ダイレクト・通販自動車保険。保険会社と契約者とが代理店を介在せず直接契約する自動車保険各社のコマーシャル。人ごとながら、もと取れるんかいナ……?と思わず心配したくなるほどやたら多いから、いやでも目につきますネ。
ところで、このコマーシャルの中、まるでスーパーマンのような格好いい響きを感じさせる宣伝文句があります。
『事故処理。1事故1名の専任担当者制』
高度の専門知識をもつ事故処理担当者が専属ですべてを解決してくれるのだ、というイメージをつい持ってしまうから、言葉のもつ力というものは不思議なものですね。
でも、同業者の私としては、『でも、本当のところは、単にスタッフが少ないだけじゃないの?』と、思わず意地悪を言いたくなるのも事実です。
大手国内損害保険会社は、例外なく事故処理2名担当制を取り入れています。《物損担当…主に女性社員》・《人身担当…男性社員》。別に人員が余っているからそうしているわけじゃないんです。
ある現役保険会社社員は、自己のホームページの中で次のように述べています。
「車両対物、対人保険っていうのは、保険会社の規定どおりに支払っていれば済む問題じゃなくて、『損害賠償』という法律的判断をバックに控えている保険なんだよな。つまり、担当者としてはそういう法律的判断に直面することになり、そのために必要な知識とかをかなり専門的に身につける必要があるということは業界の常識だよね。だからこそ、国内各社では対人専任、車両対物専任という風に担当者をできるだけ専門に分けて対応しているんだけど…。」
おそらくこれが正しい答えでしょう。
しかし、ホームページ筆者が言う、保険各社担当者の「専門知識」…?
保険支払の実務レベルの知識ということなら異論のないところですが、「損害賠償」の基礎となる法律的知識という面となると…?マークで、ほとんどの社員が法律に関して素人集団であること、すでに別のところで指摘をしたとおりです。
これ通販社員も例外ではありません(事故交渉で私の接触したかぎりでは・・・)。
ところで、通販自動車保険に加入している人に聞きました。「加入した最大の理由は何ですか?」。
即座にこういう答えが返ってきました。『そりゃあ、保険料が安いからだよ!』。
この言葉を聞くと多くの代理店は、ただただじっと黙って頭を下げるだけです。
心の中で『代理店のいない通販保険では、事故のときに困るんじゃないの…?』と、ひそかに自己弁護しながら…。
でもこれ、通販自動車保険の調査研究を怠っている代理店の話です。
日頃から、生保・損保に関わらず、保険を売っている代理店は、『他社商品との比較販売をしてはならない!』と激しく指導されているためか、他社商品の内容について、余りにも無知無関心不勉強な人が意外と多いんですネ。これが…。
結論からいうと、私は、通販自動車保険は、?マークと思っています。
多くの通販保険会社の自動車保険は、その内容において、重大な不備があると思っているからです(代理店のいない事故処理は別問題として…)。
まずその一つは、多くの通販会社は、『等級プロテクト特約』を付けることができないということです。
通常、保険事故1回につき、割引等級は3等級下がりますが、この特約を付けることによって、等級は下がらず据え置きとなり、継続時同じ等級で更新ができるというメリットがあります。
しかし、この特約が付いていないと、ひたすら下がるに任せるだけ。
不幸にして年間2回の保険事故があれば、等級は一気に6等級下がるということになります。私だったらやっぱりイヤだなあ…。被害事故でも保険使う可能性があることを考えると…。
もう一つは、『【搭乗者傷害保険】の部位・症状別払のみの販売で、日数払を選択する余地がない通販会社が多い』ということです。
