1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 6 DECEMBER 2005


2005年の春が過ぎ行く頃には、私はUltima Onlineの世界において所謂「狩り」に出掛けることが無くなっていた。やる事といえば自宅のベンダー(売り子NPC)への商品追加であり、その為の魔法スクロール作成であり、知り合いやそうでない人に振舞う料理作りであった。ただでさえ普通の「冒険者」たるプレイヤーと比べると狭かった行動範囲はそれによって更に狭まり、特にモンスターと戦うことなどは自宅近辺に出現した「近所の平和を乱すもの」を始末するときくらいしか無くなってしまった。

人から見れば、何とも刺激の無いゲームのプレイスタイルなのだろうと思う。だがこの頃の私にとっては、モンスターと戦うことこそが何より刺激の無いことだったのだ。


Ultima Onlineでは敵の攻撃から被るダメージが防具の性能でかなり変わる。それなりの防具を纏っていれば、格下の敵であれば大したダメージは食らわない。自分が剣などの近接攻撃を用いるキャラクターであれば、寄ってくるモンスターを1度ダブルクリックしてやれば、あとは自動的な攻撃でキャラが勝手にモンスターを倒してくれる。自分のキャラを動かすことも無い。細かなダメージが蓄積して自分の体力が減ってきたら、包帯を巻いて回復すればいい。ただそれだけだ。

強いモンスターが相手なら流石に立ちんぼではいられない。防具の性能以上に大きなダメージを一気に与えてくるからだ。だがそれでも戦略として加わることと言えば、モンスターの左から右へ、右から左へと駆け抜けることくらいだ。そうすれば魔法のような飛び道具以外の攻撃は、接触したときだけしか食らわずに済む。こちらの攻撃の周期……例えば剣を振る攻撃間隔が2秒毎であれば、2秒に1回接敵するように動けば最小のダメージで済み、最も効率の良い攻撃になる訳だ。駆け抜けた後で包帯を巻き回復を計り、更に戦闘用のスキルを使って次の攻撃に備える。そんな戦い方になる。

実際、そのような戦いを戦闘用キャラクター「Bibaushi Biei(ビバウシ・ビエイ)」で続けてきた。格下の敵と戦うのはつまらないので、徐々に強い敵へとターゲットを替えていき、当初は苦労していた「ドラゴン」との戦いも容易にこなせるようになっていた。

だが私は、そこから先に進む気になれなかった。これ以上強い敵を求めても、やることは今と大して変わらないだろうと思えたからだ。より強い敵と戦うには、より強い武器とより強い防具、そしてより有利な戦闘用スキルをキャラクターに覚えさせる。やることはそれくらいだろう。それくらいしか変わらないだろうと考えた。そこにプレイヤーである「私自身」の劇的な変化・成長は、あまり必要でないだろうと思えたのだ。

プレイヤーとキャラクターは同一の存在ではない。キャラクターが強くなったからといって、プレイヤーが強くなった訳ではない。今後キャラクターとモンスターのステータス、そしてそこにアイテムの効果が加わった「数値の戦い」が続くのならば、それを進める価値を私は見出せない。私が狩りに行くことで求める最も大切なものは、自らの技量に対する達成感だ。それが数値であってはならないのだ。


UOでの狩りを止めて暫くの間、幾つかのゲームに手を出した。MMORPGではゆっくりした戦いになりがちだ、もうちょいと刺激が欲しい。そう考えてアクションゲームを求めた。それらはフリーのWindows用ソフトだったり、家庭用ゲーム機のソフトだったりしたのだが、なかなか満足の行くものは無かった。特に市販のゲームには重厚なストーリーや設定がぎっちり詰め込まれたキャラクターが付き物で、MMORPGで楽しめたような「自分のキャラクター」を作ることが出来ない所に不満を覚えた。操作が複雑なもの、多種多様なコマンドを入力しなければならないものなど、難易度についていけないものもあった。

そんな中でしっくりきたのが、思いがけずMMORPGの「マビノギ」であった。MMORPGらしくキャラクターの(特に見た目の)カスタマイズ要素は豊富で、愛着を持てるキャラクターを作ることが出来た。モンスターとの戦闘では「瞬間的な後出しじゃんけん」が新鮮で面白い。基本3種のスキルが3すくみの関係となっていて、相手の使用したスキルを瞬間的に判断し、それに勝つスキルを入力するのだ。操作は決して難しくないが、集中は必要となる。キャラクターの防御力はあって無きが如しなので、いくらレベルを上げても「後出しじゃんけん」に勝てない限り「負け」なのだ。こんな緊張感とスピード感のある戦いがMMORPGで出来るとは思いもよらなかった。


今はもう止めてしまったマビノギ。それに興じていた頃からもう半年が過ぎた。当時のマビノギの、ゲーム内の世界はとても狭く、生産系スキル絡みのゲームバランスは酷いものであった。その頃私は、UOの中ではその世界での「生活」を、そしてマビノギではモンスターとの「戦い」を、それぞれ楽しむという割り切り方で双方を楽しんでいた。どちらの要素も1つのゲームで楽しむことが出来ればそれに越したことは無いが、それが出来ないのであれば「1つのゲーム」に拘り過ぎるのは無理のあることだと考えるのだ。

プレイヤー同士の団体戦にフォーカスを当てたMMORPG「Dark Age of Camelot」「Guild Wars」「ファンタジーアース」。MMOの1人称視点シューティング「PlanetSide」。スタンドアロンのRPGのように1人のプレイヤーが同時に3人のキャラクターを操作出来るMMORPG「Granado Espada」。開発初期の既存のMMORPGスタイルから徐々にMORPG的なアクション寄りに変わりつつある「Tabula Rasa」。既に稼動していたり未だ開発中、ベータテスト中の物もあるが、単なる「数値の戦い」を脱却するゲームを生む努力は続けられている。

何を楽しいと感じるべきか。そしてどれを選ぶべきか。ゲームの中の幻影に囚われず、それを意識しなければならないと強く思うのである。

  • 初出 : 2005/06/27
  • 改定 : 2005/11/06

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