【特集】万年筆を買いに

■手帳とカバンのホームペーヂ
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筆記具関係のコラムのページ
私のお気に入りのペンや購入記の紹介
●万年筆を買いに(ペリカンM250購入記)

 
 
   1(丸善日本橋店の巻)
 
 
9月になって急に、PelikanM250が廃盤になるという噂が、あちらこちらで広まりはじめた。
このM250という万年筆、スーベレーンのM400サイズで、ペン先もバイカラーではないが14金。
なのに、価格は15,750円とスーベレーンのM400の半額という非常にお買い得な万年筆なのだ。
しかし、例によって現役で出ているときは全く興味もわかず、同じトラディショナルでもペン先が鉄ペンに金メッキのM200スケルトンの収集に熱中していた。
ちょうど一年前の今頃の話である。
 
昨年の秋は、M205のクリアスケルトンがいつ登場するのか?という情報と、あの店には、まだあの色が残っているが、あのペン先はないなどという色スケの情報収集に走り回っていたのが懐かしい。
 
いつもの事なのだが、あるうちはまた今度となり、廃番の噂が広まると急に物欲が高まり、必要以上の苦労をすることになる。
そんな私なので、当然、M250廃番の噂は、大いに私の物欲を刺激してくれた。
 
これから、数回にわたり、そんな私のM250購入記を紹介していきたい。
 
   ◇
 
10月初旬は例年、銀座伊東屋のカレンダフェアに行って、翌年のカレンダを調達してくる。。
9階までエレベータで一気にあがり、上から順番に降りながら各フロアを総ナメしていくのが私の伊東屋の攻め方。
9階でカレンダ、5階でリドのミニプランナとファイロファックスのコットン紙リフィルを入手し、大満足で〆の中2階筆記具売場へ。
 
モンブランがじゃまだなと思いながら、最初にカウンタの向かいの限定品をうっとりと眺めて、続いて店員さんのいるショーケースへと移る。
そこでペリカンの万年筆を眺めていたら、ふと、M250が廃番になるとの噂を思いだしたのだ。
 
最初に噂を発見したのは、某巨大掲示板。
ネタ元が書かれていたわけではないのだが、あのペン先であの価格というのは、どう見ても採算度外視の設定なので、いつ廃番になってもおかしくないのでは思っていた。
なので、噂を半分真実と受け止めていた。
 
ショーケースの中を見ると、M200はあるが、M250の姿は見当たらない。
まさかと思い、お姉さんに声をかけてみると
「在庫をきらしているみたいです」
とのこと。
「もしよろしければ、お取り寄せしますが」
と呑気なことを言うので、廃番になったんじゃないの?と尋ねると
「えッ?そうなんですか?」
と、これまた呑気な返事。
 
表面上は会話をしているように見えるが、頭の中では、さて次の訪問先は何処にしようか?と考えながら、調べてもらったお姉さんにお礼を言い、伊東屋を後にした。
 
伊東屋の後に、わたしが向かった先は、丸善の日本橋店。
ここは伊東屋から銀座線ですぐなのがうれしい。
日本橋店ができるまでは、次は有楽町経由で丸善本店に向かうか、銀座線で表参道に向かうしか選択がなかったからだ。
 
日本橋店はヘルプが多いのか、いつ行ってもカウンタの中の男の人が違う。
 
日本橋店でもM200しかショーケースの中に見当たらないので、嫌だったがカウンタの中のヘルプらしきオジサンに声をかけた。
ペリカンジャパンの社員は大体見て分かるが、そのオジサンはペリカンの人ではない。
 
ペリカンのM250ありますか?と尋ねると、案の定、そのオジサンはヘルプのようでプロパの社員の名前を呼ぶ。
テーブル席のある高級万年筆のショーケースの方から出てきた店員さんは、以前丸の内店にいた、万年筆に詳しい社員の方だった。
 
(万年筆売場にいる、万年筆に詳しくない店員というのも不思議な話だが、詳しい人が少ないのが事実)
 
   ◇
 
幸いにして、ヘルパの人から店員さんにチェンジしてもらえたので、会話を楽しみながらのお買い物ができるとワクワクしてきた。
 
「M250って廃番になるのですよね」
私は単刀直入に尋ねた。
「はい、先日、メーカーから文書が届いていました。おっしゃるとおりです」と明快な回答。
思いますなどと、ごまかしの語尾でないところが気持ちが良い。
 
