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早川書房 1,680円 (税込)
ISBN: 415208622X (2005/11)
おすすめランク★★★★★
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今年は文房具、手帳関係の書籍の当たり年。
文房具や手帳がブームになっている証拠であろう。
10月から、実に多くの本を購入したが、やはり、この本の紹介からすることにした。
文具ファンならば、すでに購入されている方がほとんどとは思うが、自分なりに感じたことを紹介したい。
本の紹介の前に、著者の和田哲哉さんについて触れてみたい。
わたしは、ロディアやモールスキンをはじめとする、おしゃれな文房具が、みんなの身近なものとなったのは、この和田さんの功績が非常に大きいと思っている。
「ステーショナリープログラム」や「信頼文具舗」を通じて発信されている内容は、いずれもとても濃い情報で、4、5年前から今のように大人の文房具に興味を持ち始めたころは、参考書を読むような感覚で、和田さんのサイトから知識を吸収させていただいた。
わたしのサイト運営に、和田さんから受けた影響は計り知れないものがある。
同様に、文具系サイトを運営されている方で、和田さんから影響を受けていない方をさがすほうが難しいのではとも思う。
特に、ロディア興味を持ち始めた頃は、「ステーショナリープログラム」の2000年4月15日や2002年1月24日の記事を、モールスキンについては、「信頼文具舗」で紹介されているモールスキン使いこなしなどを、それこそディスプレイに穴が開くほど眺め続けたのを憶えている。
今でも、次のブツを購入する時には、このページを参考にさせていただいている。
氏の素晴らしい所は、迎合した商品ではなく、きちんと自信が使われて良いと思われたものを、責任を持って紹介されていること。
加えて、わたしとは異なり、決してネガティブなこと書かないこと。
しかし、きちんと筋を通した内容になっているところ等々、いずれも簡単に実践できることではない。
ご本人の知識・見識・人柄によるところが大きいと思う。
匿名のネット社会で、氏ほどメジャーになられた方なのに、評価の書き込みは目にすることがあっても、どこでも悪口を見かけないのは、ある種すごいことである。
和田さんの実績・人柄は、実社会だけでなく、ネット社会でも、だれもが文句無しで認める事実として認知されているからであろう。
これからも、和田さんからは、いろいろなメディアを通じて、わたしたちの物欲を刺激される情報を提供していたけることを願っている。
さて、本書の内容であるが、タイトルどおり筆記具に特化した内容になっている。
シャープペンシルやボールペンなどの筆記具の基礎知識に始まり、筆記具を使う楽しみの紹介、応用として筆記具の周辺のノート・手帳との連携について触れられており、一気に読んでしまった。
読み進めて、ああ、よくユーザーの思いを分析しているなと感心するところが何箇所もあった。
特に、わたしが筆記具に関する思いとして、以前から感じていたのが「使わない筆記具がけっこうな量になっている」こと。
そして、それが、心の片隅に、トゲのように引っかかっていること。
引き出しに納めているのだが、そこに納めている筆記具はある種、捨てるに捨てられず、なかったことになっている状態。
その、開かずの引き出しに溜まっているのは、100円から200円程度で、ハンズやロフトでオッ面白そうと買ってきて、ちょこっとだけ使っただけで飽きたもの。
そうした無責任な行動を15年近くづづけてきて、結構な量になっていたので、たまに思い出したように心が痛んでいた。
一方、今、机の上にあるペン立ての中のペンは、一年位前からLamyにつかまったのをきっかけに、筆記具に興味を持ちはじめ本当に吟味して購入した物だけ。
本書のP17にも「たまってしまった人、揃える人」とあったが、まさに、わたしの場合、両面を持ち合わせた2重人格者状態だ。
このページを読んで少し救われた気がした。
あと、著者の文章を読んでいて楽しいのは、年齢が近いこともあり、同時代性に共感を持てること。
わたしが小学生の頃、シャープペンシルは金属製で1000円が相場だったのが、気が付いたらいつの間にか、100円程度のものが世の中を席巻していたこと(P21)。
学生時代、ミリペンを使って、貸しレコード屋で借りてきたLPやCDのタイトルや曲目をカセットレーベルに手書きしていたのだが、P78で同様のことを紹介されていて、ああ懐かしいなと思いながらポストイットを貼った。
氏のすごいところは、その頃から退色性などを気にされていたこと。
わたしは、その当時からのカセットテープは全て保管してあるのだが、実家から、そのうち十数本選んで持ってきて箱にしまいこんでいるカセットを、夜中に出して見てみたら、かすかに判読できる「松山千春ライブ」というテープが出てきた。
昔、オールナイトの特番で、氷室京介も学生時代に松井常松と知り合うまではフォーク野郎だったとカミングアウトしているくらいなので許してほしい。
わたしもピグマで書いていたら、松山千春の髪の毛ではなく、名前も消えることはなかったのでは。
わたしの記憶に残る筆記具での一番の感動は、小学生の時、近所の本屋兼文具屋みたいな小さなお店で発見した黄色の蛍光ペン。
今の無印良品の蛍光ペンと同じような小さめのデザインで、半透明のボディだったのを記憶している。
これまでに経験したことのない蛍光色がまぶしくて、いろいろなものに塗りまくるのが楽しくてしょうがなかったのを憶えている。
本書を読む途中で、ふとその感動を思い出した。
タイトルどおり、文房具を楽しく使うためのヒントが凝縮された、また、わたしにとっては、忘れかけていた文房具の思い出を、記憶の片隅から引っ張り出してくれた一冊だった。
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