「Cafe I Love You」
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-21-


「…う~ん……いないなぁ…」
広場に着いて、鼻をクンクンしたけど、スノーの匂いはどこからも漂ってこない。
「いない?」
「うん」
「じゃあ、ここには夜だけ来てるのかな?」
「う~ん…昼間もずっと広場のどこかに身を潜めてると思ったんだけど…もしかして、もう街からいなくなっちゃったのかなぁ…」
「アルを待ってるって言ってたんだよね?街からいなくなるってことは考えにくいんじゃないかな」
「でも、スノーなら気が変わって次の街に行っちゃっててもおかしくないよ」
「そうなの?」
「あのスノーなら、ないとは言い切れないよ。父ちゃんは会って話したことがないから分からないと思うけど、スノーの言うことは全部信じてたらダメなんだよ」
「そ、そうなんだ?」
「そうなの。だってね、スノーの話は嘘みたいなことばっかりで―」
『ひどい言われようね』
「うわあぁぁっ!!!」
ボクは父ちゃんの腕の中から落ちそうになるぐらいびっくりした。
心臓をバクバクさせながら声がした方を見ると、スノーが昨日と同じように噴水の前にちょこんと座っているではないか。
薄暗くなっても、スノーの真っ白な毛はよく見える。
なのに、さっきは気づかなかったし、匂いもしなかった。
いつの間にやってきたんだろう。
『ス、スススノー…いつからそこに…』
わたわたするボクの問いかけに、スノーは無表情で答える。
『さぁ、いつからかしらね。今日は人間たちの集まりもないみたいで、とても静かで快適だったから、ずっとここにいたわよ。いつもこのくらい静かだといいんだけど』
『え、ずっと?』
『ええ』
『本当に?だって、ボクの』
『あなたの鼻がおかしいんじゃない?人間の言葉が話せるようになったから、鼻も人間並みに鈍感になったんじゃないの』
『え!?』
そうか、そういうところは人間並みになっちゃったりするんだ!
『あ!みんなにボクのことを気づいてもらえないのも、それが原因なのかな!?ボクの匂いがいつもと違って、違う猫だと思われている…とか。そういうことなのか!』と納得しかけたのに、
『さぁ?』と返ってきて、ガクッとなる。
『さ、さぁって…』
『そんなこと私が分かるわけないでしょ。そこの大好きな”父ちゃん”に聞いたら』
フンとそっぽを向いた。

…や、やっぱり可愛くない!

と、スノーに言われてようやく父ちゃんに抱っこされていることと、父ちゃんがいることを思い出した。

「父ちゃん、この子が―」
スノーだよ、という言葉は言わずに飲み込んだ。
言わなくても分かっているし、それに…父ちゃんの顔がピカピカの笑顔だったから何か言いたくなくなっちゃった。
そんなうれしそうな顔しなくても…。ちょっと嫉妬しちゃう。
「き、キレイな子だねぇ!昨日チラッと見た時もキレイな子だとは思ったけど、本当に真っ白でキレイだなぁ!名前がピッタリだ」
「…そんなの―」
そんなの見た目だけだよと、言いそうになって慌ててやめた。
だって、スノーがボクを睨んでるもん。
本当は目が見えてるのかって思うぐらい、しっかりとボクを睨んでる。
…こ、怖い…!
何をされるか分からないから、余計なことを言わないようにしなくちゃ…。

スノーは父ちゃんに挨拶するわけもなく、ものすごく嫌そうな顔をして、ジロリと父ちゃんを睨んだ。
『…あなたの”父ちゃん”に、それ以上近づかないでって言っておいて』
『だ、大丈夫だよ。父ちゃんはボクたち猫が嫌がることはしないよ。猫のことが大好きで扱いも慣れてて―』
『猫好きだとかいう人間が嫌いなのよ。猫を見ると駆け寄ってきて、何とか触ろうとするあの厚かましい感じが気配から伝わってくるわ』
ひどい言いようにボクはムッとする。
『そんな言い方しないでよ。父ちゃんはそんな人間じゃない。それに猫好きだからって、みんながみんなそんなことしないよ』
『私にとって、猫好きな人間は全部同じよ。私には害でしかない』
スノーの目がさらに冷たさを増した。
ボクたち猫に向ける目とはまた違う目だ。
それだけ人間を毛嫌いしているということが分かる。