続けて「メーカーにも在庫はございませんので、店頭品だけになります」と決めの台詞。
こちらの物欲を見透かしているのか、私の琴線に触れることを言ってくる。
 
やはり、同じものを買うのなら、こうしたデキル社員から買いたい。
購入を決定するまでのやり取り、購入した後の会話のすべてを含めて、こうしてきちんと勉強している人から物を買うというのは、気持ちがいい。
 
反対に、勉強していない奴に接客されると、それだけで気分が悪い。
 
早速、買いモードで、在庫を全部出してもらった。
ダメ元で「太字のBはないですよね?」と聞いてみる。
すると、「一本だけ残っています」との返事。
 
「あります」ではなく「残っています」
 
これまた、シビレル会話である。
もう、こちらの物欲を完全に掌握されている。
 
こんな状態で、丸善の地下一階での私の試筆は始まったのだった。
 
 
   2(丸善日本橋店の巻 2)
 
 
日本橋丸善の地下1階万年筆売場。
とりあえず、B、M、Fを試筆。
 
どこかで1、2度、M250は試筆したことがあると思うが、まったく買う気無しの状態だったのだろう(たぶん万年筆祭りの試筆コーナーか?)、その感触を全く手が覚えていなかった。
なので、ほとんど初めてに近い試筆。
 
最初はMから。
これが私にとっては、けっこう衝撃。
現行のスーヴェレンしか知らないので、その経験からするとペン先が異様に柔らかく感じる。
M400になれていると、フニャフニャしすぎると言ってもいい。
あきらかに、現行のスーベレーンとはコンセプトが違うペン先だ。
少し太めの文字が引け、クセのない素直な書きぶり。
 
続いてF。
これも、まあ、普通の書き味だが、私にとっては少し細いか。
 
そして、最後に本命のB。
 
・・・。
これが残念なことに最悪のペン先。
どうも、最後の一本というのは難アリという可能性が高いのが、私の経験則。
 
縦は線が引けるが、横が全くダメなのだ。
試筆していて、ペン先(スリットの先端部分)が紙にきちんと当たっていないのがわかる。
ペン先の状態によっては、ペンを立てる角度を変えると、きちんと接触するものもあるが、どうやってもこの一本はダメ。
 
何回か試筆してみたが、これは不良品と紙一重の状態であると判断。
もし、数本在庫がある状態だったら、絶対に買わない一本だが、今回は最後のBであるが故に悩む。
 
 
伊東屋で急に思い立って、M250を探し始めたので、この時は、もちろんルーペなど持ち歩いていない。
こうした緊急事態にそなえ、これからは、カバンにルーペは必需品かもしれない。
 
なので、店員さんにたのんで、ルーペで左右のイリジュームのバランスだけを見てもらう。
イリジュームのバランスが偏っておらず、切り割りがきちんと真ん中に通っていれば、いくらでも修復できるからだ。
 
私は、過去のコラム等で何度も繰り返してきたが、万年筆の調整は不要と考えている。
しかし、自分である程度の調整をすることはできる。
万年筆の調整自体に求められるスキルは、「万年筆の構造に対する正確な理解」と「手先の器用さ」だ。
 
構造を理解しないで触ったり、不器用な手先で触るから、大変なことになるのだ。
 
ペン先調整も、一つのプロジェクトである。
プロジェクトであれば、計画があり、リスク管理、問題が発生した場合の解決ルールを予め決めておく必要がある。
いわゆる「段取り八分」はペン先調整にも言えることなのだ。
 
店員さんにペン先をルーペで見てもらった結果、玉は左右均等に付いており、切り割りも、きちんと真ん中に通っているとのこと。
 
最終的には、自分で書斎のライトの下できちんとルーペで確認しないといけないが、角が立っているだけならば、原稿用紙1、000枚も書けばスルスル書けるようになる。
急ぐときは調整も手だが、店員さんと話しながらもインクを付け付け書いていると、紙の調整だけでなんとかなるかな?とも思えてくる。
 
腹は決まった。
このじゃじゃ馬のM250を引き取ることとした。
自宅できちんと検品をして、ペン先不良ならば修理かペン先交換、不具合の程度が軽いものならば自分で調整しようと判断したのだった。
 
