Last Modified : 6 DECEMBER 2005
Ultima Onlineをプレイしていて私が強く感じるのは、UOは「ゲームの為のシステム」の下に基盤として「世界」が作られているということだ。UOを指して「ワールドシミュレータ」という言葉が使われていることを見かけることがある。UOをプレイしていると、正に「世界を再現」しようとしているのだと思わせる部分が幾つもあるのだ。
例えばNPCに対しても「言葉」で働きかけられること。プレイヤー達がチャットに使うのと同じ「Say」の発言で、NPCの売人やペットとのやり取りを行うことが出来るのだ。銀行に隣接して「bank」で金庫が開くし、売人の近くで「vendor buy」と言えば購入ウィンドウ、「vendor sell」で売却のウィンドウが開く。
ペットや召喚生物に対しては「all follow me」と言えば、全てのペットに対して自分に付いて来るよう命令することが出来る。「all」の部分を特定の名前にすればその名のペットだけへの命令になるし、「me」の部分を省略すればマウスのポインタがターゲット指定用のものに変わり、そのポインタでクリックしたキャラを付いて行くようになる。
今は各NPCをクリックすればそれらの呼びかけに代わるメニューが表示されるが、今も多くのプレイヤーはこれらの便利な「声による呼びかけ」を良く使う。まるでその世界に生きているかの如く、ごく当たり前のように。
ほぼ全てのアイテムがそれぞれの姿を持って、プレイヤーキャラと同列に存在するというのも、ごく当たり前のようでいて他のゲームにはあまり無いものだ。例えば他のゲームにおけるアイテムは、「アイテム欄」でしかその存在を確かめられない物が多い。あったとしても装備品としてキャラクターのグラフィックが変わる物か、地面に置くと「拾うことだけが出来る」ものというところが多いだろう。私がプレイしていた頃の「Phantasy Star Online」では、地面に置かれたアイテムはお金と武器、防具、アイテム、そしてレアアイテムの5種類のグラフィックしか存在しなかった。そしてそれらは、拾うことだけが出来るアイテムだった。
Ultima Onlineではほぼ全てのアイテムを、鞄の中で表示されていた姿のままに地面の上に置くことが出来る。更にそれを拾うだけでなく、そのアイテムの上に別のアイテムを「重ねて置く」ことが出来る。だからテーブルを先に置き、その上に皿を置き、そしてその上に食べ物を置くといったことが当たり前のように出来る。Ultima Onlineの世界において「物を置く」という行為は、現実の世界と同様にとても自然なことなのだ。
そしてこれの延長上に「家」のシステムがある。家の中ではアイテムをロックダウン(固定)することが出来、それに対して町の大工屋NPCが売っている内装ツールでアイテムの向きを回転させたり、上に浮かせたり下に沈ませたりすることが出来る。これにより例えば、まず時計を床の上に置いて固定、内装ツールで上に浮かせて「壁掛け時計」を再現することが出来たりする。
これらの「UO内物理法則」と、UOの世界に存在する非常に多くのアイテム、そしてUOが空の上の単一の方向からしか世界を表示しない2Dゲームであることを利用して、プレイヤーは「見た目それっぽく見えるアイテムの組み合わせ」を数多く作り出して来た。
赤い指揮台に赤い箱を載せて「郵便受け」。地球儀の上部を緑色の羊毛で覆い隠し、その上に重ねた白い毛玉を微かに見えるようにまた緑色の羊毛を被せ、その上にリースを飾り付け、頂点に手裏剣を置いて「クリスマスツリー」。可愛いぬいぐるみの類は良く見かけるが、特にガチャピンとムックは出色の出来で、アレを最初に作った人は賞賛されるべきである。玄関に「シュブ=ニグラス」の像を置いていた家を見かけたときは、思わず「イア! シュブ=ニグラス!! 千匹の子を孕みし森の黒山羊!!」と祈りを捧げたものだ。これらを組立てるノウハウはゲーム内のノートに記載されたりして、今も継承されている。
それらをプレイヤーが生み出すことが出来たのは、作り手が「素材」と「世界(の法則)」を提供したからだ。完成品だけでは組立てることは出来ないし、決められた使い方しか許さない束縛はアイテムの応用性とプレイヤーの創造性を活かさない。生産を行うことの出来るゲームを「生活型ゲーム」と表することがあるが、私はそうは思わない。「生」を「活かす」と書いて「生活」。生活する為に必要な「素材」と「世界」を、活かすことの出来るゲームこそが「生活型ゲーム」であると思うのだ。
Ultima Onlineとは別の形式のスタンダードとなったMMORPG「Ever Quest」。その文字通りの「永遠の冒険」を引き継いで、題材としているゲームは今も数多く生まれている。多くのプレイヤーが強敵との戦い、それに付随した英雄譚、そして数々のレアアイテムを追い求めている。
だが私は、Ultima Onlineにおける日常を引き継いでくれるゲームを待ち望んでいる。仲間の家に集い、テーブルの上に戦利品を無造作にばら撒いて、そこに置いた料理を皆で摘みながら雑談に花を咲かせるような暖かな生活感を、そしてそれを自然に再現出来る、再現してしまう世界を、継承して欲しいと私は願っている。
先日の寒い日に、ヘイブンの宿屋前で私は携帯型コンロに見立てた「ヒーティングスタンド」に、料理アイテムのお味噌汁を乗せて過ごしていた。そこにやってきた一人の知り合い、そして更に乱入してきたもう一人の初見の人と、食事をしたりアイテムをばら撒いたり変身したりしつつ暫しはしゃぎ、遊びあった。
ふと言葉が途切れると、後者の方がそれまでのテンションからがらりと変わって、落ち着いた口調でぽつりと呟いた。
「いやー」「しかしUOっていいですな〜」
「ほかのゲームじゃこういうことできないw」
私も目の前のコンロを指して言う。
「こんな風にコンロの上にお味噌汁なんて」「普通出来ないですしね」
「うんうん」「まいうー」
「とかいいつつパクつくのね」
コンロと、そしてその上で温まっている味噌汁を囲んで、私達は少し穏やかな生活の時を過ごした。