昨年の万年筆祭ではスルーした、セーラーのインキ工房。
今年の万年筆祭で初挑戦してみた。
国産のインキは、基本的に興味がないのだが、今回だけは特別。
どうしてもこのインキ工房でないと不可能なことをお願いする必要があったのだ。
私の手帳のTODOリストから、いつまでも消えない案件が一つある。
それは、モンブランの限定インキのラブレターボトルを入手すること。
全国の名だたるモンブランブティックやペンショップを回っても、すでに完売。
運良くカートリッジは3箱ほど入手することができたが、あいにく、カートリッジを使える万年筆は無印のアルミ軸万年筆しか持っていない。
この、ラブレターは赤というよりボルドーに近い色。
ボルドー好きの私は、是非太字で試してみたかった。
しかしながら、ボトルはどこにも置いていない。
こうなるとよけいに試したくなる。
解決方法のない無限ループが、私の欲望の中で渦巻いていた。
そうするうちに、ふと私の頭の中にひらめいた。
なければ、ラブレター風インキを作ればいいではないか?
もちろん、私が欲しいのはあの色味で、ニオイはむしろ無い方がよい。
さっそく、サンプルを作成。
もちろん、原色でコピー元を作るのはルール違反で、やってはいけないこと。
元々のラブレターより少し濃いい色が好みなので、無印万年筆のキャップを少し開いたままにして、熟成状態で筆記して、サンプル作成。
インキ工房の台帳に搭載してもらう名前も考えた。
もちろん、本名はラブレター。
ただ、ややこしいことになったら、説明が面倒くさいので、登記する名前は仮名にした。
紙によっても色味が変わってくるという情報をいただいていたので、ロディアの紙片にサンプルを作成して、試筆用にちぎったロディアを大量に準備。
こうして、万年筆祭のインキ工房に乗り込んだ。
早速、ブレンダの石丸氏に色見本を提示。
自分で作った色だが、説明が面倒くさいので、友達に作って貰ったと伝える。
いつの間にか、神保町的話術をマスターしてしまっている。
開口一番、こういう依頼は難しいですね・・・と言われてしまった。
見本と同じものというのは、やはりやりにくいのであろう。
そうは言いながらも、商売である。
小さいパレットにインキを少しずつ混合しながら、見本を作りはじめていただいた。
パレットにインキを混合しながら、一生懸命メモされているのは、各色の分量で、完成品はその比率でインキをシェイクするためだろう。
通常であれば、色々と楽しいお話を伺いながら、こちらのイメージを伝えていくのであろうが、こちらが比較対象を示してしまったので、いわば試験と同じ。
何度か、遠目に眺めていた時と、発するオーラが違っている。
本当に真剣で、全神経を集中しているのが、ビンビンと伝わってくる。
ここは、やはりプロ。
神経質な私の目からみても、7、8回目には、ほぼ同じ色に近づいてくる。
これ以上、細かいことを言うと、出入禁止になりそうなので、適当なところでOKを出した。
作ってもらう間、
・この色はどうやって作ったのか?
・どこのインキでつくったのか?
等々の質問があった。
すべて、想定問答のとおりである。
準備した回答のとおり、
・友達にもらったのでわからない。
・たぶん、モンブランのインキみたい。
などと、ノラリクラリと答えながらも、だんだん本物に近づいていくサンプルに小躍りしたくなってきた。
事前準備は大切だと思う。
完成品には名前をつけられますか?と尋ねられたので、これまた、準備してきた名前を書いた紙片を渡す。
本当はラブレターにしたいが、それではあまりにも品がない。
ここは、最初に紹介したとおりの仮名で登録。
この仮名も、他の方が付けるものとは全く違ったみたいで、本当に変わったお客と思われたようだ。
わたしの後ろで順番を待っていたお姉さんも、ブレンダーが用意している色見本を手に眺める振りをしながら、私と石丸氏のやりとりに、ジーッと聞き耳をたてているのがわかる。
わけのわからないことを言っているので、興味深々だったのだろう。
なので、仮名は公表しません。
本名は、セーラーのラブレター。
かなり満足のいく出来だったので、時期を見て、あと数本作って貰おうと思っている。
|