知念ウシ

知念ウシさんに質問があります。
2002.10.2・横浜『沖縄「復帰」30年を問う連続講座』第1回・知念ウシさんの講演を聞いて。ここで扱った知念ウシさんの発言は当日の講演録として「沖縄講座サイト」にアップされたものです。（イタリックが「質問内容」です。）
今回の連続講座の問題意識というのは、「復帰は沖縄にとって、日本（ヤマト）にとってなんだったのか」「沖縄と日本（ヤマト）の過去･現在･未来について考える」というものです。でも最初に引っかかったのは、「沖縄と日本（ヤマト）」と並列されていることでした。果たして並列されうる関係なのだろうか、ということです。…略…つまり、「沖縄と日本」とか、「沖縄にとって」「日本にとって」とか言ったときに、そんな、沖縄は日本を問えるのだろうか。問う力があるのか。対等な力を持っているのだろうかということです。やはり圧倒的に支配されているわけですから、気持ちの上では「そうだ」と言いたいところですが、言いたい気持ちに引きずられて現実が見えなくなっては困る。沖縄は日本に支配されているという関係を見続けなければいけない。　沖縄と日本とは並列ではありません。あくまでも、現在、沖縄は「沖縄県」として日本の一部でしかない。でも知念さんが「沖縄は日本を問えるのだろうか。問う力があるのか。対等な力を持っているのだろうか」と言っていることは紛れもなく「並列」を前提にしているのではないでしょうか。「日本の一部ではない沖縄、日本に包み込まれているのではない沖縄」。　つまり、「沖縄と日本」という形で並列させたのは、言外に「沖縄は『日本の一部』ではない」ことを意図しているからではないでしょうか。つまり、「全体－部分」と「支配－従属」という二つの命題を混同させてはならないでしょう。私（たち）にとって、沖縄と日本は並列させるべきだと考えていますが、それは「対等な力を持っていない／持たされていない」ということとは別の問題ではないでしょうか。それは「沖縄と日本」を並列させた上での非対称的な「関係」故ではないでしょうか。　私には自分を語りたいという欲求があります。なぜなら、私が生まれてから囲まれている活字文化とか、周辺には、私の現実を表現しているものはなかった。だから、自分の言葉で自分に見える現実を自分で書かなければいけない。読みたいものがないから、自分で書かないといけない。自分に見える現実を書きたいのです。でも、沖縄を語って欲しいといわれることは、非常に居心地が悪い。　「自分を語りたい」と言うことと「沖縄を語って欲しい」と言うこととは、敢えて言えば「知念ウシ」という個人と「沖縄」との関係の「齟齬・矛盾・対立」として捉えてみては如何でしょう。付け加えれば、「知念イコール沖縄」でもなければ、「知念ヌキの沖縄」でもないと思います。つまり「自分（あなた）に見える現実（沖縄）を語って欲しい」ということなのですが。　正直に言うと、ここにいることもあまり居心地がよくないのです。みなさんの中にはいろいろな立場の方がいらっしゃると思いますけれども、日本人の方が多いと思います。いま話している「沖縄人である私」と、聞いていらっしゃるみなさんとの関係というのは、非対称的な関係です。　失礼を承知で言わせて頂ければ、余りにも安易に「非対称的な関係」と語りすぎてはいないでしょうか。そして、前段で知念さんが自ら明らかにしているように「私に自分を語りたいという欲求がある」という提起と矛盾しているのではないでしょうか。それとも「日本人には語りたくない」ということなのでしょうか。　私（たち）は「日本人なるもの」でもなければ、知念さんも「沖縄人なるもの」でもない。もし、知念さんが「沖縄人」を代表し、私（たち）が日本人を代表して相対しているとすれば、別です。しかし、今度はそうなると、「代表される沖縄人／日本人」という話から始めなければならなくなってしまうのではないでしょうか。ですから、この文脈に即して「非対称的な関係」についてご説明いただけませんか。　なぜ私は日本語で話しているのか。なぜ私には日本語しかないのか。ウチナーグチでも少しは話せるかもしれませんが、聞いてもみなさんにはわからないでしょう。だから日本語で話すしかない。私には日本語ほどのウチナーグチ能力はまったくないし、ウチナーグチよりも英語の方が話せるかもしれない。また、大学で「第２外国語」として学んだフランス語のほうが話せるかもしれない。しかし、私には日本語しか与えられていない。なぜ私は日本語を話さなければいけないのか。　「日本語で話さなければいけない」とは誰の言説でしょう。もしあなたがウチナーグチしか使えないとしたら、そして、もし「ウチナーグチしか使わない」という意思をお持ちでしたら、私たちは「通訳」を必要とするでしょう。