EVERYBODY NEEDS LOVE GENERATION

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−29−

「…今日という日をこうして迎えられたのは、今日まで私を支えてくださった皆さんのお陰だと思っています。自分の力だけでは、ここまで来ることは出来なかったと思います。自分に自信をなくした時、挫けそうになった時、どんな時も私を見守ってくださり、そして励ましてくださいました。感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。
しかし、賞をいただき感じたのは、これはゴールではなくスタートラインだということです。今後も自分の可能性を信じ新しいことにも挑戦していけたらと思っています。本日はお忙しい中、私のような者のためにお集まりいただき本当にありがとうございます。A出版社の皆様も、このような素晴らしいパーティーを開いてくださったこと、心から感謝しております。本当にありがとうございました!」
会場から沸き上がった大きな拍手の波が私を包む。
「おめでとう!佐藤君!」
「おめでとう!!」
拍手とともに降り注ぐたくさんのお祝いの言葉は、私の心を温かく、そしてここにいることが現実であることを実感させてくれる。
本当に私は賞をもらえたんだ。
こんな日が本当に私に訪れるなんて…。
お祝いに駆けつけてくれた人たちの笑顔、そして拍手。
受賞が現実であることを肌で感じる瞬間だ。
じわじわと今までのことが蘇ってくる。
なかなか認めてもらえなかったあの頃。
中途半端にこの道を諦めてしまおうとしたあの日。
すべての出来事がまるで昨日のことのように鮮明に蘇ってくる。
泣かずにはいられなかった。
何て幸せなんだろう。
よかった、今日まで頑張ってきて。
よかった、あの時諦めなくて。
すべてが報われた気がする。
きっと今までの苦労は、私に与えられた試練だったんだ。
今日という日を迎えるための大切な過程だったんだよね。
…いっぱい辛いことがあったな。
悲しいこともいっぱいあったよね。
それは全部この喜びのためにあったんだね。
何て…何て幸せなんだろう…

喜びに浸っていると、次第に拍手が止み失笑のような笑いがあちこちから聞こえてきた。
ハッとして我に返る。
(まさか涙で化粧がとれてすごい顔になってる…っ!?)
慌ててハンカチで顔を隠した。
が、どうやら私ではなかったようだ。
みんなを見てみると、私ではなく違う方を見て笑っている。
「…?」
何があるんだろうかと思ったその時。
『…グスッ』

スピーカーから聞こえてきたその音。
みんなが見ている方向。
そして失笑。
……まさか−
恐る恐る司会をしている出版社の担当を見た。

……あ〜あ。
ため息が出た。
彼は滝のような涙を流し、マイクを持ったまま鼻をすすっていた。
今にも声を上げて号泣しそうな状態だ。
やっぱりね。
やっぱり泣くんじゃない。
何が“泣かない”よ!
しかも大泣きじゃないの!
すると慌てたように後ろから男性が出てきた。
私が頼んでおいた代行だ。
彼は担当の後輩で、今日はパーティーの手伝いに来てくれていたのだが、こうなることを見越して先ほどこっそりお願いしておいたのだ。
彼が担当からマイクを奪う。
「…しっ失礼致しました!佐藤先生、ありがとうございました!みなさま、もう一度、盛大な拍手を!!」
クスクス笑いの中、再度拍手が起こった。
「ありがとうございます!」
温かい拍手に深々と頭を下げる。
その場の雰囲気は何とか持ち直したようだ。
ホッと胸をなで下ろす。