丸善で購入した初のペリカン。
(これ以外では、以前に本店でサファリを一本だけ購入したことがある。)
ちなみに、軸の色はマーブルグリーン。
 
M200で、青マーブルと黒軸を持っていたので、別色を選択。
ここで少し悩んだのが、最初に試筆したM字も一緒に引き取ろうかということ。
しかし、別の企みを思いついたので、丸善での購入は、じゃじゃ馬のBだけにした。
 
   ◇
 
今回のM250の購入について、店員さんと色々と会話を楽しむことができた。
こうした買い物をするには、やはり休日より、平日の閑散時を狙った訪問が良い。
 
そうした会話の中で、なにげに私が「論文書いたりするのには、このM400サイズが使いやすいですよね」と言うと
 
「M250とM400、サイズは違いますよ・・・」とのこと。
 
私が「エッ?」という顔をすると、おもむろにスーベレーンのM400を取り出す店員さん。
そして、トレイの端に尻軸を付けてM250と400を並べて見せてくれた。
 
私もこの前まで同じサイズだと思っていたのですが・・・、と言いながら、こうやって並べてみるとよくわかるでしょうと、ペン先の部分を指さした。
 
確かにM250の方が数ミリ長いのだ。
正確に言うと、軸の長さは同じだが、M250のペン先の方が少しだけ長いのだ。
一本だけなら、ペン先の出具合の個体差とも取れるが、数本並べての比較で、いずれもM250の方が少しだけ長い。
 
ペン先までのリーチが少しでも違うと、万年筆は全く書き味の変わった物となる。
 
ちなみに、この時に出してきてくれたM400の紺色、これも同じく廃番になりますよとのこと。
 
定価で購入しても、こうした楽しい会話をしながら購入できると、とても満足感の高い買い物ができる。
 
   ◇
 
ちなみに、じゃじゃ馬M250の、その後。
自宅に持ち帰り、ルーペで確認すると、まず角がビンビンに立っている。
 
しかし、よく見ると、それ意外に致命的な症状があり、横線が引けないことが判明。
やっぱり、自分がルーペで確認することが大切だ。
これでは、いくら書き込んでも、症状は変わらない。
 
自分で直すこともできそうだったが、保証期間内のそれも初期不良の状態と判断し、修理に出すことにした。
 
約一週間で戻ってきたペン先は、修理パーツの在庫があったみたいで、ペン先交換をしてくれていた。
ルーペでのぞいてみると、まったく問題のない状態。
問題のないというより、フロードバドバの最高の書き味のペン先に変わって、私の元に戻ってきてくれた。
 
修理対応ということで、かなり程度がよいペン先と交換してくれたのだろう。
 
本来、こうした最初に付いていたペン先は検品ではじかれるべきと私は思う。
しかし、都下の某有名万年筆店の方のお話だと、メーカーできちんと検品できる人間がいないとのこと。
こうなると、販売店でのフィルタリング機能が重要になってくる。
丸善のような万年筆を売りにするショップこそ、こうしたチェックをして欲しいのだが・・・。
 
どうやっても、書き味がおかしい万年筆を入手してしまった場合。
あれこれ、力を入れて書いてみたりなどせず、すぐに販売店に相談してみるのが良い。
そのための保証なのだから、保証は活用すべきである。
 
中途半端に自分で調整の真似事をすると、初期不良のものが破損扱いになってしまう。
無料の調整ゴッコとちがい、きちんとお金を取ってやる調整体制が整っているところは、調整時の軸の取り扱いについても、きちんとした配慮をしてくれるはずだ。
 
最上のペン先に生まれ変わったM250。
ウエルカムの、純正ローヤルブルーのインキを使い切ったあとは、前から決めていたペリカンのブリリアントグリーンを吸入した。
 
 
   3(神田金ペン堂の巻)
 
 
以前からの私の万年筆構想の一つに、神田の金ペン堂でトラディショナルM250のBを入手するということがあった。
しかし、他に欲しいペンがまだあったため、ズルズルと後回しにしていると、あれれ、M250が廃番になってしまうというではないか・・・。
 
伊東屋本店には、すでに在庫は無く、丸善の日本橋店でなんとか最後のBを確保。
日本橋店を出たあと、すぐにその足で丸の内本店に向かい、もし、そちらでもBがあれば即確保しようと考えた。
しかし、残念ながら丸の内本店ではBはなく、オマケに黒軸はメーカー在庫もなくなったので、店頭在庫のみになりますよとのこと。
 
わたしが訪れた時点で、店員さんがいうように品薄状態で、本店にも黒軸は一本しか残っていなかった。
私の知らないところで、ものすごい勢いでM250が市場から姿を消していたのだ。
これは、マヂでヤバイ!!!
 
