Multi-NFB for Hi-Fi
オーディオ趣味の楽しみ
音の良い真空管パワーアンプの作り方
開設2009.11.22以来 |
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発端は父のラジオ作りから…
昭和28年頃の戦後でまだ良い部品が揃わなかった時代、父(故人)がラジオを自作するのを幼い私がそばで見ていて興味を持ちました。父が作ったラジオは、高2Qダンプ、2A3PP、フィールド型10インチスピーカー(フェランティ社のD4)というものでした。真空管ラインナップは当時の記憶とその後残っていた真空管の記憶から、6SK7GT−6SK7GT−6H6GT−6J5GT−6SL7GT−UY76(×2)−UX2A3(×2)−UX5Z3、このような10球だったと思います。公務員の父が仕事から帰ってきて毎日1球ずつ増やすのが子供心には嬉しかったものです。他の主な部品は、パイロットランプがたくさん点灯している25cm巾位の選局ダイヤル、3連バリコン、山水の出力トランス、それに大形の本箱を改造したスピーカー用の密閉箱等です。当時のよく聞いたラジオ放送では、朝の「名演奏家の時間」テーマ曲はメンデルスゾーンの交響曲「イタリア」第二楽章で始まりハイドンの交響曲「時計」第二楽章で終った記憶、のど自慢、夜のクイズ番組、ヤン坊ニン坊トン坊、少年探偵団などです。サンスター歯磨の宣伝曲が大すきで記憶に新しいです(試聴)。そのラジオはたいへん良い音で鳴っていましたが、4年後に父が古鷹無線(秋葉原)のテレビキットを組立てたときに、電源部や部品を流用するために分解されました。
その頃(小学3年)ですが、父は並3ラジオ(6C6−6ZP1−12FK)の組立キットを買ってきて私に作れと命じました。しかし半田付がうまくできないのを見てもどかしがって自分で作ってしまいました。小学校の時に私が作ったラジオは、鉱石ラジオ、ゲルマニウムラジオ、高1ラジオ、2石レフレックススーパー、5球スーパーなどです。ラジオでは感度を上げるのと音を良くすることが目標です。父がラジオとテレビを自作してその関係の技術雑誌等がたくさんあり、それらをよく読んでは技術の勉強をしました。後年、なんについても電気の等価回路で表わそうとするクセがつきました。本では特に『ラジオ回路集−第3集−低周波増幅器(オーム社、昭和31年)』は、アンプ設計上の技術ポイントがくまなく解説してあり幾度もくり返し徹底的に読みました。そのうちに製本が崩れて失くしてしまいましたが、つい最近のことインターネットで再び買うことができました。
ラジオ少年初の6球スーパー設計・自作…
中学1年の時、6球スーパーを自分で回路設計して自作しました。使った真空管は、6SK7−6WC5−6SK7−6SQ7−6J5−6V6−シリコン整流器でした。選局ダイヤル、10インチスピーカー、真空管等は以前に父が作ったラジオの部品を大いに流用しました。出力トランスは叔父さん(母の弟、故人)がくれたもので2次側から6J5のカソードにNFBを掛けて音質の向上を図りました。1000ΩのフィールドコイルにはAC100Vをシリコンダイオードで整流して140〜200mA流しました。このラジオは感度も音もなかなか良いものでした。夏休みの理科の宿題では、1年はインターホン、2年は6005(6AQ5の高信頼管)とREXの出力トランスを用いたP.Pアンプ、3年は5球スーパーを提出しました。ラジオを作る友達がたくさんいて回路検討したり調整を手伝ったりするのが楽しかったです。
中学卒業後もラジオはいろいろ作りましたが、トリオの4バンド・コイルパックと狭帯域IFTを用いた高1中2でBFO付の通信型ラジオ、HiFi-AMチューナー、1球でRF・IF・AFを増幅するトリプルレフレックス、ワイヤレスマイク、FMチューナー等を自作し
ました。ステレオアンプを初めて作ったときは5極管6AR5のシングルでした。ステレオの広がりのある音が自宅で聞けて感激したものです。スピーカーはP社のメカニカル2WayであるPIM−16Aを使用しました。