もうっ!
私の晴れ舞台を台無しになんてしないってさっき言ってたくせに!
担当を睨んでみたものの、彼はまだ泣いていた。
…よかった、代行を頼んでおいて。

「いや〜佐藤くんの涙を見たら、私も涙が出ちゃったよ。」
壇上から降りると、涙もろいと評判の先輩の作家さんが目を潤ませて私に手を差し出した。
「ごめんなさい、もう嬉しくて嬉しくて…」
笑顔で握手に応じる。
「苦労したもんな、君は。本当によかった。本当におめでとう!」
「ありがとうございます…!」
「しかし何だな。君の担当くんは涙もろいね。私よりひどいんじゃないか?」
「…は、はい…すみません、みっともないところをお見せして…」
「ははは、でもいいやつじゃないか。担当する作家のお祝いパーティーで泣くぐらい喜んでいるんだから。ああいうやつに悪いやつはいないさ。」
「…そうですね。」
確かに。
あんなに泣くぐらい彼は私の受賞を喜んでくれている。
彼も陰で色々と苦労したのかもしれない。
周りから色々言われてきて、何かしらプレッシャーのようなものもあったのかもしれない。
そんな思いが、今日溢れたんだろう。

今日だけは、大目に見てやるか。
今日だけよ。
明日からは、泣いてる暇なんてないんだからね。

「佐藤ちゃん、おめでとう!」
「やったな!佐藤さん!」
作家仲間たちが集まってきた。
笑顔で私を取り囲む。
同世代のベテラン作家ばかりだ。
お互いの苦労を知っているだけに、彼らからのお祝いにはそれなりの気持ちが込められている。
「みんなも来てくれたのね!ありがとう!」
「当たり前だろ!今日来なくていつ来るんだよ!」
「そうだよ、めでたい日なんだからこのパーティーは絶対外せないって。」
「あら、みんないつからそんなに良い人になったの?」
「え?やだな、前からだって。」
「そうそう、前から俺たちは良い人だよ。何だよ、佐藤ちゃん。俺たちのこと悪いやつらだと思ってたわけ?」
「そういうことじゃないんだけど…何だか発言がいつもと違うなぁって思って。」
「そりゃ今日は佐藤ちゃんが主役だからね!いつも以上に佐藤ちゃんを立てないと。」
「何が“いつも以上に”よ!私のこと立てるだなんて、今まで一度だってあった!?」
「やだなぁ、いつも立ててるって。」
「嘘ばっかり!いやぁね、こういう時だけ調子いいんだから。」
「ははっ まぁまぁいいじゃないか、そんな細かいことは。」
「お、おめでとう、佐藤さん。これ…」
同期作家の一人が可愛らしい花束を私に差し出した。
「わぁ!ありがとう!可愛い花束ね。嬉しいわ。」
「き、今日は佐藤さんの雰囲気がいつもと違って何だか緊張するよ。」
彼はそう言って照れくさそうに笑った。
「え、そう?いつも大してしない化粧を頑張ったからよ、きっと。なぁに、孫にも衣装とか言いたいの?」
「いや、そうじゃなくて−」
「ははっ違う違う。こいつは佐藤ちゃんファンだからドキドキしてんだよ。」
「おっおいっ!」
「ええっ!?」
なにそれ!
「やだ!冗談やめてよ〜!冗談通じないの知ってるでしょ!」
「いやいや、これは冗談じゃないって。それに最近多いんだぜ、作家仲間の佐藤ちゃんファン。な!」
「そうだな、結構聞くぞ。」
「…は!?」
ちょ、ちょっと待ってよ!
何かの間違いでしょ…っ?
「俺が佐藤さんと知り合いだって言ったら“紹介しろ!”って何回か言われたぞ。」
「僕も言われたなぁ。確か…そうそう、今回受賞した作品を書き始めてからだったよ。」
「…あ、そうそう。俺もそうだ。確かに佐藤ちゃん、キレイになったもんなぁ。」
「ま、またそういう冗談ばっかり…!」
「だから冗談じゃないってば。本当にそう思うよ。そりゃ作品は実話だろうって噂も流れるさ。」
「恋する女性はキレイになるもんな。」
「な。…で?」
突然一人がニヤニヤしながら私を見た。
「な、何が”で?”なのよ?」
「実際のところどうなんだよ?」
「どうって…?」
「実話なのかに決まってるだろ!」
「…じ、実話なの?」
花束をくれた彼がそう問い掛ける。
その顔は結構真剣だ。
…本当に冗談…じゃないらしい…。
なに?
何なの?
賞をとるとモテるようになるの?
予想外の展開に身体が熱くなる。
額にじんわり汗がにじんできた。
何だか目も回りそう…。