わたしはその足で、急いで神田に向かった。
 
元々、その日うろついていたのは、以前から探している本を入手するためだった。
その本が丸善でも見つからなかったため、金ペン堂より先に、とりあえず三省堂に向かうことにする。
古書街の南側の通りを歩いて三省堂に向かうと、道路の反対側金ペン堂が見えてくる。
小さい店だが、なぜか存在感がある。
 
立ち止まって、店内に目をこらしてみるが、店主の姿は見えない。
見えるのは、店頭に立つ店主婦人と、奥に息子さんの姿だけ。
 
先日、少しだけ立ち寄ったときと、まったく同じ風景だった。
(そう、あの時は、まさかこんなに急にM250が市場から消えてしまうとは夢にも思っていなかったので、M250の棚には目もくれなかったのだ)
 
そのまま、金ペン堂を眺めながら三省堂へ。
無事に、ここで目的の本を発見。
幸先良い、神保町でのスタートだ。
そのまま、金ペン堂に向かうと、店主婦人の姿はなく、息子さんだけ。
はじめよければ、すべてよしである。
 
きっと、三省堂で目的の本が見つからなかったら、店主婦人はまだ店にいたのだろう。
どうもわたしは苦手なのだ。
 
閉店が6時と早く、あまり時間がないので手短に要件を伝える。
「M250のBニブあります?」
 
だが、回答は、先日ラスト1本が出てしまったとのこと。
ムムム、たぶんそうだとは思ったが、残念。
しかし、B以外のEF、F、Mは残っているという。
 
丸善でMを購入しなかったのは、どうせならもう一本は、初の金ペン堂万年筆にしようと思ったからだ。
Bがなくても、Mがあれば購入するつもりだった。
 
息子さんに、わたしの要望を伝える。
「フローどっぷりの、太めのMで!」
 
調整が売りの店で買うときは、未調整とは別のものを選びたい。
これは知らなかったのだが、ケースにあるものを取り出した後、店頭で微調整をしてくれるのだ。
その手つきというか、調整内容を見ていて、なぜこちらのお店の調整の評価が高いのかがすぐにわかった。
調整と言いながら、イリジュームを削るなどという、バカなことをしないのだ。
 
微調整が終わり、インキが付けられ私の手元に渡された万年筆。
試筆をするように渡された万年筆は、太めのMというより細めのBだった。
軸は黒を選択したが、特に小キズもついていない。
 
金ペン堂の万年筆、入手して自宅でよく見てみると、切り割りを開いてフローを潤沢にする調整が基本みたい。
そして、イリジュームをみると、きちんと検品をして、程度の良い個体を入手しているのか、削った様子は見当たらない。
(実態は、企業秘密とのことで不明。あくまで私がルーペで確認した個人的感想
たぶん、イリジュームはほとんど触っていないはず。)
 
金ペン堂謹製の個体をもっている人は、他の万年筆と比較するとすぐにわかると思う。
ルーペを使わずとも、裸眼で見て、そのワレメ・・・じゃなかった、切り割りが非常に美しいのだ。
 
見た目が美しいというのは、何事においても、大切なのだろう。
 
   ◇
 
息子さんご本人の技術は未知数だが、あの店主より、わたしは息子さんが接客をしたほうが、商売としては良いと思う。
話していて、他人に不快感を与えないからだ。
他にお客がいないこともあり、店頭でかなりたくさん話すことができた。
 
以前、わたしが店主と初めて話したのは、入院される少しまえだった。
体調が最悪の状態だったのかもしれないが、正直、かなり悪い印象だった。
しゃべった内容もバカにされているような応対で、正直、二度と行くか!という気分だった。
 
一方、息子さんの接客は、まだ慣れていない中で、誠実さを感じ取れる。
一生懸命に勉強されていることも、会話の中からも伝わってくる。
やはり、お店で買うからには、それなりの会話を楽しみたい。
今回は、そういう意味でも、とても満足のいく対応をしていただいた。
 
