しさの駅前で、びっくりして声を上げるみけちゃんに、僕は指で口を当て(静かに!)ってサインを送る。幸い騒がしかったので誰にも気付かれてないみたいだけど。
「え、いや、まだあたしに決まった訳じゃ無いんだけど…」
「良かったね!あたしと同じ体になるんだあ!」
「う、うん。それとさ。ほら、女の子の大事な所も…」
「え!そうなの?じゃとうとう本当の女の子の仲間入りじゃん!」
 そう言ってみけちゃんは冷たいすべすべの指で、僕のスカートのおなかの所をつつく。
「じゃあさ、温泉旅行の時みんなでお祝いしたげる!ゆっこの新しい変身を祝ってさ」
「もう、みけ!声が大きい!」

「ゆり先生、いろいろごめんなさい。僕手術受けます」
 ゆり先生の部屋で二人の先生を前に、僕はしおらしく両手をスカートの前に揃え、ぺこっとお辞儀をした。昨日とは全く違う表情に、ゆり先生と美咲先生が少し驚いていたみたい。
「じゃ、OKしてくれるのね?」
「はい、お願いします」
 美咲先生の問いに、素直に答える僕。
「ゆっこちゃん、その、嬉しいんだけど、何か有ったの?」
 ちょっと不審そうに僕に尋ねるゆり先生。
「はい、僕が女の子になりたいっていう理由で、今日はっきりしたのが一つ増えたんです」
「え、どういう事…」
 面白がって聞こうとする美咲先生をゆり先生が止めた。
「とにかく、有り難う!みんなにとって一番いい状況になりそうだわ。そうそう、そう決まったらさ、今年の正月は皆でここに集まってさ、ねえミサいいでしょ!たくさんご馳走作らなきゃ、ねえ、ねえみんな呼ぼうよ!」
 興奮したゆり先生の嬉しそうな声がだんだん涙声に変わっていく、そんなに心配してくれてたんだ僕の事。
「じゃあさ、今からいろいろ買って来る物書くからさ、ともこも、まいもこのまま正月過ぎまでここにいてよ!ミサ、陽子と真琴連れてきてよ!」
「えー、クリスマスこっちでさ、正月もまたここに集まるのー??」
 美咲先生が少し愚痴ったけど、ゆり先生がぜんぜん相手にしない。
「あ、いいですけど、着替えとか有るから、一旦伊豆に帰らせてください」
 ともこちゃんが、そういうとまいちゃんも頷く。僕もクラスメートとの温泉旅行の事を話し、とにかく年末に皆で集まるという事になったみたい。

幸子(幸男)友達と那須旅行/月夜眠
幸子(幸男)友達と那須旅行 / 月夜眠


 新幹線に乗って女の子ばかり(?)四人わいわい騒ぎながら、たどり着いた那須の温泉旅館、いろいろな種類の温泉が有る事で有名なホテルだった。
 チェックインの後、まず普通の温泉でゆっくりする事にして、皆持参のハウスウェアに着替え、大浴場に直行した。
「ねえ、陽子も連れてきたかったんだけど…」
 ホテルの廊下でふと智美ちゃんが呟く。そのままエレベータホールまで行き、誰もいない事確認してから僕は智美ちゃんに答えた。
「まだ、基礎治療中だからだめだよ。あそこだってまだ少し目立つしさ。ねえみけ、来年もう一度誘ってよ。その時陽子と真琴も連れてこようよ」
「あ、いいよ。親に言っとくわ。今度六枚用意してってさ」
 エレベータを降りると、すぐそこは大浴場の入り口、そして皆は別に気に留める事無く、(女湯)の赤い暖簾をくぐって行く。と僕の足が止まった。丁度始めて女子更衣室へ入る時みたいに。
「ゆっこしゃん、何やってんれすか、早くいくいく!」
 丁度ますみちゃんに押される様に僕はとうとう女風呂の暖簾をくぐってしまった。

