エンゼルソードに花束を!

(0) プロローグ エンゼルソード誕生

 それは日本軍特殊部隊の数少ない女性隊員の交流会から始まった。過酷な訓練をクリアしつつもともすれば後方支援にまわされがちな彼女達は、もっと前線で戦いたいという希望を持った者が少なくなかった。
 当時特殊部隊がまだ一つの部隊だった頃の唯一の女性SWATであった榛名冴子中尉がまとめ役となり、女性による戦術研究会が発足。当時のメンバーは榛名中尉以外に、少尉三名、曹長以下下士官二名の五名であった。
 日本軍管轄のバーのVIP席で、むしろ愚痴ばかり言い合う事が多かった女性特殊部隊のメンバーの交流会は、やがて女性にしか出来ない戦術の真剣な討論と学習の場となり、特殊部隊外からの参加者も増えていく。
 そして十人目のメンバーの歓迎会の時、榛名中尉は自分の胸に別々に付けていた白い天使の羽のブローチとスピアの金の髪留めをテーブルに置き、当研究会の名称を「エンゼルソード」と命名し、イメージ色を金と白に設定した。
 当時の日本国を取り巻く世界情勢は厳しかった。日本と、当時中華民国と呼ばれていた国の財界と軍の一部が結託し、中国に新しい勢力を創設。アジアの統一を掲げ傀儡王朝を設立し新日本帝国と名乗り中国支配に乗り出していた。
 日本人の持つ技術、交渉力と中国の持つ経済力と人材が融合したその勢力は瞬く間に中国を飲み込み、朝鮮半島、台湾、そしてミャンマーとフィリピンの一部までも飲み込み、アメリカに匹敵する強大な経済・軍事大国になりつつあった。日本においては新日本帝国による政治経済・技術に長ける日本人の誘拐・スカウトは後を絶たず、日本国も新日本帝国の侵略の危機に晒されていた。
 そんな中、それに対抗すべく日本軍の特殊部隊が急成長していく。やがてそれは八部隊五百人体制まで膨んでいった。そんな中、部隊間を越えた女性特殊部隊「エンゼルソード」が重要視されていく。情報収集、要人警護と拉致、諜報活動、特殊工作において女性で有る利点を生かし、当時ハニートラップを得意とする彼女達の活動は次第に全ての特殊部隊から一目置かれる存在となる。
 だが、その反面隊員達の危険度は増え、怪我等で部隊を離れる隊員達も増えていった。そんな中創設者とされる榛名玲子は軍本部司令官付きで特務では有るが少佐に昇進。だがその頃から次第に冷酷非情な態度を見せ始め、作戦の失敗においては容赦無い処分を行い始めた。
 反面、彼女は醜い戦争工作の裏で任務の遂行と成功に美を求める様になり、かつなるべく人を殺めないという、「天使の軍隊」を理想に掲げ、火器小銃、兵器にも女性らしさというものを求め始める。
 そしてそんな中、新日本帝国にて「ブラックホール砲」開発の情報が流れてくる。炸裂すれば直径数十メートルは一瞬にして跡形もなくなるというものだった。
 原子核を利用したものらしいが、当時はその費用対効果と取り扱い、維持に疑問が有り、かつそれ以上の破壊力を持たせるものは兵器として開発不能であると判断されていたが、莫大なエネルギーの集積・圧縮に今後を見出した日本政府は、隠密にその情報収集を日本国軍特殊部隊に依頼。そして諜報工作で結果を出しつつあるエンゼルソードに白羽の矢が立った。
 エンゼルソードにとっては初めての大役。榛名少佐自ら男装して新日本帝国の研究所の清掃員として乗り込み、ハニートラップも含め、ほぼ全員が噂されている研究所に何らかの形で潜り込み、そして半年後、試作品は破壊されて入手出来なかったものの、設計図とエネルギー圧縮の情報の奪取には成功した。
 だが、犠牲も少なくなかった。

「期日までに、新日本帝国の外交筋より返事は有りませんでした。よって我がエンゼルソードの任務、ブラックロータス作戦は終了。後は日本国政府と特殊十一部隊に引継ぎを行います。みんな良く頑張ってくれました。ありがとう」
