
劇団岸野組1990プロジェクト公演 裏のうらはオモテ!
2008.05.17 at 東京都世田谷区・本多劇場
あらすじ (微妙な違いはあると思います…すいません)
晴らせぬ恨みを代わって晴らす…利吉と半次はそんな仕事人一味の仲間。彼らの仕事はその場所の下調べや逃走の補助。実際に「仕事」を行う紋十郎やお銀、留がより動きやすく、後に手の回ることのないようにするのが役目…とは言うもののこの二人、とても仕事料の分け前をもらえるようなことはしてないようで。
ところが、そんなある日、一仕事終えた後の祝い料理に元締めや紋十郎たちがあたってしまったから大変。無事なのはその料理も食べられなかった利吉たちと依頼の裏を取るのを担当しているお梅だけ。しかも、次の仕事の日取りもすぐそこまで来ている。仕方がないので、元締めの指示により利吉と半次がその仕事を請け負うことになった。持っていった刀が竹光だったり、何やかやとあったものの、どうにか最後には標的の山城屋を川に放り込んで始末をつけることに成功した。
この仕事を成功させたことにより、大枚を手にした二人はしばらくの間は女郎遊びなどで豪遊していたものの、それもつかの間。元締めたちの体調が回復すると、二人はもとの役目に逆戻り。たちまち金が底をつき、今度は自分たちが借金取りに追い回されることとなった。どうにか追っ手を振り切って辿り着いたのはとある橋の下。このままでは埒があかないので、再び自分たちに仕事が回ってくるように、「また食べ物にあたってもらおう」などと悪巧みを始めた半次たちにどこからともなくかけられる「だめだよ!」という声。二人が周りを見回すと、近くにあったぼろの山の中から年の頃も性別も分からないようなみすぼらしいのが一人這い出してきた。よくよく確かめると女の子らしい。彼女が二人を窘めているときに、おなかが鳴り出した。それに対して利吉がすぐに反応し、半次が齧ろうとしていたするめを差し出す。と、その子は同じぼろの山の中にいた一人の老婆にそれを食べさせた。しかし、老婆にはもう体力は残されておらず、少女の優しさを最後の思い出に、この世を去っていってしまった。
そのお妙という少女をそのままそこに残していくわけにもいかないので、とりあえず風呂を使わせて(汚れを落としたお妙はなかなかにかわいい顔立ちだったとさ)から、利吉の家に連れて行った。そうして、利吉とお妙の一つ屋根の下での生活が始まり、半次や長屋のおばさん連中は進展しなさそうな二人をやきもきしながら見守っていた。二人が生活に慣れてきた頃、利吉と半次はお妙の身の上を問いただしてみた。すると、お妙の父親は山城屋で、優しかった父親が川で溺れたところを見つかったことが分かってしまった。そして、利吉の心中に「自分たちのしたことは正しかったのか」という疑問が芽吹いたのだった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
そうして、利吉はお妙の信じる父親の姿を守ろうと、山城屋が悪い人ではなかったという証拠を探すようになる。それが分かった時にどうするのか、それが心配な半次はとりあえずは傍観しつつも、折に触れて「そのことは忘れろ」と言い、お妙に寄せる利吉の想いが苦しみにならず、幸せなものになるようにと願っていた。
素性を明かすとうまくいきかけていた話でさえ立ち消えになるお妙の奉公先探しが長屋のおばさんたちの協力もあってやっと見つかった頃、仕事人一味にはまた次の仕事の期日が迫っていた。奉公先探しでのことや、父親の死の直後に誰も助けてくれなかったことを思い出し、「お父さんはどんな人だったんだろう」と疑問を持つお妙に答えを示そうと、利吉が駆けずり回った結果、最近の仕事では、必ず商売敵がかなりの得をしていたことを突き止め、彼は最近の仕事は商売敵によって仕組まれたものではないか、と推論する。次の仕事の下見をしていた半次や紋十郎たちにそのことを告げた利吉だが、「この仕事をやめさせたければ、仕組まれたという確実な証拠を示せ」と追い返された。