 始めて見る女湯の脱衣所。大きなドレッサーが一杯在って、湯上りで髪を整えている人。ベビーベッドで赤ちゃんのおむつとか替えている人もいる。そして、大きな胸を露わにして体を拭いているおばさんがいる。
胸にタオル巻いて子供を連れた若い女の人が、僕達の横でタオルの下からパンツを履き、タオルを外して少し垂れた胸を露わにし、ブラを付け始める。少し奥では僕達位の女の子が、ブラやパンツを露わにして…
「ゆっこしゃん!!」
 小声だけどはっきりした言葉と共に、いきなり頭の後をますみちゃんにはたかれ、僕は我に返った。
「あ、ごめん…」
「何鼻の下伸ばしてんですか!こういう所に来る為に女になった訳じゃないっしょ!」
「え、そりゃそうよ。だってさ…」
 僕はもう一度脱衣室の中を見渡した。
「あたし、もう女の子の裸見たって何とも思わないもん」
 ますみちゃんが疑惑に満ちた目で僕を見て笑う。
「本当かなあ…」
 ちょっと遠慮気味に上着を脱ぐ智美ちゃん、ところがみけちゃんだけは、僕の前でさっさと可愛いシャツとキュロットを脱ぎ、ピンクのキャミソールをぽいっと籠に入れ、後ろ手にブラのホックを外し始めた。
「わ、みけ、ちょっと…僕まだ体が…」
 大きなお尻とふくらんだ胸、すっかり大人になったクラスメートの見事な女体が目に入る。そしてブラのホックが外れ、みけちゃんのブラが体から離れる。その時、
「あっ」
 と一声、僕の目の前で、胸に吸い付いたカップが落ちるのを両手で受けとめ、僕をじっと見るみけちゃん。
「…ま、いっか。ゆっこもう女だし」
 ささっとブラを取ると、僕の目には、学校のクラスでも少し有名になっている大きくて可愛い胸が露わに。
「みけしゃん、相変わらずいい脱ぎっぷりですね」
 ますみちゃんも、そして智美ちゃんも、もう僕を気にせずさっさと服を脱ぎ、可愛いバストを露わにした後、タオルをその上から巻く。
「ゆっこしゃん!早く脱ぎましょうよ!恥かしいんですか脱ぐのが!もう世話が焼けますねえ!」
 バスタオル一枚になったますみちゃんが僕の脱衣の手助けをしようと僕の赤いトレーナーを引っ張る。
(違うの、脱ぐのが恥かしいんじゃなくて、あっちの、女の世界へ入っていく自分が…)
 ちょっとぼーっとしている間に、いつのまにか僕はますみちゃんによってブラを外され、タオルが胸に巻きつけられているのに気がついた。
「ますみ!ぼ…あたしの胸見たでしょ!!」
「何怒ってるんれすか!女同士別に恥かしくないじゃないれすか!!」
 股間のフィメールパットがしっかり張り付いている事を確認し、僕はとうとう女だけしか許されない場所…女湯へ入っていった。

