里の街中から山へ入り、最短距離である、道なき道を突っ走る。

 振り落とされまいと、ヒナタはナルトの首にきつく両腕を巻き付け、しっかと胸に顔を伏せていた。

 しがみつく、その必死な様子が可笑しくもあり、可愛くもあったが、それ以上にナルトをどぎまぎさせる。

 さらには、服の布地越しに柔らかい、そしてどこか湿った、彼女の体温を感じ、ナルトは軽い興奮さえ覚えていた。そんな浮ついた心を振り払おうと、派手に木々の枝を揺らし、いっそう高く飛び跳ねる。

「見ろよっ、ヒナタ!」

 突如として現れた見事な光景に圧倒され、ついつい大声を上げるナルトの腕の中で、ビクリとヒナタが体を震わせた。

 どうやら驚かせてしまったらしいと気付いたナルトは、山の中腹にあって急ぎ、見晴らしの良さそうな、開けた場所を見つけ、降り立った。そして、怯えたように胸から顔をはがし、身じろぎする彼女へ、「アッチだってばよ」と、目で前方を指し示した。

「すごい……」

 途端に瞳を見開き、ヒナタがつぶやくのに合わせ、「うん、すげェ……」と、ナルトも相槌を打ち、抱え上げていた彼女を、ゆっくりと地面に下ろした。

 二人は肩を並べ、無言のまま、山裾の景色に見入った。

 眼下には、晴れ渡った空を反射する、澄んだ湖がある。多くの荷車や人々の行き交う道が、その湖に沿って、弧を描くように伸びており、道を挟んだ、湖の反対側には、山の斜面を埋め尽くす、ミカン畑が広がっていた。

 ナルトとヒナタのいる、この高台から眺めると、鮮やかな橙色と緑色に覆われた山肌が、青い湖面へ映り込み、息を呑むほどに美しい。

「いのちゃんのいった通りだったね」

 ひっそりと口を開いたヒナタへ振り向き、その顔をナルトは、じっと見つめた。

「里の外れに、こんな綺麗なミカン畑があるなんて……全然知らなかった」

 はにかむように笑っていい、「ここからなら、もう、近いから……」と、いきなりヒナタは駆け出した。彼女を追いかけて、ナルトも山を下り、ミカン畑へと続く道に出た。

「ケッコー、にぎやかなトコなんだな」
「う、うん……」

 予想以上に往来が激しく、人いきれの中をはぐれないよう、ヒナタに寄り添い、先を目指す。すると、ナルトの隣で、ヒナタは顔を赤らめた。

「どうした?」
「あの……私、重くなかった?」

 いのが店番をしていた花屋である、山中花からここまで、ナルトに抱えられて来たことを、気にしているらしい。

「ぜんっぜん!」と、ナルトは右腕を曲げ、力こぶを作ってみせた。

「オレってば、体力とスタミナには、自信があるからな!」

 ぽんぽんと服の上から、二の腕を自慢げに叩き、精一杯の意思表示をする。それだけに、「やっぱりスゴイなあ、ナルトくんは。私なら、どんなに急いでも、ここまで二時間はかかるよ」と、ヒナタが感心するのを見て、有頂天となった。

「のんびりしてっと、時間に遅れるってばよ!」

 彼女の手を取り、走り出す。

「ナ、ナルトくんっ?」

 指先にぎゅっと力を込め、振り返らなかった。頼って欲しい、もっと甘えてくれてもいいんだと、告げてしまいたくなるからだ。ヒナタも、ナルトの心を知ってか、知らずか、繋いだ手を振りほどくことなく、引っ張られるまま、付いてくる。

「おいしいよ、ミカン、おいしいよ。ぜひ寄っといで」
「甘くて、今が旬だよ! どうぞ、食べてってー!」

 ミカン畑が広がる、山のふもとにたどり着くと、たちまち威勢の良い声に囲まれた。たくさんの露店が軒を連ね、収穫したばかりのミカンを、道行く人々に売っているのだ。

 他にも、牛や馬の繋がれた車の荷台に、商売人達がミカンの詰まった箱を積み込んでいたり、旅行者らしき一団がミカン狩りを楽しんだのか、声高に会話を交わしながら、両手にカゴをぶら下げて歩いていたりする。