ただ「失われてしまったウチナーグチ」という物語ならば、もう少し別のアプローチがあるのではないかと思います。例えば「皇民化」「標準語励行運動」「祖国復帰運動」「ウチナーグチ裁判」など、そして「知念ウシにとっての（失われた）ウチナーグチ」……。　それから、私のプロフィールのところに「復帰後世代」とか、「新しい感覚」とかあるのも、ちょっと居心地が悪いわけですね。私は私自身のことをとても自然で普通の人間だと思っているのですが、紹介の便宜上かもしれないけれども、外から呼び名がつけられて、見られて、語りを求められて、と。　地元のマスコミに「連載コラム」を持ち、あの「朝日」に顔写真入りの署名論文が書ける人のことを誰も「普通の人間」だと思わないのではないでしょうか。　今年の４月、東京の大きな新聞社から、「復帰３０周年」について書くように頼まれました。そのときの経験ですけれども、やはりそれも、あまり居心地がいいものではありませんでした。／私はまず「復帰３０周年」についての意見を書きました。でも、それはボツになりました。そんなものは大学の教授でも書ける。そうではなくて、あなたの体験したことを書いてくれ、と。つまり「沖縄人物語」を求められました。日本という大きな普遍的な場所に、沖縄という特殊な、哀しい、不幸な、複雑な物語を読ませてくれ、と言われた感じがしました。私が沖縄タイムスに書くのは、沖縄人に向けて伝えたいことを書く。それと全然違うわけです。自分が読まれるとか、見世物になる。「あーこの人こんな体験したんだ。へぇー」「そうなんだ、大変だねえ、沖縄は」そんなふうに多くの日本人は読むのではないか。そうやってただ消費されるのではないか。そう思ったりして、すごく葛藤がありました。　「沖縄人向け」に書くときも、「自分が読まれるとか、見世物になる。」とは感じないのでしょうか。つまり「知念ウシ」は「沖縄人」にも「消費される」ということについては如何でしょう。私はマスメディアに身体を晒すことはそうしたものであると思っているのですが知念さんはどうお考えですか。　「でも、沖縄のことを話さないと伝わらないではないですか」「沖縄だけに閉じこもっていないで、もっと広い世界につながって欲しい」、とか言われて（なぜ日本が広い世界なのかわかりませんけれど）結局書いたわけですね。私の何人かの沖縄人の友達からは、最初の原稿の方が絶対にいいと言われて、最後まで「最初の原稿を載せて欲しい」とやり取りしましたが、結局新聞社が採用したのは、後の原稿でした。なぜ、私は書くことにしたのか。一旦は「ほかの書きたい人に書かせてください」とお断りしたのですが、結局書いた。　何故書いたのでしょう？そして何故、書き直してしまったのでしょう？求められて書く以上、「書き直しの要求」も「物書き」としては当然のことだろうと思わなかったのでしょうか、そもそも「朝日」を含めてマスメディアは「書かせてやるから有難く思え」という感覚がないとは思っていませんが、知念さんは朝日から執筆依頼を受けたときどう感じましたか。　そして、このことがメインテーマとなるなら、両者の文章を、それこそ並列させ考究しなければならないのではないでしょうか。朝日新聞という媒体の評価も含めて。出来れば「最初の原稿」を是非読ませて頂きたいと思います。　だから、語らざるを得ない。それが沖縄人なのかなと思っています。そういう意味で日本人の方は特権をもっている。ここに来たのは、同じ理由です。やはり、非対称的な関係にあることを、前提として、わかって欲しいと思います。　「話を聞きたい」と私（たち）が思ったのも「同じ理由」です。ただ、知念さんの言うところの「非対称的な関係」の変革という問題意識は前提でしたが。　なぜ、いつも語らないといけないのは沖縄人なのだろうか。　なぜ、そう思うのでしょう。語ることを「強制」されているのでしょうか。私には沖縄人は「沈黙」を強制されているように思えますが。「口を塞がれたウチナンーチュ」という表現をした方もいます。　「沖縄人の生活に根ざした物語を聞かせてくれ。そうすればそれに対して心が揺り動かされたり、『沖縄問題』に関心を持つようになって、『沖縄問題』が解決するかもしれない」、そう言われて自分たちの経験を話す。そういう場所、立場に私はいる。　「揺り動かされたり、関心をもつようになったり」することはあるでしょう。それで「解決する」などとは、到底思えませんが、知念さんの回りにはそういう言説を振りまく人たちがいるのですか。　でも、なぜ、日本人は自分の個人的な経験を語らないのだろうか。　これも、「なぜ、そう思うのでしょう」とお聞きしたい。