ダブルバスレフの特性をシミュレーションする
ダブルバスレフの音圧特性シミュレーション
spedを使っていただいている方から、ときどきメールをいただきます。不具合の報告やこんな機能があるといいといったメールもあります。そんな中にダブルバスレフの音圧特性を表示できるようして欲しいという要望があります。
「ダブルバスレフの音圧特性をシミュレーションする方法はよく分からない」というのが正直なところです。バスレフなら参考になる書籍やサイトが結構ありますが、ダブルバスレフはなかなか見当たりません。
それでも、とりあえず手探りで始めてみようということで、頼りない知識を総動員して「ダブルバスレフの音圧特性」に挑戦してみました。
sped Ver3.68〜3.70
やってみたことは、
バスレフの等価回路を参考にしてダブルバスレフの等価回路を作る。
回路から式を作り、周波数特性のグラフを描く。
といった感じです。ちょっといい加減かも…。
できれば今後、もう少し根拠をもって公開できるものにしていきたいと思いますが…。Ver3.70で少しまともになったかなと思っています。
sped Ver3.71
等価回路から式をつくる段階を見直してみました。なかなかいい感じ?
しかし、計算によって求めたfdとグラフ上の共振周波数が一致しません。fdを求める式はいくつかあって、どれが正しいのか分からないので迷うところです。
→ Ver4.06で解決
等価回路
[バスレフ機械系等価回路]
以下はバスレフの機械系等価回路です。細かな所は省略しています。ユニットを密閉箱に収めるとユニットが箱内の空気を圧す作用スティフネス(バネ)が直列に加わります。さらに箱にダクトをつけるとダクト内の空気(質量)が負荷として並列に加わります。…*コンプライアンスはスティフネスの逆数…バスレフ等価回路の詳細について興味のある方は
こちら
をご覧ください。
[ダブルバスレフ機械系等価回路]
以下は経験と勘です。第1ダクトD1(ユニット側ダクト)に対してV2(ユニットから遠い側の容積)が直列に加わり、これにバスレフと同様、第2ダクトによる質量D2が並列に加わる、といった感じです。
*等価回路はアドミッタンスの形(インピーダンスの逆数)で表されることもあります。この場合は直並列が逆になります。
*上図は機械系の等価回路です。電気インピーダンスは含んでいません。
*その他の等価回路は
こちら
sped Ver3.72
比較モードでダブルバスレフが使えるようにしました。
sped Ver3.73
ダブルバスレフのfdを求める方法はいくつかあるようです。それぞれ同じような値になるかというと結構違っていたりします。どれが正しいのかはっきりしません。さらにグラフにあらわれるfd(共振部)もやっぱりどの式とも一致しません。
どうせはっきりしないのなら、少なくともグラフ上にあらわれるfd(共振部)と表示するfdの数値を一致させた方がいいかなということで、グラフから直接fdを読み取るようにプログラムを変更しました。ユニットやエンクロージャーによっては共振部がはっきりしない場合があります。そんな時には計算で求めるようにしています。
→ Ver4.06で解決
sped Ver3.79
以前製作したFW208Nのダブルバスレフをシミュレーションしてみました。
sped Ver3.82
Ver3.82から群遅延特性を表示できるようにしました。(緑の線)
群遅延特性について今までの工作で特に深く考えたことがなかったのですが、グラフ化してみました。音圧特性同様、ダブルバスレフの群遅延特性は参考になりそうなサイト等がなかなか見当たらず,あいまいです。特に第2ダクト(ユニットから遠い方)の共振部で負の方向へ大きな谷ができます。これでいいのだろうか。密閉・バスレフ・バンドパスではこのような現象は見られません。
(次の図はVer3.83です。イメージ図を非表示&グラフを拡大した状態です。)
sped Ver4.06
spedをダブルバスレフに対応させましたが、すっきりしないのが共振周波数。計算で求めたfdとグラフ上の共振部が一致しません。仕方なくグラフ上から直接読み取る( 〜Ver4.05)ようにしてあります。共振周波数を求める式もいくつかあるけど、どれとも一致せず。これでいいのか、よくないのかすらはっきりしません。どうにかならないかとあれこれ考えてみました。
並列共振は、並列となっているそれぞれの素子のインピーダンスが同じになった時に起きます。その時の周波数を共振周波数といいます。バスレフの場合でいえばポートの等価質量(L)とエンクロージャーのコンプライアンス(C)、それぞれのインピーダンスが同じになる周波数fが共振周波数となります。等式を解くと次式が求められます。
ダブルバスレフの場合は少し(?)複雑で単純に考えても等価質量(L),コンプライアンス(C)がそれぞれ2つずつあります。でも理屈は同じだろうと思い、計算してみました。簡単のため回路定数をL1,C1,L2,C2とします。
spedで使っているダブルバスレフの等価回路
の中で、右手の並列回路部分の両インピーダンスをイコールで結び、方程式を解きました。ωの4次方程式になったので、懐かしの解の公式で計算。
ややこしそうですが、ここまでくれば後は簡単。ω=2πfなのでfについて解くと、
ここから2つの解を計算したら、見事グラフの共振部と一致。感激です。しかし、考えてみれば当たり前のことです。グラフを求めるために使った等価回路から共振周波数を計算する式を作らないと一致しないのは当然です。すっきりしました。さっそくspedのプログラムを修正してVer4.06をアップ。
スピーカーの動作は単純なようでかなり複雑です。特性を求めるためにたくさんの定数や式を使っていますが、スピーカーの動作すべてを加味しているわけではありません。すべての要素を組み込んで作ると大変なことになるので、省略している部分が多々あります。また、各定数を求めるときにもいろいろな方法があります。例えば、ポートの開口端補正(
バスレフ解析参考
)というのがありますが、これもどの程度補正するのかはいろいろな考えがあります。つまり、等価回路にしても共振周波数を求める式にしても、いくつかの方法があるわけです。これらの正誤を検証するには、ダブルバスレフの箱をいくつも作って動作を確認していく必要がありそうですが、そんなことができそうなのは亡くなられた長岡鉄男さんくらいでしょうか。
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