 遠目にはわからなかった、縁日さながらのにぎわいに面食らいながらも、ナルトは目的の店を探し、きょろきょろとあたりを見回した。

「あっ、ナルトくん、あそこ」

 突然、ヒナタがぎゅっと、腕にしがみついてきた。

「たくさん植木が並んでる! あの店だよ、きっと!」

 くいとあごを上げ、顔をのぞき込んでくる彼女と目が合い、ナルトは思わず足を止めた。ヒナタも気が付いたように、彼の腕に回していた手をぱっと離し、後ずさる。

「ご、ごめんなさい」

 謝ったかと思うと、彼女は両手を口元へやり、どうでもいい方向へ、目を逸らした。

 ナルトはつい、カッとなった。打って変わって、乱暴にヒナタの手首をつかみ取ると、人混みの間を縫い、力任せに連れ歩く。

「ナルトくん……」

 か細い声を発したきり、やはり黙ってしまった彼女と、やがては、何十株もの苗木が、ひしめくように置かれている、一画に来た。

 路肩を埋める、たくさんの店はどこも、台の上に山盛りのミカンを置いているが、その店は違う。枝に青々とした葉や丸い実をつけた、ミカンの木を売っているのだ。

「いらっしゃい!」

 店先に立つ、ナルトとヒナタの姿を認め、まるまると肥えた中年の女性が、奥から姿を現した。

「今日は、どういったものをお探しで?」
「どういったの……だってばよ?」

 たまらず振り返り、たずねるナルトの隣へ、おずおずとヒナタは進み出ると、意外にもしっかりした口調で、「初心者にも育てやすい品種とかって、ありますか?」と、店の女性に話しかけた。

「そうねえ。オススメは、この三年生かしら。あと三ヶ月ほどは、このまま植木鉢で育てられるし、もう実もなってて、食べられるのよ」
「ホント、キレイ……」

 植え替えはね、と女性が説明し始め、ヒナタも熱心に耳を傾けている。そんな二人の会話を、聞くとはなしに、聞きながら、ナルトは漂うミカンの香りを嗅き、ぼんやりとヒナタの横顔を見つめた。

 ここ数ヶ月、ナルトのかたわらには、いつも彼女がいる。

 アカデミーに入学してからのち、なにかにつけて顔を突き合わせてきた、信頼のおける同期の仲間だが、ヒナタと二人きりで時間を過ごす機会は、そうそう無かった。

 それがいつからか、会えば一緒に食事をし、そろって街をぶらぶらするまでとなった。

 互いの休日を教え合うことで、どこかへ遠出したり、細々とした用事に付き合ったり、親密さもどんどん増していき、今となっては、付き合っているも同然だ。

 ところが最近、ヒナタとの間に、ナルトは奇妙な温度差を感じつつある。それは、二ヶ月と少し前に迎えた、ナルトの誕生日に端を発していた。

 あの日、同期のメンバーはもちろん、ナルトに縁のある者達が大勢、焼き肉屋に集まり、祝ってくれた。

 飲めや歌えやの大宴会となり、ナルトには珍しく杯を重ね、夜も更けた頃になって、まだ騒ぎ足りない連中を残し、ようやくヒナタと店を出た。

 彼女を送って行く、その帰り道、日向宗家の広大な屋敷へ向かう暗がりの路上で、ナルトは酔った勢いというより、酒の助けを借りて、ヒナタを自分の部屋に誘ってみた。

 当然、答えは『ノー』で、そのことにナルトも、こだわってはいない。

 穏やかで温かい彼女を相手に、大人の男ぶる勇気など、持ち合わせておらず、ヒナタと共にいることで得られる安心感は、ナルトの知らない、肉親から与えられるであろうそれを想像させ、何ものにも代え難かった。

