Story Tellers from the Coming Generation! Interactive fighting novel JOJO-CON

双方向対戦小説ジョジョ魂

ROUND 2

11. 送火 - Legacy

「風邪ひいてるときくらい酒は控えろよ、爺さん」
「不安なんじゃ……飲まにゃあいられないんじゃ……エホ、エホッ!」
「……弱気だな、爺さんらしくねぇ。歳か?」

暗い砂漠の町。そこに、星のような明るい光を漏らしている建物がある。男達の楽しげな、威勢のいい声が響く酒場だった。その一角にスピードワゴンと、彼に「爺さん」と呼ばれる老人、ブライアンがいた。スピードワゴンが下げようとした酒瓶に、ブライアンがその手を素早く伸ばして、掴み取る。

「そう、歳じゃ……恐いんじゃ」
「いつも悪態付いてる爺さんが、まだ死ぬとは到底思えないがなぁ~」
「エホッ……死ぬのは恐くない」

ブライアンは左手でグラスを口に運びながら、右手を懐に差し入れた。

「やり遂げられないのが恐いんじゃ……『良く生きる』とは、『良く死ぬ』こと。『良く死ぬ』こととは、『やり遂げる』ことなんじゃ」
「それは……いつもの『アレ』か?」

ブライアンが懐から取り出した物は、数枚の地図だった。黄ばんで所々掠れ気味になっているそれには、ペンで数十、数百もの細かい書き込みがされていた。スピードワゴンが覗き込む中、ブライアンが地図の表面を愛おしそうに指でなぞる。

「ワシが手に入れたあの一帯には、多くの資源が眠っているハズなんじゃ……それを見つけられるまでは、ワシの人生は終わらん……」
「水が出たじゃねえか。爺さんの……あの、なんだ。ダイビングで」
「ダウジングじゃボケ」
「む……(いつもの調子が戻ってきたか)」

自らが付けた地図上の印を、確かめるように一つ一つ指差しながら、ブライアンが言葉を続ける。

「あんなちょっぴりの水だけじゃない……もっともっと、あるハズなんじゃ。じゃが、間にあわんかもしれん……あぁ、子供を作っておくべきじゃったッ!」
「は、話はそういう方向に行くのか!?」
「跡を継がせる息子を作っておくべきじゃった! ……結婚しておくべきじゃった……失敗したのう」

ため息をつくブライアンを見てゴホンと一つ咳払いをすると、スピードワゴンが強い口調で言い放った。

「あ~、なんだ。そんときゃ俺が跡を継いでやるよ、爺さん!」
「……何じゃと?」
「長い付き合いじゃねぇか、水くさいぜ。それとも、『爺さんの息子』には俺じゃ役不足か?」
「そ、そんな事はないんじゃが……ワシのこんな人生に、お前を巻き込む訳には……」
「巻き込む? そうじゃねえ。爺さん、これは俺の『おせっかい』さ。好きでやることさ」
「スピードワゴン……」
「爺さん……俺はあんたの人生を少しだけだが見てきた。俺はあんたのひたむきさが好きだ。あんたが不器用なように、俺はお節介焼きでね……だから、出来る限りのことはさせてもらうぜ」


スピードワゴンがこの町を発って数日後、旅先で彼は知らせを受けることとなった。風邪をこじらせたブライアンが、急死したという知らせを。


12. 開戦

四方に設置された松明の光だけが、断崖に迫り出した武舞台を照らしている。普段、波紋戦士達の鍛錬の場として使われる、広く平らなその場所に、今は二人の男が睨み合っていた。中央に突き立った剣を挟んで、先に立つ黒騎士・ブラフォードを、スピードワゴンが油断無く観察する。

(確かにあのブラフォードだ……間違いねぇ……なんでここにいやがるんだ、ちくしょう!)

更にその視線を、素早く左右へ飛ばした。右に、バラバラになったヨナールの遺骸が見えた。左に、シマの分断された下半身が落ちていた。

正面に視線を戻す。ブラフォードの後方に、ストレイツォが落ちていった断崖が口を開けている。その闇に溶け込むようにブラフォードの黒髪が広がり、うねっていた。

スピードワゴンの奥歯が、ギリリと音を立てた。

「ヨナール……シマ……ストレイツォ……ッ! クソッ!」
(何も出来なかった……『また』か! 俺はやっぱり、そうなのかッ!?)

怒りと悔しさが滲み出すのを堪えきれず、その言葉を漏らしながらも、一方でスピードワゴンは冷静な計算も行っていた。暗黒街で生きてきたスピードワゴンが、それ故に自然と身に付けた能力だった。ブラフォードとの間にある剣に、視点を移す。

(あの剣……どっちかっつーと、俺の方が近いな……。走るスピードももちろん違うだろうが、アイツの闘いっぷりは前にも見ているしな。だいたい分かる。……俺の方が恐らく先にあの剣をゲットできる……)

スピードワゴンの身体全体に、次の瞬発に備える信号が走る。それを見て捉えたのか、ブラフォードも仁王立ちの体勢から僅かに身を縮めた。一瞬、視線が交錯する。

ダッ!
ドオーンッ!

