人事権による降職・降格
 (平成21年6月21日)


まだまだ経済不況が続く中、業績不振で組織を縮小しなければならない・・。
そんな中での人事考課。

その結果、この役職にしては能力不足、統率力もなし、
ということで役職を外され、それに伴い賃金も減る。
このような降職は、やり方によってはトラブルの元になります。

そもそも、このような降職は、会社の自由に出来るのでしょうか?

原則は、
人事権の行使として、使用者の裁量に委ねられています。(星電社事件 他多数)

「配置転換は拒否できる?」もそうでしたが、

使用者には、労働者の配置や昇進、降格等の人事権があり、
それをどのように行使するかは、経営上の判断として自由にできるとされています。(原則)

ただし、たとえば
個別契約で「部長職」という待遇で採用した人のその職を解くという場合は、
個別の同意が必要になります。
一方的な会社の不利益変更は、許されないからです。(津軽三年味噌販売事件 東京地裁 S62.3.30)

とはいえ、スペシャリストの能力不足の要件に該当すれば、
降職よりも、解雇を適用させる方がいい場合もあります。


また、確かに降職は、使用者の裁量に委ねられていますが、
●その人事権行使の目的が、
 ・対象者を退職へ追いやるための嫌がらせであったり
 ・男女差別や会社の違法を告発したこと等による不利益な処遇、
  である場合は、権利の濫用となり違法になります。

また、
●使用者の裁量自体が適正かどうかは、
 ・企業側の、業務上・組織上の必要性やその程度
 ・労働者側の、能力・適性の欠如等の有無やその程度
 ・労働者の受ける不利益の性質やその程度
 などの諸事情で、総合的に判断されます。

つまり、降職は、それが正当な人事権の行使であれば、
広く使用者の裁量が認められる、ということです。


次に問題となるのが、降職に伴う管理職手当の減額または不支給です。

通常、管理職には、管理職手当というものがつくでしょう。
その場合、職を解かれることで、必然的にこの管理職手当も減額されるか不支給になります。
実質的には賃下げです。これは、仕方のないことなのでしょうか?

こんな判例があります。
上州屋事件です。(H11.10.29東京地裁)

店長職から、流通センター主任に降職され、
それに伴い職務等級が5から4等級に下げられ、
結果、職能給と役職手当とで、合計約9万円が減額された、という事件です。 

この場合、確かに原告の不利益は小さくはないのですが、
・1等級の降格であること、
・原告の店長としての勤務態度に照らせば、このような措置はやむを得ない、 
とされました。

そして、この事件の場合、
・降職による役職手当の減額だけではなく、
・降格による賃金そのものの減額をも伴うので、
必ず就業規則等に、その旨を定める必要があります。

つまり、
◆降職自体が有効であれば、それに伴う「役職手当」の減額や不支給は、
 職務内容の変更に伴う当然の措置であるが、

資格等級が引き下げられる降格の場合は、
 たとえその降格が有効でも、役職手当ではなく、「賃金自体」が下がることになるので、
 従業員の同意を得るか、あるいは少なくとも就業規則上にそのことが明記されていることが必要です。
    (マルマン事件H12.5.8大阪地裁)


また、たとえ正当な人事権の行使だとしても、
たとえば、部長職から一般職への降格の差が5ランク、
という大幅な場合は、どうなのでしょう?

裁判所は、明らかに不当な内容の場合を除き、
会社の判断を尊重すべき性質のものである、として有効としました。
(星電社事件 神戸地裁 H3.3.14)

とはいえ、裁判ですから、やはりケースバイケースでしょう。


降職や降格は、その人のプライドや賃金にも影響を与え、
さまざまなトラブルを招く危険をはらんでいます。

ですから、まずはきちんと就業規則等に降格、降職のルールを規定し、
それを公正に運用し、説明し、労働者を納得させることが重要です。

ちなみに、降格の規定がないばかりに、
降格処分自体が無効となったケースもあります。(マルマン事件)

最後に、懲戒処分として降職をする場合は、
減給の制裁が問題となりますので注意が必要です。


HOME