 日本国軍本部内の小さな会議室に集まった士官、下士官含む、男性とは異なるエンジ色に金の羽の刺繍のベレー帽に、薄いカーキ色の軍服に身を包んだ十数名の女性特殊部隊エンゼルソードの面々は、榛名少佐の言葉に全員ほっとため息。軽く拍手を贈る隊員もいた。全員の顔を見渡した後、榛名少佐が続ける。
「まだ全員揃っていませんが、嬉しい連絡が有ります」
 と、榛名少佐の言葉を遮る様に、一番前に座っていた秋元中尉が手を上げた。
「少佐、任務完了光栄であります。ですが、ブラックロータス作戦の功労者の相川少尉からの連絡が…」
「後にしなさい」
 秋元中尉の言葉を軽く遮り、榛名少佐が続ける。
「私達エンゼルソードの働きがようやく認められました。よって本日付けで私達は日本国軍特殊第九十一部隊とし、私、榛名を部隊長として独立せよとの辞令を受けました」
 その途端、集まった隊員達から悲鳴ににた歓声。榛名少佐が続ける。
「尚、曹長以下下士官は、下部組織としてピクシーアローを創設し、全員そこに移籍となります」
 一呼吸置いて榛名少佐が続ける。
「それに伴い、秋元中尉は大尉に、木暮曹長は少尉に昇進します。又今はまだフランスに滞在中ですが、外人部隊からアンジェラ井上曹長をエンゼルソードに迎え、少尉に任官します」
 再び皆の歓声と共に、木暮曹長改め木暮少尉が起立して皆に愛想を振りまきながら敬礼。秋元中尉改め大尉は何か腑に落ちないという顔して起立しつつも、榛名少佐を見つめてきりっと敬礼する。
「それと、民間派遣の生活班の浜曹長を特殊軍籍登録の上、少尉に任命致します」
 その途端、会議室に大きな歓声と拍手の嵐。
「お姉さん!やったじゃん!」
「おめでとう!これからもずっと一緒にいられるね!」
 ところが、
「えー、やだよーあたし、特殊部隊移籍なんて…ここ他に比べて無理難題ばっかじゃん」
 皆より少し年配の女性が少し不満げに口を尖らせる。と、
「浜少尉!」
 榛名少佐の厳しい口調に思わず起立する浜曹長に、榛名少佐が少し微笑んで話しかける。
「独立部隊になった今、人望も信用も有るあなた以外、エンゼルの後方支援は任せられない。私からのお願い」
 そう言って頭を軽く下げる榛名少佐。彼女がめったにそうする事が無いのは集まった隊員達も良く知っている。
「いぇっさあーっ」
 榛名少佐の依頼に口を尖らせてちょっと不満げに敬礼する浜少尉。軍の食堂の厨房でも働いた事の有る彼女は、今やエンゼル戦士の一員までになった。
「まだ有ります。独立部隊に昇格した事で、私達エンゼルソードに母艦一隻が割り当てられられます」
 目を輝かせていた隊員達は、その母艦の写真を見せられると、ちょっと残念そうな声を口々に漏らす。
「なーんだ、三十一部隊の輸送機じゃん…」
「えー?中古?」
「白く塗っただけじゃん…」
 ずんぐりした垂直離着陸可能の初の大型輸送機として、特殊三十一部隊が重宝していたものだが、新造艦が就航したのでエンゼルソードに払い下げになったらしい。少々不満げな隊員達の声を聞き流し、榛名少佐が更に続ける。
「それと、私達の制服が一新されます。まずピクシーアローの制服だけど、はーい森井曹長、出てきていいわよ」
 榛名少佐の声に、部屋の扉からちょっと恥ずかしげに出てきた森井沙弥香曹長。彼女の服は、今までの軍服のイメージを一新させる物だった。
 ぴっちりした明るいオレンジ色をベースに、袖口や腰に黒金色の縁の線のアクセントの付いた、まるでSFアニメの宇宙船に登場している女性クルーが着る様な服。
「わー、かっこいい!」
「かわいい!」
 皆に口々に褒められ、恥ずかしげにもいろいろポーズを決める森井曹長。
「これはもうほぼ完成ししてるので、来月より皆に支給されます。お楽しみに」
 女性隊員達の歓声が響く部屋の雰囲気は、もう特殊部隊の会議ではなく、何かのサークルで集まった女の子達のがわいわいはしゃぐ雑談という感じだった。と、
「ちょっとちょっと!」 
 森井曹長の皆を制する声。