ブラフォードが地面を蹴り上げて剣に向かうのと同時に、スピードワゴンはその場で反転して、自分がやってきた道を勢いよく駆け戻った。

「だ、だがここはヤバイだろッ! あんなモロに『闘いの場』ってところでアイツとやり合ったって、勝ち目はある訳ねぇッ!」

洞窟の道を駆け上がりながら後ろを振り返ると、ブラフォードが剣に手を伸ばしながら、スピードワゴンを横目で捉えているのが見えた。

「ストレイツォ、仇は取るぜ……俺の命に替えてもッ!」


「フフッ」

走って行くスピードワゴンの背に、ブラフォードは低い笑い声を発した。右手で地面から剣を引き抜く。

「今の目……あれは闘う者の目だ……。この逃走、生きるための逃走ではないなァ……」

剣を頭上から足下まで、空気を切り裂くように振るう。剣身にこびり付いた血と肉が地面へと払い落とされ、その数メートル先に立てられていた松明の炎が、衝撃で掻き消された。剣を背の鞘に収めると、静かな武舞台にパチンッという金属音が響いた。

「そう、あれは『死ぬため』の逃走だ」

ブラフォードは喜びに顔を歪めると、猛然とスピードワゴンの追跡を開始した。

「楽しませろよォ……闘いの悦楽を我に与えろォ、人間よ……」

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天明さんの「スピードワゴン(1部)」
VS
於腐羅さんの「黒騎士ブラフォード」

双方向対戦小説ジョジョ魂


13. 灯火 - Cable

スピードワゴンが持ってきたダウジングロッド。それを取り囲み、白熱した議論を繰り広げていた波紋修行者たちが去って、ストレイツォの部屋には静けさが戻った。ヨナールとシマも部屋を出て、そこに残ったのはストレイツォとスピードワゴンの二人だけとなっていた。

「それにしても……」

テーブルの上に広げられたままの本を拾い上げ、本棚に元の位置を探しながらストレイツォが口を開いた。

「何故、君がダウジングロッドを? 正直言って、あまり似合う感じがしないんだが」

スピードワゴンがその問いに、そばにあった椅子に腰を降ろしながら答える。

「そいつは『遺産』なんだ。知り合いの、ブライアン爺さんのな」
「……そうか」

本棚に本を一つ一つ戻しつつ、ストレイツォは続けた。

「そのダウジングロッドと波紋と結びつけた発想……仙術を学ぶ者ならともかく、君がそこに着想したのは驚きだな。素晴らしい」

「あぁ……それも『遺産』さ……この帽子が導いてくれたんだ」

そう言いながら、スピードワゴンは被っていたチェックの柄の帽子を手に取った。

「以前にも話したことがあったと思うんだが……風の騎士たちの町(ウインドナイツロット)での最初の戦いのことを」
「ふむ……確か……トンネルの奥で、ジョナサン・ジョースターが一人で戦ったんだったか」
「そう、それだ! その時ツェペリの旦那は、ジョースターさんにワインの入ったグラスを手渡した」
「波紋探知機……なるほど、『探知機』。そういう繋がりだったのか。いや、それにしても、大した閃きだ」

ストレイツォは、スピードワゴンの手にある帽子を、目を細めて見つめた。

「……君は、多くの人の人生を、背負っているのだな」
「背負う? 背負うだって? そんなバカな」

スピードワゴンが、肩をすくめて自嘲した。

「俺はいつだって傍観者さ。何もできずに、ただ見ていることしかできねえ……そう、いつもだ」
「……そうか」

ストレイツォは本棚より離れ、そして小さなテーブルの前に立った。そこには先刻、シマが幽波紋によって倒した花瓶があり、今は紅いバラが数本差してあった。その一本をそっと摘んで、ストレイツォが呟いた。

「綺麗に咲いたものだ……この薔薇だがな、シマをはじめとする私の弟子達が、今は育てているのだよ」
「……?」

唐突な話にスピードワゴンは戸惑い、取りあえず頷いて相づちだけを打った。

「とても増えてな……そして何故か、波紋の伝導率が非常に高い。普通の薔薇や草花などと比べると、波紋を保持する時間も長い」
「はぁ……そりゃスゴイな。なんて名だい?」

一呼吸溜めて、ストレイツォが答えた。

「『Dの薔薇(ディーズ・ローズ)』……ダイアーの遺産、さ」
「なッ? なんだってッ! じゃあそれは……ッ!」
「そう、覚えていたか。ディオとの闘いの後、彼の亡骸があったところから摘んでいった薔薇だ」

思わず椅子を立ち上がったスピードワゴンに、ストレイツォが薔薇を手渡しながら言った。

「ダイアーの遺志は、私が運んだこの薔薇を介して、弟子達に伝えられている。君だって、そのブライアンの遺志をここまで運んできたじゃないか。そして波紋と結びついた。……そうだな。君はそうやって、多くの人生を結び付けて形とする役目を、持っているのかもしれないな……」


14. 洞窟の追跡者

「痛ッ……ちくしょうッ! ツイてねぇッ!!」

踏みならされているとはいえ、それでもゴツゴツとした堅い洞窟の道を駆けながら、スピードワゴンは苦痛に顔を歪めた。一歩一歩、地面を蹴る度に足の裏に突き刺さる痛み。

(靴ん中に石が入ったのか? それも両足ィ? クッ……ヤケに尖ってるじゃねぇか、クソッタレ!)