ボクはここまで人間に対して敵意を持っている子には初めて会った。
一体、どんな人間たちと関わってきたんだろう。
どんな辛いことがあったんだろう。
ボクには想像もつかない。

「ごめんね、嫌だったね。アル、僕は少し離れて話を聞くよ」
スノーの態度から察した父ちゃんが、ボクを下に降ろして一番近くのベンチに座った。
「人間のことがどうしても好きになれないみたい…父ちゃんは他の人間とは違うって言ったんだけど…」
「仕方ないよ。これまでに人間にされてきたことがこの子のすべてだもん。好きになれないようなことをされてきたのなら、僕たち人間は、これ以上嫌な気持ちにさせないようにするしかないからね」
「うん…」
「僕のことは気にしないで、話しておいで。できれば、彼女も人間の言葉を話してくれると、話がスムーズなんだけど。それはできないのかなぁ」
「あ、そうか!」
振り返ると、
『私に協力するつもりで来たのかどうかによるわね。時間がないから、無駄なことに力を使いたくはないの』とそっぽを向いて答えた。
『協力しようと思ったからここに来たんだよ。だって、絶対に協力してもらうって言ったのはスノーだし、そもそも協力しないなんて選択肢、スノーの中にはないんでしょ?』
すると、ボクを見て、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。
その顔にゾクッと寒気がする。
何をするか分からない、そんなスノーの顔はとにかく恐ろしくて目を逸らしたくなる。
同じ猫とはとても思えない。

長い真っ白なしっぽを何度か左右に振り、気だるそうにゆっくりと瞬きをする。
その時、一瞬だけ目の色がブルーに変わった。
あれだ!ボクが不思議な体験をしたのは、あの目になった時だ。
あの目になると、スノーが何かをする合図なんだ。
「父ちゃん」
小声で父ちゃんに声をかける。
「ん?」
「今、スノーの―」
「…これでいい?」
「っ!!」
父ちゃんがハッとしてスノーを見た。
それはつまり、スノーの言葉が分かったということ。
父ちゃんは、目をキラキラさせてうれしそうな顔をした。
「うん、分かる、分かるよ!」
「無駄なことに力を使ってるんだから、感謝してよ」
人間の言葉を話すようになっても、やっぱり冷たさは変わらなかった。
そうだろうとは思ったけど。
父ちゃんはどう思ったかなと見上げてみると、言葉が通じたことがうれしいからか、とにかくニコニコだ。
ボク以外の猫と話ができるということに、喜んでるんだろうな。
でも、ボクはスノーが父ちゃんに何を言うのか、気が気じゃないよ。
(父ちゃんを傷つけるようなことは言わないでよ?)
スノーをジッと見つめたけど、ボクの視線に気づいていないかのように、見てもくれなかった。
こういう時は見ないんだから…!

「僕はアルの飼い主のサカザキ。スノー、君と話ができてうれしいよ」
「私は人間と話したところで、ちっともうれしくないわ」
「ごめんね。でも僕はとってもうれしいよ。それに、君にお礼が言いたかったんだ」
「…お礼?」
「アルの言葉が分かって、アルと話ができてこんなに幸せなことはないよ。アルに言葉を与えてくれてありがとう」
「…アルに言葉を与えたのは利用するためであって、アルやあなたのためじゃない。すべて私のためよ。勘違いしないで」
「うん、分かってるよ。アルと僕なら利用できると思ったんだよね?もしかしたら、昨日の昼間に店の前を通っていった時に目星をつけたのかな?」
「…さあ、どうかしらね」
長いしっぽをふさふさ揺らしてそっぽを向く。
あの様子じゃ、絶対目をつけてたってことだ。
そんなスノーの様子を気にすることもなく、父ちゃんはとにかく笑ってる。
父ちゃんが猫好きなことはよく分かってるつもりだけど、こんな冷たい猫でも可愛いと思えるんだもん、尊敬しちゃう。
「それでもいいんだ。利用できると思われたとしても、アルと話ができることは僕にとって最高の出来事なんだ。だから、どんな理由でも今の状況を作ってくれたスノーには感謝しかないよ」
「父ちゃん…」
「本当にありがとう、スノー」