「え、ゆっこしゃん!とうとう、埋め込まれるんれすか!」
「やったじゃん!おめでとう!これで遂に本当の女の子なんだよね!」
 女ばかり四人(?)露天風呂でゆっくり漬かっていた時にこの話が出て、僕は少し恥かしくて始終俯いてた。
「じゃあさ、改めてあたしたちの仲間になるゆっこを交えてさ」
「え?何?」
「おっぱいのみせっこしよう」
 ちょっとちょっと!智美!なんてこと言い出すのよ!
「え?女同士では良くやってるよ。だって自分の胸って他の子て比べてどうなのかなって、みんな気になってるし。女性自身のみせっこまでやる子いるもん。さすがにそこまでやんないけどさ」
 そ、そうなの???ふとまず自身有りげに、長い髪をタオルで包んだみけちゃんが、湯の中で胸に巻いたバスタオルを外すと、二つのオレンジ位に脹らんだ白くて可愛くて大きいバストがそこに表れた。
「みけ、また大きくなってない?」
 智美ちゃんがそう言って指でつつく横で、ますみちゃんがいきなり手のゲンコツで攻撃!
「キャ…こらますみ!」
「腹たってきますぅぅぅ!みけしゃんの胸!」
 ちょっとどうしていいか躊躇っている僕。
「ゆっこ、ねえ触ってみる?そのかわり触らせてね」
 恐る恐る指で、その大きな塊を突ついて見る僕。僕の指はその大きな塊にずぶずぶ入っていく。やっぱり本当の女の子の胸って、とっても柔らかい。
「わあ…柔らかい、羨ましいなあ」
 僕がちょっと物憂げにそれを眺めていると、
「ほら、ゆっこしゃん!あちきの胸だってさ!ほら!」
「え?いいの?触っても?」
「いいれすよ、ほら」
 みけちゃんより一回り小さいけど、可愛く、苺色の大きな乳首の付いたそれは、指で触るとすべすべして柔らかい。こんなけたたましい子でも、やっぱり愛らしい女の子の証拠を持ってるんだ。
「じゃ、ゆっこ。女の証拠見せてよ」
 笑いながらみけちゃんが僕のタオルに手をかける。不思議とあまり嫌な気がしない。もう皆とは同性感覚だし…。みけちゃんの手をそっとどけて、僕は自分の胸を三人のクラスメートの前に露わにした。でもやっぱりちょっと恥かしいよ。僕が男だって事知ってる女の子に、僕の脹らんだ胸を直接見せるのは。僕は目を閉じ、顔を横に背けた。
「わあ、ゆっこ、色っぽい、その表情…」
 そういうと智美ちゃんが、まず僕のピンクの乳首を指で触った後、胸を指で突つき始める。みけちゃんとますみちゃんも、僕の胸をつんつんと攻撃。
「あ、でもちょっと硬くない?」
「うん、ちょっと硬いかも。でもちゃんとした女の子のおっぱいだよ」
「ねえねえ、形なんて四人のうちで一番カッコ良くて可愛いんじゃないれすか!」
 ふふっ、少し整形手術が入ってるけど、大きさはともかく、このツンとした乳首とかわいい丸み、僕とっても気に入ってるんだ!
「じゃ、次智美!」
「やっばりやだ、あたし見せない!」
 いかなり体を半身にねじり、胸を両手で隔す智美ちゃん。皆の非難の声にも応じず、かたくなに胸を出さない。
「だって!だってさ!前から気になってたけど、やっぱりそうよ!なんであたしより、ゆっこの方が胸おっきくて可愛いのよ!今はっきり判った。見せない!」
「だめれすよ、智美しゃん!あ、裏切る気れすか!!」
 そう言うとますみちゃんは、タオルを剥ぎ取ろうと智美ちゃんに襲いかかった。僕やみけちゃんを巻き込み、湯船の中でしぶきが飛び散り、何人かの女性がこっちを見ている。
「もう!恥かしいからやめなよ!」
 みけちゃんが嗜めた時、ますみちゃんが智美ちゃんのタオルを持って後ろ手に隔す。慌てて立ち上がる智美ちゃんは、すかさず手で胸と股を隔すけど、僕にはちょっと見えちゃったんだ。智美ちゃんの股の…ううん、どうでもいいよ。
「なんであたしの胸ってこんななのぉ」
 Aカップ程の脹らみに、干しブドウ位の乳首を露わにした智美ちゃんが、これ見よがしにうそ泣き。
「智美、いいじゅん、可愛いよぉ」
 みけちゃんがそんな智美ちゃんを抱きかかえる様にして頭を撫でていた。
「でもさ、若い時だけなんだよ、女の子の胸が可愛いのはさ…」
 ちょっと落ち着いた時、ふとみけちゃんが別の湯船に入っている中年の女性三人の方へ目をやる。タオルで下だけ隠したその三人の胸は、見事に垂れて、体ももうぶくぶくの中年太り。
「赤ちゃん生んで育てるとさ、あんな風になっちゃう事が多いのよ。気苦労多いし、疲れるし、ストレス溜まるし…」
「赤ちゃん生んでさ、元の体型保つなんて、すごく難しいらしいよ」
 みけちゃんの後、智美ちゃんも続けた。
「あちきだってさ、結婚したいけどさ、あんな姿にはなりたくないれすよぉ」
 珍しく、ますみちゃんも、湯船の岩に両手を乗せ、頬杖つく格好でその女性を見ている。
「あたしは、別に気にならないなあ」
 僕はふとそんな事を呟く。
「え?なんで?」
「どうして??」
 皆が僕に変な目線を向ける。僕は必死に家事をこなし、両手一杯買い物をして、自分を育ててくれた母親の事を考えていた。当然あんな姿になるのは嫌だけどさ、
「赤ちゃん生んで、育てて、家事とかやってさ、あんな姿になるんでしょ。恥かしい事じゃないじゃん…。誇らしいと思うし」