「こんなので驚いたらだめだよ!エンゼルソードの士官制服なんて、もっとすごいんだから!」
 その声に皆が驚いた様に隣同士見つめたり、森井曹長を凝視したり。そして、その様子を上機嫌で見ていた榛名少佐がにっこり微笑んで言った。
「はーい、じゃあ次、先月一足早くエンゼルソード少尉に昇進した栗原霞ちゃん。入ってらっしゃい。まだモックアップ同然の試作の段階だけど、あたしのデザインした制服というかバトルスーツにしては上出来な部類だわ」
「イェッサー!」
 先程森井曹長が入ってきた扉と同じ所から部屋に入ってきた長い黒髪の美少女。ファッションモデルの経験も有る彼女は、嬉しそうな笑顔で部屋の中までモデルウォーキング。その姿を見た隊員達は、彼女の姿に声も出ず、只じっと見つめるばかり。
 彼女はどう見てもレースクィーンか、イベントのキャンペーンギャルにしか見えなかった。ノースリーブの白のミニのワンピースにシルバーのブーツ。腰のブルーのベルトには白い銃と、ぎっしり並んだまるで宝石の様な特殊弾丸。赤とブルーのストライプだけのシンプルな肩の階級章。
 そして胸元には金色の羽をモチーフにした、エンゼルソードのエンブレム刺繍。そしてセルリアンブルー地にやはり金のエンブレムの刺繍の入った小さな軍帽が、髪飾りの様に髪についている。
 しばしにこやかにボーズを決めた彼女は、いきなり軽く少林寺拳法の演舞を行い、いきなり軽くバック転。ミニスカートからシルバーのアンスコがちらちら。そして着地と同時に白いワルサーP38に似た白塗りの銃を抜き、部屋の窓に照準を合わせるパフォーマンス。流石に最年少でエンゼルソードの少尉に昇格しただけの事はある。
「ねえ少佐、本当にこれ着て仕事していいの?」
「まあ、実際はゴーグルとかインカムも装着する事になるんだけどね」
「すっごく軽くて動きやすいんだけど、銃も今までの半分位の重さだし」
 ため口で少佐殿に意見し、もう有頂天で銃を構え、様々なアクションを繰り返す栗原少尉。
「すごい、信じられない…」
「軍服なんでしょ、可愛いすぎ…」
「あたし絶対昇格する…」
 それを見ていた隊員達がようやく口々に声を出し始めるが、秋元中尉改め大尉はちょっと不審に思い、榛名少佐に注文付ける。
「すごく素敵なユニフォームだと思いますが、見た目にはすごく頼りないというか…大丈夫なのでしようか?」
「だめよ、見た目で判断しちゃ」
 自分を見つめていた秋元大尉に少し微笑んで目線を返し、榛名少佐が続ける。
「こう見えても、服は金属とセラミックファイバー製。防弾、耐熱、耐寒、光学迷彩機能付き。腰のベルトのジュエル型の特殊弾はそのまま銃に装填可能で、グレネード、短針、高熱火炎、他、ロープ、網なども含め、現在二十種類が開発済み。肌が直接見える所は、軽いバリヤーで保護されてるし、更に特殊スプレーやクリーム、そして顔は専用の化粧品で防御します」
 と、顔をしかめながら栗原少尉に近寄ってくる浜少尉。
「えー、あたしこれ着るの?膝上二十センチじゃん…、この年で太股見せたくないよ。しかも見せパン付きだし…、へーぇ、こうなってんだ…でかパンじゃん」
 そう言いながら、栗原少尉の着ているユニフォームのスカートを大胆にまくりあげ、シルバーのパンツで包まれた彼女のまんまるなヒップをポンと叩く浜少尉。齢はそろそろ三十の声がかかる彼女。
「ち、ちょっと、お姉さん!やーめーてーくださいー!」
 笑いながらも抵抗する栗原少尉を軽い笑顔で見ていた榛名少佐が続ける。
「インナーのブラとパンツは女の大事な胸と下腹部を守る重要なアイテム。下手なプロテクターより性能はいいはずよ。いいじゃない、あたしだって着るんだから」
「あんたの場合は趣味だからいいんでしょうけど…」
 そう言いつつ今度は嫌がる栗原少尉のノースリーブの肩の袖口に指を突っ込んで、中を確かめる浜少尉。隊員達がそれを見て大笑いする。