ここに至るまで、利吉が懸命に動いていたことを見て取った半次は、お梅に問い質しに行くという利吉の護衛を買って出る。そして、二人でお梅に疑問を問い質すが、それに答えるわけにはいかない彼女によって半次は刺されてしまう。どうにか利吉の家まで辿り着いたものの、半次はその日の奉公を終えて帰ってきていたお妙に「山城屋を殺したのは俺だ」と言い残し、利吉の罪も背負って事切れてしまった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
しかし、それでも利吉はその夜の仕事をやめさせようとする。問い質した際に半次が刺されたという状況証拠を携えて仕事の現場へ向かうものの、わずかに遅く、すでに紋十郎たちは屋敷に潜入した後だった。どうするか逡巡している利吉の前にお梅が現れ、その口をふさごうとする。と、そこへ利吉を案じて後を追ってきたお妙がやってきた。「火事だ!」というお妙の叫びに、屋敷から飛び出した紋十郎たちが見たのは、利吉を刺そうとするお梅の姿。彼らに必死に利吉は事情を話す。そこへ元締めも現れて、利吉の疑念を肯定した。
そのことで嫌気がさした紋十郎と留に対し、金さえ手に入るならというお銀は元締めの側につく。お銀たちはお妙を人質に取り、紋十郎たちの動きを封じ、元締めの銃によって留が倒れた時に、突如吹きすさぶ一陣の冷風。それは、亡霊となった半次や橋の下にいた老婆がこの場を見て、苛立ちを募らせたために起きたものだった。それによってできた混乱の中で、利吉はお妙をかばい、元締めは気絶してしまう。これが好機と半次は元締めに憑依し、紋十郎が捨てていた刀を取り戻させる。そして一幕の剣劇の中、紋十郎はお銀・お梅と相討ちになり、元締めは最後の力を振り絞った留によって始末された。
こうして利吉とお妙以外の全員が死んでしまった事件のほとぼりが冷めた頃、利吉とお妙は連れ立って川べりを歩いていた。その時のことを思い出し、「半次がそこにいるみたいだった」と言って微笑む二人。いつの間にか二人の距離は確かに近くなっていた。そして、利吉が空にいるだろう半次に向けて、はなむけとお礼の言葉を話しているその時に、まだ幽霊となって漂っていた半次はそれを聴きながら、利吉に対してやはりはなむけとお礼を語っていた。
そして、利吉とお妙は二人のこれからへ、半次は冥土へと向けて旅立っていった。
――幕――
感想
基本はコメディだから楽しく見て笑ったり、あったかくなったりできる一方で、その内側では人のあり様とか、信じるものをどこに求めるかとか、けっこうそうした重いものも扱ってる感じでね。だから、見た後には楽しかったってだけじゃなくて、何か考えさせられるところがひとつはあるんじゃないかな…ってところ。それをどこに感じるかは、人それぞれだろうけど。ちなみに、私は一人の人が持ついろんな顔と、世の中での損得の回り方・関わり方をちょっと考えてたのかな?
まーちゃんについては、普段ライブとかだともっぱら笑顔や優しい表情だし、アフレコできつい台詞を言ったりしてるような時でも、表情は見えないから、こうした舞台でそうした表情を見せてると、なんかすごく新鮮でね。そういうシーンだから、もちろん少し怖いところはあるんだけど、でもそれを見せたり感じさせたりってのも、役者のお芝居だからね。その辺も含めてけっこう楽しんでたり。それにしても、登場の時は驚いたけどね。ホントに少年っぽく見えたのもそうだけど、舞台上にいたってところからして(笑)。
一方で、これはまーちゃんも戸惑ったってラジオで言ってたんだけど、最初は半次を好ましく思ってたお妙の気持ちがどの辺から利吉に動いたのかな…と。舞台のストーリーが利吉視点だから、お妙の心理描写が少なくなるところはあるんだけど、そこのところはもう少し見せてくれたほうが、より物語をすんなりと受け止められたんじゃないかな、と思う。まぁ、脚本上のことでもあるんだけどね。
ともあれ、笑いも含ませつついろんなものを感じさせてくれるストーリーだったり、まーちゃんも男の子っぽい表情から、女性の表情までいろいろと見せてくれたりで、退屈になる暇はまるっきりない舞台だったんじゃないかな、と思う。また舞台に出るときは、こんな風にいろいろと気づかせてくれるといいな…。
|