…明日会いたいって連絡、やっぱり来た。ジョルジュとの夕食の予定を狙いすました様に妨害するクロエの葉書。明日の朝食の場所まで書いてるって事は、今晩あたしを独り占めにする気ね。
あたしを信用しきった愛くるしい目、ふわっとした唇、可愛い子猫ちゃんの為に、ジョルジュにキャンセルの電話、もう何回目なのよ?…
「ふーん…」
フランスの百合小説[クリオネの誘惑]も中盤。ベッドの上で片手で頬杖を付き、クッキーと乳飲料で満たされたコップの置かれた盆を横に、スカートから伸びたすっかり白くつやつやでむっちりしてきた足をばたばたとしながら読みふける僕。
大好きなルナを彼女の彼氏のジョルジュから引き離そうとあれやこれやの手段で妨害しつつ、可愛さを武器にしてルナを自分の虜にしようとするクロエ。ひどいけど一途な所が憎めない。
その先を読んでいる僕の目がある所で釘付けになる。
…あたしは自分の女性自身見るのは嫌。ジョルジュの男性自身は別にそうでもないし、可愛いと思った事さえある。でも…、何故神様は女のをあんな醜く作ったの?ぐちゃぐちゃでしわしわで、まるでどす黒い沼に咲いた悪魔の花。女の体の中で唯一醜い部分。だから女は最後まで小さな布でそれを隠す。でも、なんでジョルジュは何故あたしのあの部分を見たがったり触って遊んだり、あの可愛い棒を中に入れたがるの?なぜ?なぜなの?
ジョルジュの優しい指先も、私を征服しようとする行為も、クロエのねっとりした舌と可愛い唇と、十本の可愛い指先には到底叶わない。でもクロエのあの部分見たら、あたしは絶対あの子猫ちゃんを嫌いになる…
「えーまじでー…」
思わず叫んでベッドの上で体を横倒しにして、傍らの盆をもう少しでひっくり返しそうになる僕。
(僕、これからそういう体になるんだけど…)
そう思いながら体をくの字に曲げ、右手をパンツの中に入れて又を触る僕。そこには小指位に退化した突起物が有るだけだった。少し前に見た時はすでに精巣の入ってた袋はぺちゃんこになり、赤黒い痣みたいになってたのを思い出す。それに下腹が膨らんできたせいなのか、どんどん突起物は股間の奥の方へ移動している。と、部屋のドアのノックの音がする。
「はいるよー」
柴崎さんの声にあわてて僕はスカートをぱっと整えてベッドに寝転がる。その声と共に入ってきたのは
「あの、どなたですか…」
ハンドバッグを手にしたビジネススーツ姿にダテ眼鏡。髪をぴっちりピンで整えた女性がずかずかと部屋に入ってくる。
「あんたのドレッサー借りるよ」
そう言いつつ僕のというか杏奈のドレッサーに座り、眼鏡を外して僕のクレンジングクリームを勝手に手にして化粧を落とし始める女性。見事に別人のキャリアウーマンになってるけど、間違いなく柴崎さんだろう。
「パンツ見えてるわよ、だらしない」
「いいじゃん、女同士なんだから…」
「あんたの口からそんま言葉出るとは思わなかったわ…」
顔をクリームで真っ白にしながら柴崎さんが言う。あ、いつのまにか夕方じゃん。
「クリオネ読んでたの?」
「う、うん」
「どのあたりまで読んだ?」
「今、クロエがルナの彼氏との夕食を邪魔したとこ。あとルナが自分のあそこってみるの大嫌いとか…」
「ふ、ふん」
なんか意地悪そうに鼻で笑う彼女。しばし両者沈黙の後、
「そうそう、真帆ちゃんに会ってきたわよ。百合文化の調査員てことで」
「まじ?」
思い切った事すんなーって感じで柴崎さんを見る僕。
「たいした事なかったわよ。キスはしたみたいだけど、二人で手繋いだり、1本のポッキー二人で端から食べたり、クリオネの読書会とか、ちょっと友達以上の関係ってとこだわ」
メイク落としが終わると髪のピンをとり、首を振ってばさっと髪を広げ、耳のピアスを外しにかかった。
「柴崎さん、そのピンクダイヤの花のピアス可愛いよね」
「あんたの口から可愛いって始めて聞いたわ。これ付けると運が向いてくるからさ」
「前の海の時も付けてたよね」
女で暮らす様になってから必然的というか、こういうアクセとかだんだん目ざとくなっていく僕だった。と、柴崎さんのピアスを外す手が突然止まる。どうしたんだろうと思って見ると、ドレッサーの鏡に映った柴崎さんは目を見開いて驚いた顔をした後、きっと唇を噛んだ表情に変わる。