もう私（たち）は十分とは言えないまでも沖縄人以上に語ってきています。ここでも「日本人」という一般化には強い違和感があります、とりわけ饒舌な私としては。　「復帰後世代」とか、「復帰前世代」とかは沖縄人だけではなくて、日本人にもあると思うんですね。そのときに何をしていたのか。それを聞いてどう思ったのか。それが自分の人生にどういう影響を与えたのか。与えていないのか。その前に自分がどのようにして生まれて、隣近所の人とどういう関係を持って育ってきたのか。どのように自分の問題意識を作ってきたのか。どこで葛藤があったのか。　まさに非対称的な関係とはこの事でしょう。ほとんどの日本人は「1972.5.15」を知りません。しかしそれは沖縄人にも言えることでしょう、非対称性として。ですから「知念ウシ講座」の意義があると思います。　あなたは、何時、何処で「５．１５」を知りましたか。そして、あなたにとっての「５．１５」とはどのような意味があるのでしょうか。　「沖縄の問題」に出会ったときに、どういうショックを受けたのか。どのような過程を経て自分が現在の活動をするようになったのか。自分は何者として沖縄の人とつきあって、「沖縄の問題」に関わろうとしているのか。そういうことを語って欲しいと思います。　私は大いに語りたいと思いますが、「あなた」は聞いて頂けますか。　面白い、複雑なことは沖縄の人だけにあるわけではない。　当然、そうでしょう。そんなことをいう人は皆無に等しいと思います。知念さんはどなたかにそういう風に言われたのですか。そうでないとすれば、何故そんな風に思われたのでしょうか。　私は自分のことを沖縄人だと思っていますけれども、　ここがお聞きしたいことなんですが、お話し頂けませんでしたね。「私のこと」は語ってもらえませんでした。もしよければ「なぜ」「いつごろから」「私は（日本人ではない）沖縄人だ」と思われましたか。　沖縄人は日本人に「沖縄が好きです」と言われると、喜んでしまう。あるいは、沖縄の人は日本の人に沖縄を知って欲しい。観光産業でも、非常に日本人に親切にしようとするわけです。　観光産業は「産業」でしかありません。そのように沖縄人を一般化していいのでしょうか、私には疑問ですが。沖縄の人は「商売（産業）」を離れて、「日本人」に、非常に「親切」にするのでしょうか。もう少し具体的なお聞かせ下さい。　まあ、タクシーの運転手とかはそれほど親切ではないという苦情は時々ありますが、それは世界的な現象として置いといて、全県民がサービス業みたいになって、沖縄のことを知って欲しい、知ってもらうことがうれしい。／なぜそうなのか。／実は「下心」があるわけです。それは何かというと、沖縄について正しい知識を持てば日本人の沖縄への偏見がなくなる、同じ人間だとして親近感を持つ、友達になれる。それで差別がなくなるのではないか、と。　そうでしょうか、決してそんな風には思えないのですが。そして親切にすることと「沖縄に対する正しい知識を持って貰いたい」こととは同一平面で語られることでしょうか。「差別や偏見をなくそうと思って沖縄人は親切にする」という根拠あるいは理由もお聞きしたい。　また、沖縄を知るということは、沖縄にある軍事基地のことがいやおうなく入ってくるわけですから、基地の状況を知る。日米安保条約というもので、沖縄が条約を結んだわけでもないのに基地がこんなにたくさんある。日本人の故郷にはゼロ％のところもあるかもしれないのに、沖縄にはこんなにある。那覇空港から出るとすぐある。沖縄を知るということは、軍事基地があるということ、それで世界がどんなに歪んでいるかということを知ることなのだと思います。　沖縄を知ることと、軍事基地がありそれ故に歪まざるを得ないということを知ることとは、同じ事でしょうか。それ以上に、基地があることを知ることと、それ故に世界が歪んでいることを知ることがそんなに簡単に結びつけられるとは思えないのですが。　そうすると、まともな倫理的な人間であれば、何とかしなきゃとか、沖縄にばかりこんなにあると悪いと思うとか、かわいそうと思うとか、基地をなくそうと思ってくれるのではないか。そうなるのではと期待しているのだと思います。　「まともな倫理的な人間」という表現にとても違和感を感じてしまいましたが、それはともかく、この期待は知念さんの「主観」でしかないように思われます。とすると、その次には「裏切られた期待」と続くのでしょうか。　だから沖縄のことをよく知っている人に会うとすごくうれしくなるし、期待してしまうし、評価が高くなるっていう感じ。このことはそんなにみんなが明確に意識していることではないけれども、心の奥底でそういうふうに思っている、と感じます。　