2.3.2 マルコフ連鎖      目次(第2章)へ

起こりうる事象は E1, E2,・・・, En n通りあって,第1番目,第2番目,…と順次の試みによって,どれかの事象がおこるものとする.第m番目の試みの結果は,それ以前の第 (m-1) 番目の試みの結果に関係して定まるとき,この一連の試みをマルコフ連鎖Markov chainという.とくに第m番目の試みの結果が,その直前,すなわち第 (m-1) 番目の試みの結果にだけ関係するとき,これを単純マルコフ連鎖という.

  *マルコフ連鎖計算プログラム

2.3.2.1 推移確率 

 単純マルコフ連鎖でEjのつぎにEkのおこる条件つき確率を,EjからEkへの推移確率といいpjkで表す.また,

  p11 p12 ・・・ p1n  
P = p21 p22 ・・・ p2n

eq. 2.10

 

       
  pn1 pn2 ・・・ pnn  

 

を推移確率マトリックスという.各行の要素の和は1に等しい.すなわち

pjk = 1                   eq. 2.11
 k

である.第1番目の試みの前の状態,すなわち初期の状態が E1, E2,・・・, En である確率をそれぞれ

q1, q2,・・・, qn

で表し,これらを初期確率とよぶ.

2.3.2.2 高次の推移確率

 毎日の天候は晴天(雨でない日)A1または雨天A2のいずれかであり,単純マルコフ連鎖とする.1年の天候についてみると,元旦は晴天か雨天かは前日(前年の末日)の天候によって確率的に定まり,2日以降も順次前日の天候によって確率的に定まるものとする.

 いま前日が晴天A1である場合,つぎの日に晴天A1を継続する確率をp11,雨天A2に変更する確率をp12,前日雨天A2である場合,つぎの日に晴天A1に変更する確率をp21,雨天A2を継続する確率をp22とする.

 このマルコフ連鎖の推移確率マトリックスは

  p11 p12  
P = p21 p22

eq. 2.12

となり,その推移線図は図2.2のようである.

2.2 天候の推移線図(BPSE2-2.JBH

 図2.2のように,推移の状態を図示したものを推移線図またはシャノン(Shannon)線図という.これに推移確率を記入することによってマルコフ連鎖が示される.

 前年末日の天候が晴天A1である場合,第2日目にA1またはA2になる確率をそれぞれp11(2),p12(2)で表せば

p11(2) = Pr{第1日 A1,第2日 A1} + Pr{第1日 A2,第2日 A1

     = p11p11 + p12p21                eq. 2.13

p12(2) = Pr{第1日 A1,第2日 A2} + Pr{第1日 A2,第2日 A2

     = p11p12 + p12p22                eq. 2.14

である.同様にして,前年末日の天候が雨天A2である場合,第2日にA1,A2になる確率はそれぞれ

p21(2) = p21p11 + p22p21                eq. 2.15

p22(2) = p21p12 + p22p22                eq. 2.16

となる.これらを2次の推移確率という.2次の推移確率マトリックスは

eq. 2.17

となり,推移確率マトリックス(pjk(m))はp(m)で表される.

            eq. 2.18

 eq. 2.19

Pm = PPm-1 = Pk Pm-k         eq. 2.20

前年末日が晴天である確率をq1,雨天である確率をq2とすると,初期天候ベクトルq は,

q = (q1,q2)                    eq. 2.21

元日に晴天A1になる期待値q1(1)は,

q1(1) = q1p11 + q2p21              eq. 2.22

元日に雨天A2になるq2(1)は,

q2(1) = q1p12 + q2p22              eq. 2.23

したがって,元日の天候ベクトルq(1)は,

q(1) = (q1(1) , q2(1))             

   = qP                     eq. 2.24

第2日目以降についても同様にして

q(2) = qP 2                     eq. 2.25

q(m) = qP m                     eq. 2.26

 

2.3.2.3 定常マルコフ連鎖

 推移確率マトリックスPの要素Pjkがすべて正の場合,m次の推移確率マトリックスPはmの増加にしたがって,各行が同じ確率ベクトル t = (t1, t2,・・・, tn) の成分からなるマトリックス

eq. 2.27

に近づき,確率ベクトルtの成分tiはすべて正であるといわれている.

 このことは,q を任意の初期確率ベクトルとすれば,

q(m) = qP m                     eq. 2.28

は m の増加とともに t = (t1, t2,・・・, tn) に近づくことを示している.したがって初期確率ベクトルとしてtを選べば

tP = t,                       eq. 2.29

t = tP =tP2 = ・・・ = tP m          eq. 2.30

である.(2.29)式で定まる t を推移P の不動確率ベクトルという.不動確率ベクトルを初期確率にとれば,(2.30)式からわかるように,ある状態にある確率は,この連鎖を通じて一定である.とくにこのようなマルコフ連鎖を定常マルコフ連鎖という.

●ソフトウェア

2.3.2.4 天候のマルコフ連鎖

 ある日の天候は,晴晴率5/6,雨晴率2/3の単純マルコフ連鎖現象と仮定できる.推移確率マトリックスPを示せ.また,長期間の日数では,晴天率Cと雨天率Rは,不動確率ベクトルtで示される.CRを求めよ(ここで,晴晴率,雨晴率とは,前日が晴または雨であったとき,本日が晴になる確率のことである).

 解. 

 また,tP = tかつ,C + R = 1

p11C + p21R = C   (a)

p12C + p22R = R     (b)

C + R = 1          (c)

 (a)より p21R = (1 - p11 ) C

R = ( p12 / p21 ) C

 これを(c)に代入し

C + ( p12 / p21 )C = 1

( p21 + p12 ) / p21 C = 1

C = p21 / ( p21 + p12 )

R = p12 / ( p21 + p12 )

これから R = 0.2, C = 1.8 が得られる.

また,天候を晴天,曇天,雨天の三つに分類したときの推移確率マトリックスは表2.3のようになる.

 

 2.3 天候(晴天, 曇天, 雨天)の期待値の推移

  A1:晴 A2:曇 A3:雨 マトリックス
初 日 q1 q2 q3 q = q1,q2,q3
2日目 q1(1) = q1 p11

+ q2 p21 + q3 p31

q2(1) = q1 p12

+ q2 p22 + q3 p32

q3(1) = q1 p13

+ q2 p23 + q3 p33

q(1) = q P
3日目 q1(2) = q1(1) p11

+ q2(1) p21 + q3(1) p31

q2(2) = q1(1) p12

+ q2(1) p22 + q3(1) p32

q3(2) = q1(1) p13

+ q2(1) p23 + q3(1) p33

q(2) = q(1) P

  = q P2

4日目 q1(3) = q1(2) p11

+ q2 (2)p21 + q3(2) p31

q2(3) = q1(2) p12

+ q2(2) p22 + q3(2) p32

q3(3) = q1(2) p13

+ q2(2) p23 + q3(2) p33

q(3) = q P3
***







ここで,

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