4.(3)処刑の前夜
11:55 PM Mar 25th mobile webから |
「ぜひ話を聞きたい。」皇帝は思いました。しかし、皇帝が罪と罰の確定した罪人と話す機会はありません。そこで、たとえ罪人となったとはいえ、外国からの高貴な客人に対し、寛容を示すためという理由で、処刑を行う前に、贅沢な食事を振る舞うことにしました。 |
3:03 AM Mar 26th mobile webから |
宴席を薄い壁で区切り、一方に兄弟を招き、食事を振る舞い、他方に皇帝が座り、薄い壁を通して、密かに兄弟達の会話を聞きます。 |
8:32 AM Mar 26th mobile webから |
食事が始まりました。案内役の巧みな誘導により、兄弟が本当のことを話し始めます。「あなた方が盗賊でないのであれば、なぜ、目で見るより詳しくラクダの様子を知ることができるのですか。」 |
1:16 PM Mar 26th mobile webから |
二番目の兄が答えます「誰もいない東の道を進んでいるとき、少し前に通ったラクダの足跡がありました。なぜか、良く茂ったラクダの好みそうな草が右側にあるのに、左側のあまり良く茂っていない草が食べられていました。こんなことは、右目の見えないラクダにしか起こりえないことです。」 |
8:02 PM Mar 26th mobile webから |
末の弟も答えます「その食べられた草の痕を見ると、右の前歯の部分だけ食べられずに残っていました。これで、前歯が欠けていることが分かります。」 |
9:46 PM Mar 26th mobile webから |
一番上の兄が言いました「私は学問を修めていたときに、生き物の生態について強い関心を持ちました。今では、昆虫がどのような食べ物を好むか大抵分かります。」 |
10:56 PM Mar 26th mobile webから |
「右側に油を好む蟻が集っている場所が転々としていました。左側には蜜を好む羽虫が集っている場所が転々としていました。」「これで何が起こっていたかが分かります。」 |
12:44 AM Mar 27th mobile webから |
「粗末な荷袋の右側にバターを、左側に蜂蜜を詰めて運んでいたのです。」「粗末な荷袋であるため、何かの拍子で中身がこぼれでてしまいました。そこに虫が集まっていたのです。」 |
1:33 AM Mar 27th mobile webから |
案内役が言います「なるほど、確かにおっしゃるような推理であれば、つじつまが合うのかもしれませんが、妊婦が乗っていることはどうしたって分かり得ないのではないでしょうか。」 |
8:42 AM Mar 27th mobile webから |
末の弟が言いました「食事時に恐縮なのですが、ご婦人が用を足すためにラクダを下りたときの足跡がありました。健康な足取りであり、流行りの細いシルエットの履き物の跡ですから、本来細身の若い女性であることが分かります。」 |
10:46 AM Mar 27th mobile webから |
「用を足した跡に体重をかけた手の跡が残されていました。健康で細身の若い女性が、立ち上がるのに手を突くでしょうか。これは妊婦となり、重たい体重に慣れていない女性の行動です。」 |
12:43 PM Mar 27th mobile webから |
「壁を取り払いなさい」 |
3:26 PM Mar 27th mobile webから |
皇帝の声が聞こえました。すぐに壁が取り払われ、皇帝が三人に語りかけます。「大変申し訳のないことをしました。」「あなた方の無実は証明されました。」 |
4:07 PM Mar 27th mobile webから |
「あなた方のような優れた知性をもった方にひどい仕打ちを行いました。お許し下さい。」「ぜひこの国にとどまり、帝国に力を貸していただけませんでしょうか。」 |
5:28 PM Mar 27th mobile webから |
兄弟達は驚きながらも、一番上の兄がはっきり答えます「もったいないお言葉です。私共の力はほんの僅かですが、喜んでお受けしたいと思います。」 |
9:09 PM Mar 27th mobile webから |
「甚だ僭越ですが、急ぎ申し上げたいことがあります。何らかの企みが進んでいます。私達を連れてきた家臣の方が関与したもので、無くなった重要なものがあるはずです。」 |
8:15 AM Mar 28th mobile webから |
「なぜそう思うか聞かせて欲しい。」 |
9:39 AM Mar 28th mobile webから |
二番目の兄が答えます「妊娠してまで、怪我のラクダに乗りながら働く、貧しい女性が、流行りの履き物を買えるでしょうか。」 |
10:54 AM Mar 28th mobile webから |
「たとえ履き物はもらったものだとしても、大切な荷物がこぼれ落ちているのを、何の手も打たず、放っておくでしょうか。」「ここには貧しさを偽装する何者かの意図があります。」「そして、本当に運びたい大切な荷物は、蜂蜜やバターではありません。」 |
12:07 PM Mar 28th mobile webから |
「かの家臣は、高潔な人格をもった優れた若者であるが、なぜ彼を疑う。」 |
2:39 PM Mar 28th mobile webから |
末の弟が答えます「私も、陛下のご裁決のときまでは、彼の人徳に感銘を受けており、一切疑いを持っておりませんでした。」「彼と私共は縁もゆかりもありません。陛下の有罪判決の際、押し殺してはいましたが、溢れ出る喜びの表情を垣間見ました。」「私共が処刑されてなぜ彼が喜ぶのでしょうか。」 |
5:18 PM Mar 28th mobile webから |
「分かった。すぐに調べよう」皇帝は力なくつぶやき、席を立とうとしました。 |
7:21 PM Mar 28th mobile webから |
一番上の兄が付け加えます「時間がありません。すぐに大軍を東の国境の峡谷に向かわせて下さい。」「敵国に捕らえられている人々とその大切なものとの交換が五日後に行われます。片方を失わず、片方を手に入れるチャンスです。」 |
10:38 PM Mar 28th mobile webから |
「なぜそこまで分かるのだろう。あなた達は魔法使いなのか。」「特別なことはしていません。理由は全てが終わった後、ゆっくりお話します。今は時間がありません。急いで下さい。」 |
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アップロード日 2010.10.11