1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 20 FEBRUARY 2006


Ultima Onlineにおいて、「敵との戦い」や「アイテム収集」をせず、ヘイブンの宿屋前で日常を過ごすようになりだいぶ経つ。多くの人が横を通り過ぎていく中で、たまに声を掛けてくれる人と出会うことがある。中にはその後数回に渡って顔を合わせ、その場所での会話を楽しむ間柄になる人もいる。そんな人達は、何処か印象に残るものを持っていることが多い。

その性能の低さからあまり利用されない、竜の鱗を使った鎧を愛用している戦士。いつも何らかの動物に魔法で変身している者。そんな中で特に印象深かったのは、「姿を見せない者」との出会いと対話だった。


ある日いつものように巻物を書いていて、ふとラベンダリスの横においてある筈のお寿司が無くなっていることに気が付いた。通りすがりの人がお寿司を食べていくことは良くあり、そこですかさず「おそまつさまー」と声を掛けることで、会話のきっかけを作るのが私の常套手段だ。だから人が近づいてくるときはそれなりに注意をしているのだが、今回はお寿司の消滅に気が付かなかったようだ。「あれ、いつの間に?」と(UO上で)声に出して首を傾げつつ、代わりのお寿司を横に置いてまた書写を続けた。

それからほんの数秒後、気が付くとラベンダリスの目の前に1冊のノートが落ちていた。え? これは!? いつからここにあった? さっきまでは無かった筈なのに!? 勿論自分が出した訳でもないし、誰もそばにはいなかった。それが出現した瞬間を見た覚えも無い。私が画面から目を離した一瞬の間、または瞬きした一瞬の間にそれが現れたとした思えなかった。

当惑しつつ、そのノートを開いてみる。そこにはこう記されていた。

『いつもこっそり食べてます。ありがとう』

これは……私への語り掛けではないか!

私はいつもこの場を立ち去るとき、横に置いていたお寿司を置きっぱなしにして行く。そうすることで「ここに居た」痕跡を残しておくのだ……ここを通りかかった誰かが「お寿司を置いた誰か」の存在感を感じられるように。どうやらこの本の主は、その残されたお寿司を良く食べていたようだ。

ノートの最初のページに付けられる著者名は消されていた。……何という名の者か分からない。分からないがどうやら、ハイド、ステルスといった隠密用のスキルを使って姿を消し、私に近づいている者が誰かいる。そのノートを自分の鞄に大事にしまいながら、私はこの状況を楽しく感じ始めていた。


これまでプレイしてきたFinal Fantasy XIやマビノギ、そして勿論UOといったMMORPGにおいて、ゲームの中でプレイヤーに配布されている「用意されたシナリオ」を、私はなるべく避けるように心がけている。強大な敵を倒し世界を危機から救う、そんな感じの話がいつものパターンだが、いつものパターン故に新鮮味や面白みを感じない。また、それでシナリオ通り世界を救う「勇者」になったとしても、ゲーム内の「世界」が実際に変わる訳ではない。せいぜいが足を踏み入れられるエリアが広がり、NPCの台詞が変わる程度だ。

マビノギの中でも多くのキャラクターが、「女神を救出した」というタイトル(称号)を身に付けていた。だがどれだけ多くのプレイヤーが何度女神を救おうが、シナリオを進めていない我がキャラクターのヌナイにとっては、世界は何も変わっていなかった。舞台となる世界・エリンはそこにいるキャラクターによって共有されているにも拘わらず、シナリオは各キャラクター毎にそれぞれ別個にあるからだ。皆が皆、平等に勇者になれる「個別の世界」を持っていて、それとは別に何も変わらない「共有世界」が全キャラクターに重なっているという訳だ。現在のMMORPGに良くある構図だが、それ……その「個別世界」が不自然で気に入らないので避けているのだ。そんなものはオフラインのゲームだけで充分。そう思うのだ。

また、勇者がこれだけ多くいるのだから、魔王をも倒す勇者はこの世界では一般的で平凡な存在なのだと私は考える。強さやアイテムを求めるという用意されたレールの上で、自分に合わないプレイスタイルを強いられてまでわざわざ平凡な存在になるのも癪である。だから私は自らの望むプレイスタイルをもって、非凡な「魔王を倒せない」一般市民になろうと考え、FFXIやUOをプレイしてきた。そうすることでその世界における個性、そして役割を持とうと考えたのだ。

