【特集】万年筆を買いに

■手帳とカバンのホームペーヂ
 http://www7b.biglobe.ne.jp/~techou_bag/
筆記具関係のコラムのページ
私のお気に入りのペンや購入記の紹介
●万年筆を買いに(マツヤ万年筆病院・カスタム74購入記)

万年筆を購入するにあたり、一番重要視するポイントは、きちんと検品された最上のものを入手することである。

それと同時に、購入する一本一本について、こだわりのあるショップで購入することで、「この万年筆は○○で購入した」という、プラスαの付加価値が自分の中で付いてくる。

これは、決してオークションや通販では味わうことのできない醍醐味である。

ここでいう、こだわりのショップというのは、全国にそう数があるわけではないが、まだ、全部を訪問しきれていない。
そんな中で、以前から一度訪問してみたいと思っていた専門店に、九州・長崎にある「マツヤ万年筆病院」があった。

もちろん、手帳の物欲リストにも数年前から書きこんでいたのだが、このたび、ようやく訪問することができた。

   ◇

名著「万年筆の達人」を見ると、こちらのお店は、店主が一本一本の万年筆を、検品・調整して、最適なインキフローにした万年筆を販売しているとある。
これを読んで以来、このマツヤ万年筆病院で販売している万年筆とは、いったいどのような書き味なのか、気になってならなかった。

しかし、場所は長崎。
徳川の将軍様が、異国からの影響力を極力排除しようとセレクトした、地の果ての街である。
そう簡単に、文具ツアーを決行することもできなかった。
しかし、この春に異動になり、自分の仕事の予定を比較的自由に組めるような役職になったため、思い切って長期の秋休みを取得して、博多とセットにした九州文具ツアーを開催することとしたのだった。

   ◇

訪問にあたって、まず考えたのが、パイロットの『カスタム ヘリテイジ92』。
新発売の、スケルトン・吸入式万年筆の購入であった。

遠方の名店でブツを購入する場合、遅くとも1カ月前からプランを練る。
基本的に、行き当たりばったりで良い結果に巡りあうことは、まずない。

一方、多数の万年筆ファンが思っていることだが、地方の名店と呼ばれるところは、たいていの場合、迷惑団体客に荒らされてしまっている。
いや、汚されているといった方が、より実態を表しているかもしれない。

幸いにして、連中は、「旅先での非行」をブログにUPしてくれる確率が非常に高いため、連中が触ったような万年筆を選ぶのは極力避けるようにしている。
(べたついた手で触っている可能性大のため)

なので、基本は事前に新品を取り寄せてもらって、私が訪問するまでに検品をお願いして、店頭には出さないように、取り置きをお願いするようにしている。


ということで、早速、長崎に電話をしてみる。
電話には、懐かしい九州訛りの男性が出る。
早速、パイロットの吸入式の万年筆の話をしてみたのだが、どうも通じない。

もちろん、電話をしたのは、パイロットが内覧会を開催したあとなので、文具店には情報が流れているのは確認済みの上でだ。

しかし、ペリカンのスケルトンならあるなどと、トンチンカンな答えしか返ってこない。

話をよく聞いてみると、こちらのお店では、店主が良いと判断したものしか取り扱わないとのこと。
なので、パイロットのカスタム74スケルトンの取り扱いはしているが、吸入式はまだ判断がつかないので、今のところの取り扱いは予定していないと言われた。

お客が取り寄せを頼んでもダメですか?
と尋ねてみたのだが、やはり、ダメとのこと。
要は、客が希望しても、マツヤの目にかなったものしか扱わないとのこと。

・・・、マヂかよwww。
こだわりの名店、金ペン堂でさえ、ペンカタログに出ている万年筆はすべて取り寄せできると言っていたのに・・・。
マツヤはそれ以上にすげえのか!!!
頼もしくもあり、同じ位に不安にもなってしまった。

しかし、扱わないと言われても、ヘリテイジ92は、後半締めの万年筆にしようと思っていただけに、予定が大狂いだ。
マツヤで扱えないというのであれば、長崎訪問は延期して、金ペン堂での入手か、関西文具ツアーに変更して、神戸の専門店での入手に切り替えようかと考えていた。

   ◇

しかし、ここで思わぬ幸運が訪れてきた。
実は、ここまでの話、私がヘリテイジ92の実物を見る以前の状況。

パイロットから吸入式が出るという情報を、某大型店の店員さんから伺ってから、ペリカン・トラディショナルM250の再来と、勝手に妄想を膨らませていた。
そして、パイロットで持っていないペン先、FMとBの2本買いをしてやろうと考えていた。

そのため、情報をいただいた某店の店員さんに、先行入荷があったら教えてほしいとお願いしていた。

で、マツヤとの電話のやりとりのちょっと後に、入荷日の連絡をいただき、さっそく実物を見に行ってみた。

で、目が点。

一言でいうと、あまりにも「カッコ悪い」のである。

ぺり助に慣れてしまったからもしれないのだが、ピストンパーツのゴムの薄さが、全体とのバランスを考えると、あまりにも情けない。
もちろん、万年筆の製造技術でいえば、パイロットは文句なしに世界一の品質を誇る会社であり、機能的には、全く問題がないのであろう。
しかし、見た目というか、デザインというものはとても大切である。

これであれば、正直、カスタム74のスケルトンの方が、数倍カッコイ。

これにより、ヘリテイジ92がないから、長崎訪問をあきらめるという理由はなくなった。


最初から、仕切り直しである。
第二候補として挙がってくるのは、ミュージック・ニブの万年筆であった。

とりあえずの候補は、国産2大メーカーのパイロットとプラチナである。
(というか、この2社しか選択肢がない!)
で、ミュージックのペン先に見る世間の評価は、圧倒的にプラチナの方が高い。

