今年は、限定万年筆の当たり年。
ラミーのオレンヂ・サファリが早々に発売されたのを皮切りに、その後は、ペリカンのM205青スケが発売になるとの噂が広まってきた。
オレンヂサファリは、銀座伊東屋本店で、ペン先違いを2本入手。
さてさて、青スケは、何本買おうかな?
と、楽しい妄想を繰り広げていたところに、青スケをしのぐビッグ・ニュースが飛び込んできた。
何と、ペリカンからM400スーヴェレンの「茶縞軸」が発売になるというではないか!!!
最初、某所でその一報を耳にしたときは、限定発売と言いながら、M205スケのように、擬似限定で、何度か追加生産があるのかな?
と、のんきに考えていた。
しかし、後追いで得た情報によると、どうも擬似ではなく本物の限定の様子。
その話を伺った時は、まだ、ショップに写真が出回っていなかったため、一体どんなものになるのか、具体的なイメーヂは全くわからなかった。
一番気になったところは、ペン先に何が付くのか?ということ。
M250のペン先は、一部の字幅では修理交換部品の在庫も無くなったと聞いている。
そうなのに、ペン先は金色一色らしい。
オマケに、選べる字幅の種類は幅広いとのこと。
どこから、金一色のペン先を持ってくるのか?
このあたりの詳細は、まだ正確にお店に伝わっていなかった。
結局、ペン先の件は、購入して実物をみたら、納得!という簡単なことだった。
ああ、こういう方法もあったのね!
というやつである。
結果はさておき、この推測の段階で、きっとこうじゃないの?ああじゃないの?などと話をするのが、これまた、お買い物のの楽しみの一つなのである。
しかし、詳細はわからずとも、ペリカンファンとしては、茶縞は、いつかは所有してみたいと思っていた一本。
その話をしていた時点で、現物どころか写真を見るまもなく、完全に買いモードに突入していた。
今回のように新品を買える時が、いつか来ると信じて、行動をおこさずに我慢していたのである。
我慢の反動は、やはり想像以上に大きい。
◇
そこまで言わせてしまう、茶縞の魅力とはなんだろう。
冷静に考えてみると、答えは単純なことだった。
@茶縞が通常品で、今でも簡単に入手できると仮定して、購入順位を考えてみる。
Aまず断言できるのは、黒軸よりかは先に買う。
Bしかし、緑、ボルドー、青縞よりかは後回しで購入するであろう。
Cこの優先順位の理由は、茶縞があまりにも地味すぎるから。
Dでは、地味軸になぜ、それほどの物欲を駆り立てられるのか?
【答】それは、廃番でもう入手できないから!!
しかし、この「手に入らないという事実」を甘く見てはいけない。
人間の物欲を、異様なまでに煽ってくる、とても恐ろしい現象なのだ。
店頭で廃番品に、突然接した場合、冷静な判断を奪い取られることが多い。
これまでも、気が付いたら、なぜか買っていたということを数えれば、きりがない。
御徒町の某女性店主からは、
「何でなくなったら、みんな欲しがるのか?
通常に売っているときだと、色々と選べて買えるのに」
と、何度も、言われている。
その時は、一瞬、ムカッとしながらも
「ああ、仰るとおりです」
と、素直に反省するのだが、やはり通常品でいつでも手にはいるとなると、触手がなかなか伸びないのが現実だ。
正論を言えば、女性店主が言うとおり、市場に沢山あるうちに、最高の一本をセレクトするのが、賢い買い物のしかたなのだろう。
しかし、わたしが万年筆に興味を持ち始めた時には、すでに茶縞軸は廃番になっていた。
そして、通常ルートで新品は入手できない。
これが、わたしの前に立ちはだかる現実であった。
◇
今回の限定発売が実現するまで、茶縞軸を入手しようと思えば、店頭在庫か中古品を入手するしかな方法がなかった。
過去、場末の文房具店徘徊をする中で、M400や#500の茶縞デッドストックを何箇所かで発見はしていた。
入手できる環境はあったのだ。
ただ、ペン先が好みの太さでなかったり、品質も店頭経年劣化で、新品と比べるとどうしても見劣りする。
そういう長期在庫の品は、お店も困っている場合が多く、値切り交渉に応じてくれるケースが多いのだが、茶縞在庫を抱えていた場末の文具店は、こちらがお得感を感じる値引き額を提示するだけの力を持っていなかった。
(だから売れ残っていたのだろうが・・・)
超・新品主義者の私としては、値ごろ感がない長期在庫品は、あまり、手を出す気がおきない。
しばらく、そうしたお店に在庫が残っていたので、たまにウインドウショッピングを楽しんでいたのだが、少し前にあった万年筆ブームで、絨毯草刈り攻撃にあってしまった。
買った人は、きっと定価であの状態のものを購入したのであろう。
まあ、そこは人それぞれの満足感が得られれば良かったと思うし、わたしとの値引き交渉に応じなかった、場末の文具店主の判断も正しかったのであろう。
残念ながら、絨毯草刈り攻撃以降、私が知る限り、国内で茶縞のデッドストックを店頭で目にすることはなくなってしまった。
一方、万年筆古物商が扱うものは、現行と比べたら少々高めの値段で売られているが、メンテナンス料込みと考えれば、非常識な価格ではないと思う。
極端な品薄状態ではないと思うし、お店に行けば、いつかは入手することも可能だろう。
ただ、スーパー神経質なわたしは、中古品はちょっと苦手。
せいぜい、ガラス越しに眺めたりする程度だ。
(これは、神経質なわたしでも楽しい)
なので、今回のように、新品・未使用・発売直後の茶縞で、好みのペン先を選んで買えるということは、私にとって、長年の欲望を解決できる大事件だったのである。
◇
購入については、さてさて、どこで買おうかと悩んだ。