立ち止まって、靴の中を調べたいところだったが……後ろからブラフォードが迫る現在、それは敵わぬ願いだった。

もう一つ、逃げるスピードワゴンが心配している事柄があった。道を正しく戻ることが出来ているかどうか……洞窟の奥底に進むような、誤った場所に入り込まないかどうか、という不安を、スピードワゴンは抱えながら走っていた。

(世界中……秘境と呼ばれるところも歩いた俺だ。そうそう道に迷うことはねぇ、道を憶えるスキルは備えてるつもりだ。だが……)

スピードワゴンの前方、そして後方に広がるのは、岩に囲まれたひたすらに真っ暗な穴だった。岩肌に取り付けられた松明がぽつりぽつりと続いているだけで、目印のような物は何一つ見当たらない。

(修行者の奴等、これで迷ったりしないのかよ?)

かなり手を加えられた洞窟らしく、道幅の狭いところは見当たらず、大抵は人が三人は並べるスペースが確保されていた。しかし時折、天井が低く迫ってきたり、そうかと思えば、三階建ての家をすっぽり入れられるような高さと広さを持つ空間に出くわして、更にそこから四方に伸びる道から選択を迫られたりするなど、地味で多彩な風景が現れる。そのためスピードワゴンは、自分を冷静に押し留めるのに必要以上の精神力を使っていた。

(五感を全部使うんだ。そして思い出せ、辿ってきた道を……)

しかしその五感の内の一つ、聴覚は確実に捉えていた。後ろから迫り来る、ブラフォードの足音を。それは先程よりも、確実に近付いている。スピードワゴンには、背中の寒気が更に冷たく感じられた。それを振り切ろうとするように、足の裏の痛みを耐えて歩幅を一層広くする。

「キミ、こんなトコでどうしたんだい?」
「!! うわあぁッ!」

唐突に横から掛けられた声に、思わずトンファーを振り回す。それに対して、男と女の悲鳴が上がった。

「きゃあぁっ!」
「うわっ、何するんだキミッ!? いきなり危ないだろう!」
「わあぁ……え、な、何だ?」

トンファーを止めてよく見ると、それは横道から現れた修行者らしい若い男女だった。

「な、なんでアンタら、まだこんなところに居るんだッ!?」
「なんでって……彼女と二人で修行をしていたのさ。決まってるだろう」
「そ、そうよ」
「ウソこけーッ! おおかた暗いのをいいことに、ちちくりあってたんだろうがーッ!!」

怒鳴られて言い返せずにいる二人に、我に返ったスピードワゴンが口調を変えて怒鳴る。

「そんなことはどうでもいいッ! さっさと逃げろ、ここは危ねえ!」
「え、ど、どういうことで?」
「ヤバイ屍生人が来てんだよ、聞いてねえのか!?」
「な、なんのこと?」

その時、より大きくなる追跡者の足音に気付いて、スピードワゴンの背中がゾクリと震えた。

「……クッ! も、もう知らねぇッ! あとはテメェでなんとかしろッ!!」

男を突き飛ばし、更に奥へと走るスピードワゴン。しばらくして、洞窟に響いた二人の悲鳴が、スピードワゴンの耳にも届いた。


「たわいない……」

ブラフォードはひとしきり血を吸うと、男の身体を放り捨てた。その男が近場に落ちたどさりという音に、座り込んで震える女が甲高い悲鳴を上げる。しかしブラフォードが目を女に向けると、身体の震えも悲鳴もピタリと止めて固まった。

呆然と自分を凝視する女に向かって歩み寄るブラフォード。そのブラフォードの足に、倒れていた男の手が掛かった。

「た……頼む……か、彼女の…………マリィの血は吸わないでくれ……」
「…………」
「ジェ、ジェス……貴方、生きて……!」
「頼む……」

ブラフォードは、うつ伏せになって掠れた声で懇願する男を見下ろしていたが、男の手を足から振り解くと、

「闘わぬ者に興味はない」

と一言放って、女の横を通り過ぎた。そしてスピードワゴンを追って、洞窟を先へと歩いて行く。それを震えながら見ていた女は、ブラフォードの姿が闇に消えると、伏している男へと駆け寄った。抱き締めながら、呼びかける。

「あぁ、ジェス! 生きてる? 生きてるのね!?」
「……マ、マリィ……愛してるよ……キミはボクの物だ……」
「ジェス、私もよ。私も貴方を愛しているわ!」
「ほ、本当かい……それじゃあ……」

男が震える手を上げる。それに応えて、女がその手を握ろうとした。

ドボォッ

男の手が、女の下腹部に突き刺さる。

「それじゃあ、キミの全てが欲しいよおぉぉ……ビバハハアァ! キミの血の全てがねええぇぇーー!」

手を引き抜いて、男は恍惚とした表情でその手に握りしめた物に噛みついた。


再び洞窟に響いた女の悲鳴に、ブラフォードは唇を一舐めしながら、その顔に残忍な笑みを浮かべた。


15. 夕日 - Inflation

(シマのヤツ……アイツは一体どうなっちまったんだ?)