「それでは本日はこれで解散します。正式な辞令とかは後の正式例会に行います。それでは…」
 そう言って席を立つ榛名少佐を秋元中尉が慌てて止めようとした時、
「少佐、住吉少尉は昇格無しなんですか?どこにいるのですか?相川少尉はまだ行方不明なんですか?」
 昇格したばかりの木暮少尉の鋭い声。席を立った榛名少佐がパーマをかけた髪をすっと振る。
「相川少尉は…二階級特進、住吉少尉は、まだ行方不明!以上!」
 榛名少佐のその言葉は、隊員達の今までの和気藹々とした雰囲気を一瞬で凍らせるのに十分だった。つかつかと軍靴を鳴らして部屋から出て行く彼女を無言で秋元中尉が追う。
 
 榛名少佐の後に部屋を出たものの外の廊下で早くも彼女を見失った秋元大尉。数度榛名少佐の名を呼びつつ、部屋の近くまで戻った時、部屋のすぐ横の明かりもついていない開けっ放しの機械室にて腕組みをし、部屋の何かの動力音に混じって誰かと口論している榛名少佐が目に入る。
「榛名少佐!お話が…」
 秋元大尉が機械室に入ろうとしたの時、
「…俺はお前達を解散させるつもりだった!」
 低くも野太い男の声が騒音の中はっきりと彼女の耳に入る。恐る恐る彼女が部屋を覗き込むと、そこには榛名少佐のもたれている壁に手をついて彼女を睨んでいる、躯体の良い黒人の様な軍人が目に入った。
「周防…大佐殿…」
 彼と目が合った秋元大尉は、雷に打たれたかの様に敬礼をする。日本国軍特殊部隊の更にエリートの第十一部隊司令官で、退役近い特殊部隊指令官の大倉少将の後釜として噂される人物だった。もしかするとさっきの会議の様子を外のどこからか聞いていたのかもしれない。
 秋元大尉と一瞬目が合った彼は、再度榛名少佐を睨み、
「お前達への大倉指令の最後の手向けだ!感謝するんだな!」
 そう低く唸り、秋元大尉に目もくれず、怒った様子で足早に立ち去っていく。残された榛名少佐は目頭に指を当てふさぎ込んでいる様子。ふと榛名少佐はそこで立ちつくしている秋元に気づいた。
「…一時間後位に、あたしの部屋へ来てちょうだい…」
 それだけ言うと、彼女は再び目頭を押さえ、機械室の奥に入っていく。そこから立ち去る秋元大尉の耳には、発電機の音に混じって、嗚咽する彼女の声や、何かを殴ったり蹴ったりする音が微かに聞こえていた。
 
「秋元大尉、入ります」
 簡素な女性士官室の一つの扉の前で何度かノックし榛名少佐の名前を数度言い、やっと入室許可の返事が返ってくる。彼女が中に入ってそこで見たものは、執務机の椅子に疲れた様に座っている榛名少尉。机の上にはワインの瓶が二本とグラス一つ。うち瓶一本は空になっていた。
 両者しばし沈黙の後、先に榛名少佐が口を開く。
「聞きたい事はわかってるわ。住吉少尉の事と相川少尉の殉職の事…」
 そう言うと、目の前のグラスのワインに目もくれず、いきなりワインの瓶を口につけてあおる榛名少佐。長々とワインを口にした彼女は、残り殆どを飲みきった後、それをドンと机の上に置いた。
「ブラックホール砲には…万一の為の証拠隠滅用の自爆装置が作動していた…己自身をその力で消し去る装置がね。相川…、あの子は調査不足でその事を知らなかった…」
 そう言って瓶に残ったワインを、まだ中身が入ってるグラスにそそぎ、上品とは言えない手付きで口に付けながら続ける。
「…国連の査察に見せかけた兵士が突入してきた時、それが本物と勘違いした相川は、国連軍の手に渡る前にせめてもと機械の制御システムの…ソフトウェアを入手しようとしてその場に残って…」
 そこまで聞いた秋元は、思わず両手を顔に当て目を伏せ嗚咽し始める。
「…新日本帝国の…違法兵器開発の決定的な証拠は…相川と共に消えて…、めそめそするんじゃないわよ!あの子に自分の娘同様に接してきた、あたしだって!どんなに辛かったか!」
 いきなり表情を変えてきた榛名少佐に対し、両手を顔に当てたまま涙声で応戦する秋元。
「ともみ…、住吉少尉…、住吉友美は、ともみはどこにいるんですか!」