「誰にも言わないからさ。俺たちには教えてくれよ。」
「そ、そう言われても…実話じゃないから何とも…」
「ええっ本当かよ!?」
「本当にフィクションなのか?」
「う、うん…」
「…本当かぁ…?」
ものすごい疑い目を私に向ける。
一瞬負けそうになったが、ここで曖昧なことは言ってはいけない、そんな気がした。
たぶん、ここだけの話じゃなくなる、そんな予感がするから。
「…本当に決まってるでしょ。嘘なんてついてないわよ。」
「なぁ〜んだ。実話だと思ったんだけどなぁ…」
「あんな夢物語が現実にあるわけないでしょ。」
「佐藤ちゃんがキレイになったからこれは!ってみんなで盛り上がってたのに…」
「勝手に盛り上がらないでよ。」
「じゃあ、おまえチャンスじゃん!」
一人が花束をくれた人の肩を揺さぶる。
「えっ」
はいっ!?
「こいつさ、前から−」
「お、おいっ!やめろって!」
「何でだよ!佐藤ちゃん、これからどんどん売れちゃうんだぞ?高嶺の花になる前に−」
「ちょ、ちょっと!売れるとは決まってないし勝手に話を進めないでよっ!」
「いや、売れるでしょ。すでに新しい仕事の依頼、色々来てるんだろ?」
「…そ、そりゃ、一つや二つは…来てるけど…」
「ほら!すでに売れる兆候が出てるじゃん。」
「そっそんなことないって!それにねぇ、人の気持ちを無視して話進めようとするのやめてくれるっ?」
「何、佐藤ちゃん彼氏いるの?」
「い、いないけど…」
「じゃあ、いいじゃん。こいつのこと少しは考えてやってよ。」
「いや、だから、そういうのは…」
「何?好きなやつでもいるわけ?」
―ドックン―
「…そ、それは−」