…父ちゃん、そんなうれしいこと言わないで。
ボク泣けてくるよ。
父ちゃんの手にスリスリすると、父ちゃんが優しく撫で返してくれた。

ボクも父ちゃんと話ができるようになって、すっごくすっごくうれしいよ。
父ちゃん家の猫になれただけで十分幸せだけど、ボクは父ちゃんといっぱいいっぱい話したいことがあるんだ。
父ちゃんと初めて会った時のことや、父ちゃん家の猫になった日のこと。
ずっと父ちゃんと話したかったし、ありがとうが言いたかったんだよ。
父ちゃんに伝えたい事がいっぱいあるんだ。
これから、いっぱいいっぱいお話するから、いっぱいいっぱい聞いてね。


「…あっそう。だったら勝手に感謝してれば?」
そんな父ちゃんの笑顔も温かい言葉も、スノーの心には響かないみたいだ。
相変わらず冷たい目で父ちゃんを見ている。
どれだけ心が荒んでいるんだろう。
優しい人間の言葉すら、こんな風にしか受け取れないなんて、なんて悲しい子なんだろう。
ギュッと胸が苦しくなる。
そんなボクの悲しい気持ちに気づいたのか、父ちゃんがボクの頭をポンポンしてくれた。
顔を上げると、寂しそうな顔で微笑んだ。
父ちゃんも、悲しいんだね。
救ってあげたい、父ちゃんの目がそうボクに訴えかけてくる。
うん、ボクもだよ。
悪い人間だけじゃない、心の底から優しくて愛情をいっぱい与えてくれる人間もいるんだってこと、スノーに分かってほしい。
目の前にいるのが、そんな素敵な人間なんだってこと、気づいてほしい。

父ちゃんがボクの頭を撫でながら言った。
「スノー、君はこれまできっと辛いことがたくさんあったんだよね。その原因が僕と同じ人間なのなら、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。僕が謝って済むことではないけれど…ごめんね。本当に…ごめん」
「……」
「君の気持ちは僕が受け止めるから、全部吐き出してほしい。それで、人間を許してほしいなんて言うつもりはないよ。でも、このままだと…スノーが壊れてしまう。これ以上、身体に負担をかけてほしくないんだ。じゃないと君は…」
「……もう遅いわ。手遅れよ」
「スノー…」
…もう遅い?手遅れ?
何?何の話?
「父ちゃん、何?何の話をしてるの?」
「……」
「父ちゃん?」
「気づいたのなら、はっきり言えばいいじゃない。私に残された時間が少ないって」
「えっ!?」
スノーの言葉にボクは驚いた。
少ない?残された時間が少ないって…それって…
「…だから嫌なのよ。あなたみたいな人間って」
スノーが眉間にしわを作って、父ちゃんをジロリと睨んだ。
「…余計なことにまで気づく、やたら猫の知識が豊富な猫好き。私が一番関わりたくない人間だわ」
「…うん、ごめんね…」
「と、父ちゃん…」
見上げたボクを、父ちゃんが悲しそうな顔で見下ろしてくる。
「父ちゃん…スノーは…」
「…アル、よく聞いてね。スノーの目が悪いのは、アルも分かっているよね?」
「うん…」
「悪いのは目だけじゃないんだ。生まれつき様々な病気を抱えているんだよ」
「病気…?」
「うん。…だから…あまり長く生きられないんだ」
「え…」
「野良猫が良くない環境で暮らしているのは、アルもよく分かっているよね。生まれつき身体の弱い子が野良で生きていくのはとても難しい。病気を持っている子ならなおさらだ。スノーは毛並みが良くて元気そうに見えるけど、隠れている身体は違う。ひどく痩せている。もしかしたら、それを見せないために、あの不思議な力を自分にも使っている…のかな」
「……」スノーは何も言わずに、こちらをただ見ている。
それはつまり、本当のこと…そういうことなの?

