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劇団岸野組公演 付喪、転じて仇となる
2019.12.07 @ 東京都港区・俳優座劇場
ストーリー(文中敬称略)
木彫り職人の白守作次(岸野幸正)は妻の桜子を亡くしてから、気力を失った挙句、仕事もやめてしまった。それ以来、家で何をするでもなく、娘の欄子(美波わかな)と言い争いをし、近所の酒屋のパチンコ好きのばあちゃん・鴨井節子(仲裕子)と世間話をするだけの日々。そんなある日、妻に似た女性が家に現れる。実は彼女、桜子が大事にしていた櫛の付喪神(山路清子)だという。その話を信じられない作次の前に、わらわらと現れる見知らぬ人たち。彼らは作次が使っていた仕事道具の付喪神(志賀克也・上岡昌雄・手島祐香・奥戸裕子)だと名乗る。さらに庭からはこれまた見覚えのない若い女の子が二人入ってくる。彼女たちは、節子のところの2匹の飼い猫で、実は猫又(雛形羽衣・新田恵海/宗金英里子)だとの話だった。これだけいろいろ現れて、動転しつつも信じざるを得なくなった作次に、どうして現れたのかを話す。桜子が亡くなって以降、顧みられなくなってしまった彼女の櫛。付喪神はその道具が愛情をもって使われてこそ、まっとうな存在でいられるが、そうでなければ悪霊と化してしまうとのこと。今は櫛の付喪神がその危機にあるため、まずはその櫛のありかを突き止めてほしい、とのことだった。
そうして櫛探しを始めた作次の前に、一人の女性が訪れる。彼女、山下楓(飯塚雅弓)は最近身の危険を感じているという。一人で歩いていると人のものとも思えない声が聞こえてくるのだとか。もしかしたら、鬼を操る人が危害を加えようとしているのではないか、と話す。そう聞いて放っておけないお人好しの作次は、付喪神たちや猫又の協力を得て、その正体を探ることにもなった。数日後、確かに人外のものを操る巫女らしい何者か(寺崎裕香)と悪霊の群れが戦っている場面に猫又たちが出くわした。しかし、彼女は「信じられないほど、弱かった」(猫又談)。とても鬼を操って悪事を働くことができるとは思えない。となると、鬼を操っているのは、もしかしたら楓では? という疑念が生まれた時に、また楓が訪れた。確証もないので、事を荒立てることもできない作治たち。そこへ、節子の孫の純太(土屋神葉)が届け物にやってくる。実は楓と純太は大学時代のサークル仲間。旧交を温めて二人は帰っていった。
一方、欄子は作次が若い女の子を家にあげていたり、何やらにぎやかな様子があったりということで、自分の知らないところで何か良からぬことが起きているんじゃないか、と気が気ではない。作次を問い詰めるが、適当な言い逃れをしているようにしか見えない。作次は本当のことを話してはいるのだが、付喪神たちが見えていない欄子に信じられないのも無理はなかった。このままだと状況が悪化する一方なので、猫又たちが一時的に欄子にも自分たちが見えるようにして、事態を打破しようとする。そこへ楓が、さらに純太が訪れる。欄子を好きな純太、純太に思いを寄せる楓と、人間模様が絡まってひと悶着起き始める。そして、今まで得られずに来た、自分を見てくれる人を強引にでも手に入れようとして、正体を現した楓。鬼を操っていたのは彼女だったのだが、その実は小さい頃から人ではないものが見えていたため、周りから侮蔑されるだけの今までを過ごしていた楓の心を鬼が誘導して、自らの食欲を満たそうとしていたのだった。
この場に現れた巫女・綾小路麗はおろか、猫又たちでも鬼を持て余し始めた時に現れたのは節子だった。実は彼女、世に名だたる魔物ハンターであり、猫又たちは節子の使い魔たちとのこと。今回の件も、猫又たちに任せておけばOKと踏んでいたのだが、予想以上に鬼が強力だったため、自らの手で事態を収束させることにしたのだった。鬼がまたしても楓を誘導して力を得ようとあがくが、節子にはかなわず、その存在を消滅させられた。その正体は鏡の付喪神が悪霊と化してしまったものだった。事態が落ち着いて、家族そろってゆっくりと話す作次と欄子、そして桜子の櫛の付喪神。桜子そっくりの付喪神は、作次が気力を取り戻し、欄子との仲が修復するのを見届けて、そこを立ち去って行った。
後日、仕事に対する意欲を取り戻した作次は再び道具を手に木と向かい合っていた。もう付喪神たちは作次の目には見えなくなっている。彼らは厭世観にとらわれた人の目にしか見えない存在だからだった。そこへ欄子が帰ってきて、「仕事を辞めてお父さんの後を継ぐ」と言う。いろんな人に愛される道具を作れるように、とのことだった。桜子の櫛は、欄子がカギを持っていた引き出しに入っていた。すべての力を使い果たして、割れてしまっていたが、それも直して使うと言う。また、楓は入院加療中。欄子は彼女とも会って話をしたいという。自分に危害を加えようとした彼女とも向き合おうとする欄子や作次、楓の中に何かを見たのかもしれなかった。麗は節子のところに弟子入りし、作次の周りの世界は平穏を取り戻し、先へと続いていくのだった。
感想
まーちゃんが台本をもらって戸惑ったっていうように、多分、見ている側もまーちゃんがこういう役だと分かった時に戸惑いがあったんじゃないかな、と。まーちゃんがここまで典型的な敵方なのはちょっと記憶にないからね。だから、まーちゃん自身どうやって作っていくかっていうところは未経験だったんだろうしね。こっちもどんな風に演じるかっていうところで興味と戸惑いが出るから。で、今回の話だと、最後のところで楓について、作次と節子の間で「被害者だろう?」、「でも、加害者でもあるんだよ」っていうやり取りがあるんだけど、そこのところをどれだけ違和感なく受け取ってもらえるかっていうのが、まーちゃんの演技がどれだけうまくいったかのひとつのバロメータになるんだと思う。で、実際にどうだったかというと、うまくいってたんじゃないかなって思う。クライマックスのところから、抱え込んでいる感情を鬼に付け込まれているなっていうのがちゃんと分かったから、最後のところもすっと気持ちに入ってきたからね。その一方で、序盤で作次と話す場面なんかは結構見慣れた明るい女の子といいう風情で安心して見ていられるしね。
まーちゃんの場合、ここの舞台でいろいろとやってこなかったような役をやることもけっこうあるように思う。活動するフィールドが限定されてると、なかなかやれる役の幅も広がってこないんだろうけど、ここでこうしていろんなことができるから、まーちゃんは客演するたびにできることが広がっていくってのを、見てて感じられる。だから、岸野組さんの舞台をずっと見ている人は、まーちゃんの成長過程を見ているような気持にもなれるんじゃないかな。これからも、こうした時にはできるだけ見ていきたいな、思った久しぶりの観劇だった。
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