【特集】万年筆を買いに

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私のお気に入りのペンや購入記の紹介
●万年筆を買いに(パイロット・ボーテックス購入記)

三越の万年筆祭で、パイロットの廉価版万年筆、Vortexを入手した。
 
万年筆祭では、元々、カスタム74のスケルトンを入手する予定だった。
このカスタムのスケルトンは、非常に透明度が高く、スケルトン好きの私としては、ぜひとも入手したい一本であった。
 
伊東屋での予習も完了し、買う気満々で三越を訪れた私に応対してくれたのは、昨年もお話した、パイロットの可愛いお姉さん。
これは、幸先が良いと、さっそくお姉さんにカスタム74スケルトンを出してもらう。
 
可愛いお姉さんに万年筆を手渡してもらうと、同じ万年筆でも輝きが違うから不思議だ。
 
万年筆を購入する場合、通常であれば、数本を試筆して最上の一本を選ぶのであるが、さすがにスケルトンの万年筆でそれをやるのは気が引ける。
ということで、見せてもらった万年筆を検品して、目視OKならば最終段階でその一本を試筆して、最終検品としようと考えていた。
 
お姉さんの美しさと、万年筆の美しさの両方を堪能しながら、軸をクルクルと外してみると・・・。
 
私が所有する両用式の万年筆は、Lamyのサファリとパイロットのキャップレスのみ。
サファリは、まあ、あの価格なのであまり細かいところは気にならない。
キャップレスについては、あのメカニカルさが、吸入式に通ずる魅力となっている。
 
で、一万円のカスタム74スケルトンの軸を外して、ペン先ユニット部分を眺めてみると、なんだかものすごく貧相に見える。
コンバアタアを刺せばまだ見られるのかもしれないが、親指大のペン先ユニットだけを見ていると、なんだか日曜の夜のサザエさんが始まったときのような寂しさがこみ上げてくる。
この寂しさは、いくら可愛いお姉さんでも癒すことはできない。
一応、金ペン先だからと自分に言い聞かせても、一度萎えたものを元に戻すのは難しい。
 
吸入式の万年筆に慣れてしまうと、ここまで吸入機構がない万年筆が情けないものに見えるとは、自分でも驚きだった。
ということで、お姉さんには、丁重にお断りを入れる。
 
今回の万年筆祭はこの一本狙いだったので、さてどうしようと途方にくれていると、ふと、オレンジの軸が目に入ってきた。
ショーケースの上に置いてある、なんともチープな雰囲気を醸し出してる万年筆。
 
そう、これがボーテックスだった。
試筆用がグラスに何本か刺さって置いてあったので、早速試してみる。
 
お姉さんに聞いてみると、FとMの2種類のペン先で、ボディの色が複数あって選べるみたい。
まず、Mを手にしてみるが、これが国産のMなので、ペリカンのF程度しかない太さ。
もう少し太かったら面白いのにと思っていると、目に入ってきたのがパイロットのペンクリ。
 
そう、万年筆祭では、神様系のペンクリがにぎわっているが、他社もペンクリをひっそりと開催しているのだ。
 
ペンクリで太くしてもらうことはできないのだろうか?
 
急な思い付きをお姉さんに尋ねてみると、OKですよと優しい返事。
その場で、オレンヂのボーテックスを購入し、フロー増大+ペン先を太くと希望を伝える。
ちょうど、有名な広沢先生がいらっしゃったので、先生指名でお願いした。
幸いにして、お客は一人しかおらず、それもほとんど終わりかけていたので、5分も待たずに私の番が回ってきた。
 
   ◇
 
先生の前に座る私。
一年前の万年筆祭の悪夢が、一瞬頭を横切るが、あれは夢だったと自分に言い聞かせ、軽く深呼吸。
まあ、ぶっ壊されても1,575円だしと思うと、幾分気が楽になる。
 
先生には、再度、フロー増大+ペン先を太くとの希望を伝える。
 
「わかりました」と先生におっしゃっていただくも、いきなりゴリゴリ削りかぁ?と注意して手元を眺めていると、私の前に一本の黒い万年筆を差し出される。
見ると、使い込んだパイロットのカスタムだ。
 
これで、手元の試筆紙の左上に自分の名前を書きなさいといわれる。
少し緊張しながら、ゆっくりと自分の名前を書くと、今度は、左下。
続いて、右上、右下。
そして、最後に、真ん中に書きなさいとのこと。
 
以前、大井町の名店で、同じ人でもノートの上の行と終わりの方では、万年筆を立てる角度が変わってくるのですよと言われたのを思い出す。
 
「これで、あなたの書き癖をチェックしました」と、先生がおっしゃる。
ここで少し、万年筆の角度の話をしていただく。
いきなりゴリゴリ削りはじめる某社とは方針が違うのだなと思うと、面白い。
 
続いて、先ほど私が名前を書くように言われた万年筆のスリットに、隙間ゲージを差し込んで切り割りを広げる。
これも、某社とは異なり、ペン先の裏側からゆっくりとゲージを差し込む。
過去に、パイロットのペンクリで滝沢先生にも見ていただいたことがあるのだが、滝沢先生も同じようにペン先の裏側からゲージを差し込んでおられた。
 
鋭利な金属をペン先に接触させるのだから、傷がつくリスクは表も裏も同じだが、パイロットは見た目に配慮しているのであろう。
 
広沢先生が、隙間ゲージで切り割を広げた先ほどのカスタムを、私に再度渡して「フローを増大させるとこのようになります」と説明してくれる。
「このような調整でよろしいですか?」と尋ねられるので、「お願いします」と私は答える。
 
続いての確認。
この万年筆は、私以外の人が使うか?とのことだったので、私だけですと答える。
 
では、私の持ちクセに合わせて太く調整するがよろしいか?と尋ねられたので、それでお願いしますと伝える。
たかが1,500円の万年筆に、ここまでしてもらえるのかと思うと、少し感動してしまう。
 
それからは、少し研いでは確認。
感触を伝えて、また研いで確認の繰り返し。
最初に席に座って50分後に、なんだか別物のすごい万年筆が私の目の前に現れた。
広沢先生恐るべし。
 
その後、万年筆を洗浄していただきながら、万年筆の調整についてのお話をしばし伺う。
これは、ペンクリ時の先生との雑談の話なので、この場での公開は控えさせていただくが、対面できちんと時間をかけての調整というものが、どれほど素晴らしいものかということを、十分に思い知らされた。
 
1,575円しか払っていないのに、このようにすごいものを手にして良いのかと思いながらも、喜びでニヤツキが止まらない私であった。
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