私は逆に、表面的には「評価が高くなる」が、心の奥底では、少なからずの沖縄人は、そんなに簡単なものではないと思っているのではないかと、感じられます。それに知念さん自身が、嬉しくもならなければ、期待もしないし、評価が高くなるわけではないのでしょうし。　沖縄人が日本人と出会うのは観光客と地元民という関係・場であることが多いです。そして、その観光客というのはすぐわかるくらい同じ顔つきをしているし、同じ身振りをしている。その人達は、何か自分以外に悪い日本人がいて、その人間が沖縄に基地を押しつけている、と思っているようです。でも、何か私から見るとあまり区別がなくて、みんな同じに見える。こういう状況で、観光産業だけ強化され、沖縄人はいつまで自分たちの生活の営みというものを売り物にして消費される状況を続けなければいけないのだろうか。これまでブラックジョークとして考えていたのですが、例えば沖縄のお葬式とかの体験ツアーみたいなものが作られる。「本当の沖縄体験をしよう」「沖縄の旧正月はこんなもの」「ウシーミー（お墓参り）の儀式は･･･」とか。これら沖縄の人の行事に参加できるインフォメーションができたりして。そういうことすら今後は考えられるのではないか。そう思うくらい生活の隅々までの観光地化が進行している。　余りにもステロタイプ化された言説に聞こえて仕方ないのです。「島ナイチャー」や仕事などで滞在している日本人が何万にもいる中で、「観光客」だけを目の敵にしているとしか思えない発言ですが、それはどうしてでしようか。私には話を「面白くする」だけのようにしか聞こえないのですが。もう少し知念さんが具体的にお話ししてくれればよかったと思います。　そして「観光化した生活」を、「観光する」、「観光客」は、これからももっともっと増えると思います。それはあくまでも「観光」を媒介にした売り手と買い手の、それこそ非対称的な関係でしかないと思いますが、知念さんにとって「観光産業」とは原則的に否定されるものなのでしょうか。　観光産業というのは、お金を落とすお客様と、その限りで「いい思い」を提供するホスト・ホステスというプロフェッショナルな関係ですが、決して対等な人間関係ではない。沖縄人の生活が観光地化されるということは、そういう対等ではない人間関係が、お金を媒介にしたプロフェッショナルな関係を超えて、沖縄人の日常生活に入ってくることを意味します。日本人観光客にサービスを提供するのはプロフェッショナルではなく、「県民性」ということにされる。　ここもあまりにも特異な表現で理解しにくいのですが、「売り手と買い手」が対等か対等ではないかという話なのでしょうか。「生活の観光地化」はもっと多くの検証を経る必要があると思いますが、知念さんは「ホスピタリティに富む県民性」という「沖縄人の神話」を問題にしているのでしょうか。　とても不思議に思うのは、そもそも沖縄人自身は沖縄についての知識から非常に疎外されている。とても価値のないものだと扱われていて学校でも教えられないし、よりソフィスティケイトされた沖縄人になりたいなら「沖縄的なものにこだわるな」と教えられ、もっと日本的な知識とか、アメリカの知識とかが奨励される。こんな沖縄を否定する文化状況が今も受け継がれているなか、親も子どもを助けようと思って、ますます沖縄的なものを教えない。　何故、そうなのでしょう、そうなったのでしょうか。それこそ私は祖国復帰運動がもたらした「日本化／日本人化」だと思っているのですが。　そして沖縄社会の中で尊敬されたり、権威を持つ。専門家になる。それで沖縄社会に対しての発言力が出てくる。「あーした方がいい、こーした方がいい」と言い出す。　これは一体何だろうと私は思うのです。　そうです、これは一体何なのでしょう。知念さんの考えはお聞かせいただけませんでしたね。　権威主義・事大主義をここで持ち出すのは穏当を欠くかも知れませんが、一般的には（これも難しい物言いですが）、そうした「人物」は唾棄されるか敬遠されるだけでしょう。　そもそも、「○○が好き」という言い方が、土地とか場所が好きという言い方がよくわからない。場所というのは、そこの人との関わりがあるし、緊張するし、何か怖いし、自分が試される。そこからどういう自分を発見するか。自分が生まれ育った場所と違うところに行くと言うのは、非常に刺激を受けて触発される体験ですけれども、何か場所が好きとか言うのは私にはよくわからない。　これについては「知念さんという方はそういう方なのだ」と了解するしかありませんが、アイヌ民族のことも知らずに「北海道が好き」という人もいるだろうし、あるいは「京都が好きだから京都に住みたい」などという人もいるでしょう。