 そんな事言いながら、ふと僕は湯船の傍らに、温泉の入り方を示したイラストが有るのを発見した。女湯なので、当然モデルは女性。ちょっと可愛い顔だけど、体は胸とお尻がとても大きい、女性独特の体形で描かれている。そのイラストとその中年女性の姿が僕には重なった。育児と家事をこなす女性って、あんな体になるんだよね。僕も、いずれはあんな体になっちゃうかも。当然そうならない様に僕頑張るけどさ。
 軽く僕は自分の胸とお尻を触ってみた。
「ゆっこしゃんが、本当に女の子になったって事が、なんとなく判った気がしますよ」
「男の子だったら、あんな姿の女性なんて見たくも無い、なんて言うもんね」
 珍しく、しんみりと言うますみちゃんに、みけちゃんが続けた。
「ねえ、ちょっと上がろう。湯あたりしないうちにさ」
 智美ちゃんがこう言って湯船から上がると皆が続く。ちょっと上がって、脱衣所のソファーでジュースでも飲もう、そんな気分で僕は続いた。
 脱衣所のソファーで四人、可愛いバスタオルを胸に巻いた姿で暫くお喋りをする僕達。ちょっと女の子座りが窮屈になり、僕は少し男の子の時の癖が出てちょっと股を開き気味に、そんな僕の姿を見て、ますみちゃんが意地悪そうに僕の又を覗き込む。
(もう、ますみ!そんなに男のあそこが見たいの?残念でした。僕フィメールパット付けて…)
 その時、ますみちゃんの顔が急に強張り、横の智美ちゃんに耳元でごそごそ喋る。何か異常感じたのか、みけちゃんがすっと僕の股間をバスタオルごしに覗き込む、と、びっくりして手をポカンと開けた口にやる。あ、ちょっと、僕の股間がすーすーするのは何故!?もしかして!?
「ゆっこ!あれ、あれが無い!!」
 びっくりして僕は手を股間にあてると、ああ!悪い予感的中!フィメールパットが無い!
「ゆっこしゃん、多分あの露天風呂の中、ほらさっきあちきらが暴れた時に!」
 一斉に見ると、その湯船には、さっきの三人のおばさん達がまさに今入ろうとしている!
「ああ、どうしよう!」
 僕がびっくりして恐怖で動けないでいると、
「わあああああ!」
 僕の横をすり抜け、智美ちゃんとますみちゃんが、その湯船に突進すると、今漬かろうとしているおばさん達の前で
「ドブーーーーーーーン!!」
 三人おばさん達に湯しぶきがかかった。
「も、もう何よあなた達!行儀悪いわねもうーー!」
「親はいないの?文句言ってやろうかしらもう!」
「もう、最近の子ってマナーなんてまるで無いからねえもう!!」
 当然のごとくおばさん達は次々悪態をつく
「おばしゃんごめんね!ごめんね!」
 ますみちゃんがけらけらしながら謝っていると、三人のおばさん達は別の湯船へ移っていった。僕もみけちゃんもすかさずその湯船に入り、白く濁った湯の中手探りで探す。
 僕は真っ青になって探すけど、無い!無い!!どうして!!そうしているうちに今度は僕達と同じ位の年齢でピンクのバスタオルを胸に巻いた女の子達が二人!
「わあああああ!!」
 二人が湯船に入ろうとした瞬間、ますみちゃん一人が素っ頓狂な声上げて、僕達に湯を所かまわずかけ始めた。
「なんだよこいつら!」
「うざってえなあ、あの変な奴…」
 髪を染めたヤンキー風の二人がこっちを睨みながら去って行く。ごめんねますみちゃん!変な気を使わせて!
 傍から見れば四人の女の子達が、露天風呂ではしゃいでいる様な雰囲気だったけど、実は四人で必死で僕のフィメールパッドを探していた。無い!無い!!その時、僕は、湯船の周りの岩に横穴が有るのを手探りで発見した。その奥には排水溝らしき物が!
「あ、有った!!」
 排水溝の上の金属のすのこにそれは挟まっていた。僕はバスタオルでそれを包み込むと、それで上手く股間を隠し、湯船を出た。ふと見ると三人くたくたになって、湯船の岩にもたれかかってくたっとしている。
「みんな、ありがと、ごめんね…」
 ちょっと熱っぽくなった僕は、乾いた涼しい風に当たろうと、脱衣所に向かった。
(あ、頭が痛い…)
 ちょっとクラッとなった僕は、脱衣所を出た瞬間目を閉じ傍らの壁にもたれ、。そして次に体勢を立て直そうと、頭に当てる手を変えた。その手にはバスタオルがしっかり握られている。
(ああ、気分悪い…、湯あたりしちゃったかな。あれ、どうして僕こっちの手にバスタオル…)
 しまった!僕前隠してない!!
(あ、やっばい!!)
 びっくりして僕は脱衣所の方へ向き直ると、
(あ!あーーーーーーーっ)
 さっきのおばさんが着替えの真っ最中、そして僕の方をじっと見ていた。当然僕の股間も!!
 僕はさっと股間をバスタオルで隠したけど…。
(あ、だめ…多分ばれちゃった)
 僕は恐怖で足ががくがく震えていた。ああ、ばれちゃった…。
「さっき騒いでた子だよね、どうしたんだい?」
「湯あたりかね?あんな所で騒ぐから、バチあたったんだよ」
「気分悪いのかい?ちょっとそこで寝てなよ」
 え?どうして?ばれてないの?何故?
 僕がちょっとびっくりしながらも傍らのソファーで休んでいると、みけちゃん達三人が脱衣所に戻って来た。
「またあんた達かね、ああ、あのね、あんた達のお連れさんが気分悪いって言ってるからさ、ほらちゃんと看病してやるんだよ!」
 おばさん達三人はそう言うと、脱衣所から外へ出て言った。
「ゆっこ、どうしたの?」
 優しく聞いてくるみけちゃんに、僕は苦しさを堪えて、いきさつを話した。