足の裏に血の感触を感じながら、スピードワゴンが駆けていた。

(真っ二つになった途端、人が変わっちまったみてえに……イヤ、変わったんじゃあねぇのかもしれないが……でも、あんなんじゃなかった筈だ)

スピードワゴンが不意に立ち止まる。周りを見回した。

「ヤ、ヤバイ……迷ったか……」
(考えてみりゃ、行きはシマの案内に頼ってたからな……あまり深く覚えてない、か……)
「ど、どうする……?」


ストレイツォを助けるべく、『原初の修練洞』に駆けつけたスピードワゴンとシマ。洞窟に駆け込もうとするスピードワゴンの大きな身体を、シマの小さな身体が潰されそうになりながら押し止めた。

「何やってんだ、退けよシマ! 早く行かなきゃまずいだろッ!」
「……先生は大丈夫」
「あったりめーだッ、ストレイツォがやられる訳ねえだろう! でも万が一って事があるだろ? その確率を無くすために、俺は早く行かなきゃなんねーんだよッ!」
「そうじゃないの。先生はまだ生きてるの……分かるの」
「え? な、なんだって?」

小さな声を聞き取ろうと、スピードワゴンが屈み気味になってシマの顔を覗き込んだ。シマの長い前髪に隠れた表情は相変わらず読みにくかったが、西に傾いて山吹色に染まり始めた夕日が、シマの瞳に煌めくのが見えた。

「『分かる』……? って、そりゃ波紋……いや、幽波紋の力か、ひょっとして?」
「そう……分かるの、先生の『運命の鼓動』が伝わるの……」

時折聞く、シマの夢見るような口調に、スピードワゴンはむず痒さを感じた。

「だ、だったら尚のこと、早く行かなきゃなんねーだろ!」
「……何処へ行くの? ここは入り組んだ洞穴が何十、何百と別れて……深く、深く、地球の奥底にある、原初の世界にまで通じていると言われる『原初の修練洞』なのよ……。貴方みたいな『部外者』が入って、どうやって先生のところに辿り着くの? 今の先生の居場所どころか、修練洞の作りさえ知らない癖に……」
「う……ぐぐ、ま、まぁそうだ。確かに」
「別にそれも構わないけれど……私は」
「わ、分かった! 頼む、案内してくれッ!」

暗い洞窟の入り口へ向かうシマの後ろを、重装備のスピードワゴンがすごすごとついていく。夕日に染まるシマのローブが暗闇の中に溶け込んでいくのを見ながら、ふと気が付いてシマに尋ねた。

「お、おいちょっと待て。お前にはストレイツォの居場所が……分かるのか、それも?」

闇の中で振り返り、シマが答えた。

「だっていつも、見てるから」


16. 幽火 - Deflation

シマが13歳の時、2歳上の姉が病に倒れた。それは当時、不治の病とされ、またその感染力を怖れられた。結果、家族への感染を避けるために、更に家族の中からその病の感染者が出たことを世間へ隠すために、感染者は人知れず「処理」されることが多かったという。

そしてシマの姉の場合、家の敷地の外れにある、既に使われていなかった小さな蔵の中に彼女が幽閉されることとなったのだった。掃除のされていない、狭く汚く、そして暗い蔵の中に、シマの姉は布団だけを与えられた。そして日に一、二度だけ、小窓から入れられる粗末な食事を取って生きることだけを許された。

姉に食事を持っていくのは、妹のシマの役目だった。シマは姉に対する愛情も、憐れみも、嫌悪も表情に出すことはなかった。家の者に対しても、痩せ衰えていく姉に対してすらも、感情を見せることはなかった。ただ毎日、蔵へ食事を持って行っては、小窓から蔵の中をしばらくの間覗き込んでいるだけだった。


そして、最期の日がやってきた。深い紅の夕暮れの中、食事を持って蔵へ向かったシマは、小窓を開けた時に、中から激しく咳き込む姉の呻き声を聞いた。覗き込むと、布団の上で血を吐いて身をよじる姉の姿が暗闇の中に微かに見えた。夕日の紅い線が蔵の闇を裂くのに姉が気付き、その落ち窪んだ目をシマに向けた。口から血やそれ以外の物を、豪雨の夜に雨どいを流れる水のように激しく吐き出しながら、姉がシマを呼んだ。

「あばばばげばっ、ジッ、ジマアッ! えぶっ、おぶあっ、だ、だずげでッぶべあっ! い、いやあぁうぶええぇ……じにだくない、じにだくだいのようぶばばあぁっ!! ぃひいぃげぐっ! おぼあっ! ジマ! ジマアァッ! おごっ……おっ……か……」

夕日の紅を背に、シマはやはり表情を変えず、姉の呼び掛けに答えることなく……ただ見つめるだけだった。

やがて、姉は自分の吐瀉物が喉や口を塞いで呼吸が出来なくなり、痩せきった身体を痙攣させて、死に至った。蔵の闇の中にそれを見届けたシマは、来た時と同じように静かに歩いて家へと戻った。そして自室に入ると、小さな棚の中から一冊の帳面を取り出した。それは、シマの日記だった。