「あ!佐藤先生!そちらにいらっしゃいましたか!」
担当の大きな声が聞こえた。
振り返ると、ものすごい勢いで私のところにやってきた。
「探していたんですよ!ちょっと見ていただきたいものがあるんです。こちらに来て下さい!」
「え?あ、うん。」
何てグッドタイミング!
私は心の中で叫んだ。
「え、おい、佐藤−」
「ごめん、また今度ね。ちょっと急用みたいだから。」
「だって話はまだ途中…」
「今度聞くって。ごめんね、じゃあ!来てくれてありがとね。ゆっくりしていって!」
「お、おい−」
引き止める彼らの声は聞こえないフリをして、早足で歩く担当の後をついていった。
助かった!
それに、こんなところであんな話をしていたら、取材に来ている記者たちに何を書かれるか分からない。
この世界はちょっとのことが大きくなるんだから。
「ありがとう、すごく困ってたところだったのよ。」
担当の隣に追いついて顔を見上げると、何だかとっても怖い顔をしていた。
「…?どうしたの?何か問題でも起きたの?」
「…まったく…ここぞとばかりに三流作家たちめ…!」
「…は?」
「だいたい、先生も先生です!」
「えっ私?」
「ちゃんとはっきり“嫌”とか“ダメ”とかおっしゃらないから!」
「…えっと…?」
…あ、あれ?
私たちの話、聞いてたの?
「そんな風だから彼らが勢い付いてしまうんです!ダメですよ、流されやすいんですから!」
「…もしかして、あの人たちから助けるために声かけてくれたの?」
「当然です。先生は鈍感で人見知りで照れ屋なんですから、あんな野獣たちに囲まれたら危険極まりないじゃないですか。見ていないと連れ去られてしまいます。」
「人見知りと照れ屋は関係ない気もするけど…あのね?私は子供じゃ−」
「子供みたいなもんです。じゃあお聞きしますが、彼らの中にご自分のことを気に入っている方がいたことは気付いていたんですか?」
……痛いところをついてきたな。
「…残念ながら気付いてなかったわよ。」
「やっぱり。いいですか?先生はご自分のことをもっと自覚して下さいね?」
「は?何よ、自分のことぐらい自分が一番−」
「分かってないから言ってるんですっ」
「……」
前にも誰かに言われた台詞だわ…。
「先生は結構可愛いんですから、本当に気をつけて下さいね。色んな人が狙っているんですから。」
「…結構って何よ。それは褒めてるの?けなしてるの?結構可愛いって言われても嬉しくないな。」
「褒めてるんですっ!だって先生、“すごく可愛い”って言うと絶対信じないし怒るじゃないですか!」
「……」
…た、確かに…。
「…僕はとても魅力的で素敵な方だと思ってますよ。大ファンですから。」
「君の言うことはあんまりあてにならないのよね。絶対妄想と美化が入ってるもの。」
「な…っ」
「大泣きするような人だし。」
「……」
それに関してはさすがに言い返せないらしい。
言い返せるわけがない。
あの大泣きに“目にゴミが…”などと言い訳できる人なんて、そうそういない。
「…ま、でもとっても助かったことは事実だからね。お礼は言っとくわ。ありがとう。じゃあ戻るわね。」
「い、いやっ用事は本当にあるんですよ!」
「あら、そうなの?」
「そうなんです。ちょっとこちらに来て下さい!見ていただきたいものがあるんですよ!」
「うん?」
担当はそう言ってお店の入り口の方へ私を手招きした。
「どこに行くの?」
「皆さんからたくさんの花が届いてまして、今入り口がすごいことになってるんですけど…」
「え〜本当?嬉しいなぁ。」
「もう置けないぐらいになってますよ。ほら、見てくださいよ。」
担当が入り口を指差した。
そこには色とりどりの花たちがずらりと並び、甘い香り漂う花畑のような状態になっていた。
「う、うわーすごいっ!え、これ全部私に届いた花なの?」
「そうですよ。出版関係から中には一般のファンの方からも来てます。」
「本当に?」
嘘としか思えなかった。
私の受賞をこんなにもお祝いしてくれる人たちがいるだなんて。
半ば呆然としてたくさんの花たちを見つめていると、担当がにっこり笑った。
「本当ですよ。全部先生に届いたお祝いの花です。パーティーに出席できない方からは、電報も来てますよ。」
「えっ?電報も?」
「そうですよ。先生?いい加減ご自分の才能を信じてあげて下さいよ。先生はこの世界になくてはならない存在なんですよ。それは賞をとったからではなく、賞をとる前からです。先生の作品に勇気づけられた人たちがこんなにもいるんですよ。」

自分は孤独だと思っていた。
一人で闘っているんだと思っていた。
でもそれは間違っていた。
見守ってくれる人、勇気付けてくれる人、私にパワーをくれる人、たくさんの人たちがいた。
それは…自分が思っているよりずっとずっとたくさんで。
私はこんなにもたくさんの人たちと一緒に闘っていたんだね。

