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CD Release

第22回 チャンス トライアングルセッション

はじめに

 アニメにせよ、実写ドラマにせよ、通常、BGMとしての音楽は、切っても切れない関係があります。そんな中、去年の5月から8月にかけて、「音楽」に力点を置いて作られたアニメーション、「チャンス トライアングルセッション」がテレビ東京で放映されました。もう、全13回がDVD全6巻で発売されたので、放送されなかった地域の方も、ご覧になったことと思います。
 ストーリーの中に、ふんだんに音楽をちりばめ、要所要所でキャラクターが歌う歌を、ミュージッククリップ調にじっくり聞かせ、そして情景を見せるその作りは、「ミュージカルアニメーション」と言ういわれ方をされたようです。
 今回は、その「チャンス トライアングルセッション」について、特に歌を中心に見ていこうか、と思います。

それぞれの歌について

 「チャンス」では、作品中で14曲の、歌詞がついた曲が使われています。まずは、そのそれぞれを簡単に見ていこうと思います。ちなみに、作品でクリップが出てきた順です。

  1. Pure Blue 作詞:矢島雅子・松井五郎/作曲:桑原秀明/編曲:ケンちゃん/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:R‐3(飯塚雅弓・榎本温子・山本麻里安)/Cho:須藤ひとみ
     この物語の「スターダムストーリ」の一面をよく表している曲。それでいて、もうひとつ、見出されるのを待っている愛の側面まで見えるような気がするのは気のせいですかね? 作中では、レッスンシーンから、とっても多用されています。

  2. 我が闇に光を 作詞:矢島わかこ/作・編曲:原田末秋
    Lead Vo:水嶋アカリ(飯塚雅弓) Cho:ひばりヶ丘少年少女合唱団(指導:羽場會時)
    アカリが参加している教会の聖歌隊が、ミサの時に歌う曲。印象に残るのは、その後で、ゴスペル調にアレンジしたバージョンをアカリが歌って、教会を楽しい雰囲気で包むシーンでしょうね。あれが、アカリの歌手としての原体験ですね。

  3. Priority 作詞:松井五郎/作曲・編曲:ケンちゃん/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:レイカ(國府田マリ子)/Cho:須藤ひとみ
    レイカが歌って、大ヒットを飛ばした曲。えらく挑戦的っていうか、芯の強さを感じさせるっていうか、聞いた後に、独特の感じが残りますね。この曲も、作中でキーになっていることもあって、詞を読むと、けっこう作品のテーマに絡むところがあるように思えます。

  4. 家路 作詞:矢島わかこ/作・編曲:原田末秋
    Vo:秋葉キサラギ(大輝ゆう)
    #3「Class S」で、キサラギがアカリ、ノゾミ、ジュンの3人に、歌手とは何かを示す時に、ほんのちょっとだけ流れました。70年代ぐらいのテイストが、今となっては懐かしい雰囲気を出しています。まあ、キサラギが活躍していた頃は、こういった曲から、少しずつ今の曲に変わり始めた頃だと思いますが。

  5. Woo yeah Woo ah 作詞:松井五郎/作曲・編曲:ケンちゃん/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:青山ユウキ(榎本温子)/Cho:須藤ひとみ/Rap:T20
    ストリートライブでの、ユウキの持ち歌。どこか、満たされない思いが漂うこの曲が、「ずっと一人ぼっちだって思ってた」ユウキに、似合うところがあると思えるのは、気のせいじゃないでしょう。「TS'99」の時もそうだったけど、ユウキとラップってのはよく似合ってます。

  6. ふたりだけのMoon 作詞:矢島雅子・松井五郎/作曲:桑原秀明/編曲:ケンちゃん/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:水嶋アカリ(飯塚雅弓)& 香坂快人(子安武人)/Cho:須藤ひとみ
    まあ、曲自体はまだ互いの存在の意味に気がついていない二人の歌なんですが。2回、この曲のクリップは出てきますが、1度目は、その後を暗示していて、2回目では、快人からアカリへのメッセージ、というような気がします。それにしても…まーちゃんと子安さんのコーラス、綺麗ですね。

  7. 天使 in your heart 作詞:矢島雅子・松井五郎/作曲:小林孝至/編曲:ケンちゃん/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:水嶋アカリ(飯塚雅弓)/Cho:須藤ひとみ
    落ちこんでいるアカリを、ユウキとノゾミがストリートライブに連れ出した時のクリップ。クリップの後半で、実写の雑踏のシーンがありますが、あの辺なんか、けっこう曲のテーマにあってると思います。

  8. Gate to the Dream 作詞:松井五郎/作曲・編曲:ケンちゃん/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:森村ジュン(植田佳奈)/Cho:須藤ひとみ
    アカリたちに強烈な対抗意識を燃やすジュンが、ソロでのレッスン曲として選んだもの。ジュンは、自分の実力に対するプライドが高いので、スクールでは孤立しがちな状況を自ら受け入れているように見えますが、もしかしたら、心の底にはこんな気持ちがあるのかも…なんてふうに思わせる曲です。一方で、ただひたすら突き進むようなところもある曲なんですけどね。