そんな…

諦めたように、スノーがその場に座り込んだ。
ふぅ…と疲れたようにため息をつく。
「…やっぱり嫌いだわ、あなたみたいな人間。まぁ…アルを選んだ時点で、こうなることはだいたい分かっていたけど。アル、あなたの”父ちゃん”は本当にうんざりするほどの猫好き人間ね」
「スノー…」
「…ねぇ、スノー?まずは病院に行こう?先生に診てもらったら、少しは身体が楽に―」
「言ったでしょ、もう手遅れだって。自分の身体のことぐらい、自分が一番分かってるわ」
「でも…」
「あなたたち、私に協力しに来たの、怒らせに来たの、どっち?」
「もちろん、協力するためだよ。そのためにもスノーの身体も…」
「余計なお世話よ。私が協力してほしいのは、私の大切な物を探すことだけ。私の身体を心配しろだなんて、一言も言ってない」
「で、でも!スノーがいなくなったら、探し物だって見つけられなくなるじゃないか!だから父ちゃんと一緒に―」
「私が生きている間に見つけなさいよ!言ったでしょ、時間がないって!今、この時間すらも私には無駄なのよっ!!」

スノーが牙をむいてボクを睨む。
ダメだ…
何を言ってもスノーは”探し物”にしか興味がない。
そこまで執着するのは何でなの?
そんなに大切な物なの?
…命より大切な物なの?

「私が人間の言葉を話しているのは、探し物のためだけ。くだらない話をするのなら、何も話さない」
「スノー…」
ゆっくりと立ち上がって、くるりと後ろを向いた。
「あなたたちを選んだ私がバカだったわ。余計なことをしない猫と人間を探し直すから、あなたたちはもういいわ。帰って」
「待って、スノー!ボクたちは―」
「うるさいわね!!さっさと帰りなさいよ!!」
全身の毛を逆立てて、ボクに威嚇してくる。
逆立てた長い毛の隙間から、スノーの細い脚が見えた。
折れてしまいそうなほど細いその脚は、野良猫だった頃にサヨナラした猫たちの脚と同じだ。
病気の子、ケガをした子、じいちゃんやばあちゃん。
二度と会えなくなった猫たちと同じ…やせ細った脚。

父ちゃんが言った通り、本当に…スノーに残された時間は…もう…
どうしようもなく悲しい気持ちになって、何も言えなくなった。
ボクには、スノーに言えることが何もないよ…