所狭しと並べられた花たちを一つ一つ手で触れる。
花の香りが私を祝福してくれているような、そんな気がした。
「…嬉しいね、こんなにも私を見守ってくれてる人たちがいるって。」
「そうですね。」
「そりゃ、あなたも泣くわよね。」
「あー!もうその話はやめましょうよ!」
「まさかあそこまで泣くとはねぇ…私の晴れ舞台に失笑が起きるなんて…。」
「いやっあの…っですから!」
「司会が泣くなんてさ、ありえないでしょ!私が嬉しくて泣いてるのにさ、それよりも泣いてるだな」
「あー先生!それで見ていただきたいものなんですけどねっ!」
担当が強引に私の両肩を掴んで、前へ押し進めた。
「ちょっ…何よ!話の途中−」
「そんなことより!ほらっ!これですよ!見て下さい!」
「もう!何よっ!」
「これですっ!ほら、この花の贈り主!」
「え…?…あっ!」
「先生、知り合いなんですか!?僕は聞いてないですよっ!」
たくさんの花たちの中でより一層豪華なその花は、まるであの人の衣装のようだった。
「…すごいなぁ…さすがだわ。」
「どういう経緯で知り合ったんですかっ?僕すっごい好きなんですよ!何で知り合いだって教えてくれないんですか!?」
「あら、あなた好きだったの?ごめん、言えばよかったわね。黙ってたつもりはなくて、その…言うタイミングを逃したと言うか…」
「タイミングとか、そんなの関係ないですよ!言って下さいよ〜!アルフィーと知り合いだって!」
花には三人の名前が仲良く並んでいる。
こんなところでも仲良し度をアピールされるとは思わなかった。
「もしかしてコンサートに行ったんですか!?」
「え?あ、うん。」
「まっ まさか楽屋に行ったりだとか…」
「うん、ご挨拶に。」
「誰に会ったんですかっ?」
「…あ、ああ。三人と…」
「三人と!?ずるい!ずるすぎます!!」
「ずるいって言われてもなぁ…」
あれは棚瀬さんの企みだったし。
私は行く気なかったんだから。
…なんて言ったら首絞められそう。
「今度会うときは僕にも教えて下さいよ!?付いて行きますから!」
…次……
次なんて…ないよ。
もう…私もただのファンなんだから。

真ん中に書かれた彼の名前をじっと見つめる。
テレビで彼の姿を見ても泣かなくなったのは、ほんの最近のこと。
ずいぶん経つのにね。
未練たらしいよね。
…いつになるのかな。
彼のことを、本当の意味で”好きだった人”にできるのは。
「…会う機会があったらね。」
「やった!今度はいつ−」
担当が突然口をつぐんだ。
「どうかしたの?」
彼を見上げると、ポカンとした顔をして私を見ていた。
「…?やだ、なぁに?私の顔に何かついてる?」
「…先生…」
「ん?」
「あの…」
「?うん?」
「……」
「何よ?」
「…い、いやっ何でもないです!大した事じゃないんで!」
プルプルと勢いよく首を振ると、担当は”ははっ”と笑った。
「え〜嘘!何よ!ちゃんと言いなさいよ。」
「いや、本当に何でもないんです!すごくくだらないことだったので!」
「え〜?本当に?何か怪しいなぁ…」
「な、何でもないですって!…あ、そうだ!届いている電報も持ってきますね!」
担当は、逃げるように傍にいた店員らしき人に声をかけた。
相手は小さく頷き、店の事務所らしき部屋へと入っていった。
どうやらあの部屋に置いてあるらしい。

…何を言おうとしたんだろう。
何だか珍しく真剣な顔だったな。
あんな顔、久しく見ていない気がする。
…なんて言うのも失礼だけど。

しばらくするとドアが開き、店員が出てきた。
店員は電報の束を差し出しながら、担当に何かを話している。
担当は何度も頷き、束を受け取って小走りで私のところに戻ってきた。
「先生!一部ですが、もらってきました!」
「えっこれで一部!?」
「はい。」
そう言って差し出された電報は、担当が両手で抱えるほどの数だった。
「まだ事務所にあるんだそうです。全部は無理だったので、一番手前にあった束を取ってきてくれました。一般のファンの方からもあるみたいですよ。あとはご親族とか。」
「親族は分かるけど、わざわざファンの人たちが電報くれたの?すごーい!ねぇ、見ていい?」
「もちろんですよ。」
「うわ〜ドキドキする!」
一番上の電報を手に取った。
開いてみると、送り主は何と祖母だった。
「わっ!おばあちゃんからだ!やだなぁ…何か恥ずかしい…」
「いいじゃないですか。ご親族のみなさんも今回の受賞を心から喜んでくださっているんですから。」
「まぁね。おいおいって思うくらいみんなから電話がかかってきたからねぇ。お祭りか!ってぐらいはしゃいじゃってるのよ、うちの人たち。」
「それだけ嬉しいんですよ。」
「…そうね。ここまで作家を続けることに反対もしないで、ただ見守ってくれてたからね。うまくいかなかったら帰ってくればいいんだからって。のんびりしてるというか何というか…でもそのお陰で私は作家を続けることができたわけだから、感謝しなきゃね。」
「そうですね。」
パーティーが終わったら家に電話しよう。
近いうちに休みを取って里帰りしよう。
ようやく、胸を張って帰れるよ。
みんな、元気かな。
急に家族が恋しくなっちゃった。