「ま、まさか、ね…」
コスプレナイト花火大会とやらの前日の夕方。何の気なしにマジックスリーのDVD観てた僕。
マジックスリーの話ではクラスメートが毎回魔物にされていくんだけど、男子生徒が女の魔物にされるストーリーが有った。クラスメートのちょっと可愛い男の子で森君てのがいて、皆と海水浴に着ていた彼が海中で海パンを何かにひっかけて無くしてしまう。一人岩場探しに着た彼に、実は魔物悪の妖精の使徒の人魚姿のお姉さんが、これじゃない?って差し出したのは女の子用のスカートビキニの水着。
当然断る森君は突然現われたクラゲみたいな怪物に捕まり、するするとその水着を着せられ、そしてクラゲの無数の毒針に刺されていく。
悲鳴を上げて苦しそうな彼の顔がだんだん気持ちよさそうな表情になり、ほっそりした彼の体は白く丸み帯びはじめ、スカート越しの彼の股間の膨らみが消えていって、胸には谷間が出きて、おっぱいがふくらんで…。
結局人魚の魔物にされた彼は薫君達マジックスリーに破れ、運よく人間に戻れるんだけど、男の子には戻れなかった森君。
結局女子になって転校する事になり、引越しの日、
「お前女で生きていけるのか?頭の中男なんじゃないのか?」
って声かける薫君に
「助けてくれたお礼」
と言って薫君にキス。そして、
「男の子のままならこんな事しないわよ」
と言い残して去っていく森君…、
(なんだよこれ、ただの変態じゃねーかよ、この作者の月○眠て奴!)
そう思ってそのDVDの入ってたパッレージを軽く放り投げる僕。でもそれと同じ事が今僕に起こっている事を思うと…
(やだ、僕絶対男とキスなんて出来ない!)
そう思ってそのまま床にごろんと寝そべった時、
「杏奈さまー、衣装届きましよー」
その声と共にビニールに包まれた服を持って事務服姿の水村さんが僕の部屋の中に駆け込んできた。
(あー、とうとう届いちまったか)
最初にあのDVD見せられた日、鼻歌歌いながら僕の体にメジャー当ててた水村さんを思い出す僕。
「ちゃんとレディースですよー。ねー杏奈さま、お尻おっきくなってきたし、越のくびれも出来てきたし」
そう言いながらペタン座りして袋から、あの薫君の変身後の衣装を取り出す彼女。
「それ、ちゃんとレディースって、それ男物ってあるの?」
「ありますよー、結構男の人も着てるし」
まあ、ここまで変化しちゃったけど、僕も元は男だし。てな事を思って袋から取り出した衣装を一つ一つ床の上に置く水村さんだったが、
「はーい、この見せパンツ、イエローだけ特別に入ってるんですよ」
そう言って袋から取り出して、僕の顔の前で両手で持ってひらひらさせたのは、変身後の薫君がスカートの下にはいている…薄い黄色に白のフリルと数個の星のスパンコール付きの…。
「なんで…」
僕は水村さんからそれを受け取り、彼女の真似して両手でパンツの端を持ってひらひらさせる。もう女物のショーツなんて見るのも履くのも慣れたけど。
「だって、変身シーンに見せ場有るじやん。まくれたスカートから股間の膨らみが消えたパンツがちらっと見えるところがさー」
「だ、だから…?」
まだ訳わからない僕の返答に水村さんが声を荒げる。
「だーかーら、イエローする人は、コスやってる時、一回転してちらっとパンツ見せなきゃなんないんです!」
「はあーーー?」
そう言って思わず手にしたパンツを胸元に押し当てる僕に水村さんが続ける。
「だーかーらー、イエローのスカートにはブルーとかレッドみたいなスカートまくれ防止機能は付いてないんです」
「だ、誰がイエローはパンツ見せなきゃいけないって決めたんだよ」
「掟ですうー!コスでマジックイエローやる人のー!」
その言葉にパンツを放り投げ、そのまま床に寝転がる僕。
「まあまあ、スカートめくれるとカメコ達が一世にフラッシュ焚くからさ、たのしーぞー」
僕の足をぺちゃぺちゃと叩きながら楽しそうに言う水村さんだった。なんで昼パンチラにこだわったのかやっとわかった。
「水村さん、あんた、やっぱり変!」
こんな人でも京極商事の有能な留守居役らしい。大丈夫か?ここの会社!?