契約者にとってはこれも大きな不備、と私は思います。控えめに言ったのは、保険会社の中には人身傷害補償保険特約をつければ、搭乗者傷害保険特約(以下「搭傷保険」と呼称)は必要ない!と断言する人も少なからずいるからです。『必要ないのは会社にとってだろうが!』と思わず言いたくなりますが…。
ところで、この【搭傷保険】。今や保険各社にとって最大のお荷物的保険といっていいでしょう。通常、保険会社は、契約者の起こした事故の過失分を、相手と交渉して支払うのが主な仕事で、そのための保険金支払です。
ところが、この【搭傷保険】だけは違うのです。契約者になんの過失がなくても支払わなければならない保険だからです。
契約者が信号待ちで停車中、後続車に追突されたという契約者無過失事故であっても、契約者の入院・通院という事実がある以上…少しでも【搭傷保険】の支払保険金を抑えたい、という発想から生まれてきたのが、【搭傷保険】の【部位・症状別払】(以下「部位別払」と呼称)なのです。
この部位別払、2001(平成13年)・4・20「週刊朝日」に、T保険会社代理店の告発記事が大きく取り上げられました。【搭傷保険】の部位別払を売れという会社の方針に従わなかった代理店が、一方的に代理店委託契約の解除を通告されたという事案でした。
そこまでやるか○○海上!という感じでしたが、現在でも、大手の保険会社の中には、【搭傷保険】は売らないか、《部位別払いの500万円》のみという内容の継続プランを平気で提案しているところも珍しくはないのです。
【搭傷保険】は売りたくない!!…この悲痛な(?)叫びは各社共通のものですが、一社だけこの特約を廃止することは不可能(誰も言い出しっぺにはなりたくないから)。
といって、全社が一斉に廃止することは、明らかに談合ということになり、これもできない。引くに引けない。行くに行けない。これが現実です。
保険会社にとって不利なことは、契約者側にとっては有利。支払う側と受け取る側という宿命的な(?)関係にある以上、これはいたしかたのない事実。
私は、搭傷の日数払は、存続する限り、契約者にとって『既得権』と位置付けています(私の推測では、近い将来なくなる可能性が大と思っています)。
その理由は、【部位別払】と【日数払】とを比較したとき、前者の保険料が後者の保険料と比べて大幅に安くなっていないわりには、受け取る保険金額において、大きな差が生ずる可能性が高いからです。
一つの例を挙げてみましょう。一方的な追突事故によってムチ打ちになり、通院事故となったとしましょう。
この場合、ある大手国内保険会社の場合、【部位別払】では、あらかじめ怪我をした部位・症状によって支払い保険金を決めているため、ムチ打ちの場合、支払われるのは、治療給付金1万円プラス5万円のみです(ただし、治療日数5日以上)。
これに対して、【日数払】の場合は、総通院日数の内、保険会社が、平常の生活または仕事が出来る程度に治った日までの治療日数分(いわゆる認定日数 ―ただし事故日より180日が限度―)(通常1日1万円)を支払うことになっています。
仮に、トータルで50日通院したとしましょう。
【部位別払】⇒6万円のみ!!(いくら通院しても、これ以上でません)
【日 数 払】⇒(50日の内の認定日数) × 1万円
受け取る保険金の差は、かなり違ってくるということが容易に想像されます。
こう考えてくると、【部位別払】しかない通販会社の自動車保険は、私はやっぱりイヤだなぁ…身内はあきらめても、他人を乗せていたとき、その人に迷惑をかけることになるから…。
えっ!?ではどんな人が通販におすすめですかって…?