「ゆっこしゃん、ちょっとバスタオル巻かずにそこに立ってくだしゃい」
 今脱衣所には誰もいない。僕はますみちゃんに言われた通り、三人から離れてバスタオルで股間を隠し、そして直立不動になった後、股間からバスタオルを外した。
「ほら、やっぱり、毛とかに隠れて見えないし」
「あそこだってさ、やっぱり女の子のさ、アレに見えるじゃん」
「ほら、やっぱり前隠してなくても、ゆっこしゃん女の子に見えますよぉ」
 そうなんだ、僕もうそこまで変身したんだ。裸になっても、女の子にしか見えない位に。
「ゆっこ、いつまでそうしてるのよ。服着替えて戻ろうよ。今日は部屋でさ、あたし達だけのお祝いするんだからさ」

 ホテルでちょっとした修学旅行気分で、ご飯の後、カラオケ、部屋に戻ってジュースとお菓子片手にトランプで大騒ぎ。そして翌日、水着着用のいろいろなアトラクションプールへ。昨日、前隠してなくても、もう女の子に見えた事で、僕はもう女子更衣室で堂々と着替えを済ませた。可愛い水着姿で、いろいろなプールでくつろぐ僕達四人の女の子を、やっぱり男達は放っておけないらしい。結構いろいろ声掛けられたりしたし、中には、僕のちょっとした自慢の、白くてむっちりした太腿に容赦無しに触れて来る男もいた。
 ちょっと遊びで、四人で相手してあげると、もう男達は大はしやぎで、アイスクリームとかおでんとか、フランクフルトとか、次々おごってくれる。やはり僕達を狙っていたらしい男の子達と、ちょっといざこざになったり、みけちゃんだけどこかに連れていかれそうになったり、ちょっとスリル有ったけど、
「こんなの普通よ。ナンパされごっこなんてさ、女の子の数少ないスリル有る楽しみの一つにすぎないの」
 智美ちゃんが、そっと僕にアドバイスしてくれる。その男の子達は一八才、丁度僕と同い年位かな。色黒で男らしくて、少し格好良くて。
 生まれて来た時は僕も彼らと同じ体だったし、そのまま行けば、僕も彼らと同じ体になって、女の子ナンパしてさ。でも、僕は違う進化したんだ。
 白に青と緑のぶちの水着から覗く僕の太腿や、ちょっと少年ぽいけど、水着に丸く包み込まれた僕のお尻とか、内田有紀似の顔に、可愛くふっくらした唇、愛くるしくなった僕の目、ナンパ男達はそんな姿の僕を事有る事に誉め、まるで僕達を王女様の様に褒め称えた。
「それじゃ、那須駅改札に六時ね。絶対待っててくれよ」
「うん、楽しかったあ、またあそぼねー」
 午後三時、泳ぎ、遊び疲れてホテルを出て、その男達と別れる時、智美ちゃんがそんな無責任な発言をしていた。
「ねえいいの?本当にまた駅であいつらと会うの?」
 僕は少し恐くなって智美ちゃんに尋ねた。
「…さ、大急ぎで駅に行くぞ!」
 ますみちゃんが一声そう言うと、電話でタクシーを呼び始めた。
「え?みんなどうするの?」
 僕以外はみんなそわそわした感じで、あちこち見ている。
「ねえ、智美ぃ」
 僕はたまらず声をかけた。
「もう、馬鹿ね!あんな奴達と再び会う訳無いでしょ!大急ぎで東京に戻るの!」
「え?じゃ騙したって事?」
 僕はちょっと声を落として聞く。
「もう、ゆっこしゃん!いつまでもおめでたい人れすね!ああ言わないと、今日一日あいつらあちきらに付きまとうつもりれすよ!」
 ますみちゃんがちょっと呆れたって感じで僕を戒める。
「ゆっこもさ、もう女なんでしょ。これくらいのテク覚えとかないと、先々大変だよ!」
 ええ、みけちゃんまでそんな事…、さっきの男の子達可愛そう…。

