1. 番長方面
  2. Scenes from the Memories - 目次

Last Modified : 2 DECEMBER 2005


日常生活を表す日本の言葉に、「衣食住」がある。オンラインゲームの世界で「冒険ではない日常」を送ることを目的としている私にとっても、これらの要素は意識して、もしくは意識しないまま自発的に行動する重要なものである。

レベルによって着られる装備が制限されていたFinal Fantasy XIでは、「衣」に凝るのは難しいことだった。特に我がパートナー、ドルシネアはレベルが低く、装備出来るアイテムが少なかったのだ。またFFXIの装備品には「日常」を感じさせる、素朴なデザインの物が当初少なかったのも悩ましかった。であるから、私がプレイしていた頃の後期になって戦闘時に装備することを想定しない、あっさりしたデザインの服が導入されたのは嬉しかった。その後、眼鏡やエプロン等のアイテムが導入されたと聞く。あの世界も今はだいぶ生活を感じさせる場所になっただろうか。

そういった世界から移り来た私にとって、Ultima Onlineのブリタニアはとても豊かな「衣」の地であった。鎧とは別に、その上に服を着ることが出来、それは服屋にて安価で売られている染料と染め桶で好きな色に染めることも出来た。服自体も極めて安価だ。服自体も重ね着が出来るパターンがあり、それらの組み合わせで様々なファッションを楽しむことが出来た。今もログインするとまず自宅の、服を収納した木箱を開いて、「今日はどの服を着ていこうか」と思案するのが日課である。

「食」はどちらの世界でもスキルを上げている。現実世界で、物を食べない人はいない。だからこそネットゲームの世界においても、冒険ではない日常生活を表現する為に食事は欠かせないのである。

そしてMMORPGの「住」を語るとき、Ultima Onlineのそれは多くのゲームプレイヤーが憧れとするものを実現していると言えるのではないだろうか。通常のフィールドから切り離された「住まい」専用のプライベート空間ではない、世界のその場所に一つだけ建てられる、背景としても形を持った「家」を持てる。この家の存在感は相当なもので、これを体験した後で他のゲームをプレイした時に、不満を感じる人も少なからずいるだろう。

UOの家は大小様々で、その大きさによって家に置くことの出来るアイテム数が段違いになっている。小さい家で我慢出来ない者はより大きい土地を欲する。そこに需要と供給が生まれ、家(土地)の売買……つまりゲーム内の不動産業者が誕生する。

家にはベンダーというNPCを設置出来、そのNPCにアイテムを渡すことでそれを売ることが出来るようになる。ベンダーはプレイヤーがログインしていようがいまいが関係なくそこに存在する為、プレイヤー同士が直接会わなくとも売買が成り立つ。ログインしたまま、PCを起動しっぱなしで出社などをしなくて済むのだ。また、ベンダーで商売をする場合、人がよく通る場所の方が売り上げは上がり易くなる。ここで土地の価値が上下するのである。

私の知り合いには、空き地を探して世界をよく放浪している方がいる。口を開けば不動産情報、といった日もあったりして、そんな時は苦笑しながら「いろんな生き方があるものだ」と感心してしまう私である。


私がブリタニアに家を持ったのは1年程前、2004年の5月4日のことである。最初のペット、2足歩行の爬虫類・オスタードの「オムライザー」とうろうろしていて、偶然見つけた空き地がそこだった。当時同じ頃にプレイを始めて知り合った友人達が、続々と家を得ていた。家を持つことをそれほど急いでいない私だったが、銀行にアイテムを納めきれなくなってきており、そろそろ持ってもいいかなと考えていた矢先の出来事だった。

だがその時、私には家を建てる資金がなかった。元々お金を集めるということを意識して行っていなかったからだ。慌てて私は当時好んで狩りをしていた場所に走って、必死にモンスターを倒しながらお金を集めて回った。

「早くしないとあの場所を誰かに取られてしまう!」

UOであれほど狩りを頑張ったのは、あれが最初で最後だったかも知れない。

かくして数時間後、家の建築に最低限の費用を集めた私はその場所に家を建てることが出来た。小さな家だったが隣家とは少し離れ、道を挟んで海があり、林と山肌が横にあるという自然に恵まれたその場所を私はとても気に入った。

その後更に蓄えた資金によって改築し、ほんの少しだけ大きくなった我が家だったが、世間一般的にはやはり小さな小さな一軒家である。時が経ち、友人はそれぞれより大きな家へと引越ししていった。私もより広い土地を紹介されたりしているのだが、感謝しつつもその話を断り続けている。

あまり広い家は私の手に終えないというのもあるのだが……あの日この場所は、私にとってUOにおける「故郷」となったのだ。UOを始めて2ヶ月程の、まだまだ幼かった頃の記憶、そしてそれからずっと1年以上過ごしてきた記憶がこの家と共にある。毎日のプレイを終え、最後に戻るのはこの家だった。冒険や生産、知り合いとの歓談を終えて帰宅し、ふっと息をつき、ベッドの脇でログアウトする。そんな生活がこの場所で刻まれ続けてきた。だから手放すことが出来ないでいる。

ここは、この家は、私とラベンダリスが帰るべき故郷なのだ。


マビノギを始めて、ログアウトする際にどうにも落ち着かずに困っていた。このゲームにはプレイヤーが持つことの出来る家はない。皆が行き交う何処ででも自由にログアウト出来るが、それは皆が行き交う何処かでログアウトしなければならないとも言える。人が右往左往する町中でログアウトするのは気が引けた。その日その日でログアウトする場所を変える「宿無し生活」もスッキリしなかった。

ある日、聖堂の壁に備え付けられた聖母か何かの絵に目が留まった。ステンドグラスなのだろうか、2階分程の高さになる大きな物だ。そういえば、別の町の聖堂にもこの絵はあったような気がする。

ああ、そうだ。ここにしよう。ここを私の、ヌナイの家にしよう。

その日から、我がパートナー・ヌナイの生活はその絵の元で始まり、その絵の元に終わるようになった。日常を構成する「住」が定まり、マビノギの世界・エリンにおける「帰るべき故郷」はこうして生まれたのだった。

  • 初出 : 2005/05/22
  • 改定 : 2005/12/02

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