開いて、いつものように書き記していくのは、今見た姉の最期の様子だった。手で前髪をすいて、じっくりと思い出しては克明に書き留めていく。その合間に、『もう尻拭いしなくて済む』、『生きていると皆の迷惑』、『因果応報』、『運命』、『皆そう思っている』といった言葉が並んだ。

そして時折、手を伸ばして震わせたりしながら、

「シマァ! うげえ! ……だったかな。ウフフフ……」

と、姉の真似をして、歪んだ笑みを顔に浮かべた。余程楽しいのか、姉の真似はその後の数日間、自室の中で演じられ続けた。

家の者が姉の死を知ったのは、シマが食事を持って行かなくなってから、数日経った後のことだった。


17. 漆黒と閃光の狭間に

地面に叩き付けた松明の火を踏み消すと、スピードワゴンの姿は闇の中に埋もれていった。

(外に出られないのなら……体力のある内に、その全てを賭けるしかねえな)

背筋を走る冷たさに、ぶるっと身体を震わせる。

「武者震い、と言いてぇところだが……なんか分かるぜ。……シマ。お前、見ているな」


ザグッザグッザグッザグッ

大きな『釘』を『白い手』が握り、それを両手で交互に岩に突き刺して、洞窟の天井を這っていく。シマはそうやって、下を行くブラフォードの様子を十数メートル上から窺っていた。『釘』も『白い手』も、普通の人間には見えない。シマの小さな手から伸びた、白く透き通った『幽波紋』の腕、そして『釘』。『釘』はブラフォードの背、そしてスピードワゴンの背にも刺さっている。それらを映すシマの瞳は、その「瞬間」を予見して興奮に輝いた。

「近付いていくわ……ヒヒヒ……二人が……死ぬ死ぬわ死ぬわね、どちらか……それともどっちも、死ぬ死ぬか死ぬかしら……それもいいわね……ヒヒヒヒ……」


(……聞こえん……あの男の足音が……)

ブラフォードが変化に気付いて、足を止めた。周りを観察する。横幅6メートル程度、そして頭上は十数メートル上まで吹き抜けて、通路状になっていた。そして前方は、7、8メートル程先で左に折れている。自分のほぼ真横に松明が一つ灯っているが、曲がり角の壁に取り付けられていた筈の松明は、その後だけ残っていて見当たらない。

(策……いよいよ来るか、フフククク……)

ジャリン、とブラフォードが剣を抜く音が、静まりかえった洞窟の中に響いた。

「ゆくぞ……」

剣を構え、腰を落としたブラフォードの耳に、音が届いた。

ギャルルルルルッ

「音……風を切って……何かが飛んでくるッ!」

ギャルルルルルルルルッ

前方の暗がりの中から音を立てて飛んできたのは、スピードワゴンの帽子だった。曲がり角を器用に旋回し、ブラフォードに向かって飛来する。ツバの部分が刃となっていて、それが空気を切って音を立てていたのだ。

「子供騙しがッ!」

ブラフォードは道の右側へ身体を寄せ、帽子を左へ避けた。外れた帽子は、ブラフォードの後方へと飛び去っていく。ブラフォードがそれを目で追った一瞬、スピードワゴンが暗がりの上方から飛び掛かった。

「おりゃああぁぁーーッ! 脳味噌ぶちまけやがれーーッ!!」

ブラフォードの頭部を目掛けて、両手で握ったハンマーを思い切り横に振る。ブラフォードはその一撃を屈んでかわした。更にスピードワゴンの着地点を目掛けて、ブラフォードの剣が奔る。しかし、ハンマーが横の壁に叩き付けられ、その反動でスピードワゴンの身体は落ちる方向を変えていた。逆の壁に向かって飛んでいったスピードワゴンのすぐ脇を、ブラフォードの振るった剣が駆け抜けた。

「やるなァ、『波紋戦士』! だがアァッ!」

ボゴッボゴッ ボゴアァッ

「う、うおおあぁっ!?」

脇の壁から突然飛び出した物が、スピードワゴンの身体に巻き付いた。黒く細長いそれは、ブラフォードの長髪だった。闇の中に潜むように長く伸びた髪の毛は、岩の隙間から中へと入り込み、植物の根が固い地中を突き通すが如く、岩をえぐっていたのだった。

「あ、足がッ! うぐ、ぐえッ! 首、にまでぇっ!!」

次々と、壁だけではなく地面からも生え出す髪の毛が、スピードワゴンの首と足を絡め取った。スピードワゴンの身体は壁にくくりつけるようにされ、更に首をきつく締め付けられる。

「このまま気管を締め付ければアァ、呼吸は出来まいイィ、『波紋戦士』よオォ!」
「な、何だとォッ……」
(そ、そうかコイツ……俺を波紋の使い手だと思ってるのか……! だから帽子も避けた……チクショウもっともだ。今まで会った人間は、全員波紋の修行者だもんなぁ……ッ!)

再び剣を構えて歩み寄るブラフォード。スピードワゴンは不敵な笑みでブラフォードを睨みつけると、強い口調で言い放った。

「グッ、こっ、このスピードワゴン様をッなめんじゃねぇ! 『さっきの波紋』はッ、まだ残ってるぜッ!」

ギャルルルルルルルルルルルッ

「ハッ!」

ブーメランのように旋回し、戻ってきた帽子の音にブラフォードが気が付いた。後ろを振り返り、足で地面を蹴り上げる。打ち上げられた石が帽子に当たって、ブラフォードに向かうコースを外れた。

(今だっ!)