 温泉旅行から戻った僕は、すぐにお正月の準備に追われるゆり先生の手伝いをしはじめ、まずはお正月の買い出しに。只、良く食材とか買いに行く近くのスーパーに顔なじみの子がいて、大きなノート一枚にびっしり書かれたメモをその子に渡して、食材はその女の子に集めて貰う事にした。
「ごめんね、ちょっと忙しいから。そっちも年末で忙しいでしょ?いいの本当に」
「あ、いいですよ。いつも買ってもらってるし、この前の誕生日にプレゼント貰ったし」
「じゃ、今日夕方もう一度来るから、それまでに御願いね」
「はーい、待ってまーす」
 (久保田)とかかれたネームプレートを腰に、白いブラウスの背中に可愛いブラの線を浮かべ、緑のスカートを翻して駆け出す広末○子似のその娘。
(可愛い娘だよなあ)
 僕はじっとその娘がスーパーの奥に消えるまで目で追っていた。

 そしてとうとう来たお正月!一同が早乙女クリニックに集まり、それは賑やかだった。僕とまいちゃん、ともこちゃんは振袖で参加。陽子ちゃんと真琴はあの地獄の特訓を正月休み開けに控え、つかの間の休息を楽しんでいたみたい。
「僕達のトレーニングが遅れた分、今回始めるのが遅いの。それにさ陽子ちゃんなんて、あのメニューの大部分が一発でパスするみたいだし…」
 赤いミニスカートに厚手のタイツ姿の真琴ちゃんが、嬉々として雑煮を食べながら美咲研究所での生活の事をいろいろ話してくれる。
「本当の所今回、僕だけなんだよね。あの特訓受けるのさ。しかも少し簡略化されてるし」
 それを聞いてたともこちゃんが訴える様な目つきを美咲先生に向ける。、
「美咲先生!やっぱり今回ってすごい甘々じゃん!いいの?」
「いいのいいの、前回無駄が多すぎたしねー、量も多くて、ゆっこちゃんなんて期限当日になってやっと合格するしねー」
 ビールを片手に美咲先生は、ちょっと酔った風に答える。
「あ、ゆり先生!美咲先生!僕と陽子ちゃんでちょっと出かけてきまーす」
「どこへ行くのよ、正月早々に」
「えへへ、ちょっと内緒」
「別にいいけどさ、ちゃんと夕方までに帰ってきなよ」
 すっかり酔っ払った美咲先生が赤い顔をして答えた。
「あ、じゃあ私達も、明治神宮へ初詣に行ってきます」
 僕とまいちゃん、ともこちゃんが軽く会釈。
「なんでまた、あんな混雑してる所にわざわざ行かなきゃなんないのよ、三人で振袖着てさ、まだあんた達男じゃん、もう」
 美咲先生がとうとう酔っておかしくなってきたらしい。
「早く、変な事言われないうちに、早くいってらっしゃい!」
 ゆり先生が、僕達を追い出す様に玄関まで送ってくれた。

 早乙女クリニックを出る間際、ポストを確かめるとたくさんの年賀状が詰まっていた。
「ねえ、ちょっと待って!届けて来るから」
 草履をカラカラ言わせて、僕は年賀状のいくつかを見ながら、玄関に戻ろうとした。と、僕の目が突然大きくなり、手が震え出す。
「ともこ!まい!!これ、これ!」
 一枚の年賀状を、二人に向って僕は手に振りかざした。
「純!純から僕に!!年賀状…」
 国際郵便らしき印の付いたその葉書、懐かしい純の筆跡…。