 その言葉に榛名少佐は机にうつぶせしばし動かなかったが、やがてのそのそと机の上の機器を操作すると横のモニターが作動。そこに映ったのは同期入隊で仲良しの、しかし顔は誰かに殴られたのかひどく腫れあがった住吉少尉が映り、その傍らには明らかに新日本帝国の軍人とわかる人物。そして、その背景には白熱したどこかの金属精錬工場の溶鉱炉が映っていた。
 住吉少尉の着ている服に秋元中尉は見覚えが有る。一ヶ月も前、ブラックロータス作戦で新日本帝国の歓楽街に、共にホステスとして潜入して、ハニートラップを仕掛けた時の彼女の衣装。しかし、白のはずの彼女の衣装はぼろぼろに破け、無数の血糊が付いていた。
 最初、新日本帝国の言葉で何か喋っていた兵士は、次に住吉中尉の髪を掴んで顔を上げさせる。可愛かったはずの住吉中尉は、無残にも泥と血糊で汚れて腫れあがった顔で息も絶え絶えに話し始めた。
「榛名大尉…私はもう、戻っても生きて行けない体です…私の事は…忘れてください…だめです!取引なんて…」
 その途端、横の兵士に顔を思いっきりビンタされる住吉。しかし彼女はなんとかそれに耐え、手を縛られていたにも関わらず、ふらふらの足でその兵士を蹴り飛ばす。
「ともみ!逃げて!」
 ビデオ映像にも関わらず、顔に両手を当てたまま思わず叫ぶ秋元大尉。しかし、映像は最悪の結果を迎える。銃を持った兵士に溶鉱炉の縁に追いやられたもはや立ってるのがやっとの住吉少尉。そして、
「榛名…少佐、いつまでもお元気で、御武運を!」
 最後の力を振り絞ってそう叫び、自ら溶鉱炉の中へと背中から落ちていく住吉少尉。
「いゃあああああああ!!」
 床に崩れ落ちる様に倒れ、目を瞑り耳を塞いで声を張り上げる秋元の耳に、住吉少尉の断末魔の叫び声が聞こえる。その傍らで、机にうっぷしながらも溶鉱炉の中に上がった火柱をじっと凝視する榛名少佐。そして、
「秋元大尉!みっともない!」
 その声にふと我に返る秋元大尉。
「相川、住吉がいなくなった今、エンゼルとピクシーの副官はあなただけなのよ!」
 ゆっくりと顔から手を離して榛名少佐の方を振り返る秋元中尉に、酔った榛名少佐は更に言う。
「住吉は、酔った勢いで日本国軍特殊部隊しか知らない事を喋ってしまった。その結果がこのザマよ!住吉も、相川も、自分の失敗が招いた結末がこれよ!良くおぼえときなさい!」
 その声に、秋元はゆっくり立ち上がり榛名少佐をきっと睨む。
「なぜ、なぜ!住吉は行方不明のままなんですか!なんでまだ公表されてないんですか!」
 そう言いつつ榛名中佐の前に一歩一歩にじりよる秋元大尉に対して、酔った榛名が彼女をバカにした口調で話す。
「なんで、ですって?あーら、三人の小尉うち二人が殉死したって聞いたら、流石に大倉指令もエンゼルの独立に難色示すでしょうね」
「な、なんですって…」
「今回の結果次第ではエンゼルソードの独立を認めると、そう決まっていたのよ!エンゼルソードは、あたしの命よ!その為なら鬼でも悪魔でもなってやるわ!」
 酔っていたとはいえ、あまりの榛名少佐の言葉に大声をあげ、士官室から飛び出していく秋元大尉。秋元の声が聞こえなくなると、榛名はモニターの電源を切る。
(やはり、女だけの部隊は無理なのか…女は詰めが甘い…そうなのか!) 
 悔しそうに唇を噛んだ彼女は、一声上げて机の上のワインボトルとグラスを片手で払いのけ、床に落ちたグラスの割れる音も気にせず、そのまま傍らのソファーに寝転んだ。
 そんな彼女がふとある事を思い出す。それは軍病院の幼馴染の女性博士が男性を女性に変え、人口少子化問題の解決を目論んでいる事だった。既に臨床実験まで行っているというのだが。
「ばかばかしい…」
 そう一言呟き、ようやく彼女はソファーの上で波乱の一日を終えた。

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