「やっぱりニューヨークだよ」という人もいるかも知れません。逆に生まれ育った土地を嫌い、逃げ出す人もいます。しかし何か、それがここで殊更問題になるようなことなのでしょうか。　特に、日本によってすごく犠牲をこうむっている場所のことを日本人が「好き」と言ってしまう感覚は何なのか。とても私は疑問に思うわけです。　これも、一般化されてしまえばある種の「日本人物語」にしかならないのではないかと思われます。もちろん上野千鶴子のように「足を踏み入れては行けない処」として「沖縄」に行くことを躊躇した時期もあったことを書いていました。（かっての「大江健三郎」のような「贖罪意識」）　蛇足になりますが、「日本によってすごく犠牲をこうむっている」ことなど一顧だにしない日本人の「感覚」を「疑問に思う」ことがとても不思議でした。　でも「好き」といわれて喜んでしまう状況も作られている。言う方も、喜ばれて当たり前という顔をしている。「沖縄好きなんですよ」といってくる人に「はあ？」って答えると、「何で喜ばないの？」と怪訝な顔をされる。　私（たち）の回りには見当たりませんが、中にはこうした「失礼な対応」をする人もいるでしょう、としか言えません。すでに知念さんは沖縄好きの日本人の「感覚」に疑問を呈しているのですから、そうした「素直な（無知で鈍感な）日本人の反応」は当然のことだと思います。あなたと、こうした会話を交わす人、「怪訝な顔を」する人たちとはどんな人なのでしょうか、お教え願えませんか。　最近は沖縄移住ブームとかで、沖縄移民とかいわれます。この言葉もとても不思議だなと思います。「移民」とか「移住」というのは、ある国からある国に引っ越すことです。だから普段は「沖縄は日本ではない」とか言うと反発されるのに、なぜ別の国のニュアンスを持つ言葉を使うのか。何かすごくムードだけを味わっている。都合のいい、いい気持ちになるようなエキゾチックなムードだけ味わっていて、いいとこ取りだなと思います。　「反発される」という表現がとても奇異な感じがしました。日本人が反発するほど「沖縄は日本ではない」という言説が力を持っているとは思えないのですが……。もう少し具体的にお話し願えませんか。　それに、こんなに力の不均衡を背景にした移動は「移民」じゃなくて、「植民」じゃないのか、とも思う。また、「移住」してきた日本人で、同じ沖縄県民だからという立場を主張する人もいますが、それは、なぜ沖縄が今日本国沖縄県なのか、という過程を都合よく無視していないかなと思います。もちろん「復帰」に対して独立論は出たし、その議論は今でも続いていますが、圧倒的に大きな力によって沖縄県というものが作られていて、本当に沖縄「県」と言えるのか。　「本当」かどうかは別にして、ともかく「沖縄県」でしかない、というのが現実です。ですから、「移住」してきた人は「移民」でも「植民」でもなく、ごく普通に「沖縄県民」になるのでしょう、住民票を移し、住民税を払って。もちろん、八重山の金城朝夫さんは「移住者には三代まで選挙権を与えるな」と言っていますが。　これも蛇足ですが「日系沖縄人」ということについてどう思いますか。　形式的に「植民地」ではないけれども「本土」でもない。その間に置かれている。　「その間」とはどういうことなのでしょうか。これは難しいとは思いますが、決して避けては通れない問題ではないでしょうか。　それで［沖縄に住んでいる］日本人に「同じ沖縄県民ではないか」とか言われると、私はその人の背中に日本国というものの権力とか暴力を背負っているのを感じてしまう。その沖縄県を作った歴史、社会に対する自分のスタンスというものを全部忘れ去ってうまく隠しているような、それで「沖縄人と同じだ」という立場を主張する。　「沖縄人と同じだ」とするのは紛れもなく差別行為です。ただ、「同じ県民だ」という発言はどうでしょうか。ある方が「私は日本国籍を持っているが沖縄人である」と明言するのを聞いたことがありますが、こうした発言をどう思われますか。そして、「忘れ去ってうまく隠している」というのは「褒め過ぎ」のような気がします。そうした人は所詮「沖縄県を作った歴史、社会に対する自分のスタンス」などどうでもいいと思っているのではないでしょうか、いえ、そんなことは微塵も考えていない場合が殆どでしょう。　次に「９・１１テロ」以降の日本からの沖縄修学旅行が大量キャンセルになったことについて感じたことを話します。　あのときは「だいじょうぶさあ～沖縄」キャンペーンというものがあって、そのことについての批判的な検討が沖縄のなかでも始まっています。私もそのときには「大丈夫なわけはない」と言っていた。やはり危険は危険だし、非常に恐怖を感じました。米軍機かテロ攻撃か区別もつかない。