かつて、この場所には、気持ちの良い中庭のある、T荘と言う木造アパートがあった。当時としては、なかなかにハイカラな建物で、結
構モダンな人達が、集い住んだという。何度かテレビドラマの舞台にもなったと、住人さん達は誇らしげに話していた。時代は流れて建
物は老朽化したが、住人さん達の暖かいコミュニティは、時を得るに従い熟成した。思い切って建て直すことを決意してから何度も話し
合いを重ねたが、彼らのこの場所への愛着の強さと、互いを思いやる気持ちが印象に残った。色々とあったが、そのうちビール片手に
雑談に花が咲く様になり、最後は皆笑顔で引っ越して頂いた。時間と場所の持つ力を実感した貴重な体験だった。建て直すにあたって、
の場所の持っていた力を生かしたいと考えた。かつての気持ちの良い中庭は、2つの棟をつなぐ空間に置き換えた。2〜3階のオフィ
ゾーンでは、それはトップライトのある共用空間となり、各々の事務所に適度な距離と快適なゆとりを与えている。又、4階から上の住
ゾーンでは光庭となり、外部空間が建物の中に取り込まれる。住戸は全て角部屋となり、単身用住戸とはいえ、通風・採光は良好で
る。
この場所の歴史を調べているうちに、かつて難波宮のあった頃、敷地の東側の程
無い位置に、朱雀大路(難波大道)が通っていたことが判った。当時の街路パター
ンは今では殆ど失われているが、真北に沿った均一なグリッドを持っていたらしい。
天王寺区内では、北山町から勝山辺りに通るこの古道がこの軸に一致している。
秀吉の時代にその骨格が出来たと言われる現在の街路パターンの中に、遠い難
波宮の時代の都市の秩序を、密かに挿入しようと考えた。低層部の壁面とバルコ
ニーの面、そして、ELVシャフトと階段は、真北に沿って配置した。現在の街路パ
ターンからは約5°振れている。時の積み重なりを感じる様に、化粧コンクリートの
壁面には45cmピッチで横ラインのボーダーを設け、小ダタキ仕上を施した。ELV
シャフトと階段の壁は、土のイメージした素材で仕上げている。一方、現在の街路
パターンに沿う2つの壁は、ソリッドな青味のタイルである。
この建物の内部空間において、各々異なる素材をまとった新旧2つの秩序が、互
いに響きあう場所が、前述の2〜3階ホール、1階住戸専用エントランス、住戸ゾー
ンの廊下等の共用空間である。集まって住まう、あるいは働く場所を意味付けるの
は、共用空間の質に負うところが大きい。T荘の中庭も、住人さん達の日々の生活
を生き生きと育んだことだろう。時の流れは連綿として途絶える事は無い。新たな
息吹を与えられたこの場所が、新しい住人達に再び長く愛されることを祈っている。

 

 

 

 

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RE-SOUL 清水谷 

 

所在地  :大阪市天王寺区
用   途:集合住宅・事務所・店舗
敷地面積:395.25u
建築面積:269.10u
延床面積:1387.47u
構   造:RC造8F・B1F建
竣   工:1995年10月

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