「あけましておめでとう!ゆっこ!手術受けるんだよね!ちゃんと受けてよね!ゆりねえや美咲先生に心配かけないよーに!」

 純ちゃんからの年賀状は一人にちゃんと一枚ずつ届いていた。ゆり先生は声を上げて喜び、美咲先生の酔いは飛んでしまったみたい。
「僕達神様にお礼言ってくる!」
 僕とまいちゃん、ともこちゃんは駅に急いだ。

 同じ頃、陽子ちゃんと真琴ちゃんも、電車で原宿駅に来ていた。正月早々開いている店が結構有る。真琴ちゃんは別に平気だけど、陽子ちゃんは少しそわそわしながら、メインストリートを歩いていた。
「ああ、いいなあ!僕一度女の子でさ、原宿来て見たかったんだーっ」
「ねえ、やっぱり今はやめようよぉ、私はともかくさ、真琴ちゃんの知人にでも会ったらさ…」
 陽子ちゃんの言葉も聞かず、真琴ちゃんは角のクレープ屋で二つのフルーツクレープを買い、
「はいっ」
 と一つを陽子ちゃんに渡す。
「あ、ありがと…」
 クレープを頬張りながら、二人はすっかりコギャル気分になり、女の子達に混じっていろいろウィンドウショッピング。そわそわしていた陽子ちゃんも、
「まあ、いいか…」
 とすっかり楽しんでいる。
「真琴、お昼どこで食べよっか」
「どこも混んでるみたいだよね、ちょっともう少し歩いてみない」
 ちょっと路地に入りかけたその時だった。
「武見、武見じゃねえか?」
 いきなり、そして久しぶりに自分の苗字を呼ばれ、びくっとして振り向く陽子ちゃん。
(あ…朝霧君?)
 ジーンズに白いセーターの元クラスメートの朝霧君がにこにこして立っていた。
(わ…これちょっと)
 ふと真琴ちゃんを見ると、やはり相当動揺しているみたいで、こちらをちらちら見ながら背を向けていた。
「え?誰?その連れの子お友達?可愛い服着てるじゃん」
 陽子ちゃんごしに後を覗く朝霧君。
「ねえ、ひょっとしてその子、彼氏いるの?いないならさ、皆でお茶しない」
 すっかり困ってしまった陽子ちゃん。
「あ、あの、優治君、お久しぶりでさ、あたしもいろいろ話したいんだけどさ、あの、ちょっと急いでるからさ…」
「なんだよー、つまんねえなあ。俺達明治神宮行って来たんだけどさ、人人人ばっかでさ、縁日も去年と同じでさ、つまらないから今帰って来た…あ、おーい、開いてる店有った?」
 いきなり路地の奥に向って手を振る朝霧君、驚いた陽子ちゃんと真琴ちゃんが見た物は!?
「一軒だけ開いてた。今席取っといたからさ」
「お好み焼き屋だけど、いいだろ。俺もう腹減ってさ、そこにしようぜ」
 二人誰か走ってくる…げっ、佐野君と中村君!!
 丁度路地の中ではさみうちになった形になった陽子ちゃんと真琴ちゃん。特に真琴ちゃんは茶色いセータに包まれた両手で、ずっと顔を隠している。
「秀樹、昭、ほら、そこに武見がいる」
「え?武見?うわー、懐かしい!お前病気治ったの?」
「お前も今日初詣なの?ねえ、横の可愛い子お友達?丁度良かったよ、なあ一緒にお好み焼き食べようぜ!」
 懐かしさのあまりいろいろ陽子ちゃんに声をかける中村君と朝霧君。
「あ、あのね、ごめんあたしたち忙しいから失礼したいんだけど…」
「なんだよー、冷てえなあ」
 陽子ちゃんの態度に口を尖らす朝霧君。
「ねえ、そこの彼女、武見のお友達?ねえ、なんで顔隠してるんだよ。僕達本当怪しい者じゃないからさ、武見の元クラスメートなんだよ。ねえ、一緒に昼ご飯食べよ!」
 その時、さっきから顔を隠している女の子を不審に思って、黙ってじっと見つめていた佐野君が声を上げた。
「あああああああーーーーー、お、お前!渡辺じゃねえかよ!!!!」
 佐野君の言葉に、一瞬きょとんとする朝霧君と中村君、そして
(きゃん!!)
 といった感じで顔を隠したまま飛跳ねる様に驚く真琴ちゃん。
「渡辺って?誰?」
「ほら、武見と一緒に辞めたクラスメートのさ!」
「ま、待てよ。お前何いってんの?あれは男だろ?」
「あ、ごめんね彼女!こいつ時々とちくるって変な事言う奴だからさ、ほっといていいからさ。ほら可愛いスカート履いてるし、胸有るしさ、ちゃんと背中にブラの線有るし。」
「見ろよ!秀樹!彼女びっくりして震えてるじゃん!」
 二人に責められた佐野君は更に抵抗する。
「あのさ、俺あいつと時々遊んでたからわかるんだよ!お前なんで女になってんの??」
 その時、真琴ちゃんは、顔を隠していた手をすこしずらし、少し顔を上げて佐野君を見つめた。
「あ、あの、私、渡辺の妹で真琴っていいます。今日武見さんと…」
 ぼそぼそと喋る真琴ちゃん。
「あ!渡辺の妹さん?ごめんごめん。あいつ妹なんていたんだ。ほら秀樹!女の子じゃん!ちゃんと謝れよ!」
「正月早々ひでえよな!」
 うまく嘘をつけたと思ったのか、ほっとした様子で真琴ちゃんはすっくと顔を上げる。
「ええ、佐野く…さん、朝霧さん、中村さんの事は、いつも兄から…」
 あっそうなんだ、て感じで頷く中村君と朝霧君…あれ???なんか変?と、今度は朝霧君が声をあげる。
「ちょっと待ったああ!お前初対面のくせして、どうして俺達の顔と苗字が判るんだああ!」
「あ…、そうだ。俺達今名前でしか呼び合ってなかったよな…なんでだ?」
「だから!こいつは女装した渡辺だって!!」
「えええええええええーーーーーーーーー!!!!!」
(もう!真琴のバカ!!)
 そういった感じで陽子ちゃんは真琴ちゃんの頭をこづき、そして二人揃って路地の奥へ走り出す。
「あ、逃げた!」
「おい、武見!渡辺!ちょっと待てよ!」
 すかさず三人が追いかける!

