1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 15 APRIL 2006


Ultima Onlineにログインし、私はいつも通りの日常を過ごしていた。買い物に出かけ、スクロールを書き、また当時「知性評価(Evaluating Intelligence)」のスキルを上げていた為、近場のNPCやプレイヤーキャラの「知性」を片っ端から調べていた。

このスキルを使うと相手の知性(INT)ステータスの値と、現在持っているマナ(魔法を放つのに必要。他のゲームで言うところのMPに当たる)の値を大まかに知ることが出来る。「彼女はまさに天才です。」とか「彼はあまり賢そうには見えません。」とか表示されるのだが、実際のところそれが分かることで何かの役に立つことはない。現在この「知性評価」スキルの実質的な意味は、スキルの上昇に従って魔法の効力・破壊力が上がるという効果の方にあると言って良い。

そんな中、ふと思い出してMSN Messengerを起動すると、すぐさま1つのメッセージが飛んできた。

「ラベンさん」「たすけてー」

助けを乞うその言葉に、私は敏感に反応した。というのも、その友人は数日前にたちの悪いプレイヤーと出会い、振り回されて随分落ち込んでいたからだ。所在を聞いて、私はその場所・ヘイブンへ愛馬・フラヌイを急がせた。私の友人に仇なすヤツァ〜、許しちゃおけねえッ!

元来そういった揉め事の場に立つのは得意ではない。立ち向かう気持ちを自分の中で盛り上げながら現場へ向かっていたが、メッセンジャーを通して話を聞く内、どうやら事態は私が思っていたものとは、ちょいと違う方向のものであることが分かってきた。

やがて人が溢れるヘイブンの銀行前に到着すると、そこには私の友人と更にその知人が立っていた。友人に声を掛ける。

「どんな感じです?」

その返事がくる前に、友人たちの傍に立つもう1人のキャラクターであり、今回私が呼ばれる要因となった者が声を発した。

「Could I get a Runebook?」

(……英語か……)

翻訳ソフトに辞書ソフト、更には翻訳サイトを画面に表示させながら、私は「立ち向かう」のとは別種の緊張を、久し振りに感じ始めた。


後で聞いたところによると、友人とその知人の2人はその日の昼間に海外の「シャード」に遊びに行ったのだそうだ。シャードとは他のゲームで言うところの「サーバ」に当たる。UOでは1つのアカウントで各シャードにキャラクターを5人まで作成可能だ。シャード間のキャラの移動は自由には出来ないが、別のキャラを作ることで別のシャードで遊ぶことは気軽に出来るのだ。

その人とはその際行った先のシャードで出会い、随分良くして貰ったらしい。そして今度は相手がこちらのシャードに会いに来てくれた、ということのようだ。だが元々友人たちは、英会話が余り得意ではない。そこでFinal Fantasy XIにおいて英会話を経験していた私に、助けを求めたという訳だ。

実は通信が途切れていた為に返事の無かった友人を取りあえず置いておいて、私はその来訪者に声を掛けた。

「you want ronebook?」(ルーンブックが欲しいって?)
「Yes please」(はい、お願いします)
「ok just wait」(オーケー、ちょいと待って)
「because Single runes are difficult to organize」(一つ一つのルーンは扱い難いものですから)

移動魔法の為に位置情報を記録するアイテム・ルーンは、その便利さ故にとても多く使うことになる。自分の家、知人の家、町の所要施設、狩場、良い物を売っている誰かの家などなど、記録しておきたい場所はいっぱいだ。するとそれらを記録したルーンは、そのままだと鞄の中に溢れんばかりとなってしまう。

それを解消する為に「ルーンブック」というアイテムが追加された。ルーンを出し入れ出来る本であるルーンブック。1冊のルーンブックには実に16ものルーンを登録することが可能だ。本の中でどのルーンを「有効」にするかどうかを決められる。そうするとルーンブックに対して移動魔法を唱えれば、有効になったルーンの場所に瞬間移動することが出来るのだ。

そしてUOは、これらの道具をプレイヤーが活かす世界だ。各町へのルーンを登録したルーンブック、代表的な狩り場へのルーンを登録したルーンブック、特徴的な地形の場所を登録した「観光用」のルーンブック等を作って、売りに出したりするプレイヤーもまたいるのだ。

銀行に置いてあった道具を用いてルーンブックを作成し、待っていた彼にトレードウィンドウを使って手渡した。

「ok?」(いいかな?)
「Danke sehr」(ダンケシェー)
「np」(ノープロブレム)

こっちは頑張って英語で言ってるのにドイツ語で返事かよ!とか思ったりする。この後も「誰かこの場所をルーンにマークしてくれませんか?」と呼び掛けている彼に誰も反応しないのを見て、私がそれをしてあげたりする。そしてその一連のやり取りを見ていた友人たちが、「英会話学びたくなるねぇ」とか話したりする。

ところで彼の言葉を振り返ると、随分丁寧な言葉遣いであることに気付く。ゲーム内での会話でわざわざ大文字を打つものは少ない。むしろ私の方があちこち省略していたりスペルミスをしていたりとおざなりで、ある意味ネットゲームでの英会話っぽい。

「Whats best to gain Intelligence??」(INTを上げるにはどうするのがベストでしょうか?)
「mmm I donno about it」(うーん、それは知らないな)
「You speak very good English」(貴方はとても良い英語を話しますね)
「thx very much^^」(どうも有り難う^^)