ちなみに金ペン堂でも、このM250の廃番が決定してから、かなりの勢いで売れているらしい。
3本まとめ買いをしていったお客もいたとのこと。
やっぱり、金ペン堂でもコストパフォーマンスが良い一本と言っていた。
 
会話の中で、M215シリーズで新しい一本が出る話題になったのだが、どうも金ペン堂は、ステンレスのペン先のことがあまり好きではないみたい。
何を根拠にかは知らないが、鉄ペンでもM200のゴールドプレートの方が書き味が良いと言っていた。
特に、使い込んだらゴールドプレートとステンレスのペン先は違いが歴然とのこと。
金メッキというより、地金の影響による差なのだろうか?
 
   ◇
 
接客には色々と言われるこのお店だが、実物を入手して、やるべきことはやっていると感じた。
 
そして、本当にお客のことを考えた萬年筆を店頭に並べてると思った。
特に、それを如実に感じたのが、わたしが帰る直前、別のお客がお店に入ってた時のこと。
そのお客は、しばらく店内を眺めてたあとに、「セーラーは置いていないのですか?」と尋ねていた。
 
金ペン堂にはセーラー万年筆は置いていないとのこと。
これを聞いて、ますますこのお店が好きになった。
 
 
   4(アメ横 ダイアストアの巻)
 
 
これまで、ペリカン・トラディショナルM250について、マーブルグリーン軸のペン先Bと黒軸のペン先Mを入手したことを紹介してきた。
こうなると、青マーブルも欲しくなるのが人情というものであろう。
 
残る太字が置いていそうな所でまず思いつくのは、南青山の書斎館。
しかし、あそこは駅から遠いので、行って在庫がなかったらショックが大きい。
電話で確認してみると、残念ながらBは残っていないとのこと。
 
すると、あとはあそこしかない。
欲しいのはB。
できれば、BBも。
そして、買うときに試筆は絶対にしたい。
 
わたしは、意を決して、禁断の地、御徒町へと向かった。
 
   ◇
 
わたしの御徒町の攻め方。
まずは駅から一番近い、マルイ商店から。
しかし、いつものオヤジがいないのでパス。
 
続いて、ガード下を上野方面に歩くと、立花商店が見えてくる。
こちらは廃番需要を見越して、全部のペン先を1本ずつ仕入れていた。
それらは、全部黒軸で、これとは別に、Bではないがマーブルの緑と青が一本ずつだった。
この組み合わせにより、わたしが訪れた時点では、すべての種類のペン先と軸色の組み合わせが可能な状態だった。
(残念ながら、先週行ったときには、もうB以外で2本残っているだけだった)
 
アメ横の万年筆屋の中では、ここ立花商会が一番商売っ気がある。
ショーケースを眺めていると、すぐにお姉さんが声をかけてきて、こちらの要望に対するヒアリングが始まる。
ここで買おうか少し迷ったが、試筆をお願いしたら断りにくそうなので、保留。
他のお店に在庫がなければ、立花で買おうと仮決め。
 
続いて、ダイヤストア。
ここは、毎回訪れる度に、名物おばちゃんとケンカになる。
まあ、お互い?変わり者なのでしょうがないのだが、あのおばちゃんの良いところは、人の顔をあまり覚えるのが得意ではないこと。
 
なので、あれだけ嫌みの応酬をして、もう二度と来るなみなたいな雰囲気になりながらも、次回訪問時は、何事もなかったかのように暖かく迎えてくれる。
まあ、毎週のように行っているわけではないので、当たり前といえば当たり前なのだが・・・。
 
今回は素直に、M250のBとBBがありますか?と尋ねると、BBはもう一年くらい前に全部出てしまったとのこと。
しかし、運良くBは一本だけ残っていた。
ああ、これが運命かと思っていると、おばちゃん、丸椅子を用意して、座るように勧めてくる。
 
軸色はマーブル青を希望すると、ガラスケースの中の物を出してくると思ったら、ちゃんと奥から新しい物を出してくれた。
Bは、黒軸に付いていたのでペン先交換するとのこと。
 