 だからこそ、淡く静かな関係のまま、いつか自然にそうなればいいと、納得したのだ。

 それなのに、あの日を境として、彼女は時折、ナルトを避けるような、素振りを見せる。それが、ヒナタとの曖昧な繋がりをいかにも象徴していて、どうにも、もどかしく、やるせなかった。

「ナルトくん。これに決めようと思うんだけど」
「えっ? なに?」

 知らずしらず、視線が足下に落ちていたナルトは、慌てて顔を上げた。

 店の女性と話し込んだ末、腰の高さに成長し、未だ小さい緑のものから、丸々とした黄色いものまで、いくつも立派な実がついた木を、ヒナタは選んだようだった。

「うん。なってるミカンもウマそーだし、イイと思う!」

 彼女の指差す木に目をやり、ナルトも大きくうなずく。

「ねっ、オバちゃん! ソレ、いくら?」

 札入れを取り出し、ナルトが勘定を済ますと、「ありがとう。何だか、ムリをいって、ごめんね」と、身を縮めて済まなそうに、ヒナタは礼をいった。

「へへ、どうってコトねーよ!」

 頭の後ろへ手をやり、照れるナルトの前で、隠しきれない喜びを含んだ満面の笑みを、ヒナタもその顔に浮かべる。

「優しいカレシじゃないの。羨ましいねえ」

 二人を冷やかし、「知ってる? ミカンの花言葉」と、店の女性は突然、たずねてきた。

「いや、知らねーってばよ」
「知らないなあ」

 ナルトとヒナタが顔を見合わせ、同時に首を振るのを、面白そうに眺めながら、「"あなたは純潔です"というのが、ミカンの花言葉」と、彼女はいった。

「花嫁の喜び、というのもあるね。ミカンの木を贈る男性からしたら、その純潔をボクに下さい、という意味に取れるし、女性からしたら、ミカンの木を受け取ることは、あなたと結婚できたら幸せです、という意味にならないかい?」

「そ、それは、ちょっと、都合のいい解釈というか、何というか……」

 耳まで顔を真っ赤にして答えるヒナタへ、女性は臆面もなく、「アンタ達のような初々しいカップルを見ちゃうとね、そういうロマンチックなのを思い浮かべちゃうのよ」と、いってのけ、無言のうちに照れまくるナルトへと、体を揺らし、向き直った。

「ところで、お兄さん。見たところ、里の忍だね」

 ナルトは頭に額当てを巻き、ひと目見てそれとわかる、オレンジ色の服に身を包んでいた。一方のヒナタはといえば、白い着物に黒い羽織を重ねた、日向一族の正装だ。

「これぐらい大きい苗木となると、普通は配達するところだけど、どうする?」

 人が持ち運ぶには重く、かさばるが、忍であれば、色々と手段も選べる。

「ヒナタ、この道の先で、あんま人のいねえ、広い場所ってあるか?」
「待ってね。確かめてみる」

 打てば響くように、すぐさま返事をしたヒナタは、すっと背筋を伸ばし、遠くを見た。

「ずっと街中まで、この通りは続いてるけど……湖を離れて山へ入ったら、だいぶ道幅が狭いのかな。人が多すぎるみたい……」

 わずかに顔をしかめ、ふうとヒナタが息を吐き、ナルトは体の前で腕を組んだ。

「やっぱ、どこまでも混み合ってんのか」
「口寄せをするには、ちょっと……ナルトくんのガマくん達はみんな、大きいから」
「大きくなきゃ、オレとヒナタの二人を乗せて、約束の二時まで屋敷には戻れねーだろ? でも、それがダメなら……」