これを考えるのが、また、お買い物の楽しみでもある。
いろいろと考えた結果、今回も、最高の検品力を堪能したいということで、神田の金ペン堂で入手することにした。
一時期、自分の足で時間をかけて最高の万年筆を入手することに喜びを覚えていたこともあったが、時間コストを考えると、最近は、信頼のおける検品力を持つお店での購入が多いような気がする。
金ペン堂で買った万年筆は、今回で4本目だが、どれも最初から、まったくストレスを感じることのない書き味を提供していただき、本当に高い満足感を得ている。
こちらお店の検品・調整方法と、私の万年筆を持つ手の相性が本当にいいのであろう。
本当に、素晴らしいことだと思う。
その金ペン堂から、
「お渡しできる準備ができました」
との、待ちに待った連絡がやって来た。
入荷ではなく
「渡せる準備ができた」
という言い回しが、何度聞いてもいい。
そして、連絡を受けてから金ペン堂に向かう、半蔵門線の中のワクワク感は、何度経験してもやめられない、至福の時なのである。
お店で、インキを付けた試筆等、いつもの儀式を済ませたあとに、おなじみのペリカンロゴ入りのビニール袋に万年筆を入れた、丁寧な梱包をしていただく。
その間に、いろんな万年筆のお話を伺えるのも、これまたとても楽しい。
で、持ち帰って、じっくりと眺めた感想。
●ペン先は、現行のM400と同じペン先のよう。
ただ、刻印は一緒なのだが、色が金一色。
なので、M250や#500などのペン先とは、刻印が違う。
初めて見るパタンなので、なんだか変な感じがする。
個人的には、バイカラーの方が好みなのだが、茶縞軸とのバランスだと、金一色の方がいいのかな?
書き味は、もちろん金ペン堂検品済みの一本。
ペン先は、見た目・書き味、ともに最高に美しい状態。
インクフローたっぷりの、ヌッタリとした気持ちの良い筆記感を堪能することができる。
きちんと検品された万年筆は、知的生産に欠かせないツールということを、あらためて実感させられるひと時である。
良い万年筆を所有するということは、本当に素晴らしいことだと思う。
ところで、ふと気が付いたのだが、今回のペン先は、今まで所有してきたペリカンと比較して、イリジュームの形状に大きな変化が。
このペン先インプレッションについては、ボリュームが大きくなるので、いずれ別記事にて。
●首軸のところには、つなぎ目がある。
この首軸の継目処理については、現行のM400は継目が目立たないというか、あるのがわからない。
一方、トラディショナルのM200、M250には継目があるのが触って分かる。
私の中では、首軸の継目の有無が、トラディショナルとスーヴェレンのコストの差と思っていたのだが・・・。
この軸、見た目、首軸・尻軸のリングが無いところも、手持ちの古いM200と妙に似ている。
なんか、ちょっとあやしい部分である。
●軸の色合いは、あまり濃いくない茶色にパールがタップリ入っていて、いい雰囲気。
一本、一本の表情が違うのも、この茶縞の面白いところか。
見た目、濃いいものもあったけど、わたしのものは、パールのせいか、薄目の色に見える。
●キャップは、現行のものと同じみたい。
部屋で見ると、真っ黒の同じキャップに見える。
しかし、日光の差す窓際で見ると、なんだか濃いい焦げ茶色にもみえる。
これは気のせいなのだろうか?
とまあ、初対面の感想はこんな感じ。
ただ、本当の本当に、最初に抱いた感想は、
「地味なんて思っていて、ごめんね」と同時に、
「こりゃぁええわ」
である。
確かに、地味は、地味なのだが、これがなかなか落ち着いて、いい雰囲気なのである。
そして、いままで店頭在庫で見てきたもののように、蛍光灯の灯りにも晒されていないのか、艶やかでいい光り方をしているのだ。
購入以来、本当の新品の茶縞で最高のペン先のものを入手できた満足感を、手に取るたびに味わっている。
好みの太さのペン先も選べたし、妥協して、店頭在庫に手を出さなくて、本当に良かったと思う。
ただ、今回の限定茶縞は、どう見てもパーツの寄せ集め風。
キャップ以外、一体、どこから持ってきたの?
というやつである。
個人でこんなことをやってオークションなどにでも出したら、大変なことになるだろう。
これを、製造元がやる分にはOKで、きちんと保証書も出るというのは変な気もするが、これは製造元の特権。
たとえ寄せ集め風でも、自分が所有するものは、今回のように劣化のない、きれいな新品の方が絶対にいい。
一方、たとえ保証付きの新品でも、寄せ集め風は嫌だという人もいるであろうし、まあ、そこは人それぞれの考え方があると思う。
今回の茶縞については、中古流通品も含めた、いろいろな選択肢の中の一つとして、限定モノの発売を楽しめばいいのではと思う。
ところで、今回の新品茶縞に対するウエルカムの儀式は、金ペン堂に向かう地下鉄の中で、ちょっと悩んだ。
軸色に合わせたブラウンインキを使ってみたかったのだが、考えた末、ここはやはり定番のペリカンのローヤルブルーで迎えた。
スーヴェレンは、インキを変えない主義なので、先のことを考えて、ここは定番としたのだ。
入手して一週間。
この茶縞軸の万年筆で、次に発売される青スケの調達プランを真剣に練っている。
あそこと、あそこの2箇所で買うことは決めているので、あとはペン先の太さをどうするか・・・。
お買い物手帳のモールスキンは、金一色の美しいペン先から流れ出たローヤルブルーの文字で、埋め尽くされている。
ただ、インキフローが抜群なので、思い切り裏抜け状態なのだが・・・。
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