今までにはない真夜中の低空飛行があって、今度こそ本当に落ちると何度も思いました。私は基地からある程度離れたところに住んでいますけれども、本当に怖かったんですね。そういうときにそういうところに来てくださいとは言えないと思いました。だって危ないから。それを知っていて「おいで」とは言えない。何かあったら大変だから。　「大丈夫ではないから、（こうした時こそ）日本人は沖縄に来るべきだ」という言説について、どう思われますか。　それは私の友達とかと話しても、危ないところへ自分の子どもを行かせたくないのはあたり前よねと言っていました。でも､このことと、沖縄の人は危険な目にあっているのに自分たちは行かないことで安全を確保できるという日本人という立場への憤りはまったく別の話です。　知念さんの今までの立論から言えば、そんなに簡単に「別の話」として済ませられないのではないか、と思いますが如何でしょう。　では、あの時、「勇気」を出して沖縄に行くことが答えだったんだろうか。…略…「いや怖くないよ」と言うことが本当に答えだったんだろうか。すごく重要な契機を逃したのではないか。つまり、多くの日本人が「沖縄怖い」と思ったのは直感としてとても重要で、その「危険を感じている自分」というものを直視して欲しかった。行かないことで自分は安全を確保できる。そういう特権的な立場にあるということを自覚することから始まって、自分さえよければいいのか、じゃあ沖縄にも基地がない方がいいに決まっている、自分が感じている恐怖を日常的に感じているのだから。そういう方向に行ける契機だったんではないか。しかし、実際には行くことが勇気があって、正義感がある行為のように扱われてしまって、非常に残念だなと思いました。　ガマに入って沖縄戦の追体験をすることだけが平和学習ではない。沖縄への修学旅行がキャンセルになったからと代わりにディズニーランドに行く、というのではなく、自分たちの恐怖を直視する、そこから沖縄の人の恐怖を想像すること、沖縄を行かないことを選択して安全を確保した自分たちの立場を考え、議論することが、あの時非常に大切な平和学習ではなかったのか。そして、基地があるのは沖縄だけではない。横須賀とか日本各地にある。そこだって危ない。どうしてそこに対しては、「岩国に近づくな」とか「横須賀に近づくな」とか言わないのか。そういう動きは出ないで、なぜ沖縄にだけ近づくな、という動きになったのか。そういうことを考えるとてもいいチャンスだったと思います。　「恐怖を直視する」、「恐怖を想像する」、そして「特権的立場を自覚する」――非常に高度の要求なような気がします、実感や体験が想像（創造）力を喚起するとナイーブに思っているわけではありませんが。　そして、岩国や横須賀とは比較にならないぐらい軍事基地が存在しているという「事実」は多少なりとも知っているでしょうし、何よりも沖縄が小さな島であり、飛行機という移動手段への不安もあるでしょう。しかし、そのことと沖縄が置かれている（そしてそうした状態に、他ならぬ日本が沖縄を縛り付けている）現実に思い至ることとは万里の隔たりがあると思います。　ちょうどそのころ熊本に行く機会があって、そこで平和運動している方とお話したのですが、その人のお子さんが中学生で、沖縄への修学旅行がキャンセルになったことを親として憤っていました。私は、「いや、怖いから来ないほうがよいですよ」と言ったのですが、その意味がよく伝わらなくて、「いや、沖縄の人は毎日住んでいるから危ないけれども、自分たちは２、３日行くだけだから大丈夫」と言いました。それもなんか変だなと思いました。私にはそれは、「沖縄人にとっては危ないけれども自分たちにとっては危なくない、なぜなら自分たちは日本人だから」、と言っているような感じがしてしまったんですね。　何か、この会話には「作為」が感じられてなりませんでした。「平和運動をしている人」が「自分たちは２、３日行くだけだから大丈夫」などと発言したということがです。　もちろん「平和運動家」の中にそうした発言をする人がいないとは言い切れませんが、知念さんが、こうした例を持ち出したのは日本の「平和運動」なるものが如何に無知蒙昧であり・差別的であるか、を強調したかったからでしょうか。しかしそれにしてもこのエピソードは「沖縄－日本」に対する「悪意を持って分断する」カリカチュアした「物語」のように聞こえて仕方がありませんでした。　沖縄の人は危ないけれども日本人は大丈夫、ということが問題なのではないか。それをどうして問題化しないのか。だから「沖縄に行ってあげる」と言われても、それが解決なんだろうかと思うのです。　