「…分かったよ、スノー。スノーが探してるその”大切な物”を見つけよう」
諦めたように父ちゃんがため息をついた。
「父ちゃん…」
「スノーは”探し物”のことで頭がいっぱいなんだよ。だから、それを見つけないと何を言ってもダメなんだ」
「で、でも…そしたらスノーが…」
「もちろん、スノーの探し物だけを見つけるつもりはないよ」
「え?」
「スノー。もし、君の命が尽きる前に、その探し物を見つけられたら、病院に行ってくれる?」
「…は?」
「父ちゃん…!」
「探し物が見つかったら、残された時間はもう自由な時間だ。それは何に使ってもいいよね?」
「……交換条件ってこと?」
「そう。スノーには、何のデメリットもないと思うよ。むしろ、メリットしかない。探し物も見つかって、もしかしたらもっと長く生きられるかもしれない」
「…私に交換条件をつけるなんて、いい度胸してるわね」
「そうでもしないと、君は病院に行ってくれないだろうからね」
「…そんなにしてまで病院に行ってほしいわけ?私のこと、何にも知らないのに?おかしな人間ね」
「僕は自分の目に映る猫たちは助けたいんだ。世界中の野良猫たちを助けたいけど、それはとてもじゃないけど無理だ。だから、せめて自分の周りにいる猫たちは助けたい。僕がやっていることは、単なる自己満足だって分かってるよ。人間に助けてもらおうなんて思ってもいない猫や、余計なお世話だって思っている猫もたくさんいると思う。スノーのように人間が嫌いな猫もたくさんいる。でも、僕は助けたい。僕にできることは、それしかないから」
「……」
「父ちゃん…」
「だから、約束してほしい。探し物が見つかったら病院に行くって。それを約束してくれたら、探し物を見つけるよ」
父ちゃんの目をじっと見つめたまま、スノーが口を開いた。
「……アル」
突然呼ばれてボクはびっくりする。
「んっ!?」
「……あなたの父ちゃんは猫好きが異常な上に、計算高くて嫌な性格してるわね」
「へっ?」
「え、ひどいなぁ…そんなに計算高くなんて…」
「…計算高くないなら交換条件なんてつけないでしょ。その身体の中、真っ黒なんじゃないの」
「あはは…サクライやタカミザワだけじゃなくて、まさか猫にまで言われるとはね…」
「父ちゃん、真っ黒って何?父ちゃん真っ黒なの?」
「え、えっと…こ、今度説明するよ。でも、僕は真っ黒じゃないからね?」
「…?う、うん…」
「真っ黒でしょ」
「スノー!もうっ!」
「……分かったわ、条件を飲むわ」
諦めたようにスノーが頷いたので、ボクはスノーに駆け寄った。
「本当!?本当に病院に行ってくれるの!?」
「時間もないしね。でも、病院に行くのは探している物が見つかったら、よ。それ以下は一切認めないから」
「本当だね!?約束だよ!約束だからねっ!?」
「うるさいわね。行くって言ってるでしょ」
「やった!父ちゃん!頑張って探そう!」
「う、うん!」
「早く見つけて、スノーを病院に連れて行こうね!」
「うん、そうだね」
呆れたようにスノーがため息をついたけど、ボクは見なかったことにする。

父ちゃんは、探し物以上にスノーを助けたいんだ。
父ちゃんがスノーを助けたいのなら、ボクも父ちゃんに協力するよ。
ボクは父ちゃんの一番の味方だもん!
父ちゃんのために、ボクも頑張るよ!

スノーを助けるために”探し物”を見つけなければならないのなら、見つけるしかない。
どんな物か分からないけど、早く見つけて、スノーを病院に連れて行かなくちゃ!

「スノー!探している物は何?どんな物なの?どこにあるの?」
「どこにあるのか分かってたら自分で見つけるわよ」
「…あ、そ、そっか」
「アル、あなた大丈夫なの?」
「だ、大丈夫だよ!父ちゃんもいるし!他の猫にも協力してもらうよ!」
「……」
「そんな目で見ないでよ…」
「まぁまぁ。じゃあ、スノー?どんな物か、具体的に教えてくれる?僕も街の人たちにも聞いてみるからさ」
「…アルは使い物にならなさそうだから、あなた、頑張ってよ」
「ひ、ひどいっ!」
「ま、まぁまぁ。そ、それで、何を探しているの?」
「…私が探しているのは…」
「探しているのは?」
「…それは……」
「それは?」
ボクと父ちゃんがゴクリと喉を鳴らす。
いったい、何を探しているんだろう。
ドキドキしながら、スノーの次の言葉を待つ。
「……」
けれど、スノーの口から一向に次の言葉が出てこない。
目をパチパチさせて、何だか様子もおかしい。
「…スノー?」
「どうしたの?」
「……思い出せない」
「え?」
「…何を探していたのか……思い出せない」
「へ…?」
スノーの言葉に首を傾げたボクと父ちゃんだったけど、その言葉の意味がようやく理解できた時、顔を見合わせて目を丸くした。
「えーっ!?」

街灯がついた薄暗い広場に、ボクと父ちゃんの叫び声が響き渡るのだった。


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