電報をもう一通開いてみる。
今度は母か父か。
はたまた親戚か。
「……え?」
私はその送り主の名前に釘付けになった。
「先生?どうかしましたか?」
「この人…」
姓はあの頃とは違う。
でも…。
「…お友達からの電報ですか?」
「…ううん、違う…違うよ…だって…その人とはもう何年も…」
「先生が受賞されて、久しぶりに連絡をくれた方かもしれませんよ?懐かしい方からお祝いが届く、なんてことも結構あるみたいですからね。」
そう…なのだろうか。
私にはその名の知り合いは、その人しかいない。
他にはいないはずだ。
だから、その人である可能性はないわけじゃない。
でも…。

恐る恐るメッセージに目を通すと、“まさか”が現実へと変わった。
「…う…そ…」
そこには、私へのお祝いの言葉とともに、彼女の旧姓が書き記されている。
信じられなかった。
だって彼女から連絡があったのは、私が作家になってから初めてなのだから。
「こんなことが…あるなんて…」
「先生…?」

そっと送り主の名前に触れる。
まさか、こんなメッセージをもらえるなんて。
他の誰でもないあなたから。

ずっと…私のことを見守ってくれていたんだ。
ずっと…一人じゃなかったんだ。
ずっとずっと…一緒に闘っていてくれたんだ。
知らなかった。
知らなかったよ。

“受賞おめでとうございます!私のこと、覚えてますか?
夢を叶えた美弥ちゃんはすごいですね。自分のことのように嬉しいです。
美弥ちゃんが作家デビューしてからずっと、陰で応援していました。
美弥ちゃんの本を読むと、いつも励まされます。
あの頃と同じように美弥ちゃんはいつだって私を励ましてくれてるんだ、そう思うと何でも頑張れました。
いつもいつもステキな魔法をありがとう。これからもずっと応援しています!”

何言ってるのよ。
お礼が言いたいのは私の方よ。
あなたの言葉がなかったら、私はここにはいなかった。
ここにいるのは、あなたの言葉があったからだもの。
それに私は魔法使いじゃない。
自分では気付いてないみたいだけど、魔法使いは私じゃなくてあなたよ。
私はあなたの魔法にかかったんだから。

何よ、ずっと連絡なかったくせに、突然電報なんて送ってきて。
何か…してやられた気分で悔しいじゃない。

「先生…大丈夫ですか?ま、まさか悪質ないたずら電報でしたか…!?」
「…ううん、違うよ。すごい人からの電報だったの。」
「すごい…人?」
「うん。魔法使いから。」
「…は?」
担当はきょとんとして首を傾げる。
「…ま…魔法?…え?」

言われてばっかりじゃ悔しいわ。
今度は私が言わなきゃ。
言わせてよ。
ずっとずっとあなたに言いたかった言葉があるの。
こんなに長くかかったけど、やっとあの日のあなたの言葉に笑顔で返せる日が来たわ。

ねぇ。
今度、会いに行っていい?
いっぱい話したいことがあるの。
あなたのこともいっぱい聞かせて?

ね、いいよね?


ありがとう。

本当にありがとう。

いっぱいいっぱい。
ありがとう。


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