「もう!だから来るのやめようって言ったのに!前のあたしん家の裏の神社にしとこうって言ったじゃん!!」
「そんな事、今言われてもさあ!」
 逃げながらお互い責め合う二人。でも陽子ちゃんはともかく、真琴ちゃんは足には自信が有ったはず。でも、柔らかい脂肪の付き始めた太腿とお尻、退化し始めた足の筋肉、そして脹らんだ胸、そしてスカートとミュールが、走る真琴ちゃんを邪魔する。三〇秒も走らないうちに、とうとう佐野君達に捕まえられ、人気の無い路地裏に連れて行かれる真琴ちゃん。
「渡辺!どういう事なんだよこれ。わっお前の腕、なんでこんなに柔らかく…」
「この胸自前じゃん!あの水泳の時の噂本当だったのか?」
「いつのまにこんな丸い柔らかいお尻になったんだよ!」
 追い詰めた三人がべたべたと真琴ちゃんの体を触り始める。
「陽子ちゃん!助けてぇ!」
 やっと追い付いた陽子ちゃんが、着ていたコートを脱いで三人をそれで叩き始める。
「ちょっと、みんな止めてあげてよ、セクハラじゃん!」
「武見何言ってんだよ!こいつ男じゃんか。なんでセクハラなんだよ」
「ああん、やだああ!」
 真琴ちゃんの目から涙があふれ、声が涙声になっていく。
「お前その女声どうしたの?女っぽい仕草してさ!」
「たった半年でさ、その、おかま通り越して、お、女になってんじゃん!」
「ちょっと、みんな御願いだから、そっとしといてあげて!今渡辺君、女の子になりかかってる大事な時なんだから!」
 その言葉に三人の男の子達は一斉に手を離す。
「えええ、いったいどういう事だよ!!」
 ぽかんと三人は真琴ちゃんを見つめた。暫く沈黙が続いた後、中村君が真琴ちゃんの冷たくて柔らかく白くなってしまった手を掴んだ。
「じゃあ、渡辺くん、いや。真琴ちゃん。喫茶店でも行って話し聞こうか?」
「うえぇぇぇ・・・」

 

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