そうですネ。多分いないと思いますが、絶対に保険事故を起こさないと自信がある人、ということになりますネ。しかし、そういう人も、不幸にして保険事故を起こしたら、その時点で、直ちに等プロ特約を販売している国内保険会社に途中加入することです。
不思議と事故は続くもので、等プロ特約・搭傷日数払は、途中からでも付けることができるのですから…。同乗中のお友達に迷惑をかけないためにも…(ただし、等プロ特約を販売していない国内損保会社もあるので、注意が必要です)。
最後に、A通販自動車保険会社のトップの言葉をいくつか引用しておきましょう(同社発行のパンフレットから)。
『どこの保険会社も同じ商品を販売していたような環境に慣れていた日本の消費者も、ようやく個人のニーズに応じた保険を、自分の責任で選別する習慣が身についてきたと思います。』
『通信販売という、市場の引きを持つ営業形態においては、「選んでもらう」ということが重要になります。こうした環境では、顧客満足度の高い保険商品を揃えることが必要不可欠……しかし、商品の優位性だけでは市場から受け入れられません。優れた商品を競争力のある価格で提供することが最も重要なのです』
ウ〜ン・・・。《顧客満足度の高い優れた保険商品の販売》と《競争力のある価格での提供》この相矛盾するはざまの中で、【等級プロテクト特約】と【搭傷・日数払】が犠牲になったのかなぁ・・・。
この会社のトップは、消費者に「選んでもらうこと」の重要性を強調しているけれど、選択の大前提は、情報の提供が不可欠なのでは・・・?(自社にとって不利益なものでも)。
しかし、【等プロ】がないことについては、当然のことながら同社発行のパンフレットには一言もなく、【搭傷保険】についても、パンフレットに明記はなく、別紙の【重要事項説明書】の【搭乗者傷害保険の医療保険金】欄に小さな文字で、
『・・・・入・通院日数が5日以上になった場合に、傷害の部位・症状に応じて保険金を定額でお支払いします。なお、入・通院日数が4日以下の場合は、一律1万円をお支払いいたします。』
と記載されているだけ。
これ、おそらくこれから加入しようとしている人、読まないし気づかないナ。きっと・・・。
もっとも、たとえ読んだとしても、そもそも、【部位別払】と【日数払】の違い自体を知らない人が圧倒的に多いのだから、利害関係に影響を及ぼすおそれのあるこの両者の選択の重要性に気づかない、というのが本当のところじゃないのかナ・・・・。
いま現在、通販に加入している多くのドライバーの方たち。
その大半のドライバーは、今このときも、この二つの重要な特約が、自分の保険に付いていないことに気づくこともなく、運転しているのではないのかなぁ・・・・・。十分理解して加入している人は、もちろん別として・・・。(平成15・5・18)
☆主な通販会社の比較☆
通販会社名 | 等級プロテクトの販売 | 搭傷・日数払の販売 |
チューリッヒ | ○(2等級以上・前年無事故が条件) | ○(原則部位別払・希望により日数払もOK) |
アメリカンホーム | × | × |
ソニー損保 | × | × |
アクサダイレクト | × | × |
安田ダイレクト そんぽ24 |
○(8等級以上) | ○(日数払のみ) |
三井ダイレクト | × | ○(部位別との選択OK) |
(平成18年3月現在)
◆追記(平成16・10・24)
上に述べた通販自動車保険に対する問題点。これは何も通販だけのものではないことを指摘しておかないと公平を欠くと思われますので、一言述べておきます。
@搭乗者傷害保険の問題点、A等級プロテクト特約の問題点は、すでに国内損害保険会社各社にも波及しているということです。
いちいち個別に保険会社を指摘はしませんが、多くの国内損保会社も、搭乗者傷害保険は原則「部位別払い」、日数払いであっても、その内容において制限し、入院1日1万円、通院1日5千円等に。
また等プロにいたっては事実上の売り止めという制限をしている会社が存在しています。
契約者側にとって、搭乗者傷害保険の「日数払い」(入院1日1,5000円・通院1日10,000円)は、もはや既得権といってもいいと思います。
そしてまた、1事故保険使用で割引等級が一気に3等級下がるのを防止する「等プロ」特約も、割引等級の若い契約者にとっては不可欠の特約といえます。
被害事故においても、保険を使わなければならないときがあることを考えてみれば、容易に理解していただけるのではないかと思います。
現在、自動車保険も、自由化競争の当然の流れとして、契約者側が、満足のできない保険会社あるいは代理店だと認識した契約途中のその時点で、割引等級に関する不利益が生じることなく、即刻他社切り替えができる制度になっていますが、その際には、少なくても、上の二点だけは、絶対に落とすことのできない重要な確認事項として押さえておかなければならない、と私は考えています。
◆追記(H20.7.)
平成20年7月1日より、国内最大手損保保険会社「東京海上日動」が、自動車保険の主力商品である「ト-タルアシスト」において、搭乗者傷害保険の「日数払い」「部位・症状別払い」のいずれをも販売中止とし、新たに「一時金払い方式」を採用しました。
補償内容は、治療日数が5日以上になったとき、10万円か20万円の一時金受け取りのいずれかを契約時選択できるとするものです。
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