それはあたかもNPCになるような行いだが……ひょっとするとそれは、自らを覆う殻である「個別世界」から、NPCたちの存在する「共有世界」へと抜け出すことに繋がるのではないだろうか。私が目指す「世界の中の役割」「世界を構成する者」へと繋がる道なのではないだろうか……そんな風に自らの行く末を思い描いたりする。

共有されるべき世界を創り、そしてそれを魅力的に彩る為には、多くの個性が必要だ。それらが集まることで、多様な表情を持つ華やかな世界を作り上げるのだ。私はそれを構成する一人として、一要素として、目的をもってそこに在ろうと考える。

では私のキャラ・ラベンダリスは、何を目的としてその世界・ブリタニアに生まれてきたのか。……現時点におけるその追求の到達点が「ヘイブンの宿屋前」であり、回答が「倒木に座り、書写をして過ごす者」ということだった。

前にも記したことだが……ある日その宿屋前で出会った人に、こう言われたことがある。よくその場所に座っているラベンダリスを、プレイヤーキャラではなくコンピュータが動かすNPCだと思っていた、と。その時はコンピュータのキャラと間違われたことに驚いて、少し楽しく思ったものだけれど……。

もしかしたらその時の私は、ラベンダリスは、「ゲームを攻略するキャラ」としてそこにあったのではなく、NPCたちと同じようにこのブリタニアに生を享けた一人の住人として、正に「世界の一要素」になっていたのではないか。その世界の匂いの中に溶け込めていたのではないか。そんな風に今は、思ったりするのである。


幾つかのネットゲームをプレイし、そして止めて来たことで、その世界にある「アイテム」や「キャラクター」等が最終的には無に帰して、手元に残らないことを私は実感として知っている。そしてそれとは異なり「記憶」は……徐々に薄れ行くものではあるけれど……そのとき残り、更に続くものであるということも、実感として知っている。

ならばアイテムやキャラクターを通して数値を追い求め、集めるよりも……記憶を集めよう。そしてその記憶を私自身に活かそう。そんな風に今は思う。

Ultima Onlineの世界・ブリタニアで生活することで、ラベンダリスたる私はその世界の一要素となる。そしてそこでの生活を通して、出会うそのキャラクターたる人物の記憶を得る。記憶が語る、キャラクターの向こう側のその人の生を、「こちら側」に持ち出して活かすことで、それは私の一要素となり私の生活を彩るだろう。

生まれて来たキャラクター。そして彼らを通してその世界で過ごした時間。その時それらは、生まれて来た意義を持つ筈だ。

全てを終えた時に、後悔を以ってそれらを自虐し、自らに返る呪いへと変えない為に。

Ultima Onlineというネットゲームで、私は今もラベンダリスと共に、その世界の一角であるヘイブンの宿屋前に座る。そしてそこで「素」となり、「素」を待つ。それが真に「終わっても続いていくもの」であるのかどうかは、まだ今のところは分からない。だがそれに近づくものであると、今のところは信じている。


「姿を見せない者」との交流はその後も続いた。誰も周りに居ないのに突如「ぼりっ」という咀嚼音と共にお寿司が消える。それにすかさず「おそまつさまー」と反応すると、目の前にノートが現れるのだ。

その日もそのような始まりから、2人の会話が続いた。ノートに記された内容に私が声で返すと、ノートにその返答が追記される。時には私自身もノートに答えを書き込んで、筆談のようなやり取りになったりもした。1つだけいつもと違うところは、そのノートにいつもは消されていた相手の書名が残されていたということだ。私はその日、初めて相手の名前を知った。

相手はその日ちょいとした冒険の帰りだったようで、随分お腹が空いていたようだ。何個目かのお寿司を「ぼりっ」と平らげ、私はそれに「おそまつさまー」と声を返す。するとラベンダリスの目の前に、一人のキャラクターがぱっと姿を現した。そこに在るのは、ノートに記されたものと同じ名を持つキャラクター。

「ごちそうさま」
「どういたしまして」

初めて互いに顔を合わせ、声でもって挨拶を交わす。それは以前からその存在を感じていたキャラクターを、初めて目にした瞬間だった。嬉しいような、ちょいと勿体無いような、何とも言えない感情が胸に湧く。

これまで一風変わった接触を交わしてきた彼女……そう、相手は女性のキャラクターだった……は、やはりこの世界で独特な「一要素」に違いない。そんな彼女とのコミュニケーションの中で、私は何を得て、何を与えられるだろう。

願わくばその記憶がお互いの一要素となるような、「終わっても続くもの」になりますように。

  • 初出 : 2005/10/07
  • 改定 : 2006/09/28

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