 やっぱ影分身か、と両手を合わせ、印を結ぶ。すると、もう一人のナルトが現れ、買ったばかりの苗木を持ち上げた。

「ヒナタんちに届けときゃ、イイよな」
「えっと、あの、ナルトくんの部屋に、とりあえず置いといてもらってもいい?」

 律儀にヒナタは、かわるがわる二人のナルトを見据え、いった。

「今は家も、宴席の用意で、ゴタゴタしてるだろうから……」
「ああ……そういや、そうだな」

 宗家の屋敷で、日向一族は今日、一堂に会し、お祝いをする。ヒナタが成人と認められる、ハタチの誕生日を迎えたからだ。

「そんな時、こんなトコへ無理やり連れて来ちまって、ゴメンな。でもさ……」

 ヒナタにとって自分は何なのだろう、とナルトが思うのは、こんな時だ。

 任務を終え、部屋へ帰る途中、たまたま、山中花の店先を通りかかり、いのに出くわさなければ、今日がヒナタの誕生日だということさえ、知らずにいた。

「オレってば、どーしても今日、プレゼントを渡したかったんだ」

 内気なヒナタは、自分の誕生日を人にいい触らしたり、大勢に祝ってもらったりするのを、好まない。気心の知れた八班の仲間だけが毎年、誕生日には花束を贈っていて、山中花が用意したヒナタ好みの花々を、今年もキバとシノの二人が日向の屋敷を訪れ、すでに渡したのだと、いのから教えられた。

「誕生日ってのは、特別だってばよ。生まれてきたこと、今ここにいることを、祝ってもらえるなんて、すっげー幸せだよな。プレゼントにも、そーいう、人のあったかい気持ちがイッパイ詰まってて、もらうと、すっげー嬉しくなる」

 ナルトの誕生日である、十月十日になると、里は喪に服す。九尾の妖狐に襲われ、亡くなった人々を追悼するためだ。

 幼かった頃、ナルトはただ、その様子を遠目にうかがい、大人しくしていたが、人々の只ならぬ視線だけは、ひしひしと感じていた。

 まさか自分の中に九尾が封印されているとも知らず、訳のわからない憎しみを一身に引き受け、耐えなければならない。かつてのナルトにとって、誕生日とは、生まれてきたことを自ら呪う、孤独なものでしかなかった。

 だからこそ、誕生日に対する思い入れが、人一倍深い。おめでとうと声をかけられるだけで、生まれてきて良かったと、心の底から実感してしまうほどだ。

 お陰で、他人の誕生日であっても、精一杯祝いたいと、ついつい必死になり過ぎるきらいがある。

「オレにとって、誕生日は大切な日なんだ。だから……ヒナタを喜ばせたかった。大げさかもしんねーけど、生まれてきて良かったと、思って欲しかった」

 ナルトはいのの話を耳にして、山中花を飛び出し、一も二もなく、ヒナタの家へと走った。

 おめでとうと告げるだけでは事足りず、彼女が望む、たとえそれが結晶石のような、どんな高価なものであろうと、ためらうことなく、買ってあげたいとさえ思った。

 冷静に振り返れば、未だキバやシノに勝てずにいる、劣等感を刺激されたのかもしれず、変な思い上がりもまた、あったのかもしれない。けれども、ヒナタを想って、そうしたいと願ったのは事実だ。

「ぶっちゃけ、贈り物で気を引こうなんて、バカげてるけどさ……ヒナタが相手だからな。プレゼントを一緒に選んだり、欲しいモンをねだられたりすんのも、悪くねーってばよ」

 打ち明けたのちは、息を殺してヒナタと見つめ合い、心臓の音だけがバクバクとうるさかった。

 後ろからコホンと咳払いが聞こえ、分身のナルトは振り返ると、店の女性へ肩越しにぎこちなく笑いかけ、「じゃあオレ、もう行くってばよ!」と、取りつくろうように、大声を出した。