  9. さよならの1/2 作詞:矢島雅子・松井五郎/作曲・編曲:星野靖彦/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:海原ノゾミ(山本麻里安)/Cho:須藤ひとみ
    オーディションに向けて、それぞれが練習しているシーンで使われました。曲としては、穏やかな切なさがあるっていうか、あるいは、溢れそうな切なさをこらえて穏やかにしているというか、そんなような感じがしてきます。

  10. Objection 作詞:松井五郎/作曲・編曲:ケンちゃん/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:海原ノゾミ(山本麻里安)/Cho:須藤ひとみ
    オーディションの後、練習してたり、プロモーションビデオを撮影してたり…というようなシーンでの曲です。ノゾミは、おっとりしているように見えて、芯の強さは相当なものがあるので、この曲のように、前向きな感情もかなりしっくりきています。

  11. Difference 作詞:矢島雅子・松井五郎/作曲:原田末秋/編曲・コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:青山ユウキ(榎本温子)/Cho:須藤ひとみ・松原剛
    熱を出して倒れたノゾミを、アカリとユウキがお見舞いに行って、追い返された後に使われた曲です。曲としては、失われようとしている絆に対する不安や寂しさを表現したものです。ユウキは、強さを表に出している人なのに、曲は満たされなさや不安が前に出てくるんですよね。

  12. Spread 作詞:松井五郎/作曲・編曲:ケンちゃん/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:レイカ(國府田マリ子)/Cho:須藤ひとみ
    レイカは、実の母親から、今で言う「児童虐待」という扱いを受けていたため、キサラギとともにいるようになっても、この曲のような不安感や、傷の痛みがずっと心の底にはあったんじゃないでしょうか? キサラギがR‐3に力点を移したため、その不安が吹きだしたシーンで使われた曲です。

  13. Priority 作詞:松井五郎/作曲:ケンちゃん/編曲:原田末秋
    Vo:秋葉キサラギ(大輝ゆう)
    レイカのバージョンと比べて、キーが若干低くアレンジされているため、ストレートなレイカに対して、こちらは包みこむような感じに聞こえます。まあ、それぞれがそれぞれの個性なので、両方とも魅力的に聞こえるんですけどね。それにしても、キサラギの頃は、この曲はかなり前衛的だったんじゃないでしょうか? キサラギのステージの回想シーンで使われました。

  14. Love Forever 作詞:松井五郎/作曲・編曲:ケンちゃん/コーラスアレンジ:JIN NAKAMURA
    Vo:R‐3(飯塚雅弓・榎本温子・山本麻里安)/Cho:須藤ひとみ
    時々、アカリやユウキが口ずさんでますが、クリップシーンとしては、最後にキサラギとR-3の3人の関係が明らかになるシーンで使われました。作中では、シローが作詞をしたことになっていますが、彼の優しく、暖かい雰囲気が詞を読むだけで伝わってくるように感じます。それにしても…6人によく似合っている曲です。

 で、ちなみに、15番目の曲なんですが、#9のテレビ収録のシーンで、「Just Now」という曲が使われています。まあ、さすがにサントラにも入っていないんじゃ、書きようがないんですけどね。

アレンジの妙

 まあ、見ていて気付いた方も多いとは思いますが、「Love Forever」や「Priority」などは、アレンジしたバージョンが、BGMとして、いろんなところで使われています。「Love Forever」のギターバージョンは、安らぐようなシーンで多用されていますし、快人がいなくなった時は、「ふたりだけのMoon」の変奏が使われています。
 そんな中、「かなりすごいアレンジだよなぁ」って思うのは2つ。まず、レイカのライブに行く前に、ノゾミが服を選ぶシーンで、「Objection」が使われていますが、こちらは、妙にのんびりした感じに聞こえます。もうひとつ、Sクラス入りしたアカリが、先輩のねたみを受けて落ちこむシーンで、「Gate to the Dream」のアレンジバージョンが使われています。 で、これが聞いてみると分かりますが、鈍色の曲になっているんですよね。原曲とはえらい違いです。本当に、音楽っていうのは、楽器やテンポといった要素で、どんな表情にもなってしまうということが、よく分かります。
 ちなみに、この作品で音楽を担当している原田末秋氏は、有名なギタープレイヤーで、桑田佳祐氏など、いろいろなアーティストの作品に参加しています。その実力が、遺憾なく発揮されているのではないでしょうか。