気になるので、ジーっとおばちゃんの手元を凝視。
すると、何の躊躇も無く、がっしりと素手でペン先を握り、グルグルとユニットを外しはじめた。
 
トラディショナルなのでまだ良いが、スーヴェレンでこの扱いだと引きつるなと思っていたのが甘かった。
外した黒軸、あの狭いテーブルの上に積み上げられたバランス悪そうな本の上に、これまたバランス悪そうに乗せてある電卓の上に、迷うことなく直置き。
 
まるでチラシを扱うかのごとく自然にポンと置かれると、ある意味、気持ちがいい。
まあ、私が買うのはこの黒軸ではないというのが、冷静さを保てた理由だが。
 
それから、器用に青軸に付いているペン先も取り外し、私が購入するペン先と軸をセットしてくれる。
 
続いて、ペン先をインキボトルの底にカチカチぶつけながらインキを付けてたものを、ハイと渡してくれる。
 
初めてのアメ横での試筆。
まあ、丸善で入手したものより、程度が良ければいいかと、半分なめてかかっていたのだが、これがビックリ。
思い切り、当たりのペン先だったのだ。
柔らかいペン先で、イリジュームの段差もまったくない。
 
おばちゃんに、素直に感想を伝える。
しかし、おばちゃんは何を当たり前の事を?というような顔をしている。
よほど、私の頭の中のアメ横製品は、ハズレというかバッタ物が集まっていると焼き付いていたらしい。
いたって普通のものが、安い値段で売られていると考えてよさそうだ。
 
「これをおくれ!!」
 
わたしはおばちゃんに購入の意思表示をした。
 
これから洗うからと言うので、どうやって洗うのかな?と、またまた興味津々に眺めていると、なんとペン先を外して、デモンストレータに付け替えて洗浄を始める。
購入する軸は、口を拭き取るだけなのである意味合理的だと思った。
 
デモンストレータで洗うのは、インキの痕跡がわかりやすいからとのこと。
何度も吸入出を繰り返し、こうやってインキの痕跡がなくなるまで洗うことが大切なのです!とおばちゃんの講義がはじまった。
 
途中でインキの話になったのだが、おばちゃんの講義も、だんだん熱を帯びてくる。
わたしのペン先が付いた、デモンストレータを指示棒のようにして、机の透明デスクマットの下に貼ってある、ウオーターマンのインキをさす。
そして、この色は痕跡が残るので、色を変えない方がいいとか、一つ一つ私が購入するペン先で指しながら教えてくれる。
 
売り物なのに、それも、目の前の客が買うペン先を指示棒として振り回せるなんて、ある意味すごいことである。
 
一通りの講義が終了したら、きちんとパラフィンに包まれた新品の箱に万年筆を入れてくれる。
ちなみに、価格は3割引きだった。
 
包装が終わったあとも、他にお客がいなかったので色々とおばちゃんと喋った。
ローヤルブルーのことを、おばちゃんはウオッシャブル・ブルーといっていたのが格好良かった。
インキの事、万年筆の事、限定品の事、たくさん喋ってとても楽しかった。
楽しいと、あっという間に時間が過ぎる。
 
上野御徒町のダイヤストア。
ある意味、金ペン堂に通ずる、プライドを持った商売が感じられる。
 
最後におばちゃんからのアドバイス。
本当に欲しいのならば、廃番になる前に買うこと。
それが、一番選択肢が多く、良い物をを選ぶことができると何度も言われた。
 
ちなみに、仮置きの立花商会。
ダイヤストアの帰りにもう一度立ち寄る。
こちらでは、M250ではなく、カランダッシュのボールペンを購入した。
以前紹介したカランダッシュのスイスフラッグは、お近づきのしるしに、こちらで入手したのだった。
 
 
   5(日本橋三越本店の巻)
 
 
少し前のことだが、日本橋丸善に行ったら、ペリカンの山本師がいた。
もしかして、トラディショナルのM250を持ってきていないかな?と淡い期待を抱きながら尋ねてみると、日本橋店には在庫のペン先F限りとのことだった。
 
なんでも、その日の朝、山本さんが直接ペリカンジャパンに確認を取ったところ、もうメーカ在庫は無くなったとのこと。
雑談のなかで、「Bが欲しかったのですが・・・」と言うと
 
「三越本店に2本あります」と、ヒソヒソ声で教えてくれた。
 
日曜日に確認したので、まだあると思います。三越はM250を表に出していないので、、きっと残っていますよとのこと。
加えて、ペン先も、私が確認しているので問題ありませんとのこと。
 
