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劇団岸野組公演 石松と土佐のよばれたれ
2006.5.21 at 東京都豊島区・東京芸術劇場
あらすじ
清水の次郎長親分の代参として、金毘羅様(香川県琴平町)に無事刀を奉納した石松(岸野幸正)は、一仕事終えたことだし、せっかく四国に来たということで、茶店のおばさん(奥戸裕子)に教えてもらった伊予の国の道後温泉(愛媛県松山市)に湯治に向かう。ところがどうしたことか、山の中をさまよって出てきたのは、あまり人通りも多くなさそうな裏街道。
と、そこに聞こえてくる剣戟の響き。すわ何事か、と駆けつけると、旅装束の若い男女3人組が忍びと思しき集団に襲われているのを目にし、自慢の腕っ節で忍びの集団を叩きふせる。止めをささんと刀を振り上げる旅の若侍(関俊彦)、しかしどうしてもそれを振り下ろせずにいる間に、忍びは退散。とりあえずは危地を脱する3人だった。石松が事情を質してみると、若侍とその姉(渡辺菜生子)は連れの娘お小夜(飯塚雅弓)の護衛であり、とある使命を帯びて石鎚山(愛媛県西条市)を目指しているところだという。そして、ここは土佐と阿波の国境に程近いところ。姉の頼みもあり、さらには困ったものを見過ごせないお人よしの石松、同道する間の護衛を引き受けた。
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歩いていく間もあの手この手でお小夜を連れ去ろうとする忍びの八百八狸たち(くじら、磯部由江他)。しかし、石松の活躍(と狸たち自身の間抜けさ)でことごとく撃退される。そんな折、再びの襲撃か、と石松が一人現れた男を取り押さえたところ、それは狸たちの一人ではなく、お小夜の幼馴染の正吉(大倉正章)。彼から、お小夜が使命を果たせばその命が犠牲となることを聞いた石松。若侍たちに事情を問い質そうとしていたところに、またも狸の襲来。その混乱に乗じて、正吉はお小夜を連れ去ってしまった。
やがて日が落ち、石松たち、正吉たちそれぞれに過ごす夜の時間。石松はついにふたりからお小夜の事情を聞く。彼女は、代々続いた呪い師の娘であり、土佐の国に変事があったときには彼女の家がそれを呪いで救ったという。そして、今、幕府および四国における土佐藩の立場が危うくなってきている時こそ、その力を持って藩を救うべきだ、と藩の中枢にいる老人が提案し、藩侯もそれを認めたという。また、お小夜もまたそのためにのみ今までの人生を使い、今その力を示せる機会に、何に代えても呪いを全うせんとしているのだった。余所者の石松には、その呪い自体や蒸気船(黒船)もやって来ているようなこの時代に呪いに頼ろうとしている藩の重臣の意図が信じられなかった。そのあたりは若侍も同じなのだが、「自分には、藩の重臣の決定を覆す力はありませんから」と慨嘆するのみ、こちらの夜は空しく過ぎていった。
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一方、正吉とお小夜は、一度は狸に見つかりかかったものの、お小夜の呪いでやり過ごす。落ち着いたところで、正吉はお小夜を説得にかかるが、お小夜の意志は固く、どうしても翻意させることができない。やがて朝となり、歩き出したふたりは、農夫の作業小屋らしきところをちゃんと断って借りて一休み。ところが、それは狸の罠であり、見事に引っ掛けられ、連れ去られそうになる。そこへ通りかかる石松たち3人も狸にだまされ、一度は違う方向へ。いよいよ本当に連れ去られかけたところで、狸たちに襲いかかる銃を持った一人の男。彼が狸を撃退したところで石松たちが戻ってきたので、彼も再び身を隠し、かくして石松たちと正吉たちは再会した。
今度はお小夜本人にその意思を確認する石松。その目に宿る意思の光に、口頭での説得の無益さを悟り、再びお小夜の旅を助けることにする。納得のいかない正吉に、「お前がやることは、お小夜に『生きていたい』と思わせることだ」と諭す。その言葉に触れた正吉は、お小夜を守るため、そしてお小夜に生きていて欲しいことを態度で示すために、百戦錬磨の石松から喧嘩の手ほどきを受ける。どれほど自分がぼろぼろになろうとも、石松に挑みかかる正吉に、お小夜は気遣いながら何かが変わりだしたのかもしれなかった。
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次第に近づく石鎚山。狸も後がなくなってきて総力で襲撃をかけ、お小夜とはいかなかったが、正吉を連れ去っていく。正吉をお小夜と交換、という条件に、額をつき合わせて相談する4人。そこに現れたのは、数日前にお小夜と小吉の危地を銃で救った武市半平太(志賀克也)。藩のため、正吉にはかまわず呪いをせよと命じる彼に、お小夜は「正吉のことを心配していては呪いに身が入らぬ」と拒絶。若侍の策にしたがって、狸との交渉に臨むことに。
一度目の交渉は石松の側も狸の側もお互いに相手を騙そうとしていたため、交渉にもならずに(…いや、なったのか、一応)決裂。武市に「(この結果では)意味がないではないか」とか(藩の意思決定の過程に触れて)「呪いなど誰も信じてはおらぬ」とか散々言われたものの、今度は総勢で交渉に向かうお小夜、石松、若侍とその姉。狸も今度は正吉をきちんと連れてきた。お小夜が狸たちのところへ行ったときに、正吉が自ら行動を起こした。狸の親玉を狙った石松直伝の「卑怯な手」が炸裂。場が混乱した隙にお小夜を再び確保した。