ストーリーと絵と音楽と

 この作品では、11曲にクリップシーンが用意されています。時々、絵のつけ方や、使用している場面で、「うーん…」ってなるようなところもないじゃないんですが、見事にはまった時は、単にストーリーを芝居で見せるのに比べて、絶大な効果があるように思います。
 例えば、さっきも書きましたけど、「まだ何も知らない二人がいる」という言葉が非常に暗示的だったり、快人からアカリに、思いが伝えられたように感じる、「ふたりだけのMoon」や、また孤独になってしまうのではないか、という不安にさいなまれるレイカを、絵と曲の両面から見事に描写した「Spread」、そして、最後の集大成として、夢を捨てずに歩いてきたアカリ、ユウキ、ノゾミ、レイカ、キサラギ、シローたちの心が、ついにひとつのところにたどり着いたシーンの「Love Forever」は、心に残るものがあります。
 また、#7〜#9では、「Pure Blue」などに乗せて、ストーリーを絵だけで見せるシーンがいくつかありますが、そういうシーンは、物語の細部を受け手が想像する余地を作ることによって、ストーリーに深みが出ているように感じました。

曲以外の「チャンス」での印象

 実は、昨日とおととい、これを書くために「チャンス」を全部見たんですが、いろいろな点で、やっぱり上手く作っていると思いました。
 全体のストーリーの展開は、13話という構成上の制約もあって、実際にはけっこう早いんですが、その展開の早さをあまり感じないのは、前述した、ストーリーを絵だけで見せるシーンの効果も大きいと思いますし、一方で、重要な場面には、たっぷりと時間をとって語っているように、緩急のつけ方も上手なんだと思います。
 また、伏線の張り方もやっぱり上手ですよね。例えば、#1で彦左がユウキを見送りながら「親の顔が見てみたい」と言ってたり、#5でレイカがアカリたちに「あなたたちは生まれたばかりの私の妹」と言っているのは、後の出来事を象徴するセリフなわけですしね。絵の方でも、最初のレッスンルームでもう、ジュンは一人になっていますし、3人一組で歌う時に、後にいろいろとちょっかいを出す女がジュンの横にいたりします。その辺は、やっぱり上手いと思います。
 全体としても、僕としては相当高い評価を与えていいと思っています。物語の軸が2本ある分、その重心が若干ぼやけている部分があるにせよ、人物の内面もじっくり描き込めていますし、象徴的な出来事はしっかり残るように作ってあります。キャラに起こす事件の配分もいいですし(「3人揃ってこそのR-3」である以上、3人とも何かを乗り越えないといけないでしょう、やっぱり)、その一方で、他の事件や物語を想像する余地を、受け手に残しています。そういう点をいろいろ考えると、やっぱり評価は高くなりますね。

最後に

 この「チャンス」という物語は、一言で言えば、「歌が導いた愛の物語」ってことになるんでしょうね。そして、その過程で、少女たち(レイカを含む)が成長していく姿を描いている、と。その証拠に、#1と#13でのアカリたちの顔を比べると、ものすごく違って見えるように思います。ともあれ、いい作品が生み出された、と思っています。また、機会を見つけて、ゆっくりと見ていきたいです。
 (ちなみに、個人的に印象に残っているのは、やっぱり最後の親子再会のシーンですね。「音楽の一家」の暖かさが、「Love Forever」の調べに乗って、すごく伝わってきます)


 今、1年で一番寒い時期です。まあ、次の更新がすむ頃から、少しずつ暖かくなってきだすんですが、やっぱり春はまだ先です。そういう時なので、次回は「caress」について、雑談をしてみようと思っています。

余談

 メインキャラ以外で、妙に気になっているのは、#6で出てきた快人の友達のシンゴだったりします。快人とアカリが一緒にいるところを見てますし、教会に形見の本を持ってきていますが、R-3がデビューした時、彼はアカリに気がついたんでしょうか?
 できれば、気がついていて、快人に心の中で話しかける、そんなシーンがあってほしいと思います。

おまけ・楽曲使用話数

 ほんのちょっとだけ、というものも書いてあります。どのシーンかは、各自で確認してください。 太字はクリップシーンです。なお、1話で複数回使ってある場合は、1つにまとめてあります。 また、アレンジバージョンのタイトルは、サントラ盤「centonizare」によっています。

  • Pure Blue:4,5,6,7,8,9,10,12,13
  • 我が闇に光を:1
  • Priority(レイカ):1,2(Inst),3(Instと歌入り),4,10,13
    (alla ver)delicate:5,7
  • 家路:3
  • Woo yeah Woo ah3,4
  • ふたりだけのMoon5,6
    (alla ver)KAITO:6,7
  • 天使 in your heart:2(Inst),7
  • Gate to the Dream7,8
    (alla ver)calmando:4
  • さよならの1/28
  • Objection9
    (alla ver)con mote:1,12
  • Difference9
  • Spread10
  • Priority(キサラギ):10,11
  • Love Forever:5,6,11,13
    (alla ver)declamando:2,12
    doloroso:2,6,9,12
    quieto:3,4,8,9,13
    pastrale:10,11
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