何と!!
山本スペシャルのペン先Bが2本も、市場に残っているなんて・・・。
 
日本橋丸善に行った時は、いつも地階から直接銀座線に乗り込んで帰るのだが、その日は地上に出て三越までテコテコ歩いた。
 
実は、三越の5階万年筆売場を訪れるのは初めて。
私の三越本店の訪問経験は、万年筆祭の時だけだった。
規模は、大阪の阪急百貨店の万年筆売場と同じくらい。
 
ペリカンの万年筆の前に立っていたお姉さんに、山本さんに紹介してもらった旨を伝え、M250のBを2本とも出してもらう。
 
確かに、山本さんの情報どおり、Bが2本残っていた。
実は、丸善から三越まで歩く間に2本とも確保しようか、どちらか1本に絞るかをずっと考えながら歩いてきた。
結局、三越到着直前に、2本とも程度がよければ確保しようという判断に。
 
お姉さんにお願いして、2本とも試筆させてもらう。
2本とも予想以上のインキフローで、やわらかいペン先からは存在感のある筆跡が残る。
今回は、まったく問題のない最上の2本だったので、両方とも確保した。
 
軸色も3色すべてあったので、黒軸と、マーブルグリーン軸を選択。
 
応対してくれたお姉さんによると、三越本店のペリカン万年筆は、すべて山本さんのチェックが入っているそうだ。
 
本当は、金ペン堂チューンのBが欲しかったのだが、ひょんな所から、想定外の2本を確保することができた。
 
これでトラディショナルM250は、5本確保した。
(うち4本がペン先B)
 
この5本と言うのは意味がある。
5色あるスケルトンのM200も、ペン先交換で全て金ペンとして楽しむことができるからだ。
 
前のダイヤストア訪問記の時には紹介しなかったが、あそこのマダムは、そうしたペン先交換でも楽しんでくださいと言っていた。
そして、本当かどうかは確認していないが、マダムによると、店内に貼ってあった昔の単色ペン先のスーベレーンのポスターを指して、M250はあの万年筆と同じペン先だと言っていた。
確かに、趣味文などで調べてみても、見た目は同じ雰囲気。
 
いずれはマダムが言うように、M400サイズの万年筆に、色々とペン先を交換して楽しんでみたいとも思う。
 
ちなみに、現段階はペン先交換ではなく、角研ぎのペン先に色々なインキを入れて楽しんでいる。
 
これまでは、インキを楽しむという役割はトラディショナルM200のスケルトンモデル達が担ってきてくれた。
 
しかし、同じトラディショナルでも、M200とM250の太字はペン先の形状がまったく異なる。
M200は丸研ぎで、M250はスーベレーンと同じ角研ぎに仕上げてある。
そのため、少しスタブっぽいM250の角研ぎのペン先のほうが、よりインキの濃淡を楽しむことができるのだ。
 
すでに、先発調達したペン先Bの2つの軸には、ペリカンのブリリアントグリーンと、Dr.ヤンセンのダンテを吸わせている。
緑インキと、ルビーレッドインキだ。
 
今回、三越で調達した2本のうち、黒軸はペリカンのブリリアントブラウン、マーブルグリーン軸には、そのままロイヤルブルーで行く予定にしている。
 
一気にペン先Bの2本買い。
今回は、足で稼いだ情報である。
 
 
   6(神田金ペン堂再訪の巻)
 
 
ペリカンのローヤルブルーは、私の最もお気に入りのインキ。
これを太字の万年筆に吸入させて書くと、何ともいえない濃淡が紙の上に現れ、万年筆を使う喜びを体感できる。
 
一方、その同じローヤルブルーを細字の万年筆に吸入させて文字を書くと何とも情けない文字になってしまう。
まるで、インキ切れ直前の水性ボールペンのような筆跡が残るのだ。
 
ペリカンのローヤルブルーだけでない。
Dr.ヤンセンのダンテは、これまでペリカンのM200の極太字(BB)に吸入させて使っていた。
これは朱入れ用のペンだったのだが、極太字だとどうしてもノートに書くのに字が潰れたりする。
なので、プロジェクトマネージャの勉強の途中で、ペン先を細字にチェンジしてみた。
すると、濃いいと思っていた赤が、なんとも印象の薄い筆跡になってしまい、本来強調したいための朱の意味をなさない。
なので、すぐにペン先をBBに戻した。
 
