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源氏物語 朗読IV
2002.02.23 at 東京都中央区・博品館劇場
プロローグ 博品館劇場
博品館劇場は、おもちゃなどを扱っている、博品館ビルの8階にある(ちなみに、終了後に店を見て回ったら、バックギャモンやルーレット、ダーツの本格的なセットが置いてあった)。そういうところではあるのだが、一度門をくぐって劇場に入ってしまえば、そうした場所のことなどすっかり忘れさせる、本格的な造りの劇場である。
この日、舞台の幕は開いていて、すでにセットが見えるようになっていた。その中で、目を引いたのは、衣装かけにかけられた和服。後に話されたところによると、有名な刺繍家が、「源氏物語」をテーマにして刺繍したものとのこと。始まる前から、平安絵巻の世界に少しずつ引き込まれていく感じがした。
第1部 トークショー
ベルが鳴って、まず最初に出てきたのは、瀬戸内寂聴訳「源氏物語」の編集を担当した渡辺氏。この人から、「源氏物語 朗読」の今までの紹介や、この日の朗読者である飯塚雅弓嬢の紹介があったあと、いよいよそのまーちゃんがステージに上がる。
姿を現した瞬間、会場は「え?」というような空気に包まれた。原因は、まーちゃんの衣装。赤い半袖の、袖にフリルがついたようなシャツ、ブルージーンズ、グレーの帽子、で、毎度おなじみの厚底の靴。さすがに、こんな現代風のファッションは誰も予想してなかったと見え、会場の空気が元の静かに張り詰めた空気を取り戻すまで、しばらくかかった。
渡辺氏とのトークでは、玉鬘の物語の紹介や、なぜこの女性の物語を朗読することにしたか(まーちゃん曰く、「いろんな出会いを通じて、自分の幸せをつかんだ女性だから」とのこと)、この日に至るまでの経緯(本から玉鬘が出てくるところをコピーしたら、10センチぐらいになったとか、「みんなの緊張をほぐしてあげたい」と演出の久世氏に言ったら、「君も緊張してるよ」って言われたとか…)などを話していた。
で、3日前に熱を出したそうで、昔演じた「源氏物語」の女性の祟りか、とも思ったけど、2日前にはけろっと直っていたとのこと。それで、「源氏物語だけに、げんじにいきましょうってことだと…」と言った瞬間、会場が笑いで包まれた。まあ、この日会場に来ていた人は、まーちゃんも含めて皆、どこかしら緊張していたはずで(どんな読み方をしてくれるのか…、朗読ってどんな感じなのか…etc)、これで少しは緊張が解けたかな、と。
あとは、シングル「やさしい右手」や、ミュージカル「パナマ・ハッティー」のことを話して、トークショーは終了した。
第2部 朗読劇
1部と2部の間の15分の休憩は、それぞれに思い思いの時を過ごす。雑談したり、グッズを買いに行ったりしているうちに、あっさりと時間が過ぎて、第2部の幕が開く。今度は、舞台の上には椅子と譜面台、飲み物が出てきて、ここで座って話すんだろうな、ということはすぐに分かる。他には、藤棚っぽいセットと衝立(平安時代だと別の言い方あったと思うけど…)がでて、平安時代の貴族の家といった風情をかもし出していた。
今度出てきたまーちゃんは、クリーム色っぽいセーターかカーディガンに、白のフリルつきのスカート(ラジオでドレスって言ってたけど…そうなのかな?)。手には、ひらがなで「たまかずら」と書いた赤いファイル(台本)。さすがに、第1部の格好では読まなかった。
まあ、話の中身については、「源氏物語」を読んでいただくとして、どんな雰囲気で読んでいたかの話に入る。
椅子と譜面台が出ているので、そこで座って読むシーンもあったが、それよりも、舞台の左や右、中央で立って読んでいたり、あるいは衝立を覗き込むシーンでは、そのそばに立ったりして、セットも有効に使っていた。さらには、BGMや照明も、ストーリーの展開に合わせて巧みに利用され、蛍の光や琴の音といった、話に出てくる要素を、すんなりと想像させた。
今回は、朗読劇なので、「塚キャラ」のような極端な味付けはできないのだが、たとえば光源氏として言葉を発するときは、やや低くした声を使い、悩める玉鬘の心の内を話すときは、弱々しく、頼りなげな声を出していた。「塚キャラ」に慣れていた身としては、それに対応するのにやや時間がかかったものの、一度慣れてしまえば、光源氏や玉鬘などの様子が、素直に頭に浮かんできた。また、ナレーションの部分でも、事態の推移にあわせて、時には早く、流れるように朗読し、あるいは、玉鬘や光源氏などの想いを噛みしめるように、ゆっくりと語っていた。おかげで、情景もすっと頭の中に浮かんでくる。
話が進み、ある瞬間にいきなり照明が落ち、ピンスポット1本がまーちゃんを照らす。そして、子供の泣き声が聞こえる。玉鬘に子供が生まれたシーンだ。「…どれほど幸せか、お話しなくても分かりましょう」この言葉で、約1時間の朗読は終了した。
エピローグ
全部で1時間45分ぐらいだったわけだが、結構、時間が経つのを忘れていた、というのが正直なところである。それと同時に、濃密な時間だったようで、終わったあとにまだ7時になっていないのを知って、意外な気がした。それぐらい、まーちゃんがうまく読んでくれていた、ということだろう。私は、事前に読んでいくということはしなかったのだが(FCの会報に、「読んでから来れば…」って書いてあったけど、それが届いたのは前日。どうせーっちゅーねん(笑))、それでも、十分に玉鬘の物語を楽しむことができたように思う。
ひとつだけ、残念だったのは、終演後に、「やさしい右手」をラジオにリクエストして、と大声で言った人がいたこと。応援する気持ちは、私も持ち合わせているが、余韻を楽しんでいるときに、こういうことを言ったら逆効果だと思う。もう少しTPOを考えてほしかった。
ともあれ、平安絵巻の世界に魅了されたひとときをまーちゃんにもらい、満たされた気持ちで劇場を後にした。帰りながら、「源氏物語」を読んでみようという気になったのだから(まだ読んでないけど(苦笑))、この朗読劇に行った収穫は大きかったと思う。
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