また、その当時東京に用事があって行ったり来たりしていたのですが、テロ直後のころは飛行機もすいていたし、空港もがらがらで。ところが、落ち着き始めたらどっと観光客が増えたわけです。そうするとやはり、この人達がテロの後来なかった人達なのね、と一人一人の顔を見たりして、これは私が意地悪だからというのではなくて、友達に聞いたらみんなそういう眼差しを向けていたようです。観光客の皆さんがそれに気づいたかどうか知りませんが。　「あなた」と「あなたの友達」は「みんな」「意地悪」だ、と私は思いました。　私の友達で、アメリカ人にあこがれてアメリカに留学して、日本人にたくさん会って、あだ名が「沖縄」とついた人がいます。「ちゅらさん」というのも「沖縄」というあだ名をつけられるのと同じことだなと思いました。ドラマ全体が持っているタイトルで、主人公の名前ですらない。その話を九州に行った友達に話していたら、「あー、私も『沖縄』ってあだ名よ」と言っていました。本屋で働いていて、「沖縄、これ持っていって」とか言われた。あー、そうかと思いました。九州に行った友達も、それまで沖縄について別に意識していたわけでもないのに、そういうふうに呼ばれることで、これは何なのかと考え出す。この宮里藍選手もこれから何か考え出すのかなと思いました。　その人その人いろいろな性格があると思うんですね。我慢強いとか、気が強いとか、集中力があるとか、短気だとか、冗談が好きとか、思いやり深いとか、人間として個性的で豊かな自律的な人間というものであるはずなのに、どうして沖縄出身というだけで、ヒューっと何か、焦点が全部「沖縄」に当たって、その人のあだ名が「沖縄」になってしまうのか。なにか、当たり前の人間として扱われていないような気がしてしまいます。　「人をあだ名で呼んでは行けません」というのは、多くの小学生が経験していることでしょう。一般論としては何も沖縄に限ったことではなく、「出身地」をあだ名にされた例は数限りなくあります。しかし、日本の中の「沖縄／沖縄人」の「異質性」故の「あだ名」という問題は、それこそ非対称性故に存在していると思います。ですから「当たり前の人間として扱われていない」という一般的な評価ではないと思います。どうも牽強付会のように聞こえてしまいました。　沖縄の平和運動が元気がない。衰退している。反基地運動もそれほど力を持ちえていない。そういうことに対して喜んでいる日本人が多いような気がしています。　アフガニスタン戦争が始まったときに、「どうして沖縄では反戦運動が盛り上がらないのですか」とニヤニヤしてうれしそうに言っている人がいて、「うれしそうですね」といってしまえばよかったと思っているんですが、あんなに応援していたのにがっかりしたとか、大田昌秀さんも講演会に読んだりしてお手伝いしたのになぜ落選させちゃったのか、とか、何かこう、沖縄の運動に対する劣等感があったのかな。自分たちの運動が盛り上がらないのは当たり前、という開き直りもあったりして。また、すごくワイドショーみたいなものと似ていて、もてはやした後にガーっと叩くという感じ。犠牲も抵抗運動もすべて沖縄人にお任せ。それが弱くなってきているので「がっかりした」と言われたりするのは、「おいしい立場ですねえ」と言っちゃいたくなります。　ここの文脈も前述の熊本の平和運動家の問題と同じように、不可解なのです。前のパラグラフでの「喜んでいる日本人」とは沖縄を日本の軍事属領として繋ぎとめたがっている人のことかとおもったら、どうやらそうではなく、沖縄の反戦平和・反基地運動を「応援」している人に向けられているようです。でも、「ニヤニヤしてうれしそうに言っている人」「盛り上がらないことを喜ぶ」「もてはやした後にガーっと叩く」というような、卑しい心性の持主が知念さんの回りにそんなに多いとは知りませんでした。でも、これは一歩間違えば誹謗中傷になるのではないかと、危惧しております。　そして、もしそうだとしたら、なぜ「うれしそうですね」とか「おいしい立場ですね」と、どうして知念さんは言わなかったのでしょう、不思議です。それこそ非対称的な関係の破砕へ進みうる契機だったように思いますが。　沖縄があんなに追い詰められているのは、沖縄がどんなに抵抗しても、あんなに盛り上がっても、結局は日本全体の盛り上がりに至らずに孤立化させられてしぼんでしまった、将来像が見えなくなったのが大きな原因だと思います。　「孤立化させられて」ですか……。「将来像」とは何を指しているのでしょうか。　そうさせた自分を問わずに、「なぜ沖縄の人はお金に眼がくらんだんですか」、とか言われる。「アナタお金に眼がくらんでないの?」と問い返したい。　これも困難な問題を孕んでいます。　知念さんはお金に目がくらみますか。