本格的なオーディオ趣味は社会人になってから…
社会人になってから昭和48年頃には、高出力Hi−Fiアンプを数台作りました。また、西巻正郎著『電気音響振動学(コロナ社、昭和35年)』を以前から熟読勉強していましたが、スピーカー関係の箱とかホーンなどの設計や自作もしました。
38cm4wayはユニットを除いて全自作ですが最高の音質でした。
(C社15L−2低音、C社6M−1中低音、P社PT−50中高音、P社PT−R7高音。クロスオーバーは340、1600、4800Hzで12dB/octですがPT−R7をアッテネーターで下げ高音ダラ下がりにしました。φ1.6mmウレタン線での空芯コイル。4×8尺×22mmのベニヤ板をほぼ48cm幅で5等分し外寸W53×H133×D48cmグラスウール詰め密閉箱)
アンプは、6GB8PP、50CA10PP、6CA10PP無帰還、6GB8三結PP、8045G−特殊PP(OPTがPP用2個の所をS用4個使用、AB1級動作)無帰還などを自作しました。6GB8のアンプは段間時定数のスタガー比を大きく取って20dBのNFBを掛けて低歪で迫力ある音で鳴りました。その頃の話題としては、NFBの弊害とか直熱型三極管シングルアンプが良いというようなことが言われていました。弟がトリウムタングステンフィラメントの3極管211でシングルアンプを作り趣きの全く異なる音を聞いてからは、設計方法を変えることにしました。8045Gのアンプは無帰還のうえ他にもくふうして良い音を出しました。
その後30年間以上もオーディオ趣味は空白状態です。…
ふたたび真空管アンプ作りに挑戦
6AQ5シングル・ステレオアンプ… (2009年6月)
今年2009年6月久しぶりに再び真空管アンプを作りたくなりました。部品や参考書などは何も無いし回路設計や半田付なども忘れかけてきたので、できるだけお金を掛けないで可能なかぎり良い音のアンプをとにかく1台だけは完成させようと決心しました。ネット検索して部品を買い集め、6AQ5多極管シングル・ステレオアンプ(2.5W×2)を作りました。
6AQ5アンプの要点:
(1)音質第一、出力ほどほど。
(2)出力管にお金を掛けない。最もスタンダードなビーム出力管6AQ5を多極管接続で用いる。
(3)トランス類にお金を掛けない。東栄変成器のOPT−5Sと共立電子産業の電源トランスP66185にしました。
(4)安定度抜群の2段増幅とし、前段はゲインの稼げる電圧増幅5極管6AU6を用いる。
(5)歪低減のためNFB技術を駆使する。まずは禁じ手の出力管カソードのバイパスコンデンサを外す、これで6dBの電流負帰還により直線性を改善する。これはプレート内部抵抗を上げるので、P−P負帰還によって逆に内部抵抗を下げる。そして出力トランス2次側から前段カソードに全体的なNFBを掛ける。前段も直線性改善のためカソードパスコンは外す。
注意点:出力管カソードが交流的にアースから浮いているため、超高音域においてヒーター回路を通して、前段カソードへの帰還や他チャンネルへのクロストークが発生し有害である。対策は前段管のヒーター端子を0.01μF程度のコンデンサーでアースにバイパスする。
試聴:鳴らしてみて一言ですごくいい音。でも後で音質に問題がある(早い話が超高音がダメ)ことが分かって改善しました。スピーカーはONKYOの30年以上前のS−490という25cm3Wayシステム(全てコーン型)。ソースはCDでONKYOのC−705というCDプレーヤー。スピーカーもCDプレーヤーもネットで中古品を入手しましたが十分に良い音です。
問題点:
(1)高域が耳につく音なので当初はスピーカーによるものかと思っていましたが、アンプの周波数特性で90KHz付近に山がありこれが原因と判りました。
(2)左右2本の出力管のプレート電流のアンバランスが大きくて約15%ある。また電源トランスが+B全部で75mAが限度のためスクリーングリッドの電圧をツェナーダイオードで下げていますが標準動作例から大きく外れはなはだ面白くない。
