Last Modified : 14 MARCH 2006
「変ラマ」の彼がその筆頭だが……いつもの場所で会話をする者の内、人の姿をしていない者の割合が最近高いような気がする。彼らは魔法や忍術等のスキルを用いて、動物に見た目を変えているのだ。会話をする際は現実と同様、ゲームの中でも相手を見つめることになる。その時私は気付かされるのだ。彼ら動物1体1体の姿も、実に味のある絵で描かれているということに。
ラマののんきでとぼけた感じは、あの変ラマの唐突な出現や、時に激しい動きや台詞と対照的で実に面白い。長い尾を翻してぴょこぴょこ跳ねるリスは愛らしい。リスに変身したまま釣りをすると、針を飛ばすときに後ろにくるりと空中一回転をする。これまた愛らしい。ネズミは暫く立ち止まっていると時折後ろ足で立ち上がり、短い前足をふらふらさせる。同様に蛙の場合はぷくっと喉を膨らませる。ペタンペタンという音が聞こえそうな蛙の重量感ある飛び跳ね方は、正に両生類のそれである。
こういった動物は後から追加されたものもあるが、多くはUltima Onlineの初期の頃から存在する。当時の……そして今も多くのプレイヤーが愛用するUltima Onlineのクライアントプログラムは、ポリゴン等を用いない2Dグラフィックの方だ。昔にデザインされたキャラは1つ1つ、ドットを置いて描かれている。いわゆるドット絵だ。だからこそ特に小さな動物の絵と動きを見ると、そこにドット絵師の丁寧な仕事振りと愛情を感じるのだ。
動物の姿で過ごす者には、その見た目を借りるだけではなく、言動もそれに合わせようとする者もいる。「○○だコケ」というニワトリ程度の者もいれば、もっと徹底して、なるべく人の言葉を喋らないようにする者もいたりする。
「釣りを楽しむリス」の彼女は、全く言葉を喋らない訳ではないものの、出来る限り「みゅう」「みゅ〜」という鳴き声でコミュニケーションを取ろうとする。以前ヘイブンの港で声を掛けて魚を分けてもらったのだが、それ以来彼女はたまに釣果を私の元まで持ってきてくれるようになった。
通りすがりにお寿司を食べていった蛙の彼に至っては、遂に一言も発することはなかった。ゲロとかゲコとかすらも言わなかった。彼とのコミュニケーションは、「ルーン」を介したものだったのだ。
ルーンとは移動魔法「リコール」の詠唱対象となる、印の刻まれた石である。魔法屋で安価に大量に売られている、この世界の日常にすっかり根付いたアイテムだ。ルーンに記録魔法「マーク」で位置情報(緯度・経度)を記録して、リコールをそのルーンに対して唱えることにより、その場所への瞬間移動が可能になるのだ。そしてルーンには自動的にその位置の名称……「ブリテイン近郊の森」とか「ソルティードッグ」とかいう店の名など……が記されるが、その名称は基本的に自由に書き換えられる。
この蛙はその書き換えを利用して、ルーンに自分の発言を書き込んだ。私はルーンを覗き込み、それを読んで答えを声で返し、会話を成り立たせていたのである。事情を知らない者が傍から見ると、それは完全に独り言だ。通りすがりの人達に変な目で見られてるんじゃあないか……。そんな不安を抱きながら、その蛙と話した私である。
ところで人間以外として生きる手段は、変身魔法の使用に限らないようだ。
その日私は、何度か出会ってすっかり仲良くなった「ニワトリ」と話をしていた。彼は人間の男だが、肌を白く染め、頭頂部を赤いモヒカンにし、足に黄色い靴を履いていた。人間のままニワトリに近づくというプロセスを用いた男である。
日々ニワトリ度を増す努力を続ける彼は、白い扇子を両手に持って羽根とし、白いパンツを履いて太股のふっくら感を演出していた。だがそれ以外は全裸なので、パッと見は実に変態である。
とその時、宿屋の出入り口前に、気になる老人の姿が目に入った。
「あちらにも 鳥の名を持つ方がいらっしゃいますね」
そうニワトリに告げる。私の言葉が耳に入ったか、その老人はこちらに歩み寄り、そして言った。
「ちきんは人間に進化しました」
彼の名は「a chicken」。この世界で無尽蔵に出現する、攻撃してこないモンスター扱いである鶏と同じ名を持つ者だったのだ。
「人へと進化できるとは・・・コケ」
そしてそれに乗るニワトリ。
そこからは、ニワトリとチキンのネタ合戦と化していく。
「貴方はまさかLegendary Chicken・・・・」
「いかにも」「伝説の ミノック産高級地鶏」
「く。。。。流石ブリテイン郊外さんの鶏とは一味も二味も・・・。」
「みのっくには有機化合物をしようした」「高級の食材があふれている」
「コケー」
「ひげとか生えてきたんだけど」「実はこれ羽毛なんだよね・・」
「まだ鶏の部分が!?(○▼○)!」
乗りの良い人間が集まると、ネタがネタを呼んでどんどん膨らんでいくのが面白いものである。
このような動物として生きる彼らの遊び方は、ゲームの攻略にはさほど影響しない。こうやって我々が接する中に、お金やスキル値や経験値がどうしたとか、損だの徳だのといった要素は何もない。そういった物を重視する者から見ると、それは時間の浪費に他ならないだろう。
だがそう言えば、これはちょいとした「ロールプレイ」になっているなと、私は最近ふと思った。
彼らは勇者でも英雄でもない、どうってことのない役を自ら選び、その役を日々楽しみながら磨きをかけている。本来の「ロールプレイングゲーム」に近い遊びを、私はそこに感じ取る。そしてそれを手軽に楽しめる舞台であるUltima Onlineというシステム、ブリタニアという世界に、より深い愛着を覚えるのである。
Ultima Onlineを作ったリチャード・ギャリオット。彼が語ったという、有名な言葉がある。
「ブリタニアの民よ、エンターテイナーであれ!」
彼もまた、このUOの世界から去った者だが……彼が残したものは、今もこの世界で続いている。