スピードワゴンが右手を腰に伸ばした。しかし、髪の毛の絡み付いた腕は、思うように動かない。

「小賢しい真似をッ!」

ブラフォードがスピードワゴンに向き直り、右手の剣を振り上げる。その時、逸れた帽子が松明に当たった。松明が地面に落ち、辺りを暗闇が覆う中で、スピードワゴンがもがいた。

(クッ! 間に合わねぇッ! 剣は……剣はドコに来るッ!?)

ギャンッ!

剣が振り下ろされた。

ギャッキイイィィィンンンッ!!

火花が散った。その瞬間の映像の中にブラフォードが見たものは、スピードワゴンの左肩でハンマーに止められた己の剣と、スピードワゴンの右手が握る、自分に突き付けられた見慣れない道具だった。

「ヤバかったぜ……頭を狙ってると思ったのに、そこまでハンマーを上げられなかったからな……。予想が外れてラッキーってところか……」
(違う……おれは頭を潰すつもりだった……)

剣撃の重みが、ハンマーを押し下げていく。ブラフォードは、背筋の冷たさを再び感じていた。

(松明の火の粉が腕に当たって……筋肉が反応した……そのために狙いがずれた……)

一瞬の映像の中にブラフォードは見た。自分の剣が、ハンマーに当たった部分で折れているのを。

ハンマーが、スピードワゴンの肩にめり込む。メキボキと、骨の折れる音が聞こえた。しかしそれに気を取られることなく、スピードワゴンは右手に持った物をしっかりとブラフォードの頭部へ向けていた。

「と、『取っておき』だぜ……! オメーは知らねえだろうが、これは現代の武器でね……『gun』ってんだ。この至近距離、外しはしねぇ……威力はこれから、存分に味わってくれよ……!」
「ウ、ウオォォッ……ッ!」

ドオォンンンッ!

銃声が一発響いた。


GYYYYYAAAAAAAAAーーーッ!!

絶叫と共に、壁、そして地面の中に潜り込んでいたブラフォードの髪の毛が、一斉に膨張して激しくのたくった。そしてその運動が、辺りの壁一面にヒビ割れを走らせた。

「え? な、なに?」

それは、シマの『幽波紋』が天井に穿った穴にも達して、天井全体の崩壊をも招いた。『釘』の刺さった岩盤が、音を立てて割れる。

「く、崩れる! ヒッ、ヒイイィィーーーッ!!」
「う、うわああぁぁーーッ!」

洞窟の崩れる轟音が、暗闇の三人を包み込んだ。


18. 投影 - Self

「お前、ちょっと来てくれないかね」

完全なる暗黒の中で、老婆の声に照らし出されるまで、自分がそこにいる事を認識していなかった。

「お前を呼んでいるんじゃよ、黒騎士ブラフォード」

そうして生み出された影に、おれは自分の存在を見つけた。そう……そうだ、おれはブラフォード……黒騎士と呼ばれた、ブラフォードなのだ。


老婆はおれに話し続けた。

「お前を呼んでいる者がおる。お前を連れて行くのが、儂の仕事なんでのう」

呼ばれている? 誰かがおれを呼んでいる……『呼んでいる』。

「ここに舟がある……真っ暗で見えにくいだろうから、気をつけるんじゃ」

舟……つまり河があるのか。……そういえば、流れる水の音が聞こえる。

「お前、身体が大きいのう。身に着けている鎧も重そうだし、舟が沈みやしないかね」

鎧? そうだ、騎士のおれは鎧を着けている。……しかし、おれは黒騎士ブラフォード。この重さでも闘いに支障はない。

「お前が今向いている方角へ、歩いていけばそれで良い。お前を呼ぶ『声』は、そちらにある」

『声』、か……おれを呼ぶ『声』が、向こうに『在る』……。

「確かに、『貰った』よ……」

おれの背? ……『剣』! そうだ、それはおれの剣!

「貰った」だと? いや、剣は『在る』。

何を奪われた? 剣に異常は……見受けられない。

しかし……確かに……何かは分からないが……『足りん』。奇妙だが、そう思える……。

剣は確かに、ここに『在る』。おれがここに『在る』ように。

しかしこの幽かに感じる違和感は、何なのだ?