対策:
6AQ5の電圧・電流の関係が標準動作近くにうまく行くならば当初の設計方針通りとしますが、ここは思い切って3極管接続に変更しました。そしてNFBの位相補正の定数をよく吟味したことにより、パワーは1W×2と半分以下になりましたが、これはこれで高域まで十分に良い音のアンプになりました。
2台目総仕上げは6L6シングル・ステレオアンプ… (2009年8月)
もともと6AQ5アンプの次には技術の総仕上げとして更にハイレベルのアンプをもう1台作ろうと考えていました。基本的な設計方法は6AQ5の場合と同じですが、出力は7〜8Wあれば一般家庭ではいかなる場合でも十分ではないかと考えて目標値としました。多極管でこの程度の出力を得るためには(ロシア)SOVTEK社の5881/6L6WGCという長い名前の真空管でペアチューブを購入し左右1本ずつで用いることにしました。+B電源電圧330V、プレート電流80mA、出力トランス1次側インピーダンス2.5KΩとして2次側8Ω負荷に波形ノンクリップで出力7Wが得られました。回路図は6AQ5の場合とほとんど同じです。
試聴:
クラシック、軽音楽、演歌、何を聞いても低〜高音域まで低歪、伸び、切れ、定位、張り出し等すべてが良くて素晴らしいです。今まで作ったアンプでは最も良い音です。
古い真空管ラジオの復活 (2009年10月)
昭和31年(1956年)ナショナルから発売のMagnaSuper(前面ロゴ)という放送波(中波)専用の高級Hi−Fiラジオ(CF−740型)のジャンク品をネットで入手しました。目的は高1付6球スーパーを作るための部品取りでした。自宅に着いたときは埃まみれでしたが、埃を払ってみたら何とキャビネット、内部ともかなり良い状態でした。それで当初の方針を変えて修理することにしました(ラジオの修理は得意なんです、笑)。通電すると、ガリガリザザザ…と大きな雑音がして最初だけ放送が少し聞こえました。マジックアイを含めMT管の7球スーパーで、スピーカーは8吋パーマネント型ダイナミックスピーカーです。
(外部リンク) ナショナルCF−740
真空管ラインナップ:(高周波)6BA6−(周波数変換)6BE6−(中間周波)6BA6−(検波・増幅)6AV6−(電力増幅)6BQ5−(整流)5GK4−(マジックアイ)6CD7。
修理内容: ※回路動作上の重大故障(1)〜(7)
(1)出力管6BQ5グリッド側カップリングコンデンサー0.02μFの絶縁不良(約150KΩに) → 部品交換。
グリッドが+電位になりプレート電流過大となっていた。
(2)整流管5GK4(US8ピン)の足ピンと内部リード線が半田付不良 → 再半田付。
わずかな衝撃でヒーター断線したり両波のところ半波整流になりB電圧低下、ハム音発生。
(3)AC100V間の雑音防止コンデンサー0.05μFが発熱、内部放電 → 部品交換。
(4)RF〜IF球のスクリーングリッド共通のバイパス電解コンデンサー3μFがパンク → 部品交換。
(5)同じく並列接続のバイパスコンデンサー0.05μF絶縁不良 → 部品交換。
(6)高周波増幅段6BD6雑音発生 → 6BA6(回路図通り)の新品に交換。
(7)検波・低周波増幅管6AV6雑音発生 → 6AT6(μ=70で少し小さい)の新品に交換。
(8)バリコン取付ゴムが劣化しボロボロ → 新品のブムブッシュに交換。
(9)7個あるパイロットランプの配線材被覆が全てボロボロ → 新しい絶縁電線にて配線し直し。
(10)マジックアイ6CD7ほとんど光らず → 6E5Cの新品に変更。足ピン接続変更、取付方法変更。
(11)外観構造は埃をよく取り除き、前面プラスチック個所は取外して水洗いした。
修理結果:感度・音質とも良好な受信状態になり、昔の真空管ラジオは見事に復活しました。
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