実際に、万年筆祭りや伊東屋のフェアで、中屋のミュージックを試筆してみても、非常に書きやすい。
しかし、長崎で中屋の万年筆の取り扱いがあるのかは分からない以前に、いきなりポンと買う万年筆ではない。

中屋を買うからには、伊東屋などのフェアで、吉田さんと対面で買う万年筆であると思っている。

あと、中屋のペン先のデザインは、文句なしにカッコイイのだが、どうもプラチナのペン先デザインは、カッコイイという以前に、物欲を萎えさせるほどにカッコ悪い。

一方、パイロットの試筆セットは、色々なお店のカウンタの上に放置されており、かなり自由に試筆できるので、こちらも、相当数の試筆はこなしている。
で、個人的には、プラチナ・中屋よりも縦横のメリハリが効いた、イタリック調の美しい文字が書けると感じていた。
ただ、あたりの柔らかさは、中屋の方が単価が高い分、軍配が上がるのが悩ましいところだ。
いずれは、中屋・ミュージックということで、こちらの楽しみは次回に取っておきたい。

   ◇

ということで、カスタム74ミュージックのペン先に的を絞って、長崎に再TEL。
すると、先日電話と同じ男性が出て、ミュージックはパイロットのみの取り扱いがあり、店頭には4〜5本の在庫をそろえているとのこと。

金ペン堂でさえ、昔は店頭に在庫を置いていたが、現在では取り寄せになると言っていただけに、特殊ペン先で複数本の在庫を抱えているというのは、中々すごい。

電話では、万年筆は一本一本異なるものなので、お客様にきちんと試筆していただいた上で、手にあった一本を選んでいただきたいとのこと。

ということで、ツアー当日は、爆発的に期待をふくらませての訪問となった。

お店は、非常に広く、壁面とガラスケースには、本などでみたとおりの大量の万年筆がビッシリと並んでいる。
いわゆる、圧巻という言葉がぴったりだ。

幸いにして、わたしが訪れたときには、万オタどころか、お客が一人もいなかったため、ゆっくりとご主人とお話をしながら、気分良く万年筆を選ぶことができた。

お店の万年筆は、一本一本検品され、必要に応じた調整をされているとのことだが、パイロットの万年筆については、ほとんど調整する必要のものはないという。
それだけ、高品質で納品されてくるということのようだ。

結局、わたしが訪れたときに試筆できた万年筆は2本。
電話では4〜5本といっていたが、このアバウトさが地方のよいところなのだろう。

これまで、ミュージックのペン先を比較して試筆した経験はなかったが、ご主人の言われるとおり、品質の安定しているといわれるパイロットでも、はっきり違うのがわかるから面白い。

私の求めていたのは、縦横の線の太さのメリハリが大きいもの。
その視点で試筆して、最上の一本を選択した。

   ◇

ここで、初めて訪れた万年筆店での興味の一つに、試筆用の万年筆のインキに何を使っているかということがある。

伊東屋、丸善はペリカンのローヤルブルーであるが、地方のお店だと、モンブランを使っているところも多い。
ちなみに、金ペン堂では、購入する一本を決めると、使うインキを尋ねられて、同じインキで最終確認の試筆をすることになる。
これは、インキはできるだけチェンジしない方がよいという、お店の考えのようだ。

で、こちらのマツヤ万年筆病院では何を使っているのかと思っていたら、パイロットのブルーブラックだった。
インキ壺に入ったインキにペン先をポチャリとつけてくれる、いわゆる伊東屋本店と同じ方式だ。

この、試筆インキの容器も、お店によってのこだわりが見られる。

伊東屋はインキ壺だし、丸善はペリカンのボトルのまま。
神戸の専門店は、昔のモンブランのボトルにペリカンのローヤルブルーのインキを入れていた。
面白かったのは、小倉のクエストという本屋の地下の文房具店。
シェーファーの昔のインキボトルに、モンブランの黒を入れて使っていた。

こうした、試筆用インキの扱いだけでも、色々な特徴があって面白い。

   ◇

ずっと他の客がこなかったので、とりあえず、ミュージックを確保したあとも、じっくりと掘り出し物がないかと店内を眺めてみた。
すると、出てくるわ、色々と。

ということで、今回は、万年筆の他に、かなり昔のシェーファーのインキボトル、LamyのTipoの旧メタルボディを確保。

ちなみに、万年筆を買うと、インキカートリッジは、一箱サービスしてくれるみたいで、今回は、ブルーブラックをいただいた。

あと、TELしたときには、扱う予定はないと言っていたヘリテイジ92については、結局、試しに数本取り寄せてみるとのことだった。
ただ、電話でも言われていたように、見てみないと何とも言えないとのこと。

一部アバウトな気もするが、相当にこだわりのあるショップで、全国に多数のひいき客をかかえているのも、訪問してみて納得できた。
また、機会があれば訪れてみたい名店である。

ちなみに、ミュージックのペン先については、私が所有する万年筆の中でも、一番太い線を引くことができる。
きちんと検品された万年筆ということもあるのであろう。
インキフローは恐ろしく潤沢で、カートリッヂのインキが恐ろしい勢いでなくなっていく。

この万年筆で書いた後、ペリカンのM600の太字で書いてみると、恐ろしい位に細く感じるのが面白い。

(10/11/23)
前のページ 目次 次のページ



tetyou_bag@hotmail.comtetyou_bag@hotmail.com