プロローグ
暗闇、それは妖魔たちの巣と化す。恐怖、不安、憎悪、人が持つべき暗い心を好むのだ。
人はどんなに平穏に暮らしていても妖魔たちはわずかにできた空間(隙間)に忍び込んで来る。何の力も持たない人間たちには止めることはできない。しかし、一部の者たちのみが退魔しようと試みる。それにも差があり、自らの能力を過信せず金目的でしか退魔しない者、山に籠もって正義のために退魔を試みる者、退魔の意味すら分からない詐欺紛いの行為を行う者、それは人それぞれだがここで取り上げる物語は妖魔と共存することを選んだ奇怪な一族のストーリーである。
平安時代、栄華を誇る宮城(平安京)を影で支えていたのが陰陽師と呼ばれる人々である。この者たちは陰陽寮という機関に所属しており、天文や暦などを観察する表の仕事、退魔など魔物に関わる裏の仕事の二つを受け持っていた。この中には修験道の基礎を築き上げた役小角、陰陽師の中でも最強と詠われる安倍晴明がいるがその他にも大陸にて密教を学んで倭国に伝承させた真言密教を築いた空海、前者らと共に大陸に渡り、比叡山にて天台宗教の祖を築いた最澄もその一人といっても過言にはならないだろう。
さて、話は戻るが平安末期、国は乱れ、藤原氏に代わって平氏の勢いが激しくなりつつあった。その頃、陰陽師の中から七人の異端児が現れた。彼らはその異常までの強さから衰退しつつあった陰陽師たちからは忌み嫌われてはいたが庶民の中には彼らを慕う者は後を絶たなかった。彼らは人の名で呼ばれることはなく名より一文字ずつ抜き取ってこう呼ばれていた。
神、獄、孝、双、養、天、光
彼らは権力というものには興味がなく、むしろ魔物たちの方に興味を持っていた。その内の一人、双は、
「我らは退魔を主としてきたが平安の都も衰退の道にある。このあたりで身を引いてはどうかと思うのだがお主らはどうじゃ?」
「うむ、私もそう思う。しかし、慕ってきた者たちはどうするんだ?。このまま、共には行けぬぞ」
そう天が話すと神は、
「何を言う。連れていけば良いではないか。唯一、我らを慕ってくれている者たちぞ。このまま、見捨てるというのか」
「そうは言っていない」
「いや、言っているではないか。お主は人とは違い魔物を支配しようと企んでいるらしいな」
「言いがかりは止してもらおう。我らは退魔師ぞ。魔物と暮らすなどもっての他だ」
天は怒りをたえながら、神に言った。
「では、なぜ仲間たちを見捨てる?」
「まあまあ、お二人とも止めないか。こんなところでもめても仕方があるまいって」
穏和な性格の孝が間に入った。そのため、二人は喧嘩別れに終わったがこの時のささいなもめ事が源平合戦の裏側で起こる双妖合戦へと変貌することになる。
双妖合戦とは神・獄・孝・双と、妖(養)・天・光が分裂し、戦った合戦のことで表の世界で源平の戦いが行われていた頃の時代である。
きっかけは元々不仲だった双と妖が争い、妖が双を陥れるために奇怪な城を築いた。鬼がかつて住んでいたといわれる城で闇の夜が現れるときしか姿を現さないのでその姿を見た者はいなかった。しかし、妖気で城は姿を現すため、双についた神・獄・孝の三人とそれを慕う者たちが善の心を持って正義という意志と共にこれを倭国のどこかに封印した。その時に敵対した妖は城と共に冥界と呼ばれる暗黒の世界に引き込まれ、その姿も人から魔物の姿へと変貌し、その容姿は鬼面だったというが現在までその姿を見た者はいなかった。
この戦いで妖を除く、他の一族は妖を魔物たちの筆頭格と名付けて「妖魔」と名付けるようになったという。また、天・光は巧みな戦術で生き残ったと言われている。
しかし、この戦いは口伝えで人の耳にも伝わり、この七人は妖魔と同等と叫ぶ者も現れ特に不仲であった陰陽寮の者たちは彼らに攻撃を加えるという事態にまでなっていった。
彼らは倭国はもとより大陸に移る者まで現れ始め、最終的にはその姿は鎌倉将軍である源氏が滅びる頃にはその姿もぷっつりと現れなくなった。
それ以降、彼らの姿を見た者はいなかったが彼らは「七魔」と呼ばれるようになり、人々の記憶からも恐れられていたが時代が流れるにつれてその記憶は薄れていった。
その結果、妖魔たちは闇に紛れて現れるようになり、かつて七人に抑えられていた魔物たちも人界(人間界)に現れ始め、その一人が中世の魔王織田信長に取り憑いたとも伝えられたという。
それでも彼らは決して滅びることはなかった。人里離れた山奥に小さな社と小さな村を作り、退魔を仕事としてひっそりと暮らしていたのである。
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