私は、今までお金に目がくらんだことはありません。多分、今後もないでしょう――と答えるしかありません。しかし、この発言は「お金に目がくらんで何が悪い」と言っているようですし、知念さん自身が「お金に目がくらんだ沖縄」と言っているように聞こえてしまいました。　それ以上にこの知念さんの話を私がどうしても理解できないのは、あなたに「沖縄の人はお金に目がくらんだ」と、どんな人が言ったのかということでした。知念さんはキーワードのように「非対称的関係」を持ち出しますが、「沖縄人を“金に目がくらんだ人”と言う日本人たち」ということを強調したいのでしょうか、つまり「醜い日本人」と。　文化の面でもてはやす風潮がありますけれども、その中でも最近は「沖縄、あまりもてはやしすぎじゃない」とか、「もう別にいいんじゃないの」、とか沖縄を叩くような風潮が出ていると思います。それは沖縄が変わったのが原因なのか。　「流行」や「ファッション」は得てしてそういうものです。それを文化とは言わないと思いますが。　そもそも、なぜ、もてはやしてきたのか。沖縄の反基地運動が盛り上がったときに、少し遅れて沖縄文化ブームが出てきて、多分、基地を押しつけているということの罪悪感を隠すためにもてはやしたのかなと思います。　それは違うと思います。もちろん、「復帰２０年」時の「琉球の風」とか、「３０年」時の「ちゅらさん」とか、内国植民地支配としての慰撫－懐柔策としての「もてはやし」などがあり、それは手のひらを返すように「甘やかしすぎだ」という意見に取って代わるものでしょう。　そして、ドンドン沖縄が追い詰められていって、揺れているように見える状況があって、それを「基地を受け入れた沖縄」と書いてしまう。もう何を言ってもいいみたいな、気を遣わないでもいいし、後ろめたさを感じなくていいし、すごく美化しておいて、そうではない面が出てくるとすごく否定する。　これも、本当は具体的な事実として指摘していただかなければならないと思います。もちろん、そうした人が皆無とは断言できませんが、こうした一般化は問題を矮小化しすぎるようです。これも「タメにする批判」としての「作為」が感じられてしまうのですが。　でも、沖縄の矛盾と言うのは、沖縄ブームによってむしろ深まっているというところには眼が行かないで、そういうふうに評価が変わるのは、専ら沖縄側の問題というよりも日本の側の問題ではないか。　「沖縄問題」とは「日本問題」です。そして「沖縄の問題」は、その多くが「日本の問題」であると思います。これは大前提の命題です。　今後沖縄たたきが強くなるだろうと思います。今度の選挙の結果でますますそうなるのではないかと思います。　これも理解しにくい発言です。「稲嶺圧勝」という結果をさしているとすれば、知念さんの文脈だと日本の反戦反基地活動家が沖縄に対して「君達はだらしがない」と批判する＝「沖縄叩き」が強まると言うことなのでしょうか。それとも、「買弁稲嶺圧勝」で日本政府は、もはや沖縄の世論に気を遣うことがなくなり、振興策という「アメ」をケチり始め、「もうこれ以上沖縄を甘やかすな」という言説が声高にまかり通るようになる、ということを指しているのでしょうか。　結局、沖縄に基地を押しつけているのは悪い日本政府がやっていて、悪い政治家がやっていること。自分は手を汚していない、私は普通にいい人だ。そう思って生活しているのかなと思います。　そんな風にも考えていないでしょう、それは褒めすぎです。「普通にいい人」ということも理解できませんでした。　基地があるから何か起こるかもしれない。もちろん死ぬまで直接的な肉体的な被害は受けないかもしれないけれど、そのようにずっと今度こそ、今度こそ、と思って生活しているということ、これは果たして安全と言えるのだろうか。こんなことを日本人の友達と話すと、「そういうふうに言われると返す言葉がないよ」と黙ってしまう。でも黙った後、私たちが帰る場所は違う。私は危ないところに、あの島に帰る。あの飛行機の下で暮らす。対等の関係とか、美しいことが言いたくても、すごく難しい、もしかしたら不可能なのではないだろうか。そう思います。だから、沖縄人という立場と日本人という立場は、違う。　どうも沖縄人－日本人という（立場の）問題と、軍事基地の存在、その恐怖・不安との問題が混同されているようです。　おかれている立場の違いを自覚して、自分は誰なのかということを考えて欲しいと思います。友達になるにも、それが基盤、そういうものがないと人間関係を作るのはとても難しい。　これが、「復帰３０年」、どこに「復帰」するかわかりませんけれども、この段階で私が思ってきていることです。　沖縄は沖縄に復帰するのではないのでしょうか。