このやり取りは友人たちも分かったらしい。「すごー」「誉められてるー」と驚嘆していたが……誉められてる内はまだまだって言うよなぁ、と私は一人苦笑する。

そしてもう1つ、ここはUOでも特に人が集まるヘイブンの銀行前なのである。我々の周りでも多くのキャラクターで溢れかえっていて、普通に日本語の会話が飛び交っているのである。そんな中の英会話が目立たない訳が無い。「ちくしょー、アンタら絶対聞き耳立ててるだろうッ!」「私の英語、下手くそだなと笑ってる奴もいたりしてなッ!」と、そっち方面でのプレッシャーもたまったものではないのだった。

「So Lavendallis where do you come from?」(ラベンダリス、貴方はどこから来てるんですか?)
「i live in japan」(私は日本に住んでますよ)
「me too」(私もです)
「0_0 !!」

驚きを表す言葉が分からず、思わず顔文字で表現した。友人の通訳となって会話を進めていく中でその後分かったのは、彼は3年程前から日本に住み、スポーツインストラクターとして働いている方だということ。サッカーの某チームのホームである今の場所(具体的なチーム名、地名も出たがここでは省略しよう)に数週間前に引っ越してきて、日本語の勉強も始めたばかりだということだった。


向こうのシャードの話や初期キャラに適した狩場等、互いの話を暫く続けた後で、彼は「ブリテインに行くゲートは出せますか?」と聞いてきた。どうやらお別れの時間らしい。「また会えることを祈ってます」と言いながら、私の出したゲートをくぐって彼は去っていった。

終わった……途端に緊張が解かれ、どっと精神的な疲労が圧し掛かる。

「すごいなぁ。きちんと対応してる」「すごいものみせていただきました」

少し離れたところにあるベンチ。そこに座っている1人のキャラクターが言った。やっぱりいるよなぁ、見てる人……と苦笑しながら、「いやーなかなか うまくいかんもんですじゃ」と答えた。

「約10ヶ月ぶりだったからひいひいですよ」
「もう顔から火が吹いてる状態ですよ、今」
「またこんなに ひといるところでやるってのも キツイのう」
「絶対聞き耳立てられてるよなって」「ニヒヒヒ」

弁明の言葉が次から次へと流れ出る。

「言語違う方との会話は難しいと思うので尊敬いたします」
「私は逃げちゃう。きっと」
「Sorry I'm not speak English とか言って逃げた経験あるし」

そういう彼に、私はFinal Fantasy XIでの経験から学んだことを伝えた。

「まぁ、相手も聞いてくれるのが分かっているので 出来ることですよ」
「自分が相手の立場だったら 聞こうとしますからね」
「それに乗っかればわりといけますよ」
「まぁ、あまり重く考えないのが コツっちゃあコツですね」
「でも、ミススペルとかも幾らかありましたよ」
「まぁ、向こうが分かってくれる筈なので」
「それに乗っかって知らん振りですけれどね」

「アリガット、ゴザマスゥー」と言われて、我々がその意味を理解出来ないということは無い。「スシ、タベタイ」と言われて、主語や助詞が無いから何のことやらさっぱりだな、何てことも無いだろう。会話とはそういうもので、点数を付ける試験などとは違う。そして日本語でも英語でも、それは変わらないことなのだ。

話をしているうちに、ようやく私自身がクールダウンして来た。「ご清聴どうもありがとうー」と手作りのピザを彼に渡して、私たちはその場を去った。


ところで彼は去り際に、こんな一言を残していった。

「It is and was a pleasure」

私が思うに、恐らく「楽しかった」という意味合いの言葉だと思うが、「is and was」という言い回しが独特だ。「今まで楽しかったし、今も楽しいままだ」というようなニュアンスを持つ言葉であると思う。何となく、味がある。

FFXIでも、味のある言葉を聞いたことがある。通り掛かりに危機を救った冒険者からは「i owe you 1」と返された。「借りが一つ出来たな」という意味だ。「有り難う」「助かりました」、恐らく私ならそこ止まり。この返答には身体が痺れた。他にも比喩などを用いたちょいと変化のある会話を、FFXIでは聞いたりもした。思うに、多かれ少なかれそういうやり取りをする習慣が、あちらにはあるのだろうと思う。

そんなことを考えていて、ふと思った。そういった習慣から、あちらには「演じる」ことの土台があるのではないか。ゲームの中で自分たちが主役や脇役を演じる、そんな基盤が作られているのではないか。逆に日本ではそういう習慣に乏しい為に、「演じる」土台がない。主役や脇役となる基盤が弱い。だから「演じる」筈のロールプレイングゲームは、演じられているのを外から見る「ストーリーウォッチングゲーム」になってしまった……。

裏付けなど何もない、単なる思いつきだ。用意された「感動の」ストーリーを見る為に経験値を稼ぐ、そんな作業をするゲームがオフラインでもオンラインでも多いことに、不満を覚えている故のバイアスがかなりかかっていると自分でも思う。しかし「Fable」のように、進む先をプレイヤーが決められるロールプレイングゲームが今も海外で作られているのは事実だ。

ま、それはともかく……ログアウトした後で私はすぐに、「ねっとげーむのえいかいわ。」にアクセスして英会話の復習をした。FFXIを止めてからの10ヶ月以上の時間は、英会話への「慣れ」を随分私から奪っていた。特に相槌の打ち方が分からなくて、この夜は苦労したものだった。

だがそこまでやっても、私が自ら海外のシャードに出掛けることはその後もない。一方で私に助けを求めた友人たちは、その後も度々あちらへ出掛けているようだ。

あちらの勝ち〜。なんて何となく思ってしまう私である。

  • 初出 : 2006/03/23
  • 改定 : 2006/04/12

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