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もちろん、このままでは狸も引き下がれない。忍びの力が弱くなっている昨今、藩中における彼らの力と立場を取り戻すためにお小夜の呪いを利用したいのだから。かくて始まる敵味方入り乱れての乱戦。その混乱が最高潮に達した時、二発の銃声が場を一瞬で鎮めた。腕を押さえてうずくまるお小夜と脚を撃たれて倒れている正吉。「もうお小夜は使い物にならぬ」と判断した武市がふたりを始末しようとしたのだ。その冷徹・冷酷な態度に激怒し、武市に詰め寄っていく石松。場を納めたのは若侍(…もう正体書いてもいいでしょ、坂本竜馬です。実際、このあたりでやっと名前が出てきたわけだし)だった。
竜馬は、事態がこうなった今、お小夜に無理やり呪いをさせても狸側、土佐藩側のどちらにも益はないことどころか害になりかねないことを示す。そして、双方にとって最善の策はお小夜が呪いを果たしたふりをみんなですることだ、と説得する。どうせ呪いの効果を信じているものはいないのだから、今後どんな事態になってもそのせいにはなるまい、というわけだ。その提案を受け入れて去っていく双方。とりあえず、事態は丸く収まった。
そして、今後の身の振り方を考える一同。竜馬たちは土佐藩に(見かけ上の)復命のために戻り、石松は当初の目的どおりに道後温泉へと向かう。そして、この事件の中心にいたお小夜は、自分のために終始身を張ってくれた「正吉と、生きていたい」と言う。土佐にも伊予にもいられない身となった二人だが、正吉の身寄りが讃岐にあるので、そちらを頼ることにし、3組の旅人となって、別れの時を迎えた。
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…が、その前に大事なことが一つあるのを石松は忘れていた。それを聞きに、4人を呼び止める石松。
「道後って、どご?」
――幕――
感想
まぁ、あらすじは上に書いたとおりなんだけど、印象に残ってるところは本筋とはあまり関係のない場面だったりしてね。若侍が石松に海外の制度なんかを話してるシーンの関さんの演技とか、正吉とお小夜を探してる3人がなぜか欽ちゃん走りになってたり、とか、他にもいろいろと。冒頭から八百八狸の踊りで一気に引き込んできてたり。
まーちゃんはそれほど動きのある役じゃないから(なんせ守られる側なんだし)それほどでもないんだけど、時代劇なんで、立ち回りのシーンもあったわけで、そういうところとかで思い切りよく倒れてたりするのを見ると、体張って演技してるんだなっていうのがよくわかる。立ち回りじゃなくても、茶店のおばさんが石松に思いっきり水吹きかけられてた(しかも顔に)場面とかね。
舞台上で2つの場面が同時に進行してたり、あるいはその場に何人かいる中での一部だけが話を動かしてるような時に、それ以外の人もちゃんと演技してるんだな、と。石松組と正吉組に別れてたときは、それぞれ場面が進行してる側にスポットをあててたから、もう片方は演技できなかっただろうけど、例えば、3人組が石松と出会ったときに、石松と若侍が話してる後ろで、お小夜と姉が何か話しながら休憩してたり、ね。1回だけしか行かないんならともかく、何度か見に行く時はそういうところを楽しみにして行ってもいいかも。
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まーちゃんに関連して印象に残った点だと…。まず、髪が黒い(笑)。ブログのほうにキャストの集合写真が載ってるから、それを見た人は分かってると思うけど、お小夜が最初に登場した時に目がいったのがそこだったりするし(笑)。多分、「ワンス・アポン・ァ・マットレス」以来じゃないかな? それはさておき、演技っていう部分だと、実はセリフがなかったところが一番印象に残ってる。石松と同道するようになった後すぐに、狸があの手この手でお小夜を攫おうとするんだけど、その狸の格好が…。なんかふくれてる金太郎と桃太郎だったり、シンデレラ(…ここは日本だろ。あ、ちなみに、ブログで着てたお姫様ドレスはここでの衣装)とガラスの靴だったり(笑)。あまりの突拍子もなさにきょとんとしたまま連れ去られそうになったり、取り戻されてたり。その場面のお小夜の表情(というか無表情)や促されるままに動く仕草がなぜかかなりおかしかった。一方、私個人で惜しかったのは、石松がお小夜の説得をあきらめるシーンで、もうちょっと近くで見てたら、まーちゃんの表情…というか目の光をちゃんと見られたのにな、と。あれは見せ場の一つだと思うから。ただ、まーちゃんでちょっと気になったのは、登場したあたりのセリフが時々棒っぽく聞こえたんだよね。お小夜の性格上、自分の使命に関することだと頑固にもなるから、そのあたりが出てるのかもしれないけど…どうなんだろ? 演技全体はちゃんとまーちゃんも楽しく見られるものを見せてくれてたんだけど、ね。
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総括としては、みんなちゃんとした演技ができてて面白く見られたな、と。まぁ、声優さんにだって劇団持ってたりたびたび客演してたりって言う人は多いから、別に驚くようなことじゃないっていえばそれまでなんだけど。でも、今回客演だった関さん、渡辺さん、くじらさん、そんでまーちゃん、普段から舞台での演技をやってる岸野組の方に負けない演技を見せてくれてたしね(岸野組メンバーにも志賀さんとか、声優経験の豊富な方もいるけど)。そのあたりのことがちゃんと分かったのが一つの収穫じゃないかな。あとは、やっぱり舞台で見てるっていうところから来る臨場感も楽しめたしね。行った甲斐はあったと思う。まぁ、行く前にもうちょっと清水次郎長の時代背景を知っときゃよかったかとも思うけど、それは別の話、ということで。
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