19. 深淵からの帰還

ザグッザグッザグッザグッ

太陽の輝きを仄かに発する薔薇の花が二つ、地の底より登っていた。右、左、そして右。交互に一歩一歩、確実に上へと向かっていく。

ザグッザグッザグッザグッ

音を立てているのは、薔薇の茎だ。山吹色の光を漏らす細い茎が、厚く堅い岩盤に力強く突き刺さる。その茎を握って振るう腕。それは、修練洞の武舞台を落ちていった、ストレイツォのものだった。切り立った崖に足場はほとんど無い。ストレイツォの身体は、今や腕に握った二本の薔薇のみで支えられていた。

(私はツイている……またこうやって、生きていられるのだから……)

汗にまみれたその顔は、しかし至って冷静さを保っていた。浅い波紋の呼吸を乱さず、そのエネルギーを確実に両腕へ、そして手に握る薔薇へと送っていく。

(ダイアー……また君に助けれられた……)


「……な……何ということだ……ッ」

ブラフォードの剣を胸に受け、光無き深淵へと身体が投げ出されるのを感じながら、それでもストレイツォは、驚愕を抑えることが出来なかった。

(黒騎士……恐るべき男よ!)
(私が推測した攻撃は、あの男が剣に先に掛けた、利き腕を軸としたものだった!)
(だがヤツはッ! 途中で添えた逆の腕で剣を繰り出したッ!)
(僅かに軌道の変わった剣撃……あのまま剣を迎撃していたら、それを予期していなかった私は……命を失うことこそ無いだろうが、胴体に深い傷を負っただろう! 腕を飛ばされていたかもしれぬ!)
(もちろん、そのお返しは忘れはしなかったろうが……)

谷底への落下の中、ストレイツォは思った。

(胸部の傷は浅い……あの瞬間に足場が崩れてくれたお陰で……私は本当にツイている)
(あとは……)
(さて、あとはこの落下をどうにかするだけだ……どうするか……)


ザシッ!

遂にストレイツォは、崖の上……すなわち武舞台の上に辿り着いた。

「ハアッ、ハアッ……ハアッ!」

崩れるように両膝を付く。続いて両手。俯いた頭から、汗が滝のように流れ出た。武舞台に設置されていた松明は消えており、暗闇の中にストレイツォの荒い呼吸の音だけが、静かさを強調するように響いていた。

「さ、流石にハードだった……ハア、ハァッ……『地獄昇柱(ヘルクライムピラー)』のように……楽には行かないな……ハア、ハァッ……!」

ストレイツォは顔を上げ、膝に手を当てると、足に力を込めた。しかし、太股がビクビクと痙攣し、言うことを聞かない。

「ハァ、ハァ……シマ……そしてスピードワゴンは……ハァ……無事だろうか……逃げてくれただろうか……? そしてあの黒騎士は……? ハァ……ハァ……早く行かねば……私は行かねばならない……」

無理矢理立ち上がろうとして、ストレイツォは前方に倒れ込んだ。自然と前に出した手が、そこに立っていた物に触れる。

「ぬ……? なんだ?」
「……ストレイツォ……師範……」
「何? 誰かいるのか!?」

手の感触から、それが何者かの足であることに気が付いて、ストレイツォは顔を上げて目を凝らした。闇の中に、辛うじて輪郭が浮かび上がる。

「……ストレイツォ師範……」
「お前は……ジェスか? 違うか?」
「先生……」
「おぉ、マリィもいるのか? ……む?」

その時、正面に直立するジェスの他にも、十数人の人影が自分を取り囲むようにいるのにストレイツォが気が付いた。全員、波紋の修行者だ。

「皆でどうした? あの屍生人……黒騎士はどうなった? シマはいないか? スピードワゴンは?」
「…………」
「……………………」

無言で立つ修行者達。雰囲気の奇妙さに、ストレイツォの心に緊張が走った。

「……お前達の呼吸……波紋の呼吸法ではないな…………生気がない……」
「…………」
「……………………」
「まさかあの黒騎士……ただ殺すだけではなく……ッ!」

ボドン

しゃがんでいるストレイツォの背中に、何かが落ちた。そしてそこから声がした。

「師範……師範ンン~……」
「そ、その声は……」

西瓜のような感触のそれが、ゆっくりと背中を登ってくる。声と共に、魚の腐ったような臭いの息が届く。

「師範ンン~~……師範の血を吸えばアアァァ……オレ、もっと強くなれますかネエェ~~ッ!」
「……ヨ、ヨナール……お前かッ!!」
「ビエヘヘヘーーーッ! 血ィくれよ師範ンンーーーーッ!」

ストレイツォの肩口に登ったのは、顔面を引きつらせて笑うヨナールの首だった。その首の叫びが合図となって、周りの修行者……の屍生人達……が一斉にストレイツォに飛び掛かる。

「う、うぐ……ッ!」
(あ、足が……手が……動かんッ!)
「う、うおおあああぁぁーーーーッ!!」

闇の中に、薔薇の花が飛び散った。


20. 戦士、星の下で

「よくよく考えると……今死ぬと、ブライアン爺さんとの約束が果たせねえ。『命に替えても』とは言ったが、やっぱり死ぬのはマズイな……」

岩の隙間から身体を引きずり出した男は、ぽっかりと空いた横穴から外へと歩み出た。

「……なんてこった、最悪だ……もう、日が暮れてやがる……」

少しずつ星の光が増えていく空を見上げて、スピードワゴンが溜息を付いた。左腕を力無く垂らしている。その手の先から、血がポタポタと流れ落ちていた。左腕だけではない。ボロボロになった衣服の身体中あちこちで、赤く血の滲む場所を見つけることが出来た。