「オバちゃん、世話になったな!」

 分身は苗木を手に、軽々と地面を蹴り、ミカン畑を飛び越える。

 遠くの山々へ吸い込まれるように消え去った、もう一人の自分を見送ったナルトも、やはりぎこちなく、ヒナタに笑みを向けた。

「オレ達も、もう行かねーと」
「うん……」

 うつむくヒナタの背中と膝の後ろに腕を回し、恐る恐る、抱き上げた。

「オバちゃん、世話になったな!」

 分身にならい、照れ臭いのをごまかすように、ナルトも大声でいった。

「あはは。不思議な感じだね、一日に二度も、同じ人から、同じ礼をいわれるってのは!」

 毎度ありぃ! という元気な声に送り出され、ナルトは空高く、飛び上がる。ミカンが香る山肌と湖を今度は真下に見ながら、ヒナタを抱える腕に力を込めた。

「怖くねーか?」

 怖いよ、と鈴のように鳴り響く、小さな声が、ヒナタの口から漏れ聞こえた。

「えっ!?」
「もう、ずっと、怖いの……あの、ナルトくんの誕生日から、ずっと……」
「ヒナタ……?」

 重力に任せて、遠く湖の真ん中へ、降り立った。足下からさざ波が、いくつもの丸い輪となって、広がってゆく。

「どういうことだってばよ」

 腕の中のヒナタに視線を落とし、つい声を荒げたナルトは、ギュッと服の胸元をつかまれた。

「ずっと、ナルトくんのようになりたい、ナルトくんに追い付きたい……そう思ってた」

 胸にすがり、体を起こしたヒナタの声が、震えている。

「ナルトくんは、いつだって、私の憧れだから……そばにいられると、嬉しくて……あの誕生日の夜、勘違いしちゃったの」

 バカみたいだよね、と無理やり作った笑顔を向けられ、ナルトは返事に詰まった。

「そんなこと、あるハズないのに……自惚れちゃったんだね、きっと。サクラちゃんのように可愛くないし、いのちゃんのようにスタイルがいいワケでもない。でも、体だけを求められるのはつらいから、私……」

 彼女は口をつぐみ、まぶたを閉じると、弱々しく首を振る。

「気が付けば、ナルトくんのそばで、恋人のように振る舞ってた。気易くナルトくんに触れたり、甘えたり……尊敬する理想の人を、遠くから眺めるだけで、十分だったはずの私が、夢中になってしまったの。完全にまわりが見えなくなって……」

 怖いよ、とつぶやき、涙ひとつ流さない、そんなヒナタが、かえってナルトの目には、痛々しく映った。

「あんまり優しいから……ひょっとしたらと考えて、期待する自分が怖いの。だって、ナルトくんは、私のこと……」
「好きだってばよ」

 ぱっとまぶたを開き、目を見張るヒナタへ、ニッと歯を見せ、ナルトは笑ってみせる。

「ヒナタが、大好きだ」

 全身に力を込め、湖から飛び立った。

 猛烈なチャクラに押され、水面が大きく波打ち、辺り一帯へ飛び散った激しい水飛沫が、陽光を受けて、キラキラと舞う。

「オレだって、サスケみてーに見てくれがいいワケじゃねーし、シカマルみてーに頭がいいワケでもねェ。そんなオレの取り柄を一番わかってんのは、ヒナタ。オマエだってばよ」

 熱に浮かされた頭を冷やそうと、久しく使った覚えもない大量のチャクラを使い、疾風となって宙を飛びながら、ナルトはしゃべり続けた。

「でもさ、憧れんのと好きってのは、ちょっとだけ、言葉の意味が違うと思わねーか? ソコんトコがもどかしくて、ちょっぴり腹も立つってばよ」

「そうか。そうだよね……」

 そっと首の後ろへ両腕が回され、憧れるだけじゃない、と耳元で囁かれた。

「好き……私もナルトくんが、大好き」

 肩に頭を乗せ、ヒナタはふんわりと笑った。

 ナルトも首を傾け、頬を重ねた二人の、風にあおられた長い髪と、額当てのたなびくヒモが、空中で絡み合う。

 湖とミカン畑が遥か後方へと過ぎ去ってからも、ナルトは甘い雰囲気に浸りながら、ひたすら駆け通し、あっという間に山々を越した。

 そうして、強大なチャクラを放出した末、木ノ葉隠れの里を象徴する、にぎやかな街並みがのぞいて見える所まで、さほど時間をかけずに、たどり着いたのだった。