プロローグ

 かつて江戸末期まで武士と呼ばれる者が存在した。しかし、それもすでに100年経った今、真の武士と呼べる者は一握りでしかいなくなっていた。その一握りの者たちの中に裏世界で名の通った人物が居た。その人物は実際見た者はなく、見た者は「死」以外道はないと噂されていた…。

 夜、人の心はいろんな状態になる。歓喜、道楽、不安、恐怖、悲哀などなどいろんな人たちが日頃の鬱憤を晴らそうと繁華街に出る。繁華街にも善悪がある。この日もまた暗闇に潜む者たちが動き出す。
 港湾地区、倉庫がいくつも並び昼間のにぎわいとはうってかわって夜はひっそりとしているのが普通(?)である。そんな普通の状態が逆転することもまれにあった。まれといっても日常的なものではない、犯罪が絡んでいるとなれば尚更である。
 一定間隔に数人のボディーガードらしい黒のスーツをまとった者たちが配置されていた。それはある倉庫に続く道に全部である。倉庫の周りとなると厳重なこと極まりない。警察なんかがすぐ来るといつでも逃げる準備はできてるといった有様であった。
 ある倉庫、ここではある密売組織が海外のマフィアと取引をしていた。純度の高い麻薬の取引である。
「………」
マフィアの代表者と思われる白人の男が英語で話していた。通訳が後を引き継いで言う。
「金は用意できたか?」
組織のボスらしい男が言う。
「ああ、そっちは?」
通訳が白人に言う。すると白人は言葉を返して通訳がそれを伝える。
「できている。早速だが見せてもらえないだろうか?」
「わかった」
組織の男はアタッシュケースを3つ用意していた。ロックを外すと大量の福沢諭吉が顔を現した。白人が頷くと10ものある木箱をバールのような物で開いた。すると中からは半透明の粉が出てきた。
「おい、確かめろ」
ボスが部下に命じて粉を確認させた。舐めた男はすぐにラリってしまった。
「なるほど、これはこれはすごい代物だな」
通訳が言う。
「では取引は成立したということでよろしいですか?」
「ああ、構わんよ。これだけのすごい物が手に入ったんだ。さらに礼をしなくちゃいけないな」
そう言うと、組織の部下が一斉に銃を白人たちに向けて構えた。
「こ、これはどういうことだ!?」
「言っただろ?、取引は成立したと。麻薬も金も頂くという取引がね」
「騙したな!?」
「今頃、気づいたのか?。じゃあ、あの世で極楽でも見てくれ」
そう言ったとき、一本の木の枝が双方の間に落ちた。
「誰だ!?」
ボスが叫ぶと、
「おのれこそ、俺の存在に今頃気づいたのか?」
「なにぃ!?、姿を見せろ」
「見れば死することになるぞ」
「それはどうかな?、撃て、撃って撃ち殺せ!!!」
部下たちの銃器からは一斉に火が噴く。方角は天井だ。しかし、そのときには気配がすでになかった。部下の1人が放った弾が鉄骨に当たって偶然にも電気のブレーカーに直撃し、倉庫内は停電になったのである。
「な、何だ!?、何が起こった!?」
ボスは暗闇の中で叫ぶ。そのときに周辺で叫び声が上がった。
「ぎゃああああああああ!!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「く、来るなぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
部下たちも暗闇の中で死という階段に向かって歩いていく。
「く、くそっ!、みんな、外に出ろ」
ボスが皆を促す。ボスが一番に外に出たとき、丁度、後ろにいた部下が背中から襲われていた。
「ボ、ボス…」
ボスの背中に向かって倒れてきた。
「うわぁぁぁぁぁ、来るなぁぁぁぁぁぁ!!!」
死人と化した部下の体を避けると暗闇の中から声が響いた。
「お前の部下は1人残らず、この世にはいない」
「お前は何者だ!?」
「誰だと思う?」
「何を言ってやがる!!!」
「死する前に教えてやろう。我が名は金子玄十郎!、いざ参る!!!」
「か、金子…だとぅ!?、あ、あの百人斬りの…」
ボスの口からわずかに驚きの言葉が漏れた。
「さらばだ」
そして、暗闇を切り裂く一閃がボスの喉を切り開いた。凄まじい血飛沫が辺り一面に舞ったのは言うまでもない。

 この後、通報を受けて駆けつけた警察官は恐怖に駆られて動けなくなっていた白人たちを全員捕らえ、組織のほうの生き残りも逮捕された。殺されていたのは唯一、組織のボスだけで残りは意識を失っていただけであった…。警察は一方的な取引をしようとした組織側が逆にマフィア側に攻撃されてボスは射殺されてしまったと見ている。
 誰も金子玄十郎の存在は知る由もなかったのである…。

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