空へ向けていた目を、下に落とす。

「……ハンマーはねぇな。お、あそこに帽子が落ちてるぜ」

十歩ほど歩いてそこまで辿り着き、帽子に右手を伸ばした。そこで舌打ちをして手を引っ込めると、右足を動かして帽子を蹴り上げた。それを頭で器用に受け止める。そして右手を見つめた。そこには銃が握られている。いや、正確には「握らされて」いた。黒い髪がまとわりついて、引き金を引いた状態のまま、手と指を固定されていたのだ。

「クソッタレ……アジアの密林で出会ったヘビよりも固く締め付けやがるッ! お陰で一発しか銃弾を撃ち込めなかった……。あの野郎、瞬間的に理解したってのか、コイツの使い方と止め方をよ…………しかも」

銃を握ったままの右手を上げ、肩口まで持ってくる。そこには、折れたブラフォードの剣先が刺さっていた。銃身を叩き付けて、剣先を肩から抜き落とした。痛みと背中の冷たさに、ブルッと身を震わせる。

「クッ……ツイてねぇ……撃つ瞬間に落ちてきやがって! お陰で狙いがズレちまった!」

ボガアァ……

堆く積み重なった岩の中に、もう一人の男が立ち上がった。左手で顔を覆っている。

「やっぱりまだ生きてるか……」
「GGGWWWWWWWWW……」

ブラフォードにも岩で傷付けられた痕が多くあったが、身体に重大な損傷は見られない。スピードワゴンは、ブラフォードが身に付けている鎧の所々砕けた隙間に、うねうねと蠢く髪の毛を見た。

「あれでショックを和らげたのか……何でもアリだな、羨ましいぜ」
「おのれェ……人間めエェ……」

ブラフォードが左手を降ろした。左目と、左側頭部が吹き飛んでいた。ブラフォードが残った右目を薄く開けて、スピードワゴンの方に顔を向ける。しかしその右目も、まだよく働かない。

「おれの剣が……折られるとはァァ……」
「剣? そりゃ折れるだろう……というか折れたじゃねぇか、前にも」
「……なんのことだ?」

その問いに対して、堰を切ったようにスピードワゴンがまくし立てた。

「ディオとの闘いで折れたんだよ! ジョースターさんが使ってな! そもそもその剣は、お前がジョースターさんにやったもんだろう? なんで持ってんだよ! いやそうじゃねぇ! お前はジョースターさんと闘って、負けて、それでも安らかに消えていったじゃねぇか! なんでいるんだよ!? まだ何か恨みでもあんのか!? 勘弁してくれ、いい加減にしろよ!」

ブラフォードが、右手の折れた剣に視線を落とす。徐々にハッキリと、像が映る。そして、剣の柄に書かれた文字を見た。そこには、「LUCK」の四文字ではない、ブラフォードの知らない文字が書かれてあった。

「そうか……『貰った』と言われたから、『足りん』と思ったが……最初からそうではなかったのだ……」

……だがもういい。この剣のことは。あの老婆の言葉が無くとも、「呼ぶ声」を自らの中から聞かなくとも……今はあの男が照らしてくれている。あの男の背にある光が。……そしてその向こうには、人間達が幾らでもいるだろう。奴等が照らしてくれる限り、影は自らを見失うことはないのだ。

ブラフォードはスピードワゴンを見上げた。深い青に染まった空を背に、スピードワゴンがブラフォードを見ていた。スピードワゴンの背後に浮かんだ星の瞬きが、ブラフォードの右目に映り込んだ。

「星を……背負う男……」

いや、むしろ……影が光を生んでいるのだ……照らすもののない場所にあっては、光は光としての価値も無いのだから……おれが人間としてまだ『在った』頃……おれが照らすべき人を、失った時のように……。

背筋を貫く冷気と同調して、ブラフォードの全身がガタガタと震えた。

「なんだ、この失望感はァァ……そしてこの……呪いはァァ…………!」


積み重なった岩の下から、二人の男を見ている者がいた。

(アイツ等のせいでこんな目に……私は見ていただけなのに)

シマの身体から、白い『幽波紋』の腕が何本も、何十本も伸びて、握った『釘』で岩を支えていた。

(生きているだけで害を撒き散らす部類の人間ね……よくいよくいる良く居るわ)

前髪の奥から、鋭い視線を男達の背中に向けた。呪いに満ちた視線を。

(早く『とどめ』が刺さらないかしら……ヒヒ……まちどまちどお待ち遠しい……もう夜だしね……日記を書くのが、待ち遠しいわ……)

To Be Continued.

ブライアン爺さんの夢を果たすため、生還せよ!
蒼穹の昴がその背を照らす、スピード・ワゴン! おお誇り高き宿命の伝承者よ!

誰がために覚醒し召喚されしや? おお荒ぶる魂よ!
黒騎士ブラフォード、お前こそ光なき世の陰たちの代弁者! たぎる怨嗟を咆哮せよ!

ねじけし幽波紋使いシマ、屍食鬼と化した弟子たちに襲われたストレイツォの運命とともに……
最終ラウンドは暗黒の淵を漂泊せん!
神よ! 祈らずにはいられない。……もしも神というものが在るならば。

天明さんと於腐羅さんは、最終ラウンドに向けて、自分のキャラクターにとっての『理想の結末』、そして『それを得るための手段』などをテキトーに書いて、マッチメーカーにお送り下さい!

e-mail : six-heavenscope@memoad.jp SIX丸藤