とある街で、友人と待ち合わせをしていた。
わたしが待ち合わせの時に選ぶ場所は、99%本屋。
あとの1%も、場所は固定。
広島ならばパルコ、大阪ならば心斎橋ハンズと基本パタンは決まっている。
こうしたお店ならば、若干の時間の前後はあまり気にならないからだ。
むしろ、相手が遅れてきてくれる方が嬉しい場合が多い。
その日、落ち合う約束をしたのは、何度か訪れたことのある書店だったが、待ち合わせ場所としての利用は初めて。
大きな本屋だったので、さっそく文房具本が置いてある趣味コーナーに向かう。
趣味文のバックナンバや、その他万年筆本などもそろっており、担当者のセンスはなかなか良い。
15分程度の待ち時間だったので、さてさて、何を読もうかと書架を眺める。
趣味文のバックナンバにしようか、購入を見送った万年筆が欲しくなる本2にしようか。
ちなみに、こうした待ち合わせの時間を利用しての立ち読みで、買わなかった「万年筆クロニクル」などは、結局、読破してしまった。
そんな感じで本の背表紙を眺めながら物色していると、赤い背表紙で「日本産」万年筆型録と白抜き文字で印刷された本が目に留まる。
手にとって表紙を眺めると、そういえばこんな本もあったなと見覚えがある。
たぶん、万年筆に興味を持ち始めた頃に出版された本のような気がする。
その当時のわたしにとって、万年筆とあっても国産と付けば、全く別物。
絶対に手にすることのない、盆栽の本と同じような感覚で、国産万年筆本を触ろうという気すら起こらなかった。
◇
それから数年が過ぎ、今では国産万年筆についても、色々と試して見たいものが出てきた。
全く食指が動かないメーカーもあるが、パイロットやプラチナについては輸入筆記具と同等に気になる存在になっている。
なので、この国産万年筆本を、なんだか新しい本を発見したような感覚でページをめくる。
これが、なかなか面白い内容に仕上がっている。
気になる万年筆が何本も掲載されているし、3月に訪れたフルハルターの特集記事もある。
特に、フルハルターの記事については、国産ではなくいつもどおりペリカンの万年筆を使っての解説記事。
一度訪れたことのあるお店だと、知らないお店の記事に比べてやはり親近感が沸いてくる。
パラパラと通して眺めたが、これは買いの本だぞ!と思えてくる。
だが、私が手にした一冊しか残っていない。
そして、一冊しか残っていない本のお決まりのパタンで、かなりヨレヨレ。
しかも、カバー付きの本のため、カバーの背表紙の上の方などは少し破けたりもしている。
ムムム!!!
かなり欲しいが、コレをかうのはチョッと辛い。
奥書きを見てみると、発行年は2004年となっている。
4年前の本である。
きっと、4年間この棚に置かれて、それもかなりギュウギュウ詰めの収納状態から判断すると、まあ、それなりの経年劣化ということか。
東急ハンズなどで、外国の人が積んであるロディアの一番上のものを気にするようすもなく、さっとレジに持っていくのを何回か見かけたことが脳裏を過る。
「ヨレていても、気にしない人は、気にしないのだよ!」
と天の声が響くが、神経質な私には、蚊の鳴くような小さな声でしか届かない。
買おうかどうしようか?
25秒くらい真剣に迷ったが、超が付く神経質な私には、ヨレヨレの本を買うのはやはり無理。
ESブックスやアマゾンで探してみて、なければまたこの本屋に来て買えばいいという結論に至り、その日は書店を後にする。
◇
自宅に戻り、早速、書籍販売サイトで検索。
しかし、絶版になってしまったらしく、インターネットショッピングでの入手は難しそう。
(今日アマゾンを見てみたら、なぜか、1点だけ在庫ありとなっていた。きれいな在庫なのだろうか?)
こうなれば、丸善や紀ノ国屋などを回って、もう少し綺麗なやつがあれば、そこで入手しようと考える。
どこにもなければ、待ち合わせに使った書店で買えばいいと思い、書店に行くたびに注意して、この「日本産〜」のタイトルを探すようになる。
何箇所かで在庫を見つけたが、どこも1冊だけの在庫。
そして、4年間の経年劣化はどこも似たような状態。
日本橋丸善の万年筆売場にある万年筆書籍コーナには、かなり期待して訪れたのだが、こちらには在庫すらなかった。
半分あきらめかけていたのだが、とある金言を思い出した。
「困った時の南青山書斎館!」である。
そういえば、あそこにも万年筆関連書籍がおいてあったはずだ。
最近、南青山に行っていないし、久しぶりに足を伸ばしてみることにした。
思惑は正解!
在庫アリである。
いつもは喫茶店でゆっくりするのだが、今回は本の棚の前に駆け寄り、早速の品定め。
あの薄暗い店内で保管されていたので、程度はとてもよく、日焼けの跡も全くない。
とても綺麗な状態で、4年間ずっと眠っていてくれていたのだ。
廃番になった万年筆やインキにめぐり合えたのと、同じような喜びが湧き上がってくる。
即確保である。
最初に手にした書店では、本当にパラッとしか眺めていなかったので、自宅に戻ってゆっくりと熟読。
今までに手に入れた万年筆本とは、また違った思い入れもあり十分に楽しめた。
◇
それにしても、今回は、この一冊のために、かなりの工数を投入した。
まあ、年がら年中、この本を探し回っていたわけではないが、ずっと頭の片隅にあったので、綺麗な一冊を入手できた今では、つき物が取れたような感じ。
待ち合わせの書店で、この本のことを知ったのが4月の中旬だったので、足かけ3ヶ月である。
なので、GWの博多旅行の時も、書店めぐりをしてこの本を捜し求めていたのだ。
(ちなみに、GW時点で、天神のジュンク堂に1冊在庫あり)
ダイヤストアのオバちゃんではないが、「なくなると欲しいと言う人が増える」という心理状態である。
こういう状態になって欲しくなると、なぜか、通常以上の物欲になってしまい収集がつかなくなる。
こまったものとは思うが、抑えられないのが物欲であり、また、お買い物の楽しみでもある。
手間隙かけて探し物が見つかった喜びは、何度経験しても、やはり格別である。
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