こうしたことから、細字の万年筆には、細字でもはっきりと筆跡が残る濃いい色のインキが適していると考えている。
そして、細字でもはっきりと筆跡が残るインキで、この数年のお気に入りはDr.ヤンセンのジュールヴェルヌ。
深海の青は、細字で書いてこそ美しい。
 
現在、このヴェルヌを吸入しているのは、ペリカントラディショナルM200の旧タイプ。
マーブルの青軸にEFの鉄ペン先だ。
これを書斎での手帳記入用に活用しているのだが、数少ない細字ゆえ、使用頻度は高い。
 
このため、しだいに金ペン先の細字も欲しいと考えるようになった。
そして、足は自然と金ペン堂へと向かった。
 
もちろん目当てはペリカン・トラディショナルのM250だ。
以前、ペン先Mを、この金ペン堂で入手して、こちらの調整技術と私の筆記角度の相性がとても良いことを確認済み。
 
今回は先客がいたので、目的のトラディショナル・黒軸・ペン先Fがあることを確認して、外のショーケースを眺めて待つ。
こちらのお店は、本当の対面販売で、先客がいると、そちらの対応が終わるまで待っておかなくてはならないほど、小さいフロアなのだ。
 
先客の他に、どこかの営業みたいな人がいたのだが、わたしが先客の後にお店に入ると、ボールペン側の棚によけてくれて店主婦人と話している。
(先客はボールペンを選んでいたので、営業の人はペリカン側の棚の前にいたのだ)
 
私は息子さんに「ペン先Fが欲しい」と告げた。
 
インキは何を?
と尋ねられたのが、今回は勝手がわかっているので「ペリカンのローヤルブルーです」とスムーズに答える。
 
本当はジュールヴェルヌを入れる予定であるが、それは金ペン堂で言っても無理な話。
ヴェルヌを使うにしろ、ウエルカムの儀式は、純正のローヤルブルーで行うと決めているので、まあ、嘘ではないのだが・・・。
 
ペリカンのローヤルブルーはかなり薄いですよ、と息子さんは言う。
ここで、では何がオススメ?と尋ねると、ウオーターマンのブルーブラックの登場になるのであろう。
 
あそこまで薦めるので、一度使ってみたい気がするのだが、何分、あのブルーブラックの色がどうしても好きになれない。
どう見てもブルーブラックというより、軍艦色にしか見えないからだ。
 
用途は、ノート用と告げると、罫線の入った試筆紙を用意してくれる。
Fは大学ノートに記入するのに、ちょうど良い太さですよとのアドバイスをいただいたが、書いてみて本当にちょうど良い。
これに、濃いいインキを入れると、いい雰囲気だと思う。
 
即決のお買い上げである。
 
6本目のトラディショナルM250。
金ペン堂の万年筆は、切り割を広げフローを増大させる調整をしているので、同じ字幅の万年筆でも、純正のものに比べ、1段階太めの文字が書ける。
そして、フローがよいので、インキの色も濃いく出るので書いていて読みやすい。
 
わたしが今回購入したFも、書斎館で購入したM400スーヴェレンのペン先Mと同じくらいの字幅である。
 
現在は、ウエルカムのローヤルブルーを吸わせているが、早く使い切ってジュールヴェルヌを入れてみたい。
 
   ◇
 
これで、手持ちのトラディショナルはすべて紹介。
 
短期間で、6本を確保した。
ペン先Bが4本、ペン先M1本、ペン先F1本の構成である。
 
このM400サイズ、携帯用と言われるが、書斎で勉強用に使うには最適のサイズだと私は思う。
くわえて、M250は実用にガシガシ使える万年筆である。
これら、6本の万年筆をフル稼働させて、これからも大量の文章を書いていきたい。
 
 
万年筆を買いに(ペリカン・トラディショナルM250購入記:おわり)
 
これは、2007年に手帳とカバンのホームペーヂの特集ページ、「万年筆を買いに」にUPした「ペリカン・トラディショナルM250購入記」を、加筆修正したものです。
 
1 2007/11/04更新
2 2007/11/25更新
3 2007/12/02更新
4 2007/12/09